大本営第二特務課の日常   作:zero-45

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 経験とは時間の積み重ねと言い換えられる、それはある程度の物だと人生の一部とも言える。
 他者より経験を積み、それが生かせる者ならば頼られる存在となるだろうが、積んできた時間は全て平坦では無く、喜怒哀楽に塗れている。
 強いが故に戦い方に秀で、強いが故にそこに至る迄の時間は長く、それに比例して無くした物も悲しみもそれなりなのは不可避では無いだろうか。


 それでは何かご意見ご質問があればお気軽にどうぞ。


2019/03/13
 誤字脱字修正反映致しました、リア10爆発46様、タマネギデスヨー様、鶴雪 吹急様、有難う御座います、大変助かりました。


どこかで繋がる線、繋がってしまってる線

「珍しいな、お前が人目も憚らず荒れているとは……チビ共(駆逐艦)が怯えていたぞ?」

 

「……ああそうか、ふむ……それは良く無いな」

 

 

 大坂鎮守府西端演習海域横。

 

 厚い雲に覆われ鉛色になった世界を見る艦隊総旗艦へ大和型二番艦が声を掛ける。

 

 共に大本営第一艦隊旗艦を努め、そして師と弟子とも言える二人が雨の降る中傘も差さずに並んでいた。

 

 

「言葉の割には全然その話に気がいってない様だが……これはどうした物か、艦隊総旗艦殿がそれでは周りが不安がるだろう? なんなら聞いてやろうか? そのしかめっ面の理由をな、師匠(・・)

 

「お前にその呼び方をされると色んな意味で背に冷たい物が走るな、何か企んでいるのか?」

 

「酷い言われ様だな、まぁしかし何が原因でそうなっている(・・・・・・・)かは知らんが、一戦でもぶたなければ収まらんという空気がダダ漏れなのは確かだな」

 

「そうか…… 半人前に(・・・・)そこまで言われるとは、まだまだ私もその辺りは修行が足らんと言う事か」

 

「はっ……ずっと引き篭もってた挙句、無理矢理担ぎ出されて復帰したロートルと、その間もずっと最前線を張っていた私との間には技量的な点に於いてもう立場は逆転していると思うのだがな? どうだ()大本営第一艦隊旗艦殿、その辺りちょっと試してみようとは思わないか?」

 

「その差は第二改装を受けた事で無くなっているよ、しかし挑まれれば応えねば戦艦の名折れと言うものかな…… お前がそうしたいなら戦ってもいいぞ、()大本営第一艦隊旗艦」

 

「……海域の使用許可なら既に取ってある」

 

「そうか、なら出撃()るか……」

 

 

 誰も居ない岸壁で淡々と言葉を交わす二人は静かにだが、それでも第三者が割り込めない空気を纏いつつ、艤装を召還(背負い)、濁った大阪湾へと抜錨した。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「あーちょい待ち二人共」

 

「んだよ龍驤、あたしら提督に用があるんだよ、話なら後にしてくれよ」

 

「せやから待ちぃ言うとるんや隼鷹、ほんで飛鷹もや、二人して司令官はんのとこ行って何の話するつもりなんや」

 

「貴女には関係ないわ、私達はただ提督にちょっと話を聞きたいだけよ」

 

 

 海へ長門と武蔵が抜錨しようとしてる頃、執務棟の廊下では飛鷹型軽空母の二人が殺気を漂わせて提督執務室へと歩いていた。

 

 それは隼鷹が怒気を撒き散らし、飛鷹が静かな見た目という正反対にも見える状態であったが、それでも腹に抱えるのは同じ程に、煮えくり返ると言う程の一物を湛えている物であった。

 

 既に二人は執務室の扉が見える程の場所にまで来ており、障害が無ければ大股で歩く隼鷹ならば二十も歩けば扉に手を掛けるという程の距離。

 

 それを後ろから追い駆けてきた龍驤が呼び止めての一問一答となっている。

 

 

「お前らが聞きたいっちゅー話やったら多分ウチも知っとる、確認したいだけやったら司令官とこいかんでも事足りるで」

 

「話を聞くだけじゃ収まらねぇから出張ってきてんじゃないか、邪魔しないで欲しいねぇ」

 

「せやから待ちって! んなカリカリした状態でちゃんとした話になるんか?」

 

「それは提督次第ね」

 

「はぁもぉお前らなぁ…… 色々言いたい気持ちは判るけど、その話って司令官と長門の問題やろ、部外者が口出す事とちゃうで」

 

 

 龍驤の「部外者」という言葉に反応し、怒りの相で振り向いた二人の視界には苦笑を表に貼り付けたエセ関西弁軽空母と、間の悪い事にその少し後ろ、今話という名の怒鳴り込みを掛けようとしていた相手である髭眼帯が怪訝な表情で歩いてくるのが見えた。

 

 

「……何してんの君ら?」

 

「あっちゃぁ……何してんとちゃうで司令官、何でそんなとこに居るん?」

 

「いや何でって……ちょっと茶菓子が切れたから買い出しに」

 

「茶菓子て……あんなぁキミィ……」

 

「なぁ提督、ちょっといいかい?」

 

「うん? どしたの隼鷹君……に飛鷹君」

 

「ちょっと確認したい事があるの、構わないかしら?」

 

「うん? 別にいいけど、んじゃ執務室に来る?」

 

「あっちゃー、もーわやくちゃやん、どないすんねんこれぇ」

 

 

 色々と気を利かせて右往左往していたまな板の努力は髭眼帯のお使いという、鎮守府司令長官にあるまじき行動の為に無駄になり、そのまま執務室に怒り心頭の飛鷹型二人を招いての話し合いという物が開幕するのであった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「今度提督が行くって場所、北極海って聞いたんだけど」

 

「あーそれね、うんまだちゃんとした日取りは決定してないけど、ちょっと行かないといけなくなっちゃってねぇ」

 

「いやちょっとそこまで散歩みたいにってさ、軽く言うのどうなんだよそれぇ?」

 

「だって、別にドンパチしに行く訳じゃ無し、相手に話を聞きに行くだけの予定だからさ」

 

「……ねぇ提督」

 

「うん? なに?」

 

 

 執務室内の畳敷き区画には吉野が買ってきた煎餅だの最中等が並び、それを囲む様に飛鷹型姉妹に髭眼帯、そして秘書艦ズの三人がちゃぶ台を囲んでのお茶休憩という形で話が進んでいた。

 

 その雰囲気はやたら抜けた空気になっており、秘書艦ズも其々自分の好きな飲み物持参で卓を囲み、飛鷹と隼鷹の怒りオーラが無ければ正にそれは仕事の合間に繰り広げられる休憩という絵と言ってもおかしくは無い雰囲気となっていただろう。

 

 そんな卓を囲む者達の間に漂う、やたらと温度差のある空気に眉間に皺を寄せた飛鷹が低く、静かに、しかし誰が見ても攻撃的として表現が出来そうな佇まいで言葉を口から漏らしていた。

 

 

「ちょっと色々と、真面目な話がしたいんだけど……これ、どうにかならないかしら?」

 

「これ?」

 

「このお茶会みたいな空気」

 

「ん? 三時の休憩しつつじゃ出来ない話? 人払いした方がいい?」

 

「……別に」

 

「んならまぁ丁度いい時間だし、茶菓子も補充した事だからそれでも摘みながら話をしようか」

 

「あのなぁ、提督さぁ」

 

「北方棲姫との接触の件かな? 聞きたいのは」

 

 

 ちゃぶ台に両手を付き腰を浮かせ、身を乗り出そうとした隼鷹を吉野の言葉が出鼻を挫じく形になる。

 

 それは極軽く、あっけなく口から出た物であるが、その言葉を聞いた飛鷹型姉妹は怒りを抱えたまま固まってしまった。

 

 

「多分君達も聞いてるだろうけど、自分は色々残っている調整や雑務が片付き次第日程を調整して、現在北極点に居るとされている北方棲姫と接触する為少し鎮守府を空ける事になる」

 

「ああ聞いてるよ、何でもそれって泊地棲姫からの情報だってねぇ、んで? それはいいんだけどさ、その北方棲姫のトコには接触……つまり話を聞きに行くって事なんだよな?」

 

「そうだね、まだその辺り正直どうなるかって事は流動的だけど、可能なら色々と情報を聞き出したいとは思ってるよ」

 

「……つまりそれって、相手を駆逐するという事じゃなくて、可能なら泊地棲姫と同じく関係を持ちたいと……提督はそう言う訳?」

 

「んーどうだろう、関係云々は本当にどうなるかは予想付かないんだけど……」

 

「聞きたいのはそう言うことじゃないの! 提督自身は北方棲姫と戦うつもりがあるのか無いのかって事を聞きたいのよ!」

 

「あーそれね、今んとこ戦う理由は無いかな」

 

「ちょっと待てよ……戦う理由が無いだって? その北方棲姫が昔長門の艦隊を壊滅させたあの(・・)北方棲姫だって判ってて……提督はそう言ってんのかい?」

 

「まあ、そうだね」

 

 

 吉野の言葉に今度こそ立ち上がろうとした隼鷹の服を掴み、それでも肩を震わせて飛鷹が睨む。

 

 

 泊地棲姫より齎された情報にあった、"全てを捨てた者"と呼ばれる深海棲艦上位個体、それは嘗て日本を含む北半球の至る処を攻め、一時期は全ての深海棲艦の内最も広い海を支配したという存在、名を北方棲姫。

 

 それは昔長門が率いる大本営第一艦隊が南洋より転戦し、結果妹の陸奥を含めた僚艦達を沈め、一時は彼女を戦いから遠ざける原因となった深海棲艦であった。

 

 

「それを知ってて……提督はこの話を進めるつもりなの?」

 

「うん、そのつもりだけど」

 

巫山戯(ふざけ)てるの提督? それって陸奥や……あの第一艦隊の仇を相手にのうのうとお話をしに行くって事じゃない、それじゃ長門の気持ちはどうなるのよ?」

 

「それは既に長門君には伝えてある、そして必要なら話し合いの場を持つべきだろうという返事も貰っている」

 

「アイツの立場じゃそう言うしかないだろっ! アンタそれ判ってていけしゃあしゃあとそんな事ほざいてんのかい!」

 

 

 当時人類が初めて対峙した深海棲艦上位個体、後に姫級と区分される事になった北方棲姫、それは嘗て飛鷹と隼鷹を南海の地獄から生還させ、その為に懲罰的な意味合いを含む作戦として、不完全な備えで戦うしかなかった大本営第一艦隊を壊滅させた存在。

 

 そして責任こそ無いと長門からは言われていたが、ほんの僅かでもその艦隊の壊滅の原因となってしまった事を今も後悔している飛鷹と隼鷹は、当時無念であったろう長門が今腹に抱えている気持ちを代弁するかの様に、髭眼帯へ食って掛かる。

 

 それは彼女に命を救われたという理由もあるが、それと同じ程に、あの戦いでは共に一度は死を受け入れ、それでも生還を果し、その経験から当時軍部より受けた仕打ちが不信感という形で心の底で燻り続け、その結果が今回二人をこんな行動に駆り立たせたという経緯もあった。

 

 吉野が率いる大坂鎮守府、それは艦娘主体のある意味今までに無い形の拠点であり、普通の拠点では邪魔者としてしか評価されなかった艦娘達でさえ「本人が希望する形」で戦力として使うというハンデを背負っても尚、今の軍部の中核まで成り上がって来た手腕を評価してきた二人にとって、今言った言葉は裏切られたという想いも強く、色んな意味で受け入れ難いという心境が今二人の心を占めていた。

 

 

「なら参考程度に聞いておくけど、君達は自分にどうすべきだと言うのかな?」

 

「んなもん決まってるじゃないか!」

 

「鎮守府二つに基地二つ、この大所帯を抱えた状態で個の都合から全てを引っくり返し、戦わなくても良い戦いを始めて多数の犠牲を強いろと?」

 

「そこまで言ってないわ、でも今回のはあんまりだと思わない? ねぇ、大義の為には個人の心なんか踏み(にじ)ってもいいって提督は言う訳?」

 

「……お前達の言う"個"とは、一体誰の事言っているんだ?」

 

 

 そろそろ隼鷹だけでは無く飛鷹すら腰を浮かせ始めた時、ノックも無しにドアから入ってきた者が吉野に食って掛かっていた二人に言葉を浴びせ掛ける。

 

 その剣呑ともとれる声色に反応した者達が見る声の主は、濃紺の外套を羽織り、しかしずぶ濡れで、そして今さっきまで戦場で戦ってきたのかと言う程にボロボロになった大坂鎮守府艦隊総旗艦であった。

 

 全身は派手な蛍光色のペイント液に塗れ、打撃痕と思われる傷であちこちから血を流し、片側は内出血の為だろう赤くなったで目で睨む様は室内の者を黙らせるには充分過ぎる程に惨憺(さんたん)たる姿だった。

 

 

「答えろ飛鷹、隼鷹、お前達の言う"大義よりも重い個の心"とは誰の物を言っている?」

 

「え……それはっ……てちょっ長門、アンタなんて姿で……」

 

「あー先にバケツ引っ被ってから行け言うたんやけど、聞く耳もたんかってん……」

 

 

 ボロボロの長門の後ろでは、恐らく飛鷹姉妹が執務室に怒鳴り込んできた件を収める為、長門を呼びに行ったのであろう龍驤が何ともバツが悪そうな表情で控えていた。

 

 

「……武蔵君は?」

 

「入渠施設に放り込んできた、心配はいらない」

 

「あーそうなんだ、てか君も入渠した方がいいんじゃないかって提督思うんだけど」

 

「このバカ共をどうにかした後はそうさせて貰うさ」

 

「バカ共って長門、アンタ今度の件で納得してるの? こんな理不尽な話って無いでしょ?」

 

「納得なんかしていない、理不尽だとも思っている」

 

「んじゃ何で文句の一つも言わないのさ! なんで我慢なんかしてんのさ! 陸奥の仇取りたいんだろアンタ!」

 

「仇を取りたいに決まってる……戦いたいに決まっている、でもその気持ちは私の物だ、お前たちの物なんかじゃない」

 

 

 赤く充血した瞳は怒気に染まり飛鷹姉妹に向けられていたが、そこから流れる血はまるで(こら)えた涙の代わりの如く筋となって頬を伝い(したた)り落ちていた。

 

 

「その悔しさも、無念も、そしてそれらを天秤に掛け、艦隊総旗艦として提督へ返答した……その私の心のどれもこれもは他の者が口を挟んでいい物なんかじゃない、私だけの物だ!」

 

「おい長門……それじゃ陸奥達が浮ばれないって」

 

「黙れと言っている! お前に陸奥の、私が大義と引き換えに捨てたアイツ達に対する想いを、私以外の者が口にするのは侮辱以外の何物でも無い!」

 

 

 呆気に取られる隼鷹の襟首を掴み、鼻が付く程に顔を寄せた長門は歯を食いしばり、そして腹の底から怒りを乗せて言葉を吐き出し続けた。

 

 

「お前に何が判ると言うんだ、私の過去を、悔しさを、無念を知ってて尚提督が相談もせずに敢えて決定した形で私にこ(・・・・・・・・・・・・)の話を伝えた意味を(・・・・・・・・・)、お前たちは理解出来ると言うのか!」

 

 

 殺気にも似た視線を向けたまま腕を振り払い、そして長門はそのまま誰を見る事も無く踵を返し部屋を後にする、そして飛鷹姉妹は呆気に取られたままに、龍驤はそれを盛大な溜息を吐いて見送った。

 

 

「うちも艦隊総旗艦張っとったから言えるんやけどな、その立場に就くっちゅーんは他の責任者と全然ちゃうんや」

 

「……何が?」

 

「全部や、考え方も立ち位置も、やらなアカン事もなんもかんも全部ちゃうんや、うちらは自分の考えを口にすんのは別にかまへん、それが何でか言うたらな、うちらが何か言うても最後にそれを決定するんは司令官やからや、せやけど長門の言葉はちゃう、アレはある意味司令官が居らんかったら何もかんも決定する権限を持っとる、ついでに言えばアイツは艦隊指揮を全部任されてるんやから尚更や、ヘタに司令官が言う事に否なんぞ言うたらそれが通ってまうかも知れん、せやからヘタな事は言えんのや」

 

「だからって……今回みたいな理不尽が通っていい訳無いじゃない」

 

「お前ら二人から見ればそうなんやろな、せやけど他のモン……特に他拠点のモンとか、もっと上のモンとかからしたらそんな都合なんぞ通らへん、艦隊総旗艦やからこそ理不尽を噛み殺さなアカンねん、それを外野のお前らがやいのやいの言うたらアイツの立場が無いやんか」

 

「何だよそれ、何もかんも我慢しなきゃなんねーってのかよ……そんなのあんまりじゃないか」

 

「そうやな、あんまりな立場やな、せやけどアイツに理不尽を言えるんは司令官だけの特別や、その理不尽を言われるんも艦隊総旗艦だけの特別や、その特別に物言えるモンはだーれもおらん……例えそれが、死んでしもた妹でもや」

 

 

 龍驤の言葉は理不尽極まりない関係を吐露した物だった、しかし実際それは個よりも集団が優先されるのが当たり前の軍に於いて、融通が利かない立場の者を如実に表した言葉でもあった。

 

 縦社会でありピラミッド構造のそれは、上に行く程足場は狭く、そして多様性を欠いていく、頂点に近い部分が少しでもブレればそれを支える下はバランスを取る為動かねばならず、そして底辺へ行く程その幅は大きくなる。

 

 故に上に立つ者は一度動くと決めたなら、その決まった方向を軽々しく変えたりする事は出来ない。

 

 

「下へ行く程権限は無くなる代わりに心は自由に、上に行く程出来る事は増えても心は不自由になる……ままならないモンだよねぇ」

 

 

 龍驤の言葉に対し今も何か言いた気な二人を余所に、髭眼帯はよっこらせと立ち上がり靴を履き始める。

 

 

「様子、見に行くの?」

 

「ん、思ったよりもやらかしちゃったみたいだからねぇ、それにあの感じだと、ちゃんと釘刺しておなかいと入渠施設でまたあの二人ドンパチしないとも限らないし」

 

「それじゃ僕も付いてくよ、提督じゃ入渠施設の中に入れないでしょ?」

 

「……いつも時雨君には苦労を掛けるねぇ」

 

「それは言わない約束だよ、おとっつぁん」

 

 

 重々しい話をした直後としては軽い雰囲気のままの髭眼帯は、小さな秘書艦が後ろをチョコチョコと付いて行く形で部屋を後にしようとし、それを見ていた残りの秘書艦ズは苦笑を(こぼ)して後片付けを始める。

 

 

 そんな様を見て所在無さ気な飛鷹型の二人に、執務室のドアを開け放った髭眼帯は振り返りもせずボリボリと頭を搔く仕草を見せた。

 

 

「彼女が悔しさも無念も自分だけの物だと言うのなら、それは自分が背負う事はさせて貰えない物なんだろう」

 

 

 突然トーンが下がった言葉にその場の者は頼りないヒョロっとした背中に注目する。

 

 

「なら自分は彼女の悔しさも、無念も、全て勝手に負い目として心に刻んでいく、自分の罪から彼女に背負わせた理不尽は、絶対に忘れない」

 

 

 そう言うとそのまま振り向きもせず執務室を後にする。

 

 

「うちも色んな阿呆(あほう)を見てきたけど、ここの連中は皆飛び抜けて阿呆(あほう)やな……ホンマやったら切り捨てていくべきモンを、全部拾うていこうとしよる……ポケットに入る嵩は知れとんのに、パンパンになっても無理に突っ込もうと無茶しよる」

 

「まぁそれがウチのカラーなんだったらしょうがないよね、特に上の連中はその気があるから。あ、飛鷹に隼鷹」

 

「……何?」

 

「ちょっと今こっち手が離せないから、長門がビトビトにしちゃったここまでの廊下の始末、頼めるかな?」

 

「は? え? 何であたしらが?」

 

「いや君達があーだこーだ言いに来たからこうなった訳だし、ならその責任は当然取らないといけないんじゃないかい?」

 

「ちょっと隼鷹……」

 

「なにさ?」

 

「龍驤いつの間にか居なくなってるんだけど」

 

「ちょっマジで? うわホントだいつの間に……」

 

 

 

 こうして梅雨の土砂降りの中、執務棟入り口から階段を経た執務室までの長い長い距離を、怒りに任せビトビトにしてしまったビッグセブンの代わりに軽空母姉妹へ指示して雑巾でゴシゴシさせたハラショーと、入居施設で一悶着起こしそうになったタケゾウとナガモンを処す時雨という二人の秘書艦の活躍が光る影で、お茶会の後始末をするカンジの地味な仕事に就く親潮という、色んな意味でいつものという結果で終わった大坂鎮守府があったという。

 

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。


それではどうか宜しくお願い致します。

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