大本営第二特務課の日常   作:zero-45

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 前回までのあらすじ

 人修羅の名が意味する片鱗を拳一振りだけで周知させたビッグセブン、タケゾウはそこそこ強いのに不遇な扱いをされてフグゥ……


 それでは何かご意見ご質問があればお気軽にどうぞ。


2018/03/24
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きましたリア10爆発46様、有難う御座います、大変助かりました。


彼女達のキモチ

 大坂鎮守府艦娘寮。

 

 その二階の最奥に位置する鎮守府司令長官の私室、吉野三郎臥房(がぼう)

 

 内部の面積は艦娘私室の大部屋五つ分程の広さを誇り、諸々と贅を尽したというか艦娘達の要望を限り無く詰め込み、更には緊急脱出路という名の隠し通路や、強固な監視セキュリティが施された、造りが強固な事で知られる大坂鎮守府の施設群にあって、更に突出した強固さを持つ要塞ともいうべき仕様になっている部屋である。

 

 それは扉を施錠しても鎮守府の者なら隠し通路からそっと進入できたり、漣が主催する大坂鎮守府秘密倶楽部に入会して会費を支払えば、私室内の映像がライヴで見られちゃうという髭眼帯の城(檻)とも言えちゃうルームでもあった。

 

 そんな臥房の寝室にある畳エリア。

 

 それ程広くない一角には50インチプラズマTVの前で髭眼帯がプレステのコントローラーを握って画面に対している。

 

 髭眼帯の趣味は車にバイク、ゲームや釣り、果てはプラモと多岐に渡っているが、私室である臥房には誰かが来ても一緒に楽しめるからという理由でゲームに関係する物だけが置かれ、それ以外は武器ロッカー(真のプライベート空間)へ収納されている。

 

 壁を埋め尽くすコンシュマーなゲーム機やソフトが諸々。

 

 古くはATARIやカセットビジョンからPS4という最新機まで、特殊な物では鉄騎のようなブツまでもがそこに転がっている。

 

 流石に夕張のように基盤にまで手を出していないが、積みゲー(物理的)の中にはPCFXやカセットタイプのネオジオがINしている辺り、一度凝ったらとことんという髭眼帯の性格が窺い知れる程度にはそこは混沌としていた。

 

 

 そんなエリアの中心で、ちょっと豪華な革張りの座椅子(時雨チョイス、くちくかん+でも座れるサイズ)に座る髭眼帯の胡坐には、現在(潜水棲姫)がセットされ、キラキラとプラズマTVに映るゲーム画面に見入っている。

 

 TVに映るゲーム画面、それはPSソフトの中でもパーティゲームに類別される物の一つ、桃太郎電鉄15のプレイ画面。

 

 それはハドソンが販売していた双六タイプのTVゲームである。

 

 髭眼帯が怪訝な表情で見る画面、そこには残りプレイ年数998年とカウントされていた(夕張がデータハックしたゲーム)。

 

 通常桃太郎電鉄15で設定されるゲームの最大年数は99年、桃鉄15をゲーム内時間で10年プレイするにはリアルで凡そ二時間程掛かると言われている。

 

 そのスパンで単純計算すれば、999年プレイするとしてリアルに要する時間は凡そ8日ちょい、200時間、12000分、720000秒である。

 

 髭眼帯の表情が怪訝な物になる理由その①がこれである。

 

 尚プレイに同時参加できる人数(チーム)は最大4人までであり、髭眼帯以外の参加チームもNPC操作ではなく全チーム中身ありであった。

 

 

 ゲーム機は往年の名機であるPS2、それは今風な機体とは違って本体とコントローラーが物理的に繋がれる物の為、どうしても一定範囲内にプレイヤーが集る陣形が出来上がってしまう。

 

 右を見れば朔夜(防空棲姫)(空母棲鬼)、左を見れば扶桑(戦艦棲姫)山城(戦艦棲姫)、それに混じるように静海(重巡棲姫)水晶(空母水鬼)、更にはおどおどする軽巡棲鬼までもが髭眼帯の真後ろで食い入る様に画面を見ている為、必然的に椅子ごと髭眼帯を抱き込むような形で顔を突き出している。

 

 

 

 その絵面(えづら)を言葉にしてしまえば吉野三郎艦隊(深海Ver)輪陣形(団子)が絶賛抜錨中という、そんな畳エリアが今、臥房の中には完成してしまったりしていた。

 

 

 因みに冬華(レ級)は現在ノリノリで夜間哨戒に出る友ヶ島勢と共に抜錨し、海の散歩に洒落こんでいる為ここには居ない。

 

 

 ゲームが始まって序盤、いつものように安全策を取る面白みの無いプレイを進める髭眼帯に対し、派手なプレイを好む朔夜(防空棲姫)(空母棲鬼)コンビが爆走を続け、その脇を静海(重巡棲姫)水晶(空母水鬼)チームが堅実なプレイに勤しみ着々と2位を固定ポジに収まるという形で進行し、場は中々の盛り上がりをみせる。

 

 が、ゲームシステムの最大のウリにして最大の特徴、ボンビーが扶桑(戦艦棲姫)姉妹チームにずっと固定状態というアレに、髭眼帯はドヨーンとする姉妹を見てプルプル度が更に増すという、そんな救えない絵面(えづら)がそこにはあった。

 

 

「ん、おやびん、ポテチ」

 

「あ、んむ……ありがとう」

 

「ん」

 

 

 軽巡棲鬼と同じくどのチームにも参戦せず、髭眼帯の膝に収まる(潜水棲姫)はポリポリとカウチポテトを堪能しつつも、時折思い出したかのように髭眼帯の口へ菓子を放り込み、その度に「ンフー」と自己主張をしつつ頭を差し出してくるので、それを撫で繰り回すというのがループする。

 

 

「ほら、ドクペ」

 

「あ、あんがと」

 

 

 ポテチを齧ると横からドクペの同士である(空母棲鬼)が、飲みかけの缶を髭眼帯の口に当て、幾らか中身を啜った事を確認すると徐にその缶の中身をニヨニヨしながら啜るというアレなソレもループする。

 

 

「ふっ……これで北海道エリアの独占は確実ですね」

 

「後は釧路と網走だけだねー、端っこだからちょっと回るの面倒だけど」

 

 

 静海(重巡棲姫)が何かを達成する度にチラチラと髭眼帯にアピールし、それを横目にチームメイトの水晶(空母水鬼)が「しょーがないにゃー」と言いつつフォローを入れて堅実なプレイを繰り広げる。

 

 

「ギガボンビーがもう妹みたいな気がしてきたわ……フフフ、なんだかこうしてちょこちょこと後ろをついてくる様を見れば中々可愛く思えてこない? ねぇ山城(戦艦棲姫)

 

「姉さま、ギガボンビーと私を交互に見ながらそのセリフはちょっと……ああ、不幸だわ」

 

 

 因みに不幸姉妹はどちらも不幸っぽいのは事実であったが、不幸というワードは山城(戦艦棲姫)しか口にせず、姉の扶桑(戦艦棲姫)は現実逃避を頻繁に炸裂するものの、艦娘であった頃より今まで自身の身の上を不幸とは決して口にしないという、ある意味芯の強い系現実逃避が過ぎるガールなのである。

 

 まぁでもそれは第三者から見ればかなり不幸なのではという現実は取り敢えず横に置いといて。

 

 

「……ねぇ朔夜(防空棲姫)君」

 

「ん? なにかしら?」

 

「えっと今更だけど、何で今日は深海のフレンズが提督のルームに勢揃いしちゃってる訳?」

 

「ほんと今更ね、まぁいいわ……今日はほら、また教導生を受け入れたじゃない?」

 

「だねぇ」

 

「で、暫くは基礎教導で私達の出番はチョコチョコっとしか無いけど、また後半は仮想敵として出ずっぱりになっちゃうでしょ?」

 

「あー、うん、その辺りはほんと随分頼っちゃってるよねぇ、申し訳ない」

 

「別にそれは構わないわ、最初からそれが条件でこっちは好き勝手させて貰ってる訳だし、ただね、やっぱ私達も仕事を続けていくのに、それなりにモチベーションの維持をしていくのは重要な事だと思うのよ」

 

「……こんな事でモチベーションが維持できるって、随分と安上がりなんじゃないかって提督は思うんですが」

 

「深海勢全員ってトコはまぁ妥協するしかないけど、一晩丸々テイトクを独占できる機会なんて早々ないし、ね? まぁそんな感じって事で」

 

 

 朔夜(防空棲姫)の言葉に何故か髭眼帯を囲む僚艦達はうんうんと頷き返す。

 

 そんな様を見て髭眼帯は微妙な表情を浮かべながらも、首を捻ってコントローラーを操作し、カード売り場の特急カードを買い占める。

 

 それは必要な物ではなく他チームの妨害に終始するという、髭眼帯らしい嫌らしい思考がさせるプレイであった。

 

 

「うわ……またカード買い占めてる……って何? 物凄く微妙な顔してるけど」

 

「ああいや……何て言うか、付き合いの古い子ならまだ話は判るんだけど、水晶(空母水鬼)君や軽巡棲鬼君までその……」

 

「ああ、なんで嫁になる事に躊躇しないかって事?」

 

「だねぇ、一応ほら、カッコカリは可能なのはいいとして、どうして皆System ringじゃなくてEngagement ringを欲しがるのかなぁって」

 

 

 艦娘が最大錬度に至り、それでも足りない戦力を補う為に更なる強さを艦娘へ与える為軍が開発、発布したシステム、『ケッコン・カッコカリ』

 

 それは愛情や信頼、もしかしたら友情や上司部下という関係もあるかも知れない、そんな縁で繋がっている提督と艦娘達。

 

 それらの強さを利用して、艦娘の中に強くあるという「人を護る」という部分に働き掛け、更なる練度上昇を可能としたシステムがケッコン・カッコカリという物であった。

 

 女性の姿と心を持つ艦娘の心情を考慮した結果、目に見えない縁というものを可視化すると共に、常に身に付けなければいけないという利便性を鑑みた結果、指輪としてそれを装着するという簡素かつ単純な儀式によってシステムは成される。

 

 本来カッコカリに使用される指輪は規格化され、工作艦の明石が妖精さんと共に製造してそれらは酒保で販売されているが、ここ大坂鎮守府では軍の酒保全体の実権を握る明石と、鎮守府の財布を握る財務大臣大淀、そして艦隊総旗艦であるビッグセブン長門が裏で色々企み、規格化されたシンプルなシルバーリング以外にも別途注文で彫金が施された特別なリングが発注可能となっていた。

 

 特別として作られた指輪、それを求める者達其々内に秘めた部分はある程度の違いはあるだろうが、結局意味する処を言葉にすれば、繋ぐ縁の質、愛情が介在した物を元にするか否かという部分で分けられる。

 

 故にカッコカリを手段として求める者は軍が推奨するシンプルなシルバーリング(System ring)を、それ以外の何か(・・)を内に秘め、カッコカリを求める者は特別なリング(Engagement ring)を指にするというのが大坂鎮守府の常識となっていた。

 

 

 そして大坂鎮守府に居る深海勢の左手薬指に光るそれらは、皆意匠が違い、色も違う特別な指輪、Engagement ringである。

 

 軽巡棲鬼はまだ鎮守府へ来て日が浅く、()もまだ貰ってない事から指輪自体付けていないが、それでも現在酒保へはEngagement ringを発注中であり、それが仕上がってくれば髭眼帯から()を貰うと共に、カッコカリを受け入れる心積もりであるという。

 

 そんな彼女達も特別な指輪に込められる、『特別』という言葉の意味を知らない筈がない。

 

 吉野的には朔夜(防空棲姫)(空母棲鬼)が自身へそういう感情を向けているのは知っていた。

 

 だが水晶(空母水鬼)や軽巡棲鬼のように、言ってしまえば縁も浅く、付き合ってきた時間も短い者が何故特別を選ぶのだろうかという部分に今一つ思い至らず、釈然としない表情で朔夜(防空棲姫)と話している。

 

 

「あー……そういう」

 

 

 そんな髭眼帯の考えに気付いたのか、朔夜(防空棲姫)は納得した相で天井へ視線を巡らせ、暫く何かを考えた後に「うん」と小さく呟きながらも、場に居る者達に意味深な視線を流し反応を待つ。

 

 その仕草に髭眼帯は傾げた首の角度を更に深くするが、その膝内に収まる(潜水棲姫)も、周りに居る者達も返す形はまちまちであったが、それに返す反応は朔夜(防空棲姫)が飛ばした謎の視線に対して肯定の意を表す物であった。

 

 

「そろそろテイトクもその辺り理解しておいた方がいいかもね」

 

「……その辺り?」

 

「そう、今テイトクが疑問に思ってる、私達の気持ちっていう部分の事」

 

 

 全員の代表として、そしてこれから話す事は他言無用の事だと釘を刺し、ちょっと得意気な相を滲ませた朔夜(防空棲姫)は指を一本ピンと立て、髭眼帯が知っていた方がいいという情報を口にし始めた。

 

 

「ここに集っているのは全員『元艦娘だった姫や鬼』というのはまぁ判っているわよね?」

 

「ああうん、そうだね」

 

「でね、これはつい最近自覚したというか、これだけの姫や鬼が揃った事で漸く判った事なんだけど……私達が全員テイトクLOVE勢なのって、ある意味仕方のない事なの」

 

「え、仕方のない事?」

 

「そう、私達前世を艦娘に持つ姫や鬼って元々人間に対して負の感情が薄い者が多いのよね、だから戦闘は好まないって事になっちゃうんだけど、その理由は戦う相手が艦娘や人間だからなのよ」

 

「あー……そんな感じなんだ、って……んん? じゃぁ深海棲艦を相手にする時はさ、どんな感じなの?」

 

「それね、感覚的な物で言っちゃうと艦娘相手にしてるよりもちょっとだけ私は気が楽だけど、この辺りは個人で色々差があるみたいよ」

 

「そうなんだ、中々それは興味深い話だね、その辺り何か傾向があればこの先色々役立ちそうな物になりそうだけど」

 

「テイトクならそう言うと思ったわ、だから既にその辺りは電ちゃんとハカセに伝えといたから、時間は掛かると思うけどサーチできる個体の母数が増えたら答えは出ると思うわよ」

 

 

 髭眼帯の言葉に得意気な表情を更に表へ出し、腰に手を当てたドヤ顔の朔夜(防空棲姫)センセイの講義は続いていく。

 

 

「でと、そんな私達は逆にそういう部分が淡白なせいか、心に何と言うか……ポッカリと足りない部分がある感じになっちゃってるのよね」

 

「心に足りない部分? えっと負の部分が無い代わりに、そこを満たす部分が無いって感じになってる?」

 

「そうそれ、そんな感じ」

 

「あーうん、なる程……中々それは難儀な事になってるねぇ」

 

「でもね、その隙間と言うか穴を埋める物を私達は見つけたの」

 

「へぇ? 心の隙間を埋める物? なにそれ」

 

 

 髭眼帯の言葉に朔夜(防空棲姫)は大きく頷き、彼女にしては珍しく心の底からの感情を隠さず出したのだろう、キラキラエフェクトが見えそうな満面の笑みを表に出す。

 

 

「私達が心の支えとする、そして私達の複雑怪奇で面倒な感情を受け止めてくれる……提督という存在、大分前カッコカリ騒動があった時……長門が言った『我々は貴方の舟だ』と言った言葉、それはそっくりそのまま私達の中にある物と一致するわ」

 

「深海棲艦である君達が欲しがるのが提督という存在って言うの? マジで?」

 

「これからの話はまだちゃんと確かめた訳じゃないから多分という物が含まれるけど……これは艦娘を前世に持つ者だけにある欲求だと思うの、艦娘だったから人へ対する負の意識は薄く、代わりに前世の自分に惹かれ提督という存在を渇望する……」

 

「ああ、だから自分と邂逅して間もないのに、皆そういう(カッコカリ)事に前向きなんだ」

 

「あーうん、まぅそういう傾向にあるけど、ここにもう一つだけ付け加えておかないといけない大事な話があるの」

 

「大事な話?」

 

「そう、取り敢えずここに居る皆に限ってという事で……全員が認識している部分の話をすると、確かに私達は提督って存在を得て心の足りない部分が埋まった感覚があったわ、でもそれは提督なら誰彼構わないという物でも無いの」

 

「えっと? 話を整理すると君達の心を満たす者は、提督であり更には他の何かを持つ者でないとダメって事になるのかな?」

 

「そう、そこは確実に自覚があるから断言できる」

 

 

 キラキラから真面目な相にシフトし、じっと髭眼帯を見る朔夜(防空棲姫)

 

 そして立ててた人差し指をゆっくりと、目の前でお子様棲姫もとい潜水棲姫の(潜水棲姫)を膝に抱え、白い姫鬼の中心に座るたれぱんだTの男にズビシと向ける。

 

 

「それはテイトクから感じる『匂い』よッ!」

 

 

 ババーンとバックに効果音を背負いそうなカンジで朔夜(防空棲姫)が指差す。

 

 そして数秒場は固まった物になったが、ハッと何かに気付いた髭眼帯はTシャツの首元を引っ張り、スンスンと匂いを確かめ始めた。

 

 

「……何してるのテイトク」

 

「あ、んと何か匂うって話なんでその……三十路も超えちゃったから、ほらね? 加齢臭とか何とかその辺りのオッサンフローラルがその……ね? キツいのかなぁって……」

 

「その話だと私達が全員そんなキッツイ匂いが大好きなヘンタイって事になるじゃないッ! ヤメテよねッ!」

 

 

 ジト目で口を△にした(空母棲鬼)から、年頃のガールが「パパの洗濯物と私の物を一緒にして洗わないで」的な事を言われた悲しいお父さん的な気持ちでシュンとし、それをヨシヨシと撫でる(潜水棲姫)という微妙な絵面(えづら)に、何とも表現し難い顔の朔夜(防空棲姫)が溜息を吐き、誤解を解きつつ話を進め始める。

 

 

「今私は匂いという言葉で表現したけど、それは鼻で感じる匂いじゃなくて何と言うか……提督からは、他の人間からはしない独特の物を、匂いを感じるのに似た感覚で感じてるの」

 

「他の人にはしない?」

 

「そう、人のようで、艦娘のようで、それでいて私達と同じようで……それが全部混ざった感じと言うか……」

 

「えっと朔夜(防空棲姫)君達ってさ、同族とそうじゃない……例えば人間や艦娘に対してもさ、そういう感覚的な差っていうのは常に感知している状態なの?」

 

「ええ、まぁ大体はそんな感じね」

 

 

 朔夜(防空棲姫)が言う『匂い』という言葉に吉野は思い当たる節があった。

 

 それは海湊(泊地棲姫)から『死ぬ者特有の匂いがする』と言われた時。

 

 北方棲姫へ自身の状態を何も説明していなかったのに、先が短いと寿命を言い当てられたあの時。

 

 

 どういう訳か、彼女達は自分へ対し感覚的な何かを感じ取り、しかもそれらを確信した上で口にしていたと髭眼帯は思い至る。

 

 

「ねぇ朔夜(防空棲姫)君」

 

「ん? なぁに?」

 

「あーそういうの、ああつまり今自分から感じている感覚的な物を感じてるって……君達全員がそうなの?」

 

「多少の差はあるけどそれで間違いないわ、ただテイトクは今言ったように他の人間とは違って特別なの、同族としての安心感と、それ以上に何と言うか……」

 

「そんな事は無い筈なのに、艦娘の持つ力強さに、恋しいと思う人の弱さ、そして同族に対する気安さ、それらがない交ぜになって、私は惹き付けられてしまいます」

 

 

 朔夜(防空棲姫)が口篭る後を継ぐように静海(重巡棲姫)が気持ちを言葉にし、それに納得したのか周りの者も頷きで肯定の気持ちを表す。

 

 

「前に聞いた提督の体の事、それって身体的な物以上に何か作用してるんじゃないかしら、まぁそんな難しいのはほっぽに任せるとして私達の気持ちを素直に言うと、この心の中にある隙間を埋められるのは『提督』ではなく、『テイトク』だけなの」

 

「ここっほら他のとこから提督がちょくちょく来てるけど、もしアイツらがテイトクと同じ事してきたとしても、私は(なび)いてなかったと思うわ」

 

 

 朔夜(防空棲姫)が説明をするどさくさに割り込んで(空母棲鬼)が好意的という部分をアピールし、場は何と言うかツンツン娘のささやかな努力を生暖かい目で見る場が出来上がるという畳ゾーン。

 

 

「多分ほっぽはそれを理解してるから、テイトクのとこに自分のとこから帰りたいって言ってる子を送ろうと思ったんじゃないかなぁ、私もテイトクを見てそれ納得したしねー」

 

水晶(空母水鬼)がそう感じてるって事は、これからほっぽがやろうとしてる事って案外上手くいくかも知れないわね」

 

 

 腕を組んでうんうんと何やら一人で納得する朔夜(防空棲姫)

 

 何故かその言葉に髭眼帯の嫌な予感メーターがピコンと反応する。

 

 

「……ほっぽちゃんがやろうとしてる事ぉ? なぁにそれぇ?」

 

「え? なにそれって、テイトク何も聞いてないの?」

 

「全然なにも聞いてないですぅ」

 

「ん~? 次の定期便であっちから離島棲姫に飛行場姫、それと駆逐棲姫と……後は装甲空母姫だったかしら、そいつらがここに来るって話は?」

 

「えぇ~……なぁにそれぇ? 提督全然聞いてないんですけどぉ?」

 

「あっちで面接して、希望する姫鬼級の子達を随時こっちに送ってくるって聞いてるけど、ほら、ここ(日本近海)って私のテリトリーじゃない? だから事前にこっちにはそういう子達を送っていいかって確認があったんだけど」

 

「面接ってなぁにぃ? 君達の世界にもリクルート的な活動とかあったりしちゃうのぉ?」

 

「この世界には元艦娘だった上位個体の受け皿になるとこってそれ程ないのよね、ほっぽのとこか、海湊(泊地棲姫)のテリトリーの隣に潜り込んで縄張り争いに勝ち抜くか……でもね、ほっぽのとこってそういうのがやたらと集ってるらしくて扱いに困ってるから、今は眠らせてる状態らしいのよね」

 

 

 朔夜(防空棲姫)から聞かされる衝撃の色々諸々に髭眼帯のプルプルがカタカタへ変化していき、懐に収まっている(潜水棲姫)が振動に揺られ「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛」と扇風機に向って声を当てる子供みたいな珍妙な事になっていく。

 

 今聞いた確定事項に名を連ねる者だけでも姫級の名が四体分含まれている。

 

 それが大坂鎮守府へINするだけでも恐らく軍部はひっくり返る程の大騒ぎになるというのに、話の続きにはまだまだ遊べるドン! 染みた救いのない事実が飛び出しそうな状態になっている。

 

 確かに教導という物を考えれば深海枠の増員は有用と言えるだろう。

 

 だからと言って内地の大阪という地がアイアンボトムサウンド染みたワールドになってしまうと、日本はおろか世界各国から危険視される事態になり兼ねない。

 

 そんなヤバイと言うには生ぬるい未来に思考が麻痺し、カタカタする髭眼帯を見て、朔夜(防空棲姫)はニコリとしつつ安心しなさいなと言いつつポンポンと肩を叩く。

 

 

「今度テイトクはほら、北の島を獲りに行くんでしょ?」

 

「あ……ああうん、そんな予定になってるけど……」

 

「でね、ほっぽとかその辺りから送られて来る子達ってそれなりの数になるけど、その子達全員ここに受け入れるのってちょっと無理があると思うのよね、ほら、テイトクの世間体を考えると」

 

 

 深海棲艦上位個体から世間体を心配されちゃうという海軍中将。

 

 言葉だけで言えば、それは物凄く微妙と言うか人類と深海棲艦という関係を考えると、物凄く微妙かつオポンチ過ぎる関係性になってやしないかとこの時髭眼帯は思った。

 

 

「だから北の島を獲ったらね、そこは私のテリトリーとしてほっぽから貰う事になったから」

 

「……ハァァァ!? ナニソレどういう事ぉ!? 提督そんな話聞いてないんですけどぉ!?」

 

「あ、聞いてなかったんだ? それでね、その島ってほら丁度私の縄張りの端になる予定だし、今は無人島だし、ついでにあの辺り周辺って人間が殆ど住んでないし、だから……」

 

「……ダカラ?」

 

「そこにほっぽのトコから来た子達を受け入れる施設と言うか基地と言うか、そんなの作ってあの近辺一帯を任せちゃおうと思うの」

 

「いやいやいやいや!? 何軽く姫鬼マンションここに建てよっかみたいなカンジで軽く言っちゃってるの!? てかどれだけの姫さんとか鬼さんあっちから来ちゃう予定な訳!? ねえっ!?」

 

「数は知らないけど、まぁ今ウチに居る数は軽く超えるのは確実よね、ただそれがいっぺんに来ると混乱するだろうし、数年掛けてゆっくりとってほっぽは考えてるみたい、あ、それでも一応私の配下になる訳だし、最終的に島へ行くにしても先ずここで何ヶ月か過ごして、ちゃんとルール的な事を理解してからになるから、あ、それと当然その子達もほら、さっきテイトクに説明したように間違いなく嫁になっちゃうと思うからその心積もりは必要よ? て言うかEngagement ring用意する資金は大丈夫? 何ならその辺り大淀に相談する必要もあるわね」

 

 

 いつもの防空棲姫的トークが炸裂するに至り、ツッコミすら入れる余地も無くなった髭眼帯はカタカタ度を増し、それが過ぎた為か膝に収まっていた(潜水棲姫)が下から「おやびん、もちつけ」と言いつつほっぺをペチペチとするというカオス。

 

 こうして取り敢えずは落着したと思っていた例のほっぽちゃん案件は、別の形で爆弾があったという事が判明し、髭眼帯はそれの調整の為、まだ行動を起こしていないにも関わらず、また各方面と鉄火場という名の折衝を重ねる事になっていくのであった。

 

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 ただ言い回しや文面は意図している部分がありますので、日本語的におかしい事になっていない限りはそのままでいく形になる事があります、その辺りはご了承下さいませ。

 それではどうか宜しくお願い致します。

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