大坂鎮守府に新たな課が発足する事になり、何故かその課の者達による温泉パーティが開催される。
時同じく提督の公用車は鹿島という車フェチの手によって、色々な便利機能を内包した懐古という心情をくすぐる粋なカーへと変貌を果たしていた。
それでは何かご意見ご質問があればお気軽にどうぞ。
(※)
今回のお話には
坂下郁 様 作品
【逃げ水の鎮守府-艦隊りこれくしょん-】
https://novel.syosetu.org/98338/
に登場する人物、艦娘さんが登場する場面が多分に御座います、その辺りの詳細をお知りになりたい方はそちらをご覧頂ければもっと内容が楽しめるかも知れません。
2018/05/09
誤字脱字修正反映致しました。
ご指摘頂きました皇國臣民様、リア10爆発46様、坂下郁様、拓摩様、K2様、有難う御座います、大変助かりました。
─────────世界は紅く染まっていた
夕焼けの空は血の色の如く広がり、それを映す本来青を
「よっつ……」
人成らざるモノの断末魔と、尚も続く砲雷撃が奏でる轟音の只中で、深海より怨嗟と共に湧き出した有象無象に囲まれて
「……いつつ」
しかしその中心に居る者は、己を囲む異形共を歯牙にも掛けず狩る側に立っていた。
飛来する砲弾は直撃コースを進むが、その身をすり抜けるような不自然な形で後方の海へ突き刺さり、直撃した筈の魚雷は何故か不発のまま爆ぜず、蹴り飛ばされたた為にあらぬ方向へと進んでいく。
「むっつ」
一方的になる筈の数の暴力を理不尽で返し、淡々と異形を仕留める
「ななつ……高角砲再装填、残弾五割」
その海は深海棲艦と
「やっつ……敵性生命体、迎撃完了、自己判断により拠点へ帰還、生体修復及び弾薬補給の後、待機状態に移行します」
結局日が沈む前に殺し尽くし、濃密になった夕日と海の色が同じ程に濃い物へと変ったそこにたった一人立つ
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「一応自分が感知する範囲でですが、あの辺りで作戦を展開している艦隊は現在無かったと記憶していますが」
大坂鎮守府地下指揮所。
指揮官席に座る吉野はメインモニターに映る
「ふむ、そうか……なら今あの辺りを騒がせているカンムスは少なくともヨシノンとは無関係な存在だという事か」
「ですねぇ、てかミッドウェーなんて人類未到達海域の只中ですし、少なくとも内地から無補給で向える海域では無いですから、そこで艦娘が戦闘行為を定期的に続行出来るなんて事は不可能な筈なんですが……」
「しかし実際今あの辺りでは連日カンムスらしき存在が暴れ回り、その煽りで周辺の縄張りが緊張状態になっているのは事実だ、しかも以前にあの辺りではヨシノンとは別口のヤツらが海戦を行ったという前歴もある、そういう事を鑑みれば日本がそれに関わっていないという絶対の言は口に出来んのだろう?」
「えぇまぁそれは確かに…… しかしあの当時と違って、太平洋中央まで艦隊を打通させる装備や人員を秘密裏に動かせる環境は、現在の軍には無いですよ」
「そうか、ふむ……ならあのカンムスはどこの所属なのだろうな」
クェゼリン──キリバス間の海路が安定し夕張が敷設した通信網も問題なく使用可能となった現在は、
その通信内容の殆どは世間話や物資のやり取りに関する事に終始し、ある意味それは和やかとも言える状態がこれまで続いていた。
そんな定期会談に臨んだ今日、いつもなら
曰く、ハワイ諸島より北西1800km程に位置するミッドウェー諸島近海エリアにて、定期的な戦闘が観測される様になったという。
そこは以前艦隊本部査察部隊のMIGOが所属不明艦隊と戦闘を繰り広げ、結果として表向きは同部隊隊長の槇原南洲が何らかの負傷を負った為医局へと収容され、その後予備役へ編入後軍を脱走するという結末を生む切っ掛けとなった戦場であった。
またMIGOと対した未確認艦隊の詳細や処理に於いても、実の処明確な記録も無いまま謎多き状態で軍極秘という扱いで秘匿されていた。
「
「そうか、なら暫しそちらからの返答を待つとしよう」
「しかしミッドウェーと言えば
「うむ……あの辺りも含めて基本的にこの周辺は陸地が少ない、そんなエリアで何か問題が発生すれば、一時的にしてもコッパ共が直近の陸があるエリアへ押し寄せる事にもなり兼ねん」
「……ミッドウェー周辺に何かあれば、直近の陸地があるエリアへ……となると行き先は、ああ、ハワイですか」
「そうだ、あそこも今は誰の手にも無い縄張りだからな、移動したヤツらが居付く事は無いだろうが、そうなってしまうと色々ときな臭くなるのは目に見えている」
「納得しました、それじゃ早速……の前に、今
「正直縄張り外の事だからな、私も事の詳細は掴み切れていない状態なのだが……」
そう言う
「単艦……ですか?」
「うむ、しかもそのカンムスは単騎にも関わらず、艦隊規模の数を相手に一方的な蹂躙を繰り広げる程の
「えっ、単艦で艦隊単位の深海棲艦と戦闘!? それも一方的に蹂躙って……」
「その辺りは信用が出来る筋からの情報なので間違いは無い、確かあの辺りは中型艦が幅を利かせている縄張りだった筈だが、
「それは確かにぃ……って、いやいやいや、幾ら戦艦でも単艦で艦隊規模の数を相手にとか、それちょっと無理がありませんか?」
「ん? いやヨシノンとこの……何と言ったか、あのやたらと『大丈夫です』を繰り返す物騒な戦艦辺りならその程度造作も無い事だろう?」
「ウチの榛名君が軍の平均値みたいに話すのはどうかなと思ったりするんですが……」
「しかしな、私は常々言っているだろう? 何事にも例外が存在すると」
「そんなあちこちポンポンと例外が存在されちゃったら、こっちはたまったモンじゃないです」
話の内容は深刻且つ真面目な物であったが、深海の王はトンチキな暴論を口から垂れ流し、それを受ける海軍中将は突っ込みと共に色々なアレがエクトプラズムの如く口からモワ~っと垂れ流すというカオス。
「その辺りは取り敢えず保留か、どちらにせよこちらは縄張り外の事だから率先して動く事が出来んからな、そちらの返答を待つとしようか、ああそうだヨシノン」
「はい? 何でしょう?」
「先日そっちへ送ったヤツなんだがな、無事到着はしたのか?」
「はい? 夕張君ですか? 彼女なら随分前に帰還しましたが」
「ん? 何をいってるんだ? 私が言っているのはヨシノンの親友の事なのだが」
「……親友ぅ? え、親友って誰です?」
「うん? いやほら、何と言うか形容のし難い格好と言うか、無駄に布面積が少ないおかしな格好をした、艦娘二人を連れたあの男の事だが」
「うん? 布面積ぃ? おかしな格好ぉ……」
「ハワイから定期的に送られて来る物資を経由してこっちに接触してきたんだが、会ってみればなる程ヨシノンとは毛色が違っていたが、妙なモザイク状態のヤツだったんでな、まぁそっちの関係者なんだなと納得したからそのまま輸送船へぶち込んで送り出しておいたぞ」
「ワイハ……布面積が少ないおかしな格好……あっ!」
突如大坂鎮守府へフラリと訪れ、現在もラボにINして電と共に何やらやっているへんたい。
現在ハワイ在住とのたまう孤高のへんたいは、よりにもよって吉野の親友という触れ込みで
「まぁいつもおかしな髪型で周りにイジられるヨシノンには、あれ位アクが強いへんたいを並べる方がバランス的に丁度良いんじゃないか?」
「イジられるってナニ!? てか別にコンビ組む相棒探してる訳じゃ無いからね!? ナニその並べるとかバランスって!?」
「ん? でも親友なんだろう? 私はその話に違和感を感じなかったのだが」
それはキリバスの主に己がへんたいと同列で見られていたという、そんな悲しい事実が髭眼帯に突きつけられた瞬間でもあった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「あ~ 確かにそんな事を言った気がしないでもありませんが、それに何か問題が?」
鎮守府地下三階、研究ラボ。
そこにはへんたいと同じ白衣を羽織った電と、アシスタントでもするのであろうか何故かナース姿のへんたいほうという、まるでコント染みた空間があり、髭眼帯はとても怪訝な表情でそんな世界の中心にシッダウンしていた。
「いえ、一体いつから自分は仁科さんと親友になったのかなぁと」
「んんん~? 貴方はXCHW-0001D……ああいや槇原南洲と交流があるのでしょう? なら私とは色んな意味で関係者と呼べなくも無い関係性で結ばれていると言えますねぇ」
思い掛けず予想外の人物の名を耳にした髭眼帯は眉根を寄せ、今も腰をクイクイするへんたいさを見る。
確かに以前大坂鎮守府へ査察に入った部隊の所属は艦隊本部であり、このへんたいさが嘗て所属していた技本はその艦隊本部と同体とも言える組織であった。
そこから手繰れば槇原南洲という特務士官とこの仁科という元技術士官が、何かしらの形で繋がっていたという可能性は充分考えられる話であった。
しかし今仁科はその槇原南洲という男を中心に据えて、その両端に己と吉野を繋ぐ形の関係性を口にした。
その関係性とは友好的な物なのか、それとも別な形の縁を以っての話なのだろうか、その形に拠ってはこれからの対応は変ってくる、そんな考えを纏めて吉野は改めて薄ら笑いを浮かべるへんたいに向けて意識を戻した。
「確かに自分は槇原さんとは接触した事はありますが、それはあくまで軍務上の話です、しかも一日二日という僅かの期間しか行動を共にした事はありませんよ?」
「そうなんですかぁ? それにしては彼が軍を出奔した後からの諸々……特に最終逃走先に於いてのごたごたは、貴方にしては不自然な程彼をスルーした差配をしていましたよねぇ」
「……えぇまぁこちらも色々とありましてね、彼にはそれなりに利用価値があると判断したもので」
「そうなんですかぁ、ふむ、まぁ私も何かと彼には興味があった訳ですが、残念ながら今彼とは接触が出来ない状態にありますしねぇ」
「仁科さんは彼とはどういう関係で?」
「ああちょっと殺し合いをした仲ですが、それが何か?」
「は? 殺し合い?」
「えぇ、お互い色々と譲れない事情がありましてねぇ、嗚呼あの時は本当に……とてもとても濃密な時間を過ごしました」
自身を抱く様にクネクネするへんたいと固まる髭眼帯というおかしな風景に、無言で様子を見ていた電が苦笑いを浮かべつつ薬の包みを持ってくる。
相変わらずのらりくらりと話が進まない状況に、珍しく苛立ちの空気を滲ませる吉野。
そんな様にまあまあと隣に座り、今一番聞きたいであろう情報を何故か電の口から吉野は聞く事になった。
「この仁科さんは槇原さんとは確かに敵対はしていましたが、現在は間違いなく一個人としての研究者といて活動しているのは電が保障するのです」
「ふむ……電ちゃんはこのへんたいさんを信用しても良いと言うんだ?」
「現時点では、という事で、立場的には槇原さんと同じく自由人という扱いでいいと思うのです」
「自由人ねぇ……てか自由過ぎると提督思うんですが……」
「あの戦場では互いに死力を尽して戦いましたが、結局互いは野に下り己の信じる道を進んだという部分では、奇しくも大佐と槇原元少佐は同じと謂わざるを得ませんね」
「……ねぇ大鳳君、えっともしかしてMIGOと君達が戦ったのはミッドウェー島近辺とかだったりちしゃう?」
「はい? えぇ我々が艦隊本部査察部隊と戦ったのはミッドウェー環礁付近の海域ですが、なにか?」
「マァジでぇ? 例の謎の艦隊って君達だったのぉ?」
ピンクのナース服を着たへんたいほうの言葉に、吉野の表情がクシャおじさんの如く歪んだ物になる。
軍極秘という縛りで探る事が出来ず、取り敢えず棚上げにした諸々の情報があった。
しかし現在その棚上げした物の取っ掛かりになるかも知れない元凶が、今目の前でクネクネとへんたいを晒している人物という、ある意味出来過ぎた状況とクイクイする腰の動きに髭眼帯は頭を抱える事になった。
「ねぇ大鳳君、ちょっといいかな?」
「何でしょう、あ、スリーサイズは大佐のお許しが無ければ公表出来ませんが」
「おやぁ? 吉野さんはウチの忠実な
「はぅっ、た……たいさぁ……」
壊滅的にアレな持論を口にしつつスワンのポーズでズビシとポーズを決めるボンテージ白衣と、その前で頬を染めてキラキラうっとりするピンクのナースなへんたいほう、もうこの時点で話の腰はボッキボキに折られまくってしまっている。
そんな様を怪訝な表情で見る髭眼帯の口からは、はははと乾いた笑いと共に、またしてもエクトプラズム染みた何かを口からダダ漏れにするというカオスがそこに展開されてしまった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ふむ? 確かに我々は以前ミッドウェー近海で海戦を行いましたが、それは目的地へ至る迄の通過点に過ぎません、結果的にあそこで全ては決してしまいましたが、本来あそこは最終目的地でもなければ戦闘自体偶発的な物でしたので、特にかの地に何か関係する物はありませんねぇ」
結局あれから興が乗ったのかへんたいさが白鳥の舞をクネクネクイクイと行い、それをピンクナースという観客が観覧する場が暫しあったが、
「それは間違いなく?」
「はい、あの辺りは軍事的にも研究的にも利用価値は皆無ですからねぇ、流石にそんな場所へ無闇に赴いても得る物はありませんし、以前申し上げた通り現在私のホームはワイハですから」
「……なる程」
結局吉野がミッドウェー環礁周辺の情報を聞き出した中には、
現地では一応轟沈艦は無いという公式の記録はあったが、秘匿する部分が多岐に渡ると予想されるその案件は、以前から噂されていた技本が作った生体兵器が投入され、何かしらの問題が発生して今もその海域でそれが稼動しているとも限らない。
そもそもその兵器の正体自体吉野が知る物では無く、また探る為には現在軍極秘という扱いの情報を探らなければならない。
ただ現在はその情報を持つ当事者が目の前に居る為に、危ない橋を渡らずとも事の詳細確かめる事も可能だが、仁科という男に触れた印象では、
その情報を口にするには未だ吉野にとってこの男は不確定要素が多過ぎる、そして
そこに求める物があるのに手が出せない、そんな状態に悶々する髭眼帯に何かを感じたのか、へんたいさは顎に手を当てつつ何かを考える素振りを見せる。
「ふむ、何やら訳ありの様ですね、もしや私に何か聞きたい事か協力すべき事があったりしますか?」
「えぇ……正直仁科さんには聞きたい事があるのは確かですが、それを聞く為にはそちらには開示できない諸々がありまして」
「なるほどぉ、そうですねぇ……その開示出来ない情報という物には正直興味をそそられますが、今私は我儘を言ってここにお邪魔している身、そのお返しと言う事で……ここは一つどうでしょう、質疑応答という形で私の知る情報を貴方にお聞かせ致しましょうか?」
「確かにそれなら互いに出す情報の取捨選択をしつつ話を進める事が出来ますね、でもいいんです?」
「勿論ですとも、但し私も人に聞かせたくないあれやコレがありますから、黙秘権は適時使わせて頂きますよ?」
髭眼帯とへんたいさ、互いは恐らく始めてであろう真剣な相で対峙しつつ、話の場を持つ事になった。
「それでは取り敢えず、あのミッドウェーで行われた海戦では互いに大破艦は出したが、轟沈艦は無いという記録が残ってましたよね、実際の処その辺りどうなんでしょう?」
「艦娘という括りで言えばそれは本当ですよ? しかし我々が開発した兵器や諸々はあそこで喪失してますから、兵器という縛りなら幾らか損失しているというのが正確な情報になりますねぇ」
「ではその兵器と言うのは例えば何かしらの形で損失せず、あれからずっとあの海域付近で戦闘を行える状態で稼動しているという可能性はありますか?」
「海域ですか? それは当然艦娘と同じく海の上でと言う事でしょうかねぇ?」
「えぇそうなります」
「仮にあの兵器が損失せずに存在していても、艦娘と同じく自力で航行する能力は有していませんのでその可能性はありませんねぇ」
「では仁科さんが知る範囲で、技本や艦隊本部があの辺りの海域で何かを行う、または行ったという計画等はありませんか?」
「皆無です……と言いたい処ですが、ミッドウェー諸島ですかぁ」
「……何かありましたか?」
「私の関わった範囲ではその手の話はありませんが、別部門であった計画にかの島の名が出てくる物がありますねぇ」
「……あったんですか」
「はい、艦隊本部が秘密裏に推し進めた計画に、ハワイまでの航路の打通作戦と言うのがありまして、その計画が可能かどうかを検証する為、当時技本が保有していた戦力から連合艦隊規模の戦力を抽出して抜錨、強行偵察染みた形で太平洋へ進軍させた事があったとか無かったとか」
「ハワイまでの航路を打通? それはどんなルートを計画していたんですか?」
「さぁ? そこまで詳細な情報は私も持ってませんが、それはちょっとした処置を施した強化型の艦娘で固めた艦隊だったらしく、その艦隊は実際いい処までは進んだらしいですよ? ただ流石にハワイまでは至らなかったらしく、最終的にその艦隊が壊滅したのは……」
「ミッドウェー環礁付近だったと」
「はい、当時その作戦は試験的な位置付けでしたが、何故か予算度外視という形で実行されましてね、まぁ色々と無茶をしたらしいですよ」
「……強化型の艦娘、それはどんな艦娘さんだったんです?」
「編成と言う情報は残念ながら私にも判りませんが、その存在がどんな物だったのかという事なら多少はご説明可能です」
仁科が言う『強化型の艦娘』という存在。
それは艤装に手が入れる事が出来ないなら生体部分を強化し、戦闘力の向上を図るという単純な発想の元実施された計画だった。
元々人の体よりも薬品耐性が高く、また痛覚に対する感覚もある程度意図的に押さえ込めるという部分に着目し、限り無く戦闘時に掛かるマイナス要素を廃する事で、身体に掛かる精神面のリミッターを外すという手法を用い艦娘の限界値を底上げをした存在になる筈だったのだという。
「まぁ要するにお手軽ドーピングで艦娘の苦痛や痛覚を鈍化させ、肉体の限界を誤魔化すというどーしようも無い計画であった様ですねぇ」
「艦娘に対してドーピング強化……そんな事は可能なんです?」
「……三郎ちゃんは、それに近い状態の艦娘を見てる筈なのです」
「え、マジで?」
「薬品を使用して脳に働き掛け、精神を鈍化させる、これは一般的にPTSDの初期治療に用いられる投薬治療と同じなのです」
「あぁ……黒潮君に速吸君」
「なのです、恐らくですが、その子達は常習的な精神の鈍化という状態を作り出した状態で、幾らか肉体的に無茶を施して、尚且つそのまま戦場に出された物と思われるのです」
「電殿の仰る事は概ね当たりでしょうね、ただ艦娘と言うのは感情をベースに自立思考を持つと言うのがウリの存在です、その一番重要かつ他には無い唯一の利点をオミットするなんて、只のタスク処理をするだけの人形を作るだけの愚策、そんな存在はナンセンスにも程があると私は思うのですよ」
黒潮や速吸の現状を思い出しつつ、聞いていて気持ちの良い物では無い話に吉野は顔を歪める。
そして同時にこれまで頑なに技本を否定してきた電が、何故その最先鋒に居た仁科という男に対し、今研究という部分を共有しているのだろうという吉野が抱いていた謎にこの時答えが出た。
クネクネと怪しい様で話を述べるへんたいという名の男、この男は客観的に艦娘の事を口にしてはいるが、その表現の中には『兵器』という言葉は一言も含まれてはいなかった。
確かに研究対象という見方をしてはいたが、その辺りは一貫してぶれてはいない。
それは元からそうなのか、それとも軍を離れてからそうなったかは推し量るしか無いが、少なくともこのへんたいに対しては、電がある程度を認めるに足る程には信用して良い部分があるのだろうと、吉野は幾らか仁科という男に対する認識を改める必要があると判断した。
「それで仁科さん、その計画というのはいつ頃実施されたんですか?」
「そうですね……確か五年も前になるでしょうか」
「五年……それじゃその艦娘さんが今も残っている可能性は殆ど無いですね」
「あーなる程……吉野さんが知りたい情報は何となく理解しました、ならその可能性で言うと、その時の個体が今も活動している可能性はあるかも知れないと言っておきましょう」
「はい? いやしかし五年ですよ? 幾ら継戦力があったとしてもそんな期間敵勢力下で生き延びる事なんて……」
「いやいや、この計画にはまだ色々と含む物がありまして」
「……仁科さんの言葉を肯定する程の、何か他の要因がまだあると」
「はい、さっきも言いました通りこの計画には採算を度外視した数々の技術が投入されました、その中には燃料弾薬と共に予備兵力を損耗させずに運搬するというシステムも加えられていた筈でして」
「予備兵力の運搬?」
「えぇ、艦娘とは連合艦隊、つまり十二隻が最大運用数になりますが、司令長官が艦隊に随伴すれば連合艦隊を二つ、つまり二十四隻の随伴、若しくは運用が可能となる訳です、しかしその数を一度に運ぶとなるとスペース的な問題もありますし、一度に連合艦隊を二つ同時に動かす事は早々無い、更に長期の作戦を展開するとなれば待機状態の艦娘を随伴させる必要がある為、それらを維持する物資も割りとそれなりに掛かります、その問題を回避する為、艦娘の代謝を限界まで落し、母艦に搭載するという研究が進められていたのです」
「代謝を落す……ですか、そんな事をして何か問題が出ませんかね」
「通常なら脳機能に僅かばかり障害が残る可能性があります、しかし強化処置を施した艦娘というのは既に脳に対し薬品での処置をしている存在ですから……」
「多少の問題は無視出来ると?」
「その辺りの検証も含めた作戦投入なのではと私は思っています、そしてその作戦に投入された母艦は当時実験検証を主任務とする特殊兵装艦でしたから、その艦の心臓部分が破壊されず沈んだ状態で、尚且つ艦娘を格納していたユニットが破損していないと仮定すれば、五年程なら待機状態を維持出来たとしてもおかしくはありませんねぇ」
「なる程、因みに当時作戦に投入された艦娘の艦種や詳細なんかは……」
「残念ながら計画が頓挫した時点で資料は破棄されたか、もし幾らか残ってたとしても『軍機』扱いになってるかと」
「軍機、ですか、またそれは……」
「艦隊本部主導で、当時軍のナンバー3が認可した計画です、ならば秘匿レベルが最上級になってもおかしくはないでしょう?」
海軍に於ける情報の取り扱いはその内容や秘匿性によって五段階に分類される。
それは上位から『軍機』『軍極秘』『極秘』『秘』『部外秘』とされており、扱いによっては当然閲覧する権限も変ってくる。
その中の最上位とされる『軍機』に至っては、例え将官であってもその作戦に関わっていない状態だとほぼ閲覧は叶わず、情報の記録という建前がある為形を残してはいるが、内容は永遠に開示されず闇に葬られるべき物と言っても過言ではない。
当初は謎が先行しつつも自身の権限の範疇という形で
誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。
ただ言い回しや文面は意図している部分がありますので、日本語的におかしい事になっていない限りはそのままでいく形になる事があります、その辺りはご了承下さいませ。
また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。
それではどうか宜しくお願い致します。