大本営第二特務課の日常   作:zero-45

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 物には道理という物がある。
 それは基準であり、不変とされており、言葉にすれば正論という物になる。
 しかしそれは心という難解かつ不条理な物に照らし合わせると必ず正解とはならず、不正解となってしまう事もある。
 そんな人の心という物を基準に考えれば、真実は人の数と同じ数存在し、事実という事象だけが唯一という答えが現実であると言える。


 それでは何かご意見ご質問があればお気軽にどうぞ。


2017/07/16
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きましたリア10爆発46様、有難う御座います、大変助かりました。


水辺の彼女達・さん

 

 

「こんなとこで二人して酒盛り? 日もまだ落ちてないのに随分と大胆ねぇ」

 

 

 大坂鎮守府中央運河、ワイワイとする一団から少し離れた場では、チラホラと特定艦種の者達が幾つかグループを形成し、アルコールを持ち寄っての酒盛りが行われていた。

 

 そんなある意味ダメ艦娘のグループの一番外れにて、飛鷹姉妹が一升瓶に乾き物という色気もクソも無いブツを挟み、湯飲みで冷酒をかっ食らっていた。

 

 一応場の趣旨は心得ているのだろう、其々は赤と紺の色違いなビキニを身に付け、飛鷹はパレオ、隼鷹はパーカーを引っ掛けつつゴザの上に胡坐(あぐら)というセクシーなのかだらしないのか表現に困る格好で言葉少なに湯飲みを傾けている。

 

 そんな場へ黒に白いラインのシンプルな水着を着たムチムチくちくかんである叢雲が、オヤジ臭いその様を呆れ顔で見つつも差し入れを手に訪れた。

 

 それらは屋台から持って来たのであろうたこ焼きや焼き鳥、またはフライドポテトやコロッケ等という、酒のツマミにはなりそうだが一部は日本酒に合うのかどうかという食べ物が抱えられており、半分座りかけの目で何しに来たという雰囲気を滲ませるゴザの場に、「お邪魔するわよ」と我関せずな状態で座り込む。

 

 

「飲んでばかりじゃ悪酔いするわよ、ちょっとは何かお腹に入れたらどう?」

 

「あー……このスルメとか齧りながらチビチビやるのがいいんだよ、油っこいモンだと酒の味が雑多になっちまうねぇ」

 

「そんなにペースは上げてないから、お構いなく」

 

 

 脇に転がる空になった一升瓶の数を横目に溜息を吐き、問答無用で持って来た食べ物を場の中心に並べて叢雲はジト目で二人を睨む。

 

 緊急時には医局から出される薬品を服用すればアルコールは瞬時に中和されるとはいえ、酩酊状態の脳が通常時と同じ程に回るには数十分は要する、なので彼女達艦娘は余程の事が無い限りは泥酔に至る程アルコールを摂取しないのが普通であった。

 

 要するに心構えと個人の裁量という部分が大きく出る酒癖という物は、大坂鎮守府に限って言えば、極限られた特定の数名は余り宜しくないといった状態にあった。

 

 その内の一人、いや腰を据えて飲むという場では姉の飛鷹も隼鷹に負けず劣らず酒癖の悪さには定評があった。

 

 

「確か二人とも明日の朝までは休みだったかしら?」

 

「ん、明朝○七:○○(マルナナ マルマル)までは休みになってるよぉ」

 

「さっきまで待機時間だったけどそれも終わり、だから今は自由時間を謳歌させて貰ってるわ」

 

「そう、にしても謳歌と言う割には随分と不味そうな顔して飲むのね、何かあった?」

 

 

 たこ焼きをモゴモゴしつつ冷酒をチビチビする叢雲の前では、まるでお通夜の如きしかめっ面の飛鷹がへの字に歪めた口のまま手酌で湯飲みへ酒を注いでいる。

 

 

「べっつにぃ、まぁ楽しいかと言われればそうでも無いっつーか、まぁ興が乗らないって言うか」

 

「はぁ、まだ執務室であった一悶着を引き摺ってんのね」

 

「……余りその話を蒸し返されるのは面白く無いわね」

 

「やっぱその不景気な面はそれが原因な訳ね、まぁこんなお節介に構って欲しく無いならその顔はどうにかした方がいいわよ? 特にその眉間の皺、割り箸でも挟めるんじゃないのそれ?」

 

「あーあーごめんなさいね、ったく何だよヤケ酒も黙って飲めねぇってのかいここは」

 

「別にそれは自由だけど、その仏頂面の原因がねぇ……」

 

 

 数日前に執務室で起きた一件、吉野に直談判に行った際、飛鷹姉妹が話の中心となった長門本人に一喝されたというあの雨の日の出来事。

 

 あの一件から今日まで、二人には既に吉野にも長門にも思う処は無い状態にあったが、それでも心に晴れない物を抱え込み、悶々とした日々を過ごしていた。

 

 軍務という物に振り回される艦娘という存在、生き死にが他人の手に委ねられるという理不尽。

 

 己の事ならそれらを仕方がないと飲み込んでも、他者の、近しい者に降りかかる様は納得がいく訳では無く、嘗て使い捨てという形で死を目の前にしたこの軽空母姉妹には他の者より軍に対する不信感が根強く心にあった為に、あの執務室での一件を当事者同士が納得したのは道理としては理解はしたが、納得という面では未だ収まってはいない状態にあった。

 

 

「ある程度の我慢と譲歩は必要だと思うわ、でもそれが行き過ぎれば納得なんて出来ないでしょう?」

 

「……なる程ね、要するにアンタ達は話の筋は仕方がないと思ってても、長門がガツンとやっちゃったせいで振り上げた拳の行き場が無くて、それが元でモヤモヤしてると、そんな状態な訳ね」

 

「チッ、一々感に触る言い方しないで欲しいねぇ、酒が不味くなるよ」

 

「それは御免なさいね、回りくどい言い方は好きじゃないのよ」

 

「貴女は元々提督とは付き合いが長いから身内的な考えが出来るんでしょうけど、私達はそうじゃないわ、それに軍部のやり方にも辟易した部分があって……まぁ、こんなのは理解出来ない人に言っても仕方の無い話なんでしょうけどね」

 

「理解は出来るわよ?」

 

「何がだよ? 捨て艦なんて狂った作戦に投入されたあたしらの気持ちがアンタにどう理解できるってんだい」

 

 

 睨む様に視線を投げ、中身が空になり掛けた湯飲みを握ったままで隼鷹は叢雲を指差した。

 

 それは普段竹を割ったかの様なサッパリとした性格の彼女からすれば余り見せない攻撃的な様であり、吐き出す言葉も拒絶を含んだ刺々しい物であった。

 

 そんな言葉と視線を受けたムチムチくちくかんは、それでも平然とそれらを溜息と共に受け流して焼き鳥に噛み付き、わざと大仰に串を引き抜き隼鷹に向けてそれを突きつける。

 

 その様は軽い物であり、ともすれば挑発的な形に見えたが、それでも構わず叢雲は串をピンピン跳ねさせたまま口に入れた物を咀嚼し続ける。

 

 

「ムグ……ンム、んっ……ふてかん(捨て艦)? ふん……んぐっ、そんな"死ぬ事が許されてる作戦"なんて物、(ぬる)いにも程があるわね」

 

 

 モグモグと肉を咀嚼するついでに口から出た言葉に隼鷹の視線には怒りが乗り、飛鷹でさえも湯飲みに口を付けたまま眉を顰めて横目で叢雲を見る。

 

 温度がやや下がった場にはそれを歯牙にも掛けず飲み食いするムチムチと、それを睨むという軽空母二人という温度差が際立つ酒の席。

 

 そんな中で口元をペロリと舌で舐め、手にした串を皿に投げて叢雲は改めて睨む二人に視線を合わせた。

 

 その顔は真面目でもなければ挑発に染まる物でも無い、それでも少し上から睨む風な、真っ向から二人の視線を受ける目があった。

 

 

「周りは見渡す限り敵だらけ、一緒に抜錨する味方は大抵たった一人、大破するまで時間無制限でドンパチを続け、自分が死んだら相棒は愚か日本ていう国が滅亡する」

 

 

 嘗てまだ艦娘が五人しか居なかった時代、彼女達は海から湧き出る有象無象を相手に寝ても覚めても戦う日々を送っていた。

 

 

「出撃する時は必ず誰かが一緒に抜錨し、その誰かが死んでも私たちが戦えるなら残った彼らは退く事を許されない、私達も彼らも殺すって一択しか選べない戦場で」

 

 

 さっきまで笑って話していた者も、並んで戦っていた者も、一瞬で肉塊となって沈んでいく、まだ人が艦娘と戦っていたそんな時代。

 

 

「守りたいのに守れなくて、誰かが目の前でポロポロと死んでいく、私達に合わせるなんてしたら周りは脆弱な人間しか居ないもの、そんなのは当たり前で……あんな地獄に比べたら、アンタらの言う死んでもいいって作戦(捨て艦作戦)なんてまだ救いがあるわ」

 

 

 何もかもが初めてで、希望なんて物は一欠けらも存在していなかったあの日々、それが当たり前の頃を過ごしたこのムチムチは、初めて忌々しげに目の前の二人を睨む。

 

 自分が経験してきた事を二人の過去と比べて卑下する気は無い、その時経験した過去は結果がどうあれ仕方が無かった物だと叢雲は納得している。

 

 そして同時に飛鷹や隼鷹が経験した出来事も知らない筈は無い、それらは選択肢は誤っていたかも知れないが、その時は誰も彼も必死だったが為に起こった悲劇だと認識している。

 

 例えそれらの過去にあった出来事がどれもこれも間違いであったとしても、それに対する遺恨を引き摺ったまま海に出るのは、後から生まれた誰かに余計な物を背負わせる事になる。

 

 

 それは確実にその者へ良くない結果(・・・・・・)(もたら)す。

 

 

 そんな全てを切り捨て、忘れようとする叢雲の考えは極端ではあった、他にももっと違う考えも方も出来た筈であった。

 

 しかしこの艦娘は海で長く戦い、生き続けるなら、殺し続けるならば、例えそれが歪な考えだと言われようが、切り捨て納得するしか道は残されてはいないという考えで今日まで生きてきた。

 

 

「例えそれが命令された死であっても、誰かの死を踏み台に生き残れって言われるよりはよっぽどマシだわ、そしてあの頃が地獄だったとしても、私はあの時の気持ちを他人に押し付けたりなんてしない」

 

 

 最後は吐き捨てる様に言った叢雲の言葉、それに納得はしていないが反論する事も出来ないままの飛鷹と隼鷹は、気まずそうに冷酒を口に含む。

 

 そうやって単に軍へ向けていた反発を、そのままの流れで吉野に向けていたという苦い事実を酒の力を借りて飲み下す。

 

 

「長門だって色んな気持ちを抱えて、それでも折り合いを付けた……話はそこで終わり、アンタ達のそれ(・・)はアンタ達自身の問題よ、長門を思う気持ちも、嘗ての作戦があって軍を嫌ってるのも、全部アンタ達の事情、今のアンタ達はそれを他人の事情に掏り替えてるだけよ」

 

「……んならこのモヤモヤはどうしたらいいのさ、誰に文句をぶつければいいってのさ」

 

「あの時私達に死ねって言ったヤツを探し出してケリを付ければいいの? はっ……それこそナンセンスだわ」

 

「ほんとにアンタ達は馬鹿ねぇ……」

 

「……何がさ」

 

 

 酔いも程々に回り、普段より呂律が怪しくなりかけた二人を前に、苦笑交じりに溜息を吐く叢雲は皿に乗ったたこ焼きを一つ摘み、口に放り込んだ。

 

 

「アヒッ……ング、ん……そんなの簡単じゃない、何か文句があれば提督に言えばいいのよ」

 

「……はぁ? 何言ってんだよぉ、そうしちまったから長門がキレちまって、こっちはモヤモヤとしてんだろぉ?」

 

「ねぇ、今言った私の話聞いてた? その文句を言うのに長門を持ち出すなって言ってんの、何かを言いたいならアンタ達の言葉で言いなさい、「長門の無念を」とか「長門が可哀想」とか、そうじゃなくて自分の考えを、自分の言葉で言いなさい」

 

 

 指に付いたソースをペロリと舐め、今も首を傾げて視線を向ける二人にムチムチは苦い表情を浮べ、ほんとにバカねとだけ呟いて揃えていた足を投げ出して胡坐に組み替える。

 

 

「アンタ達の不満はもうどうやっても解消されないわ、そして長門を思っての言葉も禁句な訳、ならやる事は一つじゃない」

 

「……どういう事?」

 

「八つ当たり、愚痴、何でもいいわ、思いっ切りアイツに言ってやるのよ、心が晴れるまで」

 

「ちょっ……はぁ? それって」

 

「提督ってのはある意味その為に居るの、艦娘と提督の関係ってそんなモンよ、思った事をぶつける事でしか互いに分かり合えない、そこで一歩退いてたからアンタ達はずっと今までモヤモヤしてきたのよ」

 

「無茶苦茶言ってるよこの人……なぁ叢雲さん、かなり酔ってやしないかい?」

 

「多少はね、でもアンタ達程じゃないわ、寧ろ酔ってる今ならそんな無茶も言えるんじゃない?」

 

「それって私たちに酔った勢いで……理不尽な愚痴を提督にぶつけろと?」

 

「提督は今艦娘に命令する立場だけど、同時に私達艦娘の代弁者でもあるの、例えそれが理不尽な愚痴であろうと、どうでも良い悩みであろうと、それを聞いてなんとかする、そしてその中にある何かを拾い上げて軍へ働き掛ける……少なくともアイツは今までそうしてきた、だから─────」

 

 

 再び焼き鳥の串を一本摘み挙げ、それを二人にフリフリと振ってみせ、ニヤリと口の端を吊り上げ。

 

 ムチムチくちくかんは二人に言葉を投げた。

 

 

「命一杯愚痴ってやるのよ、『おいこら髭眼帯』って、ね」

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「……ねぇ君達」

 

「あぁん何だよていとくぅ~」

 

「いやそのちょっと、提督の口に焼き鳥を問答無用で突っ込むとかンガクック!?」

 

「こっちの酒が飲めないって言うのなら、せめて酌くらい付き合ってくれてもいいわよね? はいたこ焼き」

 

「あひゅい!? 待っへ!? ゲフッ……提督の顔にたこ焼きグリグリしないでイズモマン!」

 

 

 結局ムチムチくちくかんに煽られたイズモマンとヒャッハーは一升瓶をラッパ飲みで空け、そのままの勢いでオススメの行動を実行に移す事にした。

 

 その結果、リクライニングさせて長椅子となったビーチチェアーの中央には真紅のブーメランパンツな髭眼帯がシッダウンし、それを隼鷹と飛鷹がサンドしオラオラが繰り広げるという救えないワールドが展開される事になった。

 

 元々酔いが回るとタガが外れるヒャッハー、見た目は素面だが酔いが思考する能力をおかしな方向にさせしまうイズモマン、両者は手にした食べ物と共に、その体もグイグイと髭眼帯に押し付けつつ憂さを晴らすというビーチサイドがそこにあった。

 

 

「な~ていとくぅ~」

 

「ナンデショウカ?」

 

「これって焼き鳥だろぉ?」

 

「……ハイソウデスネ」

 

「アッハハァ! 残念だったなぁ! これって焼き鳥じゃなくてカエルの肉なんだよなぁ~あっははは~」

 

「まだカエルネタ引き摺ってるの!? てか酒臭っ!? どんだけ飲んだの君!?」

 

 

 オカンが昔の勘を取り戻す為にと捌きまくったウシガエルは相当な量があり、諸々の料理へ鶏肉の代わりに使用され、その内の一つはネギとサンドされ、こんがりとタレを塗って焼かれた挙句髭眼帯の口にINしていた。

 

 

「何? 隼鷹のカエルは食べるのに私のたこ焼きは食べれないって言うの? ほら、もっと口を開けなさい」

 

「待ってイズモマン! 提督に跨って無理矢理顔にアッツイの押し付けるの禁sってアッツゥゥイ!」

 

 

 そこにはヤンキーがカツ上げするかの如き首に腕を回し、ねっとりと絡むヒャッハーと、髭眼帯に跨って執拗にアツアツのたこ焼きを顔面に押し付けるイズモマンという地獄が展開される。

 

 そんな様を横で見つつ、何故か腕を組んでウンウンとしているムチムチくちくかんというカオス。

 

 

「……ねぇ叢雲君」

 

「何?」

 

「何で君そんなトコでニヤニヤ笑ってるワケ?」

 

「……別に? 何て言うか仲がいいなって」

 

「これのどこに友愛の雰囲気を感じるのか提督は聞きたいってアッツゥイ!?」

 

「叢雲ちゃん、頼まれてたフルーツ持って来たのです、コレはどこに置いとけばいいのでしょう?」

 

 

 たこ焼きアタックで悶絶する髭眼帯の視界には、年甲斐も無くフリフリのフリルでデコされたピンクのワンピース水着を装着した電が抱えているブツが目に入った。

 

 巨大なカゴからはいつものパイナポーやバナナに加え、更に何やら刺々しい物体や、他には刺々しい緑のブツや、やや棘の小ぶりな黄色いヤツなど、ぶっちゃけ刺々しい物が特盛りになったそれがそこにあった。

 

 

「……フルーツ? その、それフルーツ?」

 

「なのです、これはドリアン、こっちはジャックフルーツ、そこのはサワーソップなのです」

 

 

 ドリアン

 

 バラ類アオイ目アオイ科ドリアン属の樹木に生る果実。

 

 その実はビタミンB1を多く含有し、強い甘みのある果実である。

 

 その果実は甘みと共にアルコール性の揮発成分を含み、その臭気は玉葱が腐ったかの様な強烈な腐敗臭を伴う。

 

 嘗ては原産国であるインドネシア諸国の王族が精力増強を目的として食していた為に王様の果実と称され、それは次第に果物の王様と名を変えた世界各国に流通する著名なフルーツである。

 

 直径は凡そ30cmの球体であり、外皮は刺々しい棘が生える、触ると危険。

 

 

 ジャックフルーツ

 

 イラサ目クワ科パンノキ属の樹木に生る果実。

 

 別名パラミツと呼ばれる70cm程の楕円形をした世界最大の果実でもある。

 

 味は甘みを含み、また果実が繊維状である為熟すとほぐれるという特徴を持つ。

 

 またその外皮には数mmの刺々しい突起が生えており、触るととてもチクチクすると言うか痛い。

 

 

 サワーソップ

 

 モクレン亜網モクレン目バンレイシ科バンレイシ属の樹木に生る果実。

 

 高温多湿地帯でしか存在する事は出来ず、気温が5℃以下の地では枯れてしまうという南国の樹木。

 

 その実はイチゴとパイナポーを足した味に、食感はバナナやココナッツの様なドロリとした物という日本では馴染みが無い果実である。

 

 また後味が柑橘類に類似した酸味を伴い果汁も多い。

 

 その実は30cm前後の球体であり、外皮には不揃いな刺々しい棘が生えている為触ると刺さる。

 

 

 そんな刺々しいフルーツを目にしてプルプルする髭眼帯、そしてそれをテーブルに並べて時雨が見事な抜刀術でカットし、それが盛られたお皿はヒャッハーとイズモマンに手渡されるという流れ作業が展開される。

 

 

「ほらほらていとく~ ドリアンだよぉ、んまいんだぜコレぇ」

 

「ああうんそれって聞いた事があるって言うかクサッ!? ちょっと自分で食べれるからぁってイタイ! 果肉じゃなくて提督にトゲ押し付けるのヤメテ!」

 

「はい」

 

「イッタァァイ! ボソっと一言だけでそのフルーツキラーパスするのヤメテイズモマン! せめてカットしてお願い!」

 

 

「うん……このトロっとした食感なのに爽やかで、かつ嫌味の無い甘さ……正にサワーホップ、南国の隠された宝石という二つ名に恥じない味わい、まさかこんな処で味わえるとは……」

 

「既存のフルーツだけじゃなくまだまだ知られていない珍しい物を知って欲しくて、品種改良を重ねて育ててみたのです」

 

「そこの神威に電ちゃん提督置いてけぼりにしてフルーツ談義を展開しないで! て言うかトゲ! このヨッパー二人何とかして!」

 

 

 飛鷹型ヨッパーに絡まれ悶絶する髭眼帯の脇では、ムチムチくちくかんがうんうんと頷き、そしてなのですとムチムチ給糧艦がフルーツ談義を繰り広げ、更に小さな秘書艦が北辰一刀流奥義で次々と刺々しいフルーツをカットしていく中央運河脇。

 

 そんなカオスに溺れる髭眼帯の脇にシュタッと何者かが舞い降りる。

 

 

「はいこれ」

 

「……軍手?」

 

 

 改二に酷似した水着を纏った川内型一番艦であった。

 

 そっと手渡される軍手は彼女なりの気遣いの証であり、そして日々あきつ丸と青葉に仕込まれた彼女は、立派なニンジャちっくな身のこなしを自分の物にしていた。

 

 

「いや、そうじゃなくて川内君……」

 

「無理だから」

 

 

 そんなセンダイ=サンは髭眼帯のヘルプ的な視線から言いたい事を感じ取ったのか、それでも即答してシュタッとその場から姿を消した。

 

 そして差し入れられた軍手はヒャッハーとイズモマンの手に渡ってしまい、トゲトゲのダメージを考慮しなくて良くなった二人が更なる刺々しいフルーツボムを展開する結果に繋がってしまう。

 

 

「ねぇ提督」

 

 

 そんな地獄の爆撃の最中、時雨が何やら皿におっ立った珍妙な物体を差し出してきた。

 

 凡そ1/60のガンプラの倍程がある巨大なソレは、底の部分がカットされた為に安定した形で直立していた。

 

 一部の表皮だけをカットし、果汁が漏れ出さない様に切込みが入ったソレには、三角形を上下したかの様な顔面のパーツが彫られていた。

 

 そして上部は切り飛ばされ、ハート型に絡んだストローが二本と、そして横にはウサちゃんリンゴが添えられていた。

 

 

 時雨、榛名、妙高の手による匠の技が生み出した合作である。

 

 

 ムチムチ叢雲がギクシャクしていた飛鷹姉妹と髭眼帯の関係解決に乗り出し、それを知った時雨が心の友二人(榛名・妙高)を召還し、ムチムチくちくかんの援護としての最後の切り札として投入したそれは、刺々しいフルーツに顔面を刻み、圧搾してしまった為繊維質が絡みまくってジルジルした中身にハートのストローがぶっ刺さり、飾りとしてウサちゃんリンゴを添えた"顔面ジャックフルーツジュースカップルストローセット、うさちゃんを添えて"という究極のブツだった。

 

 プルプルとそれを見つつ、髭眼帯が視線を顔面トゲトゲトロピカルの向こうへ巡らせると、何故かやり切った感を漂わせ、物凄くいい表情をした三人の艦娘達がサムズアップしてこちらへウインクする姿が見える。

 

 

 それはまごう事無き大きなお世話であった。

 

 

「……ねぇちょっとコレ、なんか喉に絡む系の何かジュルっとしたカンジって言うか、提督の肺活量じゃちゃんと飲めないんだけど……」

 

「ほら提督たこ焼き!」

 

「ちょっとイズモマン膝の上でロデオしないで! 提督フトモモ痺れてきたから! ねぇっ!」

 

 

 色んな意味でタガが外れつつあった髭眼帯は、何者かにポンポンと肩を叩かれる。

 

 そして何事かと必死に振り返り、怪訝な表情でそっちを見れば、粉物を焼ききった直後だからだろう、汗をキラキラさせつつエプロンを装着したフラットドラゴン(龍驤)が真面目な相で腕を組んでいる姿が見えた。

 

 

「なぁ司令官」

 

「……ああうん、なにフラットドラゴン」

 

「ロデオはな、プルンプルンする胸部装甲よりもな、実際モモに接触するケツのが重要やねん」

 

 

 突然フラットドラゴンがロデオ的な動きをするイズモマンを見て、解説染みた事を言い始める。

 

 そして訳も判らずそれを聞く髭眼帯。

 

 

「チチはな……偽装は容易や、そやけどな、ケツはそうはいかん、ケツは全ての基準なんや、ほら……チチパッドはあってもケツパッドなんてモンは無いやろ?」

 

「えっとパッド? え? ナニ?」

 

「そこのポンヨポンヨしとるブツに惑わされたらアカン、チチは裏切るけどケツは裏切らん、ええか? それはちゃんと心に留めとくんやで?」

 

「え? ナニが? 何を心に留めとくの!? ねぇちょっと何の話!?」

 

 

 こうして怪訝な表情のブーメラン髭眼帯は、飛鷹姉妹のアルコールの力を借りたご乱心に巻き込まれ暫く筋肉痛や胃もたれに苛まれる事になった。

 

 そして姉妹と髭眼帯の関係を何とかしようとした者達は、全力で支援を行い、結果としてカオスを止める者が皆無という世界が展開されてしまった。

 

 

 そしてその後、盛大に二日酔いに陥り悶絶するヒャッハーと、酔っていても記憶が残る体質のイズモマンが素面に戻った後羞恥に転げ回るという結果を経て、微妙にギクシャクしつつもその関係は何故か奇跡的に改善していくのであった。

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。


それではどうか宜しくお願い致します。

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