大本営第二特務課の日常   作:zero-45

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 夏、それは着る物が軽装になる季節。
 夏、切る物と共に気分も軽くなる季節。
 そんな季節は日本にも訪れる、そして艦娘と言えどその季節はやはり暑く感じ、人と同じく涼を求める行動に走る。
 そんな季節に差し掛かる大坂鎮守府、戦いの合間に行われる催し。
 それは戦士の休息であり、心休まる彼女達の日常の一時であった。


 それでは何かご意見ご質問があればお気軽にどうぞ。


2019/02/20
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きました黒25様、有リア10爆発46様、sat様、雀怜様、難う御座います、大変助かりました。


水辺の彼女達・いち

「ねぇ君達何してんの?」

 

 

 梅雨明けを目前に控えた大坂鎮守府、人工島の中央に走る運河では数名の艦娘が集い、何かを片手におかしな行動を取っていた。

 

 

 大阪鎮守府は元々関西国際空港を要塞化した人工島である。

 

 それは一期、二期に別けて施工され、二期工事の際拡張されたエリアは既に稼動していたエリアと分割された形で施工された為に、島の中央には埋め立て用土砂を搬入したり建材を運び入れる為の船舶が広い範囲で着岸可能な様、敢えて一期工事で完成していた島と分離する形で施工がされた。

 

 その為二期工事が完成した際は人工島が二つ並ぶ形で空港は完成し、双方を隔てる水路状の部分は埋め立てられず敢えて残される形となる。

 

 その名残が現在の大坂鎮守府の中央運河であり、そこは現在重要物資を施設群へ搬入する為に利用されたり、機密性の高い兵装のテストをする為に使用されている。

 

 全長750m、幅80m、水深35m、運河の途中と北端には巨大な可動式水密扉が三箇所設置され、有事の際はそれが迫り上がり運河は3ブロックの区画に分割され、また各ブロック毎に排水する事で外部からの進入が出来なくなる造りになっている。

 

 またその扉を閉じる事により海からの影響を受けなくなる為、兵装試験が容易になるという副次的効果も発揮する。

 

 そして運河南端は艦娘用の出撃ドックで蓋をする形になっており、運河へは北側からしか進入が出来ない造りになっている。

 

 

 そんな運河は鎮守府運営上ある意味重要な役割を担っていた。

 

 

 元々娯楽という物が少ない軍事施設、日々軍務に追われる艦娘に対し、ここ大坂鎮守府では平時に限ってではあったが他拠点よりも厳格に業務時間の厳守をさせる事により、プライベートの時間という物を意識させた生活をさせている。

 

 そのプライベートを各人がどう使うかは自由であり、日々軍務以外にその時間を何に使うかという事を自主的に行わせる事により、自己の判断力と個性を養い、同時に「権利と義務」という物を自然に身に着けさせるという運営をしていた。

 

 与えられた時間はそれまで軍から命令されるだけの「考える」という物を排除した生き方とは違い、テンプレート化された行動が顕著に見られるのが特徴と言われる存在の艦娘にあって、大坂鎮守府所属の艦娘達はある意味異端的な、言い換えれば「人間臭い」存在となっていった。

 

 

 身に纏う着衣の形状に拘り、流行と言う物に敏感になり、自己の欲求の為に行動し、季節や節目ごとに何かのイベントを企画する。

 

 

 そんな大坂鎮守府の艦娘が自主的に行う季節イベントの一つ「海開き」。

 

 

 沖合い5kmに浮ぶ人工島には海岸という浅瀬は当然存在しない、しかしその代わりに時間指定で鎮守府の中央運河は扉を閉鎖して「海水のプール」という形で開放される事になり、その時間帯は誰もがそこを自由に利用しても良い事になる。

 

 その夏季限定のイベントは、梅雨明け前に一端海水を抜いて水路内の大掃除が行われ、壁面に付着した貝や苔等を清掃して利用者の安全を確保すると共に、運河の定期メンテナンスという物を兼ねる物となっていた。

 

 

 そんな運河の清掃は既に終了し、今日は滅多に稼動させない水密扉の試運転をしている最中であったが、その様子を見に来た髭眼帯は水辺に立つ者達を見て怪訝な表情で眉を思いっきり顰めていた。

 

 

「あ、しれぇ!」

 

「様子を見に来られたのですか? お疲れ様です」

 

 

 髭眼帯の言葉に反応した子犬(時津風)はてててと駆け寄り、メンテナンスの指揮を執っていた妙高がニコリと微笑み返す。

 

 

 二人とも水着に身を包んで。

 

 

 まぁ作業が濡れたりする事を想定すればその格好は百歩譲ってアリかもしれないと言えるかも知れない。

 

 しかしまだ気温が高くなったからと言っても30℃にも満たなく、水着では少々肌寒いのでは無いかと思われる現状。

 

 体温調節をしてくれる艤装も装着してないのなら寒くは無いのだろうかとか、何で揃いも揃って皆水着で行動しているのだろうとか。

 

 

 それ以前にハイレグで際どいビキニとか紐と言う表現が出来そうなソレは何なのかと言う感想が髭眼帯の正直な気持ちであった。

 

 

 そんな色々な疑問が運河脇の水辺で広がる光景を見た髭眼帯の表情に繋がっていたりした。

 

 

「あ……ああまぁうん、そんな感じだけど妙高君」

 

「はい、何でしょうか?」

 

「えっとうん、色々聞きたい事は山積みなんだけど、アレ、ナニしてんの?」

 

 

 胸の部分に白いハイビスカスのワンポイントが入ったハイレグビキニに身を包んだ妙高の向こうでは、何故か屋台然とした調理台が設置されており、そこではまな板や(空母棲鬼)が料理をしている。

 

 そして水辺では妙高と同じく際どい水着を着た者達が集い、何やらおかしな行動を繰り広げていた。

 

 

「あーアレね、エサでUMAをおびき出してるんだよ!」

 

「UMAぁ?」

 

 

 慎ましいボディにオレンジのワンピースタイプの水着をピッチリ着込んだ子犬(時津風)は髭眼帯に飛び付き、スルスルと登頂した後肩車形態へ移行しつつ、今水辺で何かをやらかしている一団が何をしているのかの説明を口にする。

 

 

 UMA(Unidentified Mysterious Animal)

 

 生物学的に認知されておらず、存在すら懐疑的ではあるが居るとされる、若しくは伝記等に登場する生物の総称、未確認生物と呼ばれる類の存在。

 

 有名処ではイギリスネス湖の水生生物ネッシー、カナダの雪男ビックフット、日本では蛇の類と言われているツチノコ等が挙げられる。

 

 尚陽炎型七番艦が一時期UMA扱いされ数々の提督がその捕獲に乗り出したが、現在はそのブームは落ち着いている。

 

 

「あれはUMAと言うか、潜水艦隊所属のゆーちゃんを呼んでるだけなんですけどね」

 

「滅多に見掛けないからってゆーちゃんの事UMA扱いするのはヤメテ差し上げて!? てかたこ焼きなんかで彼女が釣れる訳ナイデショ!?」

 

 

 そんな突っ込みを入れる髭眼帯の向こうでは、タパーンという水音と共にドイツ海軍が誇る潜水艦娘がジャンブしてたこ焼きをパクリし、そのまま水中に消えるという、どこぞのイルカショー的な光景が繰り広げられていた。

 

 

「ゆーちゃん!?」

 

「ほらぁ! 出た!」

 

 

 その光景を見る髭眼帯は頭部をはしゃいだ子犬(時津風)の生フトモモでペタンペタンと挟まれ、視界の半分程を腰のパレオでヒラヒラ隠されつつ絶句し、それを見る妙高が何とも言えない表情で苦笑すると言うカオスが広がっていた。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「Admiral……なんで制服着てるの?」

 

「え、何でと言うかお仕事中だから」

 

「でも、皆水着……着てるよ?」

 

 

 あの後暫く子犬(時津風)のフトモモペタンペタン肩車をされつつのイルカショーを観覧した髭眼帯は、本来の業務である運河の様子を見る仕事に戻った訳だが、そこを自由時間を謳歌するノリノリの艦娘達に囲まれた挙句そのまま拉致されてしまい、現在は水辺にセットされたビーチチェアーという特等席にシッダウンさせられるハメになっていた。

 

 

 お世辞にも晴れとは言えない微妙な空模様。

 

 背後ではジュージューと音を立てて焼かれる屋台のたこ焼きや焼きそば。

 

 周りには色とりどりの水着に身を包んだ艦娘達。

 

 そしてビーチチェアーにパラソルという、ありがちなセットにシッダウンと言うか寝そべる白い軍装の髭眼帯。

 

 

 色んな意味でそれはカオスではあったが、同時にいつもの大坂鎮守府と呼べる光景でもあった。

 

 

「君達は今自由時間だから水着でもOKだけど、提督今お仕事中だからね? て言うかゆーちゃん」

 

「……どうしたの?」

 

「あーうん、えっと、うん」

 

 

 そんな髭眼帯はビーチチェアーに何故寝そべっているのかと言うと、腹部にゆーちゃん、その向こうに子犬(時津風)、止めに足にはグラ子が馬乗りのバナナボート状態であった為に、身動きが取れない状態であった為である。

 

 

 そしてそんなバナナボートの脇をさっきから行ったり来たりする謎の存在が居た。

 

 

「私の顔に、何かついていて?」

 

「一航戦赤城、出てます」

 

「どこに!? てか二人ともさっきから何で提督の周りでモデルウォークしてるの!? て言うか無言でドヤ顔ターンとかキメられても正直怖いだけなんだけど!?」

 

 

 一航戦の赤いのと青いのである。

 

 

 其々はビーチチェアーの左右をモデルウォークで腰をフリフリしつつ行ったり来たりし、水辺では見事なターンを決めるという奇行を繰り返す。

 

 因みに戻って来た際は後ろの屋台から食べ物を受け取り、歩きながらの補給は欠かさない。

 

 

 パーソナルカラーである赤と青のシンプルなビキニにパーカーという状態で、モグモグプリンプリンに挟まれる髭眼帯は当然怪訝な表情になって突っ込みを入れる訳だが、当の本人達には食べる事に集中している為か、返ってくる言葉は全然答えになっていなかった。

 

 

「提督」

 

「ナニ加賀君……」

 

「左右のヒールの高さを変えると、自然と歩く時にはヒップの揺れ幅が大きくなるのよ?」

 

「何でそこでモンロー・ウォークの解説!? てか一々ドヤ顔でターン決めるのに何か意味があるの!?」

 

「慢心してはダメ、全力で参りましょう!」

 

「赤城君もヒップフリフリして全力で食ってるだけデショ!? ナニ慢心て!? 出番稼ぐ為に無理してキャラ強調しなくていいから!」

 

「補給は大事」

 

 

 それは青いの単体でも相当なカオスだったのに、赤いのがセットになった事でその度合いが増し、髭眼帯の突っ込み頻度が上がってしまった瞬間であった。

 

 

 そんな突っ込みマシーンの頬をペチペチと叩いてゆーちゃんは気を惹こうとし、子犬(時津風)がポンヨポンヨとご機嫌で跳ねている。

 

 激務に疲れたパパが子供をプールへ連れて行き、グッタリとビーチチェアーで休憩するも子供が構って行動を敢行するという悲しい絵面(えづら)がそこにあった。

 

 そんな色々とアレな髭眼帯の下半身に妙な感覚が走る。

 

 それは例えるならベルトが外されるとか、ズボンが下ろされるとかという類のカンジ。

 

 

「……グラ子君」

 

「む? 何だAdmiral」

 

「君、ナニしてんの?」

 

「いや何、折角の休息に一人だけ軍装と言うのは忍びないと思ってな」

 

 

 そんなズリズリする感覚に足元へ視線を向けると、足を固定する様に跨っていたグラ子が何時の間にか移動し、手にはベルトだのズボンだのと思われるブツをひらひらさせているのがチラリと見えた。

 

 

「提督お仕事中だって言ってるデショ!? 何ズボンとかずり下ろしてるのキミ!? ヤメロ! ヤメテ下さいお願いします! てかその手にしたブーメランパンツをどうするつもり!? 誰かヘルプ!」

 

 

 そんな髭眼帯の救援要請は誰にも聞き届けられる事は無く、グラ子のある意味卓越したテクニックが炸裂した結果、上半身は白い二種軍装、下半身は真紅のブーメランパンツという珍妙な髭の鎮守府司令長官がそこに爆誕してしまうという水辺があった。

 

 

「うむ」

 

「うむ、じゃなーーい! ナニやり切った感漂わせてんのグラ子! 提督の下半身今どーなってんの!?」

 

「これは……上々ね」

 

「良い装備ね、さすがに気分が高揚します」

 

「プリセットボイスで提督の股間というかブーメランパンツの感想を述べるのはヤメロそこの一航戦!」

 

「ねぇテイトク」

 

「え……ああうん、(空母棲鬼)君どしたの?」

 

 

 ツッコミマシーンと化した下半身ブーメランパンツは、不意に声を掛けられた為に不用意に声の方向に振り向いてしまった。

 

 そこにはビキニの上にエプロンという色んな意味でアレな(空母棲鬼)がニコニコとして立っており、その手には皿に乗ったジュージューと音を立てるお好み焼きが乗っている。

 

 それだけを見れば気を利かせた彼女がお好み焼きを焼いて差し入れに来たカンジであり、実際それは善意と言うか好意で行われた物であった。

 

 

 皿の上には焼きたてで、鰹節がゆらゆらするお好み焼き、そして焼けたソースの香ばしい香りと、それと共に漂う発酵臭と言うか腐敗臭と言うかぶっちゃけ臭い。

 

 

「今度店で(居酒屋鳳翔)出そうと思ってる新作よ、と……特別に試食させてあげるわ、ほら」

 

「新作……グフッ、えと、それは……何?」

 

「シュールストレミングを具に入れてみたの、お陰でお好みというB級グルメに敢えて高級食材を使用する事で味に深みを持たせ、尚且つ高級感を持たせる事に成功したわ」

 

 

 シュールストレミング

 

 主にスウェーデンで生産されるニシンを塩漬けにした発酵食品である。

 

 肉がまだそれほど流通していなかった中世ヨーロッパに於いて、代用食品として塩漬けの魚は盛んに生産され、また重宝されていた。

 

 特に北欧スウェーデンは魚の漁獲量が相当な物であり、その中でもニシンは特に多く獲られていた。

 

 それ故主に発酵食品の材料に多く使用され、また発酵のメカニズムが科学的に認知されていない頃であった為に、加工されるそれらは発酵を止める事はされず、時間経過と共に発酵が進んでいくそれはいつしか人々の心を魅了する世界に二つと無い唯一の食べ物へと昇華された。

 

 それはガスクロマトグラフィーを使用しての分析法では8070Auという数値を叩き出し、焼きたてほやほやなくさやの6倍の臭気を発生させると言う狂った結果を記録するというかもう凄まじくクサイ。

 

 

 そんなガス爆発の恐れがある為という理由で、航空機へ缶詰が持込禁止にされているという危険物がINした関西のソウルフードを前に、プルプルする髭眼帯の周りからは何時の間にか艦娘達の姿が消え、物凄くいい笑顔でくっさい粉モンを箸で摘んだ(空母棲鬼)だけが目の前に居るという地獄。

 

 

「……龍驤君」

 

「ごめん司令官……流石のうちも、愛の前にはお好みが別の物質に変化すんのん判っとっても……止める事は出来んかったわ」

 

「oh……Jesus」

 

 

 

 こうして水着エプロンの深海棲艦姫級から謎の粉物をアーンされ、軍服に真紅のブーメランパンツの髭眼帯はビーチチェアーの上で真っ白に燃え尽きていたという。

 

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。


それではどうか宜しくお願い致します。
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