大本営第二特務課の日常   作:zero-45

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前回までのあらすじ

 最初の五人と謳われた艦娘達、特別と言われ今も軍で生きる彼女達、そこに隠された始まりの時、と真実が今綴られようとしていた。

 それでは何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。


 今回はパッカルディ様より素敵な絵を二点頂きました、叢雲さんと五月雨さんです、有難う御座います! ( ゚∀゚)o彡°


2018/09/23
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きました結城刹那様、じゃーまん様、鷺ノ宮、有難う御座います、大変助かりました。


吹雪型 五番艦 参

 指揮所の巨大モニターに映る演習風景、やや引いた位置からの映像は苛烈という言葉を形にしたかの如くの有様を映し出していた。

 

 深海棲艦上位個体、強固な装甲を有し戦艦よりも尚強力な戦闘力を有する存在、そんな相手を前に駆逐艦と呼ばれる艦娘が肉薄し、鬼気迫る勢いで攻勢を掛けている。

 

 

 前に出る為に海を蹴れば身の丈を超える水柱が上がり、手にした格闘用の槍を凪げば海が割れる、艦娘という個としては有り得ない程の強さをそこに振り撒いている。

 

【挿絵表示】

 

 

 それは比喩でも無く、その暴力が常軌を逸しているというのは朔夜(防空棲姫)が本気の時に見せる、あの体を包む瘴気が黒く立ち上らせている様が言葉にせずとも『強敵を相手に立ち回っている』と雄弁に語っている。

 

 其々の砲に込められた弾薬は模擬弾ではあったが、それを使用する事は殆ど無く、互いにぶつかり、削り合う様に立ち回る。

 

 

 指揮所に詰めた面々はその様を瞬きをする事も忘れたかの様に目で追い、ただ映されるそれを見て呆気に取られていた。

 

 

「なぁお前達、例えばの話、相手が駆逐や軽巡だけと限定してだ、この日本の周りに展開するヤツら相手に……見渡す限り敵だらけの海をたった五人で開放する事は可能だと思うか?」

 

 

 模擬戦と設定しているにも関わらず、モニターの中に映る二人は当たれば只では済まない打撃の応酬を繰り広げる、そこに見えるのは其々が体に滲ませる朱色、それはペイント液が付着した物とは別の物であった。

 

 

「ここに所属する戦闘力が高い上位五名を選出したとしてだ、あの時の日本の海に抜錨して……制海権を奪取する事は可能なのか? ああ?」

 

 

 朔夜(防空棲姫)の拳を受けても尚吹き飛ぶ事は無く、返す一撃を与えるそれは、駆逐艦という存在では有り得ない様を見せていた。

 

 

「砲が直撃しても掠り傷程度で済んでしまう頑強さ、大破しても入渠すれば分単位で復帰するタフネス、四肢が欠損しても高速修復剤を必要としない再生力、そして今あそこでやってる様に、姫相手にもタメを張れる馬鹿馬鹿しい程の戦闘力、アイツらは基本五人で出撃する事は無い、大抵二人一組でボロボロになるまで戦って、限界が来たら次のコンビに交代する、そんな馬鹿げたローテーションを延々と繰り返してこの日本近海から深海棲艦を駆逐したんだ」

 

 

 朔夜(防空棲姫)が言う現在の日本近海に存在する深海棲艦の数は約四万、まだその海を有象無象が跋扈(ばっこ)していた頃は更にその数は多いと言われている。

 

 戦力差が万を超える狂った海を、たった五人で、延々と、休む事無く二年という月日を重ねて殺し尽くしたという存在。

 

 

「『鉄壁の吹雪』、『対潜の電』、『千里眼漣』、『奇跡の五月雨』、そして『人修羅叢雲』、今あちこちで一線級と言われ恐れられてるヤツらが背負ってる二つ名は、元々アイツらがそう呼ばれていた名残みたいなモンだ」

 

 

 現在『最初の五人』と言われた存在は当時の象徴として、そして日本を滅亡から救ったある意味シンボル的な意味合いで軍に存在している。

 

 それは艦娘のみならず、軍部の殆どの者も功労者的な認識で『特別な存在』という扱いをしているが、当時を知る極一部の者の認識はそれとはまったく別の印象を持っている、深海から()でた異形、それを駆逐し尽し海を取り返した(つわもの)、それと同時に異形よりも尚恐怖の対象として今も心に刻んでいる為に彼女らの事を『特別』という扱で見ている。

 

 故に通る筈の無い無茶に上層部は目を瞑り、主を持たない艦として彼女らに現在も特別を許している。

 

 

「私の前任者はアイツらを人として扱ってきた、でも私はとてもそんな気になれなかったよ、なんせアレだよ? あんなのと平気で付き合うなんざまともな神経の持ち主じゃないね」」

 

「天草女史」

 

「何だい?」

 

「叢雲殿があれだけの力を有しているのに、何故今までそれを抑えていたのだろうか、軍部から何かそういう指示でもあったのか?」

 

 

 モニターの中で未だ踊り続ける二人の姿を眺めつつ、長門が複雑な心境でそう言葉を(こぼ)した。

 

 

 吹雪の後を継ぎ大本営第一艦隊旗艦になった長門型一番艦、彼女は数々の海を渡り戦ってはきた物の、最後は妹を含めた僚艦を全て失い、失意の只中で一度は戦場を後にした。

 

 その彼女が今思うのは、もしその時叢雲が艦隊に居たなら、共に海へ出ていたのなら、あの蹂躙された戦いの結果はもしかしたら違っていた物になったのでは無いか。

 

 終わってしまった事を振り返らないという信条を持つ彼女であったが、それでもその信条を覆す程の想いを隆起させる位にはモニターに映る叢雲は苛烈な戦いを繰り広げていた。

 

 

「……アイツらは見ての通り破格の性能を有した存在なんだけどもさ、お前達には無い爆弾を抱えているんだよ」

 

「爆弾?」

 

「そう、お前達の艤装にはコアが埋め込まれていると言ったね? 実はアイツらにはそのコアが存在しない」

 

「コアが存在しない? 我々と機構が違うというのか」

 

「あーすまん、言い方が悪かった、アイツらはお前達と違って建造された存在じゃなくて海から来たヤツらなんだ、なんて言うのかね、艦娘という存在じゃなくて深海棲艦と同じプロセスで生まれたモノ、私らはアイツらの事を自然発生体って呼んでいる」

 

 

 煎餅をバリバリと咀嚼してモニターを見上げる天草は、話の内容からは想像出来ない程に寛いだ姿勢になっている。

 

 端から見れば不謹慎とも取れるその様は、嘗てそんな非常識な毎日を過ごし、今に到るまでの地獄を過ごして来たが為に常識が狂ってしまった研究者の末路である事を理解出来る者は少ないだろう。

 

 そんな狂った者にでさえバケモノ扱いされる存在、最初の五人、天草が言うには彼女達がどこで生まれ、どうして日本へ至ったかは謎ではあったが、その存在は今の艦娘を生み出す為の試作品として、敢えて崩壊する事を前提として生み出された存在なのでは無いかと口にする。

 

 

 守りに強い者、対潜を得意とする者、索敵に秀でた者、危機回避能力に特化した者、そして戦闘力に振り切った者。

 

 凡そ安定した兵器としては程遠い、壊れる事を前提(・・・・・・・)とした造りになっている存在、どこまで耐えてどの時点で壊れるのか、その見極めの為にのみ生み出されたモノ。

 

 彼女らが壊れていき、その後建造というシステムが妖精という存在から(もたらされ)され、そこから生み出されるのは安定した性能の画一化された存在達。

 

 

「何もかも出来過ぎている、これだけの物事がすんなり安定に向かうというのはそれが必然として仕組まれた場合だけさね……誰が何で艦娘って存在を(こしら)えたかは知らないけどさ、本当に悪趣味な事をしやがるもんだ」

 

 

 艦娘という物を中心とした一連の関係性、凡そ常人からは只のオカルトというイメージしか沸かないそれは、一つ一つを紐解き、並べてみれば誰かが介在するという答えに辿り付く物であるという。

 

 それが人か、それ以外の者がそうしたのか、そこまでは断定出来ないが、それでもこの白衣の女性は言い切る、『誰かの意思がこのシステムに介在する』と。

 

 その話を聞きあから様に不快な表情を表に出し、そして今も尚モニターを見上げる艦娘達。

 

 

「壊れるんを知っとって無茶を詰め込んだ言うんかいな、フザケとるなそりゃ、ウチらはモノとちゃうねんで、そんな訳判らんモンにコロコロ転ばされとるみたいな事聞いて黙っとれるかいな……なぁセンセ」

 

「そんな事私に言われてもなぁ、私は研究して"知る事"に全てを注いちゃいるが、それ以外の何かに興味なんて無いからな、幾ら頑張ってもお前の胸と同じで"そうなっちまったモンは変えられない"」

 

「そこで胸の話題出すなや! っちゅーか正直叢雲はん、あれ大分無茶しとるんやろ? あの状態でどこまで持つんんや?」

 

「アイツがぶっ倒れるまでだな…… アイツらはお前達みたいにコアという安全装置を介して海と繋がってはいない、自分の意思で魂を吸い上げ、自分の意思でそれを縛っている、その重圧に耐え切れなくなった時、それがアイツの限界になるだろうよ」

 

 

 自分の中に居る存在、それが何なのか、それを理解した上で戦うという行為。

 

 国の滅亡という後が無い極限状態ならそれも納得させれるだろう、心を削っていく行為と知ってもそれしかないならやるだろう。

 

 しかしその前提が崩れたら、必要も無くなってしまったとしたら。

 

 

 それが必要無い状況になった時、建造という物が実装された時、彼女達は次々と心が折れ、そして壊れていった。

 

 

 そうして瓦解する寸前の叢雲は天草の手により自分の乗組員である妖精を海から得る手段を封印され、あの日からずっと『終わっていない、その手前で時間が止まったまま』の状態で(くすぶ)り続けていた。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 砲撃をしている訳でも無いのに波が砕け、水の塊が飛び交う海の上。

 

 黒い霧を纏う者に金色を引く艦娘が飛び込み更なる衝撃を撒き散らす。

 

 日本の海で敵を殺し尽くしたバケモノが吼え、海の覇者とも言われる異形が受け流す、それは戦いと呼ぶには洗練されず、只の殺し合いと呼べる有様であり、互いに理屈ではなく本能のみで行うぶつかり合いである。

 

 

 突き込む銀色の槍を避ける事も無く、朔夜(防空棲姫)が繰り出す蹴りが叢雲のこめかみに触れた刹那、荒れる水面に立つ二人の動きが唐突に停止する。

 

 

 アンテナを模したソレが朔夜(防空棲姫)の喉元に、叢雲の頭部に触ったままの爪先もそのままに、時間が止まったかの如き状態で互いを睨んでいる。

 

 

「……悪いわね朔夜(防空棲姫)、付き合って貰って」

 

「別にいいわよ? 最近色々あってガス抜きしたい処だったし、"本気の貴女"とやりあってみたくもあったし、体も温まったでしょ? それにほら……」

 

 

 朔夜(防空棲姫)が見る先、遥か彼方より何かが二人を目指し航行してくる様が見える。

 

 

「あの子にとって貴女が友って言うのなら、私にとっても貴女は友だもの」

 

 

 黒い霧が文字通り霧散し殺気も嘘のように風に消え、こちらに向けて来るその姿に目を細め薄い笑いを浮かべて防空棲姫と呼ばれた彼女は『また後で』という言葉を残してその場を去る。

 

 何事も無かったかの様にその場を後にする後姿を一瞥し、叢雲はこちらへ来る者を静かに待つ。

 

 

 ゆるやかに波を切る挙動、叢雲とは違う形の、それでも同じ色をしたセーラに身を包み、長く風を孕む髪は海色をした駆逐艦。

 

 

【挿絵表示】

 

「叢雲ちゃん、来たよ」

 

「……本当に、連絡を取った訳じゃないのに……来て欲しいと思った時はフラリと現れるのねアンタは」

 

 

 白露型六番艦、最初の五人と呼ばれた内の一人、『奇跡』と呼ばれた五月雨が手をフリフリしつつ叢雲へと近づいてくる。

 

 

「ん、妖精さんがね、叢雲ちゃんがここで呼んでるって教えてくれたんだ」

 

「そう……"声"に呼ばれて来た訳ね…… それで五月雨……」

 

「判ってるよ、全部聞こえてたから」

 

「ああ……そう、こっちは準備運動を丁度終えた所……よ!」

 

 

 叢雲が振り下ろす獲物は五月雨の頭に直撃するコースを通過し、どこにも触れる事無く水面に突き刺さる。

 

 盛大に吹き上がる水柱、それをゆらりと躱し、少し悲し気な表情を滲ませて五月雨は笑う。

 

 

「吹雪も電も漣も、声に押し潰されて海に出れなくなったってのに!」

 

 

 横に薙ぎ、前に突き、幾度と水面に獲物を叩きつけ、それでも目の前に居る五月雨に触れる事無くそれは空を切る、まるで当たらないのが当たり前の様に、朔夜(防空棲姫)でさえ全力で弾いていたそれを尽く躱していく。

 

 

「聞こえるのよ……今も頭の中でずっと、戦え戦えってぇっ!」

 

 

 万を越す異形を海に沈めてきた豪撃は瀑布を立たせ、振るうそれは海を切るがそれでも目の前で微笑む者に届かない、そして五月雨は武器を持つ訳でも無く、ただゆらゆらと叢雲の前に浮ぶだけ。

 

 数々の敵を屠ってきた理不尽が放つそれを歯牙にも掛けず、ただやり過ごすだけ、そんな一方的な暴力に、一方的な理不尽で応えるという在り得ない光景。

 

 

「なのに何でアンタだけ、あの声が聞こえないのよ! 何で私がこんな声を聞かなきゃいけないのよ! 何で、もう、終わった筈なのに、私は引き裂かれて、撃たれて……取り残されたままなのよ!」

 

 

 繰り返し出撃する日々は幻聴を大きくさせ、徐々に舟であった前世を垣間見せる様になる。

 

 呻き程度だった声は怨嗟の言葉に、見える悪夢は鮮明に、それが徐々に膨らみ今の叢雲の目には、あの日空から受けた爆撃と、離断してしまった船体と、そして自分を残して去っていった者達を見る、サボ島沖の地獄が絶え間なく映し出されていた。

 

 とうに過ぎた過去、戦史として記録されるそれは今も尚叢雲を蝕み続け、狂気の世界に繋ぎ止めたままだった。

 

 

 叢雲と五月雨以外の者はそこに至るまでに艤装が砕かれ呪いからは逃れていたが、周りの者より頑強に造られ、敵を駆逐する力が強かった叢雲はそこから抜け出せず、最後は天草の手によって艤装の一部を封印される事によってその地獄を避けてきた。

 

 

 現存する駆逐艦よりも遅く、脆く、弱く。

 

 それでも海を諦め切れなかったこの艦娘は、後進を育てるという目的で海へ残った。

 

 

 充実しているかも知れない(・・・・)、戦わなくても舟として役立っていると納得しているかも知れない(・・・・)

 

 上手く自分を騙し、そして心穏やかに過ごしていた筈の心に、違和感を、波風を立てる出来事が起こる。

 

 

 昔自分が家族として過ごし、唯一生き残った者が艦娘の指揮を執る、自分達が過ごしたあの場所で。

 

 様々な想いと期待に胸を膨らませそこに赴き、そして輪に加わった、楽しくも忙しい日々、充実していると感じる程には気が紛れていた、そんな時間を一年程過ごした時に気付く。

 

 周りに居る者は自分を残して先に行っている事を、誰も彼も強くなろうと努力して、海から遠のいていた電や漣さえも自分の道を見付け、輪を形成する一部になっていた。

 

 叢雲自身もその中に加わってはいたものの、それは全力では無かったと気付く、あの呉での演習の時、"殺し合い"に見事打ち勝った者達を見て自分が中途に海に浮いているというのに気付いてしまった。

 

 

「やっと、家に戻って、これたのに、何で私はまた……置いてかれてるのよぉ!」

 

 

 そのままでも叢雲の経験は充分役立っていた筈だった、誰かの支えにもなっていた筈だった、それでもこの誇り高く、しかし弱いままの吹雪型五番艦はそれを良しとはしなかった。

 

 どんな形であってもこの中途半端な状態を終わらせ、全力で生きているという事を心の底から言いたかった。

 

 そんな自分の全力を受け止め、そして終わらせてくれるには、同じ海を往き、同じ時を過ごし、恐らく自分よりも強いだろう目の前に居る青い髪の少女にぶつかり、砕いて貰うしか思い付かなかった。

 

 究極の独り善がり、全力をぶつけてもいい相手を前に叢雲の心は掻き乱され、暴走を始めていた。

 

 

『折れる事無く、俯く事無く、退く事なかれ』

 

 

 怨嗟に踊らされ、半分正気を失った叢雲の耳にしわがれた声が聞こえてくる。

 

 その声の方向を見れば、突堤の先に立つ吹雪、電、漣、そしてその者達に挟まれ、胡坐をかいてメガホン片手にこちらを見る髭爺の姿。

 

 

一之瀬三郎(いちのせ さぶろう)曹長が最後の出撃ん時に飛ばした激だ、お前はあん人の娘なんだろう? ならそんなに簡単に折れちまってもいいのかよ』

 

 

 旧大阪鎮守府警備隊第三迎撃小隊、鎮守府が深海棲艦に襲撃されたあの日、真っ先に海に出て帰ってこなかったその部隊。

 

 それを率いていたのは、呉へ人員が総出撃していた為に臨時で迎撃部隊を率いていた一之瀬三郎という男、現大坂鎮守府の司令長官に就いている吉野三郎の父親にして、最初の五人に父と呼ばれ慕われた人物。

 

 

『あん人が眠っているここ()で、無様にクダ撒いてるだけで……お前は満足なのか? ああ?』

 

 

 吐き気がこみ上げ涙を流し、それでも老躯の言葉をなぞり、そしてあの時壊滅したこの海の光景を思い出す。

 

 折れそうになる心を辛うじて保ったまま叢雲は目の前の少女に視線を向け、泣き顔を無理矢理歪めた笑いに変える。

 

 

「終わらせるんだ、父さんと、母さんと、紅葉と桜に胸を張って頑張ったって言ってやるのよ……」

 

「それじゃ、頑張らないとだね」

 

「ホント……あんたはいつもムカつくわね……」

 

 

 型も何も無い、命一杯左足を踏み込んで、右手の獲物を振り下ろす。

 

 今までと違う確かな手応え、視界一杯に広がる水柱。

 

 叢雲が最後に見た、微かに見えた目の前に広がる結末、それは振り下ろした獲物が五月雨の艤装に直撃し、粉々に砕け、光を反射し飛び散っていくという在り得ない光景。

 

 

 それを見た叢雲は楽しげに笑い、そして崩れ落ちる。

 

 

 水面(みなも)にでは無く水の中に。

 

 

 それを支え、叢雲を抱き締める五月雨の前では切り離され海へ沈んでいく艤装、それは金色の尾を引きつつゆっくりと、何かを伝える様に明滅し水底(みなぞこ)へと消えていった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「艤装喪失による轟沈だ、もうアイツは海に出る事は出来ない、最後は誰の力も借りずアイツは自分にケリを付けた……これで私が処置をする事ももう無いだろうな」

 

 

 指揮所でそれを見ていた者は非現実的な光景を目の当たりにして声も無く、ただただ無言でそれを見ている。

 

 姫級を相手に立ち回る駆逐艦に、それを完封してしまうもう一人の駆逐艦。

 

 ただただ馬鹿げた大立ち回り、そんな演習を経て得た物は他人には恐らく理解の及ばないだろう答え。

 

 

「轟沈、ですか」

 

「そうだ、アイツらは今の艦娘とは違ってコアを必要としない存在だ、艤装と切り離されても生体が消失する事は無い」

 

「という事は彼女の扱いはこれからどうなるんでしょう?」

 

「あん? それをどうするかってのは私では無くお前の領域だろ? ……んでもこの後色々とややこしくなるのは確かだなぁ、アイツは人じゃない、軍の兵器だ、これからの生き方はどうなるかは知らんが……なぁ、そう言えばお前は中将様なんだろう? うん?」

 

「成る程……そうでした、自分はそういうポジションに納まってたんでした、すっかり忘れてましたよ」

 

「はっ、随分と悪ぅい(かお)してるじゃないか、ふぅん? そんじゃアイツの事を任せても構わないんだろうな?」

 

「ええそれはもう、あ、そうだその事で博士にちょっとご相談があるんですが」

 

「あーあーくっそ、いきなり私を悪巧みに巻き込もうってのかい、ちょっと髭が生えたからって人にあんま無茶振りをするんじゃないよ」

 

「まぁそう言わず、まあまあ」

 

「ちっ……昔はあんなにカワイイバブーちゃんだったのにさ、髭が生えた途端可愛げの無いヤツになっちまったなぁえぇ?」

 

 

 

 

 大本営所属、吹雪型五番艦叢雲。

 

 軍の所属艦リストの二番目に記されていたその銘は後日轟沈艦として抹消される事になった。

 

 

 そしてそれと同時にリストの一番最後に『大坂鎮守府所属教導艦隊総括、練習駆逐艦叢雲』という新たな銘が記載される事になる。

 

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。


それではどうか宜しくお願い致します。

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