大本営第二特務課の日常   作:zero-45

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 前回までのあらすじ

 誰の邪魔も入らない年に一度の彼女達の夜会、そして新たな仲魔がINする予感。


 それでは何かご意見ご質問があればお気軽にどうぞ。


2017/11/24
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きましたorione様、リア10爆発46様、Bleaz02様、有難う御座います、大変助かりました。


ある意味日常、でもちょっとだけ非日常

「それで? 時雨は今日随伴してないんデスか?」

 

「うん、色々思う事があるみたいでねぇ、今日は吹雪さんに稽古をつけて貰ってるみたい」

 

 

 艦娘寮大広間、時間は丁度皆が茶休憩を入れてる一五 一七(ヒトゴ ヒトナナ)

 

 おっきいフレンチクルーラこと金剛が珍しく饅頭をモグモグしつつ、髭眼帯へ語り掛けてる隣では、ちっさいフレンチクルーラーこと浦風と、周りを数人の艦娘に囲まれての卓があった。

 

 

「あの吹雪さんという姉さんは、大本営の艦娘さんなんじゃろ?」

 

「うん、彼女はあっちで艦娘の取り纏め……ウチで言う処の龍驤君みたいなポジに納まってる艦娘さんだねぇ」

 

「ほうほう、大本営でそがぁな役職に就いとるなら、こっち(・・・)も相当にできるん?」

 

「艤装が無いから海には出れないデスけど、(おか)の上では相当の物デスネー」

 

 

 己の腕をポンポンと叩く浦風に対し、饅頭をモグモグする金剛はコクコクしつつ、吹雪の評価を口にする。

 

 実際『大本営の吹雪』と言えばネームバリューだけなら歴代第一艦隊旗艦よりもあり、また長らく軍の中枢で艦娘達の取り纏め役をしていた為に、大本営所属であったが各拠点へ巣立っていった、今はそれなりのポジションに収まっている者達からも信頼も得ている存在となっている。

 

 また、普通の艦娘とは違い艤装が無く海に出れないという点を除けば往時の力をそのまま残していた為、陸上限定ではあったが腕っ節もそれなりとあり、未だ彼女は軍部からはそれなりに重要視された状態で軍務に関わっていた。

 

 

「まぁムサシですら未だにケチョンケチョンにされちゃいマスし、そっち系の教えを請うには最適の人材だと思いますヨ?」

 

「うわぁ……あがぁにこまいのに、武蔵さんでも勝てんの?」

 

「まぁ彼女はアレだから……てか君達?」

 

 

 何故か怪訝な表情で周りを見る髭眼帯に、小首をチョンと傾げて左右から見るフレンチクルーラーズ。

 

 そんな卓の対岸では、霰に山風、ゆーちゃんに(潜水棲姫)というメンツに挟まれ真顔で茶を啜るという雪風の姿。

 

 

「oh、今回はユッキーを囲んでのお茶会と言うか、少しでもココに馴染んで貰う為のティータイムという事で色々段取りをしてみたネ」

 

 

 紅茶戦艦の言葉に再び髭眼帯はティーの席に着くメンツを見る。

 

 

 言葉を殆ど口にせず、感情を表に出さないというゆきかじぇ。

 

 喋れば唯我独尊だが、基本無口ガールな(潜水棲姫)

 

 割と拘りの匠な内面を持つが、基本的に言葉少なく相手を観察するのが常の山風。

 

 髭眼帯以外には消極的な人間関係しか持たない、完全なレアキャラ扱いとなっている無口なゆーちゃん。

 

 物怖じしない性格であったが、殆ど喋らない朝潮型の不思議ちゃん霰。

 

 

 鎮守府に馴染んで貰おうという催しの筈なのに、何故参加者の殆どが無口属性の者達で構成されているのだろうか、そして喋ってもキャラ被りが過ぎる為に色んな意味でメーなのではと髭眼帯は眉根の皺を深くするのであった。

 

 

「……あの、金剛君」

 

「ン? どしたネ?」

 

「えと……この茶会に誘う人選が、どういう基準になってるのかの理由を聞いても?」

 

「あー、なんでも雪風はお喋りが好きじゃぁなさそうじゃけぇ、取り敢えず似たモンを誘ってみようって事になったんよ」

 

「Yes、類は友を呼ぶと言うしネ」

 

 

 誰も呼んではいない、と言うか呼ばれているので類は友を呼ぶという言葉の意味が少しズレてやしないか、それ以上に目的に対する人選がものっそ間違ってはいないだろうかと髭眼帯は参加者を再び凝視する。

 

 ちょっと大きめのちゃぶ台には八人もの姿があるにも関わらず、会話が弾むどころか妙な空気が蔓延するだけで、そこにはオヤツを咀嚼する音以外の何か、要するに会話の類は微塵も存在しなかった。

 

 それはそうだろう、何せゆきかじぇの脇を固める者達は各艦種を代表する無口&不思議系キャラ達なのである。

 

 

 山と盛られている饅頭や胡麻団子の向こうでは、それを黙々と消費する異様な者達というカオスがあるばかりで、会話はこれっぽっちも弾んでいなかった、むしろ弾む為に必須である会話がそもそも皆無であった。

 

 

「な……なんかこう、ぶち静かじゃねぇ……」

 

「fm……ここはウィットで場を軽くするjokeが必要なのかも知れませんネ、ン~…… コホン、Hey、隣のFenceに囲いが出来たらいしネ!」

 

「……へ~」

 

 

 ウィットに飛んだ滑りギャグは、間髪入れずに飛んで来た山風の返しにより、スライドはせずクリティカル気味に金剛へ突き刺さってしまう。

 

 諸行無常、俯いてプルプルするおっきなフレンチクルーラーを見て髭眼帯もプルプルしつつそう思ったという。

 

 そして場は軽くなる処か鉛を溶かし込んだかの如く、重苦しい空気に包まれてしまった。

 

 

「そ……そうじゃ、提督さん、うちもパジャマとメイド服新調したんよ」

 

「え~ パジャマとぉ、メイド服ぅ? 作っちゃったのぉ?」

 

「……今何かおかしな反応が返って来た気がするんじゃが、気のせいかねぇ」

 

 

 場の空気をどうにかしようとちょっとした話題を口にしたちっさいフレンチクルーラーの言葉に、髭眼帯はプルプルを停止し怪訝な表情になった。

 

 割とイメージ的にはプレーンと思っていた浦風、それが例のアニモーやメイド服を仕立てたと聞けば、今までの色々という部分から髭眼帯が警戒するのも当たり前と言えよう。

 

 しかしそんな事情も知らない浦風としては、髭眼帯から返ってくる反応が予想外にアレであった為に、ジト目で口を△にして見るという微妙な空気が出来上がってしまうというカオス。

 

 

「ohそれ、他の皆はもうパジャマとメイド服作りマシタか?」

 

「ちょっとそこのコンゴーさん、その辺り必須染みた会話は提督どうかと思います」

 

「ん……一応、作った」

 

「作っちゃったんだ……君達も……」

 

「……ん」

 

 

 おっきいフレンチクルーラーの取って付けた様な質問に対し、言葉少な気に其々から返事が返ってくる。

 

 それは何と言うか、声質の違いはあったが、目隠しで聞くと誰のセリフかとは判別が付かないなと、髭眼帯は真面目な表情でプルプルするのであった。

 

 

「龍驤さんから……お勧めの服があるって、今度一緒に買いに行く約束した」

 

「へー、龍驤君から? 霰君って彼女と仲いいの?」

 

「……全然、だけど戦隊の拡充に必要とか……言ってた」

 

「霰君……何と言うか提督はそのお誘い、丁重にお断りした方がいいと思います」

 

「……そうなの?」

 

「この前……龍驤の服シリーズ化するって聞いた……」

 

「……へ~、シリーズ化かぁ、明石の店で?」

 

「ん」

 

 

 (潜水棲姫)の情報に凄く真顔になった髭眼帯はポッケからスマホを取り出し、徐にピポパしてどこかへ連絡を取り始めた。

 

 

「もしもし明石酒保? あ、妖精さん? 自分自分、え? 人に話し掛ける時は名前で呼べチンカスってえっ!? 提督妖精さんの名前聞いた事無いんですが固有名詞なんかあったりしたりするの!? うんうん……いやスイマセン……ハイ……てか明石居る? え、留守? どこ行ったの? ナニ? あちこちの酒保へ啓蒙活動に行ったぁ? 「どんな人だって成功できる」ってドウイウコト!? レノソさんなの? イマジンしちゃうの? はい? うんうん……え、うん……ナニソレ怖い……そっかぁ……へ~ そうなんだぁ」

 

「そう言えば皆はどんなパジャマにしたデスか?」

 

 

 少しでも空気を軽くしたかったのだろう、スマホを切ってプルプルする髭眼帯を無視しておっきいフレンチクルーラーがそんな話題を場に振ってみる。

 

 

「……秋刀魚」

 

「トド」

 

「イルカ」

 

「マグロ」

 

「……晴嵐」

 

 

 アニマルだと思っていたらまさかの海の生き物シリーズであった、そして一部生き物では無いブツが混じっている気がしないでもないラインナップに髭眼帯のプルプル度が増してしまった。

 

 

「oh……そっちデスカ」

 

「そっちってどっち? 提督物凄く納得いかないんですが……」

 

「最近はグラ子やプリンツが海の生き物シリーズ押しで色々やってマスからネー」

 

「うちも勧められたけぇ見てみたんじゃけど、流石にスケスケは無理だって思うたんよ……」

 

「スケスケぇ? 着ぐるみがぁ?」

 

「確か越前クラゲじゃったかねぇ、ドイツと日本のコラボじゃ言うて」

 

「クラゲて……、んで浦風君は何にした訳?」

 

「あーうん、道産子」

 

「道産子ぉ?」

 

 

 ちっさいフレンチクルーラーがまさかのお馬さん、しかもそれは巨大な事に定評がある、あの北海道でブルルンと言ってるホースであった。

 

 確かに彼女は一部が巨大でブルルンしているかも知れないが、お馬さんのブルルンとおっぱい風のブルルンは文字が一緒でも意味合いが全然違うのであるが、それはまた別の機会に話題を掘り下げる事にする。

 

 そしてそんなケンタウロス的な着ぐるみを想像する髭眼帯の向こうでは、相変わらず無口かつ静かにオヤツをモグモグし、マイペースな空気を醸し出す一団の姿があった。

 

 会話が弾むという現象が微塵も無いそれは、ある意味馴染んでいるのだろうか其々はリラックスしている様にも見えた。

 

 

 これが後に『癒しの民』という不思議グループ結成に繋がるのであったが、そのグループの存在は余りにもふんわりとし過ぎていた為に、誰にも認知される事がなかったという。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「何か掴めましたか?」

 

 

 大広間で髭眼帯がプルプルしている頃、屋内練兵場(体育館)では稽古という名目で格闘戦を繰り広げていた時雨と吹雪が休憩に入った処であった。

 

 其々はいつもの芋ジャージという格好ではあったが、時雨の両手には日本刀が握られており、体を投げ出す様に床に転がり、荒い息を繰り返す姿は相当激しい模擬戦があったのは想像に難くない。

 

 そんな時雨を見下ろしつつも、殆ど汗も搔かず、また静かに佇む姿は時雨と対比すれば間逆の状態にあった。

 

 

「うん……何て、言うか、僕は……まだまだなんだ……なっていうのが、判ったよ」

 

 

 悔しいのか、それ以外の感情が胸中を占めるのか、時雨は孫六(日本刀)を握った腕で顔を隠した状態で仰向けに寝転び、荒い息を整えつつ、詰まり気味の言葉で吹雪に答えた。

 

 

 金剛が浦風へ言った通り、この吹雪という少女は艤装が無い為武装もなければ海にも立てない。

 

 ただそれだけで体躯は往時のままであった為、戦闘力で言えば大和型を遙かに凌ぐ物を持っていた。

 

 対して時雨であるが、彼女は大坂鎮守府ではこの手の能力は一番と言われてはいたが、それは元々格闘戦に秀でていた事と、深海化した力を奮うという物込みでの評価であった。

 

 即ちその力は爆発力があったとしても継戦力で言えば限定的であり、これからの軍務を考えれば、そんな不安定な物に頼らず、もっと安定した、それも今の水準と遜色無い力が必要だという考えに彼女は至っていた。

 

 

「身体的な物から来る能力は、努力ではどうにもなりませんよ?」

 

「うん、それは……判ってるんだけど、だからって今のままじゃどうにもならないから……」

 

「貴女の望む物に、現状答えは出ないと思います」

 

 

 倒れたままの時雨に吹雪は遠慮の無い本音で答える。

 

 時雨に課せられた身辺警護という軍務を考えれば、突出した能力よりも安定した力が求められる。

 

 それも高次元で纏まった能力が。

 

 

 しかし時雨のそれは、奮えば凄まじい破壊力を齎すが、砂時計の中身(深海化が有効な時間)が落ち切ってしまったら逆に自身が足手まといになってしまう。

 

 故に深海化せず、時雨は時雨のままで強くなる必要がある、そういう事情で行っていたこの稽古は、やはりと言うか結局可能性が無いという絶望に行き着いてしまった。

 

 

「護衛専任って事で特務課の誰かが就くから、前よりも危機管理という面じゃ安心出来る状態にはなったよ……」

 

「なら、貴女は焦らず出来る事を探せばいいんじゃないですか?」

 

「……でもその間、僕は役立たずじゃないか」

 

「確かに第二特務課発足時貴女には、そういう役割が課せられる形で編成されましたね、でも、今は別の役割もあるでしょう?」

 

「……」

 

「そういう選択肢を除外して今より先を目指すと言うなら、弛まぬ努力を続けていく事です」

 

「……努力して、なんとか、なるのかなぁ……」

 

「正直なんともならない可能性が高いですね、でも……」

 

 

 腕で隠れた処からは、汗とは違う何かが流れ落ちていた。

 

 それでも吹雪は慰めも、そして甘い言葉も口にはしない。

 

 これが現実であり、そして認識しなければいけない事実であったから。

 

 彼女が望む仕事には能力が追いついてない、ならばどうすればいいのか。

 

 その答えは彼女だけでは無く他者の力も必要なのは確かであったが、その協力を得る為には、時雨自身が己の現状を客観的に認識する事と、それ以上に折れない強い心が必要であると。

 

 そう吹雪は思っているからこそ、甘い言葉は口にしない。

 

 

「例え無駄と判ってても望むなら肝に銘じておく事です、望む先に至った者達は例外なく、全員、努力は惜しまなかった筈です」

 

 

 厳しい現実を突きつけつつも、求める先がほぼ無いと言いつつも、吹雪は別の道という可能性を口にしない。

 

 

「貴女が諦めないと言うなら、努力を続けていくと言うのなら、絶望が付き纏っていてはいても……可能性が途絶える事はありません」

 

 

 艦娘という存在は肉体的成長と時間的変化とは無縁の存在である。

 

 だからこそ戦いで傷付いても、入渠すれば元通りとなる為安定した戦力として重用されている。

 

 それでも鍛錬を欠かさないというのは、勘や精神という目に見えない何かを鍛え、内面的な成長をする事で個の能力を大幅に伸ばす事が出来るからである。

 

 

「貴女が折れた時が、貴女が戦力外として処理される時です」

 

 

 吹雪は嘗て長門に全てを託し、海から去った。

 

 そして今は、家族(吉野)の隣に自身が居る事が叶わないという願いを、目の前で苦悩する少女に託す為に、そこに居た。

 

 

「傍に居て、共に死ぬと決めていたとしても、たったそれだけの願いを叶える為には……司令官の隣に立つ者には資格が求められます」

 

「……厳しいね」

 

「貴女には他に選択する道も、ありますよ?」

 

「ずるいよ、僕がそんな選択なんかしないの、知ってる癖に」

 

「ならそれは貴女が選んだ道です、私に恨み言を言うのは筋違いです」

 

「うん……そうだね」

 

「息は整いましたか?」

 

「うん……よっこいせっ、と、それじゃ申し訳無いんだけど、稽古の続きをお願い出来るかな?」

 

 

 立ち上がり、袖で顔の露を拭って、両手の獲物を構える小さな秘書艦の顔には、少し前口にした弱気を見せる物は微塵も無かった。

 

 それを見て吹雪も黙って構え、また二人は無駄になるかも知れない稽古を延々と繰り返す。

 

 殆ど無いと言われている可能性を手繰り寄せる為に。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「あら鹿島、その車どうしたの?」

 

「これ? うんちょっと提督さんがプライベート用に買ったから預かったんだけど、調子が悪いみたいだから整備しようかなって」

 

 

 鎮守府免許センター内『鹿島モータース』

 

 現状は大坂鎮守内の者達が教習を行っている状態であり、年末からはまた外部の希望者も受け入れる事が決定している為、そこもまたそれなりに忙しい状態にあった。

 

 機械整備を行う妖精さんの数がいつの間にか増え、まさに整備工場然とした建屋の中心、油圧リフトにはガンメタリックの車両が載せられ、ツナギを着込んだ鹿島が移動式の工具箱を前に腕まくりをしていた。

 

 

「あらそうなの? 提督が乗るにしては随分とカワイイ車ね、軽……にしては少し大きいかしら」

 

「んふふ~ この子はね、ボディは小さいけど立派な普通車、それもスポーツカーなのよ?」

 

「これが? そうは見えないんだけど……」

 

 

 リフトに乗った鹿島が言うスポーツカー、それはトヨタが嘗て生産していたMR2と言われるスポーツカーである。

 

 

 トヨタというメーカーにはスポーツカーと呼称される車両が数多くあるが、それらは軽快な動きをウリにしたライトウェイトスポーツという物と、大型かつハイパワーを元に、鷹揚に構えつつもスピードを堪能するグランドツーリングカーという二極に分類される。

 

 スプーの元になったスープラと言えばスポーツと言われてはいるが、元々はグランドツーリングカーとして設計された物であり、トヨタで言えば某漫画等で有名な86等がライトウェイトスポーツカーに当たる。

 

 そしてこのMR2という車両はライトウェイトスポーツカーに当たるが、機構が特殊な為に、生産から30年以上も経った現在もコアなファンが存在する特殊な車であった。

 

 86の心臓と同じくする直4ツインカム1600cc4A-GE型を横置きミッドシップ(・・・・・・)に積む、つまり車両の前ではなく、後部に積む独特のレイアウト。

 

 それ故コンパクトなボディと独特な操舵性があるこの車両は、後にスーパーチャージャーを搭載し、1t前後という総重量も相まってパワーもそれなりという、纏まりつつも唯一の性能を有していた。

 

 

「ああ……このAW型特有のカチっとしたデザイン、そしてパワステすら設定されていないスパルタンな装備、そしてっ、このっ、何と言っても唯一無二のエンジンレイアウトッ! 私も欲しいぃ! 探して買っちゃおっかな~」

 

「ああうん……鹿島、その車が特別だって事は判ったけど、今から整備するのよね?」

 

「うん、流石に古い車だからオーバーホールは必要になっちゃうし」

 

「……整備するのよね?」

 

「うん、整備するけど、何?」

 

 

 うっとりとする鹿島の脇にはSnap-onというロゴステッカーが貼られた巨大な移動式工具箱と、リフトに載せられたガンメタの車があった。

 

 そしてその隣には何故かホットスナックの自動販売機やら、カップ麺の自動販売機、更には電子レンジやら電気ケトルという車の整備とは何の関係も無いと思われるブツが並べられていた。

 

 

「ねぇ鹿島、あの自動販売機とかは何に使うの?」

 

「何にって……やだぁ姉さん、車の整備にはホットスナック系の販売機は必須じゃない」

 

 

 即答で、さも当然とばかりに返って来た答えにカトリーヌは一瞬自分が間違っているのかという錯覚に囚われ、凄く真面目な相でそこに立ち並ぶ色んなブツを改めて眺める。

 

 そう言えば某CSの番組で有名なチャイナさんというメカニックは『世界一速い速度で走る家具のギネス保持者』だったかしらと軽く現実逃避しつつ、再び視線を妹へ戻した。

 

 

 そこには既に作業をする為、何故か自動販売機と車を交互にスケールで計りつつ、妖精さんにその数値を伝える鹿島の姿があった。

 

 整備すると言っても何分古い車である、もう部品が生産されているとは思えない。

 

 その部品の一部はもしや自販機の内部を構成する部品で賄うのだろうかと、その作業風景を黙って眺める。

 

 

 不意に取り出されるプラスチックのどんぶりや割り箸などのアイテム。

 

 そんなブツを首を捻ってああでもないこうでもないと、車のあちこちにINさせては取り出す妹を見て、カトリーヌの不安はどんどん膨れ上がっていく。

 

 

 エンジンに何故ドンブリが接続されるのかしら、どうしてバッテリーを外した場所に電子レンジが入るの? そんな疑問は疑問を呼び、カトリーヌの頭の上には「?」マークが次々に浮んでしまう。

 

 

「うーん……スペース的にレンジよりはトースターにするべきかなぁ、でもそれだと再現度が……」

 

「ね、ねぇ鹿島」

 

「何姉さん?」

 

「それは……何?」

 

「え? ワイングラスだけど」

 

「ワイングラスと車って何か関係があるの?」

 

「やだぁ姉さん、提督さんって仮にも将官なんだよ? 食器はそれなりの物揃えないと駄目じゃない」

 

「あ……ああうん、そうね、将官だから確かに……うん?」

 

 

 因みにカトリーヌは資格関係の知識や、学術的な物はかなりの水準にある才女であった。

 

 しかしメカに関しては致命的な程音痴であった為、実務に使用する機械に関しては全て鹿島が受け持つ形になっていた。

 

 

 例え免許取得用のフォークリフトにスト〇イククローが装備されていたとしても、教習車両にEシール〇ジェネレーターが装備されていたとしても、鹿島が『ガ〇ロス帝国に対抗するにはこれが必要なの』と言ってしまえば、ああそうなのかとカトリーヌは納得してしまう程にメカ音痴なのである。

 

 

「ああでもここの緩衝材抜いたら飛んだ時食器が割れちゃうかなぁ」

 

「え? と、飛ぶ? 何が?」

 

「うーん、ライガーからジェネレーター移植しちゃってもいいかも……」

 

「ね、ねぇ鹿島」

 

「何姉さん?」

 

「この車、飛ぶの?」

 

「え? やだぁ姉さん、車が飛ぶ訳ないじゃない」

 

「そ……そうよね、車が飛んだりなんかしないわよね」

 

「でも提督さんは将官なんだよ? もし襲われて車が高所から落ちたりしたら危ないじゃない?」

 

「確かにそういう事もあるかも知れないわね」

 

「だからそういう事に備えて頑丈に、ハイパワー、そして快適に、その為に整備してるんだよ?」

 

「そうなの? なる程……それなら必要かも知れないわね」

 

 

 ロールスロイス・ブラックバッチ、そして例のKOS-MOS

 

 今まで彼女が手掛けた、性能的に色々と過剰な強化をされた乗り物達は実はこうして生まれているという裏事情があったが、それは夕張重工とは別ベクトルで数々のメカを生み出してしまっていたのであった。

 

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 ただ言い回しや文面は意図している部分がありますので、日本語的におかしい事になっていない限りはそのままでいく形になる事があります、その辺りはご了承下さいませ。

 また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。


それではどうか宜しくお願い致します。

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