最終回です。約十年に渡る不定期更新にお付き合いいただきありがとうございました。
途中から虚攻略が始まった辺りで、もう十年前の自分が作った最初のプロットからはかけ離れた代物となった本作ですが、十年後の自分が良しとするので十年前の自分の妄執も成仏してくれるでしょう。なんか公式の方は不死鳥が如く永遠に蘇り続けてますけど。いいぞもっとやれ。
どこから不死者同士のCPなんか生えてきたんだろ……怖……まぁ性癖だしいっか。
とはいえ過去の己を成仏させるためにも、本作はこれにて締めくくりとさせていただきます。
こんな銀の光から生まれた切れ端の物語が、皆様の記憶のどこかに残ることを願いつつ。
銀魂よ永遠なれ。ではまたどこかで~
終わった空気のファミレスの中。
彼方の様子は、極めて無表情で、無反応で、無感情だった。
たぶん若干少し傷つきはしたと思うけど。
だがまあ、彼女もまた「私」なのだ。
「……」
「……か、かなたさッ、あの、いや、ち、違──」
ボックス席で立ち上がったまま、死にそうな顔で泣きそうになっている松陽と。
松陽よりも青ざめた顔になって完全にフリーズしている銀さん、ぱっつぁん、神楽ちゃん。
あと私を見てにっこり笑顔を向けてくるウチの旦那。あ、それパフェ? おいしそー。
とは、言い出せない空気であり。
全ての話の行き先が今、彼方のリアクションに委ねられたこの状況で──
「────ここで私が黙ってファミレス飛び出したら、地獄を作れそうよね」
ハイ、私でした。
やっぱり
少し苦笑しながら彼女に問う。
「飛び出すの?」
「まぁまぁ、少し様子を見ましょう。──松陽が人目をはばからず泣き出すまで」
「彼方さん!! 違うんです!! 今のは!!」
「はい、さん、にー、いち」
「──大好きなんです!! どこにも行かないでくださいッッ!!」
「……もう少しはばかりなさい。馬鹿」
恥も外聞もない告白だった。
だがまぁ──人間、それくらいでいいのかもしれない。
◆
「それで、私が迷惑だっていう話をしてたの?」
「違う違う違う違う違う違う」
「(気合い入れろ松陽ォ! ここ最後の選択肢! 最後の分岐点んん!!)」
対岸のボックス席では地獄が展開されていた。
向き合うように座った彼方と松陽。そして松陽の後ろ側のボックス席に、万事屋チーム。
かくいう此方は、
「はい
「あーん」
虚の座っていたテーブル席の対面に腰を落ち着け、バカップルらしい事やっていた。
そんな此方を万事屋組が見てくる。
「……オォイ……流れるようにレベルの違いを見せつけてきやがったぞあっち……おんなじ顔なのに全ッ然ちげぇぞ。空気からして糖度が違ぇよ。見てるだけで糖尿病になりそうだよッ」
「熟年夫婦って感じですよね……一体どこで差がついたのやら」
「年季の違いアルな。千年カップルと学生カップル。大差がつくのも当たり前ヨ」
「それで、どうして万事屋さんと一緒にいたのかしら。何を依頼していたのかしら? 何を疑われるようなことをしたのかしら、私は」
「あの……やっ……彼方さん、最近、劇場に入り浸っているので、どうしてかな、と……」
「……」
やばい。
普通に答えづらい質問きたぞ。
「……それはソラに訊いて」
「おい丸投げすな」
「せ、先生……?」
「いや、うーん、まあ、その」
おい、言いづれぇって!!
松陽側がどう推測してたのか分からんけど、ここで原作知識披露して世界滅亡破壊RTA+魘魅銀さん爆誕阻止をしようとしてたのは流石に説明しづらいって!!
「──また先生にしか分からない案件で動いていただけでしょう? 事ここに至って、まだ疑念を抱くとは……だから貴方は松陽なんですよ」
あ、弟子がフォロー入れてくれた。好き!
「そ、そうなんですか? でしたら、一言くらい頼っていただいても……」
「──言えるワケないでしょう。貴方の弟子の生死に関わることなんだから」
「えっ」
再び松陽と万事屋さんらの視線がこっちに向けられる。
何? 通訳と説明をいっぺんにやれと?
「あー、まあ、ザックリ言うと、銀さんが発病してそれに巻き込まれて世界が滅ぶ」
「どういう事だよ!! 病原菌か!? 俺は病原菌ってか!!」
「まぁこのクサレ天パが病原菌並の汚さなのは今に始まったことじゃないアル」
「いや世界が滅ぶほどの汚さではないでしょ……一体どういう事なんですか? 銀さんに一体何が……」
ハッ、とそこで虚が鼻で笑った。
「そう気にすることでもないと思いますがね。人間なんてどんな過程を歩もうといずれ死ぬんですから」
「オイオイ……やめろよ不死マウント。俺たち人間はね? 限りある一秒一瞬を貴重に消費しながら生きてんの。訴えるよ? なんていうの? 不死ハラ? そういうので」
「やれやれ、殺しても死なぬ生き物を面白がって『殺し』を愉しむ人間らしい傲慢さですね。一体どちらがハラスメントですか。人間は存在ハラスメントなんですよ」
「誰も勝てないカウンターやめろや!! 禁止カードだろ禁止カードッ!!」
「はい虚、あ~ん」
「あー」
弟子が憎しみを思い出してしまったので甘さで薄めておく。鎮まりたまえ、鎮まりたまえ……ハイ、これでなんで私が大真面目にバカップルやってるのか分かりましたね……? という顔を向けておくと、新八と神楽ちゃんがコクコクと頷いてくれた。良い子たちだよ。
ま、ヒントだけは出しとくか。
「魘魅。寄生。バイオハザード」
キーワードだけ言うと、銀さんが目を見開いて固まり、青ざめた。
言わんとする可能性を察したようだ。
「……あ、あのあのあの、ソラ様? ないんだよな? なっ?」
「三年経っても健康体なら考える必要はないよ」
あ、そォ……とひとまず胸をなでおろす声をあげる銀さん。
新八と神楽ちゃんは「?」と怪訝な顔をしている。後で訊いてね。
「……気を、遣ってくれたんですね。ですが私にそういったことは必要ありませんよ? 困ったことがあるなら、ぜひ頼ってください」
「松陽、不正解」
「えっ」
横から口出しすると、松陽の動きが停まる。
彼方が指を二本立て、テイクツーの合図をする。
「え、えーと……私が頼られたいので、ぜひご相談を……」
「……まあ、及第点?」
「そうね。でも、
「そ、そんなことは……」
「耳が痛いですね」
「虚くんには自覚があって偉いなぁ。はい、あーん」
解せぬ、という顔をする松陽だった。
君はねぇ、もうちょっと物語のキーパーソンたる自覚を持ちなさいよ。
「では先ほどの『結婚は論外』という発言の真意についての話になるけど──」
「あ、それは……」
「良し、んじゃ後は家族会議で解決してくれや。俺たちは帰るから」
「そんな銀時!?」
「パフェ、ご馳走様でした松陽先生。奥さんときちんと話し合ってくださいね」
「男は度胸ヨ~」
そんな辺りで、万事屋が席を立っていく。
切り上げるタイミングが慣れてるなぁ、と思いつつ、そのまま見送る。私たちもパフェ食べ終わったら出ようっと。
◆
「そういえばそろそろ虚の誕生日だし、なんか買っていこうか?」
会計を終えてファミレスを出た後。
思いついたことを提案すると、はて、と隣の弟子が首を傾げた。
「……先生って、昔から私の誕生日を当然のように祝ってくれますが……それも例の『知識』とやらによるものなんですか?」
「……、言われてみればお前、自分の誕生日とか絶対知る機会ない人生だったな。そうだよ。松陽とお前の誕生日は対になってんの」
名前の元ネタさんの誕生日と命日である。当然、前者が松陽で後者が虚だ。気付いた時は震えたね。
「そういう先生の本当の誕生日はいつなんですか? いつも私の誕生日のついでにとお祝い申し上げていますが」
「え、さぁ? そもそも彼方の誕生日も知らないし」
「……まったく。そういう所で自分を蔑ろにするのは先生の短所ですね。では今日ということにしましょう」
「突如として決まる自分の誕生日」
「私が今祝いたいので。さぁ、何か欲しいものはありますか。今ならどんな将軍の首でも、総理大臣の首でも獲ってきましょう」
戦国時代の武士のメンタルか何か?
未だに冗談のセンスが物騒系から離れない奴である。本当にやりそうな塩梅が一番ヒリつくよ。
「そう言われてもなぁあー……」
虚の右腕に寄りかかりながら、ぶらぶらと二人で町を歩く。
彼方と松陽はファミレスに置いてきた。最後に見た時、松陽が涙目で彼女にあーんされていたので、まぁ今日中に彼らの
「うーん……あ、じゃあ虚の握ってくれたおにぎりが食べたい」
「そんなものいつでも作れるんですが……もっと他にないんですか?」
「追加オプション? じゃあ、メイド服でも着ながらでっかいハンバーグ作ってもらおうかな」
「また何か変な漫画を読みましたね?」
メイド服かぁ……と思案し始める愛弟子だった。着るつもりか。冗談のつもりだったけどホントに着るつもりか。……普通に似合いそうで今から怖い!
「──今、物凄い発言が聞こえたんだが」
「地上から離れると人間の頭のネジはぶっ飛ぶのかねェ」
あ、と声をあげた。
進路方向に、朧と高杉が現れた!
うわー、これも凄い光景だな。
彼らが普通に表を歩いている状況、この世界線がどんだけカオスなのかよく分かる。
「松陽の弟子たちですか。息災ですか?」
「てめェに心配される謂れはねェんだが……もう一人のお前らはどうした」
「ファミレスで家族会議中だよ。どう話が転ぶにせよ、今夜は天国か地獄かの二択だね」
朧と高杉が揃って、「うわぁ……」と言いたげな表情になった。師匠の調子によって彼らの胃の痛みも変動する。察するにこの二年、影であの二人の関係を支えていたのは彼らだろう。主に松陽のメンタルケアという点において。
「苦労をかけるね! ま、生き残った罰ゲームとでも思ってよ。あぁでも、もし彼方が宇宙に行きたいとか言い出したら全力で止めて私に連絡してね。それ二度と地球に帰ってこないやつだから」
「肝に銘じておこう……弟子はいつでも師に翻弄されるものだ。この苦労も幸福の代償だというのなら、あの人の弟子として俺たちも尽力するまで」
「殊勝な兄弟子なこった。上にも下にも問題児を抱えると感覚が麻痺するらしい」
「俺が倒れたら全部引き継ぐのはお前だからな晋助。お前、大ボケだから小太郎と協力しろよ。なんなら坂本も巻き込め。銀時はまぁ……心細くなったら勝手に突っ込んでくるから考えなくていいか」
分かった、と大真面目に頷く高杉だった。兄弟子の言う事は素直に聞くんだろうか。素直に聞きすぎて空回りそうな予感があるけどな。まあ、だからそこは銀さんが上手く作用するのかな。
「ていうか君たちって今なにやってるの?」
「俺は松陽先生の助手をやっています。晋助は、国のトップにいる馬鹿が馬鹿をやらかさないか監視しているようで」
「あーそういう」
要するに桂さんを裏方でサポートしているらしい。春雨とも一橋派ともパイプがあるしね。もしかしたら一番大変な立場なのかもしれない。
「……ん?」
その時、ノイズが聞こえた。近くの高層ビルのモニターからだ。
これは──電波ジャックの気配!
『ハハハハ聞くがいい愚かな地球人どもよ! 天導衆なき今、新たに江戸を統べるはこの──』
そこには扇を構えた悪女の顔が映っていた。アレ、華陀様じゃん。
すると再び映像がザッピングした。
『た、ただいま速報が入りました!! 内閣総理大臣ドナルドヅランプ氏が……別邸で反政府組織と交戦、死亡したとの事です……!』
……うおっ、なんか死んでる……
流石に遺体が映った場面までは放映されていないが、ニュースの絵面は見たことがあった。原作版二年篇でもあった桂さんの偽装暗殺ニュースだ。
「アレ? 今日ってなんかイベントあったっけ」
「そういえば近頃、アルタナ保全協会の後を引き継いだ組織内で不穏な動きがあるという陰謀論がニュースでやっていましたね」
そうなのー?
『こちら中継です! 江戸の町でただ今、「アルタナ解放軍」と名乗る怪しい装束の集団が出現しています! 同組織はターミナル爆破を予告しており──、あっ、いました! 何かを追いかけているようです、あれは……人!?』
『今こそ我らが教祖を取り戻す時! アルタナを解放し、この聖地を桃源郷へと導かん──!』
『うわぁ、典型的な狂信者集団のようです! 追われているのは……彼らの教祖なんでしょうか!? ああっ、凄い身体能力! 逃げる逃げる逃げる! 一体、解放軍とはどんな関係なんでしょうか!』
「……あれって松陽と彼方じゃない?」
生中継のカメラ映像には、江戸の屋根から屋根へと跳躍して逃走している松陽と、そんな彼に姫抱っこされて運ばれている彼方が映っていた。
『どうして!! 良い所で!! いつも邪魔が入るんですかッ!!』
『がんばれ
『ウアアアァァ──!!』
脳を焼かれながらそれでも全力逃亡していた。あいつ忙しいな。
ドカン、とどこからか爆発音が聞こえてくる。どうやら近場で追いかけっこしているようだ。
「さっきの辰羅族、先生のお知り合いで?」
「まぁねー。やっぱまだ懲りてなかったかぁ。でも丁度いいかもね。桂さんの強硬改革で生まれた反発や軋轢もアレで浄化されるだろうし、解放軍も今の保全協会の威信を示すために使えるだろうし」
「……、どこから計算の内です?」
「はははは」
すまんね華陀様。生き残ってくれたからには全力で利用させてもらいますよ?
まぁもし向こうが勝っちゃったら、囚われの吉田夫婦でジェネリック二年後篇スタートかもだけど。
「おい、兄弟子」
「今、小太郎と連絡がついた──どうやらあいつなりの最後の仕事らしい。ターミナルを占拠する手勢の方に援軍が欲しいと」
そこで朧の視線が向けられるので、軽く片手を挙げて頷く。
「オッケーオッケー。あっちの私たちはこっちでなんとかするよ」
「助かります」
「馬鹿がもう先に飛びついてたら囮にでもして上手く使ってやれ」
銀さんのことかなぁ、と高杉の言葉に思っていると、そこで朧と共に頷き、彼らはターミナルの方へと走り出して行った。
私たちも行くべき方へと行く。
「先生」
「よろしくー」
虚に片腕で抱きかかえられる形となり、瞬間、江戸の景色が流れ始める。
弟子タクシー早ぁい。
あっという間に騒ぎの起きている中心が見えてきて、そこでは解放軍の天人に囲まれた万事屋が、真選組と背中合わせになって戦っていた。あそこだけ完結篇か?
「──この程度の敵勢に手こずるとは」
「!?」
「人間もまだまだだねぇー」
虚の言葉に彼らが顔を上げる中、瞬きの内に天人の多勢が斬り伏せられていく。
そんな弟子の言葉を引き継ぎつつ、私も軽くアルタナ干渉して、彼の攻撃範囲外の敵軍を吹っ飛ばしてやる。
「お前ら……!」
「あーあー、よりにもよってボスキャラがいる日にテロ活動とは、こいつらも運がない」
銀さんの反応や沖田の言葉に笑いつつ、で、と半身のいる気配の方へ顔を向ける。
「今どんな感じ?」
「松陽さんが彼方さんを抱えて全力逃亡中です! あ、あの人、すっごい足速いですね!?」
新八からの報告に、成程、と虚が言葉を発した。
「鬼ごっこ、というわけですか。あの男らしい怠慢です。自分はともかく、連れ合いに人を斬らせない決意は一人前のようだ」
「じゃ、困ってる自分たちを助けに行ってやろうか。というわけで先行くねー」
再び、立ち上がり始めた解放軍を真っ向から斬り伏せながら、虚の疾走が開始する。
だがそれに追いすがってくる影がある。
「おいコラ待ちやがれ!! てめーらが暴れると被害が増えるんだよ!!」
銀さんだった。不死者の脚力に追いついてくるとか、やはり大概人間離れしている。それに追随しているのは、定春に乗った神楽ちゃんと新八だ。
「わんっ」
「む、獣風情が私と並ぶとは──」
「ウチの犬ナメんな。っつーか俺も乗せろお前ら!!」
「定員オーバーネ。きびきび走れよ男ども」
「ところで私は今この場で、定春くんのおやつを無から生成することができます」
「やめてくださいよソラさんっ!? 僕たちの進路変えようとしないで!?」
あはははは、と笑い声をあげる。
敵が向かってくる。銀さんが切り込み、続いた虚が鮮やかに蹴散らし、神楽ちゃんの傘による銃撃や、新八の木刀によって、起き上がろうとする残党が沈黙していく。私はそんな彼らの探知範囲外である狙撃や奇襲兵を潰して、滞りない進行を手助けする。
「いやぁ、楽しいなぁ」
誰に届くでもなく、そんな呟きが戦火の中に溶けていく。
騒がしい。馬鹿みたいに目が廻るほど忙しく、いつまでも終わらない祭りのようだ。
この銀色に煌く世界は、こうでなきゃ。
「あっ、いた松陽ォ! 待ちやがれェェェェ!!」
「もうどっちが味方なんだろうこれ」
「敵も味方も万事屋の名の元に叩き伏せるアル」
「やれやれ、野蛮ですね人類は」
「あははははっ。頑張れ、頑張れー」
走って、進んで、足止めくらって、また前へ。
燦然とした日々は、そう簡単に終わりゃしない。
こんな道楽が続く桃源郷が他のどこにある?
彼らのバカ騒ぎがずっと続けばいいと──そう思った。