大本営第二特務課の日常   作:zero-45

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 時勢というのはある程度予想はつくが、それはあくまで予想でありその通り行く事は殆ど無い。
 また物事には必ず時間という不可逆な絶対的要因の上に成り立つ物である為に、何をどうしても回避不可な事案が必ず存在する。
 予想という未来を読む事で確実にそれを言い当てる部分があるとするなら、その不可避の部分に関係する物しか実は存在しないのかも知れない。


 それでは何かご意見ご質問があればお気軽にどうぞ。


2017/08/28 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きました対艦ヘリ骸龍様、黒25様、リア10爆発46様、坂下郁様、鷺ノ宮様、有難う御座います、大変助かりました。


何度目かの大仕事、の準備

 

「そうかい、ボンの方はそんな事があったのかい、まぁなんて言うか色々浮世を離れた話の中身だけどよ、それが益になってんなら良しって事でいいんじゃねぇか?」

 

 

 大坂鎮守府艦娘寮一階。

 

 改装を済ませ随分広くなった居酒屋鳳翔の隅、カウンターでは無く小上がりの一番奥の席には二種軍装の上着を脱いだ三人の男達が卓を囲んでいた。

 

 一人は鎮守府司令長官であり、全身の包帯も取れた髭眼帯がツルンツルンになった頭を撫でつつ神妙な顔でコロッケを摘み、対面ではほろ酔い状態の舞鶴司令長官である輪島が片膝を立てつつ、ウイスキーの入ったグラスを舐める様にチビチビと味わいつつも上機嫌な表情で話を聞く。

 

 そしてその隣では友ヶ島警備府の指揮を執る唐沢が何とも言えない複雑な相を表に貼り付け、手にした猪口を静かに煽っていた。

 

 それは吉野が北極圏より帰還して五日後の事、既に関係各所への報告と直接的な話は殆ど終え、更にはその話に付いて詰めや折衝をしている最中。

 

 一応は山場という物を越えた状態ではあったが、それは同時にその手の話は関係各所へと行き渡り、上層部だけでは無く末端を含めての意見や反応が出てくる頃合とも言え、この辺りは組織としての意見や最終的な要望がこれから出てくるだろうという時期とも言える。

 

 そんな話は落ち着いたが、軍の上層部や他の組織からの正式な申し入れ等の対応をしている現在、逆に言えば裏での根回しや折衝という一番忙しくも面倒事が片付いた辺りを見計らい唐沢は吉野へ相談事を持ちかけ、また時同じくして輪島はクルイ沖で邂逅した艦娘の処理の為大坂鎮守府へ訪れていた為こんな席が出来上がっていた。

 

 

「んでもアレだよなぁ、その話が本当ならだ、吉野さンはなんつーの? 歳を取らなくなったンだろ?」

 

「一応そういう事になってるけど、実際それはいつまで続くか判らないし、前例の無い事だから……ある日突然ポックリなんて事があっても不思議じゃないってのが正直な話らしいんだよね」

 

「難儀な話だな、まぁそうしねぇと今年一杯みたいな辺りでおっ死んじまうってんならまぁよ、仕方がねえっつったら仕方がねぇやな」

 

「っつーかよ、その辺りの事情とか後から聞かされたこっちとしちゃぁなァ? ンな大事はハナに言っといてくんねぇ? 色々こっちにも段取りがあンだからさァ?」

 

 

 未だ吉野の体に付いての不可思議な情報は大坂鎮守府と繋がった拠点の長と、軍の上層部、及び関係の深い経済界の信用の於ける筋にしか伝えていない状態にある。

 

 不老という眉唾な情報であるそれはもし本当なら、大坂鎮守府の長がこのままの形でずっと存在する事となり、深海棲艦の約定と言う事で日本近海の安寧が個人の寿命に依存するという、そんな極々限られた期間の話では無くなったとそれを享受する者達にとっては喜ばしい結果を伴う結果となるが、逆に今の日本の趨勢を快く思わない方面からは『待てば何れはその状態は崩れる』という前提が無くなった為、それに対応する動きが出て来る事が予想されるという状況。

 

 今は限られた筋にしか伝えていないそれは吉野が管理できる情報網から外れた一団にも伝えている為、程なくあちらこちらに拡散されて物議を醸し出す事にはなるだろう。

 

 

「まぁボンの秘密主義は今に始まった事じゃねぇからクドクド言っても始まらねぇけどよ、もちっと腹割ってくんねぇと誰も付いて来なくなるぜ?」

 

「……えぇ、その辺りは肝に銘じておきます」

 

「まー色々とややこしい状態で言い難いっつーのは判ンだけどもサ、その辺りもホラ、こっちが信用されてるかどうかっつー内輪のアレに繋がるからサ」

 

「だなぁ……てか輪島のニーちゃんよぉ、幾ら今日は泊まりだっつってもいいのかいそんなに飲んじまっても? まだ話は残ってるんだろ?」

 

「あーいいのいいの、もぉ大筋は決まってるし、後はちょっとした詰めだけだから、なぁ吉野さン」

 

「まーそうですねぇ、クルイ沖やスエズ近海で邂逅した新しい艦娘さんの内、幾人かを舞鶴に着任させる事は既に上層部は承認してる訳ですし、その艦娘さんの代わりにこっちへ着任する子達も既にこっちへ来てる事ですから」

 

「しかし海防艦とかアレだな、今更何でって感じの艦が最近は邂逅し始めたが……その辺り何か法則とかあんのかねぇ」

 

「どうなんでしょうね、その辺りは上でも色々と調べているみたいですが、まだ確たる法則は確認されていないみたいですよ?」

 

「まぁその辺りの小難しい事は余所に任せておいていいんじゃねぇの? 取り敢えずウチは松輪と天霧を受領して、代わりにそっちへ瑞鳳と二航戦を送るって事で人員の振り分けをやって、他に残ってる作戦の後始末をやってりゃ取り敢えずは一段落だし、ヘタな事しなきゃ上も早々なンか言ってくる事はねーんじゃねぇかな?」

 

 

 吉野が行った北極海域調査作戦(・・・・)は意外な方面に飛び火した状態にあり、現在軍の戦力配置に大規模な変更が実施されている状態にあった。

 

 先ず北方棲姫との邂逅によって齎された、彼女が人類側への再侵攻の意思無しという情報は米国が実施したグリーンランド上陸作戦の結果を以って概ね裏が取れた物とし、それを受けて現在軍は日本の北に展開していた戦力を整理し、代わりに深海棲艦が活発な動きをし始めた南洋へ新たに戦力を向けるという方針になっていた。

 

 またそのついでという形で現在限定的な人員で運用していた大坂鎮守府へは、吉野の諸々(・・)の件が下で急遽通常の鎮守府としての規模拡張が必要なのでは無いかと軍部以外の方面から(・・・・・・・・・)働き掛けがあり、このタイミングでの人員増員と言う事での建造、または限られた数ではあったが、北方方面で整理された拠点に所属していた艦娘の一部は大坂へ送られる事になった。

 

 

「予定じゃどんだけの着任になるんだっけか? 北からの人員」

 

「そっちからは10名程と通達が来てますね、でと、現在ウチは80ちょいの艦娘さんが所属してますが……最終的には200規模を目指せというお達しで」

 

「そりゃ鎮守府って拠点は元々その辺りの人員を所属させて運営する事を想定したモンだけどよ、このご時勢いきなり百を超える艦娘を確保するなんざちょっとそりゃ無茶が過ぎる話だぁな」

 

「あくまで最終的にって事ですから、暫くは鎮守府運営が滞りなく回せる規模の人員増員を目指しての計画になると思います」

 

「滞りなく……って、どれだけの数が必要なんだい?」

 

「取り敢えずは120から150居れば24時間体勢で防衛は回りますし、対外的な緊急支援も可能になると思います」

 

「まー吉野さンチは運営面も艦娘で賄ってっからなァ、ドンパチだけ考えてりゃいいってモンじゃねーだろうし」

 

「舞鶴にも無理を言って二航戦と瑞鳳を出して貰いましたし、色々とご迷惑を御掛けしてます」

 

「んや、ウチの二航戦は先代が退いた時点で新規のモンに入れ替わっててよ、正直戦力外のモンだったから気にしなくてもいいぜ? それより海防艦って新しい艦種回して貰ったからサ、まぁ色々とよ……試せるって事でこっちはワクテカしてんよ」

 

 

 現状で言えば極北の拠点にあたる幌筵(ばらむしる)泊地と単冠湾(ひとかっぷわん)泊地が、施設はそのままに統廃合的な人員の割り振りとなり、その殆どの人員は南洋へ送られる事となている。

 

 また同時にその辺りにはロシアや怪しい動きを見せつつある大陸系からの介入を意識した拠点改革が行われ、現在は通常兵器の大幅配置という形で北の海は様変わりする予定になっていた。

 

 そして単冠湾(ひとかっぷわん)泊地司令長官であった石村毅郎(いしむら たけろう)中将が、暫く大本営が代理管轄していた横須賀鎮守府司令長官、兼海軍教育局長の任に就き、大本営周りの足場も固まりつつあった。

 

 

「兵装実験という面で言えば本来ウチで海防艦の運用試験やらデータ取りをしなくちゃいけないんですが、対潜哨戒の回数で言うと既にクルイへ着任させている海防艦三人で充分なデータ収集が出来てる状態にありますし、大阪湾では近海の都合で対潜哨戒は余り用を成さないですから」

 

「最初はウチ(友ヶ島警備府)にって話もあったが、朔夜(防空棲姫)嬢が日本近海をテリトリー化しちまった今じゃ出番は皆無だしなぁ」

 

「ンで? その辺りはまァいいとして、問題はまたぞろ色々と欧州方面から持ちかけられてきた新規艦って事になると?」

 

「あー……ですねぇ、以前に譲渡して貰った艦娘さんとウチの深海艦隊との模擬戦データが、今回の欧州で発生した一連の騒動にかなりその……有用だったみたいでして……」

 

「なる程なぁ、その関係で新しく邂逅した艦も大坂へ送ってデータ取りしようって事かい」

 

「えぇそんな感じでしょうか、只のデータだけじゃアレだと思って艦隊運用やら、戦略提案も行った結果こうなってしまった感じと言いますか……」

 

「はっ、要するにまた便利使いされるって寸法だ、手間もコストも掛かんねぇしアッチとしちゃそりゃ願っても無い話だよなぁ、で? えっとなンつったっけ今度送られて来るってヤツ? 確かマリオの弟みたいな名前の潜水艦とか居なかったか?」

 

「ルイージ・トレッリですね、既にコマ……えっと、んと……コマちゃんとリシュリュー君は着任してますし、他にはアークロイアル、それとまだウチには未着任だったZ1(レーベ・ヒト・マース)Z3(マックス・シュルツ)も追加着任と言う事で」

 

「それに加えてイタリア、ローマ、ザラ、アクィラっつーイタ艦も揃い踏みとくりゃ、幾ら本土鎮守府つっても大本営以外じゃ海外艦全てが揃った拠点って事で、色々対外的に大変になりそうだなぁ、なぁボンよ」

 

 

 ニヤニヤと楽しそうな表情の輪島と苦笑いの髭爺の言葉に、髭眼帯(スキンヘッズ)は無言でドクペを啜りつつ、それでも大幅な人員の増員と、それに伴う施設拡張の必要に迫られる事が予想され、予算獲得の為に色々とまた関係各所への根回しが必要になったと頭を抱えるのであった。

 

 

「それでまぁこんなバタバタしてる時にアレだがボンよ」

 

「はい? 何かありましたか?」

 

「いや何かっつーかな、済まんが俺っちそろそろ引退させて貰おうかなって思ってんだけどよ」

 

「……はぁ!? 引退!? 唐沢さんがですか?」

 

「おぅ、ちっとな……この前の定期健診で色々医者に言われちまってよ、つっても重篤な状態じゃねーんだけど基地運営をやってくにはよ、色々アレな感じな程体にガタがきちまってるみたいでな……」

 

 

 色々と話が落ち着き、まったりとしつつあった卓が再び切羽詰った空気に包まれ、吉野は眉を跳ね上げてハゲ頭に汗を滲ませ、輪島は酒を盛大に噴出した。

 

 そんな状態で固まる中で髭爺だけは淡々と話の続きを口にしていく。

 

 

「たまーにだがやる事とか忘れちまったり、命令を出す時言葉に詰まる事が多くなっちまってよ、今はまだいいがこれから先何かあった時それじゃ儘ならん時が必ず来る、そうなっちまう前に後任を決めてちゃんと警備府が回るようにしとかねーとよ?」

 

「ず……随分いきなりな話ですね、天龍君とかにはその話は?」

 

「あー元々この話はアイツには前々から言われてた事なんだがよぉ、この春先からかな、まぁ本格的な話し合いはちびちびと続けてはいたんだ」

 

 

 髭爺の言葉に、あの花見の宴会で見せた友ヶ島警備府艦隊総旗艦の眼帯が見せた寂し気な表情が思い出される。

 

 あの時はまだ先の話としてそれは終わり、徐々に様子を見て結論は出ると吉野は思っていた。

 

 しかし天龍も思う処はあったのだろう、平時から意地っ張りな髭爺が進退を決め、それに納得した様を見せていると言う事は、あれからずっとその話を勧め、それなりの衝突と話し合いは幾度も繰り返した筈である。

 

 そんな天龍と髭爺にあった筈の諸々を思い、そして目の前で寂し気に、それでもきっぱりと身を引くと宣言した老躯に対し吉野からは引き止める為の気持ちはあっても、それを言葉として口から出す事は到底出来ない状況にあった。

 

 

「なる程……それで勇退を決めたと言う事ですか」

 

「おう、本当ならボンにも色々と相談しねーととは思ってたんだけどよ、ほら、今度の作戦とか色々あっただろ? こっちの都合でそれ邪魔すんのもアレだと思ってよ」

 

「それなら何もこんな急に決めなくてもよ、落ち着いた後からでも充分時間があったンじゃねーの? ジーサン」

 

「そうも言ってらんねぇよ、何せボンが進めてる計画はまだ序盤も序盤だぁな、ここでジジイがヨタヨタと関わっても先はねぇ、ならいっそそれに合わせて後任を決めて、ソイツに計画初期から関わらせといた方が絶対いい」

 

「いや待てよ、後任ってナンだよ、ジーサンの代わりが勤まるヤツなんか早々いねーんじゃねーの? どっからそういうヤツを引っ張って来るつもりだよ?」

 

「それなんだけどよ、流石に俺っちにも心当たりが無かったもんでな、染谷さんにちょっとよ……相談に乗って貰ったんだよ」

 

「……染谷さんにですか?」

 

「おう、あん人は色々と顔が広い上に、今でもそれなりに発言力って面はあっからな」

 

 

 元岩国基地司令長官染谷文吾(そめや ぶんご)、現在は日本退役軍人会の会長に収まっているが、その組織は単なる退役軍人の繋がりを受け持つOBが集う民間組織という位置付けに留まらず、会に属する元将官達が持つネットワークを背景に民間と軍を取り持つ広域組織という活動をしており、情報の取り扱いから始まり、人的斡旋や、果ては個人の縁を通じての諸外国へ対する外交の取り付け等、要所に就いていた者が退役した後も軍や政府筋に当時の(つて)を利用する事を可能とした一大組織としてそれは存在する。

 

 

「……そンで、後任人事を含めた先の話はどこまで進んでンだよ?」

 

「先ず大坂鎮守府には艦隊を複数動かす必要があるってぇ前提があっから、友ヶ島警備府って拠点は統廃合しないって前提で、但し今の拠点は通常兵装と陸さんからの人員を残した状態を維持しつつ防衛拠点として残す」

 

「と言うことは所属の艦娘さん達は……」

 

「天龍型二人と、睦月型全員はここで厄介になる事になるが、それは構わねぇだろ?」

 

「えぇそれは問題は無いですが」

 

「今ウチは外洋から来る敵に対しての防衛ってよりは、大坂鎮守府所管の海域哨戒を受け持つって色合いが濃い、だから人員もこっちに配備した方が色々と都合がいい筈だ、んでこっちに移した友ヶ島警備府の人員は大坂鎮守府の施設とかも使わせて貰いつつ、独立して哨戒の任を専門に活動する」

 

「なる程……大坂鎮守府の施設を共用しつつ、任務は今までのままとして活動すると、確かに平時の業務は今そちらと密に取り合ってますからそれの方が効率化が図れますし、哨戒関係の任を全て独立した部署が受け持てばこっちの負担はかなり軽減されますが……」

 

「まーちっと変則的になっちまうけどよ、出撃だの防衛だのと活動を手広くしようとすっと、一拠点4艦隊って縛りがあるとやれる事も少ねぇから、どうしても友ヶ島警備府って拠点は存在しなくちゃいけねぇ」

 

「はい、それは確かに」

 

「て言うかよ、もっと前にこんな話は出てもおかしくは無かった筈だぁな、今までそれが一言も無かったっつーのはボンが俺っちに気を利かせてたからって事情があったからなんだろ?」

 

 

 嘗て深海棲艦が紀伊水道から瀬戸内海へ侵入しない様配備されたという友ヶ島警備府は、現在日本近海のテリトリーが朔夜(防空棲姫)の物となって以降無用の拠点となりつつあった。

 

 しかしそれでも現在まで存在していたのは、髭爺が言った通り『一拠点四艦隊しか編成不可』という現在の摩訶不思議な基地運営に関する事情があり、それの抜け道的な運用が可能な様にという、大坂鎮守府のバックアップ艦隊としての友ヶ島警備府という存在と、吉野的にはそれに加え唐沢という第二の師に対する敬意があったからである。

 

 しかし効率的な面で言えば友ヶ島という場に人員を配し、別運営として業務を割り当てるには平時としては支障は無いが、緊急的な事案が発生した場合の連携に僅かばかりの難が出る事と、艦娘の維持をしていくと言う事でそれなりの費用と手間も別途に発生する為、実の処メリットよりもデメリットという形の物が僅かばかり大きい状態となっていた。

 

 

「確かに唐沢さんの仰る話はその通りですが、友ヶ島に独立拠点を構える事にメリットが無かった訳じゃ無いんですよ?」

 

「ああ知ってるよ、んでもそいつぁ艦隊規模の艦娘達をあそこ(友ヶ島)に置く程のモンじゃねぇし、その業務も大坂鎮守府って拠点が出来た時点で全て賄えるモンだった筈だ、まぁ要するに今の状態ってのはよ、俺っちがあっこ(友ヶ島)に居るって事情が殆どの理由になってんじゃねーのかい?」

 

 

 バッサリと髭爺に両断された形の話に吉野は返す言葉が見付からない。

 

 色々と理由を捻り出す事は出来たが、それを言う事も必要性も無い現状、髭爺の言う言葉を受け入れ、それを認めないと取り敢えずの話は進まず、また双方にはこの件に付いての結論は既に出ている事を理解している吉野は表情を歪め、結果としてその話を受け入れる事しか出来なかった。

 

 

「まぁそんな訳でよ、今まで長々とこっちの我儘に付き合せちまったけどよ、これを機会にちゃんとした形で拠点の整備とか進めちゃどうよって話でな?」

 

「ジーサンの言う事は判ったけどよ、結局問題はジーサンの代わりをするヤツはどうすんだよって話になるんじゃねぇのこれ?」

 

「確かに……唐沢さん程の差配が出来る人員となると、自分には心当たりは全然と言う事になりますし、幾ら染谷さんでも現役の指揮官を引き抜きする程の無茶は出来ないと思うんですが……」

 

「それなんだけどよ? 哨戒任務ってやつぁ支配海域を知り尽くしてなくちゃいけねぇって前提と、艦娘の有効活用って点で性能とクセを理解し、なるべく少数での結果を出さないといけない側面もある」

 

 

 情報が不足し、攻める事に終始する攻略という艦隊編成は基本余力を持たせ、どんな戦いでも勝てる準備を整えてから活動する必要がある。

 

 しかし支配海域を防衛するという任はどれだけコストを削減し、その中で最大の効率を上げるかという事が求められる。

 

 それには海域の全てを掌握し、投入する人員や装備を適切な物に調整、更にはそれを想定する中で出来る限り最低限の範囲に留めるというタイトな運用をしつつも、全ての事案に対応可能な様にという、攻略とは別なアプローチでありながらも同じ結果が求められる特殊な任務とも言える。

 

 

「この海域を知り尽くしてるって面じゃ今の軍部に該当するヤツぁいねぇ、そっちはもうこの先経験して覚えていくしかねぇやな、んでもよ、艦娘ってヤツを深く理解し、適切な運用が出来る人員ってのはソイツの資質と、んで経験が物を言う」

 

「仰る事は理解出来ますけど、そんな人物を探してくるとなると益々引き抜く事は難しくなるんじゃないでしょうか」

 

「だよなぁ、艦娘だけじゃなくてデキる指揮官ってのはどこでも引っ張りダコだ、ンなヤツがもし居たとしても、みすみすその人員を手放す拠点は無いんじゃねぇの?」

 

「まぁ引っ張ってくんのが軍人ならそうだろうよ」

 

「……軍人なら?」

 

「おうよ、今言ったみたいにどっちにしても経験ってヤツは現場で積むしかねぇ、でも艦娘の事に精通してるのは何も軍人だけじゃねぇぜ?」

 

「民間人から指揮官を徴用すると言う事ですか? それは資質以前に軍籍という問題があって難しいと思うんですが……」

 

「それな? まぁその辺り俺っちが相談して染谷さんから帰って来た返事は、ほら、あのドイツの技術士官、リーゼロッテってネーチャンが居ただろ? あん子を俺の後任に据えちゃどうかって話なんだがよ?」

 

「え……リーゼロッテ? あのドイツ連邦海軍のリーゼロッテ・ホルンシュタイン少将の事ですか?」

 

「あぁ、階級は少将で軍務にも就いちゃいるが、元々あんネーチャンの担当は艦娘の技術実証研究と、それによる艦隊運営の効率化ってヤツなんだそうだ」

 

 

 リーゼロッテ・ホルンシュタイン

 

 ドイツ連邦共和国海軍技術士官及び戦略立案部門顧問。

 

 元々は研究畑の出であった彼女は、まだ日本が艦娘の殆どを運営していた時代に日本の軍へ出向してきたドイツ軍からの交換留学生の一人であり、研究分野で艦娘運用の基礎技術を軍で習得し、その後ドイツへ戻った後は現在の欧州に於ける艦娘運用の基礎を築くプロジェクトに従事していた技術士官であった。

 

 そのプロジェクトの目的はまだ当時欧州には少数しか存在しなかった艦娘という存在を、如何に運用して最大の戦果が挙げられるかという物にあり、そのプロジェクトは計画立ち上げ時よりも多少艦種に余裕が出来た現在、一定の成果を挙げたと言われている。

 

 そんな彼女は嘗ての経験上、日本の艦娘に対する知識はそこいらの指揮官よりは造詣が深く、また運営の効率化という面ではより効果的な運用が出来ると自ら豪語するオッパイ少将でもあった。

 

 

「元々大坂鎮守府に所属する深海勢に並々なんねぇ興味があったらしくてな、個人的に染谷さんトコに度々ココへ出向か留学出来ねぇかって打電はあったらしいんだよ」

 

「技術士官って……そんなヤツが艦隊の指揮が執れンのかよ?」

 

「あっちじゃ実験部隊を率いて前線でそれなりの戦果は挙げてたそうだ、その辺りは染谷さんの折り紙付きだぁな」

 

「て事は、残りの問題はこっちの都合って事になるんでしょうか?」

 

「あぁ、ぶっちゃけボンが首を縦に振るかどうか、申し訳無いがここまで話は進めさせて貰った、色々と勝手にっつーか……出過ぎた真似しちゃいるってのは判ってんだけどよ……」

 

「あぁいやそれは別段問題は無いんですが……問題はそのリーゼロッテ嬢がどれだけやれるのかと、周りの調整があったりするので、今ここで『はいそうですか宜しくお願いします』と答えは出せませんよ?」

 

「それは判ってるって、だがこっちもあんま時間がねぇからよ、取り敢えずお試しって事で暫く実務をさせてみて、イケそうなら本採用って事でどうかって先方は言ってきちゃいるんだがよ」

 

「試用期間を設けるという事ですか……それで、ドイツ筋の調整や大本営に対する根回し関係はどうなるんでしょう?」

 

「さっきも言った通り、もうボンが首を縦に振るかどうかって状態までは詰めてある、つってもよ、それを強要するつもりはねぇからよ、それはボンの判断で決めてくんねぇかな?」

 

「なる程……それなら一応クェゼリンとクルイも交えて色々と話し合いの場を設けて、その後お返事すると言う事でいいでしょうか?」

 

「ああ構わねぇよ、手間掛けさせるが宜しく頼むわ」

 

 

 こうして情勢の絡みで国内の拠点調整が行われ、結果として大坂鎮守府は仮にでは無く規模を他の鎮守府並みに拡充する方針が採られ、同時に髭爺の勇退に伴い友ヶ島警備府自体の整備が行われる事が決定する。

 

 そして後にドイツ連邦海軍よりリーゼロッテ・ホルンシュタインという技術将校を迎え入れ、それを友ヶ島警備府司令長官(仮)とし、大坂鎮守府顧問というポストを新設する事で髭爺をご意見番としてその席に据え、それに収まる形で楽隠居という実を受け入れて貰う。

 

 そんな色々を以って、大坂鎮守府を巡る新体制が徐々に整えられていく事になるのであった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

「司令……南紀からいいイサギが入りましたので一夜干しにして焼いてみたのですが、お味は如何でしょうか?」

 

「ああうん……大変おいしゅうゴザイマス……」

 

「それはよう御座いました……これで店のお品書きに書き加える事が出来ます」

 

 

 色々諸々と男臭くも大事を話し合った卓はそれが終わったという事もあり、現在はやや小規模かつ緩い酒宴という雰囲気になっていた。

 

 髭爺の脇にはおさんどんをする龍田という絵面(えづら)と、隣では既に出来上がっている輪島の面倒を見る千歳。

 

 そして髭眼帯(パゲ)の隣には先日着任を果した旗風と、今回舞鶴より異動してきた二航戦という、何と言うか一部迫力満点の連峰が(そび)え立つ席がそこにあった。

 

 

 聞く処によるとこの旗風は姉の春風と同じく食べ物に対する興味がそれなりにあり、姉とは違い甘味とは違う方面に琴線が触れた為に鳳翔の店で料理修行をする事にしたらしく、午前中は錬度上げの為の教導を受け、昼からの繁忙時間には店に入るというシフトを暫く続けていく事になったのだという。

 

 

「ほらほらぁ提督、もっと食べないとダメですよ? 多門丸並にとは言いませんが食は全ての基本、もっと食べないとめっ! ですからね?」

 

「ちょっと飛龍、普通の人に多門丸レベルの食欲を求めるのは無理過ぎるから! ほらドンブリ飯構えるのヤメようよ、提督引いちゃってんじゃん」

 

「いや蒼龍もさ、提督のこのヒョロ助具合はどうにかしないとって思わない?」

 

「あっと、それはまぁ……」

 

「ね? では改めて、第二次攻撃の要を認めます、急いで!」

 

「ではわたくしは米の合間にオカズを投入する任を……受け持ちます」

 

 

 大迫力の連峰に脇を固められ、フードファイターの育成でもするのかという勢いで米! 米! 米と口に捻じ込まれつつ、その隙間にオカスをしずしずと投入する大正ウェーブ。

 

 いつもは即ツッコミ返す髭眼帯(パゲ)もその勢いに抗う事は出来ず、ただただンガックックと呻きつつなすが儘になると言う異次元居酒屋。

 

 そんな卓をあらあらと言いつつ微笑み見る女将の鳳翔は、何故かカウンターの上に帳面を広げて電卓を操作しつつ、その脇に積みあがった大量のゲンナマを数えるという作業をこなしていた。

 

 

「鳳翔さん、そのお金は一体……」

 

「ああこれですか? 鳳翔会の会費を計算してるんです、色々あって明日口座に入金しないといけないのを忘れてて、ちょっと不躾ですが手が空いてる今の内にと」

 

「それ鳳翔会の……会費なんだ」

 

 

 色んな意味で目のハイライトを薄くした龍鳳の前では、札束の山を数えつつそれを巨大なアタッシュケースへ積め込み、手馴れた手付きでそれを大黒帳へ記入していくオカンの姿があった。

 

 全国津々浦々の拠点に存在する軽空母鳳翔、その横の繋がりは強く、またその多くが居酒屋経営主とあってその会は互助会的な要素も強く、互いの持つ資金の一部を「会員費」と称してプールし、数々の催しの際資金を拠出したり、またどこかの鳳翔が新しい店舗を構える時にはそれの支援にとそれらを支出するという活動を行っている。

 

 その会は大本営海軍元帥大将の坂田一(さかた はじめ)の秘書艦にある鳳翔が会長を務め、また大坂鎮守府の鳳翔はその会の会計をしている為にこの様な業務も度々こなしているという事情があっての絵面(えづら)がこれあった。

 

 

「今回は色々と大規模な作戦があって、会費の徴収に手間が掛かってしまってバタバタしてるの、ごめんなさいね?」

 

「あ……ああいえ、別に今忙しいって訳じゃないですし、はい」

 

「でもこれビッグ・ママが居なかったらまだ会費の回収に時間掛かってたわね、今回は本当にどうなるかって思ったけど……」

 

「ビッグ……ママ? ですか?」

 

「えぇ、鳳翔会の中には居酒屋だけじゃなく、土産屋とかお弁当屋なんて店を経営している者も居るんだけど、九州のとある鎮守府にいる鳳翔は倶楽部を経営しててね、その子は鳳翔会では執行部の長に就いてるんだけど、何かトラブルがあった時はその広い(つて)を使って調停役として動いたり(・・・・)、会費の徴収(・・)とかもやってくれているの」

 

 

 龍鳳は思った、鳳翔の口から出るそれは言葉尻は柔らかいが、それは揉め事があった際は実力行使という名の粛清をしたり、徴収という名の取り立てを行っているだけでは無いのかと。

 

 そんな目のハイライトを完全に退色させた元鯨が現実逃避をする為視線を巡らせると、奥の座敷に向かい列を成して行進していく珍妙な一団の姿が見えた。

 

 

「フラットドラゴン!」

 

 

 そんな一団の先頭を歩いていた珍妙かつ、『うょじうゅり』というゼッケン的な布を平坦な胸部分に縫い付けたスク水姿の艦娘は、肉食獣を彷彿させるワイルドなポージングでパゲ眼帯達が居る卓へと乱入を果す。

 

 

 一瞬だけ動きが止まる周囲、それは突然現れた何と言うか、言葉にしてしまうとスク水の集団を見た卓の者達が思考を停止した瞬間であった。

 

 

「ゴホッゴフッ……う……うん? どうしたのフラットドラゴン?」

 

「フラットフェニックス!」

 

「ああうん……えっとその、いつもの(・・・・)はいいから用件とその他諸々を速やかに、簡潔にして貰えると提督助かるんですが……」

 

 

 口の周りを米粒だらけにして咳き込むパゲ眼帯と、その脇ではムッチャ怪訝な表情の二航戦に対し、まな板の横で何と言うか形容のし難いポーズを取るタウイタウイ、そしてその脇に居たズイズイが進み出て、ほんの少しつつましやかに荒ぶる鷹のポーズを取りつつ『フラットクレイン』と呟いている。

 

 

「結局それはやるんだぁ、てか、あれ? 君は……」

 

 

 何とも言えない表情のパゲ眼帯の前では、今まで見た事も無い艦娘がおずおずとタウイタウイの横に並び、ぎこちない格好でこれまた微妙なポージングをプルプルしつつ取ろうとしていた。

 

 

「フ……フラットロールド・エッグ……」

 

「語呂わるっ!? え? ナニ新人? ダレ!?」

 

「あれ?……もしかして瑞鳳?」

 

「ちがっ……違うのよぉ蒼龍ぅ! これには色々と事情があってぇ!」

 

「てか新人入ってるのに相変わらずファイブになってないよドラゴン!? 残りの一人どうしたの!?」

 

「ああ熊野な……アイツ航巡から軽空母に改装する気無いからって脱退しよった、まぁ活動の方向性に対する性格の不一致ってヤツが生んだ弊害って事で、そのヘンは理解してや」

 

 

 何故か二航戦の指摘に涙目で答えるたべりゅの横では、妙に何かを悟った表情のフラットドラゴンが、ボソボソとユニット脱退者に対する説明を口にする。

 

 そんな彼女達の活動の方向性とは何なのか、メンバーが入れ替わっても尚固定メンバーが四人なのに、頑なにファイブと名乗るのは何故だろうとパゲ眼帯は返す言葉も無くその様を凝視していた。

 

 

「まぁそれはええ、今回はその欠員を埋める真なるメンバー加入の報告と、そして新たなるメンバーの情報を聞きたくて今日は参上したねん」

 

「いやそんな訳の判らない珍妙な集いの報告を提督にされても……って、新たなるメンバぁ?」

 

「せや、何でもウチは艦娘の大幅人員が決定したって長門に聞いたんやけど」

 

「ああうん、それはまぁ確かにそんな決定はしたけど……」

 

「んで? その人員の中に葛城は居るんか?」

 

「葛城……って言うと、あの雲龍型の?」

 

「雲龍型航空母艦葛城……それがこのフラットファイブ最後のメンバーにして、ニューフェイス、ソイツ無くしてこの戦隊の真の姿は顕現不可能!」

 

「いやそんな戦隊を顕現する必要がどこにあるのか提督には理解出来ないんだけど……葛城君は、うん確か着任までもうちょっと掛かるけど、幌筵(ばらむしる)泊地から着任してくる艦娘さんの中に彼女は居た様な……あれ? 天城君だっけ? うん?」

 

「……司令官」

 

「うん? ナニ?」

 

「天城と葛城……確かに二人は雲龍型姉妹かも知れん」

 

「うんそうだねぇ」

 

「せやけどな、この二人の属性は相反した物になっとるんや、もし着任するんが葛城やのーて天城やったら、フラットファイブの完成形が遠のく事はおろか、逆に危機的状況に陥ってまうんやでっ!」

 

 

 雲龍型航空母艦

 

 それは大戦末期に近い頃、大鳳が建造された後に建造された正規空母三隻の事を指す。

 

 その計画が実施された当時、日本に於ける台所事情は逼迫した状態となっており、当初計画した大型空母の建造は予算や資源、そして戦時中に喪失した建造能力が災いし途中でそれらは何度と無く変更を余儀なくされ、それは諸般の事情と共に昭和十六年度戦時艦船建造及航空兵力拡充計画(通称マル急計画)として再編され、中型空母一隻を建造する計画に変更された。

 

 だがその計画が立ち上がった時には新規に中型の航空母艦を建造する為に必要な基礎設計は進められておらず、結果として空母飛龍の設計を流用して建造されたのが雲龍型航空母艦であった。

 

 当然その船体は通常の正規空母の規格として建造され、当初は一隻だけを進水させる筈であったが、この時期にミッドウェー海戦にて一航戦、二航戦という四隻の航空母艦を喪失した事を受け、軍は計画の内容を再検討した末に変更、結果として10年間の長期に渡り十五隻という航空母艦を建造するという改マル5計画を緊急的に実施、更にその後計画は数々の変貌を辿りつつ、結局終戦までに進水したのは雲龍、天城、葛城の三隻のみとなり、建造中であった笠置、阿蘇、生駒はそのまま完成を見る事は無く建造中止、未成艦となった。

 

 基本設計は飛龍の物を、それに蒼龍に施された改良部分を内包する『改・飛龍型』とも言われる船体は概ね良好な性能を持つと言われたが、時勢が悪く満足な航空機も配備されず、活躍の場は先達達とは違い不遇の一言に尽きる物であったという。

 

 そんな三隻であるが、雲龍には当時飛龍が搭載していた物と同じく鈴谷型巡洋艦が搭載していた機関を備え、次に三菱長崎造船所で建造された天城は同機関が調達困難な為に伊吹型巡洋艦の物を、そして呉海軍工廠で建造されていた葛城に至っては、陽炎型駆逐艦の機関を搭載する事で完成を見る事になった。

 

 

 そんな数奇な生まれと混迷した前世が絡んでか、三姉妹の体躯も当時建造された状況を引き継いだ物になっているのではと称され、雲龍、天城が正規空母にありがちな大出力、大型艦を表す一部分が強調されるという出で立ちに対し、駆逐艦の心臓を持つ葛城は別称『陽炎型空母』と揶揄され、正規空母でありながら龍驤の言う様な『独特のシルエット』を備える艦娘として受肉するに至った。

 

 

 要するに葛城、平たい胸族である。

 

 

 そんな約束された一族最後の砦を待つ大坂鎮守府平たい胸族事情を考慮した場合、同じ雲龍型という名称の航空母艦であっても、誰が着任するかによってはその心情と言うか、四人しか居ないのにファイブというイカサマー状態から脱却できるかどうかの瀬戸際と言うか、ぶっちゃけ傷を舐め合う同志では無く更なる差を見せ付けられるという存在が現れる危険性が微レ存という、そんな切羽詰ったどうでもいい事情がフラットファイブ(仮)には漂っちゃったりしていたのであった。

 

 

「……何となく君達の言いたい事は判るんだけど、誰が着任するかってのはゴメン、今提督ド忘れしててワカンナイ」

 

「フッザケンナこのハゲ! それでも鎮守府司令長官かいっ! ちゃんと着任する艦娘の名前とか属性は覚えとくんが筋やろっ!」

 

「ちょっと提督のコレはハゲじゃなくて一時的に剃ってるだけだからね!? てか属性ってナニ!? 何の事言ってるワケ!?」

 

「ンなモン決まってるやろ! コイツとっ! コイツみたいにっ! 恥も外聞も無く腫れ上がった贅……肉……」

 

 

 ヒートアップしたフラットドラゴンは、勢いに任せそこに居た二航戦のパイパイをパイーンパイーンと順に平手打ちした訳だが、思いの他そのボリュームがあったせいか、それとも返ってくるちょっとドリーミーな手応えに酔い痴れてしまった為か。

 

 プルルンと揺れる四つのたわわな果実を前に一瞬動きが止まり、次の瞬間スススと無言で下がり、何故か体育座りになってシクシクと泣き始めた。

 

 

 フラットドラゴン、山脈に挑むも登頂を断念した結果、帰路にて遭難してしまった瞬間がそこにあった。

 

 

「くっ……こんな……こんな酷い」

 

「えっと……瑞鳳、私達どうすればいいのかな?」

 

「うんもう……兎に角ゴメン、後で九九艦爆お詫びに持ってくから、うん、それで許して」

 

「いや、いらないし」

 

 

 こうして居酒屋鳳翔で繰り広げられる醜いいざこざは言葉少な気に幕を降ろし、オカンがゲンナマを数えるシャシャシャという札が奏でる静かな音と共に、平たい胸族が静かに退場するという結末になったのであった。

 

 

 尚この日より約二週間後には、フラットドラゴンが切望していた陽炎型空母葛城がめでたく着任する事になり、新生と言うか真性フラットファイブが結成される訳だが、それはまた後日に語られる事になるかも知れない。

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 ただ言い回しや文面は意図している部分がありますので、日本語的におかしい事になっていない限りはそのままでいく形になる事があります、その辺りはご了承下さいませ。

 また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。


それではどうか宜しくお願い致します。

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