大本営第二特務課の日常   作:zero-45

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 前回までのあらすじ

 切れた筈の縁が繋がる瞬間、それは自覚も無いままに心を掻き乱すが、救いは無く、喜びも無く、新たに紡ぐだけという海の無常が姉妹に存在するだけだった。


 それでは何かご意見ご質問があればお気軽にどうぞ。


2018/09/16
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きました坂下郁様、リア10爆発46様、pock様、yu saito様、有難う御座います、大変助かりました。


そして刻は来た

「若葉、あちらに到着したら先ず教導実施状況を確認するように、初霜は施設群の方を、夜半にはそのデータを持ち寄って有用かどうかの精査を行う」

 

「そうか判った、それで? 提督はどうするんだ?」

 

「私か、私は挨拶を済ませた後見学可能な鎮守府施設を見て回ろうと思う」

 

「大坂鎮守府は他の拠点とは違う作りになっていると聞いてますし、その辺りのご確認でもするのでしょうか」

 

「そうだな、四大鎮守府よりも後に整備され、しかも地下には艦娘が正式運用される以前の研究施設が丸ごと残っていると聞く、あの施設はかなり機密度が高い物であった筈だが……」

 

「確かそこの責任者として着任しているのは……」

 

「元大本営医局総責任者だった電さんと、天草女史でしたよね」

 

「うむ、どちらも施設を運用していた当時の本人と、その知識を持つ二人、あの地下施設は用途的に使える者がおらず今まで封印されていたが、今はそこの主に相応しい人物達によって運用されている、だからその部分も出来れば探りを入れておきたい処ではある」

 

「なる程……しかしそんな裏側まであちらは見せてはくれないだろう? 無理に突っ込んで相手を警戒させる様な事は避けるべきだと若葉は思うんだがな」

 

「まぁその辺りの警戒は当然あるだろう、だから取り敢えずは様子見をしつつ相手方の出方を見る、一応中将の肩書きがあれば早々邪険には出来んだろうしそこは自分が受け持つのが最適だろう?」

 

「他に特殊な部分と言えば、あそこは元々配置されていた警備府も取り込んで近海警備をその者達に任せているとか?」

 

「……友ヶ島警備府だな、呉所管の内最も水雷に長けていた猛者だと聞いている」

 

「友ヶ島……確か最近司令長官が変わったと聞くが」

 

「麾下にあるのは天龍型姉妹を筆頭に、睦月型で運用される……フヒッ、海域警備に特化された部隊だそうだ……」

 

 

 南海本線堺駅構内。

 

 大阪の私鉄で最大と言われるその沿線は主に海沿いを走る区間が多く、深海棲艦が跋扈していた頃は海軍が一時徴発して軍用路線として使用していた鉄道である。

 

 市内を走る環状線は南海電気鉄道運用のまま、本線であるなんば-和歌山間のみ軍の管轄という形で運用されていたその路線は、大阪鎮守府の壊滅時には泉佐野周辺が使用不能となり、一時はなんば-貝塚、尾崎-和歌山という分離した区間で運用されていた。

 

 だが大阪湾から瀬戸内海と西日本の要所が点在する沿岸を守護する為、呉鎮守府を始め瀬戸内警備軍が編成整備され、更には淡路島基地と友ヶ島警備府による徹底した哨戒網という蓋を紀伊水道へ敷いた為、内海周辺は日本で唯一安全な水域と言われる事となる。

 

 それを受け、また大阪鎮守府という要を無くした結果同路線は再び南海電気鉄道へ返還、現在は全ての区間が開通状態にあり、区分は民間鉄道という形で落ち着く事になった。

 

 しかし三年前再び大阪鎮守府跡地が整備され大坂鎮守府として活動するに至り、物資の搬入手段に、また舞鶴鎮守府との関係が成立して以降その路線の重要度が増した為、吉野の働きにより泉佐野-前島-大坂鎮守府の旧称空港連絡線区間は再び軍の管轄となる事となり、更には戦時特例により本線に対しても重要物資輸送時に於いてはその運行ダイアに割り込む事が可能な状態となっている。

 

 

 そんな路線を走る一台の列車。

 

 南海50000系ラピートを買い取り軍用列車に仕立てた車両『大坂28号』の車内には、現在佐世保鎮守府司令長官である九頭路里(くず みちさと)と、秘書艦である若葉と初霜の姿があった。

 

 行き先は言わずと知れた大坂鎮守府、用向きは二期教導に佐世保選出の艦娘を出す前に施設及び教導状況を確認する為となっている。

 

 現況で言えば大坂鎮守府とは深海棲艦上位個体を擁し、また大本営教導艦隊の中核であった叢雲と赤城が着任しているとあって教導という面では信用の於ける拠点という触れ込みとなっていた。

 

 それは信用半分と、力を持つ派閥の中核という面での遠慮が周囲へそうさせているという事情も多分に含む。

 

 だが佐世保と言えば形式上であったとしても艦政本部、つまり現在の鷹派に属する拠点である。

 

 そして現在の大坂鎮守府は独立した派閥と言えど、一部では未だ軍令部(大隅 巌)の影響があると見ている者も少なくない、そこへ教導として鷹派の艦隊を預けるとなれば、対外的に、更には言い訳という面に於いても事前の見学という行動は必要である。

 

 という体で九頭は周りと艦政本部を無理矢理納得させ、今回はわざわざ自身が乗り出して大坂入りを敢行したのであった。

 

 

「ふむ……『紀伊水道の門番』か、噂には聞いた事がある」

 

「えぇ、型遅れの艦娘のみで編成された二艦隊、しかしその練度と海域を知り尽くした部隊運用は、後発の高性能艦の働きにでも引けは取らないとか?」

 

「うむ、前任の唐沢という男の手腕の下、あの海域のみという限定だが、その偏った運用が天龍型とむちゅき型の天使達を剛の者に育てた、その艦隊を見学するのもお前達二人には勉強になるだろう……くふっ」

 

「確かに睦月型に初春型、我々と似た様な部分があるからな……時に提督」

 

「うむ、何だ?」

 

「むちゅき型の天使とは何だ?」

 

「うむ? むちゅき型と言うのはだな、華奢な体躯につぶらな瞳、あの二次性徴期前のスウィートかつ純粋な少女としての特徴を有す初春型(一部除く)と双璧を成す正にくちくかゴッフ!?」

 

 

 九頭がクズ化した瞬間若葉の右拳が腹筋へ突き刺さり、そのまま体がくの字に折れ曲がって椅子の上でバウンドする。

 

 常人ならば内臓破裂級のボディブローを受け、身長195cm体重123kgの筋肉ダルマが跳ねる事で椅子がへし折れそうな音を立てるが、それでも本人は「オホゥ」と奇怪な声を上げるだけで以後は平然と若葉に視線を投げる。

 

 

「……そうかそうか、やはりそっちがメインだったか、おい初霜、現地入りした後の教導関係の視察は頼めるか?」

 

「はい、そっちは任せて下さい、若葉さんは提督が暴走しない様にどうか……」

 

「うむぅ、若葉タン、いつもより拳の勢いと捻りが足りてない様だがどうしたのだ?」

 

「素が、出ているぞ、提督、それと、これは、備品が壊れないように、手加減、しているんだ!」

 

 

 100kg超の巨漢がバウンドする程の打撃が手加減した物という狂った折檻が日常的な、そんな色々ヤバい一団は大坂鎮守府専用軍事列車で大阪湾の上を渡りつつ、鎮守府の敷地内へ入っていくのであった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「……なぁダンナ、これから来ンのって三好の青海入道だって聞いたンだけどよ、マジかよ?」

 

「え? 三好の青海入道? 誰ですそれ?」

 

 

 列車内で筋肉ダルマが殴打によるバウンドをしている頃、大坂鎮守府駅構内では件のクズロリ一団を迎える為に髭眼帯が時雨と朝潮を伴って迎えに来ていた。

 

 その二人は例の「提督護衛」という名目で就いている訳だが、時雨は両腰にポン刀を差し、朝潮はどこから持って来たのか身長程もある幅広の両手剣を担ぐという、臨戦態勢と言うにはちょっと行き過ぎでは無いかと思われる出で立ちで髭眼帯の両側を固めていた。

 

 そして翌日に教導終了とあって大坂入りしていた舞鶴鎮守府司令長官の輪島隆弘(わじま たかひろ)も何故か同伴し、駅構内で列車の到着を待っていた。

 

 

「ヤツをナマで見りゃ納得すンだろうけどよ、三好青海入道(みよしせいかいにゅうどう)っつーのは、講談のほら、『真田十勇士』の話に出る坊さンのイメージにそっくりなンだよ」

 

「あー……かなりガタイが良さそうでしたしね」

 

「あ? ダンナはヤツの事見た事あンの?」

 

「映像通信で少し」

 

「ンじゃ実際見たらもっと驚くだろうぜ、タッパがあるしゴツいしよ、ンでスキンヘッドの見た目から付いたあだ名が三好青海入道、まぁ杖術使いだからそっちもあだ名の由来になったンかも知れねぇけど」

 

「鷹派の人ですし、てっきり輪島さんはこっちより知ってる物だと思ってましたけど」

 

「あー俺ってほら、実働部隊率いてたからあっちこっち飛び回ってたし、九頭って言や先代の司令長官の影になっててよ、見た目以外に目立ってなかったからなぁ、実の処良くは知ンねぇんだよ」

 

「目立たない? ……って確かに自分もあの人の事は殆ど知らなかったと言うか、何と言うか」

 

 

 九頭路里(くず みちさと)という男。

 

 能力が優秀故鎮守府運営では二番を努め文字通り拠点の柱となっていた男であったが、その性格に難がある為なるべく表に出さず、また止むを得ない時には若葉、初霜コンビを充てなるべく目立たない様に行動をさせていたという事情があったが、それが幸いしてか他拠点では能力と見た目だけが認知されている状態にあった為、その事情を輪島が知る事は当然無かった。

 

 

「えっと提督……この前のほら、通話の時……」

 

「ああうん、何と言うか……うん、その辺りは色々と……直に会ってみないとなんともと言うか……」

 

「あ? なンかあったのか?」

 

 

 怪訝そうな顔をする輪島の前では髭眼帯と時雨が微妙な表情のまま押し黙り、ハハハと乾いた笑いを漏らしていた。

 

 そんな微妙な空気の中、ホームに列車の到着を告げるアナウンスが響き渡り、次いで濃紺という色と流線形が特徴的な列車がホームへと滑り込んできた。

 

 四両編成のそれは最前列一両が客車となっており、後部二両が物資運搬用、最後部が武装車両となっている。

 

 民生であった時よりも車両の重量は増していたが、充分に整備され、また改造も妖精さんが関わった物とあってそれは驚くほど静かに、そして滑らかに停車すると一斉にドアが開き、プシューとエアーの漏れる音と共に最前部のドアからのそりと巨躯が姿を現した。

 

 

 一種軍装に身を包んではいるが、厚い胸板や盛り上がった肩の筋肉は隠し切れず見た者を圧倒する様を見せ、更にはいかめしい顔は周囲を威嚇する程の色をそこに見せている。

 

 そんな人物を見て迎えに出ていた髭眼帯一団に緊張が走るが、相手も迎えに来た者達に気付いたのだろう、ゆっくりと駆逐艦二人を従えて歩いていく。

 

 

「……やっぱクソでけぇな、タッパもそうだけどあの筋肉……ハンパじゃねぇぜ」

 

「横に従えているのは若葉に初霜でしょうか、あの二人と対比すると物凄く差がありますね」

 

「ようこそ大坂鎮守府へ、先日はどうも……改めまして、吉野三郎です」

 

「わざわざお出迎え痛み入ります、九頭路里です、そちらは……確か舞鶴司令長官の」

 

「輪島だ、ちっと今ウチのを教導でココに預けてっからよ、明日それも終了だし引き取りに来てんだよ、まぁ宜しくな」

 

「なる程……佐世保鎮守府を預かっている九頭です、こちらこそ宜しく」

 

 

 吉野よりも手前に居た輪島と九頭が握手を交わす……が、何故か双方はピタリとそのまま動かず、暫く互いを睨んだままであった。

 

 

「……ふむ、噂に違わぬ狂犬ぶり、早速噛み付いてくるとは」

 

「チッ……いやに涼しい顔してンじゃねぇか、この程度は屁でもねぇってか?」

 

「いやいやなんの、中々これだけの膂力を持つ者にはそうお目に掛かれる物じゃない、流石水鴎流(すいおうりゅう)皆伝といったところですかな」

 

 

 互いに軽口は言っているものの輪島は額に青筋を立てて睨み、それを受ける形で九頭も歯茎が見える程に獰猛な笑いを表に貼り付けていた。

 

 

「提督……そろそろ」

 

「む、そうだった、いや済まない、思い掛けずムキになってしまった」

 

「……あぁ、こっちも行き過ぎた、今回はこンくれーで」

 

 

 若葉の言葉に一歩退く九頭と、それを受けて道を空ける輪島。

 

 吉野の前へと歩くその巨躯を見送りながら、輪島は痺れた右手を隠す為にポケットへ突っ込む。

 

 剣術を嗜む者はその性質上握力は皆高く、輪島で言えば70を超えていたがその全力の握りすら軽くいなされ、苦い顔で九頭の背中を睨んでいた。

 

 静かな意地の張り合いが終わった後九頭が立つ前にはヒョロ助日本代表の髭眼帯に、近接武器で装備を固めた時雨と朝潮という二人。

 

 その様を静かに見下ろす様に目を細め右手を出す九頭と、それを握る髭眼帯という場がホームにはあった。

 

 

「ふむ……あの時の時雨に、朝潮……改二という処は自分とはまた違った趣向をお持ちの様ですが、それでもくちくかんを伴ってのお出迎え、流石影法師と呼ばれた御仁……」

 

 

 吉野は思った、何故駆逐艦を伴って来た状態が影法師の異名に繋がるのか。

 

 寧ろ何故輪島と対峙した際よりも空気の密度が増しているのかと首を捻る。

 

 

「え……えぇまぁちょっと色々事情がありまして、この二人には警護の任に就いて貰っています」

 

「ほぅ? 以前は確か夕立がそこに居たと思いましたが……」

 

「ああはい、この二人に夕立君、後は天津風君の四人がローテで……」

 

 

 髭眼帯の言葉にふむふむと頷きつつも、九頭の視線は時雨と朝潮に釘付けになっていた。

 

 因みに今日髭眼帯の警護に就く二人は、冒頭で述べていた通りポン刀とグレートソードという武装を装備していたが、時雨はいつものワンコメイド服、そして朝潮は現在の師匠である球磨にあやかってヒラヒラフリルのゴスロリメイド服姿である。

 

 その出で立ちは確かに目立ち見る者の視線を釘付けにする事請け合いであったが、九頭の視線は何故か獲物を狙う獣の如き鋭さを湛え、口元は輪島と対峙した時の様に獰猛な物へ変化していた。

 

 それらを一言で言えば殺気、背中に陽炎が揺らめく様なその様は髭眼帯が珍しく警戒の色を表に出す程には苛烈な物であった。

 

 

「……同士吉野(うじ)

 

「……え? あ、はい……うじぃ?」

 

「流石でござる、JC然としたくちくかんスキーは拙者とはやや相容れぬ方向性かと一瞬思ってしまいましたが、まさか……ohまさかこういう趣向でクるとはっ! オッフゥ……流石の拙者も一本取られてしまいましたぞっ!」

 

「えぇ~? 趣向ぅ? いっぽん~? ナニイッテンノォ?」

 

 

 殺気ダダ漏れのままクズロリが心の内を全開にし、その様を狂犬が怪訝な表情で睨んだまま空気が固まるホーム。

 

 そこには無言の空間があり、列車からプシューとエアーの音だけがする世界が広がっていくという異空間。

 

 

「可愛さを前面に押し出し、しかし同時に機能美を追求するコネコちゃん……そして無駄のギリギリ一歩手前に抑えつつも、肌を極力見せる事無く肢体の可憐さを演出するゴスロリッ! これは……これは余程の匠が攻めに回らねば成し得ぬ極地! まさか……まさか拙者が白露型と朝潮改二型に心をうわらばっ!?」

 

 

 初霜のローが膝裏に突き刺さる事で筋肉ダルマが崩れ落ち、高さが最適な位置に来た瞬間若葉のリバーブローがコークスクリュー気味に突き刺さるという、流れる様なコンビネーションがそこに繰り広げられる。

 

 その様を髭眼帯と警護の二人は固まったまま、輪島は怪訝な表情をしたまま凝視し、その只中で二人のくちくかんから追撃を受けるクズロリは「オッホォ」だの「ムフゥ」という野太い呻きで悶絶とするカオス。

 

 

「いきなりかっ! いきなり本性を晒すのかお前はっ!」

 

「提督……あれ程事前に言い含めていたのに……」

 

「待つのでござるよ若葉タンに初霜ふもふ! あのっ! メイド服! あれぞ正に革命っ! 拙者が目指すパライソへと至るロードにはぜひあのコスぬふうっ!?」

 

「やかましいっ! もう喋るなっ!!」

 

 

 こうして佐世保から来た通称三好青海入道と言われる海軍中将は、地に伏し体を丸めたヨツンヴァイン状態で伴って来たくちくかん二人に折檻を食らい続け、それを怪訝な表情で見る髭眼帯達という駅ホームがあったという。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「先程は、お見苦しい処をお見せした」

 

 

 鎮守府外縁に敷設される鎮守府環状線。

 

 それは本来例のスプーの為に用意された軌道であったが、そのスプー自体に殆ど出番が無いという事で現在は移動用の小型列車等を運用する為に転用されていた。

 

 内装は列車と言うよりバス的な配置となっており、移動用に転用する事が決定した時点で鎮守府内の数箇所には停車駅が設置するに至っている。

 

 そんな車内では執務棟に向けて移動中の一団があったが、そこはホームで発生したカオスが尾を引き、今現在もびっみょ~な空気が蔓延していた。

 

 

「……なぁ三好の入道さんよぉ」

 

「入道? あぁ自分のあだ名の事ですかな輪島殿」

 

「おぅ、アンタの事だけどよ……あー……なんつったらいいのか、その……さっきのは」

 

「さっき? 何かありましたかな?」

 

「ありましたかなってレベルじゃねぇと思うンだけどよ、えぇ?」

 

 

 因みに移動中のこの車両、二人掛けの椅子が左右に一つづつ、それが三列配され定員が十二名となっている。

 

 その席では先頭に朝潮、時雨、吉野、輪島の並びに座り、その後部に初霜、若葉、そして脇に九頭が一人という配置で座っている。

 

 位置的な状況の詳細を述べれば吉野と輪島の真後ろが九頭という形になり、輪島の呟きは九頭に届きやすい物となっていた。

 

 

「ふむ……ああそういう事か、なる程、確かに自分は他者とは違う性癖、そして行動をしている自覚は持っている、しかしこれでも場に合わせた行動は心掛ける事にしておるのですがね、先程はちょっと我を忘れてしまいましてな」

 

「我を忘れてってアンタ……」

 

「駆逐艦にメイド服、更にはそのセットには絶対合わない無骨な装備、この組み合わせに……輪島殿的に思う物は無かったと?」

 

「思う物って何だよ?」

 

「……輪島殿、貴殿の秘書艦は誰が勤めておるのですかな?」

 

「あ? ウチは千歳が秘書艦やってっけど、それが?」

 

「むぅ、なる程、無駄にデカいチチ袋をぶら下げた年増が好みと、それなら自分の心情は判りますまい」

 

「んだとぉ? 手前ぇウチの秘書艦に何か文句あンの……か……」

 

 

 九頭の物言いに半キレで振り向いた狂犬の視界には、腕を組み真面目な相にありながらも、隣席から飛んで来た若葉のコークスクリューブローが顔面に突き刺さりつつも平然としている筋肉ダルマという、そんなワケワカメが広がっていた。

 

 その余りにもおかしい絵面(えづら)に輪島は怪訝な表情のまま姿勢を戻し、隣でプルプルする髭眼帯に視線を投げる。

 

 

「なぁ吉野のダンナ……アレ、知ってたン?」

 

「……えぇまぁそんなカンジの予兆的なアレは通信の時にあったりしたりしてたんですが……」

 

「てかアレどう見ても艦娘から本気気味の拳とか蹴り食らってんのに、何でピンピンしてやがンだよ……」

 

「愛するくちくかんからの鞭、それを受けるのは提督として当然だと思うのですがね」

 

 

 座席の並びで完全に世界が違ってしまっている構内電車。

 

 そんな車両が中央運河に差し掛かった辺り。

 

 

 丁度哨戒を終え帰還中なのであろう、三人の艦娘が電車へ手を振り、それに時雨達も手を上げて応えていた。

 

 波を切りそれなりの速度で航行し、フリフリと手を振る者は、哨戒を受け持っている友ヶ島警備府所属の皐月、文月、三日月である。

 

 そう、よりにもよってこのタイミングであの皐月タンにフミィにミカである、それはまごう事なき世のやどかり提督が属性HITしてしまう、アレなトリオであった。

 

 

「フッヒョオゥ!? いきなり皐月タンにミカですぞー! おおおおぉぉぅっ!? 世に文月のあらん事をっ!」

 

(さえず)るなクズロリッ! いい加減にしろっ!」

 

「若葉タン! 何を言うでござるかっ! あの……あの天使達を見るでござるよっ! 穢れ無き愛らしい微笑みに手を振る可憐な姿っ! もう……もおおぅ辛抱たまりませんぞっ! 止めてくれっ! 今すぐ拙者も暁の水平線へ勝利を刻むために抜錨アグッファッ!?」

 

「ねぇ時雨ちゃん……」

 

「うん、どうしたの朝潮」

 

「もしかして今日私達が警護の任に就いてるのは……」

 

「そう思うのも無理無い状況だと思うんだけど、多分違うと思うよ……うん、多分」

 

 

 奇怪な呻き声と鈍い打撃音、そして椅子に感じる振動に揺られつつ、迎えに出た四人は最前列の座席で振り向く事も出来ず、執務棟までの数分を怪訝な表情を表に貼り付けたまま無言で過ごす事になるのであった。

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 ただ言い回しや文面は意図している部分がありますので、日本語的におかしい事になっていない限りはそのままでいく形になる事があります、その辺りはご了承下さいませ。

 それではどうか宜しくお願い致します。

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