大本営第二特務課の日常   作:zero-45

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 前回までのあらすじ

 めでたく大坂鎮守府所属となったガングートさん、彼女を温かく迎え入れるこぢんまりとした卓は、大坂鎮守府という魔境をスケールダウンした空間になっていた。


 それでは何かご意見ご質問があればお気軽にどうぞ。


2018/10/21
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きましたforest様、黒25様、坂下郁様、対艦ヘリ骸龍様、リア10爆発46様、rigu様、有難う御座います、大変助かりました。


裸の付き合いと超絶マスィン

「いゃ~ しかし今回司令官は思い切った事しましたよねぇ~」

 

「必要に駆られたからと言っても事務方にも関係する人事をスパーンとですからなぁ、これは前々から考えてた計画なのではと思うのであります」

 

 

 艦娘寮にある大浴場。

 

 この施設は鎮守府の人員が毎日使用する施設であり、食事と同じく艦娘のモチベーションに大きく影響を及ぼす施設と位置付けられていた。

 

 その為内部は大小様々な浴槽が並び、奥には壁で仕切られたサウナや岩風呂等が存在する、ある意味生活に必要な設備と娯楽の二面性を持つという施設がこの大浴場となっている。

 

 その施設の最奥、露天風呂を模して作られた岩風呂に入るドアには『貸切中』という札が掛けられており、中では数名の艦娘がのんびり湯に浸かりつつも情報交換をしている最中であった。

 

 

 寮の位置的に外部から見える作りに出来ない為本当の意味では露天に出来なかったが、代わりに巨大で特殊なプライベートガラスが壁面を占めている為そこからは外が見える様な工夫がなされている。

 

 

 そんな風呂にINする艦娘は六名、ニヤニヤ笑い手をワキワキしつつ胸を揉む漣と、胸を揉まれ微妙な表情の青葉とあきつ丸という"元"情報室勢、その様を見て苦笑する"元"事務方所属古鷹、チチを湯船にプカーしつつ例のポーションをグビグビするグラーフと、それに付き合うかの様に日本酒をチビチビとやっている神通という面々。

 

 

 其々は持ち込んだ飲み物を片手に湯船へ浸かったり、脇に据えられている休憩椅子で胡坐をかいたりと好き勝手にはしていたが、この一見無統制であり関係性が見えない者達が岩風呂を貸切にしてまで集った理由は、ある意味これからの軍務を円滑に回すために友好を育むという目的の為と、その軍務に於ける現在の情報交換の為に催された、漣曰く『おふろパーティ』という集いであった。

 

 

「確か古鷹ちゃんを引き抜く代わりに、単冠湾(ひとかっぷわん)から来た高雄ちゃんが事務方に入るんだっけ?」

 

「はい、彼女は向こうで事務専任だったらしくてどちらにしても事務方入りを希望してましたし、今の業務的には大淀さんに妙高さん、それに高雄さんが加われば充分仕事は回りますから」

 

「んじゃ古鷹ちゃんは漣と一緒に内勤って事になるのかな」

 

「恐らくそうなると思います」

 

「って言うか室長……」

 

「ノンノン、情報室が解体された今は漣は室長じゃ無いのですよ?」

 

「えっと……それじゃ漣さん」

 

「何だね青葉君」

 

「真面目な話をしつつ淡々と青葉の胸を揉むのは止めて下さいよぉ」

 

「うひょひょ、それじゃ不真面目に胸をモミモミすればいいのかのぅほれほれぇ~」

 

「何でそうなるんですかぁ~」

 

「あ~はいはいこのままだと話が進みませんから、そろそろ本題に入りたいと思うのでありますが、如何でありますか?」

 

「ん~ 良きに計らえって事で宜しくあきっちゃ~ん」

 

 

 未だモミモミ続行中の漣に苦笑いの相を向け、あきつ丸は風呂の縁に座り直して室内を見渡す。

 

 そこは相変わらず好き勝手な場となってはいたが、一応は自身の方へ注意が向いている事が辛うじて感じられた為、ゴホンとわざとらしい咳を前置きの代わりとし、裸の付き合いから軍務へと場をあきつ丸は切り替える事にする。

 

 

「取り敢えずこの場に集った皆さんは、新規の課を設立する為提督殿より各課から選出された人員であります、その課の設立目的と活動内容は概ね周知されていると自分は思っているのですが、それで間違いは無いでありますか?」

 

「ああ、Admiralからは資料を渡されてはいるし、正式に辞令も降りている」

 

「私も本日付けで教導課からこちらへ配属変えとなっていますが、貰った資料だけでは今一仕事内容の把握が出来ないと言いますか……」

 

「その辺りは我が鎮守府を取り巻く現状を知れば、おのずと見えてくると思うのであります」

 

「それであきつ丸さん」

 

「何でありましょうか古鷹殿」

 

「一応課に充てられた執務室は執務棟の二階にある大部屋を使うと聞いてますが、あの部屋ってかなり広かったですよね? 所属人員を考えるとあの部屋の広さってちょっと持て余さないかなぁって思うんですが」

 

「あーあーそれですが、今情報室で使ってる機材をアップグレードして本格的なサーバーや設備を置く予定なのでぇ、部屋の1/3は占拠しちゃうと思うのですよ?」

 

「提督はこの部門をある意味鎮守府の裏側を一括する課と位置付ける様ですし、あの部屋程度は必要だと仰っておられましたね」

 

「でありますな、何せ情報室、対外活動、それに対人戦闘部隊を一つに纏めた課になりますから、自分はあの程度ではまだ手狭なのではと思うであります」

 

「『大坂鎮守府特務課』ですかぁ、他の鎮守府にも同名の課は常設されていますが、ウチの提督が作るとなれば割と凄い事になりそうですよね~」

 

 

 特務課という組織は一定規模を超える拠点ならどこにも常設される組織ではある、しかしその拠点が置かれている状況や司令長官の運営方針によってそれらは同じ名称であっても活動内容は大きく違う。

 

 情報を取り扱うという面では基本どこでも同じだが、その対象や規模によって専任が一人二人の庶務的補佐の位置づけが強い処もあれば、大隅の様に己が持つ人員の殆どをそこに所属させている場合もある。

 

 そんな特務課という組織であるが、大坂鎮守府では今まで理由があって存在しなかった部署であったが、先の前島襲撃という事件を受けて情報室の規模を拡大しつつ、実務面を付与した『特務課』を正式に設立、同時に大本営へその旨上申し、活動許可の認可を取り付ける事となった。

 

 

 鎮守府という拠点では内務関係の差配は其々に任されているが、対外的な活動を含む課となれば、設立目的や活動内容の詳細な審査を受けて認可を取り付けねばならず、設立後も定期的な内務監査という面倒な手続きを含む為に様々な制約が掛かる事になる。

 

 元々情報将校という前任であった吉野はその辺りを警戒されていた為、大掛かりな組織の設置が許可されず、あくまで海域情報の収集という目的で運用されていた内務部署の情報()で全てを賄い、対外的な部分は将官という己の権限で行える範囲でのみ単独で活動してきた。

 

 ただそれではやはり限界があり、どうしても諜報に力を入れている拠点よりも手間が多く掛かる為に、何かしらの問題が発生しても今一歩踏み込めないという場面がこれまでは多々あった。

 

 

「幾ら提督殿に対するその手の活動を制限しようとしても、共産系の傭兵が絡んだテロを受けたとなれば、自衛の為の組織立ち上げという名目の上申を上が蹴るのは難しくはありますな」

 

「確か今回襲撃を計画したのは、長野県で民間軍事コンサルタントを経営していた会社だったか」

 

「そっちの始末は自分が陸に同行して最後まで見届けたでありますよ」

 

「ほう? それで結局そっちは解決したのか?」

 

「警備隊を襲撃した一団は指揮していた者が二人、何れも国外でテロに従事していた活動家でありますな、どちらも国際手配されていた共産系の札付きだったのでありますが、所属も背後にある組織も互いに関連性は無かったであります」

 

「そんなヤツらが入国出来るとか、入管はザルと言うのは本当らしいな……それで? 他のヤツらは?」

 

「構成員は全て国内で募集して集まった契約活動家(・・・・・)と言う類の輩達ではないかと、あの社では私有地で民間人に軍事教練を施して、警備会社や自警団へ人員を派遣する事を生業としていたであります、その訓練生の中から訳在り(・・・)の者を選んで人員を揃え、狂信者に仕立てたというのが襲撃者の正体でありますよ」

 

「なる程……金か、まぁそれが一番単純で人を集め易い手段だろうな、しかしそんな胡散臭い連中が要人警護の任に就けたんだ、もしかして元老院側もグルだったという事か?」

 

「あー……実は内部で要人を襲った連中は別の筋が用意した者達と言いますか……」

 

「……随分歯切れが悪い物言いですね、何か問題がありましたか?」

 

「あーあーそっちはあきっちゃんじゃなくて、漣の担当なのですよ」

 

 

 怪訝な表情で話を聞く神通に、モミモミを堪能したのかツヤツヤキラキラの漣は風呂から上がり、ビーチチェアーに寝そべって脇に置いてあるクーラーボックスから飲み物を取り出すと、はふぅと溜息を吐きつつあきつ丸の話を引き継ぐ形で説明を始める。

 

 何故岩風呂の脇にビーチチェアーなのか、タオルも無しにゴロンするのは色々オープン過ぎて、絵面(えづら)的にどうなのかという場の者達の心のツッコミはフル無視して、いつものニヤリという表現が似合う相のまま、元情報室室長は胡坐をかいて飲み物をグビグビし始める。

 

 

「ん~ ……プハァ、えと、今回要人警護に就いていた方達は全員()海軍士官だった方達です」

 

「……海軍士官? 全員がですか?」

 

「ですです、ここにはちょっとややこしい絡みがあるんですがぁ、先ずこの人員配置になった訳は、現在終息しつつある大本営での人員刷新に端を発したものですよ、艦隊本部がやらかした件で上の幾つかは首が飛び、その煽りで下に居た人達の幾らかも軍を追われる事になりましたよね?」

 

 

 大坂鎮守府が派閥として体を成す少し前、大本営では一時司令機能が麻痺する程の事件が発生した。

 

 当時艦隊本部が主導し、技本が推し進めていた戦力増強計画としてテスト段階だった兵器(・・)が暴走、基地施設に深刻なダメージが発生し、その収拾と情報隠蔽の為大本営は総力を注ぐ事になり、約二月程は中央からの支援も無いまま軍は活動をせねばならないという非常事態に陥っていた。

 

 その事件は最終的に艦隊本部の長、当時の鷹派のTOPであった者を始め多数の者を処分する事になる。

 

 しかしその多くは軍の暗部に関わっていた関係で秘匿せねばならないという関係上、要職からは追われたが完全に放逐すると言う事は出来ず、また監視という意味も含め軍と紐付けしておく必要があった。

 

 その結果として軍籍を剥奪はしたが、その者達は殆ど軍が用意した民間軍事組織や警備会社に天下りという形で押し込むと言う粗雑な手段を以って、取り敢えず現状は誤魔化しつつも、何とか問題を終息する形に収める事には成功していた。

 

 

「と言うことはSPに就いていたのはその天下り組織所属の者達と言う事でしょうか」

 

「ですね~ ただ今回の人達ってその組織から別の会社へ派遣されていた方達でして、ん~ 主に民間軍事会社の訓練インストラクターにとかぁ」

 

「それが今回襲撃を計画した例の会社へ繋がると」

 

「はい、軍の天下り先から民間軍事会社へ、そこから要人警護サービスとして元老院側へ出向、その口利きは天下りの会社がやってという感じですが、実際は天下り組織の裏印が押された推薦状持参という……んで、海軍拠点へ訪問するなら少しでもそっちの関係者(・・・・・・・)で人員を固めた方が印象が良いのでは……と、変な気を回した元老院側も、今回お試しでその会社のサービスを利用してみましたーって感じでぇ」

 

「社を幾つか通す事で軍の警戒をすり抜ける状態にしておいて、雇用主側には元海軍という触れ込みで取り入る……」

 

「しかも計画を立てた会社に資金援助していたのは元々艦隊本部に居た幹部さん達ですからねぇ、まさかその会社丸ごとそっち系(・・・・)に乗っ取られてるなんて本人達も思ってなかったみたいですし」

 

「では今回の一件は、国内組織が中心に動いた事件という事で良いのでしょうか?」

 

「いやいやいやぁ、それがですね、例の民間軍事組織の幹部数名は襲撃事件の二日前に『前線視察』という名目で国外へ出ておりまして」

 

「このご時勢民間人が簡単に国外へ出れるなんて……まさか」

 

「はい、その辺りまだ川内さんが調査中ですが、青葉的には露か中どちらかの手引きがあってこそ、という感じなのは鉄板じゃないかと~」

 

「ま~ 使用していた装備辺りも出所を辿れば怪しい輸入商社が噛んでましたしぃ、その商社も相当金を積んで作られたペーパーカンパニーでしたしぃ、ねー青葉ちゃん」

 

「はい、事業主はフランス在住の事業家さんだったんですが、その方も現在行方知れず、と言うか他にもその会社って色々と怪し~い痕跡がありましたが、どうにもフランス当局にもマークされていた様で、まぁその関係もあってどうせ事業畳むならと今回の件に利用したのかなぁって感じでしたね~」

 

「判明しているだけでも組織が三つ、その何れも正規の手続きとそれなりの背景を用意しているとなれば、使われた資金は相当な物になるな」

 

「ですです、個人は当然として、企業という単位でもこれだけ段取りして資金もと言うのはちょっと難しい……と、漣は思うのですよ?」

 

 

 表面的には軍部と経済界を巻き込んだ襲撃事件という今回の事件は、恐らく第三国が主導しないと不可能な形の計画という、複雑な背後関係が浮き彫りになる形で話が推移しつつあった。

 

 この様に内部・外部共に中核に近い形の関わりが判明した現在、自衛手段を持つという大坂鎮守府側の上申を大本営も黙殺する訳にはいかず、結局大義名分を得た吉野は特務課という組織を編成する事になった。

 

 情報室を解体し、そこへ古鷹を加えた処理部門、あきつ丸、青葉、川内という今までと同じく情報収拾に当たる諜報部門、そして基本陸軍を頼りに、戦闘時にオブザーバーという名目でサポートに動く実務部門、これはグラーフと神通、そしてプリンツの三人が当たる。

 

 

 これらの人員九名が専任として、吉野の直轄組織『大坂鎮守府特務課』は設立される事になった。

 

 

「基本的に実務側は、Admiralが対外的に動く際に護衛に就く、若しくは敵戦力に人外(艦娘)が関わった際は陸の作戦に随伴というのが業務とは聞いているが……」

 

「そこに秘書課所属のままですが護衛専任の時雨さんが加わる事になりますねぇ、それに神通さんとプリンツさんは志願しての所属になりますから」

 

「五人か……この単位で護衛行動するとなれば、あのロールスには全員乗り切れないだろう、その辺りの移動手段はどうなるんだ?」

 

「それなんですけど鹿島モータースで今車を色々と改良しているみたいですから、五人全員が乗っても大丈夫な仕様になっているみたいですよぉ?」

 

「そうなのか?」

 

「確か提督殿が時雨殿とその確認に向っていると思いますが」

 

「ふむ、だからAdmiralは不在な訳だ」

 

「いやいやいや、ご主人様ここに混ぜるって流石に色々とヤバいでしょ?」

 

「む? そうなのか?」

 

「私は別に構わないと思うのですが……」

 

「神通ちゃんもグラ子ちゃんもちょっとおかしいから! その辺いろいろとさ、ちゃんと考えて? ね?」

 

 

 こうして裸の付き合いをスタートとして大坂鎮守府特務課は設立となるのであったが、その部署は対外的には少数精鋭の特殊部隊として名を馳せる存在となるが、内部的には秘密を扱うと共に吉野の直轄部門という事もあり、色々と問題というか、やらかしていく集団として名を馳せていく事になるのであった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「そんな訳でロールスの仕様変更終了してます、提督さん、鹿島自慢のテクニック……ご堪能下さいね?」

 

 

 鎮守府最北、執務施設より隔離された広大な敷地を持つ『香取免許センター』の一角には、工廠と言われても遜色無い規模の車両整備工場が据えられている。

 

 そこは車やバイクだけに留まらず、エンジンやモーターという動力を持つ乗り物を病的に愛する鹿島の城であり、整備全般は彼女と、何故かその整備工場に居付いてしまった妖精さんが受け持つという、誰が呼んだか『鹿島モータース』という魔窟となっていた。

 

 そんな工場の一角には、公用車であるロールスロイス・ゴースト・ブラックバッジの改修が終了したと聞き、その様子を見に来た髭眼帯と時雨の姿があった。

 

 

「取り敢えず後部座席の改良から始まり、機関関係の見直し、それに伴うバランス調整が今回の主な作業になってますね」

 

「え、内装だけじゃなく機関もイジったの?」

 

「はい、乗員数が常時五人になるなら馬力も上げないと不安じゃないですかぁ?」

 

「いやいやいや、612馬力もあれば充分じゃないの? それからまだ馬力を上げたと?」

 

「も~提督さんは判ってませんねっ、一度路上に出るとなれば負けは許されませんから! 何人たりとも鹿島の前は走らせません!」

 

 

 どこぞの軍馬さんみたいな狂ったセリフを口にする黄色いツナギ姿の香取型二番艦、そしてその肩に乗る同色のツナギを来た妖精さんもコクコクと頷いている。

 

 

「いや提督別にロールスにそこまでの速さは求めて無いのですが……」

 

「大丈夫ですっ、ちゃ~んと居住空間の快適さと実用面は両立してますからぁ、ささっ生まれ変わったこの子の姿をご覧下さい~」

 

 

 テンションアゲアゲの鹿島に一抹の不安を感じつつも、開けたままのボンネットの処へ引っ張られてきた髭眼帯の目には、エキマニがウニョウニョして混沌な様を見せるエンジンルームという魔界が口を広げていた。

 

 元々ディーラー整備が前提のロールスは、ボンネットを開けても内部はカバーが蓋の様な形で覆われており、殆ど内部機構は目視出来ない状態にある。

 

 しかしこの車フェチのフェロモン娘の手に掛かってしまった高級セダンは、現在心臓部分である諸々を惜しげもなく晒し出していた。

 

 

「取り敢えずボアアップは基本ですよね~、後はメインとセカンダリタービンの径も見直してぇ、ついでにハイカム化もしちゃいました、当然リミッターもカットしてレッドゾーンまで綺麗にエンジンは回っちゃいますよ? ふふっ」

 

「え……何かものっそ大層な改造してる風に提督思うんですが……これは……」

 

「元々頑丈な作りの車体ですからぁ、補強はそれ程入れなくてもオッケーだったんでスペースの空き調整してぇ、フルチタンのエキマニも入れてぇ、強化8速ATと車高調整マシマシでぇ、ほら、ここなんてワンオフでこぉんなぶっといストラットタワーバーも装備しちゃいましたぁ~ ウ~フ~フ~フ~」

 

 

 車を前にクネクネする鹿島を前に真顔の髭眼帯と、凄く怪訝な表情の時雨という絵面(えづら)

 

 それは夕張とは違うベクトルでアカンヤツなのではと髭眼帯が思った瞬間であった。

 

 

「あ……あの鹿島君、結局この車って、何と言うかあの……」

 

「あ、すいませんちょっと熱くなっちゃいました、機能的には馬力が900に、トルクも約四割増しになってますし、四輪電子制御サスペンションユニットも組み込んでありますから、ゆったり寛ぎつつも首都高では無類の強さを発揮すると思いますよぉ?」

 

「提督首都高バトルなんて望んでないから!? ナニそのチョーヨユーぶっこきつつも悪魔のZと張り合う的な性能!? 色々とやり過ぎじゃないの!?」

 

 

 速さに取り憑かれた走り屋達が日々凌ぎを削り、一秒でも相手より先へとチューンした自慢の愛車でバトルを繰り広げる首都高、そんなZやらポルシェやらが最高速勝負をする場に割って入る漆黒のロールス。

 

 しかもそれのハンドルを握るのは艦娘であり、オーナーは後部座席でヨキニハカラヘとデーンと寛ぐ海軍中将というカオスはどう考えてもおかしいとこの時髭眼帯は思った。

 

 

「流石にこのタイヤ扁平率では溝落しは無理ですけど、アクティブ制御式リミテッド・スリップ・デフも搭載してますからぁ、四輪ドリしちゃってもダウンヒル最速ですし、グラスのワインをカップホルダーに入れててもこぼれない設計になってますから、能力的には秋名山も赤城山も制覇出来ちゃいますっ」

 

 

 速さに取り憑かれた走り屋達が日々凌ぎを削り、一秒でも相手より先へとチューンした自慢の愛車でバトルを繰り広げる峠、そんなハチロクやらセブンやらがダウンヒル勝負をする場に割って入る漆黒のロールス。

 

 しかもそれのハンドルを握るのは艦娘であり、オーナーは後部座席でヨキニハカラヘとワイングラスをクルクルしちゃいながら寛ぐ海軍中将というカオスはどう考えてもおかしいとこの時髭眼帯は思った。

 

 

 因みに某作の秋名山は実在する峠をモチーフにした架空の峠であり、その元となったのは榛名山、そしてライバルのホームグラウンドは赤城山と、何かと艦これには縁深い地名であるというのはこの際どうでも良い。

 

 

「あ、ねぇ提督、後部座席はちゃんと三分割ソファーに交換されてるよ、これだったら五人で乗っても寛げるんじゃないかな?」

 

「元々の車格がダンプ並みにありましたから、シートをツインからトリプルにしてもゆったりと座れる状態に出来ましたよ? うふっ」

 

「本当に嬉しそうだね鹿島さん、あ、ほんとだ……座り心地抜群だね、ほらほら提督も座ってみようよ」

 

「あ……ああうん、それじゃちょっと試してみようか……」

 

 

 思いの他高い時雨のテンションに、色々と釈然としないまでも後部座席に座る髭眼帯。

 

 元々の座席は快適と言うには過ぎる幅と形状であったが、三人乗りの座席に変更した事でそれは適度な幅になり、更には作りの良いシート形状も相まってだろうか、今までとは逆に体の収まりが良くなった印象を感じた。

 

 そんな椅子の座り心地に感動した髭眼帯は、肘掛に見えるスイッチの数々に視線を落とす。

 

 

 元々ロールスという車は運転を楽しむという類の車では無く、オーナーが後ろに乗り、快適に過ごす事を想定して作られた車両である。

 

 ゴースト・ブラックバッジという車両はそれを無理矢理ドライバーズカーとして仕立てていた為巷では『ゲテモノロールス』と称されてはいたが、その辺りも鹿島の手によってリファインされ、後部座席に快適装備を搭載する形でハイオーナーカーという車両に生まれ変る事となった。

 

 

「……このスイッチなんだろ?」

 

「それは温冷蔵トランクに収納してあるドリンクを取り出す為のボタンですよ」

 

「へ~ 飲み物まで収納してるんだぁ」

 

 

 時雨が肘掛のボタンをポチリとする。

 

 

 するとウィ~ンと背部クッションがせり上がり、内部からマジックハンドに掴まれた巨大なワイングラスが押し出されてくる。

 

 そんなブツを怪訝な表情のまま無言で見る二人と、何故か恍惚の表情でクネクネする鹿島。

 

 

「今はドクペが入ってますけど、スイッチ脇のボタンを操作すればワイングラスの中身がサスケとかギャラクシーになって出てきますからぁ、さぁどうぞ召し上がれ♪」

 

 

 鹿島モータースの主が真心と技術をつぎ込んだ快適装備。

 

 その一つは巨大なワイングラスにシュワシュワ注がれた毒飲料が自動で供給される、そんな装備であった。

 

 

「いや何でワイングラス? それもむっちゃデカいんだけど!? 缶とか瓶のままじゃダメなのこれっ!?」

 

「いえ、仮にも将官が乗る車両ですからそこは拘らないと」

 

「えっと……拘りの方向性が迷子になってない君? 提督こんなグラスでドクペ飲むとかめっちゃ微妙なんですが……」

 

「う……うん、あの……このスイッチはなんだろ……」

 

 

 場の空気に何とも言えない気持ちになった時雨は、それを誤魔化す為に別のスイッチを押してみた。

 

 

 ピー……ガシャンとやや大きめの機械音が鳴り響き、ピッピッピッとレトロな電子音が聞こえてくる。

 

 そんな謎状態に首を捻る二人を置き去りにして、暫く時間を置いてチーンと何かの音が車内に鳴り響き、次いで二人の間のクッションが再びせり上がり、奥からアルミホイルに包まれた四角い物体を乗せた超豪華な陶器製の皿がマジックハンドに掴まれて押し出されてくる。

 

 その様を怪訝な表情で見る二人に対し、再び何故かキラキラしてクネクネする鹿島。

 

 

「ドライブの醍醐味ってほら、ドライブインじゃないですか?」

 

「あ……ああうん、そうね……そうかも知れないね……」

 

「それでドライブインと言えばホットスナック! その気分を手軽に味わって貰おうと思いましてぇ、ホットサンドやバーガーが出る機能を設置したんです! 調理中の機械音の再現には苦労しましたけどぉ、その辺りちゃんと調整できて良かったですっ!」

 

「てかあっつぅい! ナニこの煉獄染みたアツアツのホットサンド!? これ温度調整間違ってない鹿島君!?」

 

「チッチッチッ、提督さん判ってないですね~ 自販機のホットスナックって陳腐かつ空気を読まないくらいアッツアツなのが定番なんです、それはチーズハムサンドですけど、ヘタに触れると火傷しちゃいますからね?」

 

 

 ちょっと週末の夜に目的も無くドライブへ、そんなライダーやドライバーが途中で立ち寄るであろう場末のドライヴイン。

 

 身も心も冷えた道すがら発見した、車の通りも疎らな道路脇にぼんやりと心許ない灯りを漏らす、そんな夜中の店舗には人は居らず代わりに数々の自販機が立ち並ぶという、大人心をくすぐるプチ非日常を切り取ったそんな風景。

 

 バイクや車であちこち走りに行く事を喜びとする鹿島モータースの主は、その喜びと風景を提供しようとロールスロイスの中にそれらのシチュエーションを内包した。

 

 

「スイッチ切り替えでラーメンとかお蕎麦も出ますからね、ふふっ、召し上がれ♪」

 

「何で提督ロールスの後部座席でワイングラスくるくるしつつホットサンドあっつあっつしないといけない訳!? てか無駄にどっちも食器だけ豪華なのはナンデ?」

 

「そこはそれ、仮にも将官が乗る車両なんですから、見た目は拘らないとですっ」

 

「君の拘りポイントって今一提督理解できません……」

 

 

 バ〇ラ的なグラスにシュワシュワ注がれたドクペに、ウェッジナントカの皿に乗せられた恐ろしく熱いアルミホイルINチーズサンド。

 

 確かにそれはある意味贅沢な使用法かも知れない、しかしその用法と言うか、絵面(えづら)は決して将官という威厳が必要な立場に一役買っているかと言えば、寧ろ逆効果になっているのでは無かろうかと髭眼帯は真顔で思った。

 

 

「あ、でもこのホットサンド、チープさって言うかちゃんと味も再現されてるよ?」

 

「それが一番重要なファクターですから♪ チープな調理具合と味を再現するのが実は今回改修作業した中で一番苦労した部分なんですよ♪」

 

「車の改造よりもクソアッツィサンドのテイストのが手間食ってるってどういうコトなの!? ねぇっ!?」

 

 

 夕張の様に機能を斜め上にマシマシするパターンでは無く、一事が万事妙に特定の趣味に偏った鹿島のチューニングが鎮守府司令長官の公用車を寛ぎの空間へ変貌させる事になった瞬間がここにあった。

 

 

 

 主に彼女の主観という部分を強く反映させて。

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 ただ言い回しや文面は意図している部分がありますので、日本語的におかしい事になっていない限りはそのままでいく形になる事があります、その辺りはご了承下さいませ。

 また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。


それではどうか宜しくお願い致します。

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