大本営第二特務課の日常   作:zero-45

184 / 329
 人間とは意思疎通の殆どを言葉に依存する生き物である。
 その術を確立してより他の生物とは一線を画し、ある意味その為に生物の頂点へと至った。
 しかしそれに慣れ過ぎ、物事の真意を言葉だけに頼るという弱点を抱える事になり、勘や察するという面での部分は重要であるにも関らず中々理解するのが難しいというのが現状である。
 そしてその誤解が解けた時、その時にどうするかという問題が重要視される世界、ある意味人の営みは受動的な物で成り立っているものなのかも知れない。


 それでは何かご意見ご質問があればお気軽にどうぞ。


2019/02/20
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きましたorione様、坂下郁様、K2様、雀怜様、有難う御座います、大変助かりました


髷から始まるアレやコレ -終-

「どうぞ、夏限定メニュー『フローズンサマーフロート-修羅-』です」

 

 

 大坂鎮守府執務棟執務室。

 

 突然の給糧課全員集合的な来訪を受け、部屋の一角に設置された畳敷きのエリアに話し合いの場を移動した一団は、巨大な屋久杉の一枚板製のテーブルを挟んでシッダウンしていた。

 

 

 目の前にはわざわざ甘味処から運んできたのだろう茶菓子が並び、秘書艦ズが席を外している為飲み物も彼女達が用意し、髭眼帯(髷)の対面、氷菓や甘味の向こうでは一部の艦娘がジト目で、残りはニコニコとした表情で座っていた。

 

 

「……しゅ、修羅?」

 

「はい、間宮連合『甘味會(かんみかい)』で行った夏の新作コンペで最優秀新人賞を受賞した物で、九州のとある鎮守府所属の間宮が作った氷菓になります」

 

 

 ニコニコとするマミーヤの前には夏をイメージしたのかブルーを基調としたシロップが目を惹く、淡い青色に着色した氷を削ったカキ氷と、それを中心にフルーツがてんこ盛りで、ハート型に切り抜かれたウエハースにカラフルなチョコが散りばめられた鉢が鎮座していた。

 

 砂浜から続く海を模したベース、陸には椰子や浜茶屋に見立てた菓子製の飾り、そして中央にぶっ刺さった花火はパチパチと弾け、髭眼帯の顔面にその火花がパチパチと飛び散ってくる。

 

 大きさは直径50cm程の"鉢"一杯に世界が盛られるという、正に大きさ、そして食す者への配慮が-修羅-と呼ぶべき出来のブツ、それが『フローズンサマーフロート-修羅-』と呼ばれる氷菓の正体であった。

 

 

「アツッ!? いや間宮君これアッツゥィ!? 花火取らないと食べれないと提督は思アッツ!」

 

「それもまたこの氷菓の一部、因みに花火は燃え尽きるとお代わりが刺さるので難易度は変りません」

 

「難易度!? 食べるのに難易度ってアッツゥゥイ!!」

 

 

 食べる者に対する気遣いをとことん排除し、作る者の自己満足に振り切った作品、そんな逸品を作ってしまう間宮とは一体どんな間宮だとアッツアッツ言いつつ髭眼帯(髷)は思った。

 

 そして居並ぶ給糧課の者達から何の話があるのかと少し下がった位置へ避難し前を見れば、何時の間にかそのメンツに秋月、古鷹の二名が増えており、其々は龍鳳と同じくジットリとした視線で睨むという感じで席に着いている。

 

 

「えっと……これは、何の話なのかな?」

 

「提督、龍鳳と古鷹、そして秋月、このメンバーに何か心当たりはありませんか?」

 

「うん? その三人って……アッツゥイ!? 間宮君そのジオラマ下げて! 提督の髭に引火するキケンがあるからっ!」

 

「……お心当たりは、御座いませんか?」

 

「待って! その前にその修羅責めストップして! でないと会話もままなんないデショ!」

 

 

 鳳翔のニコニコした笑顔から言葉が出る度に、ズリズリと修羅という名の鉢が前後され、その度に髭眼帯の顔面に花火の火花がパチパチと飛び散る。

 

 一見雰囲気は柔らかいが、そこにはちょっとした拷問染みた修羅が広がっていた。

 

 

「お心当たり、ありませんで、しょうか?」

 

「いやマジちょっと待って! ナニ!? 何なの一体!」

 

「まだ、思い、出しませんか?」

 

「修羅ズリズリしないで! 取り敢えず話にナンナイデショ!」

 

 

 そうして『フローズンサマーフロート-修羅-』による提督(髷)に対する尋問は暫く続行され、花火が氷菓を溶かしてしまい鉢の中身がドロっとした何かに変化するまでそれは続けられた。

 

 

「……で、提督?」

 

「えっと、何でこんな有様になってるかは判んないんだけど、その三名に共通する事って自分には今度の作戦に随伴する人員って辺りしか思い浮かばないんだけど」

 

「はい、そうですね」

 

「え……マジそっち? んで何やら色々ヒートアップしてるみたいだけど、何か不都合な事とか提督に対する不満とかあったりするの?」

 

 

 一部髭が火花でチリチリになった髭眼帯(髷)が首を傾げて鳳翔を見れば、一端何かを考える様を見せた後、ジト目の三人に視線を合わせ、其々は一度首を縦に振り、そしてズズイと間を詰めて来る。

 

 

 それは壁際に髭眼帯(髷)、八方にジト目×3にオカン&マミーヤという、ある意味絶対の布陣が完成してしまう。

 

 

「提督にもご都合がいろいろおありでしょう、日々激務に追われ、そしてプライベート時間も殆ど取れず、色々とご不便な生活を送られているのは私達の為に日々ご尽力されている為だと申し訳ない気持ちも御座います」

 

「え? ご不便? 何の話?」

 

「その点で言えば今回の件は誰にも物申す事は出来ないかも知れません、しかし」

 

「……し、しかし?」

 

「その……そういう事(・・・・・)を頼む相手に『頼みやすそう』とか、そういう一方的なイメージだけでその……そういうのを強要するのは如何な物かと」

 

「あー……えっと? ごめん、鳳翔君の言ってる事が今一何の話なのか提督良く判らないと言うか」

 

「提督がそんなお願いする相手をメモに書いて、私や龍鳳、後は秋月ちゃん辺りならお願いすればやってくれそうって呟いてたって、青葉さんが聞いたと言ってました」

 

「んん? ……あーあー、その件かぁ」

 

 

 一瞬散髪という単語が口に出そうになるが、目の前には髷ヘアーにした張本人の一人であるマミーヤが居るのでその言葉を飲み込んだ髭眼帯。

 

 それは珍妙な髪型であっても一生懸命してくれたという間宮への気遣いと、散髪という言葉はそれを無下にする的な諸々を含むのではという考えが髭眼帯にあった為であった。

 

 しかしその言葉を口にしなかったこの行動が、更なる誤解に拍車を掛ける等この時髭眼帯は知る由も無かった。

 

 

「そういう殿方の気持ちも判らなくは無いですが、一方的にそんな(よこしま)な気持ちだけでお願いされる者の気持ちを汲む事も上に立つ……いえ、海の男には必要なのでは無いでしょうか?」

 

「あー……うん、ごめん、その辺り事前に言っておくとか、色々手回ししておくべきだったね」

 

「って言うか言いやすそうって基準がそもそも間違いなんです!」

 

「いやいやいや、それ以外にほら、そっち系に得手不得手があるんじゃないかって言うか、向き不向きがあるって言うか」

 

「ヒドイ! 提督には私がそんな事が得意な者に見えるんですか!」

 

「うぇっ!? いやその、手先は器用だなって基準があったりとかそんな感じで……」

 

「と言うかコソコソしなくても、その……その辺りは私に言って頂ければちゃんとその、ですね」

 

 

 バンバンと畳を叩いてヒートアップする古鷹と、何故か赤面してモジモジするオカン。

 

 その様を首を捻って見る髭眼帯は思った。

 

 鳳翔と間宮は其々仲の良い友人であると共にライバル的な関係である、もし間宮が結った髷が気に入らないからと鳳翔に散髪を頼めば、それは色々と不都合が発生するのでは無いかと。

 

 

「えっとその、その辺りは間宮君のアレがソレなので、鳳翔君に頼むのは色々と問題があるかなーって思うんだけど……」

 

「……それはつまり、私にそういう事を頼むのは、先に間宮さんにお伺いを立てないといけない関係が出来上がっていると?」

 

「えっ!? 何でそんな話になっているんです!? 確かに私もそうなる事はやぶさかではありませんが、私は別に提督とはそんな事に……」

 

「待って下さい、提督が仰っているのは、恐らく給糧課に於ける間宮さんと鳳翔さんの立場を心配しての事では無いでしょうか?」

 

「……どういう事ですか、伊良湖さん」

 

「どちらも給糧課では甘味処と居酒屋の店主、立場的には同格という見方がされています、しかしそのどちらかと事に及べばその関係性が崩れる恐れがある……」

 

「なる程……と、いう事は」

 

「提督はそうならない様、どちらも同時にと、こう仰っているのでは無いのでしょうか?」

 

「ま……まさか、二人同時に……そんな事は……しかし、確かに色々と考えればそれは……ま、まぁ提督がそれを望むと言うのならば」

 

「その辺りどうなんでしょうか提督、先程のお言葉は鳳翔さんに間宮さん、お二人の立場を考慮しての物、そういったお考えで出た物であったのでは?」

 

「……えっと、正直そんな考えもちょろっとあったと言うか、まぁ確かに一人だと色々大変かも知れないし、もし頼むなら二人にお願いするのも一つの手だとは思うけど」

 

「一人だと無理……提督はそんなに……その」

 

「あー、まぁ今回は特に色々処理が大変かもとは思うけど」

 

 

 この時点で周りを取り囲む面々はそっち系(・・・・)の話をしている訳だが、髭眼帯的には単に散髪の事を言っているという、またしても致命的な認識の違いがそこにあった。

 

 そして現在髭眼帯は髷という髪の量やカッチカチに固められた形状が特殊な状態であった為、普通に整髪するには手間が掛かるのでは無いかという意見を述べたそれは、艦娘達からしてみれば、二人同時でも余裕という絶倫的言動とも取れる言葉になっているというカオス。

 

 

 主語を言わずとも、述語を始めに文節が成り立ってしまうという日本語の妙は、得てして誤解と悲劇を招いてしまう事がある。

 

 そしてそれが積み重なってしまうと双方の認識がまったく別の処にあったとしても、会話が成立してしまう場合もある。

 

 

 そんな『察する』という心の機微を元に作られ、使われる日本語が生み出してしまったすれ違いが、合致することが無い間違ったピース同士をガッチリ繋いでしまったのであった。

 

 

「なる程、私達の事を考えての提督のお心遣い、そこまでお考えという事なら」

 

「待って下さい鳳翔さん、ではこっちの話はどうなるんでしょう?」

 

「え? いや古鷹さん、それは事前にこちらで受け持てば、そちらには提督からそういうお願いをしなくても済むのでは?」

 

「あぁまぁ作戦に行く前にやってくれるんなら、狭い船内で君達にそんな事させる手間を掛けなくてもいいだろうし……」

 

「いや手間と言うか、それ以前に頼む相手を選ぶ基準に文句があった訳で、行為に対してと言うか、その辺りに不満があった訳では無いと言うか……」

 

 

 相変わらず双方に認識の違いという物がある場では、割とキョトンとした状態の髭眼帯(髷)と、赤面をする面々、そしてクネクネを開始する古鷹という微妙な場が展開される。

 

 

「ただいまー、あー結局ガンメタのブツは無かったから全部仕立てて貰う事になったよ」

 

「こっちは新品を注文したけど、受け取るのは北極から戻ってきた後になっちゃうかなぁ」

 

「榛名も手持ちの数で足りるか不安なので、後で注文しておくことにします」

 

「って言うかさっき入渠施設から出てきた不知火さんと神通さんですが、二人で仲睦まじくスキップ状態で……話を聞いたら酒保へ買い物へ行くと仰ってましたが、何かあったんでしょうか?」

 

「なんだろうねぇ、物凄くキラキラしてたけど……」

 

 

 そんな場に秘書艦ズ+αが帰って来たのは神の悪戯か、それとも切られようとしている髪の呪いなのか。

 

 そして入室した彼女達から見えるのは、畳コーナーで髭眼帯(髷)が赤面してクネクネする給糧課の者達に囲まれ、微妙な空気が漂っているという絵面(えづら)である。

 

 何事だろうと首を捻る彼女達を見て、気を使ってだろう秘書艦ズを部屋の隅に集め事の次第を説明する秋月という、色々と後から着任したという事と、当初に話題の中心に居たという立場に秋月という生真面目な艦娘が責任を感じて起こした行動を、一体誰が責められると言うのだろうか。

 

 それが例え髭眼帯をピンチに陥れる行為だとしても、善意と責任から出た行動と思えば仕方が無い事かも知れない。

 

 少なくとも一連の騒動を招き寄せたアオバワレと朔夜(防空棲姫)に比べれば、その行動の正当性は遙かにあると言えるだろう。

 

 

「ちょっと待って鳳翔さん」

 

「……どうしました時雨ちゃん?」

 

「その色々諸々の話、秘書課としては異議ありと言わせて貰うよ」

 

「異議あり……ですか、確かに時雨ちゃんにはその言葉を言う資格はありそうですね」

 

「僕と言うか、その手の話は鎮守府の者全員に言って、それからちゃんと決めるべき事だと思うんだ」

 

 

 吉野は思った、何故自分の散髪を鎮守府の者全員に告知して決定しないといけないのかと。

 

 そして同時に、以前数名の者が寄ってたかって髪型について色々諸々をしたあの惨事を思い出し、プルプルし始める。

 

 

「えっと、その、流石にそれは提督の極プライベートの問題と言うか、のっぴきならないアレであるので大っぴらにするのはどうかと言うか、多人数で致すのはどうかと思うんですが……」

 

「では、提督的には一度に何人までというお考えがあるのでしょう?」

 

「いや何人までと言うか、一般的には一人なんだろうけどまぁ……経験的に三~四人が限界だと思うんだよね」

 

「よ……四人!? 提督は四人同時でも大丈夫なのですか!?」

 

「いや大丈夫というか、それ位の経験しか無いから何とも言えないけど」

 

「経験則ですか!? 四人も同時に!?」

 

 

 髭眼帯は以前取り囲まれて髪型をワチャワチャされた経験から、散髪椅子の周りでは四人が並ぶのが限界だろうという予想で言った言葉だったが、それを聞いた周りの者は目を見開いて髭眼帯の言葉を聞いていた。

 

 おさらいの為に言っておくが、吉野的には散髪時に於ける参加人数の上限を言っている状態であるが、周りの艦娘にとってはアハンウフン時に随伴する僚艦の数という認識にあった。

 

 

 それは正に一部大本営の者達が囁く『大坂鎮守府の益荒男(ますらお)中将』の異名が、誤解を多分に含んだ状態で現場の者に認知された瞬間であった。

 

 

「ちょっと待ちなさい、皆色々と混乱しているけど、これは考え様によってはとても有用な情報だと思うわ」

 

「……朔夜(防空棲姫)さん、いつの間に現れたの?」

 

「ちょっとヤボ用があって来たんだけど、丁度その手の話題がされていたから不躾だとは思うけど……私の意見を述べさせて貰うわ、いい?」

 

「……どうぞ」

 

「今この鎮守府には総勢八十名程の者が居るわ、その中からテイトクとのそれに対する希望者を募ったとして、どれだけ集まると思う?」

 

 

 突然執務室に生えてきた朔夜(防空棲姫)の言葉に、場の者は難しい表情を浮かべながら指を折りつつ何かの数を数える。

 

 そしてその様を怪訝な表情のまま見る髭眼帯という、とてもおかしい空気が広がっている。

 

 

「多分……隠れ勢を入れると、半数程に登るのではと思いますが」

 

「鳳翔が言う数で取り敢えず考えれば四十名、これを一度に一人としてのローテで行くと、一度ヤってしまうと次に順番が巡って来るのは提督の休息日を挟むとすると、凡そ一ヶ月半後と言う事になるわね」

 

「確かに……」

 

「でも一度に四人なら、その期間は単純な話1/4に圧縮されるわ」

 

「!? 1/4!?」

 

「それはつまり、十日に一度という事になるわね、一対一という濃密な時間と引き換えに一ヶ月半という期間を悶々と過ごすのがいいか、それとも誰かと一緒にという事を受け入れ月に三回という機会を享受する方がいいか、それは個人の趣味趣向に拠る処が大きいでしょうね、しかしそれは慣れがなんとかしてくれるんじゃないかしら? 寧ろ他の者のテクニックを吸収し、より高みに至れるチャンスがあるのではという事と、テイトクの好みを知るという有用性もあると私は考えるわ、そしてある程度それに慣れたなら、改めて一対一の機会を設けて自分のテクニックを思う存分奮えばいいと思うの」

 

「な、なる程……」

 

 

 繰り返し言うが、髭眼帯的には散髪をお願いする相手という話題である。

 

 勘違い耳年増防空棲姫が言うアハンウフン同時参加人数の事では決して無い。

 

 そして朔夜(防空棲姫)の話を聞き、おや? と思った髭眼帯は話の詳細を順序だてて整理していく。

 

 話の中では一度に四人が散髪をすると言っている、そしてそのグループは十日に一度散髪をするという話である、それらを考慮すると、散髪の頻度は毎日、一ヶ月の間常に誰かが己のヘアーをチョッキンしているという計算になる。

 

 それは毎日トウモロコシの如く真っキンキンなヘアーになったり、サッカーのファンタシスタになったり、ヘタをすればバカ殿の如くの髪型に変化したりする危険性も孕むのである。

 

 

 しかし実際はより吉野的に深刻な話になっているのは別として、髭眼帯の思考に戻ってみると、それは毎日ヘアースタイルが変化するのは髭眼帯的に落ち着かない、しかもそれは当たりより外れの方が遙かに多いという予想もされちゃったりするという緊急事態。

 

 当然そんな事態は避けなければという精神的焦りが髭眼帯生まれても不思議では無かった。

 

 

「ちょちょちょっと朔夜(防空棲姫)君?」

 

「なにかしら?」

 

「えっと幾らなんでも毎日って言うのはどうかと提督は思うって言うか、趣味嗜好があっても余り過激なのはその……ね? 公務に差し支える系はどうかと思うんだけど」

 

「まぁそれはそうね、その辺り休息日と、後はプレイ内容の摺り合わせはしないといけないかも知れないわね」

 

「休息日ぃ? プレイ内容ぅ? ナニ言ってんのぉ?」

 

「ああテイトクはその辺り横文字で表現するのは否定派のニンゲンな訳ね? 大丈夫、その辺もちゃんと考慮して皆と相談するから」

 

 

 しつこい様だが理髪とそんな行為(・・・・・)の話である。

 

 

 一応意思疎通が通った会話が成立してしまっているが。

 

 

「今は作戦の準備で皆バタバタしてるから、その辺り話を詰める時間が取れないと思うんだけど」

 

「なら取り敢えずはクジか何かで第一陣を決めちゃって、作戦前に試しをしてみればどうかしら?」

 

「それじゃ扶桑と山城辺りが不公平だって言い出さないかな?」

 

「それは後でちゃんと順番組むからって納得して貰わないといけないかもね」

 

「それ以前にさっき注文してきた下着、間に合わないかも知れませんね」

 

「その辺りはしょうがないですよ、それ以前にクジを引き当てないと話は進みませんし」

 

「それはそうですが……」

 

「ねぇ君達」

 

 

 ワイワイと色々と話を詰め始めた者達の中で、髭眼帯はピコッと手を挙げて疑問を口にする。

 

 それを首を傾げて見る一団。

 

 

「今何と言うか、下着って言わなかった?」

 

「えぇ……今日新しいのを注文したんですが、酒保は今色々と支店を増やした関係で、オーダーメイド品の取り扱いは時間が掛かっているんです」

 

「いやそうじゃなく、何で今回の事に関して下着を新しくしないといけないのかの理由を聞いても?」

 

「え……提督ってその、もしかしてそっち系の物は何て言うか、その……」

 

「脱ぎたてとか、その辺りに性的興奮を感じる系だったりする?」

 

「うわぁ~……」

 

「ちょっと待って!? 何で提督そんな特殊な性癖の持ち主みたいなカンジになっちゃってるの!? 寧ろなんで散髪に下着が関係しちゃうの!? ねえっ!?」

 

「え? 散髪?」

 

「え?」

 

「え?」

 

 

 凍り付く執務室、無言の面々。

 

 怪訝な表情で固まる髭眼帯と、真面目な相で首を傾げる一団が集うそこには、今日何度目かの静寂が訪れ、コッチコッチと置時計から聞こえる音だけが支配する世界が広がった。

 

 

 こうしてアオバワレの言葉から発生した諸々の誤解は、ギリギリ一歩手前で双方の認識が一致し、羞恥心に転げまわる者や自己嫌悪で部屋の隅で丸くなる者を生み出し、結局は話が有耶無耶になった訳だが、一部の者はモヤモヤを抱えた状態になってしまう結果になってしまった。

 

 その為色々と考慮した折衷案として、髭眼帯の私室にある岩風呂での混浴と同衾という行為は、希望者を募りローテを組めばOKという決まりが出来上がり、結果として髭眼帯のバスタイムは基本水着着用がデフォという事になった。

 

 

 その結果明石セレクションの水着は大坂鎮守府ではシーズン関係なく一定量の需要が生まれる結果を生み出し、他拠点へ明石が営業を掛ける際は、提督私室の改装や、その他諸々がセットになるという、大坂鎮守府の例が持ち出される様になった。

 

 その結果吉野の与り知らない場所では、そんな事をしている海軍中将という益荒男的なレッテルを張られてしまう訳だが、その話はまた別の話である。

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。


それではどうか宜しくお願い致します。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。