大本営第二特務課の日常   作:zero-45
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 前回までのあらすじ

 日本からニュージーランド改め西蘭島へお引越しした髭眼帯と愉快な仲魔たち。

 当然そこには何も無く、生活基盤から築いていく必要があった。

 彼らは何も無い処から何をどう作り、どう生活していくのか。


 それでは何かご意見ご質問があればお気軽にどうぞ。


2018/04/23
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きましたK2様、有難う御座います、大変助かりました。


Sim泊地 【①】

 横に掛かる表札的なデカい木札を見てプルプルする脇では、夕張が門扉をカラカラとスライドさせてINしていく。

 

 それに続き時雨も入っていったので髭眼帯は心の準備もそこそこに、嫌な予感メーターの針がゆんゆんと揺れている自覚を持ちながらも後に続いていく。

 

 門を潜ったすぐそこには内側に捻り松が(ひさし)の部分に掛かり、目の前には玄武岩による幅3m程の石畳が内玄関まで20m程続き、その左右には石灯籠が数基建ち並ぶ。

 

 奥に見えるのはやはり和風建築による平屋の建物で、そこに至る途中には何故か巫女さん然とした女性が二人、竹箒で掃除をしているのが見える。

 

 一瞬どこぞの神社と見紛う絵面(えづら)に髭眼帯は怪訝な相を滲ませるが、そこでお掃除してる人物が良く見知った人物だと理解するのにそう時間は掛からなかった。

 

 

「よーぅ提督ぅ、お早いご到着だねぇ?」

 

「あら、こっちに来るのはもう少し後だって思ってたけどもしかして予定の変更でもあったの?」

 

 

 何やら紙屑的な何かを掃き集めていたのは軽空母の飛鷹姉妹。

 

 建物や周囲の造りから見れば彼女達が普段纏う制服は景色に溶け込みそうな作りであり、巫女服然とした特徴的な出で立ちは周辺の建物をやや特定のイメージに誘導しそうな効果を生み出していた。

 

 ぶっちゃけ日本家屋+巫女服だと神社的な、そんな感じで。

 

 

「地下施設に行く前にこっちへ寄る事にしたんですけど、まだ作業中でした?」

 

「んや、丁度今そっちは終わって後片付けをやってるとこだよ」

 

「随分と難儀はしたけど、まぁ納得のいく仕上がりになったんじゃないかしら」

 

「えっと? 二人して大工仕事でもしてたの?」

 

「そんな訳ないでしょ、ちょっと龍驤に付き合ってここに陣を張ってたのよ」

 

「そうそう、ま~ちくっと時間は掛かっちまったけどさ、出来は保障するよ? なぁ飛鷹」

 

 

 二人の足元には何かを書いたと思われる紙屑が山になっており、軽口を叩く割には目の下に隈が浮ぶ様は、それなりに大掛かりな何かをしたというのが判る何かがありありと見て取れる。

 

 所属する空母勢の内陰陽系に長けた三人が総出で何かをやる。

 

 それも大掛かりな何か。

 

 それらを一切聞かされてない髭眼帯は、一体何事かと傾げた首の角度を更に深くする。

 

 

「お仕事が一段落したんだったら休憩にしようか、色々食べ物も仕入れてきたし」

 

「おっ、そりゃ有り難いねぇ、も~昨日からぶっ通しだったからさぁ、腹がペコペコなんだよ~」

 

「ってなにこれ、から揚げばかりじゃない」

 

「アハハ……ちょっと色々ありまして、買い過ぎたと言うか、ほら、例の酒保」

 

「あ~……アレ、そっかぁ、大淀っちに買わされちまったかぁ~」

 

 

 玄関の上がり(かまち)に腰掛けた一団は、コンビニ袋から取り出したから〇げくんやらファミ〇キやらL〇キやら、ぶっちゃけChicken的な物を大量に広げ、苦笑しつつもそれをモグモグしながら雑談に興じる。

 

 

 玄関の中から見るそこは、門に向ってはかなり堅牢かつ徹底的に和風テイストに拘った造り、振り向いて内部を見れば相当奥まで板張りの廊下が延々と続いている。

 

 その様を見る髭眼帯は、この規模で自分の専用設備って大袈裟過ぎやしないかと改めて思い、プルプルしつつもクリッっと視線をchicken祭りに興じる者達に戻す。

 

 何せまだ玄関に入ったばかりなのにその時点で、もぅ一般人的感覚の髭眼帯はポンポンが一杯になる程の絵面(えづら)がそこに広がっているのである。

 

 そして建物の規模は未だ予想が出来ない程の物なのは間違いない。

 

 更に大坂鎮守では霊的陣を敷いた中心人物が全力で何かをしたと聞けば、そこはノリノリになると歯止めが利かない髭眼帯麾下の艦娘達、きっとここも過剰に何かをINさせちゃってるに違いないと髭眼帯の嫌な予感メーターはピコンピコンするのであった。

 

 

「え……えっと、二人の他に龍驤君も作業してたんだっけ? 彼女も後片付けを?」

 

「ん? 龍驤かい? あ~多分今頃は陣に綻びが無いかチェックしてんじゃないかなぁ」

 

「そうね、ここ一週間誰かが入れ替わり立ち代り陣を張るのに出入りしてたから、どこかに抜けが無いか確認しないといけないでしょうし」

 

「え、一週間入れ替わり立ち代りぃ?」

 

「そそ、空母勢総出でここに龍脈を曳いて霊場を開いたからさ、安定させるのに時間が掛かっちまったんだよねぇ」

 

「空母勢がぁ? 全員でぇ? やっちゃったのぉ?」

 

「ここってほら例の赤煉瓦使ってないだろ? だからその代わりに霊的障壁でガッチガチに守りを固めないとダメって事でさ」

 

「大坂の本殿並みには手間が掛かってるかしら、まぁそのお陰でちょっとやそっとじゃ落ちない造りに仕上がったわね」

 

 

 確かにそこは例の妖精さん謹製の赤煉瓦は使用されていなかった、そしてここは髭眼帯が平時に詰める重要な建物かも知れない。

 

 だからってそこを霊場に仕立て上げるのは幾らなんでもやり過ぎではないかと、髭眼帯はプルプルしちゃった。

 

 

「それじゃ私達は奥にいきますけど、お二人はどうします?」

 

「まだ後始末も途中だし、それが終わった後で顔を出すわ」

 

「差し入れあんがとさん、龍驤を見掛けたらそっちに行くよう言っとくからさ」

 

 

 のっけから軽いジャブと言うには重い連打を食らいプルプルしつつ、髭眼帯は延々と続く板張りの廊下を奥へ進んで行くのである。

 

 最奥の執務室へ辿り着くまでに第二第三の刺客が待ち受けているとも知らずに。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 黒く艶のある板張りの廊下は外観に劣らずしっかりとした造りになっており、天井が高い為か実際の空間よりもそこは広く感じる。

 

 遙か向こうに執務室の物だろう襖が見えるが、そこに至るまでに左右二部屋、十字路になった廊下を途中に挟み更に左右一部屋の計六部屋が廊下に建ち並ぶ。

 

 それらの部屋も入り口が襖になっており、内部を見た訳ではないので奥行きは不明だが、廊下から確認できる部屋幅は軽く15m程があると思われる。

 

 日本に於ける小中学校の教室は7m×9mという基準で設計されていると言えば、その倍の広さが一部屋に充てられているという規模は如何ほどの物かというのは想像できるだろう。

 

 提督専用という個人用施設にそんな規模の部屋が複数内包されている事実を確認した髭眼帯はプルプルしつつ、他にヤバい部分が無いかと落ち着きの無いお座敷犬染みた挙動で周囲を見ていく。

 

 左右には白い壁と襖が並ぶのみ、そして各入り口には部屋の名称なのだろう札が掛かっているのが目に入る。

 

 鶴の間、亀の間、鳳の間と名付けられた部屋と、名が刻まれた札が掛かる様を見て「旅館かっ」と心の中で突っ込みを入れつつ、廊下と言うには長過ぎる板張りの通路をトコトコ歩いていく。

 

 

「どんだけ広く作ったのここ、てか幾ら何でもこれだけの建物提督一人で使うのってどうなのって思うんだけど……」

 

「龍驤さんが言うには陣を効率良く敷くのにはある程度の広さと、そこに配置する物が重要なんだそうで、それを基準に建築したらこの広さになってしまったんですよね、石灯籠とかもそうですけど、この建物に配されてる柱や入り口の設置配置も全て霊的構造に組み込まれてるとか」

 

「あー……建物をそっちに合わせちゃったからこうなった訳かぁ」

 

「風水とかも取り入れてますので、敷地には池があったり枯山水があったり、滝があったり」

 

「はぁ? 滝ぃ?」

 

「はい、滝ですね」

 

「滝ってあのドババーって水がフォールしちゃう、あの滝?」

 

「その滝です」

 

 

 ちょっと小粋な和風の邸宅だと池っぽい何かとか、ミニ枯山水があるのはまぁ許容範囲と言えるかもしれない。

 

 しかし滝があるちょっと小粋な和風邸宅というのはありそうで無いと言うか、寧ろ何言ってんだコイツ的な単語に聞こえてしまうのでは無かろうかと髭眼帯は現実逃避の姿勢にシフトする。

 

 

 色々とメーな事を聞きプルプル続行中にある髭眼帯の前には、そろそろ最奥の襖が見えてくる。

 

 漸く到着かと溜息を吐きつつ、ふと何気なく隣接する部屋の襖を見る。

 

 

『海王の間』

 

 

 そこには他の部屋とは明らかに違う系の名称が記された、しかもちょっと豪華な札が掛かっていた。

 

 気のせいかそこだけは何故か空気が違うというか、ビジュアル的な表現をするとゴゴゴゴゴという効果音が浮ぶ的な妖気が漂っていた。

 

 更にその襖は他の部屋と違い、龍と虎がバトルしちゃってる的な、金で縁取られた蒔絵(まきえ)が施されるという豪華仕様だった。

 

 

 そんな物を見ちゃっては、普通何がそこにINしているのか確かめずにはいられないというのが人の性ではないだろうか。

 

 

 徐に髭眼帯はスッと襖を開けてみる。

 

 

 そこには広大な部屋の中心にポツンと囲炉裏がセットされ、深海棲艦上位個体と言うか例の泊地棲姫が座椅子に座って優雅にティーを嗜んでいるのが見える。

 

 

「……」

 

「……」

 

 

 二人の視線が交錯し、暫く無言の時が過ぎるが、髭眼帯はそのまま襖をスッと閉じて上に張り付いている札を再確認する。

 

 

『海王の間』

 

 

 その文字の意味する物を頭の中で咀嚼しつつ、再び襖をスッと開く。

 

 そこには何故かだるまさんが転んだをプレイしているかの如く、ティーカップを片手に入り口へ移動中の泊地棲姫がピタリと動きを止めて髭眼帯を見ていた。

 

 

「……」

 

「……」

 

 

 再び髭眼帯は襖をスッと閉じる。

 

 そして何事も無かったかの様にスタスタと移動を開始する。

 

 

「ちょっと待て、人の事を確認しておいて、黙ったままスルーするのは失礼ではないか」

 

「何で海湊(泊地棲姫)さんがここに居るんですかねぇ? てかそれ以前に海湊(泊地棲姫)さんって人じゃないデショッ!?」

 

「自分の縄張りに誰かが引っ越してきたのなら、大家としては店子(たなこ)の様子を見に来るのは当たり前だとは思わんか?」

 

「ナニその世話好きの大家さんが様子を見に来ましたよ系の下町慕情的に取って付けた理由!?」

 

「何だヨシノンはアレか、土地をせしめた後は地主に対し完全無視を決め込むような薄情な男だったのか?」

 

「地主って生々しい言い方はどうなの!? てかここで何してんですか!?」

 

「ん? いやちょっとどういう風に棲家を拵えてるのか気になってな、様子を見に来ただけだが?」

 

「て言うかこの『海王の間』って札ァッ! もー海湊(泊地棲姫)さん居付く気満々デショッ!? 提督騙されませんからねッ!」

 

「折角友が遥々遊びに来てやったと言うのに、そんな邪険にする事は無いだろう」

 

 

 ビシビシと襖の上にある札を指差しながら突っ込みを入れる海軍少将に、ティーを嗜みつつしれっとそれに答える地主もとい海域を支配する深海棲艦上位個体。

 

 言葉にしてしまうと割りと物騒な場が想像されるシチュではあるが、ビジュアル的には威厳も畏怖もお空の彼方へ飛んでってしまった的なとてもメーな絵面(えづら)がそこに展開されていた。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「えーそれでは、提督が泊地入りしたと言う事で予定外の事ではあるが、各課の現状報告をして貰いたいと思う」

 

 

 提督用執務棟(仮)最奥の提督執務室。

 

 そこでは現在上座にセットされたちょっと豪華な座椅子にシッダウンする髭眼帯がプルプルしていた。

 

 総畳張りのそこは凡そ百二十畳程もあり、ちょっとした道場並の広さになっている。

 

 上座の背後には豪華な蒔絵が施された壁があり、天井にはぶっとい一本物の柱が幾重にも組み込まれ、それを見事に細工が施された欄間(らんま)が巧妙に隠す形で渡されている。

 

 右を向けば総ガラス張りの引き戸が並び、外にある滝から落ちる水を湛える池がセットされているという、マイナスイオンもばっちりな風景が見えた。

 

 左を向けばこちらは漆喰で塗り固められた壁の幾つかに丸く空けられた窓があり、そこからは枯山水の広い庭が広がっているのが確認できる。

 

 

 そんな色々な物が見えちゃう上座からは、泊地運営に携わる各課の代表者が二列対面で正座で居並ぶ光景。

 

 それらのビジュアルを判り易く述べるなら、上様がヨキニ計らえと言いつつ諸々が決定されるアレ、言葉にすれば戦国時代のお城でやっちゃってた評定(ひょうじょう)という絵面(えづら)である。

 

 

「先ず給糧課ですが、現在間宮の建屋外装工事がほぼ終了しましたので、調理器具や内装を整えるのに後二日程頂きまして、今週末には営業を開始できるかと思います」

 

「ふむ、食材の調達は大丈夫だろうか?」

 

「はい、持ち込んだ物だけで恐らく半年は持つと思いますし、それまでに畜産施設は整うだろうと聞かされておりますから、海産物もそれなりに獲れる事ですし、後は農産物だけですが……」

 

「そっちは航路の護衛任務に就く艦隊が帰還する時にオーストラリアから運んできますから、心配ないですよ」

 

「うむ、護衛任務は暫く当該航路の哨戒が主となる、編成と運用には大和を筆頭に各艦種の総括が協力して執り行ってくれ」

 

「判りました」

 

「間宮さんは必要食材のリストアップを鳳翔さんと相談した上で決定し、大和へ伝えてくれ」

 

「はい」

 

 

 粛々と進む評定、議事進行と纏めは長門が行い、それに各課の者達が参加して次々に方針が固まっていく。

 

 

 そして上座でお飾りとしてプルプルとシッダウンする髭眼帯。

 

 

 その絵面(えづら)は正にバカ殿がテーンと据えられ、優秀な家臣が藩の運営を執り行うというアレな絵面(えづら)を彷彿してしまう悲しい現実が畳の上に転がっていた。

 

 

「工廠課の進捗はどうだ?」

 

「地下施設の建設は終了し、ライフライン関係も全て敷設が終わっています、食糧問題は取り敢えず後回しにしても大丈夫と言うことで、地上施設は執務関係の物を優先に、次いで宿舎や附帯設備という順で整備に取り掛かる予定になりますね」

 

「そうか、まぁ今回は防衛設備は仮設で暫くは大丈夫だろうし、先にその他の物から手を付けていくという事で何とか形にはなりそうだな」

 

 

 夕張と長門が詳細を詰める横では、スッと髭眼帯が手を挙げる。

 

 言ってしまえばそれはいつもの事とはいえ、一応拠点の司令長官の行動としてはちょっと空気過ぎやしないかと思われる絵面(えづら)は最早突っ込みを入れるのも不憫な程に極当たり前の物となっていたりしたが、その辺りは考えてはいけないのだろう、主に仕事を円滑に回す為に。

 

 

「む、どうした提督」

 

「えっとその……執務に関する建物なんだけどさ、これから建設していく訳?」

 

「そうですね、一応用途に合わせて幾つか設置していく予定になっていますが、全てが整うまで恐らく二週間は時間を貰う事になると思います」

 

 

 地下施設やライフラインの設置に二週間、地上施設の整備に二週間、幾ら妖精さんが協力しているとはいえそれは驚異的な速さと言えなくもなかった。

 

 そして大坂鎮守府が大本営にあった第二特務課秘密基地を叩き台にアップグレードした前例を考えると、恐らくこの西蘭泊地は大坂鎮守府よりも更に色々を盛り込んだ拠点になるのは想像に難くない。

 

 何せあっちと違ってここは土地と言う絶対的な制限が無いのである、設備が大型化しちゃったり、近隣の目を気にしちゃったり、ある意味諸々に対してのブレーキになってた環境がここではフリーになっている現状、髭眼帯がある程度手綱を締めて掛からないととんでも無い事になるのは目に見えていた。

 

 

「えっとその執務関係なんだけどさ、ここの空き部屋にある程度集約させらんないかな?」

 

「ふむ? と言うと?」

 

「さっき部屋割り確認してみたら、海王の間はまぁ……うん、アレだとしてもさ、其々六十畳の広さがあれば各課の業務はほぼ収まるんじゃないかなって思うんだけど」

 

「ふむ……そういう用途を想定すると、事務方、特務課、職場環境保全課、艦隊本部が入る事になるか」

 

「もう一つの空きは資料室に充てれば良さそうですし、業務を一つの施設に纏めるのは確かに効率化へ繋がりますが……」

 

「ん? 何か問題が?」

 

「あーそっちの話はウチの領分になるな、ちっとええかな?」

 

 

 思案顔の夕張から話を引き継ぐ形で龍驤が手を挙げる。

 

 執務という物は基本各課の繋がりがある程度必要になるのは当然の事で、効率化を進めるならば其々の活動場所は独立しつつも近い位置にあると言うのが望ましい。

 

 だがそれに対して何かがあるのだろうか、龍驤は何故か奥からスススと移動しつつ、髭眼帯の手前で正座のままシャーしてきた。

 

 

「あんな司令、ここってアレや、大坂と違って龍脈の真上に拠点が乗る形になるねん」

 

「だね、まぁそれを見越してここを泊地予定地に選んだんだけど」

 

「それはそれでええねんけど、物事っちゅうんは程々が大事なんや、判るやろ?」

 

 

 平たい胸族族長が口にする「程々」という言葉を聞いて、その言葉をそっくりそのまま返したい欲求に駆られる髭眼帯であったが、それを口にしてしまうと恐らく碌でもない事になるだろうと色々諸々をグッと堪え、聞きに徹する事にする。

 

 

「んでな、大坂って空母施設群の陣を流用して鎮守府全体に霊的障壁を張っとったねん」

 

「あぁそんな事言ってたね、ってここは違う形にするの?」

 

「向こうは海に浮ぶ人工島って事で拡張はせんって前提があったから、そのやり方で事足りたんやけどなぁ、今回は結構広い範囲で陣を張らなあかんやん?」

 

「え、そうなの?」

 

「泊地施設は勿論やけど、地熱発電施設は離れとるし、食料生産施設もそれなりに広うなる、それに将来の事を考えたら拡張って事も考えなあかんしな」

 

「なる程、確かに大坂鎮守府と比べたら将来的に違う形になってくって予想もした方がいいのかぁ」

 

「んでな、そういう風にしてくんやったら広範囲にデカい陣を一つ敷くよりもや、施設単位で強固な陣を敷いて、それらを更に大きな陣の一部に見立てて組み上げた方が扱い易いし、拡張性も持たす事が可能になるねん」

 

「そっかぁ、何となくしか理解できないけど、要するにそのやり方だと汎用性と拡張性が確保できるって事でいいのかな?」

 

「せやな、そうする事で結果的に手間が省けるんやけど、その反面ちょっとした面倒もあったりするんよ」

 

「面倒?」

 

「結局陣の強さってのは組み込む諸々の数に比例するから、このやり方やとある程度の建物用意して、其々に陣を張らな意味無いんよな」

 

「あー……だからわざわざ執務用の建屋を其々分散しようとしてたのか」

 

「せやねん、結果的に執務の効率は落ちるけど防衛の事を考えたらそうした方がええし、その辺りの配分は結構難しゅうてなぁ」

 

 

 髭眼帯の前でチョンと正座し、腕を組んでコクコクと考える様を見せる平たい胸族の長。

 

 話す内容は効率と防衛という比率が関係するとあって、確かに判断がし辛い物になっていると言えた。

 

 そんな二人の脇からメロン子がスススと音も無く近寄り、手にした何かを二人の間にペロンと広げた。

 

 

「こんな事もあろうかと、現在進行中の物とは別の案もご用意しています」

 

 

 デキる女の空気を漂わせるメロン子が、髭眼帯の前にペロンとした図面。

 

 それは事前に髭眼帯が確認した物よりも規模が大きく、また色々諸々何かの建物が追加されていた物だった。

 

 

 そんな物を見る髭眼帯は怪訝な表情になる。

 

 

 この手の図面には構造物の詳細や諸々の物は当然書き込まれている物だが、原書である為同じ内容の物が存在する事は当然無い。

 

 そんな様式にあって、他の物も含めた其々には唯一共通する箇所が存在する。

 

 

 図面の隅に記される枠。

 

 そこには計画の名称が刻まれ、記された物を許可する意味での捺印がされる空欄がある。

 

 計画が認可され、許可を得た物はそこに担当各位の印が押される。

 

 

 そして吉野麾下で行われる計画、特に建設に限って言えば、図面へ捺印するべき空欄は五箇所存在する。

 

 左から現場を担当する者、工廠の総責任者の夕張、事務処理済みを証明する大淀、それを確認した艦隊総旗艦長門、そして泊地司令長官の髭眼帯。

 

 これら全ての捺印が揃って始めて図面は正式な物として認可された事になる。

 

 

 そして今髭眼帯の目の前にペロンとされた図面は、メロン子の言葉を信じるなら『こんな事もあろうかと』と言う事で準備されていた図面である。

 

 それはつまり、予備的な物であり、本来なら使われる事がない図面の筈である。

 

 

 しかしその図面には何故か既に四人分の捺印がされた形になっており、髭眼帯がペタリとしちゃえばゴーできる形にまで仕上がっていた。

 

 

 目の前を見るとウンウンと首を上下したままのドラゴン、右には未だデキるウーマンを装うメロン子。

 

 怪訝な表情のまま髭眼帯が無言で視線を巡らせると、視線に気付いたビッグセブンが何故かプイッと目を逸らすという、最早そこには疑い様の無い陰謀的な何かがプンプンと匂う評定の場があったりする。

 

 

 それを確認した髭眼帯は何も言わず、視線を再び目の前でペロンとされた図面へ落す。

 

 書かれている諸々は建築関係の専門用語が羅列されており、詳細が今一イメージが出来ない。

 

 そんな図面には一連の計画に当てられた名称がデカデカとタイトルとして記されていた。

 

 

 『要塞拠点西蘭泊地第一次整備計画』と。

 

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 ただ言い回しや文面は意図している部分がありますので、日本語的におかしい事になっていない限りはそのままでいく形になる事があります、その辺りはご了承下さいませ。

 それではどうか宜しくお願い致します。



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