大本営第二特務課の日常   作:zero-45

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 前回までのあらすじ

 へんたいさとヨシノンによる真面目なお話だった筈が、やはりへんたいに染まってしまったという体たらく。


 それでは何かご意見ご質問があればお気軽にどうぞ。


(※)今回のお話には

坂下郁 様 作品
【逃げ水の鎮守府-艦隊りこれくしょん-】
https://novel.syosetu.org/98338/

 に登場する人物、艦娘さんが登場する場面が多分に御座います、その辺りの詳細をお知りになりたい方はそちらをご覧頂ければもっと内容が楽しめるかも知れません。


2017/10/01
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きましたリア10爆発46様、坂下郁様、有難う御座います、大変助かりました


拳で語ると輪舞曲が聞こえる

「あーそンで? 結局こっちで始末する事にしたンはいいんだけどよ? 何で全力出撃じゃダメなンかねぇ」

 

 

 大坂鎮守府中央運河。

 

 現在そこでは数名の艦娘が大量に浮かべたパイロン(障害物)の只中を全力で疾走しつつ、追いかけっこを繰り広げていた。

 

 それをするのは大坂鎮守府及び舞鶴鎮守府より選抜された手錬(てだれ)達であった。

 

 軍事訓練という命に関わる物が、何故現在『追いかけっこ』という遊戯染みた物になっているのかというのは、現在訓練へ参加している者達はそれなりに技量が備わっていたが、それでも通常訓練では即興染みた艦隊行動に於ける足並みを揃えるには難しく、また演習を組むにしても艦隊戦特有の問題があってコストの割には結果が伴わないという状態にあった。

 

 しかし近日抜錨を控えた者達に対し、効率的な訓練を施し、少しでも互いの動きを見極めさせるには実際の処本気で動いている様を見せねばならない。

 

 それに対し演習というありがちな形でそれを実施しても、結局手錬(てだれ)の者同士が対峙すると様子見や相手の動きを読み合うという事態が頻発する事になり、時間だけがやたらと浪費されるという状態となってしまう。

 

 本来演習とは多人数で行うなら艦隊戦が主目的になるのは当然で、それは実戦に準じた状態で戦うため、要する時間は最低半日、それなりの経験を積んだ者同士であったならほぼ丸一日を必要とするのは当然と言えば当然であった。

 

 しかし諸般の事情により、この二拠点から選抜された者達に対して訓練に割り当てられた時間は一週間しか無く、効率的な訓練という意味ではその時間では短過ぎる状態にあった。

 

 そこで以前から叢雲が戯れ半分で大坂鎮守府の教官にさせていた『勝負事を含みつつも平和的に基礎体力が鍛えられる訓練法』という物をを採用し、集った者達へお試し的にその訓練をさせてみるという事で、現在中央運河では大追いかけっこ大会が執り行われていたのである。

 

 

 其々の手にはスポーツチャンバラで使用する例のラバー製の得物、頭部と艤装側面には風船という出で立ち。

 

 勝敗は単純に風船を割るという形にしているが、運河は中央の耐圧扉が締め切られている関係で動き回れるフィールドは幅80m、延長375mと狭く、またそこでは兵装試験時に使用する水理実験装置によって発生した高波を数m単位で発生させている為、パイロン(障害物)を避けつつ動き回るだけでも中々に苦労する状況が作り出されており、割りとその訓練風景は阿鼻叫喚染みた物となっていた。

 

 

「そう出来たら良かったんですが、上から待ったが掛かっちゃいましたから、一応色々手を尽してはみたんですがねぇ……」

 

「持ってける戦力は連合艦隊プラス予備に一艦隊、んで母艦は一隻に作戦期間は一ヶ月ってんだろ? それって出撃は許さんつってンのと同じじゃねーか、ざけやがって」

 

「支配海域外での作戦行動ですし、ハワイに近い海域って事で派手な海戦はやるなって事なんでしょうけど、何と言うか中々厳しいっちゃ厳しい条件ですよねぇ」

 

 

 海湊(泊地棲姫)から受けた案件に付いて、吉野が調べられる範囲で情報を精査した結果、現在ミッドウェーで起こっている件はへんたいさから得た情報が絡んでいるのが濃厚という結果に至っていた。

 

 直接的には吉野が関わった事では無くとも、海湊(泊地棲姫)から見れば日本の、しかも軍という縛りで考えれば無関係と言うには言い訳が立たず苦しいという、そんな状況。

 

 結果は考えるべくもなく、放置する事は出来ないと判断した吉野は早急に戦力を太平洋に差し向け、事の収拾に当たる為の段取りと許可を取り付ける事にしたのであったが、ここで問題が発生する。

 

 

 現在どこの国にも属さず、しかし人の営みがまだ残っているハワイという存在。

 

 

 元々米国の太平洋に於ける要所だったそこは、再び海洋の覇権を狙う米国と、これ以上支配海域外のエリアに戦力を分散させたくない軍部にとって大坂鎮守府が関係するのを避けたい島であった。

 

 もし吉野が何らかの形でハワイの自治政府と繋がってしまえば、周辺海域の防衛という話が出るのは充分予想される話であり、もしそうなった場合ハワイという島に大坂鎮守府主導の橋頭堡を築くのと何ら変らない状態となってしまう。

 

 そうなってしまえば北太平洋の半分は大坂鎮守府の影響が強い海となり、米国にとっては自国が自由に出来る海域が太平洋の半分以下となってしまい、航路を開拓してもハワイという中継地無くしては西へ打通出来なくなる可能性も出てくる。

 

 また日本としても、そのエリアは広大な海しか無い為資源を得られる訳でも無く、米国の利権を奪った形でそこに影響力を持ち航路を開拓しても、その先にある国は米国、若しくはその影響力が強い南米とあっては、はっきり言って美味しい部分は皆無と謂わざるを得ない。

 

 

 ただ今回の件は海湊(泊地棲姫)という、日本にとっては別な方面で利権を支えている存在から出た案件であった為、吉野が上申した作戦を無下にする事は出来ず、色々な関係を天秤に掛けた結果、軍部は作戦遂行に必要な最低限の戦力派遣という形での認可を大坂鎮守府へと下したのであった。

 

 

「米国の顔色を伺いつつも泊地棲姫からの話も無視出来ねぇ、で、その結果こンな中途半端な戦力での作戦たぁ冗談じゃねぇぜ、オマケに失敗した場合の責任は全部こっちがおっ被る形になンだろ?」

 

「ウチとそちらの精鋭を纏めれば早々失敗する事は無いと思うんですが、問題は予備兵力が一艦隊分しか随伴出来ないのと、母艦が一隻ってとこですよねぇ」

 

「潜水艦隊を持ってくと支援艦隊は皆無になる、逆に支援艦隊を編成すっと母艦の護衛は手薄になっちまうし、周囲の情報は航空機頼りになっちまう、オマケに対潜哨戒を考えると航空戦力も限定的なモンしか用意できねぇとキタもんだ」

 

「その辺りも踏まえて軽空母を大目にとも思いましたけど、そうなると負担が集中しますしね、どうにも万全を考えると無理があると思ったんで今回の編成にしてみたんですが……」

 

「まぁそれは判ンだけどよ、吉野さンの組んだこの編成、あー……限られた数で行くとなりゃやっぱこう、極端なモンになっちまうかぁ」

 

 

 限られた兵力で未知の海域を攻める為に吉野が組んだ編成。

 

 それは大坂鎮守府から抽出した本気の一艦隊、同じく舞鶴からの一艦隊、それに随伴する予備兵力は大坂鎮守府から抽出した戦力による変則潜水艦隊という物であった。

 

 大坂鎮守府艦隊は旗艦武蔵、副艦榛名、以下、摩耶、神通、陽炎、夕立。

 

 舞鶴からは旗艦陸奥、副艦霧島、以下翔鶴、瑞鶴、千歳、秋月。

 

 そして予備兵力という枠に旗艦五十鈴、副官伊58、以下朝潮、阿武隈、伊168、伊19。

 

 

 攻めに特化した大坂鎮守府艦隊に、母艦を含む周囲の警戒と前衛支援を兼ねた航空戦力で固める舞鶴艦隊、そして対潜と広範囲の支援、防衛に変則的な予備艦隊(・・・・)、それは数的に連合艦隊が組める筈であったが敢えてそうせず、吉野と輪島二人が母艦に乗り込み其々の艦隊を指揮する形で攻略を担う変則的な運用をする艦隊となっている。

 

 

「本当はウチが攻めに回りたいんだけどよ、そっち方面じゃ吉野さンチのが粒揃いだし、空母系で固めるンじゃウチの千歳が指揮を取るのが向いてるから、こりゃしょうがねぇよなぁ」

 

「正直通過海域の敵はスルーでもいいですが、主目的は未確認戦力の無力化ですから、どんな形にでも対応しつつ、どの艦隊も高次元で戦えるレベルと考えると、攻守極端な形にしてでもすっぱりと役割分担した方がいいでしょう?」

 

「ってか深海勢が出撃禁止ってのも痛いぜ、まぁ結局この編成でなんとかするしかねぇのか……って、ん? 何だ霧島」

 

 

 苦い顔で戦略を話し合う二人の提督の脇に、一人の艦娘が近寄ってくる。

 

 それは白い改造巫女装束に身を包んだボブカットの眼鏡、金剛型四番艦、舞鶴鎮守府所属の霧島であった。

 

 

 その艦娘は元々舞鶴生え抜きという訳では無く、元艦隊本部所属、もっと突っ込めば技本でとある計画に試験体として使われ、普通の艦娘とは違った存在として所属していた。

 

 

 数々の研究と実験を繰り返し、現在の技術を確立させた大本営技術本部、通称技本。

 

 そこで生み出された技術や理論は日本だけでは無く、艦娘という戦力を持つ国々へは恩恵を齎した。

 

 しかしそこの内情は、モラルも常識もほぼ無視した実験機関という物であり、目的とした結果を得ると言う事を至上とし、それのみを追求する組織であった。

 

 

 前例の無い技術を確立する為にはそこへ至る為の手段から模索せねばならず、粛々と行われる狂気は、失敗の度に様々な山を築いていった。

 

 無駄になった予算、膨大な後始末、そして数えるのも億劫になる程に夥しい失敗作の数々。

 

 

 (かばね)の山を積み重ね、狂った研究を経た事で生まれたある技術(・・・・)、今吉野と輪島の前に居る金剛型四番艦は、艦娘を人為的に深海棲艦化させるという計画の中、被験体となった艦娘であった。

 

 自身の意思で深海化し、安定して戦えるという存在は確かに戦力的には有用なのだろう、しかしそれは(ことわり)を外れた存在であり、誰かが望んでもそれ以上の者達から排斥される危険性があった。

 

 現時点で深海棲艦との共闘という名目で大坂鎮守府は存在しているが、その代償として国家規模の勢力を敵に回し、国民の幾らかからは否定されるというリスクを背負っている、この状況を鑑みた結果、艦娘を深海棲艦として置き換え戦力向上を図るメリットと、多方面から受けるリスクを天秤に掛けた軍部は、その計画を主導した派閥が実質消滅した事により計画を凍結する事にした。

 

 もし深海棲艦が駆逐可能な存在であったなら無理を押してでも計画は進められただろう、しかしそれが不可能な現状、恒久的な戦力として深海棲艦という敵性生命体と同じ存在を抱えるよりも、まだ艦娘という戦力を擁する方が世論という面で考慮すれば都合がいい、そんな実より心情的な部分を軍は選択する事になった。 

 

 

 

「司令」

 

「どした霧島、まだ上がって良しなんて命令、俺ぁ出してねぇ筈だけどな」

 

「はい、まだ訓練を上がるつもりはありません、ただお願いが御座いまして」

 

「あン? 何だお願いって」

 

「この訓練、堕天(フォールダウン)化の許可を頂きたく……」

 

 

 堕天(フォールダウン)

 

 旧技本体制下で進め、完成した最後の技術、艦娘を深海棲艦化させるというそれは、被験体の霧島を戦艦棲姫へと変貌させる力を与えていた。

 

 

 その力は生粋の姫級に劣らない物に匹敵するが、先の理由の為に軍の中では秘匿される事となった技術の為、常用すれば様々な問題が噴出する事になる。

 

 故に彼女がその力を奮う為には、後に全ての責任を背負うであろう輪島の許可を得る必要があった。

 

 しかし対外的な問題を抱えていたとしてもここは大坂鎮守府である、しかも訓練は鎮守府内部の限られたエリアで行われており、またそこに居るのは彼女の本性を知っている者達となれば、現状堕天(フォールダウン)化してもある意味問題ないとも言える。

 

 そして霧島がそうしてまで相手取ると決めた者は同じ金剛型の三番艦、大坂鎮守府所属の榛名(武蔵殺し)であった。

 

 

 訓練は当初非殺傷性の得物を手に的を潰すという軽い内容であった筈である。

 

 しかし一部の者達の間では砲雷撃こそ行ってはいないものの、負ければ的一つ潰すという約定の元、障害物の間を高速で駆け抜け速さを競う物や、物理的に殴り合うという過激な争いをする者など、本来の形とは違う訓練がそこかしこで繰り広げられている様が運河には現在広がりつつあった。

 

 が、それでも互いの能力と動きを熟知するという目的で考えれば演習よりも短時間で、更に嫌でも体に情報を刻み込む『勝負』ならば、続行する価値はあると吉野と輪島は判断し、やや殺伐とした訓練と化したそれに対して静観を決め込んでいたのであった。

 

 

「ふぅん……堕天(フォールダウン)ねぇ」

 

「はい、向こうの副艦に勝つにはその必要性があると判断しました」

 

「向こうの副艦って事は、榛名か、なる程ねぇ」

 

「司令は常々私達に勝つために手段は選ぶな、綺麗事は勝ってから言えと仰っています、ならここは全力で事に当たるべきだと判断しました」

 

 

 折り畳み椅子に腰掛け、霧島を見上げる様に目を細めて睨む輪島に、凛とした態度で答えを待つ艦隊副艦。

 

 未だ訓練は続行中であったが、霧島を待っているのだろう運河で榛名がその様を見つつ、また周りの者も彼女への攻撃は控えている為、そこだけは周りの喧騒から切り取られたかの如く静かな空間になっていた。

 

 

 そんな空間を背負う己の艦隊副艦を睨む輪島は、『へっ』と一度鼻で笑う仕草だけを返し、手をひらひらさせつつ表情を崩した。

 

 

「おーぅ確かに俺ぁ勝つ為には何でもしろっつったよ、でもよ、霧島よぅ」

 

「……はい」

 

「それぁバケモンを相手にする時の話であって、死合いするにゃぁどうよって俺ぁ思うんだがなぁ?」

 

「それは……どういう意味でしょうか?」

 

「どういうもこういうもねぇ、お前ぇは他人から貰った力でアイツ(榛名)に勝って満足なンか?」

 

「……それは」

 

アイツ(榛名)は自力で手に入れたモンでお前ぇと()ろうってンだ、そいつによ、お前ぇが否定したヤツらから押し付けられた力で勝ったとしてよ……それで満足するってンならやりゃいいじゃねぇか、別に俺は止めないぜ?」

 

 

 限定的な条件化ではあっても榛名は山城(戦艦棲姫)に勝った実績を持つ、ならば同じく戦艦棲姫としてはより隙が無く、精神的にも強い筈の霧島が堕天(フォールダウン)化すれば勝ちの目は大きいだろう。

 

 それは勝負という事に限定すれば真っ当な思考に違いない。

 

 しかし輪島はこの霧島が何を思い、どういう目的で舞鶴に所属しているかを知っていた。

 

 

 だからこそこの場で榛名と対する時、堕天(フォールダウン)化して戦えば勝敗が何れに傾いても本人は後悔すると予想していた。

 

 

 戦いは相手を殺し、生き残れば勝ちである、しかし勝負、輪島の言う『死合い』とは、それとは違い意地の張り合いの先に勝敗を決する行為であると本人は認識している。

 

 

 そこには己の生き様とやってきた過去全てが内包される。

 

 そこには誰にも邪魔されない、つまり己の力のみで対するという意地がある。

 

 そしてそこには仕方がないからと言って、望まずに得た己以外の力(堕天化)を使うという行為は、勝負(死合い)に持ち込むべきでない不純物でそれら全てを己で否定する事に他ならない。

 

 

 輪島隆弘(わじま たかひろ)という舞鶴司令長官の生き様から言えば、この訓練ですべき行動はそういう結論に落ち着く物であり、その生き方に恭順したからこそ霧島は舞鶴鎮守府に自ら進んで降ったのであった。

 

 

 輪島が肘を付き、そこに顎を乗せて答えを待つが、結局霧島から答えが返ってくる事は無かった。

 

 何故なら霧島は暫く輪島を睨んだ後、そのまま踵を返し今も運河で待つであろう相手(榛名)の処へ戻っていったからであった。

 

 

「もしもし、あ、夕張君? ちょっと悪いんだけど入渠施設とバケツの準備頼めるかな? うん、そそそ、んじゃ頼んだよ」

 

「手間掛けて申し訳無いね? ウチの跳ねっ返りが迷惑掛けちまって」

 

「そこはお互い様でしょ、ウチのも大概血の気が多いですから」

 

「ははっ、違げぇねぇ、っつーかよ吉野さンよ」

 

「何でしょう?」

 

 

 運河の中央で殴り合いを始めた金剛型二人を見つつ苦笑を表に貼り付け、二人の司令長官は互いに煙草を取り出し、それに火を点ける。

 

 紫煙をふかす輪島は、既に的が消し飛んでいるにも関わらず殴り合いを続ける二人を見つつも、それ以外の事で更に苦い表情を滲ませつつ髭眼帯に質問を投げた。

 

 

「ここによ、あの(・・)変態ヤロウが来てるってマジかよ?」

 

「へんたい……ああ、仁科さんですか、確かに今いらっしゃいますが、輪島さんと彼は何かご関係が……って暢気な事を聞いていい様な顔はしてませんね」

 

「あーまぁなぁ、俺自身はまぁ無視出来る程度の繋がりなんだけどよ、霧島がなぁ……」

 

 

 技本で生み出された堕天(フォールダウン)という技術、その研究の中核を成し、推し進めてきた人物とは、現在大坂鎮守府に訪れているへんたいさこと仁科良典(にしな よしのり)という男だった。

 

 嘗てそのへんたいさは己の研究結果である数隻の艦娘を連れ、ミッドウェー海域で査察部隊MIGOと戦う事になったのだが、その時へんたいさが連れていた艦娘の内大鳳は今も変らず行動を共にし軍を出奔、他の者は拘束され一度は大本営へと戻されるが、表に出せない技術の結晶であった彼女らは、保身に走った者の手によって取引材料として欧州へ送られる筈だった。

 

 そして欧州に送る為に彼女達が舞鶴へ一時預かりとなった際、軍を脱走した槇原南洲が同鎮守府を強襲、結果としては殆どの堕天(フォールダウン)処置を施された艦娘は槇原と共に逃亡、唯一霧島だけは舞鶴に残るという選択をし今に至っていた。

 

 

「霧島君は仁科さんに対して腹に一物持っていると?」

 

「ん~ どうなンかなぁ、変態ヤロウは太平洋で行方不明だって聞いてたからよ、その必要も無いと思って確かめてねぇンだよなぁ」

 

「あーなる程、で? 霧島君はへんたいさんがウチに居るというのはご存知なんで?」

 

「いや、まだそれは伝えてねぇ、だからどーすっかなぁってよぉ」

 

 

 未だボコスカウォーズ真っ最中な金剛型二人を見つつ苦い相で紫煙を吐き出す輪島に、なる程と一声口にした髭眼帯も思案顔になる。

 

 

 取り敢えずは元上司部下という関係ではあるが、もっと突っ込んだ関係で言えば、霧島を検体として扱い、そんな体にした元凶は仁科という事になる。

 

 軍務として従い、そして戦場へ出た霧島、しかし今の状況を述べれは現在双方は上司部下の関係に無いという以前に、仁科は軍籍にすら無い状態にある。

 

 

「まぁ滅多な事にゃなりゃしねぇとは思うんだがな、一応考えておかな……い……と」

 

「ん? どうしました? 何……が……」

 

 

 折り畳み椅子で煙草をふかし、訓練の様子を見る二人の提督が見る先では、互いの襟首を掴み上げてボコボコになっていた金剛型二人がそのままのポーズで固まっていた。

 

 更に良く見るとその二人だけではなく、訓練中にあった艦娘全てが怪訝な表情で動きを止め、ある一点を凝視していた。

 

 

 風にたなびく白衣、その下に覗くのはぴっちりとした帯状のレザーボンテージ、更にその下半身はピッチピチのスパッツが装備されたTMRスタイルというへんたい仕様。

 

 そんな色々ヤバい格好の男が『フゥーハハハハ』と高笑いと共に両手を広げ、指をワキワキ腰をカクカクしていれば誰でも思考を停止し、その様に目が釘付けになるのは当然と言えば当然であろう。

 

 

「霧島ぁ! 何をしているんですぅ? そんな処でバタ臭い殴り合いなんて全く以ってダメェッ! ダメのダメダメではないですかぁ! 何ぁ故堕天(フォールダウン)しないのですか? 貴女には私が与えた力があるではないですかぁっ! さぁそれを解き放ち周りの者へ力を見せ付けてやるのですぅ!」

 

「……た、大佐?」

 

 

 ヒャッハーと飛鷹型二番艦の如き雄叫びを上げつつ高速で腰をカクカクするへんたいを見て、ボコボコになった顔を凄く怪訝な物にしつつ霧島がそのカクカクを凝視する。

 

 その対面では榛名も凄く怪訝な表情を浮べ高速カクカクするへんたいを見るというカオス。

 

 

「……んのやらぁ……何やってやがんでぇっ!」

 

 

 そしていち早く正気に戻った輪島が脇に立て掛けていた同田貫正国(日本刀)を引っ掴み、遠慮無しにそれを抜き放つと背後から薙ぎ払うかの様にへんたいへと斬り掛かった。

 

 

「フヒョォッ!? 何事ですぅ!?」

 

「何事もっ! へったくれもっ! ねぇンだよっ! テメエッ! 何のっ! つもりだっ! バカヤロウッ!」

 

「おやぁ? 何事かと、良く見れば、輪島君じゃ、あぁりませんかぁ?」

 

 

 水鴎流(すいおうりゅう)皆伝という剣客としての顔も持つ輪島がブンブンとダンビラを奮い、それをクネクネカクカクとへんたいな動きで躱すへんたいさ。

 

 ポン刀が煌く軌跡とクネクネカクカクが織り成すそれは、不協和音の輪舞曲(ワルツ)となって更に周りの者の視線を集め、へんたいの波動が広がっていく。

 

 正にそれは練り上げられた武の極みと、同じく練り上げられたへんたいが描く演舞であった。

 

 

 

 そんなアレな舞を見る周囲のテンションはだだ下がりとなり、結局この日の訓練は反省会に移行した後何とも言えない微妙な状態で終了したのであった。

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 ただ言い回しや文面は意図している部分がありますので、日本語的におかしい事になっていない限りはそのままでいく形になる事があります、その辺りはご了承下さいませ。

 また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。


それではどうか宜しくお願い致します。

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