大本営第二特務課の日常   作:zero-45

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 前回までのあらすじ

 常識も良心も狂っていた時代の海での出会い、そして時を経て再び大坂鎮守府で邂逅する彼女達。

 それでは何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。



2017/02/11
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きました拓摩様、Bertz様、有難う御座います、大変助かりました


在りし日の黒歴史、サバトの始まり

「すまん待たせたな、ウチが今日案内を担当する龍驤や、司令官はちょっち昼まで定期健診で出てこれんから先に施設案内と各課の担当者に引き合わせするから付いて来てや」

 

 

 新たな任地に着任し、自室に割り当てられた部屋で荷物を降ろすと早々に案内役と称する軽空母に伴われて外に出る。

 

 先に立つ龍驤の後ろを歩き、説明の言葉に耳を傾けつつも、艦娘寮廊下から見える景色を眺める。

 

 

 軍事施設としては特殊な立ち位置と聞いていた拠点、前例の無い運用と機密を抱えると聞いていたのでさぞ施設等は強固な造りで、敷地も壁に囲まれた要塞の様な物になっているのだろうと思っていた。

 

 しかし窓から見える景色は人工物よりも緑が多く、建物自体も軍施設に良く見る赤煉瓦、立地が海上故か遥かに見える敷地の外れには防波堤然とした背の低い擁壁(遥壁)が続くだけでそれ以外に外部を隔てる物が見当たらない。

 

 

 連れられて歩く鎮守府内は拠点の規模にしては人影が(まば)らの為、耳に入る音が木々の揺れる物や海から吹き付ける風の音という環境音が大半を占める。

 

 転任の際深刻な人員不足解消の為の補充要員としての召還と言うのが理由だと聞いていた彼女は、窓から見える状況を見て成る程と現況を理解するに及んでいた。

 

 

 彼女の前任地は大本営管轄施設依佐美送信所、防衛拠点では無く国内通信網を統括する要所であり、大規模な通信機器が備えられたそこは国内だけでは無く、国外の拠点やアジア諸国、果ては欧州に及ぶまでの交信を担うという重要施設であった。

 

 太平洋戦争時は主に潜水艦隊との通信を担い、大戦後は米軍に接収され引き続き潜水艦隊との通信の為に使用されていたが、西暦が2000年も見えた辺りで日本へ返還、数年を掛けての解体工事が計画されていたが、その事業が行われていた頃に深海棲艦との戦争が勃発。

 

 一大攻勢を受け衛星を利用した広域通信網が瓦解、他国はおろか軍内での近代化通信が封じられた軍では、前世期で利用されていた通信網に改修を施して利用する等の必要性に迫られ、急遽解体中であった当該施設も再利用する事になり現在に至っている。

 

 

 所在地は愛知県の刈谷市であり、衣浦港に程近くはあったが、水辺にあった工業団地の外れに位置し、主要施設故かそこは海から少し離れた位置に存在する。

 

 海軍施設ではあったが海から離れた施設に艦娘である彼女が配属されていた理由、それは元々呉管区宿毛湾泊地所属だった頃、呉発支援艦隊の選抜隊へ編入され中部海域へ出撃した時の事、試験的に呉直下の者では無い艦娘で編成された艦隊での作戦であった為か、それともたまたま巡り合わせが悪かったのか。

 

 作戦時に運悪く敵の回遊部隊複数と交戦、後方支援の任にあった彼女の部隊はその矢面に立たされる事になり多大な犠牲を出す事になる。

 

 

 そんな作戦に参加していた彼女もただでは済まず、結果として海で戦う力を喪失してしまった。

 

 

 その後宿毛の割と重要戦力であった彼女は能力の再生の為幾つか施設に送られたものの、回復の見込み無しという結果となったが、それは完全な能力の喪失という物ではなく、戦闘機能の喪失状態ではあったが艤装のサポートの一部は受けられるという状態の為後方の施設へ技術要員として送られる事となった。

 

 人に比べ長時間の活動が可能であり、艤装の処理能力を利用して並列的に通信や処理を行うのが可能、更に秘書艦任務の教育も施されていた為事務能力もそれなり以上、そんな能力があったが為に艦娘でありながら海から離れた依佐美送信所に配属されていた。

 

 そんな彼女は大坂鎮守府では処理が膨大な量に膨らみ切迫していた事務方(じむかた)へ配属される予定であり、妙高、大淀に続いて三人目の主計専任艦として着任する手筈となっていた。

 

 

 龍驤に連れられ各部署の責任者に引き合わされる、人員的な面では小規模と言わざるを得ないこの鎮守府は、業務の殆どを個の能力に依存した形で運営されており、其々の業務を受け持つ者は軒並み無茶とも言える量の仕事を抱えていたが、適正が高いのか能力の桁が高いのか、業務自体は滞りなく回っている状態にあった。

 

 戦闘を統括する艦隊総旗艦は決まった補佐も付けていないのに艦隊員の状況を事細かに把握しており、メンタル面ですら処理するという働きをしていた。

 

 工廠責任者は整備関係を一人でこなし、鎮守府の設備管理までも兼任する上、更には新兵装の設計開発までも行っている。

 

 戦闘がほぼ皆無という立地ではあったが、通常専任の人間が行う筈の拠点警備に関してもローテーションで艦娘が担当し、そのレベルは一見しただけではあるが隙が無い状態に感じられた。

 

 

 案内をされて拠点を見て回る度に驚かされ、小さかった疑念が徐々に膨らんでくる。

 

 

 徹底的に効率化された運営、外部に極力依存しないシステム、縦割りが常の組織運営が常識の軍にあってこの拠点は各部署が可能な限り並列化されており、各責任者が持つ決定権は通常考えられない程の権限を与えられ、時には司令長官のみ許される行動さえ各責任者の判断で行える様な業務体系が形作られている。

 

 単純に考えれば効率化を推し進めたと見えなくも無い形態、しかしそれを確認していく度に彼女が違和感を感じたこの拠点の正体。

 

 

 人の存在を必要としない艦娘のみで運用可能な拠点、更に外部に依存せず極力拠点内で完結する様に設計された施設群。

 

 それは艦娘という頼もしくも人類が恐れる存在を、徹底的に管理する事で安全を確保し運用するという軍の方針とは掛け離れた常識外れの組織運営。

 

 

 人は何かを管理下に置き、己をその上位に置く事で安定化を図る生き物である、しかしこの拠点の形態は基地司令長官の利の部分である権限を受け渡し、己の存在意義を軽くする状態になっている。

 

 それは効率的には歓迎する形ではあったが、生き死にを前提とし、時には理不尽な生殺与奪の決定を下さねばならない拠点の主には、規律とある程度の強制力という艦娘に対する楔は必要不可欠の物であった。

 

 言い換えれば非日常時の極限状態で組織の統率を保つには、理不尽な命令を通す程の権限と、部下に対し有無を言わさず従わせる為の支配力が備わっていなくてはならない。

 

 

 しかしここ(大坂鎮守府)にはそれが、無い。

 

 

 軍の要衝でありながらその有体を否定し、更にそれを主導する司令長官という存在自身を半分置物にする様な組織運営。

 

 リスクと責任は増すのに権利と権力というメリットを投げ捨てるかの様な状況。

 

 何故そんなおかしな形でこの鎮守府は活動しているのか、そんな違和感と謎を解消する為彼女は龍驤へ対し疑問に思う部分を問い掛けてみる。

 

 

「ああ、それはな、この鎮守府は深海棲艦が住んどって、おまけに司令長官があっちこっち敵だらけやさかい人間の職員を雇う事ができへんから、しゃーなしに艦娘が全部賄っとるんや、せやから今回自分みたいな裏方はんが着任するんはむっちゃ助かるんや」

 

 

 そして返って来た答えが何か意図があっての特別な試みでは無く、"仕方が無いから"という割と軽い理由故に生まれた運営形態なのだと知り、一瞬驚きの色を浮かべた彼女の表情は徐々に笑顔へと変わり、最後に至っては口を押さえて笑いを噛み殺す様な仕草を見せていた。

 

 

「ん? 何や今の話に何か笑いのツボとかあったんか?」

 

「くくく……いえ、ここの提督さんは仕方無しでそうしてるという事ですね、なる程……納得しました、有難う御座います」

 

 

 仕方が無いから責任を投げてみた、仕方が無いからやってみた。

 

 どれもこれもが緻密で計算された形の物であったが、そこに至る理由が、考えが、酷く単純であり理知的とは程遠い物。

 

 ある意味無責任でありながらもちゃんと結果として回っている不思議なのに、何かを納得したと言う彼女は笑顔で龍驤に礼を述べる。

 

 

「ほんじゃそろそろ司令も戻っとる頃やろうから、案内しよか」

 

 

 そうして新たに運営人員として召還された彼女は何故か満面の笑顔を湛え、大坂鎮守府の主が居るであろう執務室へと入っていくのであった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「古鷹と言います。重巡洋艦のいいところ、たくさん知ってもらえると嬉しいです」

 

「いや君事務員でしょ、その着任の挨拶はどうかなと提督思うのですが」

 

「失礼しました、では今一度、古鷹と言います。事務特化艦のいいところ、たくさん知ってもらえると嬉しいです」

 

 

 依佐美送信所より来た彼女、古鷹型一番艦である古鷹はにこやかに、元気良く、そして軽快な掛け合いを織り交ぜつつ着任の挨拶を述べていた。

 

 随分とフレンドリーな第一声に首を傾げつつも龍驤より案内済みという報告を受け、最近恒例となりつつある面談(茶をしばく)の為に彼女を応接ソファーへと誘い、業務で同僚になるであろう妙高と大淀を執務室へ呼び出した。

 

 

 新人を交えつつもいつもの風景、吉野の前には古鷹と妙高、そして大淀が並び、隣には時雨が座るソファーセット。

 

 第二秘書艦である(潜水棲姫)は現在受け入れているクェゼリン第二艦隊が水雷戦隊という関係で仮想敵として教導へ出ている為に不在の状態。

 

 

 テーブルを挟んでの歓談は特に変わった事は無いが、何故か古鷹が自分を不思議そうな顔で凝視している様に違和感を感じた吉野は、何か疑問等があるのだろうかと聞いてみる。

 

 それに対し彼女は少し眉を顰め、指を口元に当てたままう~んと暫く考え込む仕草を見せる。

 

 

「えっと、吉野三郎さんですよね?」

 

「ん? そうだけど?」

 

「大隅大将のとこに居た三郎さんですよね?」

 

「……ん? まぁそうだけど?」

 

 

 再び長考に入る大天使、その反応に何だろうかと思う他の面々は黙って彼女の様子を伺っている。

 

 

「えっと、その眼帯って……飾りです?」

 

「ん? 飾りって言うか、え? どういう事?」

 

「いえ、そのぉ……何と言うかポーズと言うか箔付けのアイテム的な感じで着用なさっている物かなとか」

 

「えっと、古鷹さんの言いたい事は何となく理解したけど、提督の左眼は怪我で潰れちゃってて義眼が入っているんだけど、普段はそれを保護する為に眼帯を装着しているんだ」

 

「えっ!? マジモンの眼帯なんですか!? それ外したらポッポーとか鳩が飛び出したりとかはしないんです!?」

 

「ナニそのビックリ人間!? 何でそんな結論に至っちゃうワケ!?」

 

 

 時雨の言葉に良く判らない反応を見せる古鷹、彼女以外の者は益々状況が飲み込めず首を傾げる状態が続く。

 

 

「……てっきりその言葉遣いも眼帯も厨二病をこじらせてやらかしてる物とばかり思ってました」

 

「何だかすんごい誤解をしている様なんだけど、自分何かおかしなとこあったりしちゃってる?」

 

「それ! それです!」

 

「ナニが?」

 

「妙ちくりんに丁寧な言葉遣いに自称が『自分』、もしかして何かまたおかしなプレイとかにハマっちゃったりしてませんか?」

 

「何か提督随分な言われ様なんだけど!? それにプレイって何の事!?」

 

「いえ、良く何も無いとこで突然『あっ!』とか意味ありげに空を指差して、それに周りがびっくりして見上げる様を確認した後ニヤリと笑いつつその場を後にしたり」

 

「う……うん?」

 

「朝礼の移動中まだ余裕があるのに『ちっ、しまった間に合わねぇ!』とか言って走り出して、それに釣られた周りが焦って走る様を途中離脱してニヤニヤ観察したり」

 

「んんんん?」

 

「武蔵さんにある事無い事吹き込んで悪事に引き込んだ挙句、いつもボコられてたり」

 

「ちょちょっ……古鷹君?」

 

「はい?」

 

「えっとあの……うん、その……何と言うか何で君がそんな話知ってんの?」

 

「え、やっぱり忘れてたんですね? 私呉の防衛戦隊に居た古鷹ですよ」

 

「呉の防衛戦隊ぃ?」

 

 

 現在の軍は艦娘を運用する際一拠点で最大四艦隊を編成する事になっている。

 

 其々は本隊と呼ばれる第一艦隊とそれに随伴する第二艦隊を支援という形にてほぼ固定とし、第三第四艦隊は作戦ごとに人員を入れ替える事で数の限りがある戦力の効率化を図っている。

 

 

 しかしまだ南洋の戦線が安定していなかった当時、情報が出揃っていなかったが為に固定化された艦隊編成をする事が難しく、どんな状況にも即応する必要があった為に、拠点の艦娘は単純に前線へ出る者達と防衛に残る者で一旦纏められ、命令系統は艦隊単位では無く大雑把に二系統に分けられていた。

 

 これはまだ前線基地の数が少なく、艦娘の数に余裕があり、且つ戦力が呉周辺に偏っていたという事情があっての組織体系であった。

 

 

 そして今古鷹が言った『防衛戦隊』とは鎮守府近海の防衛と基地警備の任に就く、所謂前線に出ない居残り組がそう呼ばれており、その多くは錬度の低い艦娘か、駆逐艦の様に数が多い艦種がその任に就いていた。

 

 インドネシアより東を取り敢えず制海権として奪取し、そこより西へ進出する機会を伺っていた軍はレ級というこれまでに無い強力な上位個体に阻まれ、大隅が攻略の指揮を執る為大本営から呉に一時着任していた際、まだ業務見習いと言うか丁稚奉公の真っ只中であった吉野も呉に在籍し、日々雑用に使われていた。

 

 

「えっと……呉の古鷹って、あのパンチラの?」

 

「スカートめくりしてたのは三郎さんですっ! そんな私がパンツ見せびらかしてたみたいな言い方しないで下さいっ!」

 

 

 小学生がする様な下らない悪戯に始まり、スカートめくり活動に勤しんでいたという黒歴史が秘書艦と事務員二人の耳に入るという惨事、元々枯渇気味だった司令長官の威厳はその時点でマイナスゲインに突入する。

 

 

「提督……スカートめくりとかしてたんだ……」

 

「イエソノ……若気の至りと言うか何と言うか」

 

 

 因みに時系列で言うとそれは凡そ12年程前の話ではあるが、それでも吉野の年齢は当時18、スカートめくりに興ずるにはどうかという年齢と言うか、常識的に考えて見習いであろうとも一介の軍人がする行為では無い。

 

 

「午前中に不審な行動をして、午後には武蔵さんにボコられて、その合間にペスの散歩がてらスカートめくりとかギンバイとかが日課という……」

 

「OK! 了解! 判った! ちょっと待ってみようか古鷹君!」

 

「提督……」

 

 

 黒歴史を通り越して人としてどうかという過去が暴露された髭眼帯、時雨や妙高が興味半分で聞いた吉野の過去は凡そ現在とは別人の如き様相を呈していた。

 

 基本敬語は口にせず常にタメ口、自称は『俺』であったり、徹頭徹尾思い付きのみで行動するという厨二病患者が丁稚奉公時代の吉野三郎という人物であったという。

 

 

 そんな男が現在の様な立ち振る舞いと思考を持つに至ったのは、職務上割り切りと立ち回りが要求される職務に付かなければいけなかった環境と、簡単に人が死ぬという、割と特殊な世界に放り込まれたという事情があった為である。

 

 加えて幼少の頃被災した関係で一度人としてリセットされて人生を再スタートした状態であった吉野の精神構造は、特殊性がどうとか以前に周りより数年ズレた状態であり、反抗期等のありがちな時期は成人間近まで続いていた。

 

 要するに年齢は18だが精神構造は中学生辺りという救えないポンコツが居たというのが正解なのであるが、そんな事情を知らない古鷹からすれば当時の吉野は厨二病真っ盛りの変人という人物でしかなかった。

 

 

 そして現在大坂鎮守府に着任し吉野の前で頬を膨らませている古鷹は、当時建造されて間も無く、まだ研修段階で座学中心の教練部隊に所属していた。

 

 言ってしまえばそれは訓練生みたいな物だが、それでも艦娘という存在である為に学生の様な生活はしておらず、教練段階の者は教導を受けつつ拠点の雑務等に関わる事で軍務の基礎を学んでいた。

 

 

 大隅麾下の見習いとして雑用に従事していた吉野と、教練段階で主任務が雑用の古鷹、雑務時はこの二人を含めて数名が纏めて同じ班として命令を受け、行動を共にしていた。

 

 要するに古鷹、被害者ポジである。

 

 

「提督……ペスにドラゴン花火装着させても空は飛ばないと思うんだ……」

 

「……ハイ、ソウデスネ」

 

「執務室の掃除をサボった挙句『世界獲ったるんじゃー』とか地球儀をゴロゴロ転がして室内サッカーに興じるのもどうかと思います」

 

「それはあの、地球儀を跨ぐのと世界を股に掛けるを掛けたシャレと申しますか、ハイ……イエ、ナンデモゴザイマセン」

 

「大将に伝令を持ってきた人に対して『今北産業』と言って内容を確認するのは軍人としての品位が疑われるのでは無いでしょうか」

 

「よ……要点を簡潔にが現場の教えでしたのでつい……」

 

 

 繰り返すが年齢が18、中身が中学生という残念な者がやらかした過去の話である。

 

 

「因みに夜間行軍とか言って街に繰り出したのを加賀さんが密告して、憲兵に連行された後に『アレは俺専用のハイヤーさ』と決め台詞を言うまでがセットでした」

 

「いつもピンポイントで行き着けの店に憲兵が網を張ってるな~とか思ってたら、ヤツがタレ込んでたのかぁっ!」

 

「いつも捕まるのに同じ店に行くのはどうかと僕は思うんだ……」

 

「いや……いつも加賀君がラーメンの割引券とかトッピング無料券とかくれるもんだからつい……」

 

 

 毎回割引券を渡された時に限って検挙される事案を考えれば、普通なら色々関係性が見えてくるのではと思うだろうがそれを突っ込んではいけない、何せ見た目18中身は坊やに理知的な行動を求めるのは無理があるからである。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「まぁそんな訳で思わぬ処で提督の過去(笑)が聞けたのは横に置いといて、そろそろ着任する者が増えてきた現状、今日に至るまで色々確認出来た事がある」

 

 

 1504(ヒトゴーマルヨン)、午後休憩の時間に珍しく各課の責任者が勢揃いした間宮では、艦隊総旗艦である長門がテーブルに座る面々にある提案を持ち掛けていた。

 

 

「提督への着任報告に続き施設案内や各責任者への面通し、そしてこの鎮守府に於けるローカルルールを説明をした上で漸く業務内容の説明と、大体の流れは出来つつあるが、それでも案内する者によって内容に差異が生じ戸惑いを覚えた者も居たと言う」

 

「あ~ 確かにウチがその辺り極力受け持つ事にしとるけど、どうしても手ぇ離されへん時はその辺で暇しとる子に途中で任す時もあるしなぁ」

 

「うむ、私と龍驤はある程度情報を共有して事に当たってはいるが、どうしても一日全てをそれに宛てるのは難しい、そこでだ、この際この案内を含めた一連の流れをテンプレ化して纏めてしまえば誰が案内しても中身が変わらんだろうし、無駄が無いと思う」

 

「今後着任する艦娘は今まで以上の数を予定しているクマ、その辺り整理しとけば確かに手間は省けるクマ」

 

「そう言った訳で、今後の事を見据え皆にはそのテンプレに入れるべき情報の取捨選択を考えて貰いたいと思う」

 

 

 鎮守府の人員増の方針で着任したのは既に九名、霧島、比叡、師匠、プリンツにU-511、五十鈴に続き飛鷹に隼鷹、そして本日着任した古鷹、短期間での異動人事としてはそれなりの数であったが、この後予定している数から考えるとまだ半分という状態。

 

 それでも問題点として上げる事案が出揃うには充分な数であり、今後の事を考えると確かにそれは画一化を施し業務に当たるには丁度良い時期とも言える。

 

 

 そんな相談をする者に囲まれた吉野は何故か無言でプルプル震え、おずおずと右手を上げる。

 

 

「ん? 何だ提督」

 

「えっと何と言うかその、この集いの趣旨は判ったんだけど、何で君達はメイド服着用している訳?」

 

 

 午後休憩のひと時、甘味処間宮は哨戒任務に出ている者とラボに引き篭もっているハカセ以外の人員が甘味を求め集合という中々に混雑した状態。

 

 その中心に立つ長門は例のキラキラしたイメージしちゃうメイド服着用で真面目に議事進行を行っている。

 

 その隣では球磨がゴスロリメイド服で首を傾げ、更に龍驤に至っては半袖シャツにモンペという謎の衣装に身を包んで会議に混ざっていた。

 

 

「龍驤……なんですぐネタに走ってまうん?」

 

「ネタに気付かんかった時はおはじきでも舐めようか思っとったけど、気付いてくれて何よりや」

 

 

 取り敢えずの突っ込みという一仕事を終えて吉野は周りを見渡した、そこに集う者は全員メイド服という異常事態、どうしてこうなったと前を見れば、視線が合ったナガモンは吉野の疑問に気付いたのか今回のサバトのテーマを口にした。

 

 

「ある意味メイド服は第二の正装であり、各人のアイデンティティに直結する物であるからな、その辺りの説明とデザインの自由度を新規着任する者への案内テンプレに入れる為にな、今一度皆にはメイド服で集合して貰った」

 

 

 何故メイド服が正装でアイデンティティなのか、もしそれが真面目な話ならネタ枠参加の龍驤のアイデンティティとは一体何なのだろうかと吉野は混乱する。

 

 繰り返し言うが現在は休憩時間を利用しての真面目な会議中である、決してメイド喫茶に海軍士官が紛れ込んでしまった的な事案が発生した訳では無い。

 

 

「長門君……」

 

「何だ?」

 

「もしかして着任して来る人達全員にメイド服を義務化しちゃうつもりな訳?」

 

「うん? 義務化と言うか我々のオシャレポイントと言うかオススメ衣装の紹介をしているだけなのだが?」

 

「ナニそのズレたポイント!? 一体そんなモノ紹介してどうしちゃおうっての君は!?」

 

 

 目に優しくないキラキラしたイメージしちゃうメイド服のナガモンにツッコミを入れる吉野の肩を誰かが叩く、何事かと振り向けばいつの間に背後を取ったのだろうか、ゴスロリのクマがアホ毛とリボンをゆらゆら揺らし、諦めの色を滲ませゆっくりと首を左右に振っている。

 

 

「……どうしたのクマちゃん」

 

「提督、もう手遅れクマ……」

 

「……何が?」

 

「既に新規着任したヤツ等は準備を整えてしまったクマ……」

 

「……なんて?」

 

「ついでにクェゼリンのヤツ等もお土産とか言って明石に衣装を発注済みだクマ」

 

 

 冬真っ盛りの大坂鎮守府間宮では、凄く真面目な案件としてメイド服が議題に上がり、更には被害が鎮守府内に留まらず他拠点へ及ぶという恐ろしい事実が発覚する。

 

 そしてプルプルが増した吉野を置いてきぼりにして、このサバトは新たに着任した者達の間違ったファッションショーへとシフトしていくのであった。

 

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。


それではどうか宜しくお願い致します。

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