とうとう抜錨し、ミッドウェー近海迄至ったヨシノン達、そこは予想に反し殆ど深海棲艦と遭遇が無い静かな海だった。
ただそれは喜ばしい結果には至らず、後に予想される面倒事が纏めて発生する事が予想され、今作戦に就く者達は作戦変更を余儀なくされるのであった
それでは何かご意見ご質問があればお気軽にどうぞ。
2017/10/20
誤字脱字修正反映致しました。
ご指摘頂きましたリア10爆発46様、坂下郁様、有難う御座います、大変助かりました。
それなりに高い波が延々と続く。
その波はまだ見ぬ遙か先に居るだろう有象無象を思い、獰猛な笑いを表に貼り付ける者達の姿を隠す。
「っし、お前らァ……抜錨前の最終確認だ、耳かっぽじって良く聞きやがれ」
完全浮上した母艦
「オメェらも知ってると思うがちっと予定に変更があってなぁ、さっき粗方説明は済ましたがよ……この戦闘の指揮は全部俺が執る事になった、先ずは摩耶ァ」
『応』
「オメーは神通と夕立、それと鶴姉妹を引き連れて敵陣の先頭に居る姫と鬼目指して突貫だァ、母艦の事は考えるな? 今回は殲滅がメインだ、兎に角お前ぇらが行く先はザコ共を蹴散らして真っ直ぐだ! 邪魔モンは全部蹴散らして兎に角前に進めや!」
母艦
それらは輸送級も引き連れているからであろう、15ノット程という緩やかな航行速度で北へ進み、問題とされていたミッドウェーエリアへ到達するには今から凡そ三時間は要するという試算が出た。
「ンでその後ろから武蔵を旗艦に陸奥と千歳、五十鈴、阿武隈、秋月が抜錨、摩耶の艦隊と母艦の中程で索敵しながら、突貫する艦隊のサポと母艦の防衛を其々の判断でやれ、だけどお前らのメインは……判ってるよな? 千歳ぇ?」
現在進行している深海棲艦の一団は巨大な輪陣形の様な形になっていたが、その外側にも幾らかの大型艦が周回する形で徘徊しており、結局その集団の総数は70前後という物になっていた。
現在先頭を行く離島棲鬼と駆逐棲姫という上位個体、これらは通常艦よりも性能も頑強さも比較とならない存在と言えたが、支配能力、こと指揮能力という面に於いてはやや難がある組み合わせであり、現状で言えば進行している深海棲艦全てを支配下に置く事は出来ても、それら全てに指示を出して組織的な戦いをさせる程の能力は無いのではという予想がされた。
単体の戦力が高くとも支配下の深海棲艦を手足の様に扱うにはそれとは違った特定の能力を要し、通常であれば空母の様に直接的な攻撃を用いず、複数の艦載機を同時に操る類の者がその手のポジションに就く事が多い。
艦隊単位、または連合艦隊規模なら姫や鬼でなくとも指揮は容易であったが、その規模を更にまとめた集団を効率的に動かすには、戦場を広く見る視野と、各個の性能を理解しつつも適所へ充てる判断を絶え間なく続ける必要がある。
その為吉野達は進行する深海棲艦達の数と、現在確認されている姫・鬼級の種別を考慮した結果、『下位個体に指示を出している上位個体がまだどこかに存在する』という判断の元、艦隊の編成を見直す事にした。
「私は戦場全体を見渡し、
「おう、それでいい、お前の仕事はどっかに潜ンでる頭を見つけ、そいつを炙り出して叩く事だ」
「だから監視の目に千歳を、対処に対潜に強い五十鈴や阿武隈を並べたって事ね」
「もし浮ンで来る前に仕留め損なっても武蔵、陸奥ぅ、お前らがそいつを叩くンだ、後方だからって日和ってんじゃねぇぞ」
「あぁ了解した、敵陣に切り込むだけの足は私も陸奥も持ってないからな、取り敢えずは母艦周りの敵を駆逐しつつも、後に出てくるだろう主役を食わせて貰おう」
其々の役割を確認しつつも展開を終え、敵陣へ切り込む役割を担った摩耶は不敵な笑いを表に貼り付け、自身の電探に映り始めた深海棲艦の影を確認すると艤装を軽く叩く。
当初は対空支援として編入された彼女の艤装には現在対空兵装は一つも搭載されておらず、観測機と水上電探以外には3号砲が満載されている、それは即ち今摩耶に望まれているのは対空戦闘では無く砲撃戦、問答無用の殴り合いにあった。
「第一艦隊旗艦摩耶! 行くぜ! 抜錨だ!」
翔鶴瑞鶴姉妹が烈風の展開を終えたのを確認すると、嘗て防空特化に改装される前に飛ばしていた激を合図に海を蹴り、僚艦を伴って何でも屋と呼ばれた番長は敵艦を目指して
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「現在第一艦隊は敵の
「夕張よォ、そろそろアレ出してもいいンじゃねーのか?」
「えーっと、現在母艦と第一艦隊との距離は200……距離的にギリってとこですけど、こう混戦になっちゃうと母艦の守りが心配になっちゃいますからね……んじゃパパっと出しちゃって後ろに下がりますか?」
「おぅ、丁度いい具合に摩耶達が包囲され始めたからな……って幾ら後方だからってザコを集中し過ぎだバカめ、その慢心が命取りだって事ァ教えてやンぜ! 霧島ァ! 榛名ァ! 準備はいいかァ!」
交戦の瞬きがそこかしこに見える上部甲板、そこには無骨で巨大なレールが二本せり出した形で固定されており、その一番後ろには其々待機する者の姿が見える。
左右どちらもしゃがむ様に腰を落とし、前を睨む様に視線を先に飛ばし────
海風に煽られる髪は黒と暗い灰色の、黒髪が舞う奥には赤く輝く燐光と、片や深く濁った瞳があった。
「今回に限り
次いでしゃがんだままの長髪二人が爆発的な加速を伴い空へ撃ち出される。
それは空を舞うという表現とは掛け離れた速度で飛んでいき、敵陣へ突き刺さる形で戦いを繰り広げている摩耶達の僅か先に落着、盛大な水柱を発生させた。
大質量の落下によるそれに周囲の有象無象が混乱し、吹き上がる瀑布に目が釘付けとなる。
そうして見た水飛沫は、幾らかの深海棲艦がこの世で見る最後の光景となった。
「ああああ嗚嗚嗚嗚呼!!」
突然の事に混乱する敵陣の只中、未だ水柱が消失する事も無い瞬間、直近に居た
バラバラになったソレらが舞う只中を、暗灰の長髪を
「がぁぁぁぁぁ嗚嗚嗚嗚呼!!」
それと対を成す様に、逆側の水柱からは
黒髪を纏い、振り抜く拳は生身であろうが艤装であろうが叩き潰す。
未だ艤装を待つ
後方から突貫を掛けてきた艦娘へ対処する為包囲を形作りつつあったそこは、突然空から突き刺さった二匹の獣によって再び混乱に陥り、なまじ密集した陣を形作っていた為其々大きく回避する事は叶わず、次々と手の届く範囲から榛名と霧島が繰り出す近接攻撃の餌食となっていった。
「っしゃっ! 榛名と霧島に混乱してる今がチャンスだ! 神通……一発お見舞いしてやれっ!」
「了解っ! 神通……いきます!」
榛名と霧島が左右へ展開し、その隙間へ神通の雷撃が炸裂、更にそれを追い掛ける様に夕立が踊り込み近接砲撃、一瞬で前へ出る為の進路がそこにこじ開けられる。
間を置かずに大小様々な水柱が発生し、更に空からお代わりと言わんばかりに霧島の自立艤装が落着し、砲撃の渦が崩れた陣を更に飲み込んでいく。
「おうおう好きな様に暴れろっつったけどよ、大丈夫なンかあれ、ちっとハッスルし過ぎじゃねーの?」
『こちら翔鶴、今のところ相手は一当てで崩れる程度の下位個体と補給艦がメインですから、然程心配は無いかと、それより敵本陣に動きが見られます』
「あ? こっちに戦力を向けてきやがったか?」
『いえ、水雷系を含んだ個体が左右に展開する形でその場に停止、重量級数体を連れた姫と鬼が突出していきます』
「って事はあくまでこっちは無視してミッドウェーに居るヤツを優先するって事かァ? クソが……舐められたモンだぜ、おい千歳ぇ、まだ他の上位個体は見付けらんねーかよ」
『これだけ前も後ろも動きがあると中々……追加の彩雲を上げましたが、発見にはもう暫く掛かるかと』
「
嘗て輪島が南シナ海で、そして吉野達がアンダマン沖で其々対した大軍勢は、結局それを指揮していた上位個体を殲滅する事で決着を見るという結果になっていた。
故に輪島が指揮する艦隊二つの内榛名、霧島を擁する摩耶の艦隊は現在確認されている敵本陣の殲滅へ、その後方の武蔵、陸奥が固める艦隊は残りの指揮を執っている筈の上位個体の殲滅と母艦の防衛という二面作戦を展開していた。
そしてこの海域で母艦
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「輪島艦隊が敵と接触したようですね」
「あーうん、榛名君と霧島君を頭にして突貫するって事だったけど、彼女達じゃ爆発力はあっても防御面がねぇ……」
「その為の二段構えでしょう、なら私達はあちらを信じて自分達の事に集中しないと……只でさえこっちのは無茶な作戦なんですから」
例の黒い武者然としたスーツに身を包み、携帯していく武装のチェックをする髭眼帯の横で、古鷹が小型揚陸艦の最終チェックの為計器に張り付いていた。
母艦
それは全長15m、幅5m、ガスタービンを主機としたその揚陸艇は武装を積まずあくまで移動のみをメインとした水中翼船であった。
元々は
「小型揚陸艇
『『高速小型揚陸艇』ですっ! 従来のLCACでは格納時のメリットはあっても作戦時の移動速度が稼げませんから、やはりそこはガスタービン水中翼船でないと!』
「夕張君は水中翼船が好きだね……轟天号の時もそうだったし」
『水中に本体付属の翼を配するという事はそれだけ艦が安定するという事に繋がります、それ即ち高速化が可能っ!』
「だからってこのクラスの船で乗員10名以下ってどうかと提督思うんだけど……」
「僕が提督の膝の上に座ればギリ二桁乗れるんじゃない?」
「全員で8人しか乗らないから、今回は提督の上に時雨君がシッダウンしなくても大丈夫なんじゃ……」
髭眼帯の突っ込みにほっぺたプクーしつつペシペシとチョップをする時雨の向こうでは、既に抜錨準備を終えたスク水三人が苦笑しつつ装備の再点検に取り掛かっていた。
「敵陣を突破しつつ途中で爆弾抱えてダイヴ、そこから目標まで潜行して移動し、最後はそれをセット……ねーていとく~」
「うん? 何でっち」
「何じゃないでちっ! てーとくはごーや達に死ねって言うでちかっ!」
「そうなのね、無茶にも程があるのね……」
「あーでもさ、取り敢えずヤバかったらブツを放棄して退避してもいいって事にしてるしさ」
「もしもの時の備えって言う割りには爆薬の量が半端じゃ無いんだけど? ほんとにこれだけの数セットしないといけないの?」
「目標の船体は特殊素材で作られてるらしいから、もし爆破処理するのが必要となったらその規模の爆薬量が必要らしいんだよね」
輪島が指揮する艦隊が深海棲艦を相手取っている間、髭眼帯が指揮する艦隊は本来の対象としていた第三世代の艦娘が母艦としている船を始末する為の準備を進めていた。
これまで得ていた情報を総括すると、現在その個体が行動する半径はミッドウェー島を中心に20海里、そこから移動もせずただ進入してくる者の排除に終始している状況は、仁科曰く『母艦の防衛という命令を遂行している状態』が濃厚なのだという。
その状態の艦をどうにかするとなると、単純に対象を撃滅するか、若しくは護衛対象の母艦を始末するという二択となり、また目標個体を迎撃に引きずり出し、ある程度損耗させた状態で母艦を始末すれば損耗した燃料・弾薬の補給もままならず、第三世代の艦娘にハワイへ進撃する命令が組まれていたとしても、その目的を防ぐ事も可能となる。
『現在母艦の防衛を一次の命令として行動している様ですが、二次の命令が組まれていない場合母艦を始末すれば対象は命令待機状態になりますからぁ、まぁそうなる事を祈りましょう』
「ってその辺りの心配は、ミッドウェーに打ち揚げられている母艦をどうにかした後の話になるんでしょうけどね……」
『むむむむぅ、座礁している母艦の防衛機能がどれだけ生きているかという事に今回の作戦は掛かっている感じですねぇ、それを確かめる為にも先ず船から対象を引き摺り出さないと、確認はムリのムリムリです』
現在ミッドウェー島東側環礁には座礁した形で嘗ての日本海軍所属、技本の特殊母艦が確認された。
それを偵察機から得た映像で確認した処、外装に激しい損傷が認められてはいたものの、船体各所に備えられているレーダー設備はほぼ無傷の状態で残っており、また稼動するかどうかまでは確認出来なかったが近接防空システムの武装はいくらか残っているのが見えた為、作戦遂行に当たってこの目標は幾らか自衛の為のシステムが生きている事を前提に、髭眼帯艦隊は抜錨の準備を進る事にしたのである。
元々それを想定して搭載したトマホークに、対電子兵装用の飛翔体各種。
これらを先に撃ち込み、その結果次第では小型揚陸艇で目標母艦へ進入、内部からの破壊活動を行うという段階を踏んだ作戦が吉野達別働隊が担う役割であった。
『目標個体が母艦という認識を持つのは、搭載されたホストコンピューターが生きているからです、なのでそれを沈黙させれば護衛対象をロストしたと認識するでしょうが、それには少々面倒な手段が必要になりますねぇ』
「機関部に設置してあるホストを沈黙させる為に、艦橋に搭載してある保守用システムをダウンさせないとアクセスできない……と」
『ですですぅ、あの手の実験艦がまだ運用されていた時はですねぇ、深海棲艦に対する備えは艦娘へ、それ以外は他国へ情報を漏洩させない事に対する備えをびょ~的にしていましたからぁ、対通常兵器及びデータの保守関係は強固な形で配備されてましてぇ』
『その手の作業に使える端末は一台しか無いんですよねぇ、後は私が持ち込んだ私物のノーパソしかありませんし……』
「で、もし内部からどうにかしようとしたら古鷹君にメインホストを任せて、自分は夕張君のノーパソで保守用端末をどうにかする必要があるって訳だ」
『性能的には艦に備え付けの端末でメインホストを攻略する必要がありますからね、保守用端末はセキュリティを解除するだけでいいと思いますから、そっちをノーパソで対処しつつ、足りない性能はその……
元々は母艦の操舵システムを統括する目的で義眼を介し、脳と端末を直結するシステムが吉野には埋め込まれていた。
それは結局活躍の機会は無かったが、脳神経に幾らか食い込んだ形で施術されていたそれらは迂闊に取り除く事は危険とされ、現在もそのままとなっていた。
またそのシステムは夕張が組んだシステムと併用する事で脳を擬似的なプロセッサとして代用する事が可能であり、簡易検査用システムが入った夕張のノートパソコンを保守端末と吉野の間に繋げれば、恐らくマシンパワーが足りないと予想されるノートパソコンを、吉野の脳を不足した部分として充てる事で対処が可能となるだろう。
そんな無茶だが選択肢の無い状態にあった為、この作戦が
その艦隊は吉野と古鷹という、ある意味非戦闘員を筆頭に、時雨、陽炎、朝潮、そこにもしもの為の伊58、伊19、伊168を配した変則艦隊で当たる事になっていた。
「僕が提督を、朝潮が古鷹さんの護衛に就いて……」
「私が艦の周囲を警戒……って、本当にこの作戦大丈夫なんでしょうね? マジで」
「陽炎が捌き切れない程敵が寄って来てるなら、そもそもてーとく達が中で作業するのは不可能でち」
「なのね、そうならない様にイク達も爆薬セットしたら、周囲警戒に就くのね」
「そういう意味では輪島さんの艦隊指揮に全てが掛かってるんだよねぇ」
『あーあー聞こえてンぜったくよぉっ、ワザとオンフックで会話しやがってぇっ! こっちは今それどころじゃねぇっ……って、おい……出やがったぜ吉野さンよぉ』
指揮所のメインスクリーン、そこに映るのは深海棲艦の本隊が進行し、鶴翼の陣にも似た形で展開する遙か向こう。
そこに映るは僅かに白波を上げ、真っ直ぐに突き進んでくる小さい影。
『あれは……陽炎型の、雪風タイプの個体みたいですねぇ』
元は白だったであろう制服は黒に近い真紅に染まり、両手には駆逐艦が持つにはやや大型の砲を携え、本来なら背に負うべきの魚雷発射管を両腿に固定するという、そんな陽炎型特有の物を装備した姿を見せていた。
「おいおい……何で駆逐艦が2号砲なんて装備してんだよ」
「
「テメェもその技本の出だろうがよ、んで? アレはどんなヤツなんだよ」
「あの個体の事はよ~っく知ってますよ、えぇ、詳しくねぇ……まさかとは思いましたが、あの個体が処分されずに残ってたとは驚きです……」
言葉尻は今までと変化の無いへんたいさであったが、目を細めてモニターを睨む表情はそれまでとは違い、やや攻撃的とも取れる色が滲んだ物になっていた。
「人と言うのは本当に業が深い生き物ですねぇ、まぁその辺私が言えた義理じゃありませんが……本当に、胸糞が悪くなりそうですよ」
本来携えても使える筈も無い砲を両手に、魚雷管を含め四つの武装に身を固めた真紅の陽炎型 八番艦は、敵が放った砲弾に臆する事も無く、速度もそのままに距離を詰めに掛かった。
誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。
ただ言い回しや文面は意図している部分がありますので、日本語的におかしい事になっていない限りはそのままでいく形になる事があります、その辺りはご了承下さいませ。
また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。
それではどうか宜しくお願い致します。