大本営第二特務課の日常   作:zero-45
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 前回までのあらすじ

 始まってしまった強制会談、板挟みになったヨシノンは取り敢えず色々画策するも状況は芳しくなく、結末はどこへ向って流れていくのか。


 それでは何かご意見ご質問があればお気軽にどうぞ。


2019/02/20
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きましたリア10爆発46様、pock様、K2様、雀怜様、有難う御座います、大変助かりました。


潮目(中)

「さて、一応話は保留と言う事にしておいて、こちらでは仕切り直しと言うか意見を纏めたいと思うのですが」

 

『さっき吉野中将は腹案があると言っていたが、先にそれを聞かせて貰おうと思うだが……皆さんはそれで宜しいか?』

 

 

 海湊(泊地棲姫)達が通話から退出した後の会議。

 

 残された時間はそれ程無いとあって早速と話を進める為の話し合いが始まる筈であった。

 

 吉野にとっては本番と言える折衝事、しかし他の参加国にとっては先程と変わらず戸惑いと受け入れがたい事実が浮き彫りとなった会議。

 

 

 両者にある認識と立場の差が顕著となった場はヘタに言葉を口にすれば、国益を大きく損なう事になるかもしれないとあって、坂田の言葉に返って来る声は無い。

 

 加えて元々大坂鎮守府が絡んだ問題でもあるこの話に其々は懐疑的な考えを持ってはいたが、拒否すれば漏れなく全面戦争があるとあってはそれすらも言えないという緊迫した空気が場に漂っていた。

 

 聞く以外の手が無いのは誰もが理解していた、それ故会議の仕切り直しは口をつぐんでの様子見という色合いが強い形でスタートする。

 

 

「先ず今回の一件はあちら側から宣言された話を飲むかどうかという事に答えは集約されます、自分は基本的にそれを飲む方向で話を進めたいと思います」

 

『私もその話を受けるのは仕方ないと思っておるのだが、それに付いて日本がどれだけ我が国に降り掛かる損失を埋めてくれるか、それ次第で国内の抗戦派の押さえが効くかどうかが決まると思いますな』

 

『米国としては支援できる事は最大限協力しましょう、ただしそれが国益を損なう事となれば話は別です』

 

『欧州連合の意見は先程述べた通りですので、特にいう事はありますまい』

 

『日本は……まぁ、当事者国とも言えますし、今は何もいう事はありませんな』

 

「判りました、では意見の一致をみたという事で、結論は徹底抗戦と言う事で宜しいですか?」

 

 

 全ての参加者が述べた意見を聞き、髭眼帯はサラっと結論を口にする。

 

 その瞬間場には言葉は無く、幾人かが息を詰まらせた様な音だけが聞こえてきた。

 

 

 それから数秒の間は音も無く会議は停滞し、髭眼帯は今日のお茶当番であった軽巡棲鬼がしずしずと運んできた飲み物を受け取りつつ、次に口にする言葉を頭の中で反芻ながら手元の飲み物に視線を落とした。

 

 

 そこにあったのは透明のプラペットボトルにINされた青い液体。

 

 ラベルには髭眼帯の秘書艦でもある時雨の姿がデカデカと表記された例のブツ、それはあの艦娘冷却水であった。

 

 

 人生最大とも言えるこの鉄火場に於いて、何故よりにもよってそんなブツが供されるのか。

 

 髭眼帯は怪訝な表情で軽巡棲鬼の方を見ると、彼女は『ごめんなさいごめんなさい』と書いたフリップを掲げつつスイッとメモを差し出してきたので、プルプルしつつもそのメモを受け取って内容を確認する。

 

 

『頑張る提督もすてきだね。でも、無理しちゃだめだよ?』

 

 

 恐らくそれは彼女なりの激励だったのだろう、文面も彼女が髭眼帯を気遣う時に口にする言葉のまま書かれていた。

 

 しかしそれが何故艦娘冷却水にシフトするのだろうか、激励の気持ちは汲むがその方向性が聊かおかしな方向に捻じ曲がってやしないかと髭眼帯は思った。

 

 

『Mr吉野、今意見の一致を見たと、そう言ったかね?』

 

 

 秘書艦からの陣中見舞いを片手にプルプルする髭眼帯に、合衆国大統領はやや憮然とした声色で問い掛ける。

 

 各国からの意見が一応出ただけの場、未だ話し合いとも言えない形にすらなってない話し合い。

 

 そんな段階で場の中心とも言える男が話をぶった切る形で言い放った一言は、冒頭に述べた腹案も何もない、只の暴論とも取れる言葉である。

 

 誰が聞いてもそれは問い質したくもなる返しであるとも言えるだろう。

 

 

「はい、そう言いましたがそれが何か?」

 

『君はさっき問題を解決する為の腹案があると言ったが、まさか徹底抗戦という物が君の言う腹案ではないのだろう?』

 

「そうですね、違いますね」

 

『なら何故その話をせずに、会議を締めようとするのかね』

 

「えっと、先ず会議の前提から皆様が誤解されてる……と申しますか、現状の把握をちゃんとなされていないようですし、そんな状態で自分の中にある案を出しても無駄だと判断しました」

 

『吉野中将、我々は国を背負ってこの会議に臨んでおるのだよ、余り勿体つけた話の進め方は失礼だとは思わんのかね?』

 

 

 吉野の言葉に、今度はロシアの参謀総長が不快感を隠そうともしない言葉で遺憾の意を表明する。

 

 その言葉を聞きつつも、髭眼帯は手にしたブツをどうしようかと弄びながら、敢えて暫く無言の間を置いて話し始めた。

 

 

「この会議に於いて、国益という部分を皆様履き違えてやしないかと、自分はそう思っております」

 

『どう誤解をしていると? もっと具体的な言い方は出来んのかね』

 

「では無礼を承知で申し上げます、現在人類は未曾有の危機に瀕しており、棺桶に片足を突っ込んだ状態にあります、乱暴な言い方をするなら、我々は現在生きるか死ぬか、その二択を迫られているという言い方をすればご理解して頂けるでしょうか」

 

 

 髭眼帯は手にしたペットボトルの中身を結局ちびちび飲みながらも、話の前提をちゃんと整える為の言葉を口にしつつ、それでも未だに問題の根本を理解しないロシアの代表にどう言い含めたものかと眉根に皺を寄せる。

 

 

「そんな状況にあるのに、損得という物を持ち出して話をされるというなら……もう話し合いなど無意味でしょう」

 

 

 例え出来レースであったとしても、話の結論次第では北方棲姫や海湊(泊地棲姫)を相手に世界は事を構えなければならないと言うのは間違いのない事実である。

 

 言い換えてしまえば、この会議は一方的に言い放たれた降伏勧告に対し、どうするかを決める場と言えるだろう。

 

 国益という物は確かに国の舵取りをする者にとっては何事にも優先する物なのは確かである。

 

 しかしこの場でそれを口にするという事は、周りを敵に囲まれ、額に銃口を突き付けられた状態で損得を前提にした交渉を持ち掛けるに等しい愚行と同義であった。

 

 

「この話は前提として、どの国にもマイナスを背負う未来しかありません、その上でマイナスを如何に減らすか……この話し合いはそういう事に終始する場だと自分は思っています」

 

『どの国にもマイナスしかない? では聞くが日本はどうなのかね、深海棲艦と通じ、新たに海域を支配し、更には上位個体を麾下に置く、これのどこにマイナスとする物があると言うのか』

 

「力を持つ者は相応の血を流すのが世の常でしょう、確かに今我々は北方棲姫と泊地棲姫との間に約定を交わし、麾下に上位個体を置いてますが、これまで日本は多くの血を流してきました、どの国よりもです、その結果が今へと繋がっていると思います、ですが……」

 

 

 未だ目の前に浮ぶ石版的な物を、髭眼帯は睨み上げる。

 

 例えそれが相手から見えていない無意味な行為と理解しつつも、そうせずにはいられなかった。

 

 

「過ぎたる力を持ったが故に、背中を狙われる(・・・・・・・)というリスクも確かに背負ってしまう結果に悩まされてはいますけどね」

 

 

 この時吉野はロシアが火消しの為に行動を起こしているという情報を知らなかった。

 

 池田へ齎されたその情報はタッチの差で伝わらないまま、この会談に臨んでいた。

 

 それを知っていたなら話の進め方はまだ違う物になっていただろう、だがそれを知らない為、吉野の中でロシアという国は未だ仮想敵国という認識にあった。

 

 故にロシアに向ける対応は容赦のない物になっている。

 

 

 そしてロシア側も言葉の意味を理解してしまい二の句が告げない。

 

 海湊(泊地棲姫)達が世界へ宣言した後、ロシアでは関係を改善する必要があるという認識の元、吉野という男が何を考え、どういう行動をする者だという予想を立て、先んじて手を打った。

 

 それを察知した吉野はある程度の搦め手を含んだ折衝に動くと踏んで、この連邦軍参謀総長は会談に望んでいた。

 

 

 実際の話その行動は間違っていなかった、吉野に対し手打ちという行動をロシアが見せれば、多少面倒な手間は掛かるだろうが(つて)という物に重きを置く吉野ならば、最後は損得で話を納める形にした筈であった。

 

 

 ただし、それは諸々の情報が吉野に伝わっていたならという話が前提での話である。

 

 だからロシアの目論みはこの場では一切通らない形になる。

 

 ある意味面子を重んじたばかりに直接的な接触を避け、坂田へ接触を計ったロシア側の手落ちが事態を悪化させたとも言えるが、どちらにせよこの時互いの内にある情報と考えには齟齬があり、それが誤解を生む元になっていたのは確かであった。

 

 

「ある程度の情報は共有されていると思いますが、今問題の中心となっている……現在自分の麾下にある上位個体は全て艦娘であった者達です、それも嘗ては日本の海軍所属であった艦達です、それが何を意味するのか……皆様ならご理解頂けると思います」

 

 

 トントンとテーブルを指で叩きつつ、髭眼帯は目の前に居る二人と、そして茶当番として横に控える者へと順に視線を流す。

 

 それは何かを確認するように、自身に言い聞かせるかの如く。

 

 

「何故今日本に上位個体が集っているのか、それに付いて何も特別な理由はありません、単純に、戦闘回数に伴う轟沈数、つまり世界で沈んだ艦娘の殆どが日本の艦であった事に他なりません」

 

『前世が日本の艦娘であったから、それが深海棲艦を麾下に置く正当な理由になるとでも? その行動が世界の軍事バランスを崩す事になっているのを君は理解しているのかね、あまつさえその短慮が我が国の主権を脅かす事態に繋がっているのを忘れたとは言わせんぞ』

 

「誰よりも多くの血を流し、物言わず沈んで逝った者達です、死して尚望郷の念に動かされ彼女達が還って来たというのなら、自分はその全てを受け入れるつもりであります、何と言われようと、どう言われようと自分が優先する物は変わりません」

 

『その為に他国へ無理を強いる形になってもかね?』

 

「なら大坂鎮守府という拠点へ全ての上位個体を受け入れた方が良いと、そう仰いますかアレクセーエフ参謀総長殿? 自分としてはその方が手間が無くて良いのですが」

 

 

 最後の言葉に場の者は誰も答えられない。

 

 それを許してしまうと、現状でも艦娘保有数が群を抜いて多い日本が更に力を持つ事になる。

 

 それ以上に特定個人が国を相手にできる程の戦力を持つ事にもなる。

 

 

 理想としては麾下にある上位個体を各国へ派遣という形でも配備できればいいが、それは朔夜(防空棲姫)が吉野の麾下に付いた時に否定した前例があり、他国が絡む戦力の分散は望めない。

 

 

 吉野的には別に大坂鎮守府へ全ての上位個体を受け入れても良いという考えはあった、ただそれは周りへ負担を強いるのが確実であり、他国との絡みが元で現在繋がっている対外的な関係が危うい物になるのは確実だろうという予想は立てていた。

 

 だからそれを回避する為にも上位個体が常駐する場を分散して施設を整え、国家間を含んだ関係をなるべく崩さない形で維持しようと画策していた。

 

 

 しかし吉野に伝わっていなかったロシアからの情報が、それら全てをご破算にする方向へと向っている。

 

 ロシアから見れば、手打ちと共に関係の改善を見込んでの会談であった、対する吉野はそれを知らず徹底的な拒絶の形を取っている。

 

 故に関係の改善は無いとこの時ロシアは誤解したまま、話は混沌を深めていく事になる。

 

 

「ただアレクセーエフ参謀総長殿、一応代替案としてそちらへの影響を限り無く抑え、かつ戦力の分散を実施するという案が自分の中にはあります」

 

『幾ら戦力を分散したとて、日本……いや君が相応の戦力を有するという事実は変わらん、我が国はそれを認めるつもりは無い』

 

「それは、今深海側から通告されている諸々を……真っ向から拒否すると、そういう話でしょうか」

 

『この際だから言わせて貰おう、かの者達と君は関係を持っているのだろう? ではその通告に従い条件を飲むという事は、君にとって都合の良い話を我が国が認める事になる、そして一度それを認めてしまえばこの先も同じ事が繰り返されるのではないか? そんな事は主権国家として断じて認める訳にはいかんのだよ』

 

 

 アレクセーエフの言葉は多かれ少なかれ場の者全てが持つ考えであった。

 

 当然吉野もそう思われているというのを理解しつつ話を進めていた。

 

 だがそれを口にせず会談という形で話を進めていたのは、例え吉野がそういう立場にあっても、これまで利権や保証という形で最大限周りに何かしらの還元をしていたからであった。

 

 そして今回も理不尽を推し進めつつも、結局吉野が関わった場合、関係各国の関係は清濁併せ呑む状態に収まるという事を誰もが理解していた。

 

 

 だがそこにある理不尽を口にしてしまえば、もう見てみぬ振りは出来なくなる。

 

 言葉にしてしまった以上、それは形になってしまう。

 

 そしてこの会談の場でそれを言ってしまうとなれば、もう後戻りはできない。

 

 

『答えは出たようだな』

 

 

 ロシアと吉野の間で剣呑な空気が出来上がりつつある場に、抑揚の無い海湊(泊地棲姫)の言葉が響く。

 

 同時に空気が張り詰め、そして吉野は顔に手を当て天を仰いだ。

 

 

 全ての原因は単なるすれ違い、ロシアが起こした行動を吉野が認知していなかったという単純な話。

 

 しかしそれは吉野が明確に敵対するという意思表示をしたとロシアが誤解したばかりに、全てが崩れ去ってしまった。

 

 

 それは同時にロシアに対して深海側が蹂躙を開始するという事が決定した瞬間でもある。

 

 

 ユーラシア大陸で最大の国土を持つ大国が深海棲艦との全面戦争に突入する、それは単にロシアだけの問題に留まらない。

 

 大陸最大の国が本土で生死を賭けた総力戦を開始するとなれば、周辺各国もなし崩し的に巻き込まれるのは間違いない。

 

 それは滅亡がほぼ決まった戦い、結果は当然形振り構わない物になるだろう。

 

 環境を破壊する程の兵器が使用され、後に残るのは人が住めない大陸になるのは間違いない。

 

 そして使用された大量破壊兵器は地球全土に影響を及ぼし、恐らく人類は緩やかに死を迎える事になる。

 

 

『残念だよヨシノン、自分でも意外な程に、今私は落胆している』

 

「……海湊(泊地棲姫)さん、最後の答えを出す前に、ちょっと確認させて欲しい事があるんですが、いいですか?」

 

『構わんぞ我が友よ、ただ何かをするつもりなら早くした方がいい、北方棲姫は既に結界を解きつつある、今はもう手遅れと言える状態にあるからな、そしてお前の足掻きを見届けた後は、私もヤツと共に北の国へ出撃()る事になるだろう』

 

 

 二人の他に言葉を発する者は居ない。

 

 事の重大さに混乱しているのか、それとも既に何かしらの行動を起こす為に席を立ったのか。

 

 どちらにせよ残された時間は僅かしかない。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「それで? えらい大騒ぎになっておるようじゃがわらわに何か用かの主殿」

 

「ちょっと飛行場姫君には確認したい事が幾つかあるんだよね、まぁそんなにややこしい事ではないけど」

 

「ふむ? 確認かえ?」

 

「そそ、確認」

 

 

 現在地下指揮所には元々居た者達に加え、長門に朔夜(防空棲姫)、そして飛行場姫が加わり、これまでにあった事の次第は静海(重巡棲姫)から聞かされていた。

 

 その脇では吉野が飛行場姫だけを呼んで話し込むという、切羽詰った現状の割にはやや空気が弛緩物になっている。

 

 世界規模の戦争、しかも北方棲姫と泊地棲姫が揃って敵対する恐れがあるという話に流石の長門も絶句し、朔夜(防空棲姫)さえも深い溜息を吐き、何かを考え込む様を見せていた。

 

 そんな中、吉野だけはいつもの態度を崩さず飛行場姫と対していた。

 

 

「君がウチに来る事を希望したのって、ここが日本海軍の拠点だからだよね?」

 

「そうじゃな、それは理由の一つになっておる」

 

「で、手前味噌だけど、自分を提督として見ているというのも理由の一つになっているんだっけ?」

 

「然り、じゃな」

 

「んじゃ例えばだけど、その二つを比較して、どっちが君達にとって重要となってるのかな?」

 

「どちらが?……それはまたえらく曖昧な問い掛けよの、正直即答するのは難しくはあるが……」

 

「んじゃ具体的な例を挙げたら答えは出易いかなぁ、んー……例えば自分が日本海軍の所属じゃなくなったとしたら、君はどうする?」

 

 

 その言葉に飛行場姫は一度首を傾げ、じっと吉野を見る。

 

 

「……ふむ、そうじゃの、主殿がわらわ達のテイトクであり続けると言うのなら、この縁は切れんじゃろうの」

 

「自分を提督とするって選択をした結果、日本という国との縁が切れる事になったとしても?」

 

「それは残念ではあるが、わらわ達は戦う理由をくれる者に付き従うのを至上としておるでな、選べと言われれば主殿と共にあろうとするじゃろうの」

 

「んじゃさ、他のほら、まだほっぽちゃんとこに居るっていう子達は、どうなのかな?」

 

「……すまぬがもっと具体的な話をして貰えぬか? 主殿は何かをしようとしておるのじゃろ? それを言って貰えねば出せる答えも出せんのじゃ」

 

「んー……例えばさ、ここじゃないどこかに自分が行って別の拠点を構えて、次から来る深海の人達にそっちで受け入れますよと言って、果たして彼女達に納得して貰えるものなのかどうなのかってのを知りたいんだよね」

 

「その場合内地ではなく、しかも主殿が日本の海軍所属にではなくなっているという前提で良いのかの?」

 

「だねぇ、そうなった場合どうなのかなって」

 

「それは本人達に話してみんと判らんが、わらわが知る者達なら殆どの者は主殿の麾下へ(くだ)るのを望むじゃろうのう」

 

「うわぁ……そうなんだ?」

 

「これは麾下に入らねば理解が及ばぬ事じゃからの、最低でもそ奴らと主殿が一度は邂逅を果たさせねばならんという前提があるにはあるが、まぁ概ねその者達は国ではなく、主殿を選ぶ事は間違いあるまい、それはわらわが保障しても良いぞ」

 

 

 迷いもなく答えを口にする飛行場姫に髭眼帯はプルプルしつつも、テーブルからインカムを拾い上げ、再び通信機能を立ち上げる。

 

 その姿を見て話し合いを続けていた長門達も一旦席に着き、会議がどういう形になるのか注視する為の姿勢を取る。

 

 と、同時にお茶当番の軽巡棲鬼がそれぞれに飲み物を配り始め、髭眼帯にも新たな飲み物が用意された。

 

 

 それはまたしても艦娘冷却水。

 

 

 しかもそれは時雨Verではなく、ポイヌ(夕立)の姿がラベルに張り付いた、黄金色した液体のブツであった。

 

 それを手にした髭眼帯は思わず突っ込みの体勢にシフトしそうになったが、現在は世界各国の要人と深海棲艦のボス二人に声が聞こえてしまう環境にある。

 

 まさか世界中にそんな醜態を晒す訳にはいかないと我に返り、プルプルしつつブツをテーブルに置いて気合を入れ直す。

 

 

「あー、すいません、この会議通話にご参加してる皆様は、まだ残っていますかね?」

 

 

 緊急事態が進行中という場にそぐわない、あまりにも軽い声色に其々の返事が聞こえ、辛うじてまだ話ができる状態にある事に髭眼帯は胸を撫で下ろした。

 

 次いで各国の代表全てに暫く待って貰う様に伝え、話は取り敢えず海湊(泊地棲姫)と北方棲姫、そして吉野という三者のみという形で進行する事になった。

 

 

 同時にもう必要ないからと音声のみの会話から映像通信へ切り替える事になり、相手の表情を伺いつつの話し合いへと場はシフトする。

 

 

「えっとほっぽちゃん、海湊(泊地棲姫)さん、ちょっといいです? 一応深海の人達を受け入れる件なんだけど、分散してではなく一箇所でという形になってもいいんですよね?」

 

『それはヨシノンの拠点へ全員纏めて受け入れるという事か?』

 

『それを誰もが認めないと答えは出たんでしょ? だから私達は殺すの、自分の我を通す為に』

 

「あーあーそれなんだけど、日本じゃそれ無理だから、お引越ししてそこに全員受け入れようかって思ってるんですが」

 

『……はぁぁぁぁぁ!? 何言ってんのオニーサン!? お引越しってどういう事!?』

 

『やはりそういう結論になるか、まぁそうしなければ話は収まらんだろうな』

 

『ちょちょちょっと待ってよ! お引越しってどこに引っ越すつもり!?』

 

「取り敢えず候補地は幾つかあるんですけど、状況的に日本から結構離れた場所になるのは間違いないですね」

 

『待ってよ~ それじゃ送り出す子達を説得するハードル上がっちゃうじゃない~ カンベンしてよぉ~』

 

「ほっぽよ、その辺りは心配せんでも良いぞ、取り敢えず全ての者を主殿の元へ送るが良い」

 

『え、どういう事それ』

 

「説得は不要と申しておる、そちらから送り出す者達の事は全て主殿に丸投げで問題はなかろ」

 

「ファッ!? 飛行場姫君何言ッチャッテンノ!?」

 

『そなの? まぁ飛行場姫ちゃんがそう言うなら大丈夫かな、うんうんそれなら問題はないよ!』

 

 

 面倒事が無くなった事でほっぽちゃんの表情から剣呑とした物が霧散し、それと比例して髭眼帯のプルプルが始まってしまった。

 

 後にそのやり方は手間が掛からないからと幼女棲姫が益々自重しなくなり、髭眼帯の毛根が禿げ散らかす事になっていくのだが、それはまた少し先の話である。

 

 

『それで、ヨシノンが居を別の場所に構えるとして日本はどうするのだ? 今聖域は朔夜(防空棲姫)の縄張りとなっているのだろう?』

 

「私はテイトクに付いて行くわよ、当然でしょ?」

 

『って事はその縄張りはまた空白地帯になっちゃうのかな』

 

「いやいやいや、それは困ります、今日本近海の深海棲艦が活発化しちゃうと、多方面のバランスが崩れちゃいますし」

 

「ならそちらは駆逐棲姫と装甲空母姫に任せば良かろ、あ奴らは元々幌筵に居座るつもりでおったからの、それが内地となっても特に問題はなかろうて」

 

「それじゃ引継ぎだけしなくちゃいけないわね、まぁ結局上位者はテイトクなのは変わらないし、その辺りは問題ないわ」

 

「あーうん……その辺りの諸々はまた別として、海湊(泊地棲姫)さん、ほっぽちゃん」

 

『何だ』

 

『うん?』

 

「こういう形で話を進めたとしたら、ロシアに対する侵攻は……」

 

『それとこれとは話が別だよ、私としては面と向って戦うって言ったヤツらを放置する事は、出来ないかな』

 

「……どうしても?」

 

『ん、どうしても』

 

「あー、うんそれじゃ仕方ないですね、えっと、湾岸棲姫(陸奥)さん?」

 

「そうね、ほっぽが戦争を始めるのなら私が世話を焼く必要は無いわね」

 

『え゛!? なんで!?』

 

「戦ってる間って身の周りの世話は必要ないでしょ? お茶やご飯って私達にとっては娯楽なんだし」

 

「あ、行く場所が無いならウチに来ます? 受け入れ枠拡大予定ですし」

 

「それもいいわね、ちょっと考えてみようかしら」

 

『ちょっと待ちなさいよっ! ぐぬぬぬぬ……ムツが居ないとプライベートが……でもアイツらは許せないし……』

 

 

 映像通信に切り替えた事で北方棲姫が苦悩する様がモニターに映し出され、髭眼帯が物凄く悪い顔でそれを見るという絵面(えづら)が展開され、海湊(泊地棲姫)がそれを見て首を左右に振るというカオスが出来上がる。

 

 一応言ってしまうと、それは一国を攻め滅ぼすかどうかという話し合いの場である。

 

 決してダメな女子を髭の眼帯がハメようとするメーな場では無いのである。

 

 

『攻めない代わりに海上封鎖、取り敢えず北極海に面する海に出てきたヤツは問答無用で叩き潰す、でもこっちからは攻めない、これで……どうよ?』

 

「それはロシアに対してですか?」

 

『まぁそうなるかな』

 

「いやそこは訳隔てなく全ての国にって事にしましょう」

 

『え? なんで?』

 

「で、その事を会議で宣告する時にですね、責任は全部ロシアにあるって事をカミングアウトしちゃえばいいんです」

 

『!? そうするとロシアは国際社会から総スカンを食らう事になるよね、うわぁ流石オニーサン……敵に対しては容赦ないね、何て恐ろしい……』

 

「言葉一つで相手は弱体化していきますし、直接手を下す煩わしさもない、後は茶でもシバいて様子を見ているだけでいいんじゃないかと」

 

『スバラシイ! それ採用!』

 

 

 物凄く悪い表情で悪巧みを口にする二人を見て、指揮所の者達はおろか海湊(泊地棲姫)も揃って深い溜息を吐いた。

 

 

 こうして軽い感じで話を進めてはいるが、吉野がやろうとしているこの行動は、本来なら最悪を想定した、出来るなら切りたくは無かった最後の切り札であった。

 

 それを切る事により目的は更に遠退き、また関係が複雑化する事が予想されるが、そうしなければ取り返しの付かない事になるのは確実となる。

 

 この選択が後に吉野自身にとっても人生のターニングポイントとなって、取り巻く世界を巻き込みつつ大きな流れを形作っていく事になるのだが、それを本人が自覚するのは随分と先の事になるのであった。

 

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 ただ言い回しや文面は意図している部分がありますので、日本語的におかしい事になっていない限りはそのままでいく形になる事があります、その辺りはご了承下さいませ。

 それではどうか宜しくお願い致します。



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