大本営第二特務課の日常   作:zero-45
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 前回までのあらすじ

 件の対象を確認し、取り敢えずの方針を決めた大坂・舞鶴艦隊。
 今だ情報の全てを出していないへんたいさの言動に一抹の不安を残しつつ、其々は予定よりハードルが上がった状態の作戦を完遂させる為、今抜錨する。


 それでは何かご意見ご質問があればお気軽にどうぞ。


2019/02/20
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きましたリア10爆発46様、坂下郁様、雀怜様、有難う御座います、大変助かりました。


混戦

 一番古い記憶は何だったか。

 

 寝床では本能的に忌諱する匂いが鼻を突き、連れて行かれるままに行けば苦痛しか無いそんな場所。

 

 感情は拒否してもそれを伝える術も無く、ただただ時間に身を委ねるだけ。

 

 

 そんな中でも稀に救われる時間も僅かばかりあった。

 

 広いともいえない空間に投げ出され、目の前に居るナニカと対する時。

 

 その時与えられる命令は『壊せ』の一言だけ、その声に従い、完遂すれば何故か『良くやった』の一言が掛けられ、普段は痛いまま放置される体が治され、その時だけは痛いのが無くなった。

 

 回数を重ね、次々壊していく度に、『良くやった』という言葉が多くなり、体が痛いままの状態が減っていった。

 

 壊していればずっと褒められ、体が痛い時間が短くなっていく。

 

 そんな事の繰り返しがいつしか救いとなり、壊す事に全てを向ける事になっていった。

 

 

 壊す壊す壊す、繰り返し続くそれらが当たり前となりつつあったある日、生まれて初めて『いつも』とは違う場所へ連れて行かれた。

 

 そこはどこまでも青く広がる世界、(はし)っても、飛んでも体に何も触れない、『壁』が無い不思議な世界。

 

 

 初めて感じる不思議な匂いと、眩しい光。

 

 そんな世界にあっても下される命令はいつもと同じ、『壊せ』だった。

 

 

 ただその時からの『いつも』は徐々に変化していき、暗く狭い場所から、広く青い世界で壊す事が多くなった。

 

 環境が変ったからか、今までとは違い体をいじられた後は決まって痛さとは違った苦痛を伴う事になったが、不思議とその直後は以前よりも感じる痛さが軽くなっていく気がした。

 

 ここでも壊す事を繰り返せば痛くなくなり、もっともっと楽になる。

 

 だから壊した、命じられるままだった筈が、自ら進んで壊す様になった。

 

 

 それからどれ位壊しただろうか、ある日ふと気が付いた。

 

 足元に揺れる水面(みなも)、何気無しに見たそこに映る自分。

 

 それまで意識してそれ(映る自分)を見た事は殆ど無かった、しかしその日見た自分の姿は、関心を持たない心にさえ(ひび)を入れてしまう程に─────

 

 

 壊していった日々は、とうとう自分自身を壊してしまった、水鏡に映るソレ(自分)を見た時そう思った。

 

 

 そこからは途切れ途切れの記憶しかなく、意図的に考える事を辞め、言われるがままに時を過ごした。

 

 そうすれば楽で、痛くなくて、壊れた自分を見る事は無い。

 

 そうやっている内に、たまにあった苦しくて痛い事もされなくなった。

 

 

 ────ある日いつも『壊せ』と自分に言う白い服の者が言った。

 

 

『お前は船を守れ、この命令は何事に於いても優先される』

 

 

 『壊せ』という以外に初めて受けた命令に、『守れ』という言葉に、何故だか胸から沸き立つ物を感じた。

 

 声に出さずそれを幾度も復唱する。

 

 

─────────守れ

 

─────────守れ

 

 

 どうしてだろう、その言葉を繰り返すだけで自分でも判らないどこかが熱くなる。

 

 

 その命令を受けた時、今まで無関心だった筈なのに、初めて白い服を着た男の事を強く意識した。

 

 今となっては顔も、声も、何もかもを思い出す事は出来ないが、その存在はとてつもなく大きな存在として、心に残った。

 

 

「……しれぇ」

 

 

 眠りに落ちる寸前まで、『守れ』という言葉と命令が心の中で木霊していた。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

『トマホーク堕とされました、命中弾0、目標依然変りありません』

 

「やっぱ自衛システムは生きたまんまか、んじゃしょうがないって事で……全員ベルトは締めてるね? 古鷹君、タイミングを見て出撃()るよ」

 

「了解、カウント10で固定ボルト解除、主機の暖気を開始しつつ抜錨します」

 

 

 泉和(いずわ)の艦尾から産み落とされる様に揚陸艇飛魚(とひうお)が海に出る。

 

 主機を暖気する為電気ヒーターがチリチリとモーターを焼き、赤に点灯していたコンソールのランプが緑に変る。

 

 

『もう少ししたら第一艦隊が敵本陣と接触すっから、そっちの戦端が開いたら出てもいいぜ!』

 

「了解、でと、例の個体はどんな感じですかね?」

 

『相変わらず大立ち回りしてンよ、姫鬼込みの艦隊相手に単艦で殆ど無傷ってどうよって思うがよ、流石に攻めには出れねぇみたいだし、暫くはあっこに釘付けになンじゃねぇの?』

 

「ふむ……それで第二艦隊は?」

 

『引き続きザコを指揮してる筈の敵を索敵してっけど……まぁ大体は絞り込めて来た感じかねぇ、ただそっちは最悪の目を引きそうだけどよ』

 

「最悪と言うと、敵本陣の直近……ですか?」

 

『もうそこ以外は殆ど調べ尽くしてっからよ、今武蔵を盾にして艦隊を前に押し出してるとこだ』

 

 

 ミッドウェー島海域周辺は、凡そ40海里四方で何かしらの小競り合いが続く混沌とした世界へ変貌していた。

 

 摩耶が旗艦を勤める第一艦隊は当初の命令通り突貫だけに注力し、榛名と戦艦棲姫(霧島)を前面に押し出しつつも下位個体の波を抜け、現在は深海棲艦の本陣に接触しようという位置にまで進出する。

 

 対する深海棲艦本陣は、離島棲鬼と駆逐棲姫が島から現れた雪風型の艦娘を包囲する形で接触、それに伴ってやや下がる位置でタ級(戦艦)flagshipが2、リ級(重巡)eliteが1、チ級(雷巡)flagship1という布陣で砲雷撃の支援を行っていた。

 

 その攻撃を一身に受けている雪風型は目立った損傷は受けていなかったが、流石に全ての攻撃を躱し続けるのは困難だったのだろう、装備の内2号砲の一つは被弾の為損壊、また牽制の為に使用した為魚雷の残数は2斉射を残すのみとなっていた。

 

 かくして母艦泉和(いずわ)からその鉄火場へは有象無象の盾が出来上がりつつも北に集中、現在第二艦隊が一番薄い部分に攻撃を仕掛け、また第一艦隊が漸く敵本陣を射程圏内に捉える位置まで進出した為に、ここからは更に戦火が大きな物になるだろうという予想がされた。

 

 

『ミッドウェー島まで直接抜けるのは困難ですから、飛魚はそのまま東側へ迂回して、イースタン島南側で西へ転進して下さい』

 

「そこまで行くならイースタン島の北へ出て、島影を利用してサンド島(ミッドウェー島)へ抜ける方がいいんじゃないの?」

 

『駄目です、イースタン島、サンド島双方北側は環礁が浅過ぎて飛魚(揚陸艦)では座礁する危険があります』

 

「……おいメロン子」

 

『はい、何でしょうか提督』

 

「これってさ、素直にホバークラフト型揚陸船(LCAC)にしてたら安全に迂回できたんじゃないのって提督思うんだけど?」

 

『……いえ、それだと速度が足りません』

 

「だから隠密行動が取れればそんなにスピード出さなくてもいいんじゃない?」

 

『……あっ! 敵の包囲が武蔵さん達に引っ張られて移動し始めましたよっ! 行くなら今がチャンスですっ!』

 

 

 夕張のちょっとわざとらしい言葉に苦笑しつつも、古鷹が船のモーターに火を入れる。

 

 燃焼ガスが空気を焦がす匂いと共に甲高い機械音が船室へ轟くと、船の急加速が重力を無視した慣性を伴って前方から後方へ抜けていき、尚も突っ込みを入れようとしていた髭眼帯を乱暴にシートへ押し付ける。

 

 

「ンガックックッ!? ふ……古鷹君、も……もっとソフトに……てか提督まだGOサイン出してないんだけど」

 

「お二人の漫才が終わるのを待ってたらいつまで経っても抜錨ができませんっ! 何事も機を見て敏ですっ!」

 

「って言うか結局時雨君膝の上に乗ってるしぃ! 痛い痛い提督の秘密の花園が蹂躙されちゃうぅ!」

 

「本来の使い方してないんだからさ、多少損傷しちゃってもいいんじゃないかって僕は思うんだけど~」

 

「何なのこの抜けたやり取り! 緊張の欠片も無いって言うか朝潮! 起きなさいよっ! 作戦開始よっ!」

 

「……ふにゅ、くちくかん朝潮……出撃しましゅ……」

 

 

 とことん空気を読まない面々を乗せた小型揚陸艇が北を目指し、50ノットという狂った速度で海を切り裂いていく。

 

 そしてそんなカオスな会話は古鷹エルの凡ミスで艦隊全体通信として広範囲に流れてしまい、鉄火場でドンパチを繰り広げ真面目になってる者々の表情を、別な意味での真面目な物へと変えていった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「くっそ調子狂うなホント、やっとこれからが本番って入れた気合が抜けちまうよっ!」

 

「大坂鎮守府っていつもこうなの? 信じらんない」

 

「ちげーよっ! 提督だけがおかしいんだよっ!」

 

「ほらほら摩耶さんに瑞鶴、じゃれるのも大概に、もう敵は目の前よ」

 

 

 有象無象の壁を抜け深海棲艦本陣の姿を捉えた第一艦隊は、現在状況を確認すると共に、戦いを繰り広げている場のどこに誰を充てるかという判断をしつつ突貫の機会を伺っていた。

 

 そこは1対6という戦力差とは思えない程に砲火が瞬き、一方的に片側の攻撃が繰り返されるという場は水柱の乱立する地獄になっていた。

 

 

「……この調子だと先ず深海棲艦に当てていった方がいいみたいだな」

 

「ですね、取り敢えず後ろに展開している僚艦には航空母艦は含まれて無いみたいですし、私と瑞鶴の艦載機で陣を乱す事は容易いと思います」

 

「んじゃ榛名と霧島に離島棲鬼と駆逐棲姫を任せて、その間はアタシと神通、後はポイヌ(夕立)で僚艦を引きつけてりゃいいか」

 

「では取り敢えず展開している直掩の内半分は後ろへ回しますから、それが整ったら前に出ましょう」

 

「うっし、んじゃいっちょ暴れっかぁっ! 全艦攻撃準備、航空攻撃の開始と共に砲撃戦に移行、鶴姉妹を残して全艦突撃に移れ!」

 

 

 鶴姉妹が展開させていた烈風の幾らかはそのまま後方へ陣を張り直し、続いて進軍してくるであろう第二艦隊の直掩へ回した。

 

 次いでまだ発艦させずに温存していた流星と彗星が上空に隊を形作りつつも展開を終え、深海棲艦の支援攻撃に当たっている戦艦達の直上と後方から猛攻を掛けた。

 

 

「第二次攻撃隊。稼働機、全機発艦!」

 

「全航空隊、発艦始め!」

 

 

 装甲空母化した為それ以前よりも搭載機数が減ったものの前へ出る頑強さを身に付けた姉妹は、展開させた艦載機達の一斉攻撃を主にタ級(戦艦)二体へ集中させ、艦攻・艦爆が織り成す連携攻撃で強襲を掛ける。

 

 次いで神通の長距離雷撃が広い散布界によって相手を釘付けにし、それを追う様に全艦が前に出る。

 

 背後からの全力攻撃、それも榛名・霧島を擁した突破力でなら、蹂躙は出来なくともそのまま二人を前へ送り、残る艦は優位な状態でその他の僚艦を足止め出来るに違いないとこの時誰もが思っていた。

 

 しかしこの偏った策は正面からのぶつかり合いには滅法強くとも、守勢という面を捨てた形にあった為危険を伴う組み合わせとも言えた。

 

 

「……!? ちょっと翔鶴姉、右舷に新手! ってまさか……あれって!」

 

「……やらせは……しないよっ」

 

 

 鶴姉妹の右後方、然程の距離も無い位置に水柱が上がり、その只中から鈍い紅を引きつつ歪な丸型の飛行物体が飛び出してくる。

 

 水面すれすれに飛ぶそれらが瞬く間に周囲へ広がり、その後ろからは海を割って白頭の異形が水面(みなも)に浮上する。

 

 

 漆黒の半鎧、空母型の証である飛行甲板を左右に据えた艤装、そして人語を解し周囲の有象無象を統括する上位個体。

 

 空母水鬼と呼ばれるその個体は(空母棲鬼)に近い存在であったが、より装甲が厚く、また攻撃面も上回る存在であった。

 

 

 武蔵達第二艦隊が目標とするその鬼は千歳が予想した最悪の位置に出現しており、また第二艦隊は未だ第一艦隊との合流の途中であった為、鶴姉妹にとってそれは最悪の形での邂逅となった。

 

 不意打ちの形となった艦攻の航空魚雷は白い航跡と共に回避不可の波となって二人に襲い掛かる。

 

 基本的に防御即ち攻撃の回避という正規空母二人にはそれは致命的な一撃となってしまう。

 

 

 酸素魚雷よりは小規模で、それでも半身を覆う程の水柱が幾つか立ち上り、数度の爆発音が合図となってそこは一瞬で新たな戦場となった。

 

 

「翔鶴姉っ!?」

 

 

 振り向いた瞬間には既にそれらを回避する事は難しいと悟ったのだろう、翔鶴は瑞鶴を殴る様に横へ弾き飛ばし、次いで飛行甲板で薙ぐ様に水面を叩く。

 

 それが魚雷の一つに接触し爆発、殆ど同じ位置に来た数本の魚雷も巻き込んで誘爆し、翔鶴の体を斜め上方へ吹き飛ばす。

 

 赤い飛沫に砕けた飛行甲板。

 

 瑞鶴の見る前で翔鶴が無残な形で水面を転がり、数メートル先で停止した時は、在り得ない、あってはいけない形でその姿を水面に晒していた。

 

 爆発時の水飛沫(・・・)を浴びた為だろう、薄桃色に染まった海水を全身に浴びた瑞鶴はそれでも即座に行動し、直掩の烈風を敵機が飛ぶ空へ割り込ませながらも翔鶴の元へと駆けていく。

 

 

「直掩機の母艦を庇う為に盾になったか……中々どうしていい判断するじゃない」

 

 

 現在その場に舞う烈風は瑞鶴麾下の直掩機であり、翔鶴麾下の烈風は後方へ飛ばしていた。

 

 空母が使う艦載機はある程度自立して行動はするが、都度細かい指示を母艦が出さなければ能力を発揮する事は叶わず、翔鶴は空母水鬼の奇襲に対しとっさにというのが半分、後の半分は事後の事を見据えて捨て身の行動に及んだ。

 

 戦場で長らく共にした妹であり相棒の瑞鶴にもその意図は理解する物であり、半ば無意識に取った行動は追撃を掛ける空母水鬼の対応を一瞬遅らせる事となった。

 

 

 全速で翔鶴の傍を駆け、脇から手を引っ掛ける様に掬い上げてその場から退避する。

 

 そうして彼女が見た物は、装甲が殆ど砕け散り、左側の手足を両方失った姉の姿だった。

 

 

「息……まだある、この場を凌いですぐ母艦へ戻れれば……くっ!?」

 

 

 ほんの僅か、姉の状態を確認する為直掩機から目を離した隙に、直上から背筋が凍る悪魔の笛の音が聞こえてくる。

 

 それを見なくとも瑞鶴は理解した、敵艦爆が頭上で爆弾を切り離したのだという事を。

 

 独特の空気を裂くその音は、切り離し直後ではなくある程度の重力加速を伴わないと発生しないと知っていた彼女は、抱えた姉を抱き込む形でその場に屈み、次いで来るであろう衝撃にきつく目を閉じた。

 

 

 左右に三発程の至近弾、そして二発の直撃弾。

 

 装甲化を果した事で以前よりも頑強さを増した彼女だが、この爆撃では流石に中破へと追い込まれ、また受けた衝撃でその場に釘付けとなる。

 

 尚も聞こえる間延びした甲高い音、初撃で殆ど外れなかったそれらは後続となれば更に精度を増して二人に降り注ぐのは間違いないだろう。

 

 それでもやられっ放しで死ぬのは癪だと、少しでも敵機を落す為に翔鶴を抱えながらも瑞鶴は空を睨み上げた。

 

 

 正対している為粒の様に見える幾つかの爆弾、その向こうには離脱していく敵艦載機。

 

 

 回避に専念すれば命を繋げられるかも知れない、しかしそれを成すには抱える姉を手放し、飛びずさるしかない。

 

 落ちてくる凶弾を見つつも彼女は思った、アレを逃がしてしまうと次は誰かが爆撃に晒されてしまう。

 

 そしてまだ殆ど自分は仕事をしていない、姉が体を張ってまで自分を庇ったのは、ここに舞う烈風の主が己だからじゃないかと歯を食いしばる。

 

 

「翔鶴姉ぇ……やるよ、全機追撃……始め!」

 

 

 敵機への攻撃を選択した時点で守りは全て捨てた事になる、それは現状で言えば己達の死が確定するのと同義であった。

 

 その判断で本当に良かったのか? 己の身一つならそんな迷いは生まれなかった、しかし今両手には微かにであっても息がある姉を抱えている。

 

 一瞬の内に下した選択、航空母艦の本能に従った行動は最後の最後に迷いを心に滲ませる事になった。

 

 

 が、そんな彼女の手を握る感触があった。

 

 

 瑞鶴の視線は今だ爆弾を睨んでいたが、それでも今己の手を握るのは他の誰でも無い、自分の半身とも言える姉からの物というのは嫌でも理解出来た。

 

 その感触に、己の行動に肯定するかの様な温かさに、瑞鶴は視線を空に向けたまま最後はせめてと虚勢を張って、無理矢理口元に笑みを貼り付けて──────

 

 

「やらせません!」

 

 

 落下の慣性を伴い落ちてくるそれら(爆弾)は結局瑞鶴達には直撃せず、横から薙ぐ様な形で何かに叩かれ、膨大な熱と爆音を残して空中に爆ぜた。

 

 

 独立稼動する二機の自立砲台を従えて、落下中の爆弾諸共後に続いていた艦爆の降下コースを精密射で潰していく。

 

 『第六十一驅逐隊』の文字が刻まれたペンネントを靡かせて、姉妹の中でも最強と言われた防空駆逐艦が敵機舞う只中に踊り込んだ。

 

 

「あ……秋月!」

 

「申し訳ありません、遅れました! これから対空防御に入りますので瑞鶴さんは下がって直掩機の指示に専念を!」

 

 

 その言葉を聞き瑞鶴はよろよろと立ち上がって周りを見る。

 

 空は相変わらず混沌とした巴戦があったが、それの間断を縫う形で敵機が爆ぜ、火の尾を引いて海へ堕ちていく。

 

 恐らく武蔵達と足並みを揃えていては間に合わないと判断したのだろう、足の速い秋月は単艦で突出、ギリギリのタイミングで鶴姉妹の下へ辿り着いていた。

 

 

「長10cm砲ちゃん旋回射撃! ここを中心に安全域を広げてっ!」

 

 

 秋月を中心に自立砲台(長10cm砲ちゃん)が弧を描く様に航行し、自身もその場で旋回し機銃掃射をする空にはまるで台風の目の如き空間が徐々に広がっていく。

 

 

「ちっ……面倒なのが割り込んで来たわね、いいわ上等よ、いつまでもそんな曲芸が通用するなんて思わない事ね」

 

 

 対空砲火に専念する秋月に対し空母水鬼は更に艦載機を集中させる指示を飛ばし、同時に支配下に置く下位個体をその場へ差し向ける命令を下す。

 

 防空に秀でているとはいえ、秋月一人では鬼級の航空戦力に対抗する時間はたかが知れているのは火を見るより明らかだろう。

 

 それでも空母水鬼は手を抜く事はせず確実に仕留める布陣を敷きに掛かる、が、命令を下した有象無象からははっきりとした反応は返ってこず、どちらかと言えば混乱と狂乱がない混ぜになった思念が次々と頭に響いてきた。

 

 

 この混沌とした航空戦が広がる海、そこからほんの僅かに離れた場所。

 

 自分が従えてきた深海棲艦が来る筈の方角からは、砲撃による轟音と弾着によるものと思われる衝撃が徐々にだが近付いて来る。

 

 

「例え鬼が吠えようとも、空を覆う程に艦載鬼が舞っていようとも……」

 

 

 その轟音を作り出す者、その者は決して早いとは言えない航行速度であったが、前をいく有象無象を蹴散らす背の艤装には、海軍最大最強の砲が乗っていた。

 

 

「我が往く道を塞ぐと言うなら是非も無し」

 

 

 砲火吐き出す試製51cm連装砲、その砲身には『狷介不屈(けんかいふくつ)』の文字が彫られていた。

 

 

「深海から沸いて出た亡霊如きが、何もかも好きに出来ると思うなよ」

 

 

 折れず、曲がらず、(こころざし)(たが)えず、そんな意味の言葉を砲に刻んだ戦船(いくさぶね)は、今だ有象無象に囲まれつつも、それらを切り崩しつつ前へと進む。

 

 

「この武蔵の主砲、伊達ではないぜ!」

 

 

 嘗て日本の敗戦を決定付けた因縁の海域、そんな呪われた海では今思念と怨念渦巻き、歴史には確実に残らない事を運命付けられた戦いが繰り広げられていくのであった。




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 ただ言い回しや文面は意図している部分がありますので、日本語的におかしい事になっていない限りはそのままでいく形になる事があります、その辺りはご了承下さいませ。

 また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。


それではどうか宜しくお願い致します。


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