それでは何かご意見ご質問があればお気軽にどうぞ。
2019/02/20
誤字脱字修正反映致しました。
ご指摘頂きましたorione様、リア10爆発46様、雀怜様、有難う御座います、大変助かりました。
「随分とここらは穏やかな海ですね、小島は多いが人の営みが殆ど無い、それに要所に警備施設がある程度で漁船の姿すら無い」
「日本という海に囲まれた立地条件の国は、深海棲艦の脅威から逃れる為の様々なデータが開戦当初から多くあった国だ、そこから導き出された答えがこれなんだろう、我が国も沿岸部から安全区域までの距離や対処の指針が定められているが、それが確定する迄かなりの時間を要した、それは沿岸に面している都市より内陸部にある都市の方が遥かに人口が多く、重要度が高かったからだ、対して日本という国は海に対する脅威が身近にあり、備えは我が国よりも更に進んでいるから利用可能な土地が狭い島国にも関わらず、これだけ思い切った疎開を可能にしたのだろうな」
「ふむ……しかしこの海、かなり厄介なエリアになっていますな」
「ほう? 流石に判るかね?」
「はい、実際航行してみて分かりましたが、ここいらの海域は見た目そこそこの広さがありますが、潮流の複雑さや島の位置、そしてソナーから送られてくる海底の形状から見るに小型船舶では影響が無いものの、中型船クラス以上の船舶が航行出来るラインはかなり限定されます、これはタンカー等で物資を輸送するのは中々管理が大変そうですな」
「ああ、太平洋戦争時原子爆弾での戦争終結を経ずに日本侵攻を実施した場合、当然この瀬戸内海は呉や関西を攻略する際、我が軍の補給物資の輸送や橋頭堡を構築するのに重要な役割を果すと予想されていた」
「沖縄戦線から攻略を展開するなら九州から進行していく事になりますからな、まぁ戦略的にそうなってきますね」
「ただ日本は本土決戦を経ずに終戦を迎えた訳だが、もしそうなっていなかった場合、我が国の兵力は予想以上の損耗を強いられていただろうという調査結果が後に上げられている、その予想の原因となった一つがこの瀬戸内海だ」
「……確かに、海戦をする広さがあると進入すれば、実際船が満足な回避を行えるのは極一部のエリアのみ、一度侵入してしまうと容易に撤退が出来ない狭い航路」
「展開するだけなら2~3艦隊分は可能だろう、しかし戦闘をするとなれば1艦隊が回避運動を取るのもやっとな海底の形状、そして左右は陸に挟まれている為伏兵はどこにでも配置は可能だ、結果やっと敵地に足を踏み込んだのに空と陸の二面をどうにかしないとならない事になる、当時の案の一つにあった瀬戸内海電撃作戦は結果として自殺行為になっていた可能性もあった訳だ」
「軍の要所である呉近海ですら大戦末期には多数の艦艇を自沈させて浮き砲台化させる程の浅瀬が存在した場所ですからな……」
「改めて足を踏み入れて思うのは、こんな場所で海戦をさせようという指揮官は馬鹿か無能位だな、
「まぁ艦娘はその限りでは無いですけどね」
「そうだな……西には呉という要塞、そしてこの瀬戸内海、そこから更に進んで漸く大阪湾か、紀伊水道を南から行くとしても現用艦では微妙に進行し辛い距離にあり、更に艦娘での迎撃なら太平洋へ即応が可能という立地、中々いやらしい位置にあるじゃないか、大坂鎮守府という場所は」
日本にある瀬戸内海という海は内海にして小島が多く点在し、海底の起伏が激しく島周辺は浅瀬が基本という海域であった。
平時瀬戸内海を行く船は外洋を往く形の物であれば航路が物理的に制限され、実際航行出来る海路は殆ど一本に集約されてしまう、そこは大型船舶が航行の際はすれ違うのも困難とまで言われている海域であった。
その為大型輸送船やタンカーの往来は厳しいタイムスケジュールで管理され、予定に無い船の航行予定を割り込ませると、状況次第では航行待ちの船が呉近海や神戸付近で渋滞になる程の事態へと発展する時もある。
フェリーや小型輸送艇の様に内海の航行を想定した造りの船舶はその限りでは無いが、結局瀬戸内海の西端付近の島が密集している海域や、鳴門海峡付近ではそもそも船自体が通れる航路が著しく制限される為に渋滞というのは無くならないのが現状である。
艦娘が単体で航行するにはサイズ的に支障は無いが、海域の特殊性から長時間の作戦行動に必要な母艦が伴えないという事情が幾らかあり、この海は基本必要以上に基地設備を島々に点在させ、防衛や補給を賄うという国内でも有数の軍事施設が多数存在する海域となっていた。
そんな海を行く一隻の軍艦、この時代にしては珍しい戦艦という船が東を目指して航行している。
その船の銘はアイオワ、アメリカが現代でも尚残す戦艦の一隻であり、第二次大戦から就役、退役、再就役を繰り返し、深海棲艦が出現した際も博物館として利用されていたこの船は、武装を再整備され前線へ送られる予定であったが、その整備を実施している最中、深海棲艦へは現用兵器が殆ど用を成さないという事実が判明してしまった為、戦闘へは駆り出されずに生き残り、主に現在は外洋へ対しての長距離輸送や要人の移動等に使用されていた。
現在米国から日本へ安全な移動をするとなれば大西洋からヨーロッパへ渡り、そこからインド洋、アジア海域を抜けて九州へ至る大回りを往くしかない。
要所の通過や時間的な物で考えるならば、通常大西洋を渡った後は陸路や大陸の中で僅かに運用されている空路を経るというのが普通であったが、今回米国は日本へ艦娘二人を送り届ける為にこの前世紀から生き残る戦艦を利用する事で資源と手間とを代償に、関係諸国へ様々なアピールをしつつ大坂鎮守府へとやってきた。
「幾ら制海権が人の手にあるとは言え、遭遇戦の可能性も普通にある、そうなれば幾ら戦艦だからといっても無事にいられる保障は殆ど無いと言うのにな、政治家と云う者は本当に御し難い思考を持つ者が多過ぎる」
パイプを咥え、目的地まで僅かに迫る海を見つつ、筋骨隆々の米国海軍の将は目を細めて煙で肺を満たすと、大柄な体に見合った量の紫煙を大量に溜息と共に吐き出すのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「改めまして遠路遥々大坂鎮守府へようこそ、貴官の来訪を心より歓迎致します」
「有難うMr吉野、出迎えから案内まで基地司令長官の貴方がわざわざして下さるとは、流石にこちらも恐縮しているところだよ」
「本国より戦艦でここまで来るという意気込みを見せられては、それに見合う対応をすると言うのが礼儀ではと思いまして」
「意気込みか……ふむ、まぁ色々とね、本来こちらの都合で戦闘艦で他国の拠点へ乗り付けると言うのは失礼以外の何者でも無いとは思うのだが、その辺りは上の話し合いで決まった事、土足でそちらの縄張りに上がり込む形になってしまったがどうか気を悪くしないで頂きたい」
大坂鎮守府へ入港した米国所属、戦艦アイオワ。
その船は再就役の際大幅な改装と、現用するに足る技術投入の実験艦としての側面があり少人数での運用と、そして艦娘の母艦としての機能を内包する為数度の改修を経て特殊な艦艇として運用されるという一面も持っていた。
武装面は嘗ての物を流用している為形状はそのままだったが、使用される弾薬や性質は支援に特化した物が多く、実弾という物は殆ど使用を想定されていない。
また艦娘母艦と言っても現在米国ではアイオワとサラトガの二種の艦娘しか存在しない為に戦闘目的で外洋へ出る事が殆ど無く、主に近海の哨戒や中継の為の橋頭堡扱いの為、船を動かす者以外の乗員は工兵隊員が殆どで、更に今回は日本の拠点への直接入港という事もあり、日本と米国の取り決めで今回はその工兵隊すらアイオワには乗り込んでいなかった。
「このご時勢幾ら軍艦であろうとも海を渡ってくるのはそれなり以上の覚悟がいる事でしょう、心中お察し致します、ジョン・バーンスタイン少将」
「しかし大坂は色々と破天荒な運用をしている拠点だと聞いてはいたが、まさか私だけでは無く乗組員全員の上陸を許可するとは思ってなかったよ、通常艦より乗組員の数が桁一つ少ないとはいえ合計ではこの拠点の人員を上回る数だ、私が言うのも何だが大丈夫なのかね? それで」
「皆さんの立ち入り区画は制限させて頂いてますし、見られて困る箇所は物理的に入れない体勢を敷いています、ご心配には及びません」
「なる程、そっちの心配をするより、こちらが
「有体に言ってしまえばそうなります、少将殿」
「ハハッ、下の者にもくれぐれその辺りは注意しておこう、それとMr吉野、私の事はバーンスタインと呼んで欲しい、所属が違うとは言え階級はそちらの方が上だ、畏まって少将と呼ばれると妙な気分になってくる」
「承知しました、Mrバーンスタイン」
にこやかに対する髭眼帯と初老のマッチョメン米国将官、二人は現在大坂鎮守府執務棟にある大会議室でテーブルを挟んで対しており、其々の後ろには艦娘が控える形で立っている。
嘗て太平洋という海で敵対し、殺しあった前世を持つ艦娘達、其々は表情にこそその色は出していなかったが、正直な事を言えば複雑な心境であった。
特に入港してきた嘗ての戦艦を目の当たりにした大坂鎮守府の艦娘達は、予想以上に
「今回は本国から色々とそちらに対する
「あ~ はい、確かに色々と……」
「その件なのだが、正直今回ウチの二人の着任に対して以外は無視して貰って構わんよ、私も色々と言い含められて来たがそれらは全部無視すると決めている」
「えっと、それは太平洋へと至る航路使用の取り決めとか、ハワイへの連絡取次ぎとかの辺りもですか?」
「そうだ、あれは一部の議員や民間からの圧力から出た要望であって、政府からの正式な依頼では無い、むしろ国益を考えるならハワイ辺りの事は今の我が国は関わらない方が良いと言うのが大方の意見になっている」
「ハワイには関わらない……ですか」
「うむ、現在我が国はやや苦しいものの自国の内需で自立している状態にある、そして僅かばかり大西洋を通じて通商を確立しているが、正直海へ出る戦力を持ってはいない」
「……確かにそうですね」
「そんな状態でハワイという島に関わるならば、大西洋を東に抜け、ヨーロッパを大回りした挙句更に日本を通じてどうにかしないといけなくなる。制海権を獲る戦力も、維持する戦力も無い今はメンツの為だけに注ぐ余裕も旨みも我が国には無いのだよ、そしてハワイの住民が今も生きていたとしても既に孤立して30年、自治政府の要人も代替わりしているだろうから米国の国民として自覚を持つ者も少なかろう」
元々アメリカの領土であったハワイとその近海、そこは太平洋の真ん中に位置し、まだ人類が海を支配していた頃は米国にとって戦力を展開する為の重要な足掛かりとなっていた。
しかし深海棲艦という存在が出現して以降、かの国には海を往く力を喪失してしまった為ハワイという領土は現在戦略的価値が無くなっている状態であった。
そして前世紀に大国と呼ばれていた国では他国へ影響力を及ぼす軍事力の中で、他国へ派遣する直接的な戦力よりも、もっと効率的で強大な力を有していた為、海洋資源と通商という面さえ折り合いが付くならその辺りに固執する必要性が無い状態にある。
大陸間弾道弾。
海を渡らずに、陸を進まずに、空の更に上、成層圏以上の空間を飛翔する兵器。
それは無限に沸く深海棲艦には決定的な戦力にならなくとも人間に対する脅威として今も変らず存在する、そしてそれらは深海棲艦からの影響を受け難いとされる兵器の一つでもあった。
幾ら超射程を持つ艦砲であろうとも、音速に近い速度を往く艦載機であろうとも空の更に上へはその牙は届かない。
その為自国の内需のみで自立が可能であり、他国への決定的な力を有する幾らかの大国は、艦娘という戦力を持たずとも今も尚世界へ対する発言力を有する大国として君臨していた、その国の一つが米国である。
「面子と言うのはある程度必要なのは確かだ、しかし今はそれより実を取る事が優先される時期にある」
「なる程、Mrバーンスタインの仰る通りで」
「本音で言うなら今回の件は国内で噴出しているその手の輩と事情が絡んだ末の折衝案だ、そして私としてはこれから先に問題になるであろうステイツの国防に於いて、今後日本の力を借りる為の楔として必要な事だと今回の事を認識して今ここに居る」
「随分と貴方はぶっちゃけた言い方をするんですね、この話に付いてはもっとオブラートに包んで様子見すると自分は思ってましたよ」
「生憎と政治は
ニヤリと笑う米海軍の将は、体躯がそう見せるのか少し前屈みになっただけでもそれなりの迫力が滲んでくる、正に
それに対しヒョロ助である髭眼帯は逆の柳に風といった感じで意に介した風でも無く、場は独特の雰囲気を醸し出していた。
「まぁそんな訳で今回は手土産としてウチの秘蔵っ子の二人、アイオワとサラを連れて来た、先に送った者達よりウチの色が濃い癖のある者達なのは我慢して貰う事になるだろうが、この二人はたった二隻で艦隊としての働きを全てをこなして来た
親指を立てて後ろに立つ二人の艦娘を指しつつ、ニヤリと何とも言えない笑いを浮かべ、やや音量を落とした声でマッチョメンの将官は髭眼帯に言葉を投げた。
「まだ我が軍には導入が殆どされていないが、日本にはカッコカリという艦娘の潜在能力を底上げするシステムが浸透しているだろ? なら更にこの二人は戦力として有用になる筈だ、おっと
「ワイフぅ? 志願兵ぃ? なぁにそれぇ?」
「日本人はそっち系には淡白と聞いているし、見た所君が相手をしている数は相当な物に見えるが……まぁ噂に聞いた話が本当なら今更二人位増えても何も問題は無かろう?」
「待って、ちょっと待って、少将何か色々誤解してるみたいだから、てか米国では自分に対する情報で何か致命的な誤解をしている気がするのは気のせいでしょうか?」
「情報戦に長けた海軍士官、イギリスのキツネに噛み付く程の向こう見ず、そして体力的に人間を大きく上回る艦娘を
「モンスターぁ!?」
「確か日本語でマスラーオという異名で呼ばれていらっしゃるとか……」
マッチョメンの言葉を受けて、何故か頬を赤らめクネクネしつつ空母オッパイがそう言い、吉野の不安度ゲージがグングン上昇していった。
「大丈夫ネー、ミー達はその辺り経験Nothingダケド、Admiralはテクニシャンだって聞いたから
「君達何のテクニシャンて印象で自分を見てるの!? て言うかそのサムズアップの形全然大丈夫じゃないからね!?」
満面の笑顔でサムズアップをするオッパイ戦艦、その突き出された握り拳には本来立っている筈の親指が何と言うか、ぶっちゃけ人差し指と中指の間から生えているのを見た髭眼帯は思わず突っ込みを入れてしまった。
マッチョメンにパツキンボイン二人がHAHAHAと笑う前で、今の話のどこに笑いのツボがあるのだろうかと、アメリカンジョーク恐るべしと怪訝な表情の髭眼帯は肩を叩かれ振り返る。
そこには何故か妙に優しい視線を向ける艦隊総旗艦と、後ろに居並びアイオワ式サムズアップをかましてHAHAHAと笑うフレンチクルーラーの姿が見えた。
「……どうしたの長門君」
「うむ、前々から計画していた歓迎会なのだがな」
「あー例のお泊り会?」
「うむ、今の話を聞くに、やはり今一度カッコカリに関しての集いを先にやっておく必要があるのではと皆と意見が一致してな」
「……ナンデ?」
「いや、既に着任した者には根回しが済んでいてな、後はあの二人に説明して意思表示して貰うだけだったんだが……」
「USAの艦は日本と色々因縁があったから問題があるかもとその辺り後回しにするつもりだったんデス、しかし今の感じだとノリノリな感じみたいデスし、モーちゃちゃっとヤッちゃった方がいいんじゃナイデスカネー?」
「何をヤッちゃうの!? て言うか金剛君もそんなサムズアップしない! むしろ既にナニを根回ししちゃったのナガモン!? 提督何も聞いてないよ!? ねぇっ!?」
こうして米国側が微妙な情報を基にした髭眼帯の人物像に対して気を回して準備してきた結果、新規着任艦が色んな意味で準備万端の状態で受け渡しされ、更に水面下で色々話を進めていたナガモンを筆頭とする艦娘達の企みが奇跡のユニゾンを果たしてしまった結果、吉野=マスラーオという二つ名がワールドワイドになってしまうという展開が待ち構えていた。
後に例の裏掲示板が海外拠点にも認知され、自動翻訳機能を備えた物へと拡大した際も「マスラーオ」というワードはある意味有名な言葉として流布され、後にネオアームストロングサイクロンジェットアームストロングAdmiralと名称を変えて語り継がれる事になるのだが、それはまだ少し先の話であった。
誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。
また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。
それではどうか宜しくお願い致します。