【完結】もしパンドラズ・アクターが獣殿であったなら   作:taisa01

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8巻に相当。
時系列では「続」の後、「終」の前。

閑話にあたるお話です。
私はアルベド派。



余 もしパンドラズ・アクターが獣殿であったなら

 

 アルベドはナザリック地下大墳墓の宝物殿を訪れていた。目的はパンドラズ・アクターことラインハルト・ハイドリヒとの打ち合わせのためである。

 

「アインズ様より、至高の御方極秘捜索の許可を頂いたわ」

「卿が私に伝えにくるということは、副官なりの協力依頼といったところかな。そしてわざわざ宝物殿にまで足を運んだということは、聞かれたくない話であると」

「あなたのことだから、すでに分かっているのでしょ」

 

 尊大不遜な雰囲気は変わらず、ラインハルトはアルベドの要件を言い当てる。事実、先日の聖槍十三騎士団発足以降、ナザリックの主だった情報を全て把握する存在となったのだ。主であるアインズと守護者統括であるアルベドの会話など、護衛名目で把握しているのは当然である。

 

「調査は無論行うが、抹殺まで想定した捜査。最悪は守護者クラスとの戦闘を想定するなど、少々リソースの無駄ではないかね」

「モモンガ様は至高の御方の優先度を最高のものだとおっしゃったわ。あの方のお心には今でもあの者達が巣食っている。もし見つかれば共に在るために、この地を捨ててしまうかもしれない」

「とは言え、我が半身()の心を思えば無碍にもできぬ。だから調査を行い、情報をお渡しするタイミングを図るということかな」

「その通りよ」

 

 アルベドの計画は、アインズの意図からすれば真逆のものである。もともとはナザリックにおける財政面の管理者。いまは監査・監視をも司るラインハルトに、アルベドがこのような話をすることは、犯罪者が警察署に出頭し計画書を提出するような行為である。

 

「卿の思惑を理解し協力しよう。ただ、いつか裏切るぞ」

 

 しかし、ラインハルトは協力の約束と裏切りの宣言で返した。

 

「期限は」

「10年か100年か。我が半身()の心がこの情報を真に欲する日が来た時だ。今はまだ未知を楽しんでいる。我らにとって未知こそ最高の娯楽だからな。しかしこの世界をすべからく治め、未知が潰えた時、主は欲するだろうその時が期限だ」

「そう」

 

 現実の鈴木悟にとって自然とは、すでに存在せずデータで見るだけの存在であった。しかし、アインズはこの世界に来て美しい月夜の大自然に出会ってしまった。この出会いはアインズに未知への大冒険を感じさせるのに十分なものだった。

 しかしこの未知が無くなれば、アインズの根源的な欲求である家族や仲間を求めるだろう。ラインハルトは、このタイミングで裏切ると明言したのだ。

 

「しかしそれだけでは面白く無い。策を一つ卿に贈ろう」

「策?」

「卿が主の心の大半を占めてしまえば良いのだよ。我が半身()は慈悲深い御方だが、同時にその優先順位をつけることができる冷静な御方だ。だからこそ主の渇望をかなえてしまえばいい」

 

 ラインハルトは、解決策としてアインズの心をアルベドで満たしてしまえと言っているのだ。

 この案は滑稽に思えるが、なかなか正しい案である。なぜならアインズの渇望は、家族や仲間といった愛するものとの永遠である。

 もしそこに愛するものとしてアルベドが一定以上締めてしまえば、楔の機能を果たすこともできるのだ。

 

「そうよね。まず湯浴みに」

 

 アルベドとて、その考えに至っていないわけではない。だからこそ最後の一線を越えあぐねていた。しかし愛するモモンガの過去(ラインハルト)も後押しすることで、その考えに大きな間違いはないと確信できたのだ。そのためサキュバスらしく直接行動に出ようとした。

 しかしラインハルトはそんな勢い勇むアルベドに問いかけた。

 

「その行動力は卿の良い所であるが、存在には存在の数だけの愛があるのだよ。卿は聞きたくないかねモモンガ様の愛の形を(モモンガの代理人)から」

 

 

 

 

 承

 

 アインズの執務室。

 豪奢であるが無駄な飾りはほとんど無く、むしろ機能美を優先した部屋で、アインズは今日もナザリックという巨大組織の管理や各種調査にいそしんでいた。

 

「おつかれさまです。アインズ様。少しお休みになられてはいかがでしょうか」

 

 アンデットの体というのは至極便利なものである。精神的・肉体的な疲れというものが無く、睡眠欲などが無いためいくらでも仕事ができる。さらに感情抑制が働くため常に冷静に対応できる。現実の社会であればある意味一番羨ましがられる能力かもしれない。

 問題があるとすれば、ナザリックが地下にあることも相まって時間を忘れてしまうということだろうか。

 そんなアインズを気遣ってアルベドは休憩を提案したのだ。

 

「しかし、この報告ぐらいは処理しておきたいのだ」

「アインズ様は常日頃から、目的(世界征服)のためにも休息の重要性を説かれていたではありませんか。その主が休まなくては下々のものも休むことはできません」

 

 アインズはつい仕事を理由に断ってしまったが、アルベドは普段のアインズの言葉で説得をこころみてきたのだ。

(アルベドは、ついにホワイト企業の素晴らしさを理解してくれたのか)

 いままでのアルベドであれば、奉仕を理由に仕事を取り上げたうえで、自分を含む奉仕するものに休みは不要と言い放っていた。それが休息の重要性だけでなく上司が休息する理由まで諭してきたのだ。

 

「そうだな」

「紅茶とクッキーを用意させていただきました」

「ああ、頼むとしようか」

 

 アルベドの変化に嬉しくなり、休息をいれることにしたアインズは、アルベドが運んできたワゴンをなんとなく見る。ワゴンにティーセットが2つ。しかし、アルベドは1セットのみ応接ソファーに準備している。

 もしかしたら、このあと自分の休憩用に用意したのかと考えたアインズは、アルベドを誘うことにした。

 

「アルベドもいっしょにどうだ」

「よろしいのですか」

「ああ。一人というのは中々にあじけないものだ」

 

 アルベドを誘うための口実にすぎないが、アインズというより現実の鈴木悟は一人での食事が多かった。そして同僚のだれかが言った「食事を楽しめなくなったら、それはただの餌だよ」の一言を思い出したからだ。

 

「では」

 

 ソファーに優雅に座るアルベドの姿。

 最近多かった過度な接触はなく、静かに紅茶の香りを楽しむ姿は大人の女性そのものであった。

 香り高いマリアージュフレールのマルコポーロ。独特のフレーバーにあわせてアルベドの甘い香りがアインズを刺激する。

 オーバーロードになってからというもの、仲間との夢の跡を守るため、仲間との再会のためにがむしゃらに事をすすめてきた。慣れぬ支配者としてのロールプレイもそうだ。アンデットであるから疲労と無縁の思っていた。

 

 しかし、今この時はじめてかもしれない、大人の女性との静かなひととき。

 今まで一本に張り詰められた何かをがゆっくりと解きほぐされるような時間。

 

「あら、冷めてしまいましたね。淹れなおしましょうか」

「すまない」

「いえ、せっかく口唇虫があり、味を楽しめるようになったと伺っております。ゆっくりとお楽しみください」

 

(そんなことまで気を回してくれているのか)

 アンデットは飲食不要。そのためアインズは異世界転移後から一食も食べておらず、最近ではそれが当たり前となってしまった。しかし先日ある理由で口唇虫を利用するようになったことで飲食が可能となり、腹にたまるわけではないが味を楽しむことができるようになったのだ。

 アルベドはそのことを覚えており、このように準備したのだ。その気遣いが、アインズにはどこか新鮮で少しこそばゆいものであった。

 

 一度意識するとなかなか外せないのが男の性なのか、アルベドの紅茶をいれる横顔。

 紅茶を机に置く際の僅かにかがみ見える胸元。

 クッキーの一欠片を口に含む際の唇。

 アインズは紅茶の味が途中からわからなくなる。そんな一時を過ごした。

 その後、いつものアルベドなら過剰なスキンシップがくるかと身構えると何事もなく……。

 

「寝室で少しお休みになってください。お心を落ち着かせ横になるだけでも、お疲れはとれるかと」

 

 といって去っていったのだ。

 まるで、いままでが嘘であったように。

 

 

 

 

 ちょうど男性守護者たちとの親睦を兼ねて、みんなで風呂に入る企画を実行した時に異変は起こった。

 アインズと男性守護者たちがちょうど大浴場の入り口に差し掛かった時、女湯から一人の女性。アルベドが出てきたのだ。

 

「これはアインズ様、それに守護者の面々も」

 

 ゆっくりと温まったのだろう、普段は白く美しい白磁のような肌は、上気してほんのり赤みをさしている。

 手入れされた美しい黒髪を上げたうなじは艶めかしく、なにより珍しく浴衣を着ているのだ。

 

「……アルベド。その服はどうしたのか」

「いえ、湯浴み後の正装はこの服かバスローブとうかがっておりましたので、今回はこちらにしてみました。なにか間違いがございましたか」

 

 小首をかしげるアルベドの姿は、えも言われぬ魅力があった。

 

「いや、すごく……似合っているぞ」

「あら、ありがとうございますアインズ様」

 

 静かにお辞儀をするアルベドの姿をアインズの視線は追う。

 鈴木悟という日本人の性なのか、浴衣の女性の仕草から視線を外せなくなっていた。

 

「では、殿方たちの楽しみにおじゃまするのは無粋というもの、お先に失礼させていただきますね」

 

 そう言ってアルベドは去っていった。

 

「アルベドは最近かわりましたね」

「そうだよね。すごく優しくなったとおもう」

「昔ハアインズ様ノ前デハ、獣ノヨウデアッタ」

「卿を思わんがばかりに……ということだろ。我が半身は愛されているな」

「そうだな」

 

 それを見送った男性守護者たちは、口々にアルベドの変わりように感想を述べる。

 概ねの好評価にアインズも同感であった。

 そんな時、ラインハルトはアインズに言葉の爆弾を投げ込んだ。

 

「その愛に答えてやるのも支配者の努めだが、卿にはまだ難しいか」

「正直言えば、守護者を含めて皆のことは友人の子供のように思っている。あえて言えば家族だな」

 

 男性守護者たちは、はからずもアインズの口からでた家族という評価に喜びを感じる。

 

「なら、愛ゆえに変わろうとするアルベドを後押しするように、せめて一歩だけ踏み込むぐらいが良いのかもな」

「一歩……か」

 

 

 

 そんな会話があった日の夜。

 

(どうしてこうなった)

 アインズの寝室。

 いままでほとんど使われることの無かった柔らかなキングサイズのベットの上で、横になるアルベドの手を握るアインズ。

 

 問題はアルベドが普段とは違い、薄着で静かに寝入っていることだ。

 呼吸とともに動くその豊かな胸は、薄着の下から十分に自己主張をしており、それでいて女性らしいやわらかなラインを描いている。

 

(手をだしていない)

 最近アルベドがあまりにかわいく、また甲斐甲斐しく世話に仕事にアインズをサポートしてくれている。ラインハルトの一言もあり褒美は何がよいかと聞いたのだった。

 そうしたらアルベドは少し俯き、普段とは違いすこし控えめな声で答えた。

 

「では、手を……」

「手を?」

「寝るときに手を一晩握っていただけませんでしょうか」

「えっ」

 

 あまりにも予想外な内容に、アインズは素のリアクションをしてしまった。しかしアルベドはそのリアクションからアインズの不興を買ったと思い急ぎ謝罪をするのだった。

 

「申し訳ございません。ご迷惑でしたね、先ほどの言葉はお忘れください」

「いや、迷惑ではないが」

「しかし」

 

 静かに寝るアルベドの姿。最近の大人の女性のそれとは違うどこか可愛らしい仕草。

 結局、アインズその褒美といえるかわからない褒美を受け入れることとなった。

 

「なら、せめて一歩だけ踏み込むぐらいが良いのかもな」

 

 これが一歩なのかもしれないと静かに眠るアルベドの頭を撫でながら思うアインズであった。

 もっともアンデットであるため性欲が減衰し、感情の沈静化に感謝することになるとは思わなかったが……。

 

 

 

 

 朝方、アインズは服を整え執務室に入る。すでに戦闘メイド(プレイアデス)やメイド達が清掃や書類など準備を整え待機している。そんないつもの光景に一つだけ違いがあった。

 ラインハルトが書類を片手にコーヒーを飲みながらくつろいでいたのだ。

 そしてアインズをみつけるやいなや、いろいろ台無しにすることを言い放つ。

 

「昨夜はおたのしみでしたね」

「おまえが言っちゃいけないセリフだろそれ。お前のキャラ的に」

「卿の故郷では、このように言うものだと学んだのだがな」

 

 普段のアインズなら必死に取り繕うのだが、胃が痛くなることがあるとはいえ最近気を許してきたラインハルトのあまりにアレなセリフに、モモンガの素でツッコミをいれてしまった。

 

「で、朝からそんなことを言うためにココでまってたわけではないのだろ」

 

 感情の強制沈静化が発生したアインズは、ラインハルトに要件を聞いた。

 

「ああ、アルベドに話があってきたのだ。状況がわかっていたので、ここで待たせてもらっていたよ」

 

 ラインハルトの口ぶりから、昨晩のことをすでに把握していると認識したアインズは、恥ずかしさを堪え席にどかりとすわった。

 しばし経ち、アルベドが執務室に訪れる。

 

「おそくなりました」

「いや、女性なのだから準備の1つも必要だろう。それとパンドラズ・アクターが用事があるそうだ」

 

 女性の朝の準備は、男のそれと違い時間がかかる。アインズはそう考え何事もなかったように返す。

 しかしアインズがアルベドを女性として気遣う何気ない言葉。その一言だけでメイド達は、いままでとの違いを目ざとく見つけているのだが。

 

「どうしたのかしら」

「卿に頼まれていたものだ。そろそろ必要とおもってな」

「あら、わざわざありがとう」

 

 ラインハルトは書類の束をアルベドに渡す。しかし、一枚が滑り落ちる。

 その落ちた一枚を、アインズな何気なく目に入れる。

 

 その瞬間。

 

 アインズはアルベドやメイド達がいるのを気にせず、ラインハルトの肩をつかみ壁におしやる。

 左手はパンドラの肩を掴み、右手は壁に触れる。まるでラインハルトを腕の中から逃さぬという雰囲気でだ。

 

「おまえか」

「なにかな」

 

 勢いのあまり、アインズはラインハルトにキスをすると思えるほど顔を近づけ詰問した。

 

「どうもアルベドが変だと思っていたが、お前が指示していたのか」

「卿はなにか勘違いしていないかね。私は淑女たるものの立ち振舞を、少々アルベドに伝えただけだ」

 

 先ほど落ちた一枚の紙には、シチュエーションごとにアインズに対する対応が事細かに書かれていたのだ。しかも悔しいことにアインズの好みを見透かしたソレは、さながらアインズを乙女ゲーの攻略対象に見立てた攻略本であった。

 無論普通に考えれば、日々の生活は無数の状況の積み重なりである。ゲームのように選択肢があるわけではない。それを分析し予想されるポイントで的確な指南書を書き上げるラインハルト。そして大量の指南書を全て記憶し応用をきかせながら実現するアルベド。まさに能力の無駄遣いである。

 

「それが」

「それがなにかね。私は全てを平等に愛している。愛するものが教えを乞うてきたのだ。それに答えるのは普通のことであろう」

 

 感情沈静化さえ無視してアインズは声を荒げる。しかしラインハルトは何処吹く風。当たり前のことをしているのだと言うのだ。

 

「しか……しかしだな」

「それに卿にも悪いことではあるまい。無理に押し付けられるよりそっと寄り添う。そんな姿に惹かれたのではないかね」

 

 理屈では理解できても、感情では納得できない。なによりアルベドには設定を書き換えたという後ろめたさがあるアインズとしては、なかなか受け入れられるものではなかった。

 しかし、ラインハルトの言うようにここ最近のアルベドは魅力的だったのだ。それも誰かに強制されたのではなく、愛するもののために自ら学び、変わろうとしていたのだ。

 これはアインズがNPC達に求めてきた「自分で考える」ということにほかならない。

 

「この間も言ったように一歩踏み出してみたまえ。それで得られる愛もあるというものだ」

 

 アルベドは確かに自分の足で一歩踏み出したのだろう。

 そしてアインズはそれを喜ばしいものと祝福するべきだと考えはじめるのだった。

 

 

 

 

 話は変わるが、この状況をアルベドやメイド達に見られていることを、アインズは失念していた。

 後日どこから漏れたのか、壁ドンするアインズとラインハルトの似姿(なぜか立体フォログラフ)が女性の間で流通していた。

 しかしラインハルトは、プライベートのことであり職務にも影響なかったためアインズに報告をあげることはなかった。

 けしてアインズが発見したときに絶望する姿を見たかったわけではない。

 

 




乙女ゲー
「ナザリック地下大墳墓~異世界でもあなたを~」

男性守護者だけでなく、ナザリック外の皇帝や王国戦士長、薬師も攻略対象としたマルチストーリー。
無論主人公は、女性守護者だけでなくオリジナル至高を選択可能。
また男性守護者を主人公として選択可能とするパッチをコミケ会場特典として封入。

2215年冬コミ頒布予定(嘘)。

あと、裏話などを活動報告に投稿しました
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