ある作品とのクロスオーバーです。
読んでけば何の作品とクロスしているのかがわかると思います。
時系列が原作開始前なので、楯無さんは出ませんので、ご了承ください。
それでは、どうぞ
「こんにちは」
頭上からかけられた声に、彼は読んでいた本から目を離し、上を見上げる。そこには、姉と同じくらいの年齢であろう少女が、こちらの様子に興味津々といった感じで彼のことを見下ろしている。
彼からすれば、その少女の容姿は、浮世離れしているように思えた。
――姉と同じく、セーラー服を着ているにも関わらず。
「……何か用」
彼は、鬱陶しそうな表情のまま、その少女に言葉を投げかける。そんな様子を知ってか知らずか――それとも、意図的に無視をしているのか、少女は気にせずに言葉を口に出す。
「難しそうな本を読んでるね」
少女の興味は、どうやら彼が持っている本に向いているようだ。
彼が持っているのは、何のことはない、ただの小説だ。だが、彼のような子どもが読むには、まだ早いような代物である。
「どうでもいいだろ」
そう言って、彼は本に目を戻した。まるで、自分と関わるなと言わんばかりに。
しかし、少女は彼の前に立ったまま、離れない。そして、自身の顔に貼り付けた笑みを深いものにした。
「そっか、そっか」
少女は、一人で何かに納得しているようだ。そんな少女の様子に、興味ないと言わんばかりに、彼は読書に没頭する。
だが、少女から放たれた言葉で、それも叶わなくなる。
君は、わたしと同じ、世界に自分をあげたくない人間なんだね。
その言葉に反応するかのように、彼は頭を上げ、少女を凝視する。その目は見開かれ、表情は驚愕に染まっていた。
なぜわかった、誰にもわからないように隠していたのに、あの、姉の疎ましい友人にだってバレていないのに、なぜ、今さっき出会ったばかりのお前が、自分の隠していた本性がわかったんだ。
頭の中を駆け巡る疑問の嵐に、彼は揺らぐ。たった一言、それもか弱い少女の言葉で、今まで出会った誰にも揺るがされたことのない平静を保てなくなった。
「うん、私にはわかるよ。あなたの気持ち」
そう言った少女は、そのまましゃがみこみ、彼の頬に手を添える。少女の動きを追って顔を動かしていた彼の目と、少女の目が合う。少女の目は、明らかに日本人のそれではない、青い瞳。
「だって私も同じだもん」
そういった少女の笑みは、ようやく欲しいものを見つけたような、年相応のものだということが、まだ幼い彼の頭でも理解できた。そして、少女は彼の頬に手を添えたまま、口を開く。
「わたしは、わたし。そしてあなたは、あなた」
言葉に合わせて動く少女の唇。その年頃特有の、鈴を鳴らしたような少女の声。彼は少女の全てに飲み込まれ始めていた。否、少女と出会った時点で、既に絡め取られていた。
「――なに、を」
彼の口から、言葉が漏れる。未だに、疑問の嵐が頭の中を荒らし回る。それでも、彼は自分の考えを口にする。
「そんなこと、当たり前だろ」
自分は自分、他人は他人。それこそ、彼が当たり前のことだと信望していることだ。
自分はどこまで行っても自分であり、他人にはなれない。いくら誰かが「あの人のようになれ」といっても、そんなことは無理なのだ。
もしも、他者になれと言われても、全力で拒否するだろう。自分を捨てろと言われているようなものなのだ、反吐が出る。
「そう、当たり前のことだよ」
彼の言葉に、嬉しそうに答える少女。そして、彼の頬から少女の手が離れていく。彼は名残惜しそうに、少女の手を目で追う。
「でもね、この世界に生きる人たちは、そんな当たり前のことができないんだ」
笑みを浮かべたまま、少女は言う。
「他人を思って行動しなさい、とか、あの人には優しくしなさい、とか。誰かの為って言い続けてるの。まるで自分のためであることが悪いことみたいに」
当たり前の優しさは、時として人の首を絞める縄になる。だから、誰かに優しくするのは、それ相応の厳しさを持たなければならない。それは彼があるときふと思った考えだ。与えるだけではなく、奪うことも、大切なのだと。
そのせいで、姉の友人の妹とは、今でも不仲だ。でもそんなことは、彼の中では後悔のうちにも入らない。
それが真実なのだと、それが本来あるべき姿なのだと、彼は信じているからだ。
「うん、決めた」
そう言って、少女は立ち上がる。また最初と同じ、少女が見下ろし、彼が見上げる構図へと戻った。
「ねえ、あなたの名前は?」
そして突然、名前を聞かれた。
「――織斑一夏」
彼――織斑一夏は、自身の名を答える。
そして「あんたは?」と少女に聞いた。
「わたし? わたしの名前は……」
ゆっくりと、少女は自分の名前を答える。
少女らしい唇と、その年頃特有の声色。織斑一夏を虜にしかけたものをそのままに、言葉を紡ぐ。
「御冷ミァハ」
◇
目を開けると、見覚えのある日本語の羅列が、一夏の目に飛び込んできた。
体を起こし、机に置いてある置時計を見る。時針が9と10のちょうど間、分針が6と重なっていることを確認した。
どうやら、うたた寝していたようだ。そう考えた一夏は、机の上に広げていた参考書とノートに目をやる。時事問題という文字が、ひときわ大きく書かれたそのページは、色とりどりのマーカーがそこかしこで踊っている。それだけ、彼が勉強した証でもある。
懐かしい夢を見た。それが、今の一夏の感想だった。
あれから、御冷ミァハには一度もあっていない。しかし、一夏の記憶には残り続けている。本当に、不思議な人だ。夢にまで出てきて、自分を縛り続けている、自分の同類。
音沙汰がないから、今どこで何をやっているのか知るすべはない。だが、きっとどこかで生きていて、自身の生を謳歌しているのだろう。そんな確信が、一夏にはあった。
でも、知っているのは名前だけじゃない。
彼女の感情も、姿も、声も、唇も、言葉も、あの時知ってから、一夏はずっと渇望し続けていた。
たった一度、10分にも満たない邂逅によって、すっかり一夏は彼女の虜になってしまっていた。もう、十年前の出来事なのにだ。忘れることができない。否、忘れることを、自分が許さない。ただそれだけのことなのだ。
まるで、恋人との遠距離恋愛みたいだな。そう考えながら、一夏は静かにため息をつく。
そのようなことを考えていても、時は止まらない。今日はここで切り上げよう。そう考えた一夏は、机の上の参考書とノートを閉じ、鞄の中にしまう。
あまり無理をしないという、姉との数少ない約束を守るためだ。姉は腕っぷしが強いので、あまり逆らわないで、素直に約束を守っていたほうがいいのだ。拳骨されるのは、もう勘弁願いたいと一夏は思っている。
そこで、一夏はふとあることを思い出す。
それは、あの時御冷ミァハと交わした、一つの約束だ。
何故あんな約束をしたのか不思議だった。何故彼女も、自分とそんな約束を交わしたのかも、わからない。読心術なんて持っていない普通の人間なのだ。彼女が何かよからぬことを考えていても、言葉にしてもらわないと自分にはわからない。
だが、自分はその約束を、守ろうと思っている。理由なんてない。自分がしたいから、そうするのだ。
今でも思い出せる、彼女の唇。そこから彼女の声とともに形となった、約束のコトバ。
時が来たら「わたし」をあげる。だから、その時は「あなた」をちょうだい。
◇
『プロポーズでもしたつもりなの』
部屋の中に、女の声が響く。
御冷ミァハは「違うよ」と声の主に向かって答える。彼女の目の前には、小さなスピーカーと、SOUND ONLYと大きくポップアップされたディスプレイのみが置かれた机だけ。
「その先の、婚約のつもり」
『……子供の口約束でしょうに』
女の声が、呆れたような口調になる。声の言うとおり、所詮子供の口約束でしかない。
「それでも、彼は守ってくれる」
絶対に。その確信が、ミァハにはあった。彼は、わたし。わたしの同類。私と同じことを考えてる。あの時も、そして今も。彼はわたしと同じ明日を夢見ている。
『――そう』
女の声は、冷ややかに言う。女にとっては、ミァハの夢想は余りにも荒唐無稽で、かつ絶対に許容できるものではないからだ。名前も知らない彼。そして、その彼を絡め取ったミァハ。全ての行動には、意味が有る。特に、御冷ミァハという存在が為す行動は、女にとって毒にも等しいものだった。
暫しの沈黙が、二人の間に流れた。
「ねえ、トァン」
声の主に、ミァハは声をかける。無邪気に、しかし、無機質な声色で。
『何かしら』
トァンと呼ばれた声の主が、ミァハに聞く。
「やっぱり、こっちに来ない?」
『……言ったはずよ』
明らかな敵意を持って、トァンは答える。
『あなたは、私が見つけ出す』
その言葉と同時に、ディスプレイのポップアップが消え、部屋の中に沈黙が満ちた。
「うん」
ミァハはその中で、一人何かに納得した。それとも、トァンの返答に答えたのか。それは、彼女の心だけが意味をわかっていることなのだ。そして、その意味を知ることが出来る人間など、今この場にはいない。
「わかってる」
そう呟いて、ミァハは部屋にある姿見に目を向ける。そこには、彼女の姿が写っていた。
一夏と初めて会った時と同じ、15歳の時の姿のまま、彼女はそこにいた。
クロスした作品、知っている人いるんだろうか。
WIKIとか使わずにわかる人がいたら僕と握手! じゃなくって……
多分、連載はすると思いますが、本当にネタが尽きた時じゃないと執筆はしないと思います。
なので、続きは気長に待っててくれればいいなぁ…と思っています。
ちなみにこの作品の一夏は、例の3部作の一夏より特殊なので、かなり人を選ぶと思います。
最後になりましたが、ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
よろしければ、感想を送ってくださると、今後の執筆活動の励みとなりますので、よろしくお願いいたします。