深遠なる迷宮   作:風鈴@夢幻の残響

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Phase107:「不撓」

 一度フェイト達とアルトリアを返して再召還した後、あの後どうなったのか気になって、『第三層』を探索している時だった。

 脳裏に『メッセージ』が届いた感覚が有り、フェイト達に断ってその場で確認させてもらうと、弥生からのものだった。

 昨日、一昨日と早めの時間にこちらから連絡は送っていたのだが、その返事が今来たというところか。そして中を見手読み進めていくと、不意にフェイトに手を引かれて中断する。

 どうした? と声を掛ける前に、「葉月、大丈夫?」と先に問われた。

 

「何だか、凄く難しい顔してる。何が書いてあったの?」

「あー……そんな顔してたか。……弥生からだったんだけど、凄い謝られてさ」

「謝るって、どうして?」

 

 当然の疑問だよなと思いながら、もう一度文面に目を通し──やはり、自分で表情が険しくなってるのが感じられて、思わず眉間を揉んだ。

 

「……『私がこの世界に喚ばれたせいで、兄さんを巻き込んでしまってごめんなさい』、だとさ」

 

 ホント、何バカなこと言ってるんだろうな。

 と、今度はなのはが、フェイトと反対の手を握って、真剣な眼差しで見上げてくる。

 

「葉月さんは、その、そんな風には思ってないんだよね?」

 

 なのはの問いに「もちろん、思ってる訳がない」と答えると、彼女は「だったら……」と促してくる。

 うん、なのはの言いたいことは解っているつもりだ。

 フェイトとアルトリアにも時間を貰えるように頼むともちろんと頷いてくれたので、その場で弥生に「出来るだけ早く直接会って話したい」と『メッセージ』を送る……と、今度は然程間を置くことなく「今からでも良い?」と返事が返ってきた。

 それから幾度かやり取りをして、今現在俺達が『第三層』に居ることから、ここの入り口である神殿へと弥生が来ることになったので、俺達もそこへと向かった。

 

 幾度かの戦闘を経て神殿に着くと、弥生は既に来ていたらしく、出入り口から出たすぐのところで所在なげに立っていた。

 と、こちらに気付いた弥生が、慌てたように駆け寄って来て──「ごめんなさい」と、目の前に来てすぐに頭を下げる。

 「弥生」と声を掛けるとビクリと肩を振るわせたので、頭に手をやってわざと乱暴に撫でてやり、顔を上げさせる。随分と思い詰めたのか、大分憔悴した様子がうかがえた。

 

「何謝ってるんだよ。俺には別に、弥生に謝られることをされた覚えはないぞ?」

「だって、お兄ちゃん(・・・・・)がここに来ちゃったのは、私のせいで……なのに、全部、おに、お兄ちゃんに、押しつけることになっ……」

 

 途中から声を震わせて、とうとう言葉に詰まった弥生は、ボロボロと涙を流してしゃくり上げた。

 抱き締めて、あやすように背中をポンポンと叩いてやると、胸に顔を押しつけて声を抑えるように泣く弥生。

 

「弥生のせいなんかじゃない」

 

 そう言っても「でも」と言いつのろうとする弥生を遮って、「それに、弥生だってここに来たくて来たわけじゃないだろ?」と問えば、何度も何度も頷いて。

 それでもやはり「ごめんなさい」と謝って泣き続ける弥生をなだめて「大丈夫だって言ってるだろ、心配するな」と声を掛けると、涙で濡れた顔を上げた。

 頬をぬぐってやり、安心させるように笑いかける。

 

敵の親玉(アーサリア)なんてぶっ飛ばして、弥生は俺が必ず、父さん達の所に帰してみせるから」

 

 そう言うと、弥生は一瞬驚いたように目を見開いてから、また泣き出しそうに顔を歪ませて──堪えるように唇を噛みしめ、もう一度抱きついて、強く抱き締めてきた。

 

「私も、がんばる、から。だから、お兄ちゃんも一緒に……絶対、一緒に帰ろうね……?」

 

 懇願するような、絞り出すような、決意するような弥生の言葉に「それ(・・)を行った時、元の世界との繋がりは途切れる」とグライスフィードに言われたことが頭を過ぎり、一瞬言葉に詰まる。

 それによって、何が起こるのかは解らない。単に元の世界に戻されずに、自力で帰る手段を捜さねばならなくなるのか。それとも、もっと辛い結末が待っているのか。

 ──けど、それがどうした。そんなことで元の世界に帰ることを諦めてたまるものか。

 

「……そうだな。一緒に帰ろうな」

 

 だけど、弥生も感じ取るものがあったのだろうか。もう一度だけ「ごめんなさい」と呟いて顔を上げる。……不安げな表情に、胸が詰まる。

 ……胸を張ろう。見栄でも、虚勢でも、強がりでもなんでもいい。情けない姿なんて、見せてたまるか。

 

「──いいよ。だって俺は、弥生のお兄ちゃんだからな」

 

 

◇◆◇

 

 

 少し離れたところで、なのはとアルトリアと一緒に二人の様子を見ていたフェイトは、葉月が発した言葉を耳にした瞬間、小さく肩を震わせた。

 フェイトの頭の中に、かつてまだ『闇の書の意志』であった頃のリインフォースが彼女に見せた夢の世界で、お姉ちゃん(アリシア)に掛けられた言葉が過ぎる。

 

 ──だって私は、フェイトのお姉ちゃんだもん。

 

 その言葉にどれほどの思いが詰まっているのだろうか。どれだけの決意が籠められているのだろうか。そして、その言葉の直後に夢の世界(じぶんのなか)に溶けていったアリシアを幻視して──涙が一筋、流れて落ちた。

 

 

◇◆◇

 

 

 その後は、比較的冷静さを取り戻した弥生が、思い切り素を見せてしまったことに、改めて慌てたり恥ずかしがったりした後で、もう一度だけ確りと言い聞かせておく。

 弥生のことは怒ったり責めたりなんてしない。そもそも弥生のせいなんかじゃない。それに、俺にとってこの世界に来たことは、何も悪いことばかりではなかったんだと。

 

「……兄さん(・・・)にとって、この世界に来て良かったことって、なんですか?」

 

 口調を戻してしまったことに若干の寂しさを覚え、別に取り繕わなくて良いんだぞ? と言うと、赤くなってポカリと叩いてくる弥生に苦笑しつつ、答えを返す。

 

「決まってるだろ……人との出逢い、だよ」

 

 それだけは間違いなく、この世界に来て手に入れた、とても大切なものだ。

 

 

……

 

 

「それ、多分だけど私の影響だと思うわ」

 

 弥生と話をした日の翌日、咲夜から『連鎖召喚(チェイン・サモン)』で喚んだレミリアに、一昨日グライスフィードに聞いた【スキル】の成長と習得速度に関することを話すと、至極アッサリとそう言った。

 もしかしたらそうじゃないかとは思って居たけど、本当にそうなのか……けどなぜそんなことに? そう訊くと、レミリアは「今言ったように、あくまでも“多分”。確証ではないわ」と前置きし、

 

「簡単に言えば、私が貴方に喚ばれるように、私自身の運命を弄ってねじ曲げた反動……かしらね」

 

 そんなことをのたまった。

 ……てっきり咲夜からの『連鎖召喚』で喚ばれるようになるために、咲夜の運命を操作したとかかと思いきや……まさか自分の運命を弄っていたとは。

 

「あれ? ですけどお嬢様、以前私の運命も“ねじ曲がっている”って言いませんでしたか?」

「言ったわね。今もしっかりねじ曲がっているから、安心なさい」

 

 それは安心していいものなのだろうか……という思いは置いておいて、咲夜の言いたいことはなんとなく解る。彼女を喚んだ時は、ここまで明確な違和感を覚えるような影響は無かったので、そこから行くと今回のこともレミリアの影響とは一概に言えないのではないか、と言うことだろう。

 レミリアにとっても織り込み済みの疑問なのだろう、俺が考えたことと同じことを述べて、「そう言うことでしょ?」と訊いてくる。

 それに対して頷く俺達に、「まだまだね」と言うように軽く肩を竦めるレミリア。

 

「簡単なことよ。咲夜の場合は自然に歪んで、私の場合は無理矢理歪ませたから。ようするに咲夜の召喚はこの世界が望んで、それに沿うように行われたもの。一方で私は……恐らく普通にいけば、私が喚ばれるようになったのはもっと後か、最悪本来喚ばれないかだったのでしょうね、甚だ業腹だけど。けれど私はそれを良しとせず、自らの手で自らの運命をねじ曲げて、この世界に喚ばれるようにしてみせた」

「……真っ直ぐなものを無理矢理曲げれば、その分反動も大きくなる、か」

 

 レミリアの解説になるほどと頷く俺達に、「先に言ったように、あくまでも予想で想像でしかないけれど、まぁそういうことよ」と言葉を締めた。

 

「それはそれとして、期限までの間に私を喚んでいる時は、迷宮とやらに出たいのだけど」

 

 一通りの話が終わったところで、レミリアがそう言ってニコリと笑う。

 俺が何と答えるのか、試しているのか楽しんでいるのか、それともその両方か。そんな表情だ。

 ……あの話し合いには彼女も居て「今必要な行動」は彼女も把握しているのは間違いなくて──その上での発言の意図を……って、考えるまでもないか。

 それこそこの前召喚出来るようなったばかりのレミリアは、「迷宮とやら」には安全になった『廃都ルディエント』にしか行っていないのだ。

 

「そうだな。レミリアの実際の攻撃方法の把握と……咲夜が大丈夫だから問題無いとは思うけれど、レミリアの攻撃がこの迷宮の敵にどれぐらい効くかも、ちゃんと確認しておいた方が良いよな」

 

 正直、自分のみならず“こちらの世界”にまで影響を及ぼすような『能力』を使える時点で、レミリアの実力を疑う余地はないから心配はしていないが。まあ、それはそれ、と言うヤツだろう。

 

「よろしい。ま、私が退屈だからっていうのもあるのは否定しないけれど」

 

 「お嬢様、それを言ったら台無しです」とツッコム咲夜に、コホンと咳払いをして誤魔化すレミリア。仲の良い主従コンビである。

 

「さて、それじゃあリクエストをしても良いかしら?」

「リクエスト……行き先の?」

「ええ……って、そんな警戒しなくても大丈夫よ、無茶を言うつもりはないから。単純に、貴方が私と出逢うまでに歩んだ道筋を辿ってみたいというだけ」

 

 そう言って「それじゃ、よろしくね」と笑うレミリアに「了解」と返して──そんな訳で、この日の召喚では『第一層』と『第二層』を巡り、敵はレミリアがほぼほぼ鎧袖一触で倒して行った。

 やっぱり凄いわ、彼女。

 

 

……

 

 

 翌日、フェイトを召喚して初めに目に飛び込んできたのは『赤色』だった。

 鮮やかな桜の柄が施された、鮮やかな赤。

 髪型はいつものツインテールではなく、結い上げて赤い牡丹の花を模した簪で留められていて、いつもよりも大人っぽさが感じられる。

 ……とても綺麗な振り袖姿だった。

 思わず見惚れて「おぉ……」と感嘆を漏らしてしまったところで、フェイトが「どう、かな?」と若干緊張気味に問いかけて来た。

 

「ん、すごく綺麗だよ」

 

 スルリと素直な感想が口から滑り出た。

 と、口にしてから自分の語彙力の無さに少し凹み……あれ、振り袖?

 ふと疑問に思ったところで、フェイトが手を差し出してきて「ほら、早くなのはとはやても」と促してきたので、取り敢えず疑問は置いておいて二人を喚び出して──現れた二人もやはり振り袖姿だった。

 なのはは白地にピンク色で梅と……桃かな? 花柄があしらわれた振り袖で、フェイトと色違いでお揃いの、淡いピンク色の牡丹の簪。

 はやての振り袖は、明るい緑地に色取り取りな菊の柄。

 

「……そうか、もしかしなくても今日は正月か」

 

 はやてからリインフォースを『連鎖召喚(チェイン・サモン)』しつつ確認してみると、「ひょっとして気がついてなかった?」となのはが訊いてきたので頷いて。

 

「うん、正直さっぱり」

「あはは、まぁここやと季節感無さそうやしねぇ」

 

 少し考えればついこの間──『第三層』での大侵攻の日が『闇の書の闇』との戦い……クリスマスイブであることは確認していたのだから、計算すればすぐに解ることなんだけど、カレンダーのような日付を確認できるものが無いせいか、その辺は疎かになっているのは否めない。……気にしたところで仕方がない、という思いもあるのは確かだし。

 ちなみに、先にリインフォースを喚ぶのを優先したので後回しにしていたが、はやての手の中……というか車椅子に座っている膝の上というかには、三重になった重箱が鎮座している。

 「ところでそれは?」と訊いてみると「気になる?」と楽しげな声音で問いかけてきたので頷くと、「予想はついとると思うけどな」と言いながら、テーブルの近くへ移動して、その上に蓋を開けて広げるはやて。

 「おおー」と思わず感嘆の声が漏れてしまうような、見事なお節料理だった。

 

「フェイトちゃんに聞いたんやけど、こうやって“こっち”に持ってきても、“あっち”にある方が無くなるわけやないんは便利やね」

 

 ……っていうかこれ、恐らくヴォルケンリッターの皆のために作ったんだろう。はやてが言ったように、あちらの方に有るものが無くなると言う訳ではないのだけど、他の人のために作られたものを頂くというのはいささか気が引ける。

 ……なんて考えが顔にでてしまっていたのか「葉月さん達にも食べてもらいたくて作ったんよ。沢山あるし、アルトリアさんや咲夜さん達も喚んで、遠慮せんと食べてなー」と朗らかに笑って言われてしまった。

 そう言うことなら遠慮なく。なお、お味はとても美味しかったです。あと、アルトリアがはやてにめっちゃ感謝していた。

 

 

……

 

 

 その翌日、決戦の日を二日後に控えた日。それまでに出来上がった分の『蓄魔石』を先に『神眼』長良さんへと渡した。

 その際に聞いた話では、どうやら戦力が思ったよりも集まっていないらしい。

 と言うのも、もともと前提とする条件が厳しいのも有るが、『第四層』が解放された矢先に、実力者であった『神速』のパーティが壊滅したという事実が、二の足を踏ませている一番の原因らしい。

 『第四層』で“気付く”まで俺達がそうだったように、恐らく他の人達には未だに『第四層』への警戒心を薄れさせる思考誘導による認識改変の影響が残っているだろうに、それを恐怖心が上回ったか。……まぁ誰だって死ぬのは怖い思うだろうし、仕方無いと言えば仕方無いか。

 

 ……とは言え、敵の眷属を通す訳には行かない以上、防衛戦力の低下は好ましくない。……俺達も動き方を考えた方がいいだろうか。相談してみよう。

 

 ──そして二日後、とうとう戦いの日が訪れる。

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