大本営第二特務課の日常   作:zero-45

179 / 329
 人の今は過去の経験を色濃く受け継ぎ、結果として成った物である。
 それは良い面も悪い面も内包するが、死を迎えていないなら現在もまた未来へと続く一部であり、最終的な評価はまだ出ていない。
 そして他者からの評価が本人が没した後に出るとなれば、己の生き方の結果は永遠に知る事は適わず、逆説的に言えば人目を気にするよりも、そこには如何に後悔を残さないかという生き方をした者が正解ではという答えが導き出される。


 それでは何かご意見ご質問があればお気軽にどうぞ。


2017/07/13
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きました坂下郁様、皇國臣民様、拓摩様、リア10爆発46様、orione様、有難う御座います、大変助かりました。


水辺の彼女達・に

 

 

 吹き荒れる風、波立つ水面(みなも)、慣れて居なければ立つ事もままならない海の只中。

 

 己の背に届く程の水の壁に揉まれつつ彼女は傷だらけの体を引き摺る様にゆらゆらと進み、全神経をソナーから聞こえる音へ集中する。

 

 

 艤装に接続された九四式爆雷投射機の残弾は2、会敵時に確認出来た敵の数、沈めた数、それと残弾を考えれば奇跡的に一発一体という戦果を叩き出せても、敵の殲滅には程遠い。

 

 

 荒ぶる波はソナーの精度を著しく低下させ、投下した爆雷は波に揉まれあらぬ方向へと沈んでしまう。

 

 

 荒天という海の時点で既に対潜戦闘という物はセオリーとして避けるべき行為であったが、現在単艦である彼女にとってそれは不可避であり、また状況的にもう生還を望むべくも無いと言うのが今の戦況でもあった。

 

 

「せめて……あと一隻」

 

 

 それでも彼女の心には諦めという物は無かった。

 

 まだ主機には僅かばかりでも進む力が残されており、敵に抗う力も持っていた。

 

 例えそれが殲滅という結果には足りない物だと判っていても、今の彼女には逃がした僚艦が生きて帰還を果せば、己が沈んだとしても結果的にそれは勝利と言えたからだ。

 

 

 生まれてこれまで数々の海を渡ってきた、理不尽な戦いもあった、もう戻れないと覚悟した時もあった。

 

 

 しかしその何れも終わりに繋がる事は無かった、幸運とほんの少しの奮闘、それに救われた今があった。

 

 

 幾度も死を垣間見、生還を果す度に狂ったように鍛錬を積み、自分にできる事を、精一杯という部分をより強く、効率的に。

 

 そうして時と努力を積み重ねてきた彼女はいつしか周りから頼られ、自分だけでは無く他者の命をも背負う立場になってしまっていた。

 

 

 そうしたくて成った訳では無く、しかしそれらは自分がやってきた結果なのだと思えば納得するしかなく。

 

 

 ただ死にたくない、生きたいという感情からもがいてきたそれらの時間は、皮肉にも彼女自身に「仕方が無い」という理由で死を受け入れる立場へと押し上げていた。

 

 軍の中でも名が通り、作戦立案の際も戦力の基準として投入される様になったという彼女でさえ、現況を分析すれば生きて帰れる確率は絶無、後はどれだけ足掻いて時間を稼ぐかという事に終始する物となっている。

 

 

 唇を噛み締める、死を前に沸いてくる感情を無理矢理胸の奥に押し込み、最後は必ず聞こえるであろうこの海の底から聞こえる音を逃すまいと全神経を耳へと集中する。

 

 そうして暫く、雑音に混じるほんの僅かな違和感、聞き逃してしまいそうな音の変化に目を見開き、そこから導き出される水底(みなぞこ)に居る筈の敵を擬似的に視界へ捕らえ、そそり立つ波の壁へと爆雷を投下する。

 

 

 10……20……目標深度へと沈むそれ(爆雷)のカウントに全神経を集中する。

 

 

 現状で言えば手持ちの全ては投下し尽し、後は速やかにその場から離脱するのが対潜行動のセオリーと言えた。

 

 しかし彼女の艤装はもう沈黙してしまい海に浮かぶのが精一杯、そして今まで慎重に、そして存在を感知させる事無く潜んでいた者がソナーに掛かる様な行動を起こしたとなれば、今はもう手遅れだという事は理解出来た。

 

 

 ならば最後は自分が投下した爆雷が敵を捕らえたかどうか、それを確認してから沈むのも悪くない、彼女はそう考え聞こえてくるであろう結果を確認する為その場に佇む。

 

 そして聞こえてきたくぐもった泡が弾ける様な音と、金属が擦れる様な僅かな音。

 

 

「良し」

 

 

 命中を確認し、呟いた言葉は次の瞬間足元で弾ける衝撃と痛みで掻き消され、一瞬だけ彼女を宙に飛ばし、そして重力が体を水面へと叩き付けた。

 

 

 それからほんの少し後、音が再び雨音のみとなったその場所では、海に浮ぶ彼女の顔を叩く雨とそれすら吹き飛ばす風が顔を無遠慮に撫でていくだけの世界となった。

 

 半分沈んだ体からは臓腑と思われるモノが腹からはみ出し、水面を漂っている、目に見える範囲は艤装から洩れた黒と、千切れた手や腹から流れ出た赤色が混ざり合い死の臭いが鼻を突く。

 

 敵の一撃で死に切れなかった、それは未だ残っているであろう敵からの次の一撃を待つ間恐怖と戦わねばならないという結果が残ってしまい、動かない体に抗う手段を失った現況、それは彼女が考える中でも最悪のケースを引き当ててしまった事になる。

 

 

「もー……最悪」

 

 

 喉の奥からせりあがってくる鉄臭い赤い液体を吐き出し、代わりに入ってくる海水に咳き込みつつ、最後に口にした言葉はそんな間延びしたどうでも良い呟き。

 

 人は死を前にした時過去をなぞり、それに想いを馳せると言う。

 

 そんな走馬灯という物を彼女は見る事は無く、ただただ自分が囮となって逃がした僚艦達の予想現在位置と、現在の敵との相対距離を測り、己の行動が艦隊の帰還へと成ったのかどうなのかという物へと至り、暫く後それが充分に成ったという感情に口元が歪んだ笑いの形となった。

 

 

 出撃前には妹から貰ったというお守りを握り締め、大事にポケットに仕舞い込んでいたあの子。

 

 敵を沈めた数で、誰かと間宮の甘味を賭ける事に鎬を削っていたあの子。

 

 何故か艤装の整備をする時はいつも傍に来て、熱心に色々な質問をしてきたあの子。

 

 

 浮かんでは消えるそんな僚艦達の姿に想いを馳せ、薄れいく意識は彼女の頬に、雨の物とも海の物とも違う水の筋を(こぼ)させる。

 

 もう何も出来ない、そして帰る事も出来ない、責任と義務感から開放され、そうした立場になって、漸く彼女の胸に沸いた感情は、そんな僚艦達に対する惜別(せきべつ)への想い。

 

 

「戦闘記録用ブイ……投下……完了、いいデータ……とれたよね? これでちょっと……でも誰かが沈まなく……なれば……いいんだけどなぁ」

 

 

 彼女の意識はそこで途切れ、全ては沈んで泡となる筈だった。

 

 

 しかし現実はそうならず、今正に沈もうとしていた彼女は応援を連れて来た僚艦達に救われ、二度と踏むことは無いと思っていた日本の地へ再び帰還を果す事になった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「そんな訳で艦娘用の長距離航行をカバーする為に開発してみました、個人用推進装備『マヴチ』です!」

 

 

 大坂鎮守府中央運河、正式に海開きもしていないのに何故か既に艦娘達が様々なアレっぽい水着であれこれしている水辺では、上半身が二種軍装、革靴に白のソックス、そして腰の部分が真紅のブーメランパンツという海軍中将と、その前でニコニコするメロン子と真面目に敬礼をする山風の二人。

 

 そしてその向こうでは水中眼鏡に酸素ボンベを背負ったぜかましが赤白ツートンの巨大な何かを抱き枕の様に抱え、今から飛び込みますよアピール続行中という珍妙な絵面(えづら)が展開されている。

 

 

「……マヴチ?」

 

「はい、これまでの艦娘用兵装の開発では、元々の武装の改造やそれに取って変わる物を作っても作動しないという結果が出ています」

 

「ああうん、そうだね……」

 

「なら艤装に関わる兵装や、無理にパッケージングする物体では無く、独立して運用可能な装備を作るのが有用だという結論に至ったんです」

 

「ふーん……で? その考えから作ったのがアレ(・・)?」

 

「はい!」

 

 

 水辺に立つぜかましは恐らくまるゆから強奪してきたのだろう日の丸マークのワンポインツが入った水中眼鏡にシュノーケル、体のラインにぴったりと張り付いた青と白の競泳水着に足ひれという格好。

 

 そして彼女が抱える凡そ1m強の円筒形の紅白に塗られたブツがあった。

 

 

「中は単純に推進用のモーターと蓄電池のみになっており増産は容易な造りになっています、使用は水中で本体の先をこう……グリっと回転させるとブイーンとスクリューが回って……」

 

「おいメロン子」

 

「はい? 何でしょうか」

 

「アレってさ……単に○ブチの水中モーターをデカくしただけの物じゃないの?」

 

「マヴチです、ちゃんと本体には魚雷管が装備可能なラックが付属していたり、動力が巨大な単三電池二本だけという経済的な作りになっているんですよ?」

 

「巨大な単三電池ってナニ!? 巨大化したらもうそれって単三って呼べないんじゃないの!? ねぇっ!?」

 

「大丈夫です、中身はマンガンじゃなくてちゃんとアルカリになってますから!」

 

「君の言う大丈夫の基準と用途が提督には今一理解出来ないんだけど!? てかあの手のモーターって浮遊物に装着しないとダメなんじゃないの!? ねえっ!?」

 

「では実演に移りましょう! 島風ちゃんやっちゃって!」

 

「をうっ!」

 

 

 まるで○じこちゃんのベッドにダイヴするル○ンの如き放物線を空中に描き、ぜかましは運河へとダイヴする。

 

 ダパーンと上がる水柱、水面には北へと至る水泡が徐々に続き、動きが見えなくてもそれが水中を進んでいるという証明として視認が出来る。

 

 

 そんな様をキラキラした表情で見守るメロン子と冷静な表情の山風、そしてその隣には怪訝な表情の二種軍装を着たブーメランパンツ。

 

 

 プクプクと続く泡は北へ向ってそれなりの速度で進んでいくが、何故かそれはある一点で停止し、その後はずっとその位置でプクプクと泡が発生するだけとなってしまう。

 

 

 それを見た髭眼帯は無言でメロン子の顔を凝視し、その視線を受けたメロン子も物凄く真面目な表情で水面を凝視したまま固まっている。

 

 そんな二人の間に居た山風は何かを察したのか、手にした通信機をONしてどこぞへとボソボソと連絡を取り始めた。

 

 

 それから約五分後、泡が浮んでいた辺りににザバーンとイクとイヨが浮上し、要救助者となってしまったぜかましを岸辺へと曳航してくるという風景。

 

 

「水底で何かヘンなのが転がっててスクリューがウィーンってしてたの」

 

「島風ちゃんの体にベルトが食い込んでて脱出できなくなってたからさ、それ切って救助してきたよ! ほんと無事でなにより、だね!」

 

「を……を゛ぅ……」

 

「……水中モーターより……装着者の自重が軽いなら……浮力が足らずに沈むのは、当たり前」

 

「予想してたんなら先に教えて差し上げて山風君!?」

 

 

 この事件が後にメロン子が何かを開発し、それをぜかましがテスト、そしてそのフォローを山風がするという夕張重工の黄金パターンとなる最初の出来事になるのであった。

 

 

 そして嘗ては嵐の海で死を覚悟し、僚艦を想って涙したあの時の彼女(夕張)は、帰還した後は誰かの為にと日々努力を惜しまない艦娘となり、今日も淡いグリーンの水着の上からブーメランパンツにおしりをピシーンペシーンと叩かれながら珍妙なブツを造り続けていくのであった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「それで? 結局様子見に来ただけなのに何故か海開きになっちゃったんだ?」

 

 

 相変わらず上半身は白い二種軍装、そして革靴ソックスに真紅のブーメランパンツという髭眼帯が胡坐で座るビーチチェアーには、何故かビキニを着込んだ時雨と、同じく水着を着た響が並んで腰掛けていた。

 

 

「まぁ司令官はいつも周りに流されるのがデフォなのは仕方ないとしても、ちょっとこれはどうかと思うよ?」

 

 

 ニコニコする時雨はいつも身に付けている下着と同じデザインの黒い水着、響は白のワンピースタイプの物に青いパレオという姿で苦言を口にしている。

 

 昼過ぎに始まった一連の騒動は僅か二時間足らずで鎮守府内の者達を中央運河へと集合させてしまい、まだ海水浴という陽気では無い筈のその日であるにも関わらず、少し早い海開きという名の催しが開催されてしまった。

 

 

「まぁ皆お祭り好きだし、提督自身がそんな格好だと言い訳出来ないんじゃないかな」

 

 

 そんな秘書艦二人に挟まれて溜息を吐くブーメランパンツに、青とオレンジの花柄プリントのビキニにパーカーを引っ掛けた古鷹がトロピカルドリンクを三人へ手渡している。

 

 それをありがとうと言いつつ受け取る髭眼帯の前では、ナガモンがくちくかん達を集めレスキュー講座を開催し、運河には浮き輪に乗ったゴーヤやらニムがプカプカと暢気に浮ぶ様が見え、更に水密扉を経た隣のブロックでは、胸部装甲をポンヨポンヨさせつつ、ジェットスキーに跨りパイロンの間を駆ける鹿島という色んな意味でやりたい放題なバカンスが垣間見える。

 

 

「よいしょっ……と、提督は泳がないんですか?」

 

「いや泳ぐって、まだちょっと寒いんじゃないかなって提督思うんですが」

 

「うーん、幾ら肌寒いからってその格好はどうかって思うんですけど」

 

「いや古鷹君、これ提督の趣味じゃないから」

 

「何だい寒いのかい? なら暖めてあげるよ」

 

「……響君、その子泣きジジイみたいに背中に張り付くのは何の意味が?」

 

「うん? まぁ体温を共有する行為を行うと共に、胸の柔らかさを司令官に楽しんで貰おうかなと画策してるんだけどね?」

 

「響が背中を独占するんなら僕は失礼してこっちを……と、よっと」

 

 

 髭眼帯の背後から響が首に抱き付き、胡坐の中に時雨という色んな意味でけしからんトランスフォームがそこに完成する。

 

 

「君達最近人目を憚らなくなったねぇ、てか随分と仲がいいじゃない?」

 

「うん? まぁ色々独占欲を出して争うよりもさ、ある程度共有した上で住み分ければ問題は無いかなぁって」

 

「だね、非生産的な事で争うよりもこうして自分の欲求を満たしつつ、互いの距離感を確かめる方が精神衛生上いいって結論に達したのさ……はむっ」

 

「あ! 耳を噛むのはルール違反だよ響!」

 

「んむ……でもポジション的にはそっちの方がいいんだからさ、これくらいの役得はあっても良いと思うんだけど? なんなら位置を交代するかい?」

 

「む……ここは譲れない」

 

 

 そんな秘書艦ズにやられ放題の髭眼帯の脇では苦笑する古鷹が寄り添って座り、お陰で中途に寒かったという問題は解決したが、それ以上に困った形に成るというビーチチェアー周辺。

 

 ハハハと苦笑する髭眼帯はどうした物かと悩んでいたが、そんな人肌で温まった空気が一瞬で低下し、背筋にゾクゾクとする気配を感じた為その方向へと振り向いた。

 

 

 そこにはヘソ周辺から上へ切り込みが入り、紐で編み上げるというピッチリとした黒のハイレグワンピースを着込んだ飢えた狼さんが仁王立ちしており、プルルンと胸を張りつつ目の下に隈を貼り付けたままゴゴゴゴという擬音を背負って髭眼帯を見下ろしていた。

 

 

「えっと……足柄君?」

 

「人がアレコレと仕事で追い込まれてるのに、ナニ暢気に水辺でバカンスしてるのかしら?」

 

「ああうんと、はい、いえ、それはその……」

 

「こっちは提督にドリル責めされつつビンタを食らってる艦娘が居るとかの緊急的なタレコミがあって色々調べたり、攻撃型空母に改装して頑張ろうとした矢先に裸土下座を強要する輩が居るとからどうにかしろって狂った電話相談受けたりとかもぉぉぉぉぉワケ判んない案件に振り回されてるっていうのに! 肝心の提督は暢気に秘書艦侍らせてアハンウフンですかあーそうですか!」

 

「ちょ!? ドリル!? 裸土下座!? ナニソレどんな相談!?」

 

「知らないわよっ! 漣ちゃんにその辺り調べて貰ったら報告の代わりに愛想笑いしか返って来ないし! 変な電話が鳴り止まないしで、もーやってらんないから私も今日は勝負水着でバカンスさせて貰うって決めたのよっ!」

 

「そ……それ勝負水着なんだぁ……そっかぁ、そうなんだぁ……」

 

 

 気合が入り過ぎて逆に攻めに寄り過ぎた狼さんの黒い水着を直視する事が出来ず、視線を逸らしてプルプル震えるブーメランパンツの先には屋台で料理をする艦達の姿が目に入る。

 

 そしてその脇では何やらスマホをピコピコとたどたどしく操作する鳳翔という、余り見掛ける事が無い姿があった。

 

 そんなレアな姿に興味が惹かれ、また勝負水着に対する感想を聞かれるという恐ろしい事態を避ける為にブーメランパンツは鳳翔に声を掛け話題を逸らそうと画策した。

 

 

「……鳳翔君、一生懸命ピコピコしてるけど何か問題があったの?」

 

「これは提督、お恥ずかしい姿をお見せしました」

 

「ああいや全然? いや君が人前でスマホをいじってる姿が珍しかったからさ、うん」

 

「ああそれはですね、鳳翔会の友人からちょっと連絡が来まして」

 

「そうなんだぁ、何か緊急事態?」

 

「いえいえ、なんでも久し振りにウシガエルを捌かなくてはいけなくなったらしくて、その手順の確認とか諸々の連絡が」

 

「う……うしがえるぅ?」

 

「はい、お店に来たお客さんのお土産だそうで、それを調理してお出しするらしいのですが……」

 

 

 鳳翔という艦娘が居酒屋を営むというのは割りと良くある話で、軍内という限定した世界で営業している現状顧客はほぼ艦娘か基地関係者に限られる。

 

 そんな環境にありサービス精神旺盛な鳳翔という艦娘は、リクエストがあれば最大限顧客に合わせた料理を用意する努力を惜しまない。

 

 そんな事情があって多少無茶なオーダーであったり、材料を持ち込まれてのリクエストであっても受けるというのは彼女達なりの拘りであり、また誇りでもあるのだという。

 

 そして今彼女が言う持ち込み食材はウシガエル、それは戦時下の日本に於いて食糧難という事情があった頃は貴重な蛋白源であり、また味も鶏肉に近いという事でご馳走とされた両生類である。

 

 しかし現在の食料品がある程度流通している世の中で、わざわざそんな物を持ち込み調理を依頼するという軍の関係者とは何者なのだろうかと髭眼帯は怪訝な表情で首を捻る。

 

 

「そんな訳で私もおさらいの為に数匹捌いて調理してみたのですが、提督如何ですか?」

 

「……何を?」

 

「取り敢えずから揚げとニラ炒め、後は酢豚風に甘酢あんかけとありますが」

 

 

 怪訝な表情のブーメランパンツにズズイと差し出される皿には食欲をそそる料理の匂いと、何故だか姿揚げにされたブツとか、姿がまんまのニラと炒められたブツとか、ゲコゲコとした甘酢あんかけとかがあった。

 

 

「……これは」

 

「細かく捌いた物は皆さんには概ね好評でしたので、今度はボリュームをメインに据えた調理法に挑戦してみました」

 

 

 鳳翔という艦娘は料理に対する拘りと、日々の努力に掛けては相当な物を持っていた。

 

 それは正に現状に満足せず、常に先を目指し、日々研鑽するという匠の姿を垣間見せる。

 

 

 そうして出来上がった数々のウシガエル料理、それは可能性に没頭し、生まれてしまった数々のブツ。

 

 そんなチャレンジャブルにも生々しい両生類がゲコゲコとした形の料理を差し出され、料理とオカンを怪訝な表情で交互に見るブーメランパンツ。

 

 

「さぁどうぞ」

 

 

 懐に時雨をINし、背中に響をONした髭眼帯は身動きが取れず、そしてオカンがスっと隣に座り、更に逆側には古鷹が居る事で退路が皆無になってしまった髭眼帯。

 

 助けを求める為に四方へ視線を走らせるが、そこには何故か薄ら笑いを浮べこちらを観察する勝負水着を纏った狼さんの姿だけがあった。

 

 

 そんな絶望的な状況下、目のハイライトが薄くした髭眼帯の視界には徐々に迫る、オカンの箸に摘まれたカラっと揚がった両生類がゆっくりと、ゲコゲコと迫ってくる。

 

 

「ちょっ……鳳翔君、せめて丸ごとじゃなくてもっとこう……ちぎったり切ったりとか」

 

「これは丸ごとという形状に意味があるんです」

 

 

 こうして二種軍装にブーメランパンツという海軍中将は、水辺のビーチチェアーにシッダウンした状態で艦娘を装備し、ゲコゲコした料理を口に押し込まれるというカオスを噛み締める午後を体験する事になった。

 

 

 しかしこの海開きにはまだ続きがあり、それは大坂鎮守府ならではのアハンウフンな世界を展開していくという事を、このゲコゲコしているブーメランパンツはこの時予想できずに居たのであった。

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。


それではどうか宜しくお願い致します。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。