大本営第二特務課の日常   作:zero-45

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 前回までのあらすじ

 問題が山積し、割りとマズい状況にある事が発覚した大坂鎮守府、絡み合う都合と事情、貰い事故染みたそれらをどうにかする為、ヨシノンの色々諸々する日々がまたスタートする事になるのである。


 それでは何かご意見ご質問があればお気軽にどうぞ。


2017/12/25
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きましたリア10爆発46様、有難う御座います、大変助かりました。


提督と艦娘

 

 

「すいません吉野さん、今いいですか?」

 

 

 大坂鎮守府執務棟地下施設。

 

 件の会議が一旦終了し、其々が地上へ戻ろうと廊下を移動していた処、クェゼリン基地司令長官日下部栄治(くさかべ えいじ)が書類を片手にブツブツと呟きつつ移動する吉野へ声を掛けた。

 

 移動する面々は其々砕けた雰囲気にあったが、その中にあって、何かがあるのだろうか日下部だけはやや思い詰めた表情になっており、その様を見た髭眼帯は何事かと首を捻って足を止めた。

 

 

「はい? どうしました日下部司令」

 

「あ、何か確認中でしたか? お邪魔したなら申し訳ないです」

 

「いやいや全然? てか何かお話が? なんでしたら会議室に戻ります?」

 

「それ程込み入った話では……いや、その、ちょっとした確認と許可を頂きたい事がありまして」

 

 

 普段は凛とした佇まいで、ピシリという言葉が似合う日下部にしては珍しく、何かを言い澱む様な仕草を見て、髭眼帯は先に行くゴスロリの球磨を呼び戻しつつもすぐ脇にある指揮所を指し、二人をそこへと誘う。

 

 

 この区画は通常の建築構造とは違い、防御区画という作りになっていた為、部屋毎に生命維持機構や非常時の設備が内包されている。

 

 その為例え部屋が隣同士であっても位置はかなり遠く、会議室を出て暫く歩いた現状では、近場の部屋は会議室よりも寧ろ作戦指揮所の方が近い。

 

 髭眼帯は日下部の様子を気遣い、また話が立ち話で終わらないのではという雰囲気を読み取った為、指揮所で話を聞く事にし、球磨に部屋を使う為の準備と、そして茶を淹れて貰う為に声を掛けたのであった。

 

 

 そんな諸々のあった後の作戦指揮所、巨大な丸いテーブルには現在髭眼帯と日下部が座り、少し離れた場ではアホ毛をゆらゆら揺らした球磨がフンフンと茶の支度を整えていた。

 

 

「それで、何かご相談でもありましたか日下部司令」

 

「いや吉野さん、その司令と言うのはよして下さい、歳も階級も自分の方が下なのに、そんな敬称を付けられると却って恐縮してしまいます」

 

「あー……そうですね、では日下部さん、で、いいでしょうか?」

 

「本当なら敬語もなんとかして欲しいんですが、それはまぁ……」

 

「提督は基本誰にでも敬語クマ、その辺りは気にしたら負けクマ、寧ろ雑に扱うの辺りが丁度いい感じクマよ?」

 

「ちょっと球磨ちゃん、最近提督の事雑に扱い過ぎじゃない? もうちょっとほら、敬うと言うか上司に対しての接し方と言うか」

 

「なら見た目だけじゃなくて、もうちょっと威厳のある行動を心がけるクマ」

 

 

 アホ毛のゴスロリにバッサリと切り捨てられ、ハハハと乾いた笑いを口から漏らす髭眼帯という二人を見る日下部は、ほんの少しだが緊張していた部分がほぐされ、また相談したい事をどう切り出そうかと悩んでいた心が幾分軽くなった気がした。

 

 この辺りは平時に於いて艦隊旗艦に就く事が多い球磨が気遣いわざとした行動であったが、吉野としてもそれを期待してわざわざ呼び止めたという部分もあり、二人のどうしようもない漫才染みた会話は、最初にあった硬い空気を幾分かましにする効果を発揮する事にはなった。

 

 

「あーそれで、日下部さんは確認とか許可とか、その辺り諸々の話があったんでしたっけ?」

 

「ええ……それなんですが、実は以前ウチからこちらに異動した黒潮と速吸の件で……」

 

「ふむ、彼女達の事ですか……それって現在彼女達がどうなっているのかという事をお聞きになりたいと」

 

「はい、あの時から最近まで、ウチは警備府から基地への拡張をした関係で、艦隊の運用の見直しとか基地施設の改装に追われてバタバタしてて、あの二人に付いて思い至る暇が無かったもので……」

 

 

 インドネシア連邦スマトラ島南部に設営される拠点、クルイ基地。

 

 艦娘お助け課が介入するまで警備府であったそこは、現在大坂鎮守府が海域を担当する事になって以降、拠点自体も更新され、以降は基地としての諸々を整える事に注力している状態にあった。

 

 以前と比べても現在の人員数は微増という状態にあったが、深海棲艦からの攻勢が格段に落ち着いた為相対的に戦闘で傷付く者は減り、また送られて来る資源や資材が増えた為、環境だけで言えば、軍務に余裕を以って取り組める程には改善された状態にあった。

 

 

「そうですね……状態としては安定期には入ってると聞いています、ただまだ軍務に就く事はおろか、他の子達と一緒に生活できる状態では無いので、現在は医局管轄の区画で療養している状態です」

 

「そうですか……それでその、彼女達に面会するというのは可能なんでしょうか」

 

「面会ですかぁ、今は時間が限られてますが、ウチの子達がちょくちょく面会してる状態にありますし……でもクルイの関係者が接触していいのかどうかの判断は自分ではつかないですから、もしお望みなら医局へ問い合わせをしますけど」

 

「すいません、可能なら確認をお願いしてもいいでしょうか」

 

「判りました、それでは医局に問い合わせてみます、もしそれが可能だとしたら面会をご希望されますか?」

 

「はい、宜しくお願いします」

 

 

 遠くインドネシアより来た基地司令長官、彼は嘗て生き死にを共にし、そして最後は別れの機会も無く送り出してしまった部下に再び会う為、この大阪の地で髭の眼帯に頭を下げるのであった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「久し振りだな黒潮、速吸、元気にしていたか……という言葉は口にするべきではないか」

 

「あー……うん、ご無沙汰してます日下部司令、あんま気ぃ使こうてくれんでも大丈夫やから」

 

「お久し振りです……日下部司令」

 

 

 日下部が吉野へ問い合わせした時から明けて翌日。

 

 鎮守府地下区画三階の医局にある談話室では、日下部と黒潮、速吸に電、そして吉野と陽炎という六名がテーブルに着いての面会が行われていた。

 

 吉野があの時電へ問い合わせをした時は即答こそ無かったが、本人達に確認を取った後に急ぎ色々な準備をしたのであろう、面会が可能という返答は事の他早くに返ってきた。

 

 それは日下部と二人のみではやはり色々と不都合があるという事なのだろう、主治医である電と責任者の吉野、そして彼女達が現在最も心を開いている陽炎を場に同伴するという条件が付くものの、面会自体は許可される事になった。

 

 日下部と吉野の正面には黒潮と速吸が並び、二人の脇には電と陽炎が付き添うという形。

 

 地下施設の為窓も無い部屋ではあったが、電の趣味であるガーデニングで育てられた植物が室内に配置され、また照明も考えて設置されているのだろう、そこは談話室という場にありがちな殺風景な姿は晒しておらず、どちらかと言えば植物がやや自己主張をした温室的な趣の部屋となっていた。

 

 

 久し振りに顔を合わせる三人、やはりそれは事の経緯を考えればぎこちなる事も仕方なく、また二人が日下部の事を提督や司令とは呼ばず、日下部の事を「日下部司令」と呼ぶ状態に、もう己はこの二人の指揮官では無いのだとこのクルイの司令長官は改めて自覚する事になってしまった。

 

 

「なんや教導受ける為に来たって聞いたけど、誰と誰連れてきたん?」

 

「あ~、ウチは今水雷戦隊の建て直しと育成が急務だからな、そっち関係の者を六名連れてきてる」

 

「あ……ごめんなさい」

 

「あ、いや違うんだ、今までウチはずっと軍務に振り回されていただろう? だから皆に碌な訓練や戦い方を仕込む事が出来なかった、だから安定した今は、今更だがそういう基礎をしっかりと学んで貰おうと思ってな……」

 

「あはは……そっかぁ、そうやなぁ、訓練は大事やもんなぁ」

 

「うん、訓練が出来る余裕があるなら、やっておいた方が色々と安心だもんね」

 

 

 互いの間には何かを伝えなければという心情があったが、それをどう口にしたら良いのかという戸惑いと、そして切っ掛けも無い為どうしてもぎこちない会話が場を支配する。

 

 その様子を横目に陽炎は深い溜息を吐き、電と吉野も苦笑を浮かべつつも黙って様子を伺っていた。

 

 日下部が大坂鎮守府へ連れて来た僚艦には、彼女達とは縁深い嵐や鬼怒、そして川内等も含まれてはいた。

 

 しかし流石にその者達と一度に面会するのは無茶と言う事と、もし面会中に発作などを起こし、それを見られた場合、黒潮達だけではなく面会に来た者達にとっても良く無い影響が出るだろうという事で、今回は敢えて日下部のみの面会とし、その結果を見て後の判断をしようという事になっている。

 

 ただその者達が大坂へ来ている事は二人には知らされておらず、また今回の面会も取り敢えずは30分と、ごく限られた時間のみの予定を組んでいた。

 

 そんなある意味限られた状態の貴重な時間、もっと其々は言わなければいけない言葉があるのは理解していたが、それでも言葉が出てこない焦りが余計に悪影響を及ぼし、最近では安定した状態にあった二人の心を黒く侵食し始める。

 

 

 定まらない視線、浅く繰り返し吐き出される息。

 

 そして薄く汗を浮べて所在無さ気に俯く二人を見て、日下部の表情も悲痛な物へと変わっていく。

 

 

 嘗ては軍務に追われ、余裕が無い状況はこの二人はおろか、麾下に置く者達を鑑みる事が出来なかった。

 

 そしてボロボロになり、何とかギリギリで救われ、漸く周りに目が向けられる余裕が出てきた時に目の前にあったのは。

 

 自身よりも更に磨耗し、それでも懸命に己を支え、ボロボロになってしまった部下達の姿であった。

 

 

 それを見た日下部は現在に至るまで可能な限り彼女達を気遣い、そして軍務以外の時間でも許す限りの時間を共にする様心掛けていた。

 

 クルイに着任するまではそういう行動が当たり前で、ペナンでは何かと艦娘を気遣い信望を得ていた男。

 

 だからこそこの男の窮地に、誰一人部下は逆らう事は無く、寧ろ支えようと身を粉にしてきたのであった。

 

 

 そして環境が改善され、数ヶ月を要して基地の状況も安定し、漸く周りの者達から笑顔が見られる様になった事に安心した時、日下部は思い至る。

 

 

 今ここには己を含め、生き死にを共にしてきた者達が笑う世界がある。

 

 しかしそこに居た筈の二人、黒潮と速吸の姿が無い事に気付く。

 

 恐らく戦場では己を殺し、一番周りの事を気遣っていただろう黒潮、艦種故に出撃回数が他の者より多かった筈の速吸。

 

 

 他の者と同じく、自身が笑うようにしなければいけない内の二人、いや、異動した者と考えればそこに秋津洲を含めた三人がその輪の中に存在していない事に日下部は気付いてしまった。

 

 状況的に責任自体は日下部が負うのが当然ではあるが、クルイが窮地に陥ったのは彼が何かをしたからという訳では無い。

 

 寧ろ日下部の手腕があったからこそ、その人望があったからこそクルイは瓦解せずに持っていたのである。

 

 以前足柄が評した様に、クルイという拠点は窮地にありながらその原因は内部には無く、寧ろ外因的に拠るものが殆どであり、言ってしまえば誰も悪くなく、誰も彼もが必死で、そして優秀過ぎたが為に起こった悲劇であった。

 

 

 そんな窮地の只中必死で拠点を建て直した男と、結局ギリギリで折れてしまった少女がそこに二人。

 

 

 テーブルを挟んで身の置き場も無いという状態で震える二人を見て、日下部栄治という男は席を立ち、そして頭を下げ二人に対して謝罪の言葉を口にしようとした。

 

 

 それを見て咄嗟に椅子から腰を浮かせようとした陽炎。

 

 怒りに染まるその表情は、しかし、瞬時に驚きへと変わってしまう事になる。

 

 

 何故ならそこには、頭を下げようとしていた男が吹っ飛び、その脇では拳を振り抜いた状態の髭眼帯という絵面(えづら)があったからであった。

 

 

「ちょっ!? 司令はんなにしとん!?」

 

「日下部司令!?」

 

 

 それまで発作が出る寸前だった状態の二人が驚いて立ち上がり、同時に心に広がりつつあった諸々が引っ込んでしまい、電でさえも呆気にとられポカンとした状態でその様を見ていた。

 

 

 恐らく付き合いで言えばこの中で最も長い筈の彼女、その彼女にしても髭眼帯が人をマジ殴りしている様は初めて見るという緊急事態がそこにあった。

 

 それは平時のヒョロ助からは想像も付かない程に激しさと、憤怒と言える程の表情を伴っての出来事。

 

 

「う……ぐ、よ、吉野さん?」

 

 

 殴られた日下部にしてもいきなりの事に思考が追いつかず、仁王立ちになり己を見下ろす髭眼帯を床から見上げる事しかできないという状態。

 

 

 そんな呆気と驚きに染まる談話室の中、真っ先に正気に戻ったのは陽炎であった。

 

 

「……ああもうっ! ほんともうっ! ごめんちょっと席を外すからっ、電ちゃん後宜しくっ!」

 

 

 脱兎の如く走り、髭眼帯の前にシャーしてきた彼女は勢いをそのままに、首根っこを掴んで部屋から出て行った。

 

 そんな談話室は未だポカーンとする者達が残され、誰も言葉を口にしないという微妙な空気に支配されていたという。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「……ほんともう、何してんのよ司令」

 

 

 夕方の日が赤く刺す電ガーデンの一角、海が遠くに見えるそこには、芝生の上で胡坐をかいて煙草をスパーする髭眼帯と、それに背中を預けバナナを齧る陽炎の姿があった。

 

 

「何をと言うか、何が?」

 

 

 髭眼帯の言葉にバナナを口に入れたままの陽炎は、眉を顰めてムッとした表情になる。

 

 そのやや膨らんだ頬は、恐らくバナナを口に含んでる為だけではないとだろういうのは最早お察し状態である。

 

 

「……いきなり殴る事はないんじゃない? ちょっとアレはやり過ぎよ」

 

「でも自分が殴ってなきゃ、君が殴ってたんじゃないの?」

 

 

 髭眼帯の言葉にモゴモゴとバナナを咀嚼しつつも、陽炎のむくれた表情が苦い物へと変わっていく。

 

 そして無言のまま背中合わせでプカーとモゴモゴが続く電ガーデン。

 

 暫くその状態が続いたが、バナナを一本食べきった陽炎が、再び房から一本を折りながら、ポツリポツリと呟き始める。

 

 

「……幾ら何でも殴るなんて事しないわよ、ほら……何て言うか、首根っこ捻り上げてシメるとか?」

 

「どっちにしてもそれ、艦娘が士官へしていい行為なんかじゃないよね?」

 

「仕方無いでしょ……あそこで日下部司令に謝られたりなんかしたら、あの二人の立場が無いじゃない……」

 

 

 新たに皮を剥いたバナナを一口齧り、苦い思いをバナナの甘さで誤魔化そうと陽炎は再びムグムグし始める。

 

 

「一生懸命戦って、自分が折れるまで頑張ったんじゃない、それって誰かに無理矢理押し付けられた事じゃないのよ」

 

「……まぁそれは彼も理解してると思うよ」

 

「理解してないっ! 理解してたら謝ろうなんてしないっ! もし日下部司令が黒潮と速吸の事ちゃんと考えてるんなら……あの時二人に掛ける言葉は「ゴメン」なんかじゃなくて「よく頑張った」になるんじゃないのっ!」

 

「それでも彼としては、あんな二人を見ちゃったらさぁ……やっぱ黙っていられなかったんだろと思うよ」

 

 

 艦娘は、それを指揮する提督という存在も、戦い、勝ち、守る為に存在する。

 

 提督という者は国を守護するという目的の為、或いはその大義名分を抱えつつも、艦娘達を導き、支え、時には非情と言われる命令を彼女達に下す存在である。

 

 そして艦娘も国を守るという言葉の為に血を流しつつも、提督という存在に寄り添い、付き従う事を支えとして戦場に身を置く存在であった。

 

 そんな関係を前に、擦り切れてしまうまで戦い、折れてしまった黒潮と速吸に対し、嘗ての提督という立場の日下部があの時二人へ口にすべき言葉は、労いの言葉よりも、ましてやそんな状態にしてしまったという無念から出る謝罪の言葉でも無い。

 

 

 彼女達がしてきた事を肯定し、間違いではなかったと認め、そしてやり遂げたのだという事を伝える、「提督としての言葉」が必要なのである。

 

 

 その言葉があってこそ初めて彼女達の中にあるクルイでの戦いは終わり、心を今も蝕む迷いと、そして後悔を拭う事が出来るのである。

 

 だがそれよりも先に謝罪をすれば、彼女達がそれまでしてきた事を、例え全ての責任を負う立場に就いていたとしても、寧ろ命令してきた指揮官本人が謝罪する事によって、それまでの全てが間違いであったと日下部が認める事になる。

 

 だから傲慢であっても、理不尽であっても、提督という立場であった日下部には彼女達へ対し、良くやった、ご苦労という言葉を贈る必要があったのである。

 

 決して謝罪の言葉は口にしてはいけない、それは過去に起こった全てを否定する事に他ならない。

 

 それを理解しているからこそ陽炎は席を蹴って日下部に詰め寄ろうとし、吉野もそれを理解していたからこそ、敢えて言葉は言わせずあの時は殴るという蛮行に出たのであった。

 

 

 苦しみ、迷い、考え抜いて、漸くよろよろと立とうとしていた二人の心を再び折らない為に、そして二人の心を汲んで怒りを抱え、飛び出そうとしたこの陽炎型の長女の為に。

 

 

「……うん、ごめん、司令が殴ってなかったら、多分私が殴ってた」

 

「う ん 、 知 っ て た 、てか相変わらず君は土壇場では後先考えない行動に出るんだねぇ」

 

「司令も人の事は言えないでしょ、何言ってんのよ……」

 

 

 本音を吐露して気が済んだのか、それとも髭眼帯に何か思う事があるのだろうか。

 

 陽炎は頭を髭眼帯へ預け、グリグリと押し付ける。

 

 そこに感じる感触を頼りに髭眼帯の方は苦笑を浮かべながらも、背中越しに陽炎の頭を軽く撫で付ける。

 

 

 そんな事が暫く続いたあと、空が紫色に染まる頃、陽炎が「ありがとう」と小さく呟いたが、その言葉は聞こえなかったのか、それともわざと聞かない振りをしていたのか、ついぞ髭眼帯からは言葉が返ってくる事はなかった。

 

 

 こうしてクルイの司令長官を殴り飛ばすという惨事が勃発した面会であったが、結果的にはそれが切っ掛けとなったのか、残された者達は結局苦笑交じりではあったが、其々の本音を伝え合う事になり、最後には別れの時に口にするべきであった言葉を、クルイより遠く離れた大坂の地で漸く交わしたのだという。

 

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 ただ言い回しや文面は意図している部分がありますので、日本語的におかしい事になっていない限りはそのままでいく形になる事があります、その辺りはご了承下さいませ。

 また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。


それではどうか宜しくお願い致します。

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