「おっ、何だ何だ?」
「道場破りだとよ」
「道場破り? 黄瀬にか? てか、あの子誰よ?」
「今話題の高校生だとよ」
陸と黄瀬の1ON1が始まると、同チームメイトが集まり始めた。
「…」
「…」
ボールを持った陸とその前に立ち塞がる黄瀬。
「…っしゃ!」
――ダムッ!!!
意気込むの同時に陸が仕掛ける。
「おっ、結構早い」
感心するチームメイト。
――ダムッ…ダムッ!!!
レッグスルーからのクロスオーバーで一気に加速し…。
「おぉっ!」
そのままボールを掴み、リングに向かって飛ぶ。
――バシィィィッ!!!
「っ!?」
「甘いッスよ」
しかし黄瀬はリングにボールが叩き付けられる直前にブロックする。
「次は俺の番ッスね」
「…っ、良いぜ、来いよ!」
攻守が入れ替わり、黄瀬のオフェンス。
「…」
「…」
ジャブステップを踏みながらボールを小刻みに動かし、機を窺う黄瀬と、その動きに合わせる陸。
――ダムッ!!!
黄瀬が仕掛ける。
「(はや!? けど、追い付けねえ速さじゃねえ!)」
驚異的なスピードとキレに驚くも、このドライブに対応。
――ダムッ…ダムッ!!!
直後に黄瀬はレッグスルーからのクロスオーバーで陸の横を抜け、ボールを掴んで飛ぶ。
「くそが、俺が今やったムーブじゃねえか!」
直前の自分のムーブをコピーされ、悪態を吐きながらブロックに飛ぶ。
「やる。あの体勢から追いつくか」
逆を突かれ、不安定な体勢ながらもブロックに追い付いた陸に感心するチームメイト。
――バキャァァァッ!!!
しかし、黄瀬はブロックを物ともせず、吹き飛ばしながらボールをリングに叩き付けた。
「がっ!(パワーも規格外だ!)」
スピード、キレ、そしてパワーも自分以上に再現され、顔を顰める陸。
「これで1-0。次は君の番ッスよ」
ニコリとしてボールを渡す黄瀬。
「…っ、上等だ! 吠え面かかせてやる!」
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
その後も果敢に挑んでいく陸。
――バシィィィッ!!!
しかし、黄瀬は悉く陸のオフェンスを止めていく。
――ザシュッ!!!
対して、黄瀬は陸を悠々とかわし、決めていく。
力の差は明白、攻守で古武道を交えたバスケで挑むも、黄瀬には及ばず、陸に勝ち目のない事は誰の目にも明らかだった。
――バキャァァァッ!!!
黄瀬がダンクを決め、5本目の得点を決めた。
「5-0。これで決着ッスね」
「ざけんな! まだ俺は――」
「無駄ッス。今の君じゃ、何本やっても結果は同じッス。…それに、もう時間切れッス」
苦笑交じりに周囲を目配せすると、黄瀬の所属チームの監督が険しい表情で首を横に振っていた。
「……ちくしょう」
一矢も報いる事が出来ず、悔しがる陸。
「何があったんスか? わざわざここに来たのも、単に腕試しに来た訳じゃないッスよね」
陸の心情を察した黄瀬が尋ねる。
「……国体で、負けた」
「みたいッスね」
知っていた黄瀬が頷く。
「次は絶対に勝つ。勝つ為にもっと強くならなきゃいけねえんだ。けど、先輩達じゃ練習にならねえし、それで…」
「たまたま近くに来てた俺の所に来たって訳スか」
事情を把握した黄瀬。
「君を見てると、思い出すッスよ。昔の俺――いや、
「あっ?」
「ちょうど君くらいの時、俺も思ってたッス。俺が誰よりも強くなれば試合に勝てるって」
「…」
「けどそれは、間違いではないけど、正しくもなかった」
「…何が言いてえんだ?」
「君は国体で負けた時、何を思ったっスか?」
「正直、気に入らなかったよ。あの野郎、勝負を避けてばっかだったし、全く楽しくなかった」
「けど、君は負けた」
「…っ、試合には負けたけど、あいつに負けて訳じゃ――」
「意味ないんスよ。例え、君だけが勝っても、試合に負けたら」
「…っ」
正論を突かれ、言葉を詰まらせる陸。
「君は自分が勝つ事しか考えてない。逆に、あの彼、ウィリアム君、だったっけ? 彼はチームの為に試合をしていた。自分の為だけにしか戦えない奴がチームの為に戦ってる奴に勝てる訳がない」
「…」
「君は花月のエースッス。エースの役割は、チームを勝たせる事。その為にはどうすれば良いか…」
「…」
課題を出されるかのように伝えられた黄瀬の言葉を噛みしめる陸。
「さあ、もう気が済んだだろう? もう帰りなさい」
スタッフが陸に詰め寄り、促した。
「…」
陸は何かを返事をする事無く、踵を返し、出口へと向かって行った。
「2年前の君は、もっと面白い選手だったッスよ!」
「?」
唐突にかけた黄瀬の言葉を聞き、振り返る陸。
「じゃ、次はコートの上で」
ウィンクしながら黄瀬は陸を見送ったのだった。
※ ※ ※
『おぉぉぉぉぉーーーっ!!!』
その後、そのまま帰宅した陸は、自室のテレビで試合映像を見ていた。兄である空がキセキを冠する者を擁するチームと試合をした時の記録映像だ。
「……やっぱ兄貴達ってスゲーんだな」
互いに試合に勝つ為に人事を…死力を尽くす選手達。それは空や大地、火神やキセキの世代達も同様で、圧倒的な個人技だけではなく、チームメイトと力を合わせ、戦っていた。
「…」
――君はまだ、空さんには及ばない。いろんな意味でな。
大仁田の伊達に言われた言葉。その時は、練習を続ければ、いつか追い抜ける。そう思っていた。
――自分の為だけにしか戦えない奴がチームの為に戦ってる奴に勝てる訳がない。
思い返せば、陸は自分が楽しむ事しか考えていなかった。
――君は花月のエースッス。エースの役割は、チームを勝たせる事。その為にはどうすれば良いか…。
国体の後、ずっと考えて来た事だ。
「…」
テレビを消し、ベッドに仰向けで寝転び、考える陸。
――2年前の君は、もっと面白い選手だったッスよ。
帰り際に黄瀬が告げた最後の言葉が頭を過った。
「2年前…か」
2年前の年始に行われたキセキを冠する者達が集まったエキシビジョンマッチ。映像を見返すまでもなく、今でも細部まで思い出す事が出来る。
「…あの試合は楽しかったな」
自分が本気で挑んでも抜けず、止められない相手ばかりとの試合。あの試合以前以後含めて、あの試合程楽しかった試合はないと断言出来る。
「あの時の俺は…」
とにかくガムシャラに挑んだ。目の前の凄い相手に勝つ為に自分が持つ力と技を捻り出して…。
「……そっか、そう言う事か!」
答えが出たのか、がばっと起き上がる陸。国体以降、霧で覆われた視界。それが晴れるかのように目の前が明るくなった。
「そうと決まれば、練習あるのみだ!」
陸は部屋を飛び出し、花月高校へと走っていった。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
「しまった、もう練習終わってんじゃん」
猛ダッシュで花月高校まで来たものの、時刻はもうすぐ21時を回ろうとしていた。
「しゃーねえ、仕切り直しだ。明日から気合い入れて――」
「もうすぐ大会だってのに練習サボるとは、良い度胸してんな」
背後から、聞き覚えのある声が陸の耳に届いた。
「か、監督、おざっす」
恐る恐る振り返るとそこには上杉がおり、作り笑いをしながら挨拶をする陸。
「言い訳があるなら聞くぞ」
「……ないッス」
素直に答えた。
「…」
「…」
「……今日は帰れ。今日サボった分、明日からみっちりしごいてやる」
「りょ、了解ッス!」
敬礼をしながら返事をすると、陸は猛ダッシュで帰宅していった。
「…フッ、何があった知らんが、国体以降のしけた面がすっかり元に戻ってやがる」
陸の表情の変化に気付いた上杉はニヤリとするのだった…。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
「ハァ…ハァ…!」
「陸っ、もうへばったのか!?」
翌日の練習、陸は宣言通り、上杉にしごかれていた。
「情けない。お前の兄だったらこの程度、笑いながらこなしてるぞ」
「っ!? な…めんなぁっ!!!」
空を引き合いに出され、陸は気合い一閃と共に走り出した。
「すっかり元に戻ったな」
「ああ」
国体以降の何処か張り詰めすぎていた陸が元に戻った事に胸を撫で下ろす竜崎と室井。
「恐らくこれでもうあいつは心配はいらない。となれば、ウィンターカップを優勝出来るかどうかは…」
「俺達次第って訳か」
仮に陸とウィルが互角とするなら、優勝する為には自分達の頑張りにかかっている。
「…よし、スリーメン、行くぞ! 陸だけに戦わせるな!」
『おう!!!』
※ ※ ※
そして月日は過ぎ、ウィンターカップが開催される12月がやってきた。
今年のインターハイ優勝の花月高校は県予選がなく、本大会から出場となる。
陸擁する花月は決勝戦まで危なげなく勝ち進む。
そして…。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
ウィンターカップ、決勝。
花月高校 × 陽泉高校
両校共に圧倒的なエースを主軸に勝ち上がって来た。
「…」
「…」
センターサークル内に整列をする両校のスタメン5人。その中の陸とウィルが視線をぶつけ合っている。夏の時は互いに全力でぶつかり合える好敵手と戦える事に笑い合い、秋では陸だけが笑い、此度は互いに真剣な表情で視線をぶつけ合っている。
『これより、ウィンターカップファイナル、花月高校対陽泉高校の試合を始めます』
「礼!」
『よろしくお願いします!!!』
両選手がジャンパーを残し、散らばっていった。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
「おー、間に合った間に合った」
ティップオフ目前、景虎が観客席へとやってきた。
「順当通り、決勝は花月と陽泉。ま、当然だな」
手摺にもたれ掛かりながらコート上の選手達を見つめる。
「インサイドは陽泉、他は花月が優勢。となりゃ、勝敗の鍵を握んのは…」
景虎は、陸とエースに視線を向けたのだった。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
試合は第3Qまで進む。
「従来の司令塔に加え、エースがゲームの組み立てからパスも出来やがるから、陽泉の攻守は安定しているな」
呟く景虎。
陽泉は主将である司令塔とウィルがゲームを組み立てている為、安定した試合運びをしている。
「だが試合は…」
第3Q、残り2分11秒。
花月 47
陽泉 49
試合は、拮抗した試合展開となっていた。陽泉のオフェンスディフェンス両方で安定しているのに何故か? その要因は…。
――バシィィィッ!!!
「だらぁっ、いただきぃっ!!!」
『っ!?』
リバウンドを抑える陸。
陸は、オフェンスディフェンス共にリバウンドを取りまくっていた。その為、花月は攻撃機会が多く、陽泉は逆に少ない。これが、試合が拮抗している要因である。
「皮肉なものだ。インサイドが売りのウチがここまでしてやられるとはな」
眉をひそめる荒木。
陽泉のインサイドは紫原が在籍した頃よりは劣るが、それでも高校バスケ界で高さ、パワー、テクニックにおいてトップクラスを誇る。だが、そんな強固なインサイドを、陸が制圧していた。だが、陸の恐ろしさはそれだけではない。
――ダムッ!!!
カットインした陸が直後にボールを掴み、シュート体勢に入った。
「おぉっ!」
そこに、ウィルがブロックに現れる。このブロックに完全にシュートコースは塞がれ、ボールをリリースすれば叩き落されるのは確実。
「…」
――ピッ!
陸はシュートコースが塞がれると、瞳を瞬時に左右に動かしてフリーの選手を探し、古武道による射出型のパスを出した。
――バス!!!
ボールはアウトサイドの竜崎に渡り、そこからローポストの室井にパスを出し、室井がポストアップで押し込んで得点を決めた。
「スゲーな。ブロックが現れるまでは間違いなく打ちに行くつもりだった。だが、シュートコースを塞がれた瞬間キャンセルして、瞬時にフリーの選手を探し出してパスに切り替えやがった」
驚く景虎。
ウィルは広い視野で事前に敵味方の両方の選手の位置を把握し更にその後の動きも予測する事で選択肢をいくつか用意し、自ら決めるのが困難となればパスへと切り替える。対して、陸はシュート体勢に入ってブロックに塞がれてから瞬時にフリーの選手を見つけ、パスをしている。
「こりゃ、インターバルを挟んでも、この膠着状態は続くな。…このままの展開を続けば、な」
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』
第3Q、終了。
花月 51
陽泉 53
試合は互いに2本ずつ決め、インターバルに入った。
『何て言うか、地味だよな』
『だな。エース対決もあまりないし』
『夏の時みたいに派手にやり合えよな』
玄人好みの展開に観客からは不満の声がチラホラ上がる。
「展開は悪くない。…が、この展開は陽泉のペースだ」
『…』
「何より、気に入らん。…第4Q、仕掛けるぞ」
上杉が視線を陸に向ける。
「展開だけ見れば、ウチのペースだが、1番の武器であるインサイドで大きく水をあけられている」
『…』
「今のまま展開に甘んじる程、私の気は長くない。…仕掛けるぞ」
そう言って、荒木は視線をウィルに向ける。
――ここからは、エースの時間だ。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
インターバルが終わり、勝敗を決める最後の10分が始まる。
『おっ?』
『まさか!?』
竜崎のパスを受け、右ウィング付近でボールを保持する陸。すると。他の4人がアイソレーションでスペースを空けるように逆サイドに移動した。
「待たせたな」
「来い」
ボールを小刻みに動かし、ジャブステップを踏む陸。対してウィルは腰を落とし、集中力を高める。
「…」
「…」
――ダムッ!!!
暫しの間対峙した後、陸が仕掛ける。縮地法を組み合わせたドライブ。ウィルはタイミングを読み切り、ピタリと付いて行く。
「それはもう、何回も見て――っ!?」
ウィルがボールに手を伸ばしたその時、ウィルの視界から陸の姿が消える。
――ダムッ!!!
バックロールターンでウィルの伸ばした腕を掻い潜るように反転し、かわした。
――ザシュッ!!!
直後のジャンプシュートを決めた。
「何見破った気になってんだ? こちとら、まだまだ引き出しはたくさんあるんだぜ?」
ニヤリとする陸。
「面白い」
釣られるようにニヤリとするウィル。
直後の陽泉のオフェンス…。
『来たな!』
『そう来なくちゃ!』
陽泉もウィルにボールを渡すと、アイソレーションでスペースを空けた。
――ダムッ!!!
ステップを踏みながら牽制をした後、ウィルが仕掛ける。
「てめえの動きはもう読めて――っ!?」
ウィルがボールを右から左へと切り返す瞬間を狙った陸、しかし、陸がボールに触れる瞬間、ウィルは陸より先に右手でハンドリングし、陸の横を駆け抜けた。
――ザシュッ!!!
そのままジャンプシュートを決めた。
「こっちもまだまだ引き出しはたくさんある」
ニヤリとするウィル。
「良いね」
同じく釣られるようにニヤリとするのだった。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
遂に始まった両エースのぶつかり合い。互いにエースと心中する事を決めており、オフェンスは陸、ウィルに託し、他の者はフォローに回回る。
「行くぞコラァ!!!」
「絶対に勝つ!!!」
互いに自身の全ての武器を用いてぶつかり合った。
『これだよ、これを待ってたんだ!!!』
『良いぞ!!!』
『どっちも頑張れ!!!』
待ち望んでいた展開に観客のボルテージも最高潮に上がる。
互いに1歩引かない戦い、揺れる事のない均衡。試合時間残り5分を切った時、それは起こった…。
――バチィィィッ!!!
「っ!?」
陸をかわし、ジャンプシュートを放ったその時、背後から陸がボールを叩き落とした。
『っ!?』
ここまで互いに矛が盾を突き破る展開が続いていたが、遂に陸がその矛を防いだ。
「キャプテン!!!」
「行け!!!」
ルーズボールを拾った竜崎が速攻に走る陸に縦パスを出した。
「おらぁ!!!」
ワンマン速攻に走った陸がフリースローラインでボールを掴み、リングに向かって飛ぶ。
「まだだ!!!」
そこへ、ウィルがブロックに現れた。
「邪魔だぁっ!!!」
――バキャァァァッ!!!
「っ!?」
陸はブロックを物ともせず、リングにボールを叩き込んだ。
『おぉぉぉぉぉーーーっ!!!』
直後の陽泉のオフェンス、ウィルが肩、ステップ、目線など、あらゆるフェイクを織り交ぜ、陸を翻弄。
「…」
陸はこれに翻弄される事無く、対応。
「…っ」
ボールを掴んだウィルはターンアラウンドして横へスライドし、シュート体勢に入る。
「おらぁ!!!」
だが、陸は素早く反応し、ブロックに入る。
――スッ…。
しかしこれはフェイク。ウィルは飛んではおらず、掲げたボールを下げ、陸のブロックを掻い潜り、再びジャンプシュートの体勢に入った。
「だと思ったぜ」
「っ!?」
かわした思われたその時、陸が再度ブロックに現れた。陸は瞬時にフェイクを嗅ぎ分け、ブロックに行かなかった。
――ピッ!
ウィルは何とかパスに切り替えた。
「ナイスパスウィル!」
ローポストでボールを受け取った選手がそこからフックシュートを放った。
――バチィィィッ!!!
「逃げてんじゃねえぞこの野郎!」
だが、そのフックシュートは陸によって叩き落された。
『うわー! またターンオーバーだ!!!』
観客が頭を抱える。
――バキャァァァッ!!!
ルーズボールを拾った陸がそのまま速攻をかけ、ダンクを決めた。
第4Q、残り4分3秒。
花月 73
陽泉 71
『遂に逆転だ!!!』
ここまで陽泉が2点差を守ってきた試合だったが、遂に逆転する。
「お前は逃げた。この試合は俺達の勝ちだ」
ディフェンスに戻るすれ違い様、陸がウィルに告げた。
「(負ける? …また負けるのか?)」
夏は真剣勝負で負けた。秋は油断と驕りを突いて勝った。この試合は正真正銘、決着を付ける試合。
「(……嫌だ。負けたくない。同じ相手に2度も負けたくない!)」
ウィルの中に、今日まで灯した事のない蝋燭に火が付く感覚が走る。
――ダムッ!!!
「っ!?」
ボールを持ったウィル。次の瞬間、陸の横をウィルが駆け抜ける。
「陸が一瞬で!? くそっ!」
すぐさま竜崎がヘルプに飛び出す。
――キュキュッ…、ダムッ!!!
「くっ!?」
急停止し、ロッカーモーションからの再発進で竜崎を抜きさる。
――バキャァァァッ!!!
「がっ!」
その後、室井がブロックに現れるも、その上からダンクを叩き込んだ。
「俺は負けない。勝つのは俺だ!!!」
『っ!?』
振り返ったウィルが放たれる迫力に圧倒される花月の選手達。
「これは、空先輩達と同じ…!」
竜崎に覚えがあった。かつて、キセキを冠する者達だけが入る事が出来たあの領域に入った感覚…。
――ウィルが、ゾーンの扉を開いた…。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
――ダムッ…ダムッ…。
ボールをキープする陸だったが…。
「(これは…!)」
目の前に立ち塞がるウィルから発せられるプレッシャーに圧倒されていた。
――ダムッ!!!
縮地法を用いたドライブで一気に切り込む陸。
――バチィィィッ!!!
「っ!?」
カットインと同時に急ストップからのジャンプシュートを放とうとボールを掴んだその瞬間、背後からウィルのバックチップによってボールが叩かれた。
「(陸がああもあっさり!? 隙なんてなかったぞ!?)」
ドリブルからシュートへと移行する時に出来た一瞬の隙を突いたウィルに驚愕する竜崎。
「(間違いねえ…!)」
ルーズボールを追おうとした陸だったが、既にウィルが確保し、速攻を仕掛けていた。
――ダムッ!!!
ターンオーバーを予期してディフェンスに戻っていた花月の選手達だったが、ウィルは嘲笑うかのように花月のディフェンス網を悠々と突破していく。
『ダメだ!』
『勝負あったか!?』
圧倒的な力でゲームを支配するウィル。誰しもが陽泉の勝ちを予想した。
ウィルがボールを掴み、リングに向かって飛んだ…。
――こいつは…。
――本物だ!!!
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
――バキャァァァッ!!!
ウィルが振り下ろした右腕がリングを激しく揺らした。
『スゲーダンク! これはもう勝負あっ…た…あれ?』
豪快なダンクが決まり、勝負ありと確信した観客だったが、ある事に気付く。ボールがリングを通過せず、宙に舞っていたのだ。
『アウトオブバウンズ、
ボールはそのままラインを割り、コートの外に落ちていった。
「っ!?」
着地したウィルが振り返ると…。
「ハハッ! 良いねぇ、あの時の兄貴達と同じ領域、また味わえるなんてな。燃えるじゃねえかよ!!!」
そこには不敵に笑っている陸の姿があった。
陸はウィルがダンクを叩き込む直前、その手に収まるボールを叩き出したのだ。
「フフッ、全く君は…!」
陸の変化に気付いたウィルが笑う。
――陸がゾーンの扉を開いた。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
――ダムッ…ダムッ…。
ボールをキープするウィルがゆっくりとドリブルをし、目の前には陸が立ち塞がる。
「…」
「…」
――ダムッ!!!
ゆったりとしたドリブルから一気に加速。チェンジオブペースによるドライブを仕掛ける。
「…」
陸はこれに惑わされる事無く対応。
――キュキュッ…ダムッ!!!
カットイン直後、ウィルは急停止、からの再発進。
『っ!?』
再発進の直前、ウィルは視線や肩、ステップなど、あらゆるフェイクを織り込む。フェイクを入れる度に敵味方問わず、観客すらも惑わされていく。
『あっ!?』
観客の1人がウィルの姿を捉える。ウィルは急停止した位置から動いておらず、シュート体勢に入っていた。
――スッ…。
間髪入れずに陸がブロックに現れた。
『っ!?』
ブロックに成功した思われたその時、リリースされたボールがブロックを擦り抜けたかのように通過し、周囲が驚愕する。だが、ボールはリングにではなく、真上に放られただけであり、ウィルが最高到達点に達した所で再度キャッチし、改めてリリースした。
――チッ…。
かつて氷室が疲労したブロックを擦り抜ける
――ガン!!!
軌道がズレた事でボールはリングに弾かれる。
「…っ、リ、リバウンド――」
――バシィィィッ!!!
いち早く絶好のポジションを確保した室井がリバウンドボールを抑えた。
「室井!」
速攻に走る竜崎がボールを要求、室井はすぐさま縦パスを出す。
「頼む!」
パスを受けた竜崎は同時に並んだ陸にボールを渡した。
「…」
「…」
ボールを受け取った陸が攻め上がると、スリーポイントライン目前でウィルが立ち塞がる。
――ダムッ!!!
陸は左右に連続でクロスオーバーで切り返す。
『っ!?』
縮地法を利用した左右のダブルクロスオーバーに、そのスピードやキレ、独特の動きから、敵味方問わず、観客すらも陸が2人に分身したかのような錯覚に陥り、言葉を失う。
『い、行ったぞ!?』
中に切り込んでいた陸がボールを掴み、リングに向かって飛んでいた。
――バチィィィッ!!!
ボールを掴んだ右手がリングに叩き付けられる直前、横から伸びたウィルの右手がボールを叩き出した。
『アウトオブバウンズ、
ボールはそのままラインを割った。
「…」
「…」
コートに着地した2人の視線が絡み合う。その瞬間、2人の間にバチッと何かが弾けたのだった。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
第4Qが始まったエース同士のぶつかり合い、当初は互いに点を取り合っていたが…。
『点が、入らねえ…!』
観客の1人が呟く。
両エースがゾーンの扉を開いてから、両チームのスコアは凍り付いたかのように動かなくなった。
――バチィィィッ!!!
陸がブロックすれば…。
――バチィィィッ!!!
ウィルもブロックをする。
互いに、エースのオフェンスをシャットアウトしていた。そして…。
『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』
第4Q、終了。
花月 73
陽泉 73
「ハァ…ハァ…!」
「ハァ…ハァ…!」
『おぉぉぉぉぉーーーっ!!!』
互いにエースのオフェンスをシャットアウトし切ったエース対決を目の当たりにした観客達は割れんばかりの大歓声を上げた。
40分間で決着が付かず、試合は延長戦へと突入するのだった…。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
2分間のインターバルを経て、5分間の延長戦が始まった。
――バチィィィッ!!!
両チーム共にエースにボールを託すも、やはり互いにシャットアウト。点が入らない。
『スゲー、もう5分以上点が入ってねえ…!』
『いつまで続くんだ!?』
動かないスコアを見て戸惑いと驚愕に包まれる会場。
『てか、他の4人は何やってんだよ』
『フォローしてやれよな』
他の選手達への野次もチラホラ飛び始める。
「ったく素人が、フォローしねえんじゃなくて、出来ねえんだよ」
野次に溜息を吐く景虎。
ゾーンに入った2人を前に、生半可なフォローは手助け所か邪魔にしかならない。しかも陸、ウィル共にパスも出せる為、迂闊にフリーの選手を作ればそこから失点しかねない。それが分かっている為、動かない。
「ここまで来れば、エースに一蓮托生しかねえ。そうだろう?」
ニヤリとしながら景虎は上杉と荒木に視線を贈ったのだった。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
「ハァ…ハァ…!」
「ハァ…ハァ…!」
肩で大きく息をしている陸とウィル。ゾーンに入ってから5分以上、遡ってエース対決が始まってから10分以上、実質2人でオフェンス、ディフェンス双方を担っている為だ。
「…っ」
コート上の花月の選手の1人が陸に駆け寄ろう足を進める。
「(…フルフル)」
その選手を室井が肩に手を置いて制止し、首を横に振った。
限界は近い、だが、依然として2人の集中力は保っている。寧ろ、落ちようとしているパフォーマンス能力を補う為に高まっているくらいだ。迂闊な声掛けは、破裂寸前の風船のように張り詰めた集中に穴を空けかねない。
延長戦、残り19秒。
花月 73
陽泉 73
依然として動かないスコア。試合はこのまま再延長かと、誰もが考えた。
「ハァ…ハァ…っ!」
――ダムッ!!!
陸の呼吸が乱れたまさにその瞬間、ウィルが仕掛け、陸を抜きさった。
『ぬ、抜いたぁっ!!!』
「(この時を待っていた! 我慢対決は、俺の勝ちだ!)」
遂に崩れた均衡。勝利を確信したウィルはボールを掴み、リングに向かって飛んだ――。
――バシィィィッ!!!
「っ!?」
右手に収まったボールが叩かれ、両目を見開くウィル。
「イチかバチか、賭けだったぜ」
ウィルが視線を横に向けるとそこには、陸の姿があった。
「お前があそこでジャンプシュートを選択してたら俺の負けだったが、
「っ!?」
ここでウィルは自身が判断を誤った事に気付いた。もし、あそこでジャンプシュート…それもクイックモーションで放っていれば、陸のブロックは間に合わなかった。だが、陸を完全に抜いた事で油断し、確実に決められるが、
コートに着地する2人。ルーズボールはラインを割ろうとしていた。
「止めたぞ! 死ぬ気でボール確保しろ!!!」
そう叫び、陸は速攻に走った。
「おぉっ!!!」
――バチィッ!!!
ラインを超えようとしたボールに竜崎が決死のダイブで飛び込み、中へと戻した。
「陸!!!」
中に戻ったボールを室井が取り、すぐさま前へと走った陸に縦パスを出した。
「よくやった、後は俺様に任せな!」
ボールを掴んだ陸がニヤリとしながら2人を称えたそのままリングに向かって突き進んだ。
「ハァ…ハァ…まだだ!!!」
スリーポイントラインを超えた所でウィルが陸を捉え、横に並んだ。
「おぉっ!!!」
フリースローラインを踏んだのと同時にボールを掴み、リングに向かって飛んだ。
「させるか!!!」
ウィルもブロックに飛び、陸とリングに間に割り込んだ。
――試合時間残り1秒。この激突の行方が試合を左右する。
『止めてくれぇぇぇぇっ!!!』
望みを繋ぐこの激突に願いをかける陽泉の選手達。
「っ!?」
両者が激突する直前、ウィルがある事に気付いた。
――先程まで乱れていた陸の呼吸が整っている事に…。
――バキャァァァッ!!!
激しくリングに叩き付けられるボール。
――ピィィィィィィィィィィィッ!!!
同時に審判が笛を吹き、振り下ろされる2本の指。
激しい戦いの決着が今、着いたのだった…。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
試合終了
花月 75
陽泉 73
大歓声の観客。
『うぉぉぉぉーーーっ!!!』
歓喜に沸く花月の選手達。
『…っ』
ある者は茫然とし、ある者は涙を流し、ある者は悔しさを噛みしめている陽泉の選手達。
「…」
茫然とコートで尻餅を付いているウィル。
「ハァ…ハァ…! もう動けねえ…!」
その横で激しく息を切らして大の字で倒れ込んでいる陸。
「……何をした」
「ハァ…ハァ…あっ?」
横で倒れ込んでいる陸に問い掛けるウィル。
「もう限界を超えていたはず。なのに何で動けた」
「ハァ…ハァ…呼吸を一瞬で整えて、残った体力を瞬間的に使い切る。俺の、とっておきだ」
してやったりとばかりにニヤリとする陸。
陸は特殊な呼吸法によって乱れていた呼吸を整えながら全身に酸素を行き届かせ、残った体力を数秒で使い切った。その為、陸は僅か数秒だけ、自身の最高のパフォーマンス能力を発揮した。その為、スタミナ切れ寸前だった為に
「……そうか」
解答を聞いて納得したウィル。
「陸!!!」
「うぉっ!?」
チームメイトが陸に駆け寄り、抱き上げるとそのまま胴上げを始めた。
偉大な先輩達ですら成し得なかった夏と冬の連覇を果たし、歓喜に揺れる花月の選手達であった。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
『75対73で、花月高校の勝ち、礼!』
『ありがとうございました!!!』
中央に整列し、互いに礼をする選手達。やがて選手達同士が握手を交わし、健闘を称え合った。
「俺の負けだ。強かったよ」
「ハハッ、あんたもな」
陸の前に立ったウィル。対して、陸は室井に肩で支えながら対峙している。
「また君とは戦いたいな」
「俺もだぜ。国体の時は点差付けられて負けてっからな。まだまだ借りは返しきれてねえ」
「俺はこの試合を最後にアメリカに帰る。君もいつか必ず――」
「マジで!? 俺も来年からアメリカに留学するんだよ」
「っ!? ハハッ、ハハハハハッ、そうか!」
陸のアメリカ行きを聞いて嬉しそうに笑い出すウィル。
「なら、思ったより早くまた戦う事になりそうだ。…次は、勝つ」
そう言って、右手を差し出すウィル。
「おうよ!」
陸も右手を差し出し、握手を交わしたのだった…。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
コート上で握手を交わす陸とウィル。
「…」
そんな2人を微笑ましい笑みを浮かべながら見つめているのは、ウィルの姉であるアレックス。
「惜しかったね」
「…タツヤか。来てたのか」
そんなアレックスに声を掛けたのは、かつての弟子であった氷室辰也だった。
「当然さ。君の弟であり、俺にとってもタイガと同じ、弟分の1人だからね」
ニコリとする氷室。
「成長したな。日本に来る前も片鱗はあったが、驚いたよ」
弟分の成長にやや嫉妬しつつも誇らしげな氷室。
「だろ。何てったって、私の自慢の弟だからな」
ウィンクをするアレックス。
「けど、何でわざわざ日本にウィルを呼んだんだ?」
年々レベルは上がっているとは言え、日本はまだまだ発展途上。ウィルからすれば、来日するメリットは少ない。
「良い薬になると思ってな」
「薬?」
「あいつ、ジュニアハイスクールで結果出して事もあって、少し浮かれてた節があったからな。日本の諺…で、確か、天狗になる、だったか? その傾向が見て取れた」
アレックスの両親から贈られたウィルのジュニアハイスクール時代の映像から見たアレックス。
「今後の為にも喝を入れてやろうと考えた時に、丁度日活きのいい
「なるほど」
苦笑気味に頷く氷室。
「それにあの坊やも、どうやらアメリカに行くつもりらしいって話を聞いてな。アメリカはそんなに甘くはねえって、教えてやろう思ってな」
ニヤリとするアレックス。
「ウィルはともかく、あの陸と言う少年に随分と肩入れするんだね。そんなに衝撃的だったかい?」
「肩入れしたくもなる。何せ、あのタイガ達と真っ向からやり合える才能を持ってやがるんだからな」
アレックスもかつてのエキシビジョンマッチを観戦していた1人であり、その時に見た、当時まだ中学生だった陸に驚愕していたのだ。
「よくもまあ、こんな島国から次から次へと逸材が現れるものだ」
「だから、アレックスはコーチの要請を受けたんだろう」
「ああ。…近い将来、必ず面白い事になる。
「君はそれで良いのかい? もしかしたら、タイガ達がアメリカを降す事になるかもしれない」
氷室が尋ねると、アレックスは不敵な笑みを浮かべた。
「フッ、アメリカを舐めるな。時代によって最強国が入れ替わる他の球技と違って、今も昔も、バスケで最強を誇るのはアメリカだ。甘くはない」
「フフッ、そうか。それは楽しみだよ」
釣られて笑みを浮かべる氷室。氷室もまた、アメリカに挑戦する1人だからだ。
「(だが、それも一興かもしれないな。俺の愛弟子や、そのライバル達が、アメリカを降して世界一になるのも…)」
日本の国旗を背負い、日の丸を付けたユニフォーム着た日本人が、最強を誇る母国アメリカを降す光景を思い浮かべるアレックス。それは決して夢物語でも絵空事でもないとアレックスは考える。
「楽しみだ。この国のバスケの将来が――」
※ ※ ※
秋のリベンジを果たし、夏と冬の王者の座を掴み取った陸。
母国アメリカにて陸との再戦を望むウィル。
そんな陸と、愛弟子たちを見て日本の可能性を見たアレックス。
日本のバスケはいったいどうなるのか…。
何処まで行けるのか…。
何処に行きつくのか…。
だが、それは必ず明るい未来だろう。
キセキ達の、新たな栄光の物語は、ここから始まる……。
――黒子のバスケ~次世代のキセキ~
~ 了 ~
終わったー!!!
当初は1話で締めるつもりだったのですが、まさか、4話まで膨らむとは…(;^ω^)
以上をもちまして、黒子のバスケ~次世代のキセキ~はこれにて完全完結となります…(^-^)
実に連載期間は、間に空白期間もありながらも10年以上、よくもまあ、飽き性の自分がこれだけの長期連載出来たものです…(;^ω^)
話を膨らませようと思えば空や大地達、火神やキセキの世代のその後や、それこそFIBAワールドカップとかあるんでしょうが、正直、自分にこれ以上、連載を続けるモチベーションはなく、間違いなくエタるので、ここで筆を置きます…m(_ _)m
やりたい事は全てやり切りました。ですので今後、この話を書く事は恐らくですがないと思います。
と言う訳で、長きに渡り、この二次創作にお付き合いただき、誠にありがとうございました!!!
そして、この素晴らしい作品を世に産み出してくれた、藤巻先生及び、集英社様、本当にありがとうございました!!!
執筆活動は続けますので、別の作品でお会いできるのを楽しみにしております…(^_^)v
それではまた!