大本営第二特務課の日常   作:zero-45

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 前回までのあらすじ

 大坂鎮守府へ新たに着任した艦娘さんに隠された衝撃の事実と、時雨にガブガブされる鎮守府司令長官の一幕。

 それでは何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。


2017/04/10
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きましたリア10爆発46様、閑人傭兵様、有難う御座います、大変助かりました。


通すべき筋と師弟関係

 長門は困惑していた。

 

 急に大本営へ行く為の護衛を言い渡され、詳細を禄に聞かないまま慌しい状態で移動、更にもう一人の護衛は大和というガチの状態。

 

 道中話を聞こうとしたが、当の吉野の雰囲気は固い状態で声が掛け辛く、また中将になって初の長距離移動とあって公共の便では無く専用車両を使用するとあり、それの護衛に軍から回された車両が付くという状態に改めて自分の提督がそんな地位に就いているのだという実感が沸き、そんな色々な"いきなり"が重なり状況に流されてしまっていた。

 

 そして大本営入りした後は大将である大隅巌(おおすみ いわお)の執務室へ直行、現在に至っている。

 

 

 地方拠点の司令長官が中央へお伺いに登庁するというのとは違い、主要国内拠点の、しかも将官が大本営入りすると言うのは中々に機会が無く、またそれが呼び出しでは無いと言うのは珍しい事でもあった。

 

 

 そんな移動劇を経ての大将執務室、関係で言えば上司部下、もっと突っ込めば身内とも言うべき関係の大隅と吉野が座るソファー。

 

 差し向かいの二人の後ろには、吹雪と武蔵、対してこちらは長門に大和。

 

 止めに場の空気は砕けた物では無く、艦隊戦を直前に控えた時に感じる殺気とも緊張とも取れる独特の空気、それと似た張り詰めた物がそこに漂っていた。

 

 

 そして長門が最も困惑したのは目の前に座る吉野を見た時。

 

 

 これまで長いとは言えなかったがそれなりに行動を共にし、数々の危機を乗り越えてきた。

 

 どんな時でも飄々とし、事に当たる時は緊張は感じさせても外側には威圧という物を見せる事が無かった髭の眼帯。

 

 そんな人物だと認識していたからこそ、ハッタリやガン付け等という小細工を仕込むという事をして来た己の主。

 

 

 しかし今目の前に居るその人物から漂う空気はそれまで長門が見たことも無い程に近寄り難く、そして明らかに相手を威圧する空気を醸し出している。

 

 

 散々話に聞いていた"影法師"と呼ばれていた当時の吉野に纏わる噂、そしてその当時を知る関係者が口を揃えて言った『相手にしたら一番面倒臭いヤツ』という話を漸く理解する程に、今目の前の男は存在感を持っている。

 

 隣に並ぶ大和も同じ印象を受けているのだろう、見た目は平然を装っているが、時折吉野の背中を見る目は困惑を含む色を見せている。

 

 

「クェゼリン艦隊が海域攻略に出る際の支援計画書……ねぇ」

 

 

 そんな空気の中、部屋の主である大隅は吉野が提出した書類に目を通しつつ、感情が読めない酷く抑揚の無い声でそう呟いた。

 

 並ぶ文字に流す視線は睨む様に、片眉は寄せた状態で、こちらも吉野に劣らず何故か攻撃的な空気が滲んでいる。

 

 

「はい、予定では来月頭に予定してます空母棲姫を含む海域深部に居る敵主力艦隊の殲滅をクェゼリン艦隊が行う件に付いて、是非とも後方支援は我々にお任せ頂きたいと」

 

「ふーん、まぁこういった作戦にゃあ国内拠点から支援を就けるのは決まり事なんだがな、なぁ三郎よ」

 

「はい」

 

「その任ってのは通常『その時期に支援艦隊任務の当番に当たっている』拠点から戦力を出す事になっている、そいつはお前も知ってる筈だよな?」

 

「ええ、それは承知しています」

 

「で、今の時期は呉がその当番に就いてる訳だが、それを差し置いて現状当番を後に回して貰ってる(・・・・・・・・・・・・)お前んとこが出張るってのは何か理由があんのか?」

 

「はい、その理由は二つ、先ずウチが初めて教導を施した艦隊の成果を直に目にする事で諸々の成果を確認し、後の教導任務に於ける改善点を模索する為と、後々に予定している『緊急支援艦隊』業務に対し、現状の大坂鎮守府で編成予定の艦隊を出して戦力として充分なのかを確認する為です」

 

「……なる程ねぇ、一応筋は通っちゃいるが、それにしてもお膳立てから後始末まで、特にこの資源の供給具合はちょっと肩入れが過ぎるんじゃねえのか? お前ぇんトコはこれからも教導を施した先の拠点にこういった支援を続けていくつもりなのか?」

 

「今から思えばその辺りは過ぎた行為だったと猛省しております、しかし一度決済を通してしまい、クェゼリン側へ確約した現状それを撤回するのは難しい状態ですので、今回に限り(・・・・・)この計画で進めていきたいと考えております」

 

 

 クェゼリン基地が単独で海域攻略を行うこの作戦、通常であればそれに関わるのはそれまでその任を担っていたが、予定を変更して別の作戦を編成する必要がある大本営第一艦隊と、緊急支援艦隊の当番に当たっている当該拠点である。

 

 軍務の、それも最前線の海域維持に関わる重要任務に於いて失敗というのは当然許されず、任務の完遂が保障されない状態では当然バックアップとしての別戦力は必要不可欠の為に、その作戦中は事に当たっている拠点へ緊急支援艦隊を常駐させるというのは予め取り決められていた話であった。

 

 

 しかし今回吉野が提出した計画書は、そのバックアップに入る艦隊を現在当番に就いている呉の艦隊では無く、大坂鎮守府が編成した艦隊を置いて欲しいという、言わば嘆願書の様な物であった。

 

 現状大坂鎮守府は人員の増員に伴う調整や、装備調達の期間という事でその当番を後に回して貰っている状態、その艦隊を敢えて出すと言うのは筋が通らない。

 

 教導任務の成果を確かめるという理由があったとしても、もしもの為に置く筈のバックアップが実績の少ない、言い換えれば確実性が保障されない艦隊を置くというのも軍務として見れば認められない話であった。

 

 

「お前の言いたい事は判った、コレ(計画書)も一応は受け取っておく、が……三郎、いや吉野中将、そろそろ本音で話そうや、お前何やろうとしてんだ」

 

「何を、とは?」

 

「とぼけんじゃねぇぞ、こんな通る筈もねぇモンをわざわざ直に持って来て、おまけに連れて来た護衛には長門に大和だ、こりゃお前それなりの覚悟を決めてココに来たんだろうが」

 

 

 大隅の言葉に後ろに控えている吹雪と武蔵から緊張した空気が漂う。

 

 将官の護衛という事を言えば長門に大和を伴うというのは何ら不自然な物では無く、周りからしても違和感の感じない行動とも言えた。

 

 しかし平時の吉野という人物を知っている者からすればその行為は違和感を伴い、更に面会に訪れたのは身内とも言うべき大隅の執務室である、その行動は言わずもかな現在執務室に詰める者達には普通では無いという事を感じさせるには充分な行為であった。

 

 

「……この件で却下が出た場合、お前がそれでも引かないと決めているという事と、その問題が(こじ)れた場合最悪俺はお前を拘束する命を出さなきゃならんという厄介事がコレ(計画書)にはある」

 

 

 大隅の言葉に今度は長門と大和が緊張する、自分達が護衛に就くという時点で何かあるとは思っていたが、まさかそれが外敵では無く内側に対しての備えだという事に、最悪対する可能性がある目の前の吹雪と武蔵へ視線を走らせる。

 

 

「最悪そうなった時、吹雪と武蔵を躱して逃亡するには長門に大和クラスを据えねぇとどうにもならんからな……で? お前はそうまでして何をやろうとしてんだ?」

 

「この二人は大将殿に対しての備えとして連れて来た訳では無いのですが、確かに今嘆願した作戦に関係した備えではあります」

 

「……ほう? その備えが必要な嘆願ってのは何なんだ?」

 

「クェゼリンが海域を開放した際、当該基地を足掛かりに自分は一度太平洋に出ようと思います」

 

「やっぱそうなるか、それはお前んとこに居る深海棲艦から何か手引きがあってって事になんのか? 今度はどんなヤツを相手にするつもりなんだ」

 

「……目標は泊地棲姫、南太平洋をテリトリーとして居を構え、深海棲艦の中でも上位五指に数えられると言われている上位個体になります」

 

 

 厄介事というのは大体の予想が付いていたが、それでも内容が予想してたよりも遥かに大事であった為に、大隅の後ろに控える武蔵の表情が強張った。

 

 対する将官の間には無言の圧力が増し、後ろに控える四人にもそれが伝播していき自然と場の空気は凍り付く。

 

 

 この吉野が接触しようとしている目標は存在としても、治めるテリトリーの広大さからしても相当な存在に違いない、だが軍という視点から見ればそれは現状問題とはならない。

 

 今一番の懸念とされるのはその上位個体が居座る海域、南太平洋という場所になる。

 

 

 現況軍の注力しているのは南洋から西に続く海域であり、それは言い換えてしまうと日本はヨーロッパとの繋がりを重視して国の舵取りをしていると言っても良い。

 

 外交は言うに及ばず、軍内部もヨーロッパ連合との足並みを揃える事を意識して組織を動かしているという状況。

 

 

 そこに太平洋側へ何かしらアプローチを掛ける。

 

 それも実質日本の深海棲艦との繋がりが深い吉野がした場合、軍が動くというよりも厄介な状況が発生する。

 

 

 只でさえ深海棲艦という強力な戦力を持ち、日本という国に個人が影響を持つという歓迎しない現状に加え、それが太平洋というヨーロッパとは真逆な方向と繋がってしまうという事になれば、軍からしてみれば更に個人が強力なバックボーンを備える危険性が危惧される事になる。

 

 そして日本という国の立場からしてみればヨーロッパに対し良くない印象、大袈裟に言うと太平洋の向こうに位置するアメリカ大陸へ対し日本が寄っていくという印象を与え兼ねない。

 

 

 吉野自身が何を思い、どういう形で太平洋を目指すのかという詳細は問題ではなく、そういう行動を取るという事自体が既に諸々の危険性を呼び込む事になる。

 

 

 そんな事を軍部は許す筈も無く、それでも承知で大本営へ来た吉野はいざと言う時の為に長門と大和を伴うという行動を取っていた。

 

 

「……解せねぇな、何でそれを"今"やるんだ、タイミング的にはクェゼリンがギリな状態で、国の内政もまだ安定してねぇ、今行動するには周りが混沌とし過ぎて先が読めない今はじっとしてる方がいいんじゃねぇのか?」

 

「だからですよ大将殿、内政が安定してヨーロッパとの関係が確固たる物となり、軍の組織体系が固まってしまったらもう"外的要因"を抱える余地は無くなってしまう」

 

「だから今無理を通してでも事を起こしてそれを捻じ込んでしまおうと?」

 

「はい、状況的には少し前の焼き直しみたいな状態になってしまいますが、『色々な事に対する備え』は整える事が出来る時はやっておく必要があると思います」

 

「『備え』……か」

 

「はい」

 

 

 ソファーに深く身を沈め、上から下を睨め付ける様に見る大隅、それに対し膝に両肘を置き、両手を支えに身を前に傾け真っ直ぐ睨み上げる吉野という対照的な二人。

 

 

 そこには長門や大和が知らない『戦場に身を置いた』吉野の姿が垣間見える。

 

 

 艦隊司令長官としては頼りなくも、提督としては信頼しているという奇妙な関係性だと認識していた今まで。

 

 軍人としては少し抜けた部分があり、それでも何か信頼が置けるという安心感という物があると感じていた自分の主。

 

 その『軍人らしからぬ』と感じていた部分が実は勘違いであったと長門と大和はこの時気付く。

 

 艦隊司令長官として一拠点を担う立場の吉野には現場指揮という『軍務』の適正は低く、その部分を艦娘を頼って補うという弱さを見せていた為、『将としては頼りない』という印象が強くあった。

 

 しかし軍務と云うのは現場だけでは無く、内政、それも現場単位では無く各地に散らばる平時では見えない『軍団』を指揮し、それを導くという、長門達『現場』から見れば一段上の業務が存在する。

 

 戦う場でそれは見せなくても、後方で前線や戦いを俯瞰(ふかん)し、戦場をコントロールするという『軍務』

 

 

(成る程……これが貴方の戦場か)

 

 

 今長門が見る髭の眼帯は、それまで彼女を戦場で指揮してきたどの将にも劣ることは無い、正に軍人と言える姿がその背中に見えていた。

 

 

「……判った、この話は俺から坂田(元帥)さんに通しておく、寺田(呉司令長官)にはお前が筋を通しておけ、いいな?」

 

「有難う御座います大将殿、それではお手を煩わせてしまう事になってしまいますが、どうか宜しくお願い致します」

 

 

 こうして大本営将官執務室で行われた一連の話し合いは、身内とも言える近しい者同士の話し合いでありながらも最後まで笑顔が含まれない、終始緊張した状態で幕を閉じる事となった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「……良かったのか提督、三郎がやろうとしている事はアイツの進退だけじゃなく、ヘタをすると軍部に混乱を招きかねない問題じゃないのか?」

 

「武蔵さん、この話はもう半分決定済みみたいな物ですから、その辺りは心配いりませんよ」

 

「何だと?」

 

 

 吉野達が退出し、苦い顔で茶を啜る大隅の前には怪訝な表情で話を聞く武蔵。

 

 その隣では大隅と同じく茶を飲みながら済ました顔で大本営艦娘相談役である吹雪が武蔵の問いに答えていた。

 

 

「こんな大事を私達に感知させず進めるのは幾ら三郎さんでも不可能です、今回の話はずっと準備と根回しを重ね、それが完了したから行動に移した、言わば茶番の様な物です」

 

「茶番だと? ならお前も提督もそれを知ってあんな話し合いを続けていたと言うのか?」

 

 

 吹雪の言葉に憮然とした表情になる武蔵、話の内容は全て理解し、それでも彼女ですら数度しか見た事の無い大隅と吉野の"本気の対峙"は危機感を抱かせるには充分な場であったに違いない。

 

 しかし蓋を開ければそれは茶番だったという事を聞き、納得いかない部分と自分だけがそれを知らなかったと言う事実に眉根を寄せ、どうなっているのかという意味を含めて武蔵は大隅を睨む。

 

 

「事前に問題となる元老院に対しては先に話を通しておき、その上で話が明るみに出ても国がそれを潰しに来るという懸念を先に解消しておく、そういう根回しをしておけば軍部がヤツを叩く理由の根拠が崩れる」

 

「幾ら軍部が反対しようとも国がそれを認めれば黙認するしかないですから」

 

「しかし幾ら元老院とのパイプがあったとしても、ヨーロッパとの関係をこじらせる可能性をご破算に出来る程のネタをアイツは持っているのか?」

 

「仮にアイツの企みが上手くいったと仮定して、ゆくゆく太平洋を打通してアメリカとのラインを築いたとしても現況旨みは無いだろうな」

 

「なら尚更どうやってあの拝金主義者共を納得させたと言うんだ」

 

「太平洋をそのまま東に抜かんでも、中央まで出ればそこから南へ向かってオーストラリア東部への海域は視野に入る」

 

「オーストラリアだと? あそこは既に南洋からウチの制海権伝いにラインは確立している筈だ、今更そこへ別方向からラインを構築しても意味が無いではないか」

 

「通商という目で見ればな」

 

「……どういう事だ?」

 

 

 未だ納得いかない武蔵に対し、大隅は執務机に敷いてあった世界地図をローテーブルの上に広げ、南半球最大の大陸、オーストラリアに指をトントンと置き、怪訝な表情の武蔵を見る。

 

 

「現在オーストラリアとは日本がインドネシア方面の支配海域を接している関係上通商条約を結び、周辺海域の防衛を担う為にオーストラリア西北から北側海域の安全は日本が受け持っている」

 

「そうだな」

 

「って事は、現在オーストラリアの西部付近は取り敢えず安全だが、反対の東側はどうなんだ?」

 

「それは……うむ?」

 

「三郎の情報では、泊地棲姫のテリトリーは北はキリバス、南は南極海まで及ぶ広大な物らしい」

 

「……つまり、この話が上手く転んだとして、泊地棲姫と何かしら取引が成立すれば」

 

「オーストラリア東部の海域は安泰、そうなればかの国の深海棲艦に対する脅威は今より格段に改善される」

 

「そしてそのカードを日本が握れば……なる程な、確かにチマチマした小国じゃなくてあのクラスの国に対する影響が増せば経済的な旨みは大きい」

 

 

 武蔵にしてみれば降って沸いた厄介事が、一転して国益まで及ぶ結末に繋がるという壮大な物に及び、どう反応して良いかという状態に首を捻る事になる。

 

 大本営の中枢を担う柱と言ってもそれは一艦隊の指揮を執る身でしかなく、そこから広がる世界の動きと言うのは耳にする事はあっても実感するのは殆ど無いという立場。

 

 故に実感の沸かない世界を卓上の世界地図に見る事は出来ず、口をつぐんでそれを見るしか出来ない。

 

 

「そんな色々な段取りと根回しを完了して、いけると踏んだからアイツは俺に"筋"を通しに来たんだろう」

 

「……ふむ、筋を通すか」

 

「ああ、幾ら根回しをした処でこの件に関しちゃ間違いなく艦隊本部辺りの一派には遺恨を残すだろうよ、そうなった場合は俺や坂田さんが矢面に立つ事になっちまうからな」

 

「そしてウチでこれだけ情報を掴んでいるとなれば、当然あちら側にも洩れている筈です、既に表立って阻止出来ない程話が進んでしまっている現状、彼らが出来る事は知れていますね」

 

「その為に長門と大和を連れて来た、か」

 

 

 吉野が口頭でも質疑が可能な案件をわざわざ足を運んで大本営まで直接話しに来た理由。

 

 それは確実に厄介事を背負わせると判っている大隅に対しての筋を通すという意図があった為。

 

 そして警護を長門と大和という名実共に大坂鎮守府の双璧に当てたのは、殆ど無い可能性とも言えるが途中で起き得る『もしも』に備えてと、それ以上に相手に対する威圧という物で抑制する為にあった。

 

 

「アイツは最後に『これからの備え』と言った、俺はアイツに『情報は即効性がある武器としてと、持っているべき備えの側面がある』と仕込んできた」

 

 

 大隅は誰に言うでも無く言葉を続け、テーブルに置いているシガーケースから葉巻を一本取り出すとカッターでそれを切り、マッチでそれにゆっくりと火を(とも)し紫煙をくゆらせる。

 

 吹雪は静かに其々の湯飲みへ茶の代わりを注ぎ、武蔵は黙って大隅の言葉を待つ、薄く煙が広がる執務室は防音の為にチリチリと赤を放つ葉巻の音以外は聞こえない。

 

 

「今アイツが動くと決めたんなら、俺が仕込んで、特務で培ってきたアイツの嗅覚に何か引っ掛かる物があったんだろうよ」

 

「そうか……して提督よ、貴様の嗅覚には三郎の感じている物に心当たりは」

 

「ねぇな、俺はアイツに仕事のイロハは仕込んだが、専門的な能力に関しちゃヤツの方が上だ」

 

「そうか、アイツは提督にそう言わせるまでに成ったか」

 

「……チッ、どいつも揃って嬉しそうな顔をしやがってよ」

 

「彼は出来の悪い身内筆頭でしたから」

 

「ククッ、出来の悪い子程可愛いというヤツだな、そうかそうか判るぞ提督」

 

 

 苦虫を噛み潰したかの様な大隅の前では相変わらず澄ました顔で茶を啜る吹雪と、何故かニヤニヤとした表情の武蔵。

 

 

 こうして足場を固め、ある意味自分を追い込んだ形として動き始めた吉野三郎。

 

 目指すは遥か東、太平洋のヘソであるキリバス諸島。

 

 

 

 しかしまだその海へ乗り出すにはクェゼリン基地が海域の首魁を獲るという大仕事が待ち受け、その一大事の為大坂鎮守府は注力する事になるのであった。

 

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。


それではどうか宜しくお願い致します。

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