大本営第二特務課の日常   作:zero-45

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 前回のあらすじ

 大本営執務棟を放逐され、V3な秘密基地にお引越しする事になった第二特務課。
 大図解! これが第二特務課秘密基地だ! (仮)


 それでは何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。

2021/09/12
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きました鷺ノ宮様、有難う御座います、大変助かりました。


秘密基地と枯山水

「さぁ! ここが第二特務課秘密基地内部ですよ!」

 

 

 夕張がキラキラエフェクトをバックに両手を広げ、玄関ホールに吉野を招き入れる。

 

 第二特務課秘密基地。

 

 外見は一見して町工場にありがちなスチール複合板の箱形建造物であるが、一歩中に踏み込むと、そこに広がる光景は、天然木材をふんだんに使用した豪奢な造りになっていた。

 

 床は渋みを帯びた色のフローリングが敷き詰められ、壁は壁紙ではなく漆喰、ドアや階段は木製で、細かな意匠が施された仕上がりになっている。

 

 ホールの広さは凡そ30坪程あり、ドアを潜ると直線に赤絨毯が敷かれ、その先にやや大きめのドア、左右にもドアがあり、右手には廊下と上へ続く階段が見える。

 

 ホールの天井は吹き抜けになっており、吊るされたシャンデリアの間から、ステンドグラスより漏れる柔らかい光が差し込んでいた。

 

 

「え~ っと夕張くん?」

 

「何でしょう提督?」

 

「何と言うかその、やり過ぎじゃないかと思うんだけど……」

 

「あ…… ですよねぇ、実はこれには訳がありまして……」

 

 

 夕張の話によると、この施設の大改装をした際、元々ここに居た妖精さん達が張り切って作業してた様なのだが、特にこれといった制限も無く、しかも潤沢な資源をジャブジャブつぎ込んで好き勝手にやっていたら、いつの間にか他の施設の妖精さんもワクテカして作業に参戦してたらしく、気付けば妖精さん同士の腕自慢大会の様な事になってしまい……

 

 

「結果としましては、大本営中の腕自慢(妖精)が、全ての技術を注ぎ込んだ建物になってしまっていたという訳です……」

 

「だ…… 大本営中の?」 

 

「です」

 

 

 大本営とは軍の中枢であり、歴史的にも古く、規模も最大である、そしてそこに居る妖精の数は正確に把握されている訳ではないが、少なくとも他鎮守府の数倍は居るのは確かであり、技術水準という面でも地方に展開する拠点より一歩抜きんでている。

 

 そんな妖精達が集団で、寄ってたかって、しかも好き放題に技術の粋を集めてしまった結果生まれたのが、第二特務課秘密基地であるらしい。

 

 

「……あ~ まぁ、うん、その、案内の続きをお願い出来るかな?」

 

「そうですね、それでは今見えてる範囲から……」

 

 

 夕張も流石にこれはやり過ぎたと思っているのか、 わざとらしい愛想笑いを浮かべながら、建物内部の説明を始める。

 

 

「右手のドアの向こうは会議室兼ブリーフィングルーム、内部は凡そ20名程は収容可能になってまして、外に出なくても直接出撃ドックへ出れる配置になってます。

 

「会議室て…… 事務室で事足りるんじゃないの?」

 

「まぁ土地が余ってますし、あって困るようなものじゃ無いですし、妖精さんがいつの間にか造ってましたし」

 

「ああ…… うん、妖精さんね…… うん」 

 

「そして左は応接室、正面は執務室、右の廊下を抜けると出撃ドックや入渠施設、各個人の部屋や生活空間は全て二階へ集約してまして、提督の自室もそちらになります」

 

 

 ロビーから見える物全てを口頭で説明しつつ、夕張が吉野を連れてきたのは二階へ続く階段前、これから二階の案内でもするのだろうかと思っていたが、何故か階段前で夕張は足を止めた。

 

 

「この階段なんですが、有事の際に使用する機能が組み込まれているので、一番上と下の手すりには衝撃を与えないで下さいね」

 

「うん? 有事の際?」

 

 

 いぶかしむ吉野の前で、夕張は階段の手すりを軽く殴る。

 

 パタパタと音を立て、踏み板が全て倒れると、階段が一瞬にして滑り台に変化する。

 

 

「ド○フなの!? ここの設備全部コントの大道具なの!?」

 

「有事の際は、ここで侵入者を足止めし撃退をする他、緊急出撃の際は二階から滑り降りるという画期的な造りになってます、これが秘密基地26の秘密二つ目、ヘルシューター!」

 

「ちょまっ!? ヘルシューターて撃退はいいけど緊急出撃するのに地獄に滑っちゃダメじゃん!」

 

「……ではヘヴンズシューター?」

 

 

 滑った先が天国だろうと地獄だろうと、使用者にとっては大差の無い悲劇だという事を夕張にどう説明したものかと吉野は悩んだが、当の夕張は説明が済むとさっさとどこぞへ移動を初めてしまい、結局この階段は天国への階段という名前で運用される事になった。

 

 

「では次にお待ちかねの執務室です、どうぞ~」

 

 

 特に待ちかねた訳ではなく、どちらかと言えば不安一杯の面持ちで吉野は執務室の中に足を踏み入れる。

 

 そこは玄関ホールに負けず劣らず豪奢な造りで、木製の調度品が品良く並ぶ広い空間になっていた。

 

 目の前には艦娘達が使うのであろう木製の机が六卓並び、既に私物を持ち込んだのであろう幾らかの書類と事務用品がその上に並んでいる。

 

 左を見ると、壁際に一際大きく、重厚な造りの机が置いてあり、それが恐らく吉野の机であろう事が見て取れる。

 

 

机に近づいてみる、それは遠目から見るより遥かに凝った造りをしており、重厚で、とても左官クラスの者が使う備品では無いように見え、余りに豪華なそれに吉野は少し引き気味になるがある事に気付く。

 

 ……何故か机があるのに椅子がない。

 

 周りを見た感じではそれっぽい物も無い…… いや、少し離れた処に何故か安っぽいパイプ椅子が一脚立て掛けてある。

 

 とりあえずそれを持ってきて机にセット、座ってみる。

 

 

「…………」

 

 

 豪華な机にパイプ椅子、とてもシュールな絵図(えずら)である、これはアレか、新手の苛めなのだろうかと吉野は無言で夕張を見る。

 

 

「あれぇ? 何で椅子無いんだろ? ちゃんとセットしたはずなんだけどなぁ、あ、提督、ちょっとそこどいて貰えます?」

 

 

 夕張はそう言うと吉野をそこからどかせ、机の引き出しから取り出したリモコンの様な物をいじり始めた。

 

 するとガコンという音と共に天井の一部が開き、ゴンゴンゴンという作動音と共にそこから椅子が降下してくる。

 

 それは机とセットであろうと判る豪華な造りをしており、何故かそれには暁型四番艦電が足を組んで座っていた。

 

 

「んんんんん?」

 

 

 吉野と夕張が形容のし難い顔をしつつ、無言で電を乗せた椅子が机の位置まで移動するのを眺めている。

 

 

「三郎ちゃん、おかえりなさいなのです」

 

 

 吉野は詳細な説明を求めるつもりで夕張を見たが、夕張は顔の前で判らない、という意味で手をパタパタと左右に振った、吉野は首を(かし)げながら視線を電へ向ける。

 

 

「何か椅子に座ったら肘掛にスイッチがあったので、マッサージ機能でもあるのかと押してみたのですが、何故か三郎ちゃんの部屋へ運ばれてしまったのです」

 

 

 首を(かし)げたまま、再び吉野は夕張を見ると、ああ、と何も無かったかの様に椅子についての説明を始めた、いや、椅子もそうだが、何故自室から執務室へ椅子で出入りしなければいけないのか、何故そこから降下してきた電がドヤ顔なのか等色々と聞きたかったのだが、どうやらその願いは聞き入れられないらしい。

 

 

「それは秘密基地26の秘密その三、魔の艦長s……」

 

「待てや!」

 

 

 夕張が椅子の名前を言い終わる前に、吉野から突っ込みが入る。

 

 

 魔の艦長席

 

 某宇宙な戦艦の白い髭面艦長が自室と艦橋を行き来する為の個人用エレベーター、艦長専用設備であるため本来最も頑丈でなければならないはずのその艦長席周辺は何故かやたらと脆く、不沈艦のごとき耐久力を誇る例の宇宙の戦艦にありながら、敵と激戦を行うと高確率で崩落、爆発し艦長だけが犠牲となってしまう事が多い。

 

 また、この席に座ると持病が悪化したり、自爆特攻をせねばならなかったりして、座ったものは例外なく最低一度は戦線を離脱するか死亡するというジンクスがあり、同艦第三艦橋と共に"関わるだけで死亡フラグが立つ"と称される恐ろしい設備である。

 

 

「え? 何です?」

 

「どうして君はこう…… ネーミングチョイスが不吉な物ばかりなの? てか何で自分の部屋と執務室が椅子で直通なの? プライベートどこ? ねぇ!」

 

「え? 提督と言えば艦隊指揮官、艦隊を船に例えるなら提督は艦長と同じじゃないですか、ならその提督の椅子とくれば魔の……」

 

「よーっしOK、了解、判った、夕張くん、ちょっと提督お話があります」

 

 

 とりあえず吉野は不吉極まりないネーミングがされた椅子の機能をオミットさせようと夕張と話をしようとしたが、何故か電に袖を掴まれ、壁際にある書類棚の前まで連れてこられる。

 

 

「え? 何デンちゃん?」

 

「い・な・づ・ま、なのです、新しい拠点ではしゃぎたい気持ちも判りますけど、皆が待っているのでそろそろ行かないといけませんよ?」

 

「いやあの、はしゃいでる訳じゃなくて、え? 皆? 待ってる?」

 

 

 電は書類棚の脇を『コン・ココン』と独特のリズムでノックする、するとどうだろうか、天井に届くほどの巨大な書類棚がズズズ…… と音を立ててスライドを始める。

 

 

「ちょっとぉ…… 幾らなんでも詰め込み過ぎでしょ…… てか普通の入り口無いの? なんでわざわざ執務室に隠し扉な訳?」

 

「ちなみにそのギミックはプライベートに関わる物ですから、基地の秘密(・・・・・)に含まれません」

 

 

 吉野的にはそんな的外れでどうでもいい説明を聞かされながら、電に連れられて隠し扉の向こうに引っ張り込まれると、そこにはまったく予想にしかなった光景が広がっていた。

 

 

 執務室よりまだ広い空間、やや広めの上り(かまち)には靴が数組綺麗に並べられており、その向こうは総畳張りの部屋。

 

 その部屋の中央には茶を()てる為の炉が埋め込まれており、第二特務課の面々が車座になって座っているのが見える。

 

 

 カッポーンという鹿威(ししおど)しの音と共に茶を(すす)る音が聞こえ、そちらを見ると吹雪型一番艦吹雪が恍惚の表情で『はぁ…癒されます。感謝ですね~』とソロモンの黒豹のセリフを口にしていた。

 

 

「あぁ…… うん、何と言うか、これ何?」

 

 

 部屋の壁に丸く開けられた窓に見える枯山水(かれさんすい)を力なく見詰め、吉野の思考は()()びの彼方へ旅立っていた。

 

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 どうか宜しくお願い致します。

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