大本営第二特務課の日常   作:zero-45

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 前回までのあらすじ

 へんたいのへんたいによるへんたいの輪舞曲、と、オマケの面々。


 それでは何かご意見ご質問があればお気軽にどうぞ。


2017/11/27
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きましたorione様、有難う御座います、大変助かりました。


表と裏と、倫理観と非倫理観

「オーストラリア方面に於ける計画の進捗状況は現在三割を消化してます、このペースで行けば年明け辺りには資源を日本へ送る第一陣を出せると思います」

 

 

 10月に入り新年度となった現在、大坂鎮守府では鎮守府が絡む内外の状況確認と、そこから予想立てた次年度に向けての予定を組む為の会議が行われていた。

 

 またこの会議は友ヶ島警備府が大坂鎮守府へ移動してきた事と、北方からの人員増を経てから初めての全体会議という事もあり、参加人員もこれまでよりも増えた為この手の会議としては初になる執務棟の会議室を利用した物となっていた。

 

 

「航路へ投入する護衛船団の編成は長門君に指示してあったけど、それに就く彼女達の練度はどんな感じかな?」

 

「提督から指定があったのは、護衛に就く艦隊の副艦は船団所属国の艦娘を充てよという物だったが、概ね計画自体は順調に進んではいる、ただフランス船団の護衛に就ける予定のリシュリューがまだ教導を始めたばかりと言う事で色々と問題が出ていてな」

 

「実際の話、色々とあっち(フランス)からの注文が多過ぎてカリキュラムが『お客さん用』の物しか使えないから、いろんな面で遅れが出るのはしょうがないわよね」

 

「叢雲殿が言う通り、教導時に於けるデータ収集の項目が多いのと、訓練に対する疲労効率を図るという部分が仇となっていてな、時間単位の行動が極めて限定的になっている、その状況は本人にも周りに置いていかれているという焦りを感じさせる事になっているのだろう、精神面でも余り良い状態とは言えん事になっている」

 

「ふむ……で、結局彼女は予定までに戦力として仕上がりそう?」

 

「このままだと無理ね、中途に仕上げても艦隊の足を引っ張る事になりかねないし、教導条件の緩和か、実戦投入の時期を遅らせるかして貰わないとどうにもならないわ」

 

「そっかぁ、んで大淀君、もし例の護衛船団に就けるのをコマ……えっと、コマン……、その、コマ君のみにした場合、フランスへの資源輸送は予定量捌く事は可能かな?」

 

「護衛船団に就けるのをコマンダン・テストさんのみとすると、輸送資源の量を帳尻合わせする為に船舶数を増やして回数を抑える必要が出てきます、そうなると護衛に充てる戦力は連合艦隊規模に膨れ上がり、かなりのコスト増が予想されますので……どちらにしてもフランスとは今の内に調整をしておく必要はあるかと」

 

「なる程ね、そんじゃその辺りはこちらが先方と話し合って調整しておくよ、それで長門君、逆に彼女を年明けまでに間に合わせようとしたら、教導方針の変更はいつまでにしておけばいいかな?」

 

「ふむ……そうだな、後一月程度がボーダーラインと私は予想するが、叢雲殿の見込みはどうだろうか」

 

「旗艦に経験豊かな者を据えるならそれでもいけるかしら、でも他の軍務の絡みもあるからそっちに注力し続けるのは無理だし、あくまで11月頭までがギリって感じじゃない?」

 

 

 現在の大坂鎮守府が抱える軍務を並べれば、人員増による各新規部署の立ち上げと設備関係の増設、友ヶ島警備府を中心とした大坂鎮守府の人員も編入する拠点防衛の整備、そして各軍務に就く者達の育成等、最低限この辺りが内務的に優先される事案となる。

 

 そして対外的には、年明けにも予定されているオーストラリア資源開発プロジェクトに絡む資源輸送船団の立ち上げ、次いで国内に存在する不穏分子の炙り出しと処理の為に陸軍との調整、そしてどちらにも絡むであろう経済界との最終的な調整と段取りを残す状態となっていた。

 

 

「んーと、予定を整理すると、先ずは例の話で炙り出しをする為今月末までに特務課が内地関係の内偵を終えると?」

 

「それに付いては、実行直前までの形でこちらが陸と話を詰めておくであります」

 

「OK、じゃその辺りはあきつ丸君に任せておくから頼んだよ、んでオーストラリア方面輸送船団の人員編成は……」

 

「それは私が受け持つ事になっている、ただそれにだけに集中する事は出来んから教導関係は以後大和と叢雲殿が担当する事になる」

 

「うん、じゃ問題のフランスに対しては、こちらからの事情説明と調整するって事で……いいのかな?」

 

「現状の説明とそれに資料を添付した書類を先方に送って、後は回答待ちという形で今は良いと思います、それらの資料作成と手続きは事務方で処理しますので、提督は認可だけして頂ければ取り敢えずの負担は減るのではと」

 

「じゃぁ出発前までにそれはやっておこうか、っと……残りは拠点防衛の話だっけ?」

 

「そうね、そっちは長門と相談した上で使える戦力を確認した後、ウチで内容を精査した上で報告に上がろうと思うけど、ヨシノンは明後日出撃するのよね?」

 

「ですねぇ、取り敢えずそれまでに話を纏めるのは無理だろうし、暫くは長門君とリーゼ嬢で調整して貰いつつ、適時唐沢さんの意見も聞いてって形でやっておいてくれるかな?」

 

「引退してやっとこゆっくり出来るってぇ思った矢先にコレかい、なんともまぁ爺使いの荒いこって、ほんと頼むぜボンよぉ」

 

 

 各課総勢20名を超えるそこは、鎮守府という単位に収まらず国という存在も相手にせねばならず、対応する課の責任者は元より、それを総括する髭眼帯にも相当な負担が圧し掛かっていた。

 

 それは新規の軍務が同時期に重なって発生するという、そんな事情が理由の殆どを占めていたが、それに加えて海湊(泊地棲姫)から受けた件の案件がそこへ割り込んだ為に、髭眼帯の時間を一ヶ月程奪う形となり、結果的に諸々の予定が更に混沌とした物へとなりつつあった。

 

 

「これに加えて来月はクェゼリンの定期清掃の支援、その半月後にはクルイ近海の定期清掃が待っているぞ提督」

 

「一般の教導受け入れ開始も年末なのを忘れないでよね、し・れ・い」

 

「提督さん、免許センターの業務開始も12月ですよっ」

 

 

 目に見える証拠を残さない為に普段からメモという物を取らない主義の髭眼帯であったが、流石に重要案件が重なる状況に危機感を感じたのか、今は時雨に頼んで酒保へ買いに行って貰った手帳を開き、各方面から上がってくる話をカキカキとメモへ綴っていく。

 

 そしてどういう基準で時雨が選んだのか聞きたくなる様な、青いお魚模様の装丁がされた手帳には髭眼帯の手でビッチリと日々の予定が書き込まれていき、その隣で内容を見ていたoh淀の表情が目に見えて曇っていく。

 

 

「あの……提督」

 

「うん? 何大淀君? てかこの予定書き込むまでちょっと待ってね」

 

 

 いそいそとメモを取る髭眼帯、その何とも言えない姿の向こうでは、司令長官のスケジュール管理をする秘書課の事務担当、フリーダムな響もピンクで猫の装丁が施された手帳に予定をカキカキしているという絵面(えづら)があった。

 

 位置的に大淀からは彼女の手帳は良く見えない状態にあったが、それでも書いている内容は髭眼帯、及びフリーダム共に見た事のない文字で書き込まれていたのと、予定の詰め具合も相まってそれらが相乗的に彼女の表情を曇らせる原因となっていた。

 

 

「あの……その、提督や響ちゃんが書いてるその内容と言いますか、文字は一体……」

 

「うん? ああこれね、ほら、内容が外に漏れると不味い物だったりするからさ、他人が見ても解読困難な文字でメモを取る事にしたんだよね」

 

「私はハイリア文字、司令官は確かドラゴン語で書いてるんだっけ?」

 

「だね、覚えるには一手間掛かるけど、これならヘタな暗号文より解読の難易度が上がるのは確実だと思うし」

 

 

 ハイリア文字とは、緑の三角帽子を被った妖精さんみたいな格好の主人公が活躍する、某アクションRPG内の世界で使用されている言語であり、ドラゴン語とは某ドヴァーキンさんが活躍するタムリエル大陸辺りで使用される架空言語である。

 

 oh淀は思った、スカ〇リム的言語で軍務予定を手帳に書き込むのは海軍中将としてはどうなのかと、更にその秘書艦は某リ〇クが謎解きアクションをしたりしちゃうRPGの言語でメモを取るというのはおかしくは無かろうかと。

 

 

「そういや時雨君が使う象形文字は一般人には解読出来ないけどさ、学者さんが見ちゃうとモロバレなんじゃない?」

 

「あー……うん、活動が課だった時はあれでも良かったんだけどね、流石に鎮守府規模で使うんじゃ無理があるなって僕も思ったからさ、最近はヨルダ語を使うようにしてるんだ」

 

「マジで? そりゃまた難易度の高い文字に挑戦したねぇ」

 

 

 ヨルダ語とはPS2とPS3で発売された『名前は知っているがプレイした事は無い』という意見が圧倒的な、某アクションRPG内で使用される架空言語である。

 

 oh淀は再び思った、この者達は防諜の観点でそれらの架空言語を駆使しているのだろうが、どう考えてもその様は微妙なゲームをプレイしつつも悦に浸る、ダメなコアゲーマー思想を軍務へ反映させた物では無いかと。

 

 そんな真顔でおかしな会話を繰り広げつつ、ゲーム内架空文字でメモを取る者達の手帳はおかしな文字で埋め尽くされる事になり、会議はほぼ丸一日を掛けて進められていくのであった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「取り敢えずやるだけの事はやったし、連れてくモンの調整も終わった、後は明日一日休息取りゃ抜錨するだけになった訳で皆さンお疲れさンってとこかねぇ」

 

「ですねぇ、お陰で今晩はあちこちドンチャン騒ぎになってますけど」

 

 

 居酒屋鳳翔の片隅、籐製の衝立(ついたて)で目隠しされた座敷では、髭眼帯と舞鶴鎮守府司令長官の輪島、友ヶ島警備府司令長官のリーゼロッテ、そしてご意見番の髭爺の四人が慰労を兼ねた飲みの場が出来上がってた。

 

 ただそこに居る内二人はアルコールが駄目な者であった為、其々の前には日本酒、ウイスキー、ドクターペッパーにグリーンスムージー(鳳翔手製の青汁)という、何とも微妙な組み合わせの飲み物が並ぶ様となっているのは、最早大坂鎮守府的には珍しくも無い極ふっつーに見られる絵面(えづら)であった。

 

 

「まぁそれはいいンだけどよ、チチのねーちゃんは変態と昔なじみなンだろ? 話はしたのか?」

 

「チチのねーちゃんって何よっ!? て言うか……何で私がアイツと話なんかしなくちゃなんないのよ、冗談じゃないわ」

 

「はっ、やっぱヤツとひと悶着あったってのはマジもンの話だったかよ、まぁ別にこっちにゃ関係ねぇ話だけどよ、あンま揉め事を他に広めねーように気を付けろよ?」

 

「判ってるわよっ! だからアイツが来てるって聞いてもわざわざ無視してるんじゃないっ!」

 

「そーかよ、それは何よりだ、って吉野さンよ」

 

「はい? 何です?」

 

「その変態だけどよ、今度の作戦に随伴するっての、ちっと士気的にっつーか色々とよ……ヤバくねぇ?」

 

「あー、それには色々と事情がと言うか、作戦への絡みがありましてねぇ……」

 

 

 ここ数日大坂鎮守府を騒がせたへんたいさであるが、本人が必要とした情報を収集し終えた為か、それともへんたい活動に満足した為か、近日彼はホームであるワイハに帰る事になっていた。

 

 ただ現在の世界情勢では日本からハワイまでの航路は開拓されておらず、またへんたいさ個人が使える船舶も存在しない。

 

 その為彼の帰還には何かしらの移動手段を用意する必要があり、その足をハワイに程近いミッドウェーへ抜錨予定の母艦泉和(いずわ)へ求め、途中までではあったがへんたいさは作戦行動中の大坂・舞鶴混成艦隊へ随伴する事となったのである。

 

 

「……事情? ヤツを作戦中の母艦へ乗せる程の何かがその事情ってヤツにはあンのかい?」

 

「えぇ、事前に聞いた内容には例のミッドウェーで暴れている個体に対しての情報は限定的にはありましたが、その辺り腹を割って話をした処ですね、今回の随伴を条件に追加の情報を得る事が出来まして……」

 

「けっ、結局もっと情報持ってたんじゃねーか、ふざけやがって」

 

「いやいや、その辺りの出し惜しみにもちゃんとした事情があったんですけどね」

 

「なンだよその事情って」

 

「内容が軍機に掛かる物で、聞いた時点でこちらは軍部から何かしらのお咎めは受ける事になるって事で、敢えてその辺りははぐらかしていたらしいんですよ」

 

「おいおいボンよ、軍機ってそりゃお前、大丈夫なのかよそんな話聞いちまっても」

 

「大丈夫じゃ無いですね、ですからここから話す情報は自分が仁科さんから聞いた物の内、必要部分のみを抽出して皆さんにお話するって事でご納得頂く形になります」

 

 

 軍が秘匿扱いする情報の最上位『軍機』、それが残っているのは破棄できないという理由が大半であり、ある意味存在だけしている(・・・・・・・・)という形で遺された、もう表に出ないであろう記録達であった。

 

 それらは内容云々以前に『そういう事象、若しくは作戦が存在した』という事すら秘匿される類の物であり、内容を知った時点でその者は何かしらのリスクを背負う事は間違いは無い、正に触れてはいけない軍部のタブーとも言えた。

 

 特に吉野と仁科という関係で言えば、現在友好的な関係で接してはいるが、元を辿れば対立派閥に所属していた者同士という経緯と、仁科自身フリーとは言え今回の来訪を考えると軍部のどこかとは繋がっており、更には米軍とも繋がっているのは確実という予想がされる。

 

 故に吉野が仁科より『軍機』扱いの情報を得たという話がどこかに漏れ出る危険性も皆無では無く、それを理解している吉野にしても、情報を握る仁科へ話を持ち掛けるのはそれなりの覚悟を要する事であった。

 

 

「そのヤバぁい情報って私も聞いておく必要があるのかしら?」

 

「事と次第によっては自分は罷免(ひめん)される可能性もあります、もしそうなったら鎮守府所属の方達も無関係って訳にはいかないでしょう?」

 

「それなら尚更話を聞かない方がいいんじゃない? もし何かあったらこっちにもとばっちり来ちゃうじゃない」

 

「今回の騒動の主、『軍機』に関わってるとされる個体が『第三世代計画』の被験体だったと言ったらどうです?」

 

「……第三世代ですって? 嘘? ……あれは只の空論で実現は不可能だって……」

 

「貴女が当時強固に反対して騒ぎが大きくなりかけた為、技本を追い出される元凶になった計画です、内容は余り把握してないみたいですけど、この先ウチに何かあった時は、その大元が件の計画だった事を知ってるのと知らないのとでは、貴女にとっては対処が違ってくるでしょう?」

 

「それは……確かにそうだけど」

 

「で、輪島さんは作戦に随伴するので知っておかないといけないのと、唐沢さんはもしもの為にと言う事で」

 

「もしもの備えで一蓮托生かよ!? 色々と頼られてるってのが判って俺ぁ涙が色んな意味でちょちょ切れそうだぜ」

 

 

 吉野が得た情報、それは数々あった艦娘改良案の内の一つにして、尤もモラルを外れた忌むべき計画と位置付けられた物であった。

 

 

 艦娘の建造は専用のユニットに対し決められた資材を投入した後、妖精の手を経て建造されるのが常識となっている。

 

 鉄や弾薬、燃料といった無機物から作られたそれは、人とは組成が違った、それでも血の通う肉体としてこの世へ生まれ落ちてくる。

 

 建造される艦種や個体という種別は狙い撃ちが叶わず、ある程度の運に左右されるという結果を伴うが、概ねというレベルまでにはその法則は現在確立された物となりつつあった。

 

 

 しかしこの不確定かつ不規則な建造という物をコントロールし、尚且つ既存の艦娘よりも強い個体を生み出そうと技術者達が研究を続けていた途上に、ある設備が浮上した。

 

 当時大本営に設置されていた通称『大本営一番ドック』、元を辿れば旧大阪鎮守府にてプロトタイプとして作られた艦娘建造システムのコアとなっていた設備。

 

 それは他のドックとは違い幼体という未成熟な艦や他艦に見られない特徴的な艦娘を生み出す事もある、そんな不可思議な設備に目を付け、そこへ民生からフィードバックされた技術を持ち込み、とある実験を行うという計画が立てられた。

 

 

「ンで? その軍機扱いになっちまうって計画って一体何なンだよ」

 

「……当時まだ軍では艦娘の研究が一本化されていなくて、民間の研究機関にも技術開発の委託はされていたの」

 

「あー、らしいなァ、そんで?」

 

「国益を左右する研究って事で予算は青天井、それなりに成果を出せば親方日の丸だからずっと重用される事は保障される訳だし、艦娘って狭いシェアを巡って企業間では熾烈な研究合戦が行われてきたわ、そこで生まれた最も有名で汚点ともなった『人造艦娘計画』、それの技術流用で次世代の艦娘を作ろうとしたのが『第三世代計画』よ」

 

 

 研究分野という縛りで言えば、人類と初めて邂逅した最初の五人達は自然発生体という呼称の他に、第一世代という分類でカテゴライズされており、後に今までへと続く『建造で生まれた艦娘達』は第二世代と呼ばれていた。

 

 リーゼロッテが言う『頓挫した筈の計画』で生まれる筈だった艦娘はこれらの関係性から続くと位置付けされ、『第三世代の艦娘』という意味で計画その物も『第三世代計画』と名付けられた。

 

 

「大本営第一ドックが建造した履歴を洗い出し、特殊な建造が出た環境を割り出した上で擬似的に環境を作り出す、そして追加機材を加えた建造システムで狙った艦娘を作り出し、ゆくゆくは性能自体も調整できるシステムを完成させようとしたの」

 

「完成すりゃ随分と至れり尽くせりなシステムになりそうだけどよ、やっぱそれにゃ面倒事が絡む裏とかがあったンだろ?」

 

「そうね、その一番ドックに接続される機構(・・)というのが当時民生から回って来た『人造艦娘』本体よ、流れとしては資源の投入や調整は既存のドックで行い、建造はその人造艦娘で賄う、そんなのがその計画で進められる筈だった訳」

 

「……俺には今一理解ができねぇンだけどよ、確か人造艦娘って人間を素体にした『モドキ』だった筈だよなぁ、それをどう建造に利用するってンだよ」

 

「人造艦娘と既存の艦娘は別物と言える存在だったけど、その中でも両者の身体的特徴で言えば決定的に違うという点が幾つかあるの、その最たる物は子孫を残す為の器官(・・・・・・・・・)があるかどうかと言えるわね」

 

「おいおい……この話の流れだと、とんでもなく胸糞わりぃ展開になりそうなンだけどよ……」

 

「建造ドックというシステムを人造艦娘の腹に直結して、艦娘みたいな『何か』を産ませようとした、それが『第三世代計画』の全貌よ」

 

 

 人より強化はされたが、戦力としては使えないという形で生み出されたモノ達。

 

 その子宮を使い、人の狂気とエゴが更なる異形を生み出すという計画は、艦娘という存在に人並み以上の関心を寄せ、また身近な存在として認識を持っていたリーゼロッテ・ホルンシュタインという少女には例え人類の為と言う建前が存在していたとしても、到底許容できる物ではなかった。

 

 当然その結果に異を唱え、計画の中止に向けての学術的な根拠と理論を研究結果として出す事になるが、その計画には軍部や企業が絡んでおり、結果として個人でそれを覆す事は叶わなかった。

 

 そしてそれらは情報をリークして世論という物を味方に付ける事も可能であったが、技本より他国へ齎された数々の技術は多かれ少なかれモラルという面では表へだせない経緯を辿って生まれた物も多く、この計画だけをピンポイントで処理するのは困難と判断したドイツと日本の軍部は、リーゼロッテの主張を黙殺する。

 

 数々のモラルハザードの末に生み出された技術で守られている国民からの、倫理観(モラル)から出るであろう世論から追求を避けるという皮肉の為に、技術留学生だった彼女を本国へ送還するという事で口封じを施し、軍部はこの計画を進めるに至った。

 

 

「最終的に想定した結果が得られないから計画は頓挫、別方面で進められていた研究に人員と設備は吸収されたって聞いてたけど……」

 

「それに間違いは無いですね、しかしその研究の途上で試験的に生み出された『第三世代の艦娘』は幾らか存在していたという事です」

 

「……ンで、今回ミッドウェーで暴れてるヤツってのは、その第三世代ってヤツなのかよ」

 

「仁科さんが言うには当時計画に投入された装備や、現状を照らし合わせるとその可能性は高いそうです」

 

「なぁボンよ、この話ってのは上はどの程度把握してんだい?」

 

「ミッドウェーでの騒動はこちらが作戦概要を上申した事で知れているのを前提として、恐らくそこからこの計画が絡んでいるのはある程度予想はしてると思います」

 

「じゃぁアレだな、その暴れてる艦娘がどんな状態であろうと、ウチとしては殲滅以外の選択肢はねぇ訳だ」

 

「仰る通りで、軍部としては表に出したくない暗部の事ですし、その結果は人の目に触れず海の底に沈むのを望んでいる筈です」

 

「でもそれならよ、今回は俺らに作戦の許可を出さず放置した方が軍部としては都合がいいンじゃねーの? 幾ら何でも単騎で深海棲艦のテリトリーに居座り続けるのは不可能な訳だしよ」

 

「それでも作戦許可が降りたのは、その個体がミッドウェーを離れ、ハワイエリアに進出するという事態を想定したからではと仁科さんは言ってましたね」

 

「おいおいミッドウェーからハワイまで単艦で進出って…… どれだけその個体はつえぇってんだよ」

 

「投入された個体次第とは聞いてますが、ミッドウェーからハワイまでの直線航路に存在する深海棲艦の中には……確か姫も鬼も存在しなかった筈ですし、何よりその計画の目標とされていたのは……」

 

「日本から太平洋……ハワイまでの航路打通が可能かどうかの検証、当初の計画の下その個体が動くとなりゃ……なる程ねぇ、そりゃ上は黙って見過ごす事ぁできねぇわな」

 

 

 淡々と髭眼帯から話される言葉に輪島は苛立たし気に片膝立ちの胡坐のままグラスを煽り、髭爺は難しい表情で思考を巡らせていた。

 

 そしてこの卓で一番計画に近い位置へ居たリーゼロッテに至っては、結局頓挫して立ち消えになったと思っていた計画が結果(被害者)をを残していたと聞き、怒りとも悲しみとも取れない相で膝上に握り締めている拳へ視線を落としていた。

 

 

「そんな訳で、今回は恐らく個体に対しての詳細なデータを持ってる筈(・・・・・)の仁科さんにも直前までご同行頂く事にしまして」

 

「あぁそういう事情ならまぁしゃーねぇよな、で? その言い方だと吉野さンは対象の詳細を聞いてねぇんだよな?」

 

「です、仁科さんが言うアテが外れているとも限りませんし、無闇に軍機に触れる事も無いと判断しまして」

 

「それが正解かもな、ンでもそうなると大坂鎮守府が出す面子を考えたら相当厄介なヤツが相手って事になンのかねぇ?」

 

「個体の能力も結構な物だという事は予想されますけどね、ただその個体が活動する為には他にも色々と条件があるらしいので、その始末にはそれなり以上の突貫力が必要だと判断しました」

 

「まだ他に面倒事があンのかよ」

 

「はい、その辺りは抜錨後、母艦でのブリーフィング時にお伝えします」

 

「ふぅん……了解したぜ」

 

 

 結局この作戦は、話を持って来た海湊(泊地棲姫)の事情から始まり、日本と米国の関係という部分に波及した為本来は発動されるべきでは無い案件として処理される筈だった。

 

 それは輪島が言う様に放置すれば何れ沈静化する予想が出来、それを理由に海湊(泊地棲姫)への説得ももしかしたら可能という選択はある筈であった。

 

 しかしそれを排してでも作戦の許可が降りたのは、嘗て軍が推し進めた暗部が騒動の元になっている可能性が濃厚なのと、現在その元凶となっている存在を表に出す事は是可否でも避けたいという意向が強く働いた為であった。

 

 かくしてその作戦は米国の顔色を伺いつつも、対象の存在を無視出来ないという中途半端な差配と、軍部内での意見が纏まらず、しかし早急に手を打たないといけないという事情の元、計画を象徴するかの如き中途な戦力での計画を発令するという事になり、大坂鎮守府はある意味尻拭い染みた行動をしなければならない立場に立たされてしまった。

 

 

 

 そんな諸々が絡み複雑な関係を背後に持つ形で進められたこの作戦は、後に大坂鎮守府と軍部中枢との対立を決定付けてしまう切っ掛けとなってしまうのだが、この時それは誰も予想していなかったのであった。

 

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 ただ言い回しや文面は意図している部分がありますので、日本語的におかしい事になっていない限りはそのままでいく形になる事があります、その辺りはご了承下さいませ。

 また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。


それではどうか宜しくお願い致します。

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