大本営第二特務課の日常   作:zero-45
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 前回までのあらすじ

 なーちんに狼さんの色々が暴露され、髭眼帯と時雨さんがほっこりしたというお話。


 それでは何かご意見ご質問があればお気軽にどうぞ。


2018/01/17
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きましたリア10爆発46様、有難う御座います、大変助かりました。


戦う理由、戦いを受け入れる理由。

 

「ねぇ那智君」

 

「何だ提督よ」

 

「ちょっと聞いていい?」

 

 

 大坂鎮守府執務室。

 

 髭眼帯は執務机に着き、目の前の光景に怪訝そうな表情のままプルプルと前を見ていた。

 

 そこには今言葉のキャッチボールを開始し始めた相手のなーちんと、その隣には白露型五番艦の春雨。

 

 そして背後には何とも言えない表情の親潮という四人の姿がある。

 

 

「えっとその、そこに居る艦娘さんはどなたでしょう?」

 

「うむ、それなんだがな提督」

 

「はい」

 

「ほら、今日私の荷物が呉から届いただろう?」

 

「あーうん……そうなんだ?」

 

「うむ、そういう事だ」

 

 

 何故か真面目な相のなーちんはそれで会話を切り、怪訝な表情の髭眼帯は会話のキャッチボールがそこで途切れてしまった事に首を傾げる。

 

 再びなーちん、春雨の順に視線を巡らせ、それから親潮へこの状況はどういう物かという答えを求める視線を飛ばすが、それを受けた親潮には当然答えを出せる物が手元にある筈も無いのでそのまま微妙な笑いを浮べ、取り敢えず返事の代わりに首を傾げてみるというカオスがそこに出来上がる。

 

 

「えっと那智君」

 

「うむ、なんだ提督」

 

「そちらの艦娘さんは……」

 

「いやだからな、呉から荷物が送られて来たんだ」

 

「……うんそれは今提督はっきりと聞きましたよ? て言うか荷物ってその、まさかそこの春雨君も含んだりしちゃったりしてないよね?」

 

「荷物です」

 

「……OK、了解、ちょっと待ってみようか? えっと君、確か白露型くちくかんの春雨君だよね? で、その、何と言うか初エンカウントでの一言目がそれってどうなのかなぁ? てか自己紹介で荷物ですってドウイウコト?」

 

「あーうん、これにはちょっとした深い訳があるんだ」

 

「……その深い訳がどうなると春雨君が荷物扱いになるのかの説明を提督は切に所望します」

 

 

 相変わらず怪訝な表情の髭眼帯の前では真面目な相のなーちんと、同じくものっそ真面目な相の春雨が佇んでいるというワケワカメゾーン。

 

 確か以前荷物的な着任ってあったかも知れないという髭眼帯の既視感は、そこを掘り下げると例の金剛型三番艦の、武蔵殺しというワードに到達してしまい、髭眼帯のプルプルが更に加速してしまった。

 

 

「実はさっき呉から届いた私物を荷解きしていたんだが、その中に春雨が紛れ込んでいてな」

 

「え、なにそれ荷物に紛れ込んでたって、えっと例えばダンボールに彼女がINしちゃってるというか……」

 

「何故その事を……いやまぁ待て、話を最後までちゃんと聞いてほしい」

 

「あぁぁぁぁかしぃぃぃぃ……あー……うんまぁ、はい……続きをどうぞ」

 

「うむ、それでだな、一体何がどうなっているのか春雨に聞いたんだが、どうも私の異動を聞いてついでに大坂に行きたいと思ったらしく、寺田司令にお伺いをたてた処許可が下りたらしくてな」

 

「え、待って提督その話聞いてないんだけど、それってマジの話なの?」

 

「うむ、で、取り敢えず異動の話は進めておくという事で、春雨の件は話が付いたらしいんだが……」

 

 

 何やら苦い顔をするなーちんがそこまで説明すると、春雨はスススと執務机の前まで移動し、スイッと一枚の書類を差し出してきた。

 

 首を捻りつつもそれを見る髭眼帯。

 

 手にした一枚の紙は色々な文字が記載された軍書式の物であったが、髭眼帯の視線はその書類の一番初めにある文字に釘付けになる。

 

 

【所属拠点異動申請書】

 

 

 それと春雨を交互に見て首を傾げてしまう髭眼帯。

 

 髭眼帯の記憶が確かなら、この手の申請は先ず本人が拠点司令長官へ口頭による上申を行い、そこで話が纏まれば希望する異動先へ通達、そして拠点間で折り合いが付いた段階で初めて異動申請書を作成し、正式手続きに入るという流れになっていた筈である。

 

 この様に艦娘の異動というのは、単純に所属が変わるという事実以上に戦力の異動という小さくは無い結果が発生する為、先ずは関係する拠点や、ヘタをすると大本営も挟んでの折衝が行われ、そこで話が纏まって漸く事務手続きに入るというのが慣習になっている。

 

 故に書類関係は【申請書】という名称になってはいても、結局それは最後の最後に形式として残すために作成されるという物になっている為、今回の様に髭眼帯が何も知らない内に書類が先に作成されているというのは先ず在り得ない。

 

 と言うか申請書という書類の提出先は、異動先の大坂鎮守府では無く呉鎮守府に対しての物なので、この時点で髭眼帯へ異動申請書が提出されるのはそもそもおかしな話であると言えた。

 

 

「まぁいきなり提督としてもこんな話を振られても困惑するだろうし、事実確認が先だと思ったので呉に問い合わせをしてみたんだ」

 

「……うん、で、そこんとこどういう事になっちゃってるのかな」

 

「正式書類は後で送付するので、取り敢えず春雨は大坂へ着任という事で手続きはしておいてくれと言われた」

 

「はいぃ? て事はこれ寺田さんも知ってて許可出したって事?」

 

「いや、流石にダンボールで移送された事とかは知らなかった様だが、異動の件は近々連絡するつもりだったようだ」

 

「え~……って事は、これ既成事実が先になっちゃってるけど、取り敢えずはこのまま着任手続きをしろって事ぉ?」

 

「すまんな、手間を掛けてしまって」

 

 

 何もかもの手続きをすっ飛ばし、兎に角無茶な異動劇である為その場では取り敢えず確認するまで話は保留となり、春雨の呉から大坂鎮守府への異動は結局その日より三日程を要し、最終的に受理される事となった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「ほんで? 結局寺田はんと話した結果、このピンクはウチに着任する事になったんかいな」

 

「えぇ、随分と提督達は難儀した様ですが、本人を取り巻く状況がややこしいという事で」

 

「ややこしいと言うか、こういう事実も前提として作っておけばという思惑があちらにはあるんだろうな、何にせよ、私の件も含めてだが、色々と面倒掛けるが宜しく頼む」

 

「……それはいいんですが龍驤さん、それがどうして彼女の世話役を雪風ちゃんが勤めるって流れになってるんでしょうか……」

 

 

 春雨がなーちんの荷物にINした状態で送られて来てから三日、現在は教導も大詰めとなり演習が繰り返される鎮守府近海を見渡す東屋では、半笑いで事の次第を聞く龍驤と、説明に終始する那智、そして演習の様子を見にきている大和が砲雷撃の光が瞬く大阪湾を背景に色々諸々に付いて談義中にあった。

 

 そこから見える海では去年から教導を受け続けている者達がガチンコに近い形での鉄火場を繰り広げ、人の目ではギリギリ確認できる距離で水柱を盛大に吹き上げさせていた。

 

 そして鎮守府に程近い位置では、動標的に囲まれる形で数人の艦娘がそれを縫う様に海を駆けつつ、砲撃訓練を繰り返していた。

 

 その中には件の春雨が雪風とコンビを組み、与えられたノルマをこなす為に絶賛訓練の真っ最中。

 

 互いに死角を補い、標的の間を一定速度で駆け抜け、更にはそれらを砲で撃ち抜くという反復訓練は、単調でありながらも課せられたノルマが高いレベルにあり、集中力と体力が高次元で要求されるという、基礎訓練の中にあって、最も艦娘達の間では辛いと評判の物であった。

 

 

「ん、ああそれはやなぁ、なんちゅうたらええんか……なぁ、なーちん」

 

「うむ、ちょっとアイツは問題と言うか、ここ一年程か……ちょっとした悩みを抱えていてな、そのせいでここへ異動を希望してきた訳なんだが……」

 

「問題、ですか?」

 

「うん……本来ならアレが抱えている悩みは新兵が煩う例の病気みたいなもんだが、どうしてかアイツはそれなりに軍務を任される様になってからその病気が出てきてしまってな、それを引き摺ったままここ一年ばかりは実戦へ出せない状態になっていたんだ」

 

 

 那智が言う春雨が煩っているという病気。

 

 それは戦う為に生まれ、死ぬまでそこから開放されないという自身の境遇に思い至り、一時的にではあるが「自分は何の為に存在し、どうして戦っているのか」という艦娘という存在の根本に思い悩み、戦う事が出来なくなるという、「戦闘依存症」とは対極にあり、そして艦娘のみが発症すると言われる病気の中でも最もポピュラーとされる「解離性自己喪失症候群」と呼ばれる病であった。

 

 人としての感覚で言えば、それは理不尽の極みであり、自身の生まれや生きている間の選択肢は殆ど無く、死ぬ事でしかそこから開放されないという生は呪い以外の何物でもないと言えるだろう。

 

 艦娘という存在も受肉して生れ落ち、そして意思と感情を持つ存在である為に、人と同じ感覚で己を客観的に鑑みた結果、そんな思考に陥ってしまうのは当然と言えば当然であった。

 

 

 しかし艦娘という存在は前世を戦舟(いくさぶね)に持ち、その魂の欠片を内に秘める為、戦場に出て戦い、そして己が生まれた(呪い)を自覚し、更にはそこ(戦場)で自身の存在意義を強く感じていくに従い、理不尽と思う気持ちも、何故と答えを求める思考も全て『艦娘という自分』に塗り潰され、最後は自身を取り巻く境遇さえも、いつしかそれが当たり前という状態へと変化していってしまう。

 

 

 嘗ては国の為、家族の為、そして現人神(あらひとがみ)を頂く臣民という思想の元、死を覚悟で戦う者達と共に海を駆けた殆どの舟達は、結果として望郷の念と共に、または無念を残し、或いは悲しさを胸に没した人達の生き様を己の内に抱えたまま、共に海底(みなぞこ)へと沈んで逝った。

 

 故に受肉して人型となっても尚、彼女達は人と共に在り、そして嘗ての様に不退転という絶対普遍の言葉を心に刻み、今世こそ前世で成し得なかった事を成すという想いを血と共に全身へ巡らせながら、救いの無い日々を今も生きる存在にある。

 

 

 過去の呪いが生き方を侵食し、解けぬ呪いをその身に刻み、しかしそれが自身の生き様だと心に全てを落とし込んでしまった者達、それが艦娘という生き物。

 

 

 そして明らかに理不尽とも言える生き様でさえも自然と受け入れてしまう精神構造は、歪な在り方をおかしいと感じるという当たり前の考えさえも、新兵の内に発症する「一過性の病」と片付けてしまう程には、歪んだ存在でもある。

 

 

新兵病(解離性自己喪失症候群)がずっと治らんとか、そら放逐されても仕方ないかも知れんけど……それ、ウチに来てなんとかなるモンなんかいな」

 

「さて、それはどうなのかは私には判らんが、少なくともここは呉に比べ個人へ対する扱いが「軍が定める一元化された運用法」にはない様だからな、思い悩む者を十把一絡(じっぱひとから)げ的に罪と断罪する者も居らんだろう?」

 

「しかしその手の問題は私達では無く、医局の範疇にあるんではないでしょうか?」

 

「大和の言う事も尤もだと思うし、実際私はアイツを医局に預けるつもりでいたんだけどな……」

 

「ん? 何か問題でもあったんか?」

 

「いや、アイツが提督へ悩みを口にしてる傍でな、たまたま雪風が居たんだが……」

 

「えっと、もしかして雪風ちゃんが春雨ちゃんを世話してるのって……」

 

「あぁ、何と言うか言葉足らずな部分もあって言いたい事を理解するのに時間は掛かったが、要約するとそういう事を雪風が提督へ伝えた結果、暫くの間春雨は雪風と行動を共にするという事になった」

 

 

 何を考えてそういう事を買って出たのかは知らないがなと言い、目を細めて見る那智の視界には、今もハイペースで訓練に勤しむ雪風と、それに引っ張られる形で汗を流す春雨の姿が映っていた。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 大坂鎮守府所属、陽炎型八番艦雪風。

 

 長く厳しい時間を経て現在に至った彼女は、自身の歪さを周りと比較する事で認識しつつあったが、それでもその歪さの中には他の者には無い強みが存在する事を認識し、出来る限りその部分を生かそうと日々を過ごしていた。

 

 過酷な過去は、戦いに使用する装備の縛りや不便さを伴わない代わりに、自身の身を常に危険へ晒し、肉体を削るかの如き不便を背負う状態になっていた。

 

 その部分に耐え、維持していくには単純な話、常に限界に近い鍛錬を繰り返し、自身の感覚を常に研ぎ澄ましていくという結論に辿り着く。

 

 錬度限界に達しているとはいえ、その肉体はあくまで雪風という艦娘の域は出ない物にある。

 

 そこへ大型艦と渡り合う為の戦い方を求めるならば、無理を課さねば成し得ないのは当然ではある。

 

 そして自身の内には本来ある筈のリミッターが存在しないとなれば、彼女が選択した生き方は、結局無理を背負う物となっていた。

 

 

 そんな雪風に伴われ、ある意味「おはようからお休みまで、暮らしの全てを見守られる」対象になってしまった悩める乙女、春雨。

 

 

 当初は余りにも激しい鍛錬と、殆ど言葉を口にしない雪風に振り回され、悩む余裕すら無い毎日であった。

 

 そんな日が三日、四日と続き、段々とその状態に体が慣れてきた辺りでほんの少しづつではあったが、彼女の中では考え事をする余裕が生まれる様になる。

 

 日々雪風と共に在り、今の春雨が考えるもの。

 

 それは不思議と自身が今まで抱えてきた悩みという物には至っていなかった。

 

 今行動を共にする、この雪風という少女は何故こうも激しい鍛錬を自らに課し、そして何故自分をそれにつき合わせているのかという現状に思いが傾く春雨。

 

 24時間シフトが組まれており、教導も夜間演習を含む大坂鎮守府にとって、総員起こしという物は存在しない。

 

 雪風はそういう中にあり、所属する部課署は未だ決まってない状態にあった。

 

 

 朝は〇五:〇〇(マルゴ マルマル)きっかりに起床し、朝食後は体を温める為に走り込み、それから念入りにストレッチをする。

 

 〇八:〇〇(マルハチ マルマル)には海に出て基礎訓練を淡々とこなす、それもハイペースで。

 

 そして昼食前にはクールダウンを済ませ昼食、一三:〇〇(ヒトサン マルマル)には再び同じ事を繰り返し、終始アップと基礎訓練、そしてクールダウンを繰り返す。

 

 夕食前にはたっぷり一時間を掛けて風呂で汗を流し、そして夕食を摂った後は、寮の大広間で何する事もなく、大抵は髭眼帯の近くで人物観察をする様に傍に佇み、二一:〇〇(フタヒト マルマル)には床に就く。

 

 

 ルーチンワークとも言えるそんな生活は、大広間の一時(ひととき)以外は常に自分を追い詰めるめるかの如く厳しい、そして変化の無い物であった。

 

 

 そんな生活に付き合い、七日目の夜。

 

 いつもの様に就寝の為に自室に向かい、春雨が部屋に入る時。

 

 毎日の決まり事になりつつあった「お休みなさい」の挨拶で終わる筈の時。

 

 春雨は、雪風に自身が感じた謎を聞くため、七日目にして初めて言葉らしい物を相手に伝えた。

 

 

「あの……雪風ちゃん」

 

 

 その言葉に雪風は言葉では無く、無表情ながらも首を傾げる事で、何か用かという意思を返す。

 

 既にその辺りは春雨も理解する程には一緒に時間を過ごしていた為、自身の中にあった疑問をゆっくりであったが雪風に吐露していく。

 

 

 何故誰にも命令されている訳でもないのに、こんなに厳しい鍛錬を毎日重ねているのか。

 

 何故そうする必要にあるのか。

 

 そして何故、自分をそれに付き合わせるのか。

 

 

 飾り気の無い、そして淡々とした春雨の言葉は、別に雪風を批難した訳でも、不平を含んだ物でもなかった。

 

 純粋に疑問に思った事と、そして彼女自身は気付いていなかったが、雪風という少女に興味を持つ様になってきた為に出たその言葉。

 

 

 相変わらず表情の変化は無く、それでも一言一句耳に入る全てを聞き、それに対する言葉を、誰かに何かを伝えるという行為を最も不得意とする雪風という少女は、どうすれば自身の気持ちがちゃんと相手に伝わるのだろうかと、答えにする言葉を心の中で何度も反芻(はんすう)する。

 

 そしてたっぷり数分を要し、答えを待つ春雨に雪風は彼女の右手を両手で握り、それを目に見える高さへと持ち上げた。

 

 

「おはようって、誰かに言うのが嬉しいです」

 

 

 生まれて以降、誰かと繋がるという事が無いのが常であった。

 

 

「一生懸命戦って、お腹一杯ごはんを食べて」

 

 

 理不尽な命令ではあったが、初めて「守れ」という命令を受け、心がはちきれるのでは無いかと思う程の何かを感じ、艦娘としての自身を認識した彼女。

 

 

「温かいお風呂に入り、誰かが笑ってるのを見て」

 

 

 だがその想いが芽生えた後にあったのは、全てが瓦解し、自身を縛る命令が消失、そうして漸く自分が何もかもを失った事を理解するという非情な現実と、死を強く渇望するという救えない現状であった。

 

 

「誰かにお休みなさいって言える毎日が……」

 

 

 全てを諦めたそんな先にあったのは、何故か自分を迎え入れ、何も言わないが全部をくれた姉妹と、仲間と、そしてしれぇという存在だった。

 

 

「雪風は、とても嬉しいです」

 

 

 何も無い処から自分が居るべき場所を得た雪風と、思い悩み自身の居場所を見失った春雨。

 

 正反対の存在であったからこそ、今のこの世界はとても大切で、得難い物なのだと雪風は伝えたかった。

 

 だがそれを言葉にして伝える術が思い至らず、今自分が楽しく、そして生きる事に意味を見出せる今を伝えるには、自分の見る世界を彼女にも見てもらおうと。

 

 そうして連れ出し、無茶な訓練に引き込み、そして付き合わせた。

 

 そんな彼女の行動と、裏にある真意は当然常識外れな物だった為に、普通は相手には何も伝わらないまま終わる筈であった。

 

 

 しかし何故かその直向(ひたむ)きな生き方と、無表情な口から出た「嬉しい」という言葉と、握った手から伝わる暖かさは。

 

 長らく誰とも繋がる事を拒絶してきた春雨にとって、それはとても眩しく、そして余りにも尻切れとんぼな物であるにも関わらず、言葉が胸にストンと収まる程には、何故か理解が出来る物であった。

 

 

 艦娘という理不尽な生き様という物に目を奪われ、足元にある自分の周囲が見えなかった春雨にとって、この雪風の言葉は、自身を取り巻く現状の認識という部分は変える事はなかったが、それでも見失っていた、見ようともしなかった景色を見せる程の効果は発揮した。

 

 

 遠くにある死へ続く道しかないと思っていた世界。

 

 何も無いと思っていたそんな道の周りに散らばるのは、自身が背負うべき、そして背負ってくれる者達の存在がある。

 

 

 そういう物が積み重なった先の結果として、己の死があるという現実は相変わらずとても理不尽で、やるせなくはあったが、少なくともそこには戦う為の理由はあるのだと、そう納得できる理由が探せるかもしれない。

 

 希望と言うには余りにも(むご)い一欠けらを握ってしまったが為に、この時春雨は理不尽を飲み込むという、歪と言われる艦娘特有の精神構造を完成させてしまった。

 

 それは逞しくもあり、だがこれから続く悲しくも辛い道を常道とする、戦舟(いくさぶね)としての存在が出来上がった瞬間でもあった。

 

 

 そしてこの日を境に徐々にではあったが、白露型五番艦のこの少女は自身の言葉を持つ様になり、自然と大坂鎮守府へ溶け込んでいく様になるのであった。

 

 

 が、その行動は、ある意味周りに感化されるという状態にあった為に、他の拠点に居る春雨とはちょっと毛色が違うと言うか、アレと言うか、そんな存在に成るのだが、そこはもう大坂鎮守府所属だからという事で周りにはスルーされる事になっていくのである。

 

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 ただ言い回しや文面は意図している部分がありますので、日本語的におかしい事になっていない限りはそのままでいく形になる事があります、その辺りはご了承下さいませ。

 それではどうか宜しくお願い致します。


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