大本営第二特務課の日常   作:zero-45

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 花見と言うのは桜を愛でつつ鑑賞し、心穏やかに春の到来を分かち合う席である、しかしそれが宴では無く"宴会"となってしまうと桜というのは脇役に成り下がり、時として"酒宴"へと変貌してしまう、集う者達が心易い関係であればある程雅の色が失われていってしまう、そんな避けられないカオスがまだ大坂鎮守府では続行中であった。


 それでは何かご意見ご質問があればお気軽にどうぞ。


2017/04/18
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きました拓摩様、有難う御座います、大変助かりました。


大坂鎮守府花見会 -魚ちり鍋-

 

「聞いて下さいていとくぅ~ 北上さんが前髪クシャ~ ってやって来るんですよぉ~」

 

「アハハハ~ アブゥ可哀想~ まぁまぁ飲んで、ほらほらググッと~」

 

「ふむ、楽しそうで何よりだ」

 

「やぁんポーラ抱きつかないでよぉ、って酒臭っ!?」

 

「アハハハハハ~」

 

 

 コタツから酔った髭爺が出荷されていき、部屋の隅に敷かれた布団へ突っ込まれた後、コタツの上にあった危険物(おでん)の鍋が撤去された変わりに魚介が具沢山な寄せ鍋がセットされる。

 

 それが煮えてちまちま髭眼帯が摘み始めた頃に前髪がクシャーされたアブゥが涙目で避難して来る、そしてマグナムサイズのワインボトルを片手に千鳥足で室内を徘徊していたポーラが鍋の匂いにつられてフラフラと寄って来て、更にいつの間にか生えてきた日向が日本酒をチビチビやりつつ鍋をつつき始めるという提督のコタツ。

 

 

 一人静かにという考えは無いが、組み合わせとしてはチャンポン染みた卓は、ハハハと吉野が乾いた笑いを漏らす程には混沌としていた。

 

 

「阿武隈君その……逃げて来るのはいいんだけど、提督のドテラに潜り込むのはヤメテ?」

 

「だって外に出たら前髪クシャーされたり酔っ払いが絡んで来るんだもん」

 

「うんまぁ何と言うかえっと、ポーラ君もボトル直で飲まないでグラス使いなさい」

 

「まぁそうなるな」

 

「って師匠はお魚フーフーする代わりにズイウンのプロペラでプルプルしない!」

 

「む、何故だ」

 

「いや風力強過ぎてアブゥの髪の毛ブワーってなってるデショ! て言うか汁! 汁提督に飛んでくるから!」

 

「まぁそうなるな」

 

「ほらほら提督ぅ、飲んで飲んでぇ~」

 

 

 緊急避難の為アブゥが髭眼帯のドテラにINした為に不細工な二人羽織が完成し、ヨッパーなイタ艦がマグナム(ワインボトル)を突きつけてくる、そして一人自分の世界を構築する師匠はズイウンを利用して器の具材を冷ましたり、時折ズイウンをアブゥに向けて前髪を狙うという場が展開する。

 

 

「ふむ、クマリンコはズイウンが嫌いか? 航巡なのに」

 

「あたしは三隈ちゃんじゃなくて阿武隈ですっ!」

 

「そうか、その……クマ、ズイウンはどうだ?」

 

「いや師匠、ズイウンはどうだって抽象的な問いは一般人にはハードルが高いんじゃないかって提督思います」

 

「そうか、ならクマー、VLSというのを知っているか?」

 

「それ平仮名の"ひゅうが"に搭載してる武装じゃない!? あたし達艦娘のアイディンティティどこいったの!?」

 

「うむ? クマーには話題が難しかったか?」

 

「いや難しいとかそんな次元じゃない気が……って日向さん昼からあたしと同じ卓で喋ってたでしょ、何で名前覚えてないの?」

 

「む? そう言えば誰かと話をした覚えはあるが」

 

「目の前にずっと座ってたでしょっ!? ほら昼頃もずーっと瑞雲の話に付き合ってたじゃない!? ねぇあたしの事忘れたの!?」

 

「うん? そう言えばずっと誰だコイツと思いつつ誰かと話してた記憶はあるんだが、何だあれはクマーだったのか」

 

「酷いっ!」

 

「あー阿武隈君、師匠って壊滅的に人の顔とか名前覚えるの苦手だから……」

 

「苦手では無いな、覚えるのが面倒臭いだけだ」

 

「なにそれ……じゃこの人の名前は?」

 

 

 怪訝な表情のアブゥはドテラからもそもそと這い出てきてピコッと髭眼帯を指差すが、それに対して師匠はフッと鼻で笑いながら当然だろうと答えて杯の酒を(あお)った。

 

 

「提督だ」

 

「うんそのそれ自分の役職と言うか立場的な名称で名前じゃないから」

 

「……ふむ?」

 

「師匠……もう十年以上大隅さんとこで一緒してたのに……やっぱ覚えて無いんだぁ……」

 

「いや、知っているぞ……確か……そう、サブちゃん?」

 

「日向さん……それ提督のあだ名、むしろ何でそれに疑問符付くの?」

 

「えっとぉ……じや師匠……この酒かっ食らってゲラゲラ笑ってる人は?」

 

「剛田だな」

 

「それどこのジャイアンなの!? て言うかポーラだから! せめてカタカナ読みの名前で呼んであげて!」

 

「そうか、すまんなゴーダ」

 

「もぉぉ何なのこの人ぉー!」

 

「アハハハー、おもしろぉ~い……ングングング」

 

 

 壊滅的に面倒臭がりの伊勢型二番艦は超マイペースな気質も相まって、興味の無い物にはとことんスルーする性質の艦娘であった。

 

 そして師匠と髭眼帯の間では何故か悶えつつゴロゴロ転がるアブゥと、ゲラゲラ笑いながらワインをラッパ飲みするイタ艦というカオス。

 

 

「アハハハハー! ハ……オエッ」

 

「む? どうしたコーラ」

 

「カタカナにすれば何となく合格とか思ってない日向さん!? ってポーラがーー!」

 

 

 髭眼帯に代わりツッコミ役になってしまったアブゥはまるで信号機の如く顔色を変化させるポーラを抱え、そのまま部屋の隅へトランポしていった。

 

 そこはまるでスクラップ置き場の如く潰れてしまった者達が布団に突っ込まれており、その中に白目を剥いたイタ艦も入渠する事になった。

 

 

「も~吐くかと思ってバケツ持って行ったらそのまま轟沈してるしぃ、何で私が介抱しないといけないのよぉ……ってゲッ!?」

 

「ん~? なにぃ? 人の顔見てゲッて失礼だな~」

 

「北上さん……」

 

「外に居たら駆逐艦達がわらわら寄って来てさ~ 鬱陶しいから提督のとこに来たんだよ~ ほらアブゥもそんなトコに突っ立ってないで座んなよぉ」

 

「何だクマさん、魚雷の人は苦手なのか」

 

「結局あたしの名前クマになったのね、て言うかナニ魚雷の人って……」

 

「あーまぁ間違っては無いよねぇ」

 

 

 あからさまに警戒姿勢のアブゥはそろそろとコタツに入り、ジト眼で北上様との距離を取っている。

 

 因みに彼女は前髪を硬くガードする姿勢に入っているが、先程より師匠のズイウンにプルプルされたお陰でどっちにしても守るべき前髪はクシャー状態になっているのだが、アブゥ的にはまだ守らないといけない何かがそこにある様だった。

 

 

「また前髪クシャーするつもりなんでしょ……」

 

「んー? もう面倒だからそんな事しないよぉ、それとももっとして欲しい訳?」

 

「ほらやっぱりクシャーするつもりなの!? そうなのね!?」

 

「あーもー面倒だなぁ、ねぇ提督さー、どう思うこれぇ?」

 

「いや北上君も彼女に警戒させる事してたんじゃないの?」

 

「そんなに酷い事したつもり無いんだけどなぁ」

 

「会う度に前髪クシャーするじゃない、今日なんかオールバックになるまで後ろから掻き上げるし!」

 

「オールバックぅ?」

 

「日向さんの瑞雲から風がビーャーっとしてきて、北上さんが後ろから前髪掻き上げてきて、もーセットし直すの大変だったんだからぁ」

 

 

 平時より異常に髪型に固執するアブゥのそれは物凄く特徴的であり、またそこに並々ならない拘りがあるのかカッチリとそれは固められていた。

 

 そんなアブゥヘアーが無残にもオールバックにされたと聞き、吉野はその様を想像してみたが、色んな意味で惨い情景が思い浮かんでしまった為に、クシャーされたアブゥを直視出来ずプイッと横を向き、目頭をそっと拭うのであった。

 

 

「まぁそうなるな」

 

「イジり過ぎでしょ二人とも……」

 

「うん? 私はただズイウンの素晴らしさを説いていただけなのだが……と言うか君あの時居たのか?」

 

「だーかーらぁぁ目の前にずっと居ましたっっ!」

 

「まあ………前髪は…そう…まあ…そうねぇ…」

 

「やぁぁぁん! やっぱり前髪クシャーしたぁぁ! 提督助けてぇ!」

 

 

 再び涙目になったアブゥが髭眼帯の所に避難しようとダッシュしたが、結局彼女は安全地帯へ潜り込む事が出来ずドテラの裾を持ったまま固まってしまい、更には何故かプルプルと震え始めた。

 

 

 そんな涙目のまま震えるアブゥに何事と思い吉野が振り向いた先には、早くもパジャマにお着替えして仁王立ちの榛名の姿が見える。

 

 そのパジャマと言うのは例のトラさんの着ぐるみと言うか、某タイガースのマスコットと言うか、トラッ○ー的な頭装備から顔が出ているという例のパジャマである。

 

 そんなト○ッキー的な榛名は殺気を漂わせてフラフラと髭眼帯へと近寄ってくる。

 

 いつもはニコニコしている相は海でステゴロをカマす際に見せる、何とも言えない殺る気満々な笑いを(たた)えた物であり、コミカルかつ珍妙な格好のまま背中に殺意の陽炎を立ち昇らせて近寄って来る様は、色んな意味で命の危険を感じさせるには充分なビジュアルであった。

 

 

「……勝手は……はるにゃが……許しましぇん!」

 

「怖っ!? ってむっちゃ酔ってるぅ……」

 

「阿武隈、ご期待に応えられませんっ!」

 

「ちょっアブゥ!? 逃げんの早っ!? て言うか榛名君大丈夫なの!?」

 

「ふぁい、はるにゃは大丈夫れす!」

 

「全然大丈夫そうじゃないよ!?」

 

 

 千鳥足でテコテコ近付いてきた榛名はそのまま髭眼帯の横からコタツへ無理矢理INすると、師匠の徳利を奪ってゴクゴクとそれを飲み干した。

 

 そしてキスカ島撤退作戦ばりに奇跡的な脱出を果したアブゥはコタツの反対側にINし、プルプルしたまま丸くなってしまった。

 

 

「まぁ、そうなるな」

 

「ナニガ!? 何がそうなるの!? て言うか師匠困った時はそのセリフ言っときゃいいとか思ってるデショ!」

 

「ところで提督」

 

「何?」

 

「その……トラッ○ーは誰だ?」

 

「いや榛名君でしょ!? 師匠前世の最後辺りは呉で彼女とも一緒に戦った仲なんじゃないの!? 覚えてないの!? ねえっ!?」

 

「……言われてみればそんな感じのヤツがいた気がしないでも無いな」

 

「何そのふわっとしつつも結局覚えてないから話を合わせとこう的なニュアンス!?」

 

「VLS? いや、そんな武装は知らんぞ?」

 

「さっきアブゥにその話題振ってたデショ!? 何誤魔化そうとしてんのっ!?」

 

「……ふむ、これはいいものでしゅね」

 

「イッタァィ!? 榛名君も妹のセリフ呟きながら提督の腕に全力でしがみ付くのヤメテッ!?」

 

 

 今日はアブゥがイジられる日なのかと油断し緩く談笑していた髭眼帯であったが、結局いつもの運命から逃亡する事は適わず、酔った勢いで腕を組んできた榛名の手加減無しのパゥアーに悶絶するというカオス。

 

 そして再び鍋の中身を器に移し、それをズイウンでプルプルする師匠からはアツアツの汁が飛び散り追い討ちが掛かるというコンボ。

 

 

「アッツイッタァアィ! アブゥヘルブ!」

 

「分かったわ! あたしの力が必要なのね! でもムリ!」

 

「う~ん、やっぱ難しいよね~助けるの」

 

「はるにゃ……感激れす!」

 

「まぁ、そうなるな」

 

 

 こうして花見の宴も(たけなわ)、結局何かしらのトラブルと言うかそんな状態になってしまう髭眼帯は、この後ト○ッキー的なはるにゃに暫くアームロック染みた状態で腕にしがみ付かれ、定期的にズイウンのプルプル汁攻撃に苛まれながら体力をゴリゴリ削られていくのであった。

 

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。


それではどうか宜しくお願い致します。

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