大本営第二特務課の日常   作:zero-45
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 前回までのあらすじ

 カウガールっぽいアイオワと、ボクシング的なサムシングに例のズイウン祭り。

 特に金剛型が。


 それでは何かご意見ご質問があればお気軽にどうぞ。


2018/06/27
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きましたリア10爆発46様、K2様、有難う御座います、大変助かりました。


Sim泊地 【⑤】

「そんで? 髭がココ確認しに来んのは明日だって?」

 

「なのです、施設の片付けに合わせて時間をずらして貰ったのです」

 

 

 西蘭泊地地下医療施設兼研究区画。

 

 奉行所(執務棟)から程近い地下に設けられたそこは、地上に平屋建ての医療区画を置き、地下に膨大な研究区画を持つ形として建築されている。

 

 地下一階から三階は通常の研究区画とされており、最下層の地下四階が大坂鎮守府から持ち込んだ機密研究物を含む、隔離研究施設と封印区画に設定されていた。

 

 電と天草しか使用しないそれらは大型培養槽や放射線設備が入る関係で施設の規模が巨大になっており、また厳重隔離物質も大本営所管の研究施設を大きく上回る量が格納されている関係上、最下層へ立ち入る者へ対してのチェックは殊更厳重な物となっている。

 

 最下層に保管されるそれらは、嘗てまだ艦娘が建造されていなかった頃、軍が形振り構わず行ってきた非道の数々と研究結果が文字通り「封印」されている呪いの箱とも言えた。

 

 鹵獲してきた深海棲艦の数々、今では倫理的に出来ない事をしてきた結果の数々、そして最初の五人に関する実験結果と細胞を培養して作られたクローン体。

 

 

 ある意味現在でも最先端とも言うべきそれらが封印という形で納められた区画の最奥、四体の培養体が入った保存槽の更に奥では天草と電が一つの保存槽の前で佇んでいた。

 

 

「一応ここはお前と私以外は入れない様に作ってあるが、髭が確認するって言い出したとしたら、全部見せないといけなくなっちまうね」

 

「はい、一応これらの管理は任されているのですが、中の物をどうするかの決定権は拠点の司令長官である三郎ちゃんにありますし、もしそうなったとしても従うしかないのです」

 

「まぁここにある色々をアイツが知っちまったら私達ゃ殺されるかも知れないねぇ、まぁそうならなくても恨まれるのは間違いない」

 

「……そうなっても仕方が無いのです、電はそれも覚悟の上でこの道を進む事を決めたのですから」

 

「桔梗の遺志を継ぐ為に、そのガキに恨まれるか……まぁそのお陰でアイツも時雨も命を永らえてるってんだから、皮肉な(めぐ)り合わせになっちまったもんだ」

 

「北方棲姫さんに培養体が渡った事で恐らくは研究が進むと思いますから、時雨ちゃんの件は大きく好転するのは間違いないのです」

 

「アイツはウチらと違ってやる事に躊躇が無いからね」

 

「同じテーマを違うアプローチ……それも対極から得た物を比較対象して物事を突き詰める、研究という物を考えればこれ程理想の形は無いと思うのです」

 

「技本のやり方を否定してきた私らが、それに似たやり方をするヤツと手を組む……はっ、意地を張ってはきたけどさ、結局これが個人の限界ってヤツなんだろうね」

 

 

 厳重な隔離区画というデリケートな場に居る割には煙草を取り出し苛立たし気にプカプカしだす天草は、目の前にある光景と電の顔を眺め、ほんの僅かだが表情を歪めた物にする。

 

 其々が目指す先は、天草が艦娘と深海棲艦という存在の成り立ちを()るというのを目標としているのに対し、電はその結果の先に「深海棲艦が生まれながらに持つ、人類に対する怨嗟という負の部分を取り除く」という確たる目的があった。

 

 二人が目指す先に違いはあっても、研究という部分には共通する物が多く、深海棲艦を主に扱ってきた天草と、医療研究を基礎に艦娘の研究をしていた一之瀬桔梗(いちのせ ききょう)の研究を引き継いだ電のそれは互いに不足した部分を補完し、たった二人という環境ながらも他の研究機関と同じ程には結果を残してきた。

 

 

「……例え三郎ちゃんや皆に恨まれたとしても、電に後悔はないのです、それだけの非道をしてきた自覚はあるのですから」

 

「非道ねぇ……それは誰かの為にやってきた事なんだから、そこまで自分を貶める事は無いと思うんだけどねぇ」

 

「それは違うのです、誰かの為にという想いも、行動も、全て電の心の欲から出て、選択してきた事なのです、だからそれに対して言い訳をするのは研究の犠牲となった者に嘘を付く事になるのです」

 

 

 大坂鎮守府で(いなづま)が建造されて以来何かを吹っ切ったのか、それまで纏める事をしなかった長い髪を後ろで一つに縛り、今までのように大人という事を無闇に強調しなくなった彼女は、それまで視線を落としていた保存槽へ目礼をすると、無言でそこを後にする。

 

 その後姿を見送る天草は手にした煙草を携帯灰皿で揉み消し、肺に残った煙をゆっくりと天井へ吐き出して、苦い物を表へ滲ませながら眉根を指で揉む仕草を見せる。

 

 

「髭の細胞は北極海から戻って以降変異が進んで時雨の治療に殆ど使えなくなった……だから代替に血液を輸血しなくちゃならなくなったんだけどさ、んまぁ……まさかその問題を解決する手がこんな身近にあるなんてね、普段の私ならすぐ思いついた筈なんだろうけど、やっぱ感傷的な部分が邪魔をしてたって事なのかねぇ?」

 

 

 自虐の色を含む言葉を呟きながら、天草は電が居た辺りまで歩いていくと脇にある保存槽へ視線を落とし、歪めた笑いを更に深めていく。

 

 

「『私が死んだら遺体を処分する前に臓器を摘出して、それを息子の機能していない部位へ移植して欲しい』、アンタの遺書にあったそれを実行してやっかって準備はしたんだけどねぇ……いつも冷静なアンタがドナーとのマッチングも確かめてないなんてさぁ……相当病んでたんだね、残念ながらアンタの臓物は髭の腹ん中にゃ入れらんなかったよ」

 

 

 保存槽の中に浮ぶ、嘗ては親友と呼んだそれ(・・)に語り掛ける様に、天草は呟く。

 

 

「でもね、アンタの体は髭の代わりに時雨を生かす事に役立ってるからさ、まぁ思惑とは違った形になっちまってるかも知れないけど息子の役には立ってるって事で……納得して地獄に堕ちな、私もやるだけやったらそっちに行くからさ、体を切り刻んだりいじくり回した文句はその時纏めて聞くわ、な?」

 

 

 一瞥をくれ、タイトスカートに左手を突っ込み、別れの意味で右手をフラフラさせて天草もその場を後にする。

 

 暫くして気密扉が閉まる鈍い音が響き、西蘭泊地地下研究施設の封印区画と呼ばれるそこは名前通りの状態になった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「ふむ、このタイミングでまた幾人か譲渡される事になったと? またワンパターンと言うか何と言うか……」

 

 

 西蘭泊地奉行所提督執務室。

 

 部屋に(しつら)えてあるソファーには髭眼帯を中心に数名の者が茶休憩を兼ねて集っていた。

 

 秘書艦三名に座敷鈴谷、それに那智と大和の計六名。

 

 

 執務室が広くなった関係で、大坂鎮守府の応接室に置いていた物と同じ大型のソファーセットが設えてあるお陰でその人数が集ってもまだまだ余裕があったが、それでも女三人寄れば(かしま)しいという諺がある通り、茶休憩のひと時は結構騒がしい物となっていた。

 

 

 響の膝を枕にしてだらーんと寝そべり豆大福をモグモグする鈴谷に、めくれ上がったスカートを直す大和。

 

 親潮は其々に茶を注ぎつつも髭眼帯の隣をそれとなく確保し、反対側は時雨が死守する。

 

 いつもはそこに由良さんとグラ子が参戦しているのだが、今日は哨戒のシフトにグラ子が就いているのと、間宮の開店準備の手伝いに由良さんが出ている関係で密度的な物はやや薄めであった。

 

 因みに薄めと言うのは人口密度の事であって、カオスとかチチシリフトモモ成分では決して無い。

 

 

「まぁ予想できるっちゃ予想できたんだけど、大本営からも戦力譲渡の打診があったのは意外だったねぇ」

 

「そっちは大隅殿の差配とは考えられんし、恐らく内閣か元老院辺りから圧力が掛かったんじゃないのか?」

 

「多分そうだと思うよ、でないと大坂鎮守府の戦力再編成に充てる数も足りてないのに、こんないっぺんに艦娘さんを送ってくる事なんて考えられないからね」

 

「まぁでも内訳にある艦種を見ればその辺りの折衝で苦慮したのは理解できるな」

 

「また誰か着任してくるの?」

 

「うん、大本営と米国、そして英国とイタリアからね」

 

「へ~、大盤振る舞いて言うか万国博覧会染みてるけど、色々と人手が足りないって言ってたし丁度いいじゃん」

 

「鈴谷は私の膝枕でグタ~っとしてるより、もっと仕事をしないといけないんじゃないかな」

 

「いいんですぅ~、鈴谷は奉行所作るのに不眠不休で頑張ったから暫くはお休みしてていいって言われてるんですぅ~」

 

「それって畳が恋しくて必死になってただけじゃないか」

 

 

 相変わらず鈴谷はグダ~っとしたままハラショーの膝を独占し、周りの者は苦笑交じりの笑いを顔に滲ませていた。

 

 そんな場のテーブルに置かれた一枚の紙。

 

 それは大本営よりクェゼリン基地へ送られ、そこから更に西蘭泊地に届けられた書簡だった。

 

 

 大本営より神風型一番艦 神風、朝潮型四番艦 荒潮、占守型海防艦一番艦 占守、択捉型海防艦七番艦 対馬が。

 

 米国よりエセックス級五番艦 Intrepid、カサブランカ級十九番艦 Gambier Bayが。

 

 そして英国よりJ級一番艦 Jervisに、イタリアからZara級一番艦 Zaraが。

 

 

 一度に八名という戦力を近日中に西蘭へ送り届けるとの内容がその書簡には綴られていた。

 

 

「相当数の異動になりますが、今回は錬度の低い艦が多数を占めていますね」

 

「だねぇ、その辺りの教導はまた大和君と叢雲君に任せると思うけど、頼めるかな?」

 

「お任せ下さい、丁度初期教練用の設備が来週にも整いそうですので、それの試用も兼ねて教導に当たらせて頂こうかと思います」

 

「……それナガモン監修の施設じゃないだろうね」

 

「こっちの神風と荒潮はそこそこ錬度があるみたいだけど」

 

「荒潮君は改二目前で、神風君は第一次改装直後って書いてるね、こっちも先に速成で錬度上げって感じかな」

 

「米国からの艦はその辺り記載されてないが、もし練度が低かったら速成、そうじゃないなら哨戒に就いて貰う事になりそうだな」

 

「親潮君、空母施設群の建設って人手足りてたっけ?」

 

「一応大丈夫と龍驤さんは仰ってましたけど、他の施設にも同じ類の作業をするのならそっちの応援に回って貰った方がいいかも知れませんね」

 

「ふむ、しかし米国の艦にその手の作業は可能なのか? あっち(米国)と日本じゃ結構やり方が違うのだろう?」

 

「サラさんは教えて貰いながらも作業に参加されてましたから、その辺りは大丈夫なんじゃないでしょうか」

 

「いっそ鈴谷を軽空母に改修してさ、そっちを手伝わせたらいいんじゃないかと思うんだけど」

 

「や~め~て~よ~! 鈴谷あんなややこしい仕事無理だし! てか空母系に編入されちゃったらあっちの施設に詰めなきゃなんなくなっちゃうから執務室でまったりできなくなっちゃうじゃん!」

 

「でもここ建設してる時は必死で手伝ってたじゃないか」

 

「それとこれとは話が別なのぉ~!」

 

「まぁそれは別として、ねぇ提督、この海防艦の子達はどうするの? 僕達とはちょっと違う運用の仕方をしないといけないって聞いた事があるけど」

 

「それなんだよねぇ、実はちょっと調べてみたんだけどこれが中々ややこしくてねぇ、大和君的にその辺りどの程度把握してる?」

 

「申し訳ありません、今は何となくとしかお返事ができないと言いますか、特性は把握しているのですが、実際様子を見て見ないとなんとも……」

 

 

 大和が少し難しい顔をして、髭眼帯も何かを考える様を見せた時、執務机左側の例の隠し扉がパターンと回転し、そこから誰かが姿を現す。

 

 

 萌葱色(もえぎいろ)の長袖セーラーと同色の短いスカート、胸元には真紅の大き目に結った飾りリボンが施され、ツカツカと歩く足はピッチピチの白いタイツを装備。

 

 それは巷の提督諸氏より歩く事案、若しくは存在が既にダンケダンケと称される海防艦である占守型の制服。

 

 

「提督よ、ちょっと話があるのだがいいだろうか」

 

 

 を、ピチッと着込んだ長門型一番艦のナガモンが何やら本を小脇に抱え、スタスタとソファーセットまで歩いてくるというカオス。

 

 

 その余りにもアレな装いに執務室は無言となり、ペタペタと占守型海防艦ナガモンの立てる足音しか聞こえなくなってしまった。

 

 別な意味で事案が発生した事で時が止まってしまったそんなソファーゾーンへ一直線に突撃してくるエネミー。

 

 

 怪訝な表情で固まる一団を無視して海防艦のビッグセブンはソファーへストンと腰掛けると、至極真面目な相で髭眼帯を正面から睨む。

 

 

「例の大本営から来た書簡に付いてなのだが」

 

「……え、いやちょっとそんな自然な流れで仕事の話に入る前にビッグセブン、一体どうしちゃったっていうのそれ?」

 

「む? それとは何だ?」

 

「いやその……何と言うかピッチリ着込んじゃってる服と言うか白いタイツというか……」

 

「ああこれか、いやこれはその書簡に書かれていた事にも関係するんだがな」

 

「一体何がどうしたら大本営からのお知らせで長門型一番艦が海防艦へジョブチェンジを果たしてしまうのかの理由を、提督は切に聞きたいのですけど……」

 

「うむ、我が艦隊はこれまで海防艦という類の艦種を取り扱った事がなかっただろう?」

 

「えぇ……まぁ、はい」

 

「それで今後の事を見据えてこちらも独自に調べてみたんだがな」

 

「独自に色々調べたらどうしてそんな独自な出で立ちになっちゃうのでしょうか……」

 

「いや、私も未経験な事だからな、先ずは形から入ろうと思ったんだが」

 

「形から入るの意味をストレートかつ間違った解釈で致してやしないかと、君を見てると提督とても心配になってしまいます……」

 

「いや、その辺り事前のリサーチは既に済ませてあるから大丈夫だ」

 

「……事前のぉ? リサーチぃ? なんのぉ?」

 

「先ず挨拶はДобрый день(こんにちは)から入り、次いでОчень приятно(はじめまして)へ繋ぐ」

 

「え、なんでいきなりロシア語なの!?」

 

「やはり提督は知らなかったのだな、占守型一番艦といえば嘗てソ連へ賠償艦として渡り、ЭК-31(エーカー・トリーッツァチ・アディン)と名を変えて最後を迎えたのだ、故に響がВерный(ベールヌイ)となった時と同じく、和と露が混在する性格になっているのではと私は見ている」

 

「いや長門、確か占守って私とは違って語尾が「~っす」ってエセ体育会系染みてて、やたらと「しむしゅしゅしゅ」って呟くらしいって聞いたんだけど?」

 

「なんだと? バカな……ではこの本に記載されている情報はアテにならんというのか……」

 

「寧ろ君……その……そういう格好で出歩くのは、泊地的にと言うか公序良俗的にと言うか人としてどうかと提督は思います」

 

「折角夜なべして拵えた力作なのにそんな言い方しなくてもいいだろう!」

 

「それってビッグセブンのお手製なの!? てかナニそんな無駄なポイントに全力投球してる訳!?」

 

「無駄とはなんだ無駄とは!? 日本から遠く離れたこんな島に送られて来る海防艦達の不安を少しでも紛らわせようとこっちは必死に努力しているんだぞ!?」

 

「そんなゴツい海防艦が目の前に降臨しちゃったら逆に相手は不安になっちゃうからっ! 鏡を見てきてビッグセブン!」

 

「ん? 鏡? そんな物は自室で何度もチェックしてきたぞ? ほら一晩で拵えたにしては意外とファンシーな仕上がりになっっていると思うんだがな? どうだ?」

 

 

 泊地艦隊総旗艦の長門型海防艦の言葉に場の者はプイッと目を逸らし、再びいたたまれない空気が場を支配してしまう。

 

 

 幾ら着衣の作りがファンシーであっても装着者によってそれの属性は変わってしまうのだ。

 

 幼女が白いタイツを履けば一部提督達が歓喜する可愛らしさが醸し出されるであろうが、ビッグセブンがそれを装着してしまうと途端に場がイメージしちゃう倶楽部でコスっちゃうメーな空気に変貌してしまうのである。

 

 

 こうして髭眼帯達が歓談していたお茶休憩中で午後のアンニュイの空気に包まれていたソファー周りは、色んな意味で努力の方向が間違った為に齎された倶楽部的な肌を刺す痛い空気が蔓延し、一人二人と退避していった結果お開きになってしまったのであった。

 

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 ただ言い回しや文面は意図している部分がありますので、日本語的におかしい事になっていない限りはそのままでいく形になる事があります、その辺りはご了承下さいませ。

 それではどうか宜しくお願い致します。


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