大本営第二特務課の日常   作:zero-45

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 前回までのあらすじ

 超力技でその場を切り抜けるヨシノン、取り敢えずの話はなんとかなってはいたが、そのやり方は色々な面で無理があり、周りに対するしこりを残す事になる。


 それでは何かご意見ご質問があればお気軽にどうぞ。


2017/11/14
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きましたリア10爆発46様、forest様、有難う御座います、皇國臣民様、黒25様、大変助かりました。


行動の裏に潜む本音と、オデンとオカン

 

「それでは、今回に至る一連の話と言うのを聞かせてもらおうかな」

 

 

 大本営地下四階。

 

 件の会議が行われた部屋よりも更に一階層深いエリア。

 

 この大本営地下区画は色んな意味で徹底的に整備され、同時に区画には実用以外に強い意味合いが持たされていた。

 

 

 地下一階から二階は有事に備えたシェルターの役割を果している。

 

 元々強固な作りの地上施設はそれだけで現用兵器へ対する防御機能を備えている。

 

 その上層階を盾として備えた地下区画、一~二階は非常時には一般兵にも開放されるとあり広大かつ通路が至る場所に延びる作りになっており、生活空間や医療区画も内包する。

 

 三階は主に作戦指揮所を中心とした戦闘時の執務区画が並ぶ、故にこの区画は非常時であっても基本軍政に携わる物でしか入る事は許されてはいない。

 

 最下層の五階は非常時の全てを賄う動力、そして海水ろ過装置や、酸素供給機能等、生命維持機構の全てが収められている。

 

 そして地下四階。

 

 ここは要人が生活する場が配され、また最後の最後に篭城を決めた、そんな状態の上層部に属する、または皇室に繋がる者が最後に過ごす、そんな場所として作られた区画である。

 

 内部の者が望まない限り外部からのアプローチが一切不可能な作り、電波すら遮断する深層。上層階とは分離された専用の生活設備が用意されているという独立した空間。

 

 主に大本営に執務室を構える将官の数プラス一つの部屋が並ぶ、別名地下の将官執務棟。

 

 余分に作られた一室は、日本の象徴たる皇尊(すめらみこと)の為に用意された、作られて以降今まで主が一度も足を踏み入れた事が無い聖域とされてきた。

 

 そんな区画の一室、文字通り誰の手も及ばぬ坂田に充てられた部屋で、現在部屋の主である元帥大将坂田一と吉野が差し向かいで話し合いの場を持ち、そして坂田以外に入室を許されている鳳翔が二人の世話を焼いていた。

 

 

 今回の会議に於いて、先ず結果から言うと大坂鎮守府に対し良からぬ動きを見せた者達を吉野が数々の方面に働き掛け、政治的決着が不可能な形で粛正した構図となっていた。

 

 しかしこの一連の騒動と結末はそういう簡単な物には収まらない。

 

 先ずは坂田という男の立場としては、吉野が自分にも秘匿していた深海棲艦との密約があったという事実を知り、更には自身の権限の及ばぬ形で軍部の要職を始末してしまったという事。

 

 この時点で坂田側的には吉野に対し悪感情が持たれる危険性があった。

 

 二つ目に、この結末に於いて軍内の人員整理が整い、漸く軍務に注力しようとしていた大隅が、再び人員配置に頭を悩ませる事になる事。

 

 これは軍部の中核に近い者という事だけでは無く、名実共に鷹派と慎重派の力加減が絶妙になる人事が必要になる為、おいそれとは後任人事が決まらないという問題を併発する為、この部分でも何の相談も無く、ましてや陸軍という外部勢力を以って動いた吉野に大隅が敵視する可能性を孕んでいた。

 

 幾ら強い背後関係を持っていたとしても吉野は軍人である、敵が多いとしてもそれが軍政のトップに近い者となれば、この先の活動に支障が出るのは間違いない。

 

 更には鷹派とは元々折り合いが悪いという事から考慮すれば、今回の吉野の行動は敵しか生まない、ある意味悪手しか存在しない行動であると坂田は思っていた。

 

 

 元々慎重に、そして損得のバランスは必ず考慮すると言うのが吉野三郎という男であった。

 

 例えその行動に無茶はあっても、相手が納得する利を用意して結局は話を纏め上げる。

 

 そんな抜け目の無い男がこんな乱暴な手段を何故、そういう思いが先に立ったからこそ、坂田は敢えて二人きりで腹を割って話をする為吉野を地下の執務室へ誘って話し合いの場を設けたのであった。

 

 

「今回の事について、ですか」

 

「そうだ、就任して間もない将官二人、これらを内部を無視して外部の力を頼り排除する、この結末が齎す意味を君が考えない訳がない」

 

 

 坂田の静かな、それでも芯の通った視線を正面から受け、暫く吉野は無言のまま、手元の湯飲みに視線を落とす。

 

 其々は暫く無言のまま、外界から隔離された世界は音も無く時間だけが過ぎていった。

 

 

「先ず事の始まりは例の鎮守府襲撃事件に遡る事になります」

 

「それは例の、前島で起こったテロの事かね」

 

「はい、先ずあの時点で鎮守府前島の警備状況は事前に調べ上げられ、そして幾重にも策を施した末に、敢えて軍部筋から狂信者を仕立て上げ彼らは大坂鎮守府に凶刃を突き付けてきました」

 

「ふむ、例の背後にあった組織は総武中将に繋がっていたと?」

 

「正確には野田少将ですね、彼の(つて)で民間組織に身を寄せていた()艦政本部執行役員が、計画の差配を行っていました」

 

「その者は確か自害したのではなかったのかね?」

 

「えぇ、家族の安否と今後の生活の保障と引き換えに、全ての関係をその人はあの世へ持っていきました」

 

「そうか、しかしそれを言い切るという事はその証拠が出てきたと」

 

「はい、ただそれを資料として提出するには入手経緯が表に出せない物でしたので、軍事法廷に彼を引き摺り出す事は不可能でした」

 

 

 公に人を裁く為には幾つか超えなければいけない問題が横たわる。

 

 一つはその者が罪を犯すと誰もが納得する動機が必要とされる、例えした事が本人だと証明する証拠があったとしても、それは余程強力な物で無い限り、動機が伴っていなければ『罪』として周りを納得させるのは難しい。

 

 そして二つ目は証拠として提出する数々の情報。

 

 それらの多くは犯罪行為に拠って得た物は基本採用されない、例えそれが決定的なものであっても、正規を外れた手法で収拾された物は証拠としては採用されない、例え出したとしてもそれはせいぜい量刑を決定する際の心象に影響を及ぼすだけの物となる。

 

 故に日本の捜査機関では囮捜査や盗聴等で得た情報は証拠として採用される事は無く、多くの事実は闇に葬られる事となる。

 

 人が人を裁くという歪な行動を正当な物として喧伝し、『疑わしきは罰せず』の理念を持つ日本の司法は殊更立件する事に難しい状態にある。

 

 但し裁判に於いて有罪無罪を争う諸外国に比べ、日本では刑事事件として開廷した裁判の結末にはほぼ無罪は無く、そこは被告の量刑を決める場になるという逆転現象が生まれる状況になっている。

 

 立件が難しいからこそそれが成立した後の言い逃れは難しい、故に裁判に携わる者、検察はおろか裁判官、そして弁護人さえも基本裁判は「被告」を犯罪を犯した者という前提で裁判に臨む。

 

 

 吉野が言うそれ(・・)は、表に出来ない手法で収拾されたという意味となり、例え事実と判っていても公の場で裁くのは不可能な状況にあるという事になる。

 

 

「但しこの襲撃に於いて彼らは元老院の要人も巻き込みました、そして対テロ組織として最前線に立つ、一番敵に回してはいけない組織に対しても地雷を踏み抜いた」

 

「確かに……大坂鎮守府との関係も然りだが、現状かの組織を取り仕切る池田君の根拠地と大坂鎮守府前島は目と鼻の先、色んな意味であの事件は陸のプライドと威厳を傷付けた事になるだろうね」

 

「そうまで危険な事をしておいて、更にその事に躍起になって陸が事に当たっている最中にも関わらず、彼は行動を自粛する事は無く、更なる動きを見せ事を急ごうとしました」

 

「君が不在の鎮守府に自ら監査に入った事かね?」

 

「はい、余りにも迂闊な行動に何か裏があるのではと色々探ってみたのですが、そこからは色々と……無視出来ない事実が浮かび上がってきまして」

 

「無視出来ない事実?」

 

「えぇ、先ず彼が現在就いている艦政本部執行部部長というポストは、元々彼の兄が就く事が予定されていたらしいと言うのはご存知ですか?」

 

「ああそれなら知っているよ、その者は例の粛清に名を連ねていた為罷免されてしまったが、その穴埋めと言うか、バランスを取る為に大隅君が彼をあのポストへ推挙したと私は聞いている」

 

「はい、ただその差配は裏を返せば大隅大将に都合が良いと判断からされた物、そして彼の家は元々軍人を輩出する名家にあり、それに誇りを持つ一族だったと聞いています」

 

「うむ、彼の父も、叔父も今は除隊しているが、嘗ては将官の任に就いていた優秀な軍人だった」

 

「しかしこのお情け人事は、彼をそれ以上上に行かせる道を閉ざしてしまった」

 

「……正直その点についてはそうだと認めるを得んね、酷だとは思うが彼にとっては時勢が悪かった、その人事を断る訳にはいかず、さりとて受けても先は無い、そういうジレンマは家名を背負う者にしか判らない苦悩だろうと理解は出来る」

 

 

 苦い表情の坂田に、奥から表れた鳳翔は茶菓子の皿を黙って差し出し、ニコリと微笑みつつまた奥へと消えていった。

 

 相変わらず絶妙なタイミングで話の空気を変える物だと感心しつつも、吉野は黙って茶で口を湿らせる。

 

 そうして暫く、ドロドロと過ぎた空気は幾分軽い物となり、一旦気持ちをリセットした吉野は再び話を続ける事にした。

 

 

「結局の処、プライドや生きる道に絶望した彼は、その気持ちや諸々を別の方向に向ける事になります」

 

「それが……例の外患誘致に繋がっていくという事か」

 

「はい、内地では余程の事が無ければ復権の目は無い、なれば何もしがらみが無い場所で、新たに自分の生きる道を得ようとしたのでしょう」

 

「ふむ……凡夫には今の地位を捨ててそういう道へ進もうという思いには余り理解が及ばんが、プライドという物がそれを許さなかったんだろうね」

 

「はい、そしてそのプライドを満足させ、後の人生を勝ち組として新たな地で過ごす為には、相手の満足する手土産を用意する必要があります」

 

「それが今回の件にどう関わってくるかというキモになると思うのだが、状況的には軍内に於ける君の立場の失墜、という辺りに話が進んでいく感じかね?」

 

「それも目的の一つに入るでしょう、結局完全に立場を奪うのは難しいですが、自分と軍部との間に不和となる種を撒いておけば、後々付け入る隙も生まれる可能性がある」

 

「確かに、大陸に渡るにしても、北に流れるにしても、かの国達から見た最大の邪魔者、また個人として力が集中している君に何かしらの影響を及ぼせるなら、それは効率的な物として作用するのは間違いないだろうね」

 

 

 羊羹をちびちびと齧り、髭の傷は段々と見えてきた話に眉根を寄せつつも、これまでの話に吉野が噛み付く要素がまだ無い事に気付いていた。

 

 これらの話が前提にあったとしても、結局は坂田、若しくは大隅を無視してまで結論を急ぐ要素は皆無と言えた。

 

 なら吉野がこれ程力技で強引に結末を引き寄せた理由は他にあるのだと、様々な可能性を予想しつつも話しに耳を傾ける。

 

 

「大陸か北、彼と通じていた組織の大本はかなり慎重に動いていたらしく、現状に至るまでまだどちらと確定出来ない状態にあります」

 

「ふむ、まぁ今回の件は仮にも軍部の要職に居た者が絡んでいる、相手としてもそれ相応の見返りを用意すると共に、最大の警戒を敷いていたのは間違いないだろうね」

 

「ただそれが大陸であろうと、北であろうと、望む物は一致しています」

 

「君の事以外に、まだ何かあると?」

 

「はい、日本という国は、自国の事を第一としつつも関係諸国と固く関係を築き、今や海洋大国の名を欲しいままにしています、その原動力となっているのは……」

 

「艦娘、だね」

 

「そうです、しかしその戦力を持たない国は利権から締め出され、国際社会では立場が危うい物となっています」

 

「まぁね、幾ら通常兵器で睨みは利かせられると言っても、それを使用するという事は己の自滅も意味する訳だから、おいそれとは行動に移せないだろう」

 

 

 深海棲艦が世に出る以前、人類同士が争っていた戦争の多くは、宗教や国土の奪い合いという限られた例を除き、相手を殺すのを目的とした物では無かった。

 

 中世から現代と呼ばれる時代に突入し、戦争がボタン一つで決着が付く物となってしまった時点で、一定以上の戦力を持つ者同士が戦争状態へ突入した際、それは互いの利を争い、如何に相手から好条件を引き出し、国益に反映させるかという目的の為に武力は行使される様になった。

 

 人類対人類の間では、戦争と言う物は言い換えれば究極の外交手段として存在する。

 

 互いに持つ力が拮抗し、大量破壊兵器が切り札となってしまった瞬間から、相手に奮う力はそのまま己に返って来るという図式は完成してしまった。

 

 故に幾ら通常兵器を多く持っていたとしても、それを奮う事は己の死を意味し、それを嵩にした強権の発動は国際社会から孤立する危険性を伴う。

 

 その為ロシアや大陸系の国々は、ある程度の国力は有していても、日本やヨーロッパ連合に対しては一歩退いた立ち位置にしか立てない状態にあった。

 

 

「そんな国々が喉から手が欲しい『対深海棲艦兵器』、艦娘が駄目ならと次に求める物は現状限られています、先ずはロシアがやろうとした様に深海棲艦の鹵獲、これは現在失敗に終わっています、そして……」

 

「人造艦娘、かね?」

 

 

 戦時下という環境、元々人権の扱いに特殊な姿勢を見せる特定国家。

 

 更にこの戦争は国と国の繋がりを絶ってしまった為、それまで育っていた情報の取り扱い、特に個人で触れることを可能とする手段を大きく失う結果となり、戦時下という特殊な環境が長く続いた年月は、現在国民が知る情報源は国から発信される物や、マスコミ依存というそれまでの流れとは逆行した物になってしまった。

 

 そんな環境は一党独裁が常の国では、より顕著な傾向となる。

 

 人権という言葉は世間の片隅に追い遣られ、貧富の格差が当然となり、命の価値感が個では無く集団での物へと成り果てる。

 

 そういう世界ではモラルも当然軽い物となり、例えそれらを消費する事になろうとも、人類の勝利と国益という大義名分を盾に、人造兵器という物は国を挙げての『戦争手段』として成り立ってもおかしくは無い。

 

 

「雪風という艦娘は、その人造艦娘のテストべッドとして利用価値がある、実際の人造艦娘計画の総括に組み込まれていた個体です、そして彼は確信していた、もしあの作戦で雪風、若しくは活動している艦娘が存在していたなら、自分はその存在を連れ帰るだろうと」

 

「ではあの監査はその個体を鹵獲したかどうか、その確認をする為の手段であったと?」

 

「はい、実際彼らが去った後拠点周囲を徹底的に調べ上げた結果、海中ケーブルの中継施設に盗聴機材が設置されていました」

 

「という事は、彼は雪風が鹵獲されてきた個体だと確信していたと、そういう事かね」

 

 

 既にこの時点で坂田に対しては、雪風の正体は明らかにされたのも同然となっていた。

 

 しかしそれでも吉野は最後までそれに言及しなかった。

 

 

「既に正体は知られている、その上で何かしらの手を打たなくては確実に相手の術中にはまってしまう……なる程、だから北方棲姫という絶対的な存在を盾に、彼女が彼らの手に渡る事を避けたという事か」

 

「それだけではありません、彼女が向こうの手に渡るという事は、人造艦娘の製造技術がかの国に渡ってしまうのが確実となります」

 

 

 そう言う吉野の目には、明らかに敵意を含んだ色を坂田は見て取った。

 

 元々交渉の場ではポーカーフェイスに徹し、本心を欠片も見せない男が滲ませたそれ。

 

 

 坂田は事ここに至り、この吉野三郎という男の性質と、どうしても避け得ぬ弱点を垣間見る事になった。

 

 人が人以外の者に傾倒し、それを中心に物事を考える、それは人を守るという職責を負う軍人としては危うい思想であった。

 

 そして自滅を誘発する程脆く、剥き出しの弱みであると言えた。

 

 利を捨ててでもそうするという行動は狙われ易く、守り難いという負の部分しか存在しないと言えるだろう。

 

 

 しかし髭の傷は、同時にそういう芯があるからこそ、艦娘や深海棲艦が同調するのだろうと諦めにも似た納得をするに至った。

 

 

─────────そうでなければ成し得ない未来も存在する

 

 

 それまで成してきた事実は、自分達が成して来た事とは別の意味で国を救った、そして思想がどうであれ、軍人としての筋は(・・)一応通してはいる、ならば……

 

 例え自身の思う軍人の姿とは剥離してはいても、それらは一定の成果と引き換えに、認めなければならないと、そんな思いが喉元まで出掛かった髭の傷だったが、敢えてそれらを飲み込み羊羹で蓋をする事にした。

 

 

「なる程、かの技術は軍部の立場としても、そして人道的にも表に出すのは色んな意味で不味いね」

 

「現状例の技術士官と繋がっているという事は、情報を握っているのは間違いありません、そこに雪風君という存在が渡れば……」

 

「そのまま国外に逃亡してしまう恐れがあったと……なる程、彼にとってみれば多少強引で粗雑な計画であっても、雪風君さえ手に入れば目的は達成した事になるだろうしね」

 

「はい、ですからああいう穴だらけの手でも後先考えず、いや、敢えて時間を優先して行動したと思われます」

 

「そういう緊急を要する状態だったから、君も一番手っ取り早く、確実な手を打ったと……なる程ねぇ」

 

 

 其々は腹にあった諸々を取り敢えず吐き出し、互いに難しい表情で茶を啜った。

 

 確かに聞けば緊急を要し、強引な手を使ってでも止める案件なのは確かであった。

 

 しかしそれは坂田や大隅を無視してでも進める必要があったかと言われれば、恐らく否と謂わざるを得ない。

 

 逆にそうする事で、事件は軍内で処理されていた恐れもあった。

 

 故にこの一件は、吉野が事の解決以上に、己の感情も多分に含んだ物を果す為の作戦であったのでは無いかと坂田は結論付けた。

 

 

 そしてこの独断に足を突っ込み、また上層部を無視した件はどう扱うべきかと思案に入った処で、また奥から鳳翔が姿を現した。

 

 

 何故かアツアツの関東炊きを盛った鉢をお盆に載せて。

 

 

 そんなニコニコとしつつ、しずしずと近寄るオカンを髭眼帯は物凄く真面目な表情でガン見し、坂田も怪訝な表情でその様を見ていた。

 

 

「大坂の鳳翔より伺ってますよ? 吉野さんは関東炊きが大層お好きなのだそうで」

 

「え、いや……その、好きな事は好きなのですが、いきなりどうしました?」

 

「まぁまぁお一つ、如何でしょう?」

 

「え、いや自分今それ程腹は減ってなアッツゥィ!? 待って!? 何でいきなり関東炊きプレイってか厚揚げぇ!」

 

「お……おい鳳翔」

 

「提督も、お食べになりますか?」

 

「い、いや……私は遠慮しておこう」

 

「たーまーごぉぉ! 意外と伏兵の白い爆弾! アツッ! 鼻それムリィ! 元帥ヘルプ!」

 

 

 こうして将官の秘密の部屋では、突如乱入してきた元祖オカンが場を有耶無耶にしてしまい、結果として髭眼帯は冷〇ピタで顔をカバーされた状態で退出するハメになるのであった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「なぁ鳳翔よ」

 

 

 髭眼帯が退出して暫く、夕刻も過ぎた地下四階の執務室では、関東炊きと塩辛という物を肴に、髭の傷が熱燗の入った猪口を傾けていた。

 

 

「はい、何でしょう提督」

 

「いや、さっきのアレは……うむ、何と言うか」

 

 

 何とも言えない髭の傷に、ニコニコとした表情を崩さず、元祖オカンは空になった猪口へと酒を注ぐ。

 

 

「あの時提督は顎鬚を頻りに撫でていたでしょう?」

 

「うん? そうだったか?」

 

「はい、提督がああする時は、何かを迷っている時ですから」

 

 

 そう言うオカンは器に大根を取り、一口大に箸で切り分ける。

 

 それを坂田は何とも言えない顔で摘みつつ、モグモグと咀嚼する。

 

 

「そして提督がお悩みになる時というのは、大抵自身のお立場と、本音との間で板挟みになった時が殆どですし」

 

「……例えそれをどうにかする意図があったとしても、アレ(・・)は少々強引過ぎやしないかと思うのだがね」

 

 

 どうしてこう、女という生き物は男と違ってここ一番の肝っ玉が据わっているのだろうと、深い溜息を吐きつつ髭の傷は再び猪口に口を付ける。

 

 そんな様子を見つつも、元祖オカンは新たなタネを器へよそいつつ、笑顔を崩さず答えを口にする。

 

 

「大坂鎮守府では、あれがオイタをした者に対する教育方法なのだそうですよ?」

 

「オイタ……かね?」

 

「はい」

 

「そうか……オイタか……」

 

 

 軍務に関わる事をオイタと一蹴し、それでも話を収めてしまった相方へ髭の傷は何故か苦笑いの相を浮べ、器に盛られた関東炊きに手を伸ばす。

 

 

「……中々美味いな、これは」

 

「聞き及んだレシピをほんの少し、好みに合わせてアレンジを加えてみました、お気に召されて何よりです、貴方」

 

 

 こうして本来入る筈だった両者の亀裂は、有耶無耶という強引な手法を用いられたものの、結局は形を変えず続く事になった。

 

 

 そして取り敢えずの危機を脱し、雪風という艦娘を正式に大坂鎮守府に迎える事になった髭眼帯であったが、根の深い問題はまだ残っている為にそれの解決の為本格的に動く事になるのであった。

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 ただ言い回しや文面は意図している部分がありますので、日本語的におかしい事になっていない限りはそのままでいく形になる事があります、その辺りはご了承下さいませ。

 また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。


それではどうか宜しくお願い致します。

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