大本営第二特務課の日常   作:zero-45

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 前回までのあらすじ

 遂にへんたいが大坂鎮守府へ上陸、なのですがむちむち化、そんなカオスに続き脳筋な二人の邂逅、色々あり過ぎて結局髭眼帯はエアーに成り果てる。


 それでは何かご意見ご質問があればお気軽にどうぞ。


2017/09/22
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きましたリア10爆発46様、有難う御座います、大変助かりました。


それはある意味洗礼と言えるのか。

「今回私が彼女の『案内』に指名されたのは何となく判るんだけど、どうしてこのメンツで集合してるのか今一理解が出来ないね」

 

 

 大坂鎮守府艦娘寮に入る居酒屋鳳翔。

 

 そこは日々軍務に疲れた艦娘達に癒しと寛ぎを提供し、明日への活力を養って貰おうと女将が持て成す居酒屋である。

 

 拘りと品質を頑固で纏めた甘味処『元祖間宮』に比べ逆の路線を行くこの店は、サービス精神旺盛な鳳翔のやり方をそのまま形にしたかの営業形態であった為に、食材の持込や無茶な注文もかなりのレベルで通ってしまうという、そんな店でもある。

 

 ある意味嗜好が混沌としている者が集う大坂鎮守府にあって、そのスタンスは数々の伝説を生み出す場を提供する事になり、誰が呼んだかいつしかこの店は『異次元居酒屋』という名称で呼ばれる事になった。

 

 そんな店の一角、最奥に設置された小上がりの畳席。

 

 そこには先日へんたいさに連れて来られ、大坂鎮守に仮所属となった戦艦ガングートと秘書艦響、それから一航戦の青いのと髭眼帯という四人が囲む卓があった。

 

 

「提督はお昼食べに来たら何故か巻き込まれました……」

 

「お昼ってもう一四〇〇(ヒトヨン マルマル)だよ? 忙しいのは判るけど食事の時間位ちゃんと調整しようよ」

 

「私は彼女が赤城さんに用があると聞いてその代理で」

 

「なる程、そして前世が同じ国の所属だった私が案内を任されたと言う事で、こんなメンツで卓を囲む事になった訳なんだね」

 

 

 髭眼帯が物凄く怪訝な表情で見るテーブルの上には鳳翔謹製のコロッケ定食という定番と、旬であるカボチャといんげんの煮物、朝に和歌山で水揚げされたばかりの生しらすの鉢、そして早くも市場に出回り始めた太刀魚の刺身という旬の食材を使った料理が並ぶ。

 

 

「うん、相変わらず美味しそうな料理だね、流石鳳翔さん」

 

「ガングートさんは生魚の類は食べれるのかしら?」

 

「いや、魚の生食は経験した事は無いが、周りの者が食べているなら私もそれに合わせるのは(やぶさ)かでは無いぞ?」

 

「それは良かった、この季節は新鮮なしらすや鯵、太刀魚がここらでは出回りますから、生で魚が食べれるかどうかで食の満喫度が変ります」

 

 

 和やかに進行するそんな卓、端に座る髭眼帯の表情だけは物凄く怪訝な表情のまま変化が無い。

 

 その視線が見る先には旬の料理に混じった数々の異物、和紙で拵えた箱に盛られる黒い菱形の物体や、白黒菱形模様が目に鮮やかな数個の包み、そこに添えられる妙な形状の黒い物体がINする小袋等。

 

 美味しそうな料理と並べるには冒涜では無かろうかと感じられるそんな絵面(えづら)

 

 じわじわと醸し出されるアレな空気に加賀とそのブツ達を交互に見る髭眼帯と、その視線に気付いたのかニコリと微笑むBlueな奴。

 

 

 既に異次元度がかなりのLVで加速している卓に不安しかない髭眼帯は、プルプル震えつつ無言で周りの動向を伺うという挙動不審状態にあった。

 

 

「ところで加賀と言ったか、赤城はそんなに忙しいのか?」

 

「えぇ、私達航空母艦は艦載機運用が戦いの主軸になるのだけど、その艦載機の拠り代となる矢や式符は自分で用意しなくてはいけないし、それらは特殊な環境下で決まった手順を経て作成しなくてはいけないから……」

 

「なる程な、良く判らないが軍務ならば仕方無い、それで加賀よ」

 

「なに?」

 

「お前の脇に山積みになっているそれは何だ? 見た所菓子か何かの様に見えるのだが」

 

「……ガングート君」

 

 

 加賀の脇に積まれた黒と白のツートンカラーな山に興味を持ったロシア艦が素直に疑問を口にした時、隣に座る髭眼帯が彼女の裾をクイクイしつつ、首の壊れた人形の様にカクカクと頭を左右に振る。

 

 

「……どうした、随分青い顔をしているが、何かあったか?」

 

「あのモノクロームなブツの山々はスルーの方向で、聞いてはいけない……命が危ないから……」

 

「うん? 何を言っているのだ貴様」

 

「これはフィンランドから取り寄せている菓子の数々よ、と言っても甘いと言うより大人の味と言うのかしら、そこのおこちゃま味覚のボーイじゃお口に合わないのかも知れないけど」

 

「ほう? フィンランドの菓子か、私は初見なんだがそれはどんな味なんだ?」

 

「リコリス風味の菓子だね、ウォッカに入れると風味が立って美味しいと言う者も居るよ」

 

 

 フィンランドより輸入された菓子という名のリーサルウエポン、その名はサルミアッキ。

 

 それは古くから薬剤として使用されていたリコリス草の成分に、塩化アンモニウムを混ぜ混ぜして混沌という物質へと昇華させてしまった菓子である。

 

 メッキの触媒や農薬、果ては火薬の原材料に使用されるという物質を野草と練成してしまったそれは正にダークマター、味という面で表現するなら、自転車のタイヤチューブをモグモグすれはほぼ同じテイストが経験可能という、そんな北欧からの贈り物であった。

 

 

「ほう? ヴォートカ(ウォッカ)に入れて飲むのか、それは中々興味深いな」

 

 

 ウォッカというアルコールを隠れ蓑に、フリーダムがガングートの興味を惹くという行為を見て髭眼帯は思った。

 

 加賀はこのブツを大人の味(・・・・)と称し、響はウォッカに入れると美味いと称する者が居る(・・・・・・・・・・・)という表現はしているが、自身は一言も美味いと言ってはいないのでは無いかと。

 

 寧ろ以前はキャンディ的なブツしか無かったバリエーションが、現在では板チョコだの、グミだの、そして蚊取り線香の如く渦を巻いた謎形態の物体等々無駄に多種多様な物が目白押し状態なのは何故かと眉間の皺を深くする。

 

 

 因みに一般人は自転車のチューブを口にするなんて事はまず無いと予想して、判り易くそれのテイストを再現する方法を解説するなら、キンケシを口に含んで噛み噛みしつつ、ルードビアが入ったジョッキを煽ると概ね口中はそれに近い状態になると付け加えておこう。

 

 

「取り敢えずこの辺りがオススメかしら」

 

 

 一航戦のサイドテールが板チョコを割ってスイッと差し出してくる。

 

 通常溶けてもないチョコというのは割った際『パキッ』と乾いた音がする物だが、そのブツは何と言うか割った時は音も無く、しかしビジュアル的にはムニィという感じで中身が糸を引いて分割される。

 

 その状態を詳細に述べれば、割れたチョコの中に鈍いねずみ色の粘性物体がINしていると言うか、若しくは溶けた鉛をチョコがコーティングしているブツというのが相応しいビジュアルと表現出来ると言えば判るだろうか。

 

 

「ふむ、シァカラート(チョコ)かこれは……あむっ」

 

 

 そんな鉛色食品を口に放り込み、ムグムグと咀嚼するガングート。

 

 意外にもその表情に変化は無く、もしかして彼女はこの手の食品に耐性でもあるのだろうかと見る髭眼帯は気付いてしまった。

 

 

 その額に青筋が浮んでいるのを。

 

 

「お味はどうかしら?」

 

「ふむ……そうだな、何と言うか……そう、取り敢えず誰でも良いから殴りたくなる、そんな味がする」

 

 

 人が殴りたくなるテイスト、それは果たして味という物を表現するのに適切な言葉なのだろうかと吉野は思った。

 

 

「確かにそれって非人道的な味わいだよね」

 

 

 人が殴りたくなる程に非人道的な味わいの菓子、それは食品としてはどうカテゴライズするべき物なのだろうかと吉野は本気で悩んだ。

 

 

「ただね、ガングート」

 

「何だ? 同志ちっこいの」

 

「この鎮守府では個人毎に色々と特別な食べ物を常食するのが一種のステイタスとなっていてね」

 

「響君、毒食品を特別という言葉に置き換えて正当化を図るのは提督どうかと思います」

 

「ほう? 特別か」

 

「ガングート君も提督無視しないで? ね?」

 

「すまん、今貴様を視界に入れると拳を叩き込みそうでな、許せ」

 

「アッ……ハイ、サーセンシタ……」

 

 

 すんなり会話が成立してそうで、実はとてもズレた意思疎通が飛び交うそんな只中に一航戦のポンコツがコトリと瓶を置く。

 

 

「最近こんな炭酸飲料を見付けたの、飲んでみたけど中々イケると思うのだけれど、どうかしら」

 

 

 一環して食べ物にのみに執着していた加賀が、オススメの飲料と称して置いたそれ。

 

 それは透明の瓶に淡いピンクの液体が入ったビジュアルという炭酸飲料だった。

 

 

「駿河湾で水揚げされた新鮮な桜海老をソーダにした逸品よ、海の幸を味わうならこれは合うと思うの」

 

 

 加賀が差し出した炭酸飲料、その名も『桜えびさいだー』

 

 内容物は極普通のサイダーに桜えびエキスをINした海産物系サイダーである。

 

 

 それだけ聞くととても単純なテイスティングが想像されるだろうが、実際それと対すれば、そんな平和的なイメージは砕け散るだろうと言う程のインパクトがこの飲料には含まれている。

 

 

 海老を含む甲殻類という物は新鮮な時は無臭に近く、身はプリプリとしていて美味である。

 

 しかし一匹二匹では気にならないそれは、山にしてしまうと匂いがとても鼻に付き、他に例え様が無い独特で強烈な臭気が発生する。

 

 

 そして海老という食品から特別な処理をせずにエキスを抜き出すという行為は、色々を濃縮してしまう為に匂いが山にしたそれに近くなる。

 

 

 蓋をもぎりグラスへと注がれるピンクの液体。

 

 そこからは濃縮された桜海老の臭気がシュワシュワと匂い立つ。

 

 

 それはまごう事無き海の匂いとも言えるかも知れないブツであろう。

 

 

 一般人にも判り易くそれを説明するなら、釣り道具店の釣り餌コーナーの真ん中でサイダーを飲む、それもオキアミの冷凍ブロックをスンスンしながらグビグビと、そんな体験が可能なのがこの桜えびサイダーである。

 

 

「オフッ……か……加賀君、これは……」

 

「ふふっ、流石の提督も今年出たばかりの新製品ではチェック出来なかったでしょう、色々と軍務で身動きが取れなかったでしょうし」

 

 

 香りもさる事ながらそれはちゃんと桜えびのテイストも充分感じる味わいに仕上げられ、見た目も合成着色料を一切使用せずに桜海老の色素のみで淡い桜色を調整するという、ある意味何から何まで拘った作りの逸品であった。

 

 ただ甲殻類の匂いは何をどうしても甲殻類でしか無い、その辺りを理解しなければテイストする以前にギバップ不可避という、割とテイストレベルのハードルが高いシーフードサイダー、それが桜えびサイダーなのである。

 

 そんな素材の良さを丸ごと味わって貰おうという余計な心尽くしが生み出してしまったピンクのサイダーを前に、髭眼帯は眉根を寄せてプルプルするしかなかった。

 

 

「太刀魚の刺身をサルミアッキを入れた醤油で食し、それを桜えびサイダーで流し込む、嗚呼……こんな贅沢は他では味わえません」

 

 

 凄く真顔な髭眼帯と怪訝な表情のガングートの前で、一航戦のポンコツは別な意味での究極のメニューに舌鼓を打っていた。

 

 

「はい、これ」

 

「……うむ? これは何だ? 同志ちっこいの」

 

「ウォッカにサルミアッキを入れてみたよ、そのまま食べると独特の味がするらしいけど、度数の高い蒸留酒と混ぜるとまろやかになるらしいから」

 

「ほう? そうなのか?」

 

 

 吉野は再び思った、気を利かせてサルミアッキのウォッカ割りを差し出したフリーダムは、やたらとらしい(・・・)と言う語尾が散見される評価を口にしてはいまいかと。

 

 つまりそれらは自らテイスティングした評価では無く、人づてで聞いた味の感想なのでは無いのかと。

 

 

「……どうかな?」

 

「……ふむ、そうだな、これは何と言うか……妙に歯軋りが止まらん味だな」

 

 

 鼻尻に皺を寄せて、ガングートはギリギリと音を立てて歯を噛み締める。

 

 そんな表情を引き出す蒸留酒は果たして嗜好品としてカテゴライスしてもいいのであろうかと、髭眼帯はこの時そう思ったという。

 

 

「……ガングート君」

 

「うむ、何だ」

 

「えっとその……不味いなら無理に飲んだり食べたりしなくてもいいんじゃないかなって提督は思うんですが……」

 

「それはできないな」

 

「……ナンデ?」

 

「敵前逃亡は銃殺と決まっている、後ろから味方に撃たれるよりは少しでも敵への道を切り開き、前のめりに倒れる方がいい」

 

「どんだけ切羽詰った心持ちで飲食してるの君!? 一体いつからここは戦場になったの!? ねえっ!?」

 

 

 結局フリーダムと青いヤツに散々弄ばれプルプルするロシア艦を見ていられず、コロッケだのポテサラだの妙に芋芋しいブツを横から供給し支援をする事にした髭眼帯。

 

 こうして旬の食材が並ぶ和やかなお食事会になる筈の場は一転し、Wフリーダムに翻弄されるロシア艦とそれを何とか補助する髭眼帯という形で終始する事になり、ガングートは居酒屋という寛ぎの空間で大坂鎮守府という魔境の洗礼を受けるハメになるのであった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「なぁ時雨よ」

 

「なに、長門さん?」

 

「最近提督の後ろをグラ子だけではなくガングートもセットになってょこちょこ付いて回る様になったのだが、あれは一体何があったのか知っているか?」

 

「んー? 確か死を覚悟した戦場で支援をして貰った恩を返すとか何とか言ってたみたいだけど」

 

「……何だそれは?」

 

 

 

 Гангут(ガングート)級 一番艦Гангут(ガングート)

 

 

 ロシアから来た彼女は複雑な経緯を辿り敵であった大坂鎮守府の所属となったが、何故か強くなるという目的はとある出来事でやや捻じ曲がってしまい、仇敵であるドイツ艦達で組織される『青のドナウ』所属となり、別な意味で大坂鎮守府の色に染まっていくのであった。

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 ただ言い回しや文面は意図している部分がありますので、日本語的におかしい事になっていない限りはそのままでいく形になる事があります、その辺りはご了承下さいませ。

 また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。

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