大本営第二特務課の日常   作:zero-45
<< 前の話 次の話 >>

219 / 310
 前回までのあらすじ

 作戦からの帰還途中、泊地棲姫との会談を経て大坂鎮守府へ帰る事になった面々、今までとはほんの少し違った縁を持った提督をペシペシ叩く音と共に、ムッちゃんが精神的汚染の被害を負いながらも凱旋を果たすのであった。


 それでは何かご意見ご質問があればお気軽にどうぞ。


2018/05/25
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きましたリア10爆発46様、orione様、K2様、有難う御座います、大変助かりました。


帰還と宴会

「いやしかし今回の作戦は大変だったようだな、何にしてもお疲れ様だ」

 

 

 大坂鎮守府艦娘寮大広間。

 

 ミッドウェーから帰還した一行は一旦鎮守府にて一日休息を取り、翌日夕方より同広間にて祝勝と慰安を兼ねた宴会を開いていた。

 

 参加者は作戦へ参加した艦全員と、現在哨戒へ出ている者+αを除いた大坂鎮守府全員という大人数。

 

 総勢三桁近くの者達が一同に集う宴会は、提督の言葉を聞いていた間は言葉も無く、やや張り詰めた空気が漂っていたが、その言葉の〆にあった『今夜は無礼講』の一言を聞いた後からは弾けたかの如くのはしゃぎ様で、結果としていつもの(・・・・)やりたい放題が繰り広げられる事になった。

 

 場に並ぶ料理は鳳翔、間宮達が作った物だけでは無く、料理が得意と自負する者達も自主的に作った諸々が加えられ、それらは和洋折衷な彩を見せ、またやや寒くはあったが広間のガラス戸は開け放たれ、野外ではバーベキューや屋台然としたあれこれが建ち並ぶという様相になり、其々は好き勝手に飲めや歌えやのドンチャン騒ぎをする始末。

 

 そんな宴会の上座には、既に出来上がってしまった輪島を中心に吞ん兵衛達が集まり、また少し離れた位置には髭眼帯を取り囲む様な形で飲みの場が形成されていた。

 

 

「いやいや長門君も留守の間ご苦労様、一応報告は受けてるけど大変だったでしょ?」

 

「うむ、まさか提督が居ないのにいきなり大本営からの監査が入るとは思わなかったな」

 

「まぁ司令がいなくて決済関係はちょっと苦労したけど、大淀さんが居たから結局監査の方は問題はなかったね」

 

「寧ろ相手はこの機会に色々粗を探したかったみたいでしたけど、逆にやり込められちゃった感じで、グヌヌヌって顔してましたね」

 

 

 苦笑する長門の脇では、執務の殆どを取り仕切っていた親潮と響がややドヤ顔で事の次第を述べながら、今回の留守番に於ける最大の功労者である大淀が何故か三枚重ねになった座布団の上に牢名主よろしくチョンと正座しつつ、済ました顔でカシスミルクをクピクピ飲んでいた。

 

 今回の作戦で吉野達が鎮守府から出撃して二日後、丁度無線封鎖が実施された辺りのタイミングでの抜き打ち監査と言う事で、関係する部署の少将を筆頭とした一団が大坂鎮守府を訪れた。

 

 その者達は少し前に人員刷新の為に大本営所属となった北方方面所属の者達が中心とした一団であり、筋で言えば鷹派、慎重派どちらとも言えない、ある意味吉野達と同じく最近力を付け台頭してきた者達が組んだ『小さな派閥』と呼べる者達であった。

 

 

「確か小野田少将だっけか? その監査仕切っていたの、ちょっと聞いた事の無い人なんだけど、艦隊本部筋なのは確かなんでしょ?」

 

「うむ、何でも日本海守護の任に長年従事していたらしいが、河合中将が例の粛清で罷免された後その辺りを掌握したらしいな、何でも人員刷新の混乱に乗じて今は鷹派に付くのは得策では無いと周囲の者達を説き伏せ、最近新たな派閥を作ったという事だったか」

 

「ふむ……熊さんの後釜かぁ、でもその割には何で少将さんな訳? あの辺りを掌握するポジに座ったんなら、普通中将さんじゃないの?」

 

「いや、その任には河合殿の副官をしていた総武(そうぶ)中将が就いたのだが、どうも……な」

 

「あー、なる程、その人って縄張りを継いだのはいいけど、結局御輿に担がれただけのポジで、実質は……って事?」

 

「うむ、まぁそういう事になるな」

 

 

 少し前に艦隊本部が起こしたスキャンダルによって、鷹派と呼ばれていた一団の上層部は軒並み罷免、若しくは処分という形で軍部では要職の大幅な刷新が行われた。

 

 それは嘗ての二大派閥と言われた形を崩し、慎重派と呼ばれる派閥が台頭するかと思われる程の大改革であったという。

 

 しかしその形になった際、抑止力が無くなった慎重派内部で利権の奪い合いや権力闘争が発生する事を危惧した大隅は、敢えて空いたポストには鷹派の者を据える形でバランスを取り、現在も鷹派は消滅せずに一応の形を保ったままになっていた。

 

 ただ軍部の要職に就く者達を選別し、意図的に慎重派がほんの少し力が強い様に組織編制した結果、一部方面の責任者には能力的には問題が無くても人身掌握に欠ける者が就く事になってしまい、結果的に一部エリアではまとまりが無い形で軍務が進められるという状態になってしまっていた。

 

 特に今まで重要視されず、軍部でも『冷や飯食い』と揶揄されていた内地の北方、それも日本海エリアを中心として守護していた者達に大きな動きが見られる様になった。

 

 

 嘗て捷号作戦の第二段階実施の是非を問う将官会議で吉野とやり合った河合幹夫(かわい みきお)中将、北の大熊と言われた鷹派の中将が罷免された後、残されたエリアは当時河合の補佐役を担っていた総武信二(しょうぶ しんじ)が中将の任へ就き、周辺の取り纏め役に納まった筈であった。

 

 

野田昭雄(のだ あきお)、確か艦政本部の第六部で局長をやってたヤツだな」

 

「第六部って事は……航海部でしたっけ? 輪島さんのお知り合いです?」

 

「いや、俺が居た砲熕部と航海部はちょっと訳ありで仲が悪かったンでよ、ヤツらとはどっちかってーと犬猿の仲って感じかねぇ」

 

「仲が悪いと言うか、提督が造船部と水雷部を抱き込んで好き放題してたから、あちらから睨まれてただけなんですけどね」

 

「おい千歳、それじゃまるで俺が悪いみたいな言い方じゃねーか」

 

「母艦建造の割り込みに未承認の装備開発指示、果ては艦娘の割り当て無視とか色々航海部とは揉めてた記憶がありますが?」

 

 

 酔って呂律が回っていない輪島へ辛辣な言葉を投げる千歳という絵面(えづら)

 

 狂犬とおっぱい軽空母二人が浴びる程飲んだ状態で、アルコールの匂いをプンプンさせた状態で睨み合うのを見て苦笑しつつも、髭眼帯は頭をボリボリ搔いて溜息を吐いた。

 

 

「要するにその野田さんがウチに何か用があって来た、と、んで監査って言う事で来たって事はその人当然艦隊本部の要職に就いてるって事だよねぇ」

 

「艦政部執行部の部長らしいです」

 

「うわぁ、そっち系の親玉じゃない、その部長さんが直々に監査? 何調べてたの?」

 

「一通り満遍なくですが……特に特務課関係の資料に狙いを付けていたのでは無いかと思います」

 

「私も大淀さんと同じ意見ですね、議事録や活動記録提出の指示があったのは特務課関係のみですし」

 

「え? 収支方面とか物資関係じゃなくて?」

 

「はい、妙高さんが機密保持に抵触する物は提督の閲覧許可が必要ですと突っぱねましたが、途中で総武中将からの打診もありまして」

 

「えぇ~ 提督それ初耳なんですが」

 

「情報関係は監査対象では無い筈なので、後日提督がそちらに直接伺いますと大淀さんが言うとそこまでしなくて良いという返答がありましたけど」

 

「それを横で聞いてた野田少将は舌打ちしてましたけどね……」

 

「う~わぁ、ナニソレうっさんくさぁ~」

 

 

 ほろ酔い状態で饒舌になっているのか、殊の外テンションが高い大淀、妙高事務員コンビの言葉に苦笑しつつも、髭眼帯は予想外の方面から掛かってきた監査という出来事に厄介事の予感を感じたが、和気藹々としている周りの雰囲気を胡散臭い話題で壊すのも無粋だと一旦思考を切り替え、今日だけはと頭の中を空っぽにして久々の宴会を楽しむ姿勢に入るのであった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「……えっとその、この状況は一体何なのかの理由を聞いても?」

 

 

 吉野曰く、とても胡散臭いという話が落ち着いた辺りで何故か周囲の状況は一変。

 

 現在髭眼帯の目の前には静海(重巡棲姫)が三つ指着いてチョンとしており、その隣には何故か真似をした冬華(レ級)がチョンと三つ指着いた状態で並んでいた。

 

 そして髭眼帯の脇には朔夜(防空棲姫)が何故かニヤリという表情でハイボールをクピクピやっており、更には空が背後で殺気を垂れ流すという深海勢が織り成す輪形陣が出来上がっていた。

 

 そんな陣の中でプルプルしながら周りを見渡せば、遠巻きにくちくかんズが興味津々で絶賛見学中であり、更にはそのいたいけな少女達にヒソヒソと何かを耳打ちしているアオバワレというカオス。

 

 もう既にこの時点で吉野の嫌な予感メーターはレッドゾーンへ突入していた。

 

 

「泊地棲姫よりお話は伺っています」

 

「……何が?」

 

「テイトクが友として認められたと」

 

「えぇまぁ……はい」

 

「そして我が主が友と認めた方なら、私にとっては貴方もまた仕えるべきお方となったという事です」

 

「すいません、提督ちょっと静海(重巡棲姫)君が言っている事の意味が判らないのですが……」

 

 

 嫌な予感にプルプルする髭眼帯の前では、相変わらず三つ指を着いた姿勢で淡々とワケワカメ理論を繰り広げる静海(重巡棲姫)の姿、今まで極めてビジネスライクな態度だった姿から一転、そんな変わり身を果たした彼女に不安ゆんゆん状態であったが、その隣で同じ状態にある冬華(レ級)の姿にも一抹処では無い不安を感じずにはいられない状態。

 

 これは触らぬ神に祟り無しなのではと思いつつも、何故かキラキラとしながら期待に満ちたオメメと目を合わせてしまっては無視出来ないと、仕方なく言葉を掛ける覚悟を髭眼帯は決めたのであった。

 

 

「……何で冬華(レ級)君までここにいんの? 縄張りほったらかしにしてちゃマズいんじゃない?」

 

「出戻りしちゃった」

 

「……ん……んんん? なんて?」

 

「おうちに帰りたいって言ったら泊地棲姫が縄張りの面倒は任せろって言うから、戻ってきたんだけど」

 

「いやナニソレ提督初耳なんですけど!? てか海湊(泊地棲姫)さんと話してた時冬華(レ級)君見掛けないなぁとか思ってたら、もしかして……」

 

「ん、何かも~居てもたってもいられなくなって、泳いで先に帰ってきちゃった」

 

 

 怪訝な表情のまま静海(重巡棲姫)の方を見ると髭眼帯が何を聞きたいのか察したのか、真面目な相でコクリと頷いたので溜息混じりに改めて冬華(レ級)に視線を戻すと、ほんの少し目を離しただけなのにキラが二重になっているという不思議現象がそこに発生していた。

 

 

「だってさ~ 今ここってハルナだけじゃなくてムサシも居るって言うじゃない?」

 

「あぁうん、ソウデスネ」

 

「ていう事はさ、ほら、毎日勝負し放d」

 

「待ちなさい、それ以上は提督許しませんよ?」

 

「えぇ~ なんでさ~ ハルナもムサシもいつでもどこでも勝負は受けるから、隙があったら掛かって来いって言ってんだよ~」

 

「いつでもどこでもってドウイウコト!? 鎮守府内でそんな最終決戦なんかしちゃったら色々巻き込んで死屍累々で阿鼻叫喚になっちゃうから禁止ぃっ!」

 

 

 51cm連装砲装備の大和型二番艦と、それに匹敵する金剛型三番艦がレ級と接触する度、そこは戦場と化す。

 

 髭眼帯は思った、彼女達が廊下ですれ違ったり食堂で顔を合わせる、普通ならそこにはにこやかに交わす挨拶や、ちょっとした談笑が生まれる筈である。

 

 しかしこの三者がエンカウントすると、そんな挨拶の代わりに最終決戦が発生してしまうという危険を抱えた鎮守府は、ヘタな最前線より修羅場なのでは無かろうかと。

 

 

「て言うか、ねぇテイトク」

 

「あ……あぁうん、何でしょうか朔夜(防空棲姫)君」

 

「ちょっと何でそんなに警戒してるのかしら? まぁいいけど……ちょっと相談があるの」

 

「え、相談? 何でしょう?」

 

「いや今回ほら、めでたく静海(重巡棲姫)も嫁入りした事だし」

 

「……ヘィストップ!」

 

「え、何?」

 

「今何と?」

 

 

 プルプルを停止し、髭眼帯は凄く真面目な表情で朔夜(防空棲姫)を見る。

 

 対して朔夜(防空棲姫)は首を傾げつつも、ピコッとある方向を指差す。

 

 その指から髭眼帯が視線を巡らせると、相変わらずチョンと三つ指姿勢のままの静海(重巡棲姫)が見える。

 

 

 何故かその姿勢のまま左手の甲を前に突き出した姿勢で。

 

 

 そしてその薬指にはキラリと光る何かが輝いてるのを見てプイッと視線を朔夜(防空棲姫)に戻すと、何故か彼女は『おめでとう』と一言述べると、満面の笑みを浮かべた。

 

 

「……why?」

 

「ん? あーテイトクの麾下に下るならほら、嫁になるのは前提じゃない?」

 

「末永く、よしなに」

 

「ナニその訳ワカンナイ前提!? 静海(重巡棲姫)君もほらそんな条件無いから!? 騙されてるよ君ぃ!」

 

「私では何かテイトク的に足りない部分があると?」

 

「ちぃがぁうのぉ! そういう事じゃなくてぇ!」

 

「泊地棲姫からも誠心誠意尽せという事を仰せつかっていますので」

 

「ファーーーーー!? ナニ言ってんのあの人ーーーー!?」

 

「それでねぇテイトク、今ほら私達夕張の基地に住んでるじゃない?」

 

「……え? そうなの?」

 

「そうなのっ、でもそれじゃほら、ね? 伽とかその辺りが不便と言うか、私的には通い妻というシチュも割りと捨て難いとは思うんだけど、流石にあそこからだとちょーっと遠いと言うか、それだけだとワンパターンになっちゃう気がすると言うか、ぶっちゃけこの際寮に居を構えてテイトクにも来て貰うという逆のパターンもどうかと思うのよ、ほら、何て言うの? そういう感じで色々なシチュを試す事によって倦怠期という、男女関係に於いてある意味不可避の危険性を先に排除した関係を模索しつつ、より良いライフを送れる環境を作ってみてはどうかと思うんだけどどうかしら?」

 

 

 耳年増防空棲姫が言う念仏の様な生活設計を怪訝な表情で聞く髭眼帯。

 

 周りの深海勢も何故かその一言一言にカクカクと頷くというワケワカメな深海ゾーンがそこに形成されるというカオス。

 

 

「と、いう事は、寮の更なる増築が必要になりますね」

 

「……ちょっとメロン子、どこから生えてきたの?」

 

「やですねぇ提督、鎮守府の住環境整備も工廠課のお仕事ですよ?」

 

「え、ナニソレもう決定事項なの? ナンデ?」

 

「む、寮の増築をするのか、なら今提督の私室に通じてる五番秘密通路にちょっと使い辛い箇所があるのだが、それの改装もしてみてはどうか?」

 

「秘密通路ってナニ!? 提督の部屋のドコにそんなのあるのビッグセブン!?」

 

「あーあー例のアレですね、それじゃエレベーターの増設でもしておきましょうか?」

 

「使い勝手としてはエスカレーターの方が色々捗ると思うのですが、ねぇ伊良湖さん」

 

「そうですね間宮さん」

 

「秘密通路充実し過ぎデショ!? てか伊良湖さんまでどうしてこんな輪に参加してるの!?」

 

「いえ、ついでに」

 

 

 こうして割と深海勢の中でも第三者的な意見を求められそうと密かに頼りにしていた一角が崩れ去り、更には自分が知らない大掛かりな秘密通路の存在を知った髭眼帯は場の中心に居つつもスルーされる事になり、結局深海勢も後日寮に引越しする事によって混沌は更に深まっていくのであった。

 

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 ただ言い回しや文面は意図している部分がありますので、日本語的におかしい事になっていない限りはそのままでいく形になる事があります、その辺りはご了承下さいませ。

 また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。


それではどうか宜しくお願い致します。


※この小説はログインせずに感想を書き込むことが可能です。ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に
感想を投稿する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。