大本営第二特務課の日常   作:zero-45

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前回までのあらすじ

 居酒屋鳳翔で繰り広げられるむちむちフェスティボー、そして今年も続く色々諸々、そんな風景が今宵もまた居酒屋で……

 それでは何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。

(※)珍しく活動報告にてアンケ中であります、暇つぶし程度に見て頂けたらという事で何卒。


2018/09/23
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きましたリア10爆発46様、柱島低督様、有難う御座います、大変助かりました。


安牌が危険牌だったという良くある話

「折衝お疲れ様でした、これで漸く地固めが終了して業務開始が可能になりましたね……というより提督にとってはやっと遅いお正月休み開始といった処でしょうか」

 

 

 大坂鎮守府居酒屋鳳翔、正月三が日も過ぎ鎮守府でも通常業務が開始された一月五日、カウンターにはぐったりと突っ伏した吉野の隣で大淀が苦笑を含んだ表情で労いの言葉を掛けている処であった。

 

 大晦日からこの五日までは吉野自身来客への対応と折衝漬けの毎日で睡眠時間以外は殆ど自由時間は無く、また隣の大淀もそのサポートに回って正月気分を満喫する事はおろか、おせちを口にする事すら出来ない状況であった。

 

 その為、ほぼ対応が終了した現在朝一であったものの、鳳翔が二人の為に遅い正月を過ごして貰う為に店を貸切にしておせちを振舞うという場が今ここに出来上がっていた。

 

 

 この数日行っていた折衝というのは事務関係を中心とした諸々の手続き、特に経済界側とのパイプを強固な物とし鎮守府運営を磐石な物としつつも軍内及び政財界からの無用な圧力を減らし、活動の障害を排除する為の総仕上げであった。

 

 

 以前大本営で行われた会談に於いて、大坂鎮守府は所属や処遇に於いて元老院側の要請を突っぱねた形で現在まで至っていた。

 

 基本それは変わらず、しかしその関係を放置するという状態で放置せず、別の形で関係を構築し協力関係を築くというアプローチでこの一年根回しと謀略を展開してきた。

 

 

 先ず元老院側が懸念していた外部からの影響を取り除く為に陸軍と協力し、不穏分子の排除という名目で国外勢力、主に大陸系の組織を徹底的に叩き、そこと繋がっていた団体の弱体化に勤めた。

 

 その影響が弱った段階で大坂鎮守府が持つ技術、特に民生に出回るであろうものを優先的に流すという密約の元、元老院側の有力組織とのパイプを築き、軍の内側では無く外側から大坂鎮守府の足場を固める事に専念した。

 

 具体的には夕張重工名義での技術提携の締結、これにより企業側は自社でその技術由来の製品を生産する事ができ、また製造が困難または技術流出を避けなければいけない物品は、大坂鎮守府の工廠で作成した物を吉野商事名義で提供する事で飴をばら撒き、企業側とのパイプを確立した。

 

 その延長として大坂鎮守府前島に生産コンビナートを建造、その幾らかに政財界から希望してきた企業の工場を誘致、同時に生産時の利便性と安全を保障すると共に関係性の楔として機能させる事に成功した。

 

 そうやって既成事実を先に築き、軍への許可、主に経済活動を認めさせ、大坂鎮守府はめでたく自立した資金と資源を回すに至った。

 

 とどめは各所への物資輸送を敢えて岩川基地へ委託する事により、軍内最大最強の輸送路を利用するという喧伝をすると同時に軍内、主に対立派閥からの横槍を抑制するという嫌らしい関係性を築くに至り、大坂鎮守府は強引に、国内拠点としての存在を認めさせる事に成功した。

 

 

 経済資金の強固な結び付きという形での元老院との関係性の改善、それを背景とした軍内での発言権と安全性の確保と、制約の緩和による独立拠点の活動開始。

 

 

 飴と鞭を巧みに織り交ぜたその関係性は、利害という判り易い線で結ばれ、それを申し訳程度の世間体でコーティングした歪な物として漸く完成するに至った。

 

 

「泉佐野工業団地の最終契約を経団連の者が締結しに来るのは予想してたけど、まさか豊里重工の会長自らその席に着くとかどんだけ力入れてんのって感じだよねぇ」

 

「それだけ本気だぞという事をこちらに見せたかったのでしょう、経団連会長が自ら動いたという事は元老院最高幹部がこの企みに一枚噛んでいるというのと同じですし、我々にとっては嬉しい誤算ではありますけど……」

 

「逆に食い込まれ過ぎて乗っ取られない様にする手間が増えちゃったねぇ」

 

「逆に私としては色々やり易くなった感じがしますね、どうか引き続きこちらの采配はお任せ下さい」

 

 

 経済という魔物を前に臆する処か満面の笑顔を浮かべる黒髪眼鏡、艦娘という戦場にあってこその存在である彼女達の中でもこの大淀という艦娘は異質であり、戦場は海ではなく経済界という先の見えない世界に定めていた。

 

 

「折角仕事が一段落してお正月のやり直しの為に宴を設けましたのに、またお仕事の話ですか?」

 

 

 髭眼帯と黒髪眼鏡の前では湯気が上がる昆布の煮しめの小鉢をカウンターへ出しつつ、鳳翔がわざと頬を膨らませつつ二人の話に待ったを掛けてくる。

 

 今カウンターには重箱こそ無い物の、色とりどりの正月料理が入った小鉢と雑煮の椀がズラっと並んでいる、その脇にはドクペと日本酒、異次元居酒屋ならではの祝い膳がそこにはあった。

 

 

「いやぁ、いろんな意味で全部終わったって状態で、その余韻というか不安というか、それがまぁ……ねぇ」

 

「気持ちも判らなくはないですけど、どこかで割り切らないと提督だけじゃなくて周りも気疲れで碌な事になりませんよ?」

 

 

 女将がドクペが入った容器を差し出すと、それをグラスで迎える髭眼帯という、それが酒を中心としての物ならとてもいい絵として映る物が色々台無し状態のカウンター。

 

 横でそれを見る黒髪眼鏡は熱燗を龍鳳に注いで貰い、彼女にしては珍しく一気に煽るという風景がそこにある。

 

 

 再び酒が注がれた杯をカウンターに置き、一息吐くと視界に入るのは色目も美しい料理の中に、それに負けない程に光を反射する左薬指に嵌った結婚指輪。

 

 

 最初は大本営内で燻り続けていた鬱憤を晴らすと同時に、狭い世界から外へ出たいという欲求から企みを巡らせ大坂へと異動してきた。

 

 次に今まで触れる機会が少なかった現場へ関わりを持つ事で鎮守府運営という総合職に興味が移る様になり、その全てを回す面白さを知る事となった。

 

 更にそれを深く理解する為にのめり込んでみれば、今まで気付かなかった細かな部分が見える様になった。

 

 

 其々の人間関係、立場による葛藤、求める先にある物。

 

 鎮守府に集う者達の内面にはどれ一つ同じ物が無い筈なのに、目指している物は同じと言う不思議、そして鎮守府という物を形として成す其々の要因を紐解いて、一つ一つ理解する段階で必ず目にする共通の物。

 

 そこにあった、驚く事にどんな部分にも吉野三郎という人物の手が隠れる様に入っているという事実。

 

 

 それは膨大で、とても非効率な物としか言えない状態で形を成していた。

 

 

 通常拠点運営というのは其々役目を分担し効率化を図る形で運営されている、長い年月を掛けてそれを確立し、各軍事拠点は今の形で運営されるに至っている。

 

 なのにこの大坂鎮守府はその流れに逆行し、敢えて非効率的な形で作られ、そして今に至っている。

 

 最初は戸惑い、それを修正しなければという思いに駆られたが、ある時この黒髪眼鏡は違和感に気付く、この非効率でとても不恰好な鎮守府の造り。

 

 それは効率を排し、部分的に目を光らせないといけない部分が多過ぎ手間の掛かるという運用は、何かしら問題が発生した場合即座にその部分を切り捨て修正しても体勢に影響が無い形として運用されている。

 

 そして最大の特徴として、何かがあってもそれに関わる者、艦娘に影響が及ぶリスクが出来るだけ少ない様に考えられていた。

 

 一部門で何か問題が発生した場合、それを回していた者が責任を負うというのが当然であり、そうなった場合人員を入れ替え形を修復する、しかし大坂鎮守府では責任者が定められていても、巧妙にリスクや手間が中央に……主に吉野に掛かるという形で構成されている。

 

 一つの部分でそれに気付き、確認してみれば全ての部分でそんな仕組みになっているという念の入れ様、それを確認した時に黒髪眼鏡は呆れ、そして同時に惹きこまれていった。

 

 戦闘指揮と活動という部分を艦娘に全て任せ、己は鎮守府運営と諸々のリスク全てを負う形として作られた組織、通常の軍事拠点とはある意味真逆の形として積み上げられた軍事拠点。

 

 

 それら全てを理解した時黒髪眼鏡は思った、何という無謀で愚かな運営形態である事か、鎮守府は艦娘が多少損耗しても提督という存在が磐石であったなら存在し続けるものであり、それが組織としては当然の運用法である。

 

 しかし末端へ至るまで、全ての人員の損耗を許さず、司令長官としての存在に逃げ道が用意されていないという欠陥体制。

 

 そんな物を垣間見て大淀は理解する、この大坂鎮守府司令長官がいつか言っていた、耳障りが良いだけで現実を知らない者が吐いていると思っていた『皆と共にある』という言葉が、実際に覚悟を決め、既に実行に移された上で語られている物だったという事に。

 

 それは艦娘にとっては責任には問われないという安寧を得る事にはならず、自分の働き一つで己の提督を殺してしまう可能性があるという恐ろしさを内包するという組織運営。

 

 何かあれば誰かが責を負い切り捨てられるという事が無い代わり、誰も彼もが一蓮托生という関係性にある狂った組織。

 

 それを理解した時大淀は吉野の正気を疑い、そしてこの男が平気でそんな体制を作り上げた事に驚愕し、同時にこの男が何かを言う時、それが妄言とも取れる物であればある程本気なのだという気付きたくない部分を理解してしまった。

 

 

 ()が為の鎮守府か、何を思っての組織を作り上げたのかを理解してしまった。

 

 

 理解してしまったが故にカッコカリを受け入れた、それは大淀なりの覚悟の現れであり、一蓮托生という道を受け入れた瞬間であった。

 

 それは義務では無く、理性でも無く、初めて感情を優先してそれ(カッコカリ)をしたという事に大淀は後から気付く。

 

 

 今左手薬指で輝く誓いの指輪、それは軍が定めた仮初の形として存在する物であったとしても、彼女にとって仮初では無くありのままの意味であるというのは誰にも言っていない本心でもある。

 

 

 だから明石に依頼してコストを掛け、意味が無いと判っている装飾を敢えて施したリングを作り上げたのは、彼女なりの拘りと気持ちを込めた物だからであった。

 

 他の者もそうしたリングを発注したのは恐らくそういった理由であったのは間違いないだろう、それが理解できたからこそ大淀は費用面を鎮守府の予算を割いて負担した、それが鎮守府に居る艦娘の総意だと判っていたからである。

 

 

「それで提督」

 

「ん? どしたの?」

 

「今日はちょっと気合を入れてお洒落をしてみたのですが、まだそのご感想を伺っていません」

 

 

 髭眼帯の動きが停止する、今居酒屋のカウンターで杯を煽っている黒髪眼鏡は、俗にいうメイド服である。

 

 

 それは奇をてらった物ではなく、黒と白を基調とした所謂ヴィクトリアンスタイルと呼ばれるそれである。

 

 頭には白いヘッドドレスを乗せて、彼女にしては珍しくポニーテールに纏めた髪を後ろに流し、足元は黒のパンプスで固めた正統派のメイド服姿であった、上半身だけは。

 

 そのスカートの後ろ部分は燕尾服の様な形状になったまま長く二つになって床まで垂れ下がるという特徴的な形をしており、前部分はミニという致命的な部分を除けば彼女に良く似合う仕上がりとなっている。

 

 

 黒髪眼鏡が、燕尾服タイプフロントミニスカメイド服という難解なブツを着て異次元居酒屋にて日本酒を煽っている。

 

 

 見た目ある意味某プ○イガールが燕尾服タイプのバニー衣装を着た風情を彷彿しないでも無いが、それは突っ込んではいけないのだろう、彼女の名誉と己の命の為に。

 

 そんなコメントの選択で色々未来が大きく変わってしまう事が予想される状況、見たままの評論では先ず命が危険であり、褒めると日本酒で酩酊しつつある黒髪眼鏡相手には恐らく別な意味(己の貞操)で危険が予想されるという絶体絶命の危機。

 

 

 前を向きヘルプを呼ぼうと試みるが、女将は後ろを向いて何か料理を準備中という狙ったかの様なスルー姿勢であり、龍鳳を見るとハイライトの消えた目で、落し蓋とオタマを装備したLV.1装備でこちらを威嚇しているという厨房がそこにあった。

 

 視線を隣に戻すと目が据わり口を△にして感想を聞く為に待機中のoh淀という謹賀新年、ある意味ここが基地司令長官である髭眼帯の危機回避能力が問われる場面でもあった。

 

 

「oh淀君……」

 

「はい」

 

 

 そして髭眼帯は何故か笑顔でサムズアップでそれに答え、燕尾服タイプフロントミニスカメイド服の黒髪眼鏡も、取り敢えず笑顔で応えるという訳の判らない絵面(えづら)がそこに展開され、珍しく厨房からは『ヘタレ』という龍鳳の痛烈な言葉が聞こえるというカオスが展開される。

 

 

 結果として喜びの為かヤケになったのかは不明ではあったが大淀の杯を煽るペースが進み、ささやかな謹賀新年の宴は彼女が酔い潰れた時点でお開きとなり、燕尾服タイプフロントミニスカメイド服を着た黒髪眼鏡をおぶって部屋へ運ぶのが髭眼帯新年初の仕事になったという。

 

 

 そしてこの日から数日後、一月の十五日より以前凍結されていたクェゼリン基地からの教導受け入れがスタートするという予定が組まれ、それに向けて準備中だった吉野にある一報が届き、急遽大坂鎮守府で会談が開かれる事になる。

 

 

 訪問者は呉鎮守府司令長官と秘書艦である足柄。

 

 

 この訪問者との会談を切欠に、大坂鎮守府は特殊な立ち位置による活動をしていく事となり、別な意味で軍内部での存在を強固な物としていくのである。

 

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。


それではどうか宜しくお願い致します。
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