大本営第二特務課の日常   作:zero-45
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 前回までのあらすじ

 夕張重工脅威のメカニズム再び、そのロマン溢れる武装にアイツもソイツも全員首ったけ!


 それでは何かご意見ご質問があればお気軽にどうぞ。


2018/01/28
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きましたリア10爆発46様、forest様、対艦ヘリ骸龍様、Jason様有難う御座います、大変助かりました。


九州の将

「いやしかしここはかなり特殊な拠点運用をしているな、何もかも一から覚えていかないと業務に付いていけないぞ」

 

「まぁねぇ、その辺りは自由にやらせて貰ってるから、その分手間がかかるって感じなのかしら」

 

「でも遣り甲斐はあるでしょう? やればやるだけ結果は残るんだから、達成感という面でウチに勝る拠点は他には無いんじゃないかしら」

 

 

 大坂鎮守府所属妙高型三姉妹、妙高、那智、足柄という三人。

 

 それは同拠点で建造された者同士でないと姉妹と言う強い絆を感じないという艦娘の性に在りながら、ウマが合ったのかたまたまなのか、岩川基地生まれの妙高、呉生まれの那智、足柄という者達は現在本当の姉妹と言えるべき関係を以って現在に至っている。

 

 そんな三人はちょっとオシャレなテーブルに座り、ワインやらポン酒やらをそこへ並べ、そして主に妙高が作った数々のツマミを口にしつつ酒を酌み交わしているという夜。

 

 ほろ酔いという状態が手伝ってか其々の口は思いの他軽く、また冗談交じりではあったが、今は着任すぐに鎮守府の要職に就いた那智の事を話題の中心にしつつ、酔いを深めていった。

 

 

 テーブルの脇に放置されプルプル震える髭眼帯を置物にしつつ。

 

 

「あの……えっと君達?」

 

「あら提督、ドクペおかわりでしょうか?」

 

「いやいやいや、提督の飲み物ならほら、このクソデッカイワイングラスに注がれた状態で間に合ってるし」

 

「ふむ、ツマミか? ならもうすぐシシャモが焼き上がるからそれを分けてやろう」

 

「あー……七輪の上でイイカンジに焼けてるねぇそれぇ……」

 

「私としてはイカの一夜干しがオススメかしら、醤油マヨで食べるともぅお酒が止まらないわ」

 

「だろうねぇ、君達むっちゃ飲んでるしねぇ、で、ちょっといい?」

 

「はい? どうかなされましたか?」

 

「ああうん、それはこっちの台詞と言うか、なんで君達こんな時間に提督の私室で飲んでるワケ?」

 

 

 大坂鎮守府艦娘寮二階最奥、提督の私室『吉野三郎臥房』では、妙高型の三姉妹が提督のマイルームその1であるキッチンスイートを陣取って酒盛りモリモリの真っ最中であった。

 

 マホガニーの一枚板で拵えたテーブルの上には七輪が鎮座し、干物だのシシャモだのがイイカンジで焼かれ、アンティーク調の椅子の上に胡坐をかいてポン酒を煽るという様は、何と言うか雰囲気やら部屋の調度品だのが台無しという、そんな飲みの席があったりした。

 

 

「あーうん、まぁ主目的は私の為に姉妹が気を使ってくれてるという席なんだが、それ以外にも提督に話があってな」

 

「……それって、警護のあまつんと朝潮君に帰って貰ってでないと出来ない類の話なの?」

 

「そーじゃないわよ、ほら、何と言うか本音トーク? そういうのをしようと思ったらほら、姉妹のみの方が気を使わなくてもいいでしょ? ね、妙高姉さん」

 

「そんなに大袈裟なものでは無いのですが、まぁ足柄の言う意味も少しは含まれている感じでしょうか」

 

「んで? 酒宴が同時開催しちゃってるその本音トークと言うか、提督にどういう話があったりするの」

 

「まあまあそう構える事はない、ほら取り敢えず酌でもしてやろう、さあグラスを空けてくれ」

 

「ちょっとぉ!? またタンサイダーじゃないコレェ!? 提督それもういらないって言ったでしょなーちん!」

 

 

 終始ペースを握られたまま三姉妹に囲まれる髭眼帯は、そろそろ時計の短針が11に届こうかという時間に自室でいじられるという酒の席。

 

 妙高も久し振りに髭眼帯とプライベートを共にするとあって、いつもの凛とした部分が成りを潜め、ちょっとノリが過ぎる状態になっていたのも場の雰囲気がカオスに傾いている原因となっている。

 

 

「てかねぇ提督」

 

「……ナニ?」

 

「あによそのジト目、別に取って食おうなんて思ってないんだから安心しなさいよ」

 

「ああうん……そういう考えは皆無だったってか、君が本気になったら多分そのヘン死屍累々になっちゃうだろうし」

 

「ナニがどう死屍累々になるって言うのよっ! てかその本気ってどういう意味!」

 

「まぁ待て足柄、取り敢えずこれ以上酒が進んでしまうと話が出来なくなる、先ずはそれを終わらせてからから好きにすればいいじゃないか」

 

「待って!? 足柄君を酔ったまま野に解き放ってしまうと提督の色々がエンドしちゃうからヤメテ!? なーちんお願い!?」

 

「そこぉっ! 何で私が性欲の獣みたいな話になってるワケ!? ねえっ!」

 

 

 狼さんが反論するのを真面目な相で見る髭眼帯となーちん。

 

 一人ヒートアップしてる狼さんは拳を縦にブンブンしながら二人へ抗議の意を示すのだが、その肩をポンポンと叩かれ、訝しげに振り向いた。

 

 そこには殺意が滲む笑いをベッタリと顔に貼り付けた妙高さんが、背中にゴゴゴゴという擬音を背負いながら首を傾げる姿があったりした。

 

 

「え……なに、妙高姉さん」

 

「幾ら姉妹の杯を交わした間柄であっても、やっていい事と悪いことの線引きはきちんとするべきかしらと今思ったの」

 

 

 こうしてアルコールが入った事でプラスもマイナスも大幅にはみ出してしまった妙高型三姉妹は、肝心の用事そっちのけで暫く提督私室での絡み合いを進めていくのであった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「んん? 四人目ぇ?」

 

 

 結局プチ酒乱達のプチ酒宴があれから小一時間続いた後、最後はノリノリのなーちんが足柄さんの服をひん剥いて、彼女が普段着用するランジェリーは黒のレースという衝撃の事実が発覚した辺り。

 

 そのアレと言うか何というかそれなインパクツで酔いが醒めてしまった面々は現在椅子に座り直し、またチビチビと静かにグラスを傾けながら話の本題に入ろうとしていた。

 

 ただ狼さんだけはヤケになったのか、何故か上半身ブラで下半身芋ジャージという姿で酒の入ったグラスを煽ってはいたが。

 

 そして場が静かなのは、それが余りにも何と言うかぶっちゃけ直視するには心が痛いという事情を多分に含んでいる物であったが、それを言葉にしてしまうともう色々手遅れになってしまうと誰もが思ったので、全ては微妙な空気のままスルー状態にあったりする。

 

 

「ああ、今回の軍令部から発布された命令の中には、『妙高型を揃えろ』という事も含まれていたのだろう?」

 

「あーそれ? うんまぁそうだけど」

 

「今現在は私に那智、そして足柄が着任状態にあるのですが、提督としては残りの四人目……末の羽黒はどうするおつもりかという事を確認しておきたいと思いまして、今日はお部屋にお邪魔させて頂きました」

 

「どうするか……って言うか、うーん、正直今は色々目白押しで実はその辺りまだ全然詰めてないんだよねぇ」

 

「まぁ……今の提督の状態からするとそうなるだろうな、言い方はアレになってしまうが、副艦の立場から言ってしまえばこの話は優先順位という面で考えれば低い物と謂わざるを得ないし」

 

 

 苦い顔の髭眼帯の言葉になーちんも同意の言葉を口にしつつ、それでも視線を上半身黒のブラ一丁の足柄さんへと飛ばした。

 

 そして半ばヤケになったのだろうか足柄さんはスックと立ち上がり、特定部分をプルルンとさせつつも芋ジャージに手を突っ込んでそこから何枚かの書類を取り出すと、それらをマホガニーのテーブルの上にシャーした。

 

 それをビジュアル的に表現するなら、黒ブラでプルルンする狼さんがスッと立ち上がりつつ芋ジャージの股間部分へ手を突っ込んで、そこから体温と言うか股でほのかに暖められた書類数枚を西部劇に出てくる酒場のバーテンダー宜しくマホガニーのテーブルの上へスタイリッシュにシャーしたと言っちゃえば恐らく想像ができちゃうのでは無いかと思う。

 

 そんなちょっとホカホカしたA4の書類をものっそ真面目な表情で受け取った髭眼帯は、手にしたちょっとホカホカしている書類に視線を落とした。

 

 

「あーうん、なる程……そういう訳ね、て言うかこの書類の話に移る前に妙高君、一言いいだろうか」

 

「はい、どうしました提督?」

 

「あそこのシャーしたポーズでこっち睨んでる狼さんにその……上着的な物を羽織ってもらう事は可能だろうか」

 

 

 髭眼帯のプルプルしつつもお願いから出た言葉に妙高は、未だシャーしたポースのままにある黒いブラの狼さんへ黙って視線を飛ばし、薄い笑いを滲ませた相でじっと見詰める。

 

 暫くその何とも言えない、髭眼帯的にはプルプルしちゃう気まずい空気は暫く続いたのであるが、シャーした足柄さんはそのまま何も言わず椅子に掛けてあった芋ジャージの上をもそもそと装着し始める。

 

 そんな情景を眺め、髭眼帯はこの三人の姉妹関係には変な逆転現象が発生しておらず、ちゃんとした序列が出来上がっている事を確認した事である意味安堵するのであった。

 

 

「えーっと? これは他拠点の羽黒君達の身辺調査書な訳だけど……」

 

「はい、少し出過ぎた真似かと思いましたが、現在ウチへ異動が可能では無いかと思われる他拠点の羽黒をこちらで調べ上げてみました」

 

「ふむ、セレターにトラック、あとそれと……佐世保ぉ?」

 

「ああ、提督なら知っているとは思うが昔からあそこは鷹派にはあったんだが、例の岩川基地の頭が変わった時に佐世保でも司令長官が勇退してな、その片腕だった男が今は司令長官の任に就いている」

 

 

 国内にのみ存在する鎮守府という拠点。

 

 元は横須賀、呉、舞鶴、佐世保の四つに加え、兵站の要にあった岩川基地を含めた五箇所がある程度の権限と自治を認られる特別な拠点であった。

 

 その内横須賀は中立、呉と岩川は慎重派、そして舞鶴と佐世保は鷹派側という形で其々の力関係は拮抗した物になっていた。

 

 

 ただその拠点の内舞鶴は艦政本部直轄という形であったものの、佐世保は少し特殊な状態で鷹派という立ち位置にあった。

 

 元々はそれ程好戦的では無かった当時の司令長官、名を幡多芳衛(はた よしえい)という中将がそこを掌握していたが、その人物は当時岩川基地司令長官であった染谷文吾(そめや ぶんご)とは犬猿の仲であり、その個人的関係は互いの立ち位置を慎重派と鷹派に分ける程には折り合いが悪い関係にあった。

 

 他にも理由は色々とあったが、ぶっちゃけてしまうと佐世保が鷹派に属した拠点であったのは、その仲の悪さ故の事という理由がかなりの割合を占めていたという。

 

 その為「敵の敵は味方」というか、染谷が慎重派だからこっちは鷹派という、何とも根が深いのか浅いのか判別が付かない状態で佐世保と岩川は敵対派閥という形があったのが、鷹派と慎重派のパワーバランスを絶妙な物にしていたのである。

 

 

「で、現佐世保鎮守府の提督は九頭路里(くず みちさと)という男なのだが、これが中々目端が利く男でな」

 

「九頭司令かぁ、実のとこ鷹派の人間関係はあんま突っ込んだ情報持ってないんだよねぇ」

 

「そう言えば、必要以上に外と繋がるなというのが特務二課の方針でしたね」

 

「そそ、あくまで将官お抱えの独立実験艦隊って立ち位置だったから、余計な横槍を避けたいって事だったみたいでさ……」

 

「なる程ぉ? まぁ大隅さんとしても鷹派とは事を構えたくないって方針だって寺田司令は言ってたし、それで提督はそっち側の情報に疎かったワケね?」

 

「特務課に所属していた頃は結構その辺りは把握してたんだけどねぇ、第二特務課に着任した後はまぁ微妙な立ち位置だったからさ」

 

「大坂に移ってもそっちに目を向ける余裕は無かったと?」

 

「それこそ優先する色々が目白押しだったしね、まぁそのお陰で例の野田少将さんとか辺りの事なんか気付けなかったし……」

 

「まぁその辺りはさておきだ、現佐世保の司令長官にある九頭中将だがな、この男は相変わらず旧慎重派とは折り合いが悪いままなのだが……」

 

「だが?」

 

「実は鷹派に対しても余り好意的ではない、と言うか派閥という縛りにまったく興味が無いという自由人だ」

 

「はぁ、またそれは何と言うか、それでやってけてんの佐世保」

 

「だから目端が利く男だと言ったろう? 現在佐世保はどこにも組しない代わりにどことも敵対していない、要所であちこちに貸しを作るなんて小回りを利かせてそれなりに上手く立ち回っている様だ」

 

「えー…… 佐世保が鷹派から外れたなんて情報はこっちに入って来てないんだけど」

 

「表面上は鷹派という事にしといてやる(・・・・・・)という事にして貸しを作っているようだ、と言えばどうだ?」

 

「あー、確かにそれなら情報は出てこないし、艦政本部にも佐世保にも益はあるって事かぁ」

 

「それと同時進行で、目立たない程度にだが旧慎重派だの南方だのに関係は持ちつつあるみたいだがな」

 

「……あーなんとなく話は読めてきたよ、そういう枝葉を伸ばす目的と、ウチの事情が合致したって事で、あちらさんから羽黒君をどうですってウチに話が回って来たと?」

 

「ああいやすまん、この羽黒の話はあちら側からではなく、私が持ち掛けた話だ」

 

「え? そうなの?」

 

「うむ、性格的に九頭司令と提督が合うかどうかは判らんが、能力面ではどこにも頼らず鎮守府を回せる程には優秀な男だ、そういう者と縁を持つのは提督としても悪くはあるまい? 結果としてもし双方が合わなかったとしても、それはそれで相手を知るという結果を一つ得た事になるしな」

 

 

 武の方面一辺倒と思われた、いや実際そういう艦娘だった那智だが、現在は鎮守府の艦隊総副艦という任に就き、信頼を勝ち取る為に独自で出来る事をと動く日々を送っていた。

 

 それは彼女自身ですら気付かない変化であったが、海の上にしか居場所が無いと変わる事を頑なに拒んだ筈が、自ら変わりつつあるという皮肉が、結果として那智の生きる道を広げるという結果に繋がりつつあった。

 

 

「ふーん……なる程ねぇ、で? 他にも候補の書類はある訳だけど?」

 

「それこそ備えだ、選択出来る物が手元に多くあれば交渉を進める上でも思い切った事が出来るだろう?」

 

 

 ニヤリとするなーちんから髭眼帯は妙高に視線を飛ばせば、今度は純粋な笑みを浮かべた妙高が黙って一度頷いて己の意思を垣間見せる。

 

 

「んじゃえっと、この書類があるって事は向こうへは連絡を?」

 

「目的はわざと言って無いが、返って来た反応を考えれば恐らくはこっちの意図はある程度察していると思う」

 

「うん、上出来だよ、交渉ってのはね、触りは幾つもの可能性を相手に見せておくのは基本なんだ」

 

「……そうなのか?」

 

「そそ、そうすれば相手からの狙い撃ちの確率は低くなるし、いざとなったら話を調整する事が出来る、ようは幾重にも嘘を用意しといて、状況によってその中の一つを本物として選ぶんだ」

 

「決まった目的を嘘で誤魔化すんじゃなくて、嘘しかない中から本当を選ぶのか」

 

「それで納得いかないなら本当を幾つも用意して、そこから一つを選ぶと思えばいいけどさ、それだと話が切りにくくない? ほらあっちもこっちも捨て難いって感じで」

 

「ああ……そうだな、用意した話がどれもいける物だと考えてしまうと、自分が選んだ話が本当にこれでいいのかという事が、後で気になってしまうかも知れんな」

 

「君の性格だとそうなるだろうね、だから最初からどの話も捨てていい嘘だと思えばいいんだよ」

 

 

 極自然な誘導で今まで関わらなかった面の教育を那智へする髭眼帯を見て、妙高と足柄はその様を肴に酒を酌み交わしていく。

 

 こうして徐々にであったが大坂鎮守府艦隊総副艦の那智という艦娘は、吉野三郎という男から役職に必要なスキルをみっちり仕込まれる事になり、武闘派でありつつも長門を支える二番という、ある意味組織では一番肝要な柱へとなっていくのであった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「佐世保鎮守府司令長官九頭路里(くず みちさと)です、初めまして吉野中将」

 

「こちらこそ、大坂鎮守府を預かっている吉野三郎です、宜しくお願いします」

 

 

 妙高型三姉妹との酒の席から三日後、業務が終了した一九:三〇(ヒトキュウ サンマル)

 

 執務棟地下三階作戦指揮所では、時雨とポイヌ(夕立)に挟まれた髭眼帯が秘匿回線を利用して秘密の会談を行っていた。

 

 

 相手は言わずと知れた佐世保の主、50インチ程のモニターに映るその姿は一言で言えば巨漢、それも過剰に筋肉で装飾されたかの如きいかつい体躯をそこに見せていた。

 

 

「お噂はかねがね伺っていますよ、持てる力を最大限に利用して一気に派閥を引っくり返したその手腕、自分も見習いたいもんですなぁ」

 

 

 歳の頃で言えば三十も半ばだろうか、好意的な笑いを浮かべているものの、元から強面なのだろう面構えは、その笑いでさえ威嚇しているのではという程の雰囲気を画面の向こうに漂わせていた。

 

 

「いえいえこちらこそ、今まで一度も関わった事がないのに、突然不躾なお願いをしてしまい申し訳ありません」

 

「まぁお互い拠点を任されてまだ手一杯の部分もありますし、鷹派と慎重派の出ですから、何か用がなければ避けるというのが普通でしょう、お気になさらず」

 

 

 事前に聞いていた話では、どちらかと言うと搦め手に強いという話であったその男は見た目は間違いなく武官然としており、また立ち振る舞いはお世辞にも繊細な話を要する交渉事に向いている人物には見えなかったが、初見なので判断はつきにくくはあるが、その言葉の端々には何か引っ掛かる物を感じた吉野は現在会話に集中する状態にあった。

 

 

「あー、では早速なのですが、本題に移らせて頂いても?」

 

「ですな、お互い忙しい身、余り回りくどい話しは互いに必要とせんでしょう、どうぞ」

 

「では、現在ウチでは軍令部よりとある命令が下されていまして、それを成す為には現況妙高型の四番艦を欠いた状態にあります」

 

「ほぉ、軍令部直々……ああいや、大隅殿から吉野殿になら、まぁ筋として直接的な命令がいってもおかしくは無いですな」

 

「えぇまあその辺りは秘匿事項を多分に含むので、多くは語れませんが」

 

「……なる程、その為に羽黒をどこかから引っ張ってこないといけない状況にあると、そしてこういう席を設けると言う事は、ウチの羽黒を……という事ですか」

 

「えぇ、正直に言えばお願い出来そうなアテは幾つかあるにはあったんですが……」

 

「ふむ? では何故ウチに?」

 

「あー、腹を割って話をすると、ヘタに他拠点との中途な縁が繋がるという状態になるよりも、こういうのは最初から割り切った話ができる相手の方がいい、と、そういった考えがありまして」

 

「なる程、それはいい判断ですな、関係というのは結んで良い縁と邪魔になる縁がある、中途半端な縁というのは何事に於いても一番厄介な物になると自分は思っておりますから、吉野殿の考えには深く同意致しますよ」

 

「まぁそれで突然の話で申し訳ありませんが、今申し上げた通り九頭司令にはそちらの所属にある妙高型四番艦の羽黒をぜひこちらに迎えたいと、こうお願い致したいのですが、その辺り如何なものでしょうか?」

 

「羽黒ですか、確かに我が鎮守府は呉程では無いにしても艦娘の層は厚くあります、しかしながらくれと言われてはいそうですかと二つ返事できる理由も、そして縁も現在ありませんから、ふむ……」

 

 

 挨拶からの直球勝負。

 

 搦め手を主とする吉野からしてみればそれは少々乱暴なやり方ではあったが、何気ない会話を交わした印象では目の前の九頭という男は、武官然とした立ち振る舞いをしつつも、言葉の端々には一環して「当たり障りの無い言葉」と「相手の話を聞きつつも答えを見せない曖昧さ」が巧妙さが見え隠れしていたと感じた為、腹の探り合いは止めて出方を見るという事で相手の出方を見る事にした。

 

 

 会話が止まった指揮所、モニターに映る巨漢からは悩む様な仕草をしつつも、明らかに髭眼帯を値踏みする空気が読み取れる。

 

 それは牽制なのか、それとも真っ直ぐに話題を振った事に対しての真意を探っているのだろうか。

 

 どちらにしてもその様子は、明らかに吉野と同じ部類の者特有の空気を滲ませていた。

 

 

「……吉野殿、話を進める前にいいだろうか」

 

「はい、何かあったでしょうか」

 

「自分は余り他者とつるむのは良しとしない、だから割り切った関係というのは歓迎する処ではあるんですがね」

 

「えぇ、自分もそういう関係は嫌いでは無いですよ?」

 

「では、そういうのを前提として、互いに本音……と言うか、本性を見せての話を進めたいと思うのですが、如何でしょうかな?」

 

 

 やや剣呑な空気を纏い、巨漢が口元を歪めた笑いを称えながら前屈みになる。

 

 それに対し髭眼帯も無言で睨み返しつつも、頭の中では九頭からの提案を受けるか否かの算段を付けていた。

 

 

 その空気は痛い程に張り詰めた物となり、護衛と言う事で指揮所に詰めている時雨とポイヌ(夕立)もただ黙ってそのやり取りを見ているだけしか出来ない。

 

 そんな緊張した時間が一分程続くが、「では」という髭眼帯の一言から事は劇的に動いていく事になる。

 

 

「馴れ合うのも疲れますし、折角ご提案頂きましたので、お互い割り切った関係を前提に本音で話を進めましょうか」

 

「その前に、ここであった話や情報は結果が纏まる纏まらないという如何に関わらず、外へは漏らさないという事で」

 

「えぇ、こちらも他言無用の方が有り難いです」

 

 

 モニターの向こう側では、より一層獰猛さを増した笑いを隠そうともしない巨躯が睨みを利かせ、そして手前では前傾してテーブルに肘を付き、鼻から下を覆う様にした手に顔を置くいつもの(・・・・)吉野という対峙が出来上がる。

 

 そんな空気に時雨と夕立の緊張も増していくが、その二人を無視した形で話はどんどん転んでいく。

 

 

「あー吉野(うじ)、そちらは今友ヶ島警備府を取り込んだ形で拠点運用を致しているのでござったか」

 

「え、うじ? ござる?……え、えぇまぁ色々都合がありまして、友ヶ島警備府は現在我が鎮守府に拠点を移して活動中にありますが……」

 

 

 目の前に見えるモニターの中には相変わらず物々しい雰囲気の巨漢が映っている。

 

 それは先程と何ら変わりがない絵面(えづら)であったが、九頭が言った言葉の端々と言うか、妙におかしい言葉の結びに髭眼帯は少し怪訝な表情でモニターに映る人物を観察する。

 

 

「と、いう事は吉野(うじ)、今そこには睦月型の駆逐艦が勢揃い状態にあるという事でござるな?」

 

「は? ござるて……え」

 

「その辺りどうなのでござろうか」

 

「あー……はい、まぁそうなりますが」

 

「フヒッ……そうでござるか、それは僥倖、なら吉野(うじ)、こちらはそちらのご希望通り羽黒を輩出しますぞ」

 

「え……あーその、有難うございます?」

 

 

 相変わらず物騒な表情の強面、しかし言葉を重ねていくにつれ、それは何と言うかどんどん怪しい空気へシフトしていく。

 

 その空気を感じたのは髭眼帯だけには留まらす、脇に立つ時雨とポイヌ(夕立)も揃って怪訝な表情で奇怪な言葉遣いをする巨漢を凝視するというカオスがジワジワと指揮所に広がっていく。

 

 

「まぁウチは初霜ふもふと若葉タンが居れば何も問題ないでござるゆえ、フヒッ、ただその代わりに条件を一つ飲んで頂くでござるよ?」

 

 

 吉野は思った、確かに互いに本音と言うか本性を見せ、しかも他言無用という形で話をしようとさっきは言った。

 

 だがその本音かつ本性と言うのは、髭眼帯的には性癖をぶっちゃけてのヘンタイさん的トークの事では当然無い。

 

 寧ろ初霜ふもふだの若葉タンだのの病的な呼称を口にするこの佐世保の司令長官はヤバいのでは無かろうかと、体内にある嫌な予感メーターをピコンピコンさせつつ眉根の皺を深くしていった。

 

 

「条件とはズバリ、そちらの第二期教導生にウチの艦隊を編入して欲しい、そして拙者もそれに同伴して寮にお泊りをするという許可を頂きたいのですぞ」

 

「え~ 教導に九頭さんついてくるのぉ? なんでぇ?」

 

「白露型くちくかん二人を(はべ)らせる吉野(うじ)なら拙者の気持ちはご理解できるでござろう、そちらに行けば睦月型の天使達が勢揃い、そしてウチからは初霜ふもふと若葉タンが参加となれば……それはもう正にパライソ! 右も左も上も下も見渡す限りくちくかんまみれではござらんかっ! そんな世界を想像してしまってはもう、おっふ……拙者、もう……もう辛抱たまりませんぞぉ!」

 

「天使ぃ? パライソぉ? なぁにそれぇ?」

 

 

 吉野は再び思った、確かに自分も目の前の男は自分と同じ類の者であるという感じを抱いたが、それは特定の性癖に傾倒した病的な嗜好という部分では無く、ましてやそういうハライソ的なワールドに対する特別な想いは自分には理解が微塵も及ばないと。

 

 

「拙者吉野(うじ)を見た瞬間ビビっときたでござるよ、この者はまごう事なき同好の士であると、なればこそ……紳士としての本性を晒し合って熱いベーゼを共有し、互いにエデンの園へと至ろうではござらグッファ!?」

 

 

 そんなメーなヒートアップをする筋肉達磨であったが、怪訝な表情でモニターを見る髭眼帯達の視界から突如真横へ吹き飛んでいき、画面からフェードアウトしてしまう。

 

 次いで何回かの鈍い殴打の物と思われる音と、「アオッ!?」「フォウ!?」という形容のし難い珍妙なボイスが断続的にモニタースピーカーから聞こえてくるというカオス。

 

 

「ぬふぅっ!? なにをするでござるか若葉タン! 拙者今大事な打ち合わせ中でありますぞっ!」

 

「煩い! 何やら昼前からソワソワと様子がおかしいと思って監視していたら何だこれはっ! 仮にも提督は佐世保鎮守府の司令長官だろうが、他の拠点へ対して恥を前面に晒し一体何の話をしているっ!」

 

「ウッホ! 痛いぞ! だが……悪くない」

 

「くっ……いつも言ってるだろう……そういう時に若葉の台詞を使うなと……」

 

 

 画面に何も見えず、ただ淡々と罵倒と奇怪な声が聞こえてくるモニターの前で、プルプルと待機する髭眼帯と護衛のワンコメイド二人という、とても居たたまれないという時間がそこにはあった。

 

 

 佐世保鎮守府司令長官、海軍中将九頭路里(くず みちさと)

 

 頭脳明晰、身体能力も破格の能力を有するというある意味パーフェクツな将官。

 

 しかし天はこの男へ二物を与えた代わりに、その他のステータスは全てマイナスにする事でバランスを取ってこの男を世に放逐した。

 

 対外的に己を律していた為に軍部では有能という評価にある反面、佐世保鎮守府という縄張りの内では本性を隠さず執務に就いていた為、鎮守府内ではこの男の事を『最後まで使われる事が無かった最終兵器』や『九頭路里と書いて(クズロリ)』と艦娘達からは散々な呼ばれ方をしている提督がこの男の本性であった。

 

 

 こうして野太い男の奇怪なご褒美有難うボイスを延々と聞かされ続けた髭眼帯達は、その後なんの面倒も無く妙高型四番艦の羽黒を譲り受けるという話を纏めた訳だが、その代わりとして教導艦受け入れの第二期生へ佐世保の艦隊を加えるという確約と、九頭が二泊三日で大坂鎮守府へお泊りするという条件を飲む事になったのだという。

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 ただ言い回しや文面は意図している部分がありますので、日本語的におかしい事になっていない限りはそのままでいく形になる事があります、その辺りはご了承下さいませ。

 それではどうか宜しくお願い致します。



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