大本営第二特務課の日常   作:zero-45
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 前回までのあらすじ

 北の国からミズキちゃんとヲさんが来た、嫁が増えた、よしのん嘔吐、そして由良タンカワイス


 それでは何かご意見ご質問があればお気軽にどうぞ。

※ご注意
 今回は表現の一部に暴力的、残酷な部分が御座います、その辺り大丈夫だという方以外はブラウザバック推奨です。


2017/12/19
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きました対艦ヘリ骸龍様、リア10爆発46様、Jason様、有難う御座います、大変助かりました。


海軍大坂特殊兵学校、壱

 大坂鎮守府、旧称大阪鎮守府という海軍拠点は徴発される以前は関西国際空港という名称であった。

 

 大阪湾南部の海上に浮ぶ人工島は、位置的に泉佐野市と泉南郡田尻町を跨ぐ形で整備され、島内の住所も当然二つの自治体を跨ぐ物になっていた。

 

 北側を泉佐野市、南側が田尻町、両自治体には当然空港とその中に位置する企業よりの税収入が見込まれた。

 

 阪神高速から直接空港に乗り入れる関係上、連絡橋は北端へ接続され、外部とのアクセスが殆どそこに集中した結果、駐車場やターミナル施設、そして物流関係が集中する形で施設群は北側に建設される事となる。

 

 その状態の施設を流用した旧大阪鎮守府も自然と主要施設関係は北側へ設置される事となり、南端は物流補助や企業事務所等の地上建造物が集中していた関係上地下区画が存在せず、襲撃時に地上施設が薙ぎ払われて以降、大坂鎮守府として整備されてからは東側島南部は殆ど手付かずの状態にあった。

 

 そこに建造された艦娘教練学校。

 

 座学や机上演習を主に行う学舎を中心に、装備基礎学や整備研修を行う機械実習棟、特殊機器を使用して限定的な環境を作り出す屋内演習施設、基礎体力を整える屋内・外練兵場が方円状に建ち並び、最大収容人数80名という寮がそこへ併設される。

 

 この一連の施設群を『海軍大坂特殊兵学校』と呼称し、主に艦娘を、必要であれば提督を伴った艦隊を受け入れての実践的な教導活動をする施設とした。

 

 

 その中心に位置する学舎内の大講堂。

 

 第一期教導生へと選抜された舞鶴、クェゼリン、クルイから来た総勢18隻の艦娘が艦隊ごとに着席しており、またその右手には関係者や来賓が並んでいる。

 

 そんな大講堂の壇上には旭日旗と日章旗、そして校章にもなっている大坂鎮守府艦隊旗が掛けられており、それに並ぶ様に第一期教導に参加した各拠点の艦隊旗も掛けられていた。

 

 来賓関係では軍令部から総長代理として田野代(たのしろ)芳樹(よしき)大佐、陸軍西日本即応集団より師団長代理の狩野(かの)紀仁(のりひと)中佐、退役軍人会より会長染谷(そめや)文吾(ぶんご)が参加。

 

 関係者としては舞鶴鎮守府司令長官輪島(わじま)隆弘(たかひろ)、クェゼリン基地司令長官飯野(いいの)健二(けんじ)、クルイ基地(・・)司令長官日下部(くさかべ)栄治(えいじ)、友ヶ島警備府司令長官リーゼロッテ・ホルンシュタインという四人が。

 

 数が少なく、危機管理の点を鑑み、参加する来賓の殆どが代理という形であったが、それを理由に軍関係者で固めた参加者一同という物々しい雰囲気がそこにあった。

 

 

 そんな講堂の者が見る壇上には演台に両手をつき、全ての視線を受ける艦娘、大坂鎮守府所属練習駆逐艦叢雲の姿がある。

 

 

 「寒さ厳しき折、雪が舞う白きこの日に来賓の皆様、更に関係拠点司令長官の皆様にご臨席頂き、本校開校式ならびに第一期教導生受け入れ式を挙行出来ます事は、私達教導艦、教導生にとりまして大変喜ばしく、また誇らしく思います」

 

 

 平時では常である慇懃無礼さの欠片も見せず、ムチムチくちくかんであり、海軍大坂特殊兵学校、略称大特(だいとく)主幹教導員の叢雲は胸を張って式辞を述べていた。

 

 

「ご臨席の皆様へは校長の大和型壱番艦に代わり心からお礼を申し上げます、また第一期教導生諸氏には、同じく大和型壱番艦に代わり入校おめでとうという言葉と共に、地獄へようこそという言葉を贈らせて頂きます」

 

 

 叢雲の言葉に場の者達の反応はまちまちであったが、それでも大きな反応が返ってこないというのは、席に着く者達がそれなりの練度にあり、また戦場で命の奪い合いをしてきたという経験を持つ猛者であるからに他ならない。

 

 

「本校の運営指針、目的、または教導理念はある程度ご理解頂いた上で、皆様にはここにお集まり頂いているかと存じます、故に杓子定規な挨拶も、建前としての言葉も今現在は必要ないと思います」

 

 

 一旦言葉を切り、演台に預けていた体を直立させ、叢雲は一度講堂内へゆっくりと視線を巡らせる。

 

 艦種は様々、見た目の統一性も勿論皆無、しかしそこに居並ぶ者達の目からはそれなりの自信と、そして戦場で戦ってきた者特有の、傲慢さを隠そうともしない色が見て取れる。

 

 そんな視線を堪能するかの様に見渡した叢雲は薄笑いを表に貼り付け、右手を腰にあて、再び話を続けていく。

 

 

「恐らく今現在の皆様には何をどう言おうと我々の言葉は心には届かないでしょう、なので皆様には今の我々と、我々がこれまでしてきた答えを見て頂こうと思います」

 

 

 一方的とも投げっ放しとも言える言葉を最後に叢雲は壇上隅まで移動し、同時に演台が静かに床へ沈んでいく。

 

 そんな訳の判らない状態に場には少しざわめきが広がるが、それらを無視して演台が完全に床へ沈み切った後、館内の照明が落とされ、漆黒が講堂内を支配する。

 

 次いで壇上に浮かび上がるプロジェクターからの映像。

 

 

 それは青い海に浮ぶ小さな点の如き何かの姿だった。

 

 

 その映像と共に館内へ流れるアナウンス、それを聞いた者達に聞こえる内容は、教導生だけでは無く、恐らく式へ参加していた賓客達でさえ耳を疑う物であった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

『これより大坂鎮守府深海艦隊、及び大坂鎮守府第一艦隊による演習を開始致します』

 

 

 大坂鎮守府西側海域。

 

 そこには十二の人型が水面(みなも)に揺られ、やや高い波に体を預けながらも静かにその時を待っていた。

 

 

『深海艦隊は旗艦朔夜(防空棲姫)、副官(空母棲鬼)、以下扶桑(戦艦棲姫)山城(戦艦棲姫)静海(重巡棲姫)水晶(空母水鬼)

 

 

 艦種で言えば戦艦二に重巡一、駆逐艦一の空母二という水上打撃部隊である、が、それは言い換えてしまえば姫級四、鬼が二という事にもなり、何をどう想定しても敵として対峙するならば、それらは最悪という言葉を想定した物の一つであるのは間違いないだろう。

 

 

『第一艦隊旗艦大和、副官摩耶、以下榛名、加賀、赤城、夕立』

 

 

 対するは大坂鎮守府保有戦力に於ける短期決戦を主眼に置いた、ある意味主力の組み合わせにある内の一つという艦隊である。

 

 その組み合わせは大和を旗艦に据えてはいるが、それは守りと言うよりも僚艦の攻撃を最大限に生かす為の存在であり、その他の者はある意味大坂鎮守府所属同艦種の中でも、何かしらに突出した者で固めた艦隊とも言えるだろう。

 

 

『目視の距離にて開始されるこの演習は、どちらかの艦隊が全滅という一点のみが勝利条件となり、また使用する模擬弾色は今回に限り陣営分けはせず、赤で統一とします』

 

 

 静かに佇んではいたものの、事前に演習の意図を聞いていたのだろう、深海勢は霧とも霞とも言い難い漆黒の瘴気を立ち上らせ、また其々は赤や金色の燐光をジワリと滲ませて死の匂いを辺りに撒き散らしていた。

 

 

『時間は無制限、また実弾の使用以外全ての攻撃手段は解除と致します』

 

 

 第一艦隊の者達もそれなりに気合が乗っているのだろう、握り締めた拳の軋みや、水面を踏み締めた飛沫の音が僅かに聞こえてくる。

 

 

 そんな状況をスクリーンで見る者の内、特に関係者席に座る幾らかの者達は驚きの相を表に貼り付け、信じられない物を見るかの如く演習に望む者達を凝視する。

 

 

 演習

 

 

 それは実戦を想定した模擬戦闘である。

 

 それらは行えば多少の傷を負う可能性もあったが、基本安全が保障され、命のやり取りという物はそこには当然存在しない。

 

 しかしこの演習では実弾以外の攻撃手段は全て(・・・・・・・・・・・・)許可されるものである(・・・・・・・・・・)とアナウンスされた。

 

 それはつまり、この演習に限っては仮初の戦いと称してはいても、近接攻撃は封じられていないと言う事になる。

 

 参加する艦の顔ぶれと、演習条件に照らし合わせ、それら全てを鑑みて答えが出せてしまう者達は、皆一様に同じ反応を見せた。

 

 

 正気でそんな事をするつもりなのかと。

 

 

 そんな諸々の全てを置いてけぼりにして、鎮守府西側海域では演習開始のサイレンが海に鳴り響いていた。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 演習開始時点での双方の距離は約150、それはキロでも海里でもなくメートルという単位。

 

 長距離での砲雷撃、またはそれ以上のアウトレンジを以っての航空戦が常識であるこの世界の海戦に於いて、その距離は正に開始即混戦という常識を欠いた戦いであると言えた。

 

 戦艦は大口径砲の利点が生かせず、航空母艦も発艦が追いつかない。

 

 また夜戦でも無いこの演習では、無傷の戦艦が立ち塞がる為に中型以下である水上艦らの攻撃は殆ど用を成さない。

 

 そんな距離にあっても、まるで関係なしとばかりに双方は全力で距離を詰める。

 

 深海勢は先頭に扶桑(戦艦棲姫)を置き、やや下がった位置両翼に山城(戦艦棲姫)静海(重巡棲姫)を置く、更にその後方には朔夜(防空棲姫)が陣取り、またそのやや後方両翼には(空母棲鬼)水晶(空母水鬼)が展開するという、変形の魚燐陣という形。

 

 対する第一艦隊は前に大和、榛名を並べ、その後方には摩耶、夕立が前を行く二人よりもやや広がって並び、その後方の一航戦二人は先頭と同じ幅で並ぶという変形の複縦陣。

 

 其々は躊躇せず前に出る選択をし、最大戦速を先頭を行く戦艦に合わせ肉薄せんと進む。

 

 この行動は結果的には速度が乗り切るかどうかという辺りで互いがぶつかる計算となる。

 

 その間にも航空母艦達が艦載機を空へ放ち、展開も待たずに全速力で飛翔させていく。

 

 

 本来航空母艦を擁する艦隊戦と言えば先ず直掩を出し、更に制空権の奪い合いを以って砲撃戦へ移行する物である。

 

 しかし相対距離は僅か150m、双方が突貫を選択したのなら、実質どちらもその半分の距離しか加速に使えないとあっては最早制空権奪取というセオリーは無視され、空を舞う艦載機は艦爆、艦攻が中心の物となる。

 

 また長距離での砲撃がほぼ無い状態にあっては、移動射撃による面制圧からの突貫という、ある意味開始即全力での潰し合いという戦場がそこに出来上がってしまう。

 

 

「主砲、副砲、撃てえっ!」

 

「敵艦捕捉、全主砲薙ぎ払え!」

 

 

 接近する互いの艦隊は、扶桑(戦艦棲姫)と大和による斉射で幕を開け、大口径主砲の直進弾による派手な爆煙と砲火で空気が爆ぜる。

 

 本来であれば放物線を描いて落ちてくる砲弾は、距離が近い為に水平の狙いとなり、見える位置からのそれは手錬(てだれ)の者達からすれば弾道がある程度読めてしまう為、接敵する迄は殆ど当たらない。

 

 その弾道を見極める為に展開していた第一艦隊の一、二列目、大和と榛名、摩耶とポイヌ(夕立)は回避に努め、逆に扶桑(戦艦棲姫)は頑強な装甲を前面に受けを選択しつつ前へ出る。

 

 艦娘とは比べ物にならない程強固な守りを持つ扶桑(戦艦棲姫)、そして脇を固める山城(戦艦棲姫)は後ろへ砲弾を通さず、また片翼を担う静海(重巡棲姫)は回避をしつつもやや後ろに下がり、手数よりも狙いを優先した精密射により第一艦隊の陣形を乱そうとする。

 

 対して回避を優先する大和であったが、それは武蔵が以前見せたよりも更に小さく、尚無駄の無い全身を使っての回避と、装甲を利用して弾着角を強引に捻じ曲げつつ、信じられない程の被弾率に抑えるという進撃を見せ付けていた。

 

 

 互いに命を削り合い、一撃が致命傷という恐ろしい突貫を繰り広げ、其々が手の届く位置へと至った時、ある意味起こるべきぶつかり合いがそこに起こった。

 

 

「邪魔だぁぁぁぁ! どけえぇぇぇぇぇぇっ!」

 

「あぁぁぁぁぁぁ嗚呼っ!」

 

 

 互いの盾とする艦の脇より飛び出た二つ(かたまり)が、轟音と共に接射、更には共にぶつかり合い、水面(みなも)に瀑布と幾重にもなる波紋を吹き上がらせる。

 

 

 演習弾とはいえ圧倒的な爆発力を生み出す16inch三連装砲と、試製51cm連装砲の斉射が作り出す地獄。

 

 その只中へ飛び込む真っ赤な目に殺意を(たぎ)らせた山城(戦艦棲姫)と、同じく突貫してきた榛名が互いの拳をぶつけ合い、雄叫びを上げた。

 

 

 本来独立した艤装を持つ山城(戦艦棲姫)は、本体である彼女が前に出ずに艤装を盾にする事で接近戦に於いても優位に立つ事が可能であった。

 

 しかしこの演習に望む際、海に出た時、嘗てアンダマンで戦ったあの時を噛み締め、そして彼女は心にある誓いを立てていた。

 

 どういう結果になろうとも、己が対するのが榛名なら自身が前に出て戦うと。

 

 深海棲艦であろうが無かろうがそんな物は関係ない、己が山城の名を背負うなら、あの桜吹雪の只中で、それを背負う事を自ら選択したのならば。

 

 

──────必滅以外の何があろうかと。

 

 

 本来の性能差を気合という不可視の要因で埋める事で同等としていた榛名と山城(戦艦棲姫)、そんな二人が同じ程に(たぎ)り交差した結果、元々の能力の差が顕著に現れ、榛名の右拳が砕け散る。

 

 

 武蔵殺しと恐れられた艦娘、捨て身を旨とし一歩も退かないという強情を通してきた彼女は、望む戦いが成立する様巨大な砲と、陸奥鉄で強化したシールドアームを以って漸く敵を粉砕するという戦い方(意地)を通してきた。

 

 

 しかしそれでも、どうあっても彼女は金剛型である。

 

 

 生身の本体は何をどうしても、普遍と言われる艦娘の呪いから逃れる事は叶わない。

 

 

扶桑(戦艦棲姫)、大和小破、補器武装損耗今の処無し、榛名中破、第三砲塔被弾使用不能』

 

 

 矢継ぎ早に流れる戦報に含まれるは、仮初の物だけではなく実際に受けたダメージも含まれるという狂気。

 

 

 潰され、物理法則に従って跳ね上げられる右腕。

 

 そこへ追撃の肘を伴って山城の体が飛び込んで来る。

 

 

「喰らえぇぇっ!」

 

 

 生身の性能だけではなく、艤装が独立している山城(戦艦棲姫)にとって、余計な物を背負っていないという利点が小回りへと繋がり、それが格闘戦に於いて榛名よりも一段有利へと働く。

 

 腰の回転から命一杯の踏み込みを経て直線へと、小回りという利点を最大限に利用した、膨大な運動ネルギー伴った恐ろしい追撃の矢が榛名の鳩尾(みぞおち)目掛けて飛んで来た。

 

 が、それは想定した形で刺さる事は無かった。

 

 

「シィッ!」

 

 

 全身の筋力を総動員し、背負う艤装と砲の重量、そして重力さえもそれに乗せて後方へ宙返りもかくやという形で榛名は身を反らせ、その勢いで膝を山城(戦艦棲姫)に叩き込む。

 

 全てのベクトルは後方へ円を描く形で発生し、それが膝へ集約される。

 

 それは低い姿勢にあった山城(戦艦棲姫)の右胸部へ突き刺さり、ベキベキと嫌な音を伴ってアバラ骨を粉砕していく。

 

 だが同時に前に出ていた山城(戦艦棲姫)の肘も身を投げ出した榛名の側頭部へ直撃し、メシメシと嫌な音を立てて首が一瞬恐ろしい角度で捻じ曲がる。

 

 そんな相打ち染みた形で互いはうつ伏せと、仰向けという形で水面(みなも)へと倒れ込む。

 

 

「ゴブッ」

 

「っつぁ」

 

 

 吐血と出血という掛け値無しの結果をモニターで見ていた者達は、ある物は腰を浮かせ、またある者は目を逸らし、演習と言う名の凄惨な意地の張り合いに言葉を失っていた。

 

 

 吐血で息が詰まり、それを吐き出すのに手間取った山城(戦艦棲姫)に対し、榛名は意識を失いつつも艤装に乗る砲全てを斉射、めくら撃ちの幾つかはそのまま山城(戦艦棲姫)の頭部に着弾し、それが止めとなる。

 

 

山城(戦艦棲姫)、榛名大……破、いえ、山城(戦艦棲姫)轟沈』

 

 

 それは艤装を常に背負うという不便があったからこその有利、ここ一番の勝敗を分けたのは、紙一重の、そして偶然が齎したほんの少しの差でしか無かった。

 

 

 朦朧としつつもフラフラと立ち上がる榛名、その頭部からは夥しい量の出血があり、また本人も殆ど意識は無い状態にある。

 

 それでも芯にある強情さ故か、本能がそうさせたのか、彼女の体は海に倒れたままの状態を拒んでいた。

 

 だが結局はそれが精一杯で指一本動かす事が出来ず、空から舞い降りてくる死から逃れる事は叶わなかった。

 

 

『榛名爆撃により艤装完全破壊、轟沈になります』

 

 

 互いにペイントによる物なのか、それとも血による物なのかの判別もつかない程に紅く染まった二人が、片や血を吐き出しつつ四つん這いに、片や仁王立ちのままピクリとも動かない。

 

 意地を張り通した結果、壮絶と言うには余りにも余りな状態で演習脱落という、見る者に衝撃を与えた二人という結果がそこには浮んでいた。

 

 

「おいおいおい、やってくれンねぇ吉野さンよぉ、一歩間違えばありゃぁどっちかが死んでてもおかしくねぇぞ、マジかよおい」

 

「バケツ前提の演習かいの、あ奴(吉野)も中々思い切った事をするもんじゃわい」

 

 

 陸と軍令部から来た代理が唖然とする脇で、狂犬と呼ばれた例の中将(輪島)と、嘗ては深海棲艦に生身を晒して戦っていた過去を持つ老将(染谷)が苦い顔を滲ませつつも、スクリーンを凝視していた。

 

 

「昔はこういうのも(・・・・・・)あるにはあったがのぉ、それらは私闘って事でこっそりとやってたもんじゃ」

 

「へぇ、じーさンはアレを私闘って見るかい」

 

「当然じゃ、そうでも無きゃ殺し合いなんぞせんわ」

 

「ふーん、俺にゃぁそうは見えねぇンだけどよ」

 

「何じゃと? ならアレは何をしとると言うんじゃ」

 

「意地の張り合いだよ、どっちも譲れねぇもンがあったンだろ、だから命一杯()り合ったンじゃねーの?」

 

「このバカチンが、それを私闘と言うんじゃ」

 

「違うね、相手に私怨がある訳じゃねぇ、手前ぇの中にある何かの為にドンパチしたンだ、それを私闘って一括(ひとくく)りにすンのは間違ってンよ、じーさン」

 

 

 染谷の言う事も、輪島の言う事も聞く者にとってはどちらも私闘と呼ばれる物に違いは無かった。

 

 しかし互いの戦場に対する考え方が、互いの考えを否定する。

 

 

 戦争という物を手段とし、軍務の内という事で割り切り、それ以外の全てを暴力として否定する染谷。

 

 戦争を含め、戦いという物全てを同じラインに置き、その上で区別する輪島。

 

 そんな相対する考えを持つ二人であったが、実はこの時の会話が元で後に影響し合う関係となり、それが元で狂犬が猛将と呼ばれる切っ掛けとなっていくのだが、それはまだずっと後の事になるのである。

 

 

 こうして海軍大坂特殊兵学校の開校セレモニーが始まり、まだ30分と経っていない状態であったが、場は混沌としていき、それらは後に誰もが口々にこう囁く切っ掛けとなっていくのであった。

 

 

『大特へ行くなら腹を決めろ、あそこは地獄だ』と。

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 ただ言い回しや文面は意図している部分がありますので、日本語的におかしい事になっていない限りはそのままでいく形になる事があります、その辺りはご了承下さいませ。

 また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。


それではどうか宜しくお願い致します。


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