大本営第二特務課の日常   作:zero-45
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 前回までのあらすじ

 よしのん人生初、幼女へ全力の愛想笑いを試みるも、ハイエースダンケダンケ案件へ発展してしまう。

 そしてバニーフェスが齎す弊害。


 それでは何かご意見ご質問があればお気軽にどうぞ。


2018/03/20
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きましたリア10爆発46様、有難う御座います、大変助かりました。


羽織った物の重さ、そして強さを求める渇望(白目)

 大坂鎮守府艦娘寮二階、その最奥に設置された提督の私室『吉野三郎臥房』

 

 旅館然とした入り口をくぐった場にある部屋は、大和が心を込めノリノリで設計してしまった、某帝国ホテルのスイートを模した豪華なルームである。

 

 私室と銘打たれたそこは親しい客を招いて歓談する事が多く、大型のアイランドキッチンとカウンターバーも据えられている為、最近は輪島や髭爺が鎮守府に来た時は大抵ここで飲んだくれるというのが常となっていた。

 

 そんな部屋の中央、私室にあるにも関わらず髭眼帯は黒い一種軍装を身に纏って、自身を取り囲む三人の艦娘へどうしたのだろうと首を傾げていた。

 

 目の前には時雨と妙高、後ろには榛名。

 

 それは嘗ての第二特務課の最初期に着任した顔ぶれであり、口にはしていないがその三人は吉野にとって少しだけ、他の者と比べても特別な三人であった。

 

 

「えーっと、どうしたの君達? 正装してきてって言うから準備してきたけど」

 

「夜分に申し訳ありません、本当なら明日でも良かったのですが……その」

 

「ちょっと提督に渡したい物があったから、それを持って来たんだ」

 

「……渡したい物?」

 

 

 少し遠慮がちに言葉を口にする妙高の隣では、ニコニコとする時雨。

 

 二人の言葉に傾げた首のまま頭に「?」を複数浮かべる髭眼帯であったが、その様子を見つつクスクス笑う榛名が二人の言葉を継ぐ形で説明を始めるのである。

 

 

「提督は他の提督とは違い、榛名達と共に出撃する機会が多いですよね」

 

「まぁ……そうかも知れないね、それが?」

 

「同じ艦隊として海に出て戦う者達は何事も一蓮托生、生きるも死ぬも一緒な訳です、ですから皆なるべく士気を高めようと意味の無い物だと判っていても、色々と備えたりするんです」

 

験担(げんかつ)ぎってヤツだね……って、コレってそれに関係する事なのかな」

 

「はい、我々が一つの艦隊として心を通わせる物を提督はご用意してくれました、でも肝心の提督がその輪に入っていませんでしたので……」

 

 

 妙高が言葉と共に頷くと、榛名が後ろから何かを吉野へ羽織らせる形で肩に掛け、時雨が前に回ってそれの前飾りや諸々を整え始める。

 

 

 少し重い布製のそれ。

 

 濃紺に染め上げられた、足首に届く程に丈がある外套。

 

 吉野が自身に掛けられたそれの胸元に視線を落とせば、他の者達と同じ、しかし一回り程大きな、金糸で施された菊水の紋が目に入る。

 

 そして紋の下には『行雲流水(こううんりゅうすい)』という四文字が紋と同じく金糸で入っていた。

 

 

「私達の外套にある紋の下には其々の銘か二つ名、若しくは生き様を表す文字が刻まれています、そして提督のこれには、私達から見た提督のイメージ……生き様を、長門さんが言葉を選びここに……」

 

 

 妙高がそっとなぞる四つの文字。

 

 行雲流水、それは空を往く雲の如く、川に流れる水の如く、物事に固執せず、自然なままに流れ淀みない物という事を意味する言葉。

 

 吉野にしてみれば今までの人生は周りに影響されまくり、ただただ固執するだけに終始していた物だと認識していた行い。

 

 しかし吉野を慕い、行動を共にしてきた者達にとってその行動は掴みどころが無く、また軍という組織にあってその範疇を平気で超えてしまう事をやってきたこの提督は、長門が選んだ行雲流水という言葉そのものに見えるのだという。

 

 ちょっと評価が大袈裟過ぎやしないかと言った髭眼帯の言葉に妙高はクスリと笑いつつも、触れていた手を菊水の紋へと滑らせる。

 

 

「私達が艦であった頃、二次大戦の日本では戦地へ赴く殿方の為に、一枚の布に針を通し、縫い込んだ糸の結び目に思いを込め、それを戦地へ持っていって貰う為に贈るという風習がありました」

 

 

 良く見れば胸の菊水は、ほんの少しだけ歪な仕上がりの刺繍になっていた。

 

 

「一針ごとに込める想いは武運長久、そして帰って来て欲しいとの願い、待つしかできない女達の想いが込められたその布は……千人針と呼ばれていました」

 

 

 ちょっとだけ歪で、他の外套に刻まれる物よりも少しだけ大きい菊水の紋。

 

 

「この紋は、大坂に居る艦娘全てが其々の想いを込め、針を通して形にした物です、千人には満たなくとも想いの大きさはそれ以上、そしてこの外套は他の物と違って明石さんの手縫いによる物です、ですからこれも千人針には違いありません」

 

 

 金糸で彩られた紋が刻まれた、そんな濃紺の外套は、鎮守府の艦娘達の想いが縫い込まれた吉野の為の千人針。

 

 その言葉を聞き、羽織った外套の重さが別の意味として肩に感じた髭眼帯はありがとうの言葉だけしか返せず、外套を整える三人に囲まれながらその身を任せるままの時間を暫く過ごすのであった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「そんで今日は君達三人がお泊りするんだ? 妙高君もって言うかこの組み合わせって珍しいね」

 

 

 突然の贈り物を貰った後の提督臥房、例のスイートなルームの一つ奥にある寝室では畳を敷いた一角に引き続き髭眼帯と時雨、榛名に妙高という四人の姿があった。

 

 畳敷きの範囲は凡そ六畳、そこは髭眼帯の私物が配され、臥房で唯一プライベートエリアを主張できる一角でもあった。

 

 50インチのプラズマTVにはセガサターンが接続され、その脇には数々のソフトが山積みとなっている。

 

 その正面にはた〇ぱんだTにスエットズボンといういつもの格好な髭眼帯に、膝に収まる時雨、二人の手にはセガサターンのコントローラーが握られている。

 

 

「そう言われればそうですね、私はその……中々クジ運に恵まれなくて」

 

「あー……お泊りってクジで決めたんだっけ? んじゃ今日は?」

 

「摩耶さんに譲って頂きました、ジャンケンに勝って」

 

「番長ェ……」

 

 

 妙高の言葉に髭眼帯は微妙な表情になった。

 

 たまに忘れがちになるが、元大本営第二艦隊の旗艦を経て大坂鎮守府へ着任した摩耶は、少し厨が入ったイケイケの艦娘であったが、ジャンケンに拘り勝負を挑めば必ずそれを受けるという武人肌であったが、ジャンケンという物で勝敗を決してしまうと異様に勝敗率が下がってしまう系の艦娘であった。

 

 

「榛名は龍驤さんにお泊りの権利を譲って貰いました、腕相撲で勝って」

 

「ドラゴンェ……」

 

 

 吉野は知っている、勝負事が絡むと榛名は力加減のリミッターを開放して本気を出してしまう系の艦娘であるというのを。

 

 例えそれが腕相撲という行為であったとしても、榛名が勝負事として挑めばどういう結末が待ち受けるのかという事も容易に想像が付く。

 

 恐らくこのメンツが揃っているという事は、目的を考えれば無理に何かをしなくても、周りの者はお泊りの権利をすんなりと彼女達へ譲ってくれただろう。

 

 だがそこに形式的にでもという行為を持ち出したのだろう、そうする儀式を挟めば榛名も気を使わなくて済むという気遣いをドラゴンはしたに違いない。

 

 しかしその儀式として選ばれた手段が腕相撲、ワールドワイド的な呼称をするとアームレスリングである。

 

 恐らく龍驤の気遣いを色んな意味で理解しつつも、榛名的な感性が導き出した答えが腕相撲、アームなレスリングである。

 

 吉野はそれが齎す結末と言うかオチは聞かなくても脇に武蔵殺しがニコニコして鎮座する事で全てを察し、心の中でドラゴンへ対してそっと敬礼するのであった。

 

 

「あ、あ、ああっ!? そこでコンボエルボースピン!? ってダウンにサッカーボールキック合わせるって提督容赦ないよっ!?」

 

 

 榛名の話に色々と思いつつも、髭眼帯はTV画面で展開されるゲームへ反応しつつ、技コマンドをタタタンと器用に入力していた。

 

 因みに現在プレイしているのはセガサターン用に発売された物の中でも当時キラーソフトと呼ばれた作品の内の一つ、セガのバーチャファイター2と呼ばれる格闘系のゲーム。

 

 を、子供向けに調整、デフォルメしたキャラで楽しむ目的で発売された『バーチャキッズ』という格闘ゲームである。

 

 そんな格闘ゲーム、元になったバーチャ2はポリゴン格闘ゲームとしては当時社会現象を起こす程の人気を博し、2Dのストリートファイター、3Dのバーチャとも呼ばれ、全国各地で大会も催される程の一時代を築いた。

 

 動きのなめらかさ、コンボの難解度、どれも玄人好みであったそのゲームを子供用にと色々しちゃった結果生まれたバーチャキッズ。

 

 見た目二頭身の愛くるしいキャラ達、試合が始まる時は「よ~い」とコミカルな文字で始まるなど見た目の工夫に子供向けな要素が満載されたそのゲーム。

 

 しかしそれを作ったスタッフの感性は格闘ゲーという物に拘り抜いた、ある意味ガチな思考の持ち主達であった。

 

 二頭身のカワイイキャラの繰り出す技はバーチャ2のまんまであり、難易度も同じ。

 

 逆にキャラが小型化した為バーチャとは違うテクニックがいるというそれは、子供向けに作った筈が、大きな子供が目を血走らせてコミカルキャラを操作し、日々鎬を削るという、ガチ勢がカリカリするだけで全然子供達がプレイしないという特殊な立ち位置のソフトとして一世を風靡してしまった。

 

 ゲームがどれだけガチなのかの一例を挙げるとすれば、今髭眼帯の前にあるTVで展開されているのは、二頭身のチョコマカした時雨操作のアキラを髭眼帯が操作するジャッキーが上下の裏拳で殴り飛ばし、蹴りでダウンさせた上、転がっているアキラの頭をサッカーボールをシューする要領で蹴り飛ばす血も涙も無い追い討ちが展開するという、お子様がプレイするには余りにもアレな世界が繰り広げられていると言えばこのゲームがどういうブツなのかは理解して貰えるのではないだろうか。

 

 

「トドメにサマソっと」

 

「無駄だよ! 衝天靠!」

 

「ぐはっ!? サマソ返しだとぉっ!?」

 

 

 画面で展開される、二頭身のコミカルキャラによるガチな戦い。

 

 そんな物を食い気味で見学しつつ、何故かそわそわする者が居た。

 

 

 武蔵殺しである。

 

 

 確かにそれはゲームであり、リアルでするには余りにも荒唐無稽な技を繰り出し、更には過剰と言われる程の演出がされる遊戯である。

 

 しかしそれはジャンルとしては格闘ゲーム、要するに殴り合いなのである。

 

 

 そして武蔵殺し。

 

 

 髭眼帯は失念していた、小さな秘書艦にせがまれソフトを起動し、横では妙高が座ってニコニコする癒しに危険度メーターが知らせるピコンピコンを鈍らせていた。

 

 妙高の逆サイドでは何故か画面を見つつ、意味不明なシャドーを始める榛名という絵面(えづら)というのにハッとし、髭眼帯が事の危険性に気付いた時には時既にお寿司。

 

 

「今のフッフッハアッはこんな感じでしょうか……」

 

「……榛名君? なにしとん?」

 

「え? 今の時雨ちゃんのキャラがやった技なんですが、こう……山城(戦艦棲姫)さん相手に使えば有用なのではと言うか……」

 

「進歩里胯の事かな? そっち使うなら順身翻胯の方がいいかもね、当たれば強制的に相手をしゃがませられるし、本来は投げに入る技だけどキャンセルすれば追い討ちでローとか膝も入るよ?」

 

「そうなんですか? それじゃそっちを見せてくれませんか?」

 

「うん、こうやって……こう」

 

 

 時雨が操作するコミカルキャラが、髭眼帯の操作するキャラに当身からの崩し投げのコンボを決める。

 

 それを見て榛名が肘を振り出し、腰を入れつつ型を真似る。

 

 

 ちなみに今は提督私室にお泊りに来ている関係上、其々は珍しくも着ぐるみでは無いパジャマ姿である。

 

 

 榛名がキレのあるキレッキレな技を決める度、ヒュボッと空気を裂く音が発生し、捻りの効いた体の慣性を伴って、少し遅れた形でたわわな胸部装甲がプルルンと揺れる。

 

 正にそれは『榛名! いざ、ノーブラで出撃してます!』が判ってしまう絵面(えづら)でもあった。

 

 

 そして髭眼帯のプルプルが発生する。

 

 

「うーん、それもいいけどアタタタの方が有効かも知れないね」

 

「アタタタですか?」

 

「うん、長門流極限空手の技なんだけど、アタタタって技を繰り出せば、相手は死ぬんだよ」

 

「ちょっと時雨君、彼女にナガモン神拳を伝授しちゃうのは提督どうかなって思うというか、アタタタって技名は世紀末な人の掛け声まんまなんじゃ……」

 

「その技凄そうですね……ぜひ教えて下さい」

 

「うんいいよ、ただアタタタを習得する為には前提としてホアタッを覚えないといけないけど」

 

「長門流極限空手の技って何で名前が掛け声かつふんわりという物ばっかりなのっ!? ねぇっ!?」

 

「ホアタッですか、それはどんな技なんです?」

 

「技を繰り出した時にホアタッってすれば、相手は死ぬんだ」

 

「技のプロセスが前も後ろもファジー過ぎ! 寧ろ前提のホアタッで相手が死ぬのにその後更にアタタタで殺しに掛かるとかオーバーキルにも程があるでしょっ!? 血も涙もないの長門流極限空手!?」

 

山城(戦艦棲姫)さんと今度再戦する時は絶対負けられませんし」

 

「演習に殺人拳を繰り出すの禁止! そんなデンジャーな技の伝承提督許しませんからねっ!!」

 

 

 いつの間にかスススと時雨が移動し、ホアタッの型を開始する二人。

 

 右で慎ましやかだがプルンとする時雨の胸部装甲と、並びでプルルンとする榛名の胸部装甲、そしてそこから繰り出される殺人技に髭眼帯がプルプル度を増し、まあまあと妙高が茶を淹れてくるというカオスが提督の寝室で繰り広げられるカオス。

 

 

「懐かしいですね、昔は毎日こんな感じで」

 

 

 プルルンする二人を見る髭眼帯にそっと寄り添う妙高、恐らく場が砕けてきた為だろうその座る位置はピットリと表現ができる距離と言うか、正直くっついていた。

 

 そんな様に気付いた時雨は音も無くスススと移動し髭眼帯の膝に再び収まり、何故か榛名もスススと髭眼帯の脇へ腰を降ろして艦隊(意訳)の陣形が整う。

 

 

「取り敢えずは続きをしようよ、次提督はラウね」

 

「え、ナニさらっと提督のキャラカンフーヒゲオヤジにしちゃってる訳!? 時雨君ズルくない!?」

 

 

 結局この後諸々の事情と言うか髭眼帯がキケンと判断した為プレイするソフトをパーティ系に変えた訳だが、それが桃太郎電鉄であったのと、妙高がプレイ年数をノリノリで100年設定にしてしまった為ベッドに全員が入ったのはこの後数時間後の事であったという。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「随分と気合が入っているじゃないか、武蔵」

 

 

 鎮守府の影が僅かに見える大阪湾。

 

 肌を撫でる風は冷たくも、日の光がそれを相殺する程には暖かくなった青い海。

 

 翌日に艦娘特殊兵学校へ第二期の者達を受け入れる前に、教導を受け持つ艦達が最後の調整の為に海へ出て基礎訓練へ勤しんでいた。

 

 教導の主目的は大坂鎮守府深海艦隊との演習となっているが、それは総仕上げに全力で行う形になっており、前半は教導艦による教導生に対しての修正に終始するとあって、関わる者達も気合を入れる必要がある。

 

 しかも次に来る者達は内地の要衝を支えてきた猛者達である、教える者達も教えられる者達も技量という面では差が無く、それが更にプレッシャーとなって大坂の艦娘達へ圧し掛かる。

 

 

「あぁ、今度来るヤツらの中にはほら、呉の第一艦隊も居ると言うじゃないか」

 

「那智が抜けて再編成したと聞くが……なる程、今呉の第一艦隊旗艦に座っているのは確か……」

 

 

 思案顔の長門の前で、口角の端を僅かばかり釣り上げ、嬉しそうに大和型二番艦は一言呟いた。

 

 

「私と同じ、武蔵だ」

 

 

 呉鎮守府

 

 内地では瀬戸内海に設置され、比較的穏やかな環境にあるそこは、嘗ての大戦では人類史上初めての原子爆弾を直近の広島に受け、更には空爆の猛攻に晒された過去を持つ。

 

 更には深海棲艦から日本という国を奪還する時、漸くその戦いに先を見出した軍が人員と物資を大量に投じ、艦艇が最も多く沈んだという海に配された要衝。

 

 そして南海へ出る時には当時の精鋭を集め、大隅が一時期そこの司令長官に収まり、武蔵も初めは大本営第一艦隊ではなく呉第一艦隊旗艦として戦っていた。

 

 そして吉野や加賀を始めとする、今大坂鎮守府に居る者達もそこから全てを始めたと言っても過言では無い特別な拠点、それが呉という鎮守府であった。

 

 大和から第一艦隊旗艦を譲られ、未確認の姫鬼との戦いが常の日々は散々に辛酸を舐めさせられ、武蔵としては文字通り血反吐を吐いて過ごした拠点が呉であった。

 

 

 今は寺田是清(てらだ これきよ)が指揮を執り、所属する者達の顔触れが変わってしまったとしても、そこの第一艦隊旗艦が武蔵と聞けば、大坂の武蔵(・・・・・)にしてもそれに対して何も感じない筈がない。

 

 

「勝負をする訳じゃないからな、余り入れ込み過ぎると碌な事はないぞ?」

 

「あぁ判っているさ、でも『呉の武蔵』と名を聞けばやはり(たぎ)る心は押さえられん……が」

 

「が?」

 

「そこの武蔵は私では無く、大坂鎮守府艦隊総旗艦の人修羅に懸想(けそう)していると聞く、何ともまぁ私としては舐められたものだと思うが、気を付けろと言われればそっくりそのまま言葉を返す事になるだろうよ、なぁ、師匠(・・)?」

 

 

 武蔵に意味あり気な視線を投げられ、しかし長門は少し困った様な曖昧な相を浮べ、ポリポリと頭を搔いた。

 

 

「よりにもよって私か、今更こんなロートル相手にムキになるとか……困ったヤツだな、その呉の何某(なにがし)というのは」

 

 

 武蔵を前に、敢えて名を口にせず長門は溜息混じりに答えを返し、改めて周りを見渡した。

 

 そこには緩やかなペースであったが確実に、そして自身が満足する水準にまで育った者達が海を蹴る姿が見える。

 

 

 長門としては艦隊総旗艦を拝命し、今の人員が大坂に揃った時点で戦闘面は武蔵と榛名に、教導は大和と叢雲へという考えの元、自身は半歩退いた立ち位置で艦隊運営に関わるつもりで動いていた。

 

 第二次改装を経て戦いの場へはまだまだ貢献できるつもりでいたが、それよりも全てを取り纏め、鎮守府という物を回す事が自分の仕事だと思っていた彼女には、今度教導の為来る大和型二番艦にそういう感情(・・・・・・)を向けられていると言われても、高揚感というよりも困惑という類の思いの方が強く心を占めた。

 

 

「人の事は言えた義理じゃないが、そういう跳ねっ返りと言うか……な、相手が人修羅の看板を背負う艦娘となれば黙っていられんという心境は判らないでもないな」

 

「こんな物騒な二つ名なんぞ、欲しければくれてやっても構わないんだがな」

 

「はっはっはっ、その言葉を叢雲殿が聞いたら激怒するぞ? しかし……まぁそういう事になってる様だし、今度のヤツらを受け入れる時は精々気を付ける事だな」

 

 

 忠告染みた言葉を残し、武蔵は冷えてしまった体を温めるべく再び沖へ出る。

 

 その背中を無言で見送りつつ長門は軽く溜息を吐き、鎮守府へ踵を返した。

 

 

 武蔵から長門へ軽い忠告として伝えられたこの一件は、後日内地の鎮守府に居る者達の間で延々と語り継がれる事件へと発展していくのだが、その中心人物となるこの大坂鎮守府艦隊総旗艦は、そんな事が起こる等とはこの時露程も考えていなかった。

 

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 ただ言い回しや文面は意図している部分がありますので、日本語的におかしい事になっていない限りはそのままでいく形になる事があります、その辺りはご了承下さいませ。

 それではどうか宜しくお願い致します。


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