問題児たちが異世界から来るそうですよ? ━魔王を名乗る男━   作:針鼠

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三話

「ふんふふーん♪」

 

「その眼帯……」

 

 

 信長が外した眼帯。見た目は何の変哲もないそれに、牛魔王は鋭い視線を向ける。

 

 

「付けている間、周囲の自分に関する記憶を思い出させない……認識阻害の恩恵が宿っているな。原理としたらペルセウスが持つハデスの兜に似ているか」

 

 

 ハデスの兜。

 

 透明化することが出来るこのギフトは、実際に消えているわけではない。完全に消えるならばそれは透過であるからだ。

 つまりハデスの兜は、装備者を消しているというよりは、周囲の意識を欺いているといえる。

 

 

「一度外すところを見られるか、視覚以外で見破られればそれまでのようだがな。――――貴様、それをどこで手に入れた?」

 

 

 牛魔王が知る限り、信長はこのような恩恵を宿したモノ持っていなかった。ましてや作る技術も無いだろうに。

 牛魔王達が信長を認識出来たのは、一度彼が目の前であの眼帯を外すところを目撃していたからだ。

 

 ちなみに、十六夜も以前にミノタウロスの迷宮攻略中、乱入してきた信長が自ら眼帯を外していたから再び欺かれることはなかった。

 

 

「――――まあまあ、牛魔……ウッシー」

 

「おい、その呼び方は勘弁してくれ」

 

 

 世界王を名乗る少女は、クスクス肩を揺らす。

 

 

「いいじゃないですか。久しぶりの同士との再会ですよ?」

 

「同士、か」

 

 

 胡散臭いものでも見たかのように、牛魔王は胡乱げに信長を見やる。

 

 

「信長よ、お前随分己の名を貸しているようだな? 《アヴァターラ》、《ウロボロス》、《クイーン・ハロウィン》、それに古巣の《ノーネーム》だったか。それ以外にもあるのだろう?」

 

「いやぁ、僕ってば人気者でさ」

 

「褒めてなどいないさ」

 

 

 実際、先に挙げた他に牛魔王が知る限りでもあと四つの連盟に、第六天魔王の名は連なっている。

 それぞれの敵対構図など関係ない。

 

 そしてそのどれもが、今回行われる太陽主権に参加する、或いは関わるコミュニティなのだ。

 

 

「何を考えている?」

 

 

 問に、当然というべきか信長は答えない。鼻歌を唄いながら、指を引っ掛けた眼帯を無造作に回して遊んでいる。

 

 織田 信長。

 

 たかが数十年、それも時代を作るでも終わらせるでもなく生涯を終えた単なる人間の名が、この箱庭で屈指の知名度を誇っているのは理由がある。

 かつて三度この箱庭に召喚された『織田 信長』は、その全てで魔王となった。

 人格は違う。性格も違う。性別も違った。

 

 だが、修羅神仏、悪鬼羅刹蔓延るこの箱庭で、彼という人間は繰り返し戦火を振り撒き続けたのだ。

 

 何度も、何度も。

 

 例え別の時間軸であろうとも。

 例え別の世界軸であろうとも。

 

 『織田 信長』は魔王であり続けた。

 

 かくいう牛魔王も、二人目の『織田 信長』と戦ったことがある。

 

 ――――ならば、この目の前の少年があの『織田 信長』だというならば、油断していい相手ではない。ましてや、飼えるなどとは思ってはいけない。

 安易に手を出そうものなら、こちらの喉笛を喰いちぎられる。

 

 チラリと、牛魔王は隣りの少女を見る。ニコニコと満面の笑顔をふりまくだけで動く気配は無い。

 

 

(さて、どうするかね――――)

 

 

 視線を前に戻した牛魔王の眼前に、切っ先は迫っていた。

 

 信長の位置は遠いまま。

 投げたのだ。彼の武器、レーヴァテインを。

 

 槍投げのように投げられた刀は、しかし放物線を描くのではなく地面と並行に飛んで来る。

 

 信じられない奇行だ。不意打ちとはいえ唯一の武器を、初手に投げつけてくるなんて。

 並の者ならそのまま片眼を失い、頭蓋すら貫かれる。――――並の者なら、だ。

 

 牛魔王はまるで動じずに片足をひいて、紙一重で奇襲を躱す。

 

 

「――――あは!」

 

 

 投擲された刀が眼前で停止した。

 今度は信長自身が間合いを詰めて、先ほど投げた刀を自らキャッチした。出鱈目だ。何もかも。

 

 咄嗟に屈んだ牛魔王の頭上を、レーヴァテインが薙いでいく。

 視線が一瞬交錯する。

 

 口端を歪めながら、信長は刀を手の甲の上で回して切っ先を下に向ける。串刺しにせんと振り下ろす。

 

 あまりにも型に嵌まらない信長の剣術に対し、牛魔王は。

 

 

「そんな曲芸が通じると思うか?」

 

 

 レーヴァテインの切っ先を指先で挟んで止めた。

 

 

「掴んでいいの? 燃えちゃうよ?」

 

 

 レーヴァテインの切っ先から焔があがる。牛魔王の手ごと巻き込もうと火の勢いが増そうと――――、

 

 

「二度言わせるな。その程度が通じると思うなよ、若造」

 

 

 迷宮の大地が、割れた。

 

 牛魔王の踏み込み。右足を中心に、蜘蛛の巣状に地面に亀裂が走る。尋常ならざる力は一切のロス無く伝わり一点に収束する。

 即ち、右の一突き。

 

 信長の体が木の葉のように吹き飛んだ。

 牛魔王の拳は、信長を吹き飛ばすばかりでなく、周囲の迷宮の壁をその拳圧だけで崩壊させた。

 

 これこそ、魔王の代名詞たる七大妖王が長兄、《平天大聖》、牛魔王の力。

 

 

「あやや、まったく容赦ないですね。牛魔……ウッシー」

 

「容赦?」

 

 

 牛魔王の左手に残る長刀。主の手を離れても燻ぶるように燃え続けるそれを、握り潰す。

 

 

「織田 信長相手に容赦か。考えたことなどなかったな」

 

 

 視線の先、粉塵が収まったそこに信長の姿はなかった。

 

 

「逃げた、か」

 

「うーむ? らしくないですねえ」

 

 

 可愛らしい眉を寄せて難しい顔を作るクールマ。

 

 

「ノブ君なら貴方ほどの魔王との戦いは、むしろ何にも優先してきそうだと思っていたのですが」

 

「あの眼帯の恩恵といい……つまりは、その方が都合のいい奴がいる、ということだろうな」

 

「あのノブ君が大人しく言うこと聞きますかね? あのノブ君が」

 

「二回言うか。――――それより、俺達も行こう。天の牡牛は今の内に抑えておく必要がある」

 

「そうですね。いやぁ、本当に今回のゲームは楽しくなりそうでドキワクです!」

 

 

 言葉と同じく足取り軽い少女は、その身を浮かして迷宮の穴へ向かう。

 

 牛魔王もその後を追う。

 ちらりと見た迷宮の中心では、今まさに真の姿を現した白亜のミノタウロスと、大戦斧を振りかぶる焔の姿があった。




閲覧ありがとうございましたー。

>今回は2巻エピローグというよりは、2巻と3巻の接続章というか。本編の盤外ではこんなやり取りがあったのですよー、という補足というか蛇足というか(え

>さて、あまり二次作品でオリジナル要素をぶっ込むのは好きくない私ですが、今回の展開は初めから決めていたのであります。
基本作品書くときは、凄く漠然とではありますが最初と最後だけは考えて書いております。その上で信長君に決着つけるには、そろそろこういったオリジナル要素も混ぜておかないと後々畳みきれない可能性が高くなってきますしね。

>さてさて、さらにご連絡が。前回のあとがきで一先ず3巻まで行っちまいましょうと言いました。

あれ取り消します!

申し訳ないです。というのもやっぱり原作にぴったりくっつくのは書いてて怖いんですよね。いつか取り返しつかない要素書いちゃいそうで。本音言えば今の状態もかなり怖いですし。

>つい最近まで執筆不調に陥って、また原作進むまでストップさせるというのも嫌な感じですが、ここまで長く書いてきたのですし、どうせなら丁寧に進めたいと思います。

>とまあ、次回更新がいつになるかは次の原作最新刊の具合にもよりますが、目指せちゃんと完結!を胸に続けていきますので、どうぞ気長な方はお待ちくだされば。
ではではー。
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