全ては誰かの笑顔のために   作:桐生 乱桐(アジフライ)

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短めですが区切りがいいかなと思ったので


#77 追跡封じ(ルートディスターブ)

鏡祢アラタの視線の先で、いきなり金髪の女が角を曲がった

 

「気取られたか」

 

当麻にGPS使用コードのメールを送るとアラタも速度を上げて金髪の女を追いかける

恐らく当麻はこのことを土御門に連絡しているはずだ

いざとなったら緑で追えればいいが正直あれは誰かを探すのには向いていない

そんなわけでフィジカルで追いかけて見失わないようにしないといけない

当麻ならさっきのメールに気づいてくれると信じて今は足を動かす

しかしデカい看板を持ってる割にかなり素早い

視線は彼女に集中はするが、一点に集中してると流石に段差すらド忘れしそうになる

それでも転ばなかったのはひとえに経験のたまものか

走っていると横合いの路地から見慣れた連中が現れた

当麻と土御門、そしてステイルの三人だ

GPSからルートを逆算して先回りしてきたのだろう

 

「カガミン、そいつはどこだ」

「あの金髪の女だ、デカい看板みたいなの持ってるし、確率高いんじゃないのか」

 

アラタが指をさすとすかさずステイルと土御門が同時に走りだし、当麻とアラタを置き去りにした

恐らくここからはプロの仕事だということなのだろうが、ここまで来て無関係ではいられないのでアラタと当麻も急いで追いかける

 

 

(…しつこいわね)

 

走りながら視線を後ろに向けて、オリアナは内心で舌を打つ

五十メートルくらい離れてるが、逆に言えば離れてるだけだ

角を曲がったり迷いやすい小道を何回も使って見失うよう仕向けてきたのに効果がない

〝看板を持った塗装業者〟というのは仕事をしているイメージを植え付ける

看板が無かったら休憩中だと思うだろうが流石にこの荷物を持ってる状態では流石に声はかけられるだろう

説明を求められても言葉に詰まる上に、何回も振り切っては逆に目立つ

とはいっても裏口とかだと専用のIDとかが必要になるし、ゆえに外の道を使うしかない、というこの状況も撒きづらい原因にはなっているのだろうが

 

(っていうか増えてる。あの赤い髪の坊やと金髪の坊やはプロね)

 

いつの間にか一人から四人になってる

最初の一人はまぁまぁな尾行だったが、赤毛と金髪の二人が来てから追跡の精度が跳ね上がってる

こっちの心理を先読みし、逃走パターンを読んでいるのだろう

 

(少し苦しいけど、あそこを通るのが安全かしら)

 

 

「んー? 考えが変わったか? なんか行動パターンがズレてるにゃー」

 

一番足が速いのが土御門で、その次がアラタであり、その後ろをステイルと当麻がおんなじくらいの速度で追従する

元々走っていたアラタが土御門について行ってるのが流石普段から身体を動かしてるだけあるというべきか

やがてたどり着いたのは自立ユニットのバスを整備するための場だった

整備場とでもいうべきか、今現在学園都市を走っているのは無人の自立バスだ

そんなバスたちも補給や整備の時は持ち場を開けないといけないので、三台体制で都市を走っているはずだ

無人回送バスが整備場に入っていく傍ら、土御門が整備場へ足を踏み入れた瞬間、轟ッ! と青白い炎が天井から降り注いできた

 

「! トラップでこっちを妨害する方向にシフトしたか! 伏せろ、カガミン、カミやんっ!」

「何を言ってる。これこそこいつの出番だろう」

 

土御門が当麻を庇おうとした刹那、ステイルが当麻の首根っこを掴んでトラップの方へぶん投げた

当麻がハッと見上げればそこにはギロチンみたいに降りかかる青い炎が迫っていた

 

「おま!? ざっけんなっ!!」

 

慌てて拳を突き出しその炎を打ち消す

ステイルはタバコを吹かしながら

 

「我ながらいい連携だ。役割分担ができているというのはわかりやすい」

「まあああいう異能に特攻だからな、お前」

 

アラタもステイルの横でうんうんと頷いている

 

「お、お前な…!」

「当麻、まだ来るぞ」

 

アラタに言われ、当麻は咄嗟に右手を突き出し、襲い来る魔術のいろいろを打ち消していった

そんな中ステイルと土御門は自立バスを壁代わりにするためにそれぞれ左右に跳ぶ

当麻は土御門側に行ったので、アラタはステイル側に

 

「ステイルは、ルーンのカード張り付けて待機してくれにゃー。こっちは運び屋を押さえる」

「了解した」

「カミやんとカガミンはどうする? 俺らとしちゃあ残ってもらった方が安全だが…」

「今更だろ。俺は行く。当麻は?」

「僕としても残ってくれるとありがたい。最も、君ではなく僕の安全だが」

 

不良神父十四歳に言われ苦虫をかみつぶした顔をした当麻は結局一緒に行くことにした

そんなわけで三人はそれぞれバスの陰から飛び出し、相手の逃げた方向へと走り出す

その間、こちらの動きを阻害するようにトラップの魔術が襲いかかってくる

 

その度に当麻の右手で破壊できるものは破壊していくが、これが時間稼ぎなのは明白

全部をいちいち相手にしては逃げ切られる

だから速度を上げて物理的に振り切ることにした

やがて整備場を抜けた先、長い金髪の女が見えた

 

「いたぞ」

 

アラタが呟いた途端、こちらの道を遮るように横一線に地面が大きく盛り上がる

高さ約五メートルとなったその土壁はそのまま雪崩のように向かってくる

 

「カミやん、頼んだ!」

 

土御門の言葉に当麻は走り出す

流石にビビるが泣き言なんて言ってられない

そのまま壁の根本の方に突っ込むとそのまま右手を打ち付ける

バギン、という音と共に土壁は砕け散った…が、金髪の女の姿はない

自立バスを洗車する機械の壁に一枚の単語帳の紙が張り付けられているだけだ

 

アラタは周囲を見回す

離れた位置にあるマンホールの蓋は開けられ、ビルのガラスも割れている

そして裏口の扉も開けっ放しだ…カモフラージュだろう、これでは逃走ルートがわからない

 

「…追跡封じ(ルートディスターブ)のオリアナ・トムソンか…ふざけやがって」

 

紙を引っぺがしつつ、苛立ちを隠さず土御門がそう呟く

どうやら状況は、思ったよりも悪い方に転がっているらしい

 

 

(さて。上手く撒けたかしら)

 

ちらりと何度か後ろを振り返りつつ、オリアナは表の道を歩いていた

追手の姿が見えなくなった時点でオリアナは走るのを止めて道を歩いていた

向こうが見失ったのなら、追われるよりまた見つからないことの方が大事だからだ

とはいえ気になりはするので何度かちらちらと後ろを確認しつつ

 

(…やっぱり次の手を打っておいた方がいいかしらね)

 

これで終わるとは思えないし念には念を、という言葉がこの極東には存在している

 

(その為に仕込みもしていたし───ね)

 

小さくオリアナは微笑んで、道を歩くのだった

 

◇◇◇

 

人払いはされてるとはいえ、油断はできない

とりあえず特定をステイルや土御門らのプロに任せ、アラタは周囲を警戒している

やれやれ、なんて厄日だと空を仰ぎ見ながらそんなことを胸中で呟いた

個人としては珍しく平和で過ごせそうだと思ったのに

シャットアウラやアリサは楽しく過ごせてるだろうか、最も今回の二人は観客だが、雰囲気だけでも楽しんでくれてると幸いなのだが

ちらりとステイルらの様子をうかがう

問題はなさそうだな───そう思った時だった

 

「ご、が、ああぁぁぁぁぁぁつ!!」

 

不意にステイルが身体を九の字に折り曲げてそんな叫び声をあげた

それと同時に使おうとしていた魔術の陣とかが破壊され、ステイルの身体からべきべきべき、と嫌な音が聞こえてくる

 

「単なるラップ音だカミやん! ステイルを殴れ、たぶんそれで止まる!」

「お、おおっ!」

 

土御門に言われて当麻はステイルの背中をぶっ叩いた

恐らく早さ優先で実行したから結構強めな音がする

アラタも駆け寄って

 

「どうした! 何があった!」

「なん、だ…? 今のは…。逆探知の防御術式の、一種か…!?」

 

ぜぇはぁと肩で息をしながらステイルがゆっくりと息を整える

叫びからすると結構痛そうではあったが

それに応えたのは土御門だ

 

「いんや、そんな痕跡はないぜ。…おそらくステイル個人の魔力に反応して勝手に発動するような迎撃術式が組まれていたんだろうさ」

「そんなんもできるのかよ。つまり、ステイルはもうオリアナに向かって魔術は使えないって感じか?」

「厄介なものを組まれたものだ…」

 

まだ疲弊はあるだろうが、当麻の言葉を適当に聞きながし、ステイルはその辺に腰かけて、たばこを咥える

 

「生身一つで生命力の探知に解析、逆算に応用、迎撃までこなすとは。流石は追跡封じ(ルート・ディスターブ)

「なんだい、それ。あだ名か何かか?」

「あだ名とはちょっと違うなカガミン。いわば通り名さ、オリアナのな」

 

土御門はインクを紙にしみこませ、その紙で地面に何やら魔法陣のようなものを書き始める

ここら辺は素人ではわからないプロの仕事なのだろう

 

「とはいえ、この人間味のないやり口。どこかで見覚えがあるんだけど。…あれと同じものを持ってるとは思えないし」

「いんや、俺も同じことを思ってたところだぜ」

「本気かい? なら、奴は魔導士ということになる」

「さっきから専門用語だけで会話しないでくれよ、俺と当麻がてんてこまいだ」

 

アラタの言葉に、陣を描くのを一度ストップして土御門が答える

 

「魔術に関する知識を詰め込まれ、それらが術者の意志に寄らず、一つの魔法陣として起動するもの…すなわち、魔導書の原典だ」

「しかし、状況に合わせて魔導書を作るだなんて」

「つっても走り書きだ。限定された効果があるだけで、すぐに壊れるはずさ」

「…速記原典(ショートハンド)といった感じか」

「…それで、結局どうすりゃいいんだよ」

 

当麻が言った

結局のところそれである

このまま手をこまねいてるなどとは、土御門の様子を察するにないのだろうが…

 

「まずは、邪魔してる迎撃術式を破壊してステイルの魔術を使えるようにする」

「それをしてる間に逃げられる可能性は?」

「速攻で逃げ切れるなら、わざわざ迎撃術式なんて組まないと思わないか?」

 

ふむ、とステイルが煙を吐きながら短く息を吐く

今もどこかでうろついているのだろうが…

 

「ステイル、なんでもいいから魔術を使え」

 

土御門の無情な宣告

当麻が息を飲むのを尻目に、彼は魔方陣をまた描いていく

いや、魔法陣というよりはそれは単なる円だった

 

「占術円陣。誰の魔力も通ってない、未使用の魔法陣だ。こいつは迎撃術式の魔力に反応して、方角や距離を導き出してくれる」

「なるほど。でも、一回で割り出せるのか元春」

「うんにゃ。だからわかるまで、ステイルには魔術を〝何回でも使ってもらう〟」

「お、おいっ! そんなのっ!」

「構わないよ、それで行こう」

 

当麻の叫びを無視し、ステイルが立ち上がった

まぁ当麻の性格なら抗議するだろうな、とアラタは考えていたし、ステイルもそれを察してはいるのだろう

ステイルは土御門の描いた円の中に入り、ルーンのカードを握りしめて

 

「…上条当麻。僕はこの場に君がいることが気に食わない。あの子が顔を曇らせたら、それは全部君のせいだろうが」

 

揺るぎのない声色で、ステイルはそう当麻に言った

そして今度は土御門へ

 

「土御門、何があっても迎撃術式の場所を突き止めろ。この問題は僕たちだけで片を付ける。これ以上の大きな問題には発展させない、わかったな」

「おーけー。インデックスの学園都市での生活は必ず守る。それが条件だったな」

 

そしてルーンの炎が迸ると同時、迎撃術式が発動する

絶叫がこだまする、誰かが倒れ、悶えている

それが、ステイル・マグヌスの生きざまで、生き方だから

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