大本営第二特務課の日常   作:zero-45
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 前回までのあらすじ

 矢矧さんというニューカマーがINし、くちくかん達がパワーアップを果たし、そしておっぱい風もとい浦風の猛威が発揮された。

 そしてメロン子がお白洲でプルプルする風景、プライスレス。


 それでは何かご意見ご質問があればお気軽にどうぞ。


2018/05/16
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きましたリア10爆発46様、K2様、有難う御座います、大変助かりました。


彼女達が求め、そして至った関係

 部屋の真ん中に置かれるローテーブル。

 

 それを囲む形でどっしりとした総革張りのソファーが円形に配置されている。

 

 それらは周りの床よりも一段低く据えられた場に置かれ、周囲には落ち着いた調度品が並び、脇に置かれたワゴンには食べ物や飲み物が用意されている。

 

 

 【深海艦隊執務室】と札が掛かった部屋の中、そこは執務を行う場というよりもちょっとした高級サロンの様な作りになっており、西蘭泊地所属の深海棲艦達がティーを嗜みながら髭眼帯を取り囲む形でシッダウンしていた。

 

 

 因みに現在西蘭泊地執務棟、通称西蘭奉行所はこの島唯一稼働率100%の場所になっており、未だ泊地関連施設は整備中となっており、唯一稼動状態にある奉行所内の部屋割りはこういう形で収まる事になった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 居並ぶ深海棲艦上位個体、そこにサンドされる髭眼帯。

 

 今日は彼女達のルームが完成し、ご招待も兼ねての色々諸々のお話という事でお邪魔している髭眼帯は、何故か膝に(潜水棲姫)をセットしプルプルしつつ周りを眺めている。

 

 

「ようこそ深海艦隊執務室へ、どう? 中々小洒落た作りになってるでしょ?」

 

「小洒落てるって言うか何と言うか、ナニココ仕事するって言うより貴族が歓談しちゃうサロンっぽくなってるんですけど……」

 

「まぁ仕事って言ってもちょっとした段取りを組んだり通達するのがメインで、殆どはここで待機したり寛いだりがメインになるからこんな形にしてあるの」

 

「うむ、わらわは和室が良かったのじゃが、洋室というのもこれで中々赴きがあって良いものじゃのと思うておる」

 

 

 ホホホと笑う飛行場姫の前では朔夜(防空棲姫)が小指をピーンとおっ立て、小洒落たティーカップを傾けながら優雅にティーを嗜み、その隣では(空母棲鬼)が足を組んでこちらもドクペをゴクゴクと飲むという、ある意味お茶会染みた絵面(えづら)が繰り広げられていた。

 

 壁にはデカい油絵が幾つか掛かり、その中には達筆な筆文字で書かれた「鎧袖一触」という書まで飾られ、この部屋のコンセプトは何を基準としているのだろうという謎に苛まれつつ、(潜水棲姫)から胡麻団子を口に捻じ込まれてプルプル状態の髭眼帯。

 

 一応ここは泊地の心臓部とされる執務棟に設置された部署の筈であるが、最早そのイメージは影も形も無いと言えちゃったりした。

 

 

「えっとそれで……何か打ち合わせ的なものがあるって聞いて来たんだけど、それってどういった事についての物なのかな?」

 

「……打ち合わせ? なにそれ?」

 

「え?」

 

「え?」

 

 

 テーブルを挟んで朔夜(防空棲姫)と髭眼帯の間には暫く無言の間が発生するが、横から静海(重巡棲姫)がスススと近寄りつつテーブルの上に書類を置くと、そのままの流れで何故か髭眼帯の隣にストンと座ってティーを飲み始める。

 

 それを見て何故か(空母棲鬼)も席を立つと、スタスタと移動して静海(重巡棲姫)とは逆隣にドスンと腰を降ろし、結果として髭眼帯は二人にサンドされた形になってしまった。

 

 そんな様を見て窓際でアンニュイなティータイムに浸っていた離島棲姫は溜息を吐いて首を左右に振り、戦艦棲姫(扶桑)姉妹はハッとした表情で展開が済んでしまった陣形に気付き、ビックウェーブに乗り遅れた事実に驚愕の相を滲ませてプルプルと振るえ始め、場のカオスは徐々に深まっていく。

 

 因みに冬華(レ級)はお外でゆーちゃんと一緒に池で戯れ、タパーンとジャンプ勝負をし、軽巡棲姫はそれを眺めながら癒されるという世界を構築しちゃってたりするがそれはこの際関係ないのでスルーする事にする。

 

 

「あーうんうん、そうだったわ、テイトクにはこれからの事で確認と打ち合わせをしとかないといけないんだったわね」

 

「……いやその、人を呼び出しておいて忘れてたとかちょっとどうかって提督思ったりするんですが……」

 

「ちょっと浮かれてたのは認めるけど、そんなジト目で見なくてもいいじゃない」

 

 

 朔夜(防空棲姫)は澄ました顔でニッコリ笑うと、小洒落たティーカップをソーサーに置いて「さてと」と一言、テーブルに置かれた書類を席に着く其々に配り始めた。

 

 A4用紙五枚に纏められたそれには、『西蘭泊地深海艦隊初期戦力一覧』と銘打たれた表紙と、タイトルの下段には『同艦隊運用計画草案』の付記がされている。

 

 

「現在ウチには私を筆頭に、(空母棲鬼)冬華(レ級)(潜水棲姫)扶桑(戦艦棲姫)山城(戦艦棲姫)静海(重巡棲姫)水晶(空母水鬼)、軽巡棲鬼、飛行場姫、離島棲姫の十一人の鬼姫が居る、関係的な物で言うと(潜水棲姫)静海(重巡棲姫)はテイトクの直接麾下にあり、私は協力者、それ以外の子は全て私の配下という繋がりになってるわね、ここに日本の管理として駆逐棲姫と装甲空母姫が居るけど、この二人も私の配下に収まってるって事になるわ」

 

「姫鬼さんが総勢十三名……色々な事はあったけど、よくもまぁこれだけ集ったもんだねぇ」

 

「随分前に冗談半分で言ったけど、其々は当然下位個体を配下に置けちゃうから、その気になればウチだけで国の一つや二つ簡単に落す戦力がここに集結するって事になるんだけど?」

 

「そのつもりは微塵もないし、もし君達がそうしたいと言うのなら、残念だけどこの先君達とは袂を別つ関係になるだろうね」

 

 

 (潜水棲姫)の体勢が不安定にならないようにソファーへ胡坐をかいて座る髭眼帯は、涼しい顔をしつつもじっと朔夜(防空棲姫)を見詰め、テーブルに頬杖をついた朔夜(防空棲姫)は言葉を返す代わりにニヤリと薄い笑いを浮かべる。

 

 冗談の様に軽く交わされた言葉は、今の腹の内ある物をそのまま晒した言葉。

 

 それは其々を良く知っているからこそ可能な、世間話染みたやり取りに見える本音の投げ合い。

 

 

 髭眼帯の顔を暫く眺めた朔夜(防空棲姫)は笑いの相を更に深めると、「それじゃ」と言ってテーブルに置いてた書類を摘み上げて話の本番へ移る事にした。

 

 

「大筋で言えばここに居る子と北方棲姫側から送られて来る予定の子達、これらをどう泊地で運用するのか……それについての提案が今回私がする話の趣旨になるんだけど、その前にテイトクには確認しておく事があるのよね」

 

「確認? ふむ……何の事に付いての確認だろうか」

 

「今(潜水棲姫)静海(重巡棲姫)以外は厳密にテイトクの麾下と言うより、私が協力者、そして他の子が私の配下って事で関係を繋いでるじゃない?」

 

「君の麾下って形にしてる割には、全員にカッコカリを義務付けてるのは何故かと提督は釈然としていません」

 

「でも実際カッコカリを受け入れてるって事はテイトクが皆から慕われてるって事なんだから、もうちょっとそれに応えてくれてもいいと思うんだけど?」

 

 

 朔夜(防空棲姫)の言葉に名前持ちの者達は揃ってウンウンと頷き、それ以外の者はその様子を見て苦笑を滲ませる。

 

 一応軽巡棲鬼、飛行場姫、離島棲姫、そして日本に残っている駆逐棲姫と装甲空母姫という北方棲姫からの移籍組はカッコカリは済ませてある状態にあるが、まだ移ってきて日が浅いというのと、髭眼帯という男にそういう(・・・・)感情が芽生えていないという事もあって銘を貰う事は無く、今は能力の底上げを目的としてカッコカリを受け入れていた。

 

 

「て言うか今日朔夜(防空棲姫)君がしたい話ってそういう類の物な訳?」

 

「本当はそっちもじっくりと問い詰めたい気持ちがあったりするけど、まぁ……今回はいいわ、他にしなくちゃならない重要な話があるし」

 

「それじゃこの書類にある運用草案の中身を詰めてくって事でいいのかな? だとすると自分だけじゃなくて艦隊本部の誰かも呼んだ方がいいと思うんだけど」

 

「その辺りの話に入る前に、もっと根本的で重要な話があるの」

 

「……根本的で重要な話?」

 

「えぇ、今の今まで私はテイトクの協力者として傍に居た訳だけど、それは私の支配下にある子達の気持ちを考えての関係だったの、私達は本来テリトリーを持ち、下位個体を支配可能とする上位種だから人間の下に付くというのは……ほら、矜持と言うか生き方的に拒絶する子も居るかも知れないって事で、これまでずっとそういう関係でテイトクと繋がってきたわ」

 

 

 浮かべていた笑いが霧散し、目に宿る光がほんの少し濁った物に変化する。

 

 それは朔夜(防空棲姫)という友ではなく、深海棲艦の上位に立つ防空棲姫という存在。

 

 嘗て沖の鳥島で第二特務課課長が初めて邂逅した、人類の脅威であった頃の彼女がそこに居た。

 

 

「私の下には掛け値無しに海を支配する者達が居て、その下にも、そのまた下にも本来支配し、庇護するべき者達が居る、千なんて数には収まらない、万かそれ以上の戦力と同時に守るべき者達を率いる事が可能な……人類の敵」

 

 

 口から出る言葉は事実を淡々と表す物で、それは徐々に抑揚が無い物へと変化していく。

 

 いつもの朔夜(防空棲姫)も彼女ならば、防空棲姫という有体もまた彼女そのもの。

 

 だが今目の前に居る彼女は、深海棲艦の長として吉野三郎という人間へ向かい合っていた。

 

 

「それでも貴方は私達を受け入れ、もしかしたら人類を敵に回すかも知れないリスクを受け入れた上で、それでも……この先一緒に地獄へ堕ちる覚悟は……あるのかしら?」

 

 

 前を見る目は既に濁りを通り越した何か(・・)が漂う物となり、表情と呼べる物は微塵も無い。

 

 人類の仇敵深海棲艦、人間の本能に恐怖と憎悪を植え付ける、決して分かり合えないと言われた存在がそこにあった。

 

 

「……ふむ、防空棲姫さん(・・・・・・)、あの時自分は『貴女の力が必要です、何としても自分は貴女を手に入れたい』と言いました、あの時から今も」

 

 

 防空棲姫という深海棲艦を前に、吉野三郎という男はいつもと変わらず、しかし言葉ははっきりと、相手に対して腹の中にある本音を言葉に変えて吐き出していく。

 

 

「そう思う気持ちが変わってませんし、そして恐らくこれからも変わる事は無いと思います」

 

 

 吉野の言葉を聞き、じっと目を見て。

 

 暫く無言だった彼女は「そう」とだけ呟いて。

 

 ゆっくりとソファーに身を預け、何かを確かめる様に周りを眺め、少しづつ薄い笑いを顔に滲ませながら、再び前に座る男へ視線を戻した。

 

 

「なら、私は今、この瞬間から協力者じゃなく貴方の支配下に入るわ、肉も、血も、魂も全て貴方に捧げる……そうなったらここにある何もかもは貴方の物になるの、それが私達が誰かの支配下に入るという事、だから忘れないで……」

 

 

 目に浮ぶ色はいつもの紅へ、笑う相は愉し気に。

 

 しかしそれはこれまでとは少しだけ違う、友としてでは無く、己の全てを捧げた朔夜(防空棲姫)という舟の有体。

 

 

「もう、戻れない、私達と貴方は一心同体……同胞(はらから)の関係になるわ」

 

 

 テーブルに手を付いて身を乗り出し、指でそっと吉野の顎を下から撫で上げる。

 

 たまにそれっぽくする朔夜(防空棲姫)の思わせぶりな行動。

 

 しかしその瞬間吉野は頭の芯に焼ける程の熱さを感じ、思わずビクリを身を震わせた。

 

 

 本当なら頭を抱え転げまわる程の衝撃が頭の中で暴れ狂う、しかし何故か体がまったく反応せず、ただ目を見開いて体が硬直する。

 

 

 深海棲艦が上下関係を結び、そして目に見えない何かで繋がった時の感覚、人間でも艦娘でも無い不可思議な存在と言われる、彼女達だけが結ぶとされる魂の絆。

 

 

 個の能力が許すだけしか結べないというそれは、人としては到底許容できる物ではなかった。

 

 でも朔夜(防空棲姫)はずっと吉野の傍に居て、ずっと吉野を見ていた。

 

 だから知っていた、決してあり得ない「種を超えた縁を結ぶという行為」を、今ならこの男は可能とするだろうと。

 

 種の違いから(潜水棲姫)静海(重巡棲姫)を麾下に置くのが精々という理由でこれまで踏み出せなかった一歩、しかし北極から戻って以来何故かそう感じさせる物は日に日に薄れていき、今は大丈夫と確信さえ持てる程へと変化していた。

 

 恐らく北方棲姫が施したそれは、吉野の死に掛けた体をどうにかする事を目的とした施術ではなく、根本的に違う目的があって成された物である事を朔夜(防空棲姫)は本能的に感じ取っていた。

 

 

 人の形と心を持ちつつも有体が崩れ、人としての特権である死からも遠ざかる存在に成り果ててしまい、代わりに朔夜(防空棲姫)が望む縁と繋がる事に成功する。

 

 

 北方棲姫が電とハカセに伝えた、自身の研究結果から立てた仮説。

 

 艦娘と深海棲艦とは何かに対する答えに至る為に必要不可欠なピース。

 

『艦娘は己から進んで自身より弱い人に縛られ、深海棲艦は強い者が弱い者を力で縛る』という性質を立証する為の実験。

 

 それには支配力という物に限り強い弱いという物差しは肉体的な能力に依存する訳ではなく、魂の有体が基準となる、肉体はあくまでそれを収める器でしかないという考えが前提にあるのだという。

 

 

 大きくオカルトに踏み込んだ研究は、電や天草の様に科学を前提とした研究では到達し得ない処にある。

 

 

 今回吉野という男が朔夜(防空棲姫)という強力な配下を多数支配する存在と繋がる事に成功したという事実は、それら北方棲姫が提唱する仮説が概ね間違っていないと実証する事になり、人類と艦娘、そして深海棲艦という三竦みの関係を紐解いていく切っ掛けとなっていく。

 

 

 そして自身の知らない処でそんな狂った事実が進行しているのを吉野が知るのは、もう少し先の話となるのであった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「あー……いや、うん、取り敢えず君達がけじめとして立場を明確にしたいって事は判ったんだけど、別にこうしなくとも良かったんじゃないかって提督思ったりしたりするんですが」

 

「今まではそれで良かったかも知れぬが、先を考えれば数多くの者を統率する必要があるのじゃし、それを誰ぞに任せるという温いままでは立ち行かぬのも道理、わらわとしても主殿には諦めて全てを受け入れて貰うのが正解じゃと思うのじゃ」

 

 

 未だ頭に受けた衝撃で痺れが残ったままの頭を抱えた髭眼帯の前では、ティーを口にする朔夜(防空棲姫)と、テーブルに置いた書類をツンツンと指差す飛行場姫が居て、何故か左右をサンドする(空母棲鬼)静海(重巡棲姫)の圧力が三割り増しに変化し、更には懐に収まった(潜水棲姫)がムフーと満足気に鎮座するというおかしな空気がそこに漂っている。

 

 

「これから来るのは一線級(Flagship)を数多従えし者達じゃ、ここに居る者だけでも大概じゃと言うに、今までの如くなあなあの関係では統率するのも難しかろ」

 

「そそそ、そういう事でテイトクにはちゃんと私達を支配する者という関係を結んで、ちゃんとした上下関係というのを築かないと駄目なのよ」

 

「上下関係って……」

 

「昔の(空母棲鬼)を思い出してみて、ほら、あの時この子ってあからさまにこっちを敵視してたけど、私の支配下にあるって事で手を出さなかったし、しぶしぶだけど黙って命令には従ってたでしょ? 誰かを支配するのってそういう形も必要になってくるの」

 

「あー……そういえば(空母棲鬼)君って昔はやたらとツンツンしてたっけ、ふむ、そう言われれば何となく納得しちゃうと言うか何と言うか……」

 

「ちょっと何で私の事を引き合いに出すのよっ!? そんな大昔の話なんか持ち出すの止めてよっ!」

 

 

 髭眼帯の隣でフンスとしていた元ツンツン棲鬼はギロッとした視線を飛ばしながらも何故か髭眼帯に身をギュウギュウ寄せるという奇行に走り、サンドの密度が上昇していってしまう。

 

 因みに反対側には静海(重巡棲姫)という鉄壁が存在する為、ギュウギュウされる度うらやまサンドの密度は上昇するが、逆にヒョロ助である髭眼帯のライフゲージはマイナスゲインへと下がっていくという命の危機がそこにはあった。

 

 

「次に来るのはリコリス棲姫と中間棲姫、この子達其々は一線級(Flagship)を十体づつを従えて来るらしいから、戦力は一気に膨らんじゃう事になるわね」

 

「つまり深海勢は実質主殿が率いる艦娘達と同等か、もしかするとそれ以上の戦力となるやも知れん、そう考えるとちゃんとしたけじめは必要になるのは当然じゃろ?」

 

「えぇ~……合計しちゃうと姫鬼さんが十五にぃ? Flagship級が二十ぅにぃ? それってもぅ西蘭泊地って深海ランドになっちゃうって事ぉ? も~ばかぁ~! これじゃ提督戦えないっぽい!?」

 

「元よりそれら全てを受け入れるつもりでこの島へ渡ったのであろ? ならここをキャンプ地とするならそれなりに形を整えておかんとの」

 

「……え、キャンプ地ぃ?」

 

 

 言葉の端々に妙な単語を混ぜ混ぜする飛行場姫はお茶請けの赤福をモグモグしつつ、ものっそ真面目な相で「これがミスター生き地獄という物かえ」と対決列島的でイミフな事をブツブツと呟きつつ、胸の辺りから巨大な麩菓子をズルリと何本も取り出していた。

 

 

「で、その膨大な戦力ってテイトクの立場からして、外に出すのは対外的にちょっと不味いって事になるんでしょ?」

 

「あー……まぁ確かに、お引越ししたから気を使わなくて良くなったよウェ~イって調子に乗って好き勝手しちゃったら、周りの警戒心を煽る事になっちゃうのは確実だろうし」

 

「だけどもう私達が教導任務を解かれたという事は仕事が無い、言ってしまえばニート状態と言えなくもないわ、そこへ更に二十人以上の子が増えちゃうとすると……」

 

 

 髭眼帯は朔夜(防空棲姫)の言葉に、未来のアレコレを色々と想像する。

 

 結論として髭眼帯の脳裏には姫鬼+Flagship級という深海のフレンズ三十人が、奉行所の一室で自宅警備員状態というとてもメーな絵面(えづら)が浮ぶという救えない結果が導き出されてしまった。

 

 それは数も大概だが、見た目はそれ以上に壊滅的でメーな物であるのは間違いない。

 

 寧ろ戦力的には一海域に潜む戦力など軽く吹っ飛ぶ妖怪達が潜むという、「別な意味での封印区画」が執務棟に出来ちゃうという不可避の未来は、髭眼帯的に精神衛生上とても良くない事になる事が確実と言う事に思い至り、心の中にある嫌な予感メーターの針が余裕でレッドゾーンを振り切るどころか物凄い勢いでクルクルと回ってしまう。

 

 

「それで当面は一線級(Flagship)を中心にこの島の周辺を固め、深海艦隊の誰かを交代で指揮に充てようと思うの、そうすれば東部オセアニア資源還送航路の守りに艦娘を充てても本陣(西蘭泊地)の守りは今の数で事足りる」

 

「そそそそうだね……守りは深海勢に、人と深く関わる部分を艦娘に、確かにその配置なら対外的な問題も発生する確率は減るし誰かにニートを抱えたママンという悲しいポジを押し付けなくていいという面でも有用だし提督もぜひその案を無理からでも前向きに検討しようと思います」

 

「ちょっとしたテリトリーならボスを張ってる一線級(Flagship)複数と姫鬼で固めた島、攻める側からしたら正に悪夢よね」

 

「まぁ……色々調整は必要だけど取り敢えずこの案を叩き台に長門君達と一緒に検討するって言うかメーなんて言ったら提督権限でダウトするからほぼ決定と言うことで、そんな風味で……」

 

「そう、テイトクがいいって言うのなら明日にもその辺りの場を設けてナガト達と話をしてみようかしら」

 

「あー……まぁ細かい詰めはほっぽちゃんとこから次の人達が来てからになるんだろうし、自分はその時に参加すればいいかな」

 

「そうね、テイトクはまだ他にする事があるだろうし、それまではこっちで話をある程度纏めておくわ」

 

 

 こうして目の前の些細な問題に目が行き髭眼帯が出したGOサインによる戦力配置は、朔夜(防空棲姫)が冗談交じりで言った規模を遙かに越えてしまい、人類のみならず深海側からしても類を見ない防御力を備えた拠点が出来上がる事に繋がってしまい、結果として海を支配する四人の「原初の者」と呼ばれる深海棲艦の根拠地並みに強固な要塞が出来上がってしまうのであったが、髭眼帯がその事実に気付くのは泊地施設が完成した随分後に、海湊(泊地棲姫)から諸々を指摘された時なのであった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 夜の(とばり)が落ちた頃、静寂が島を支配する。

 

 西蘭泊地執務棟、通称奉行所と呼ばれる建物内の一室、昼には『深海艦隊執務室』と書かれていた表札は、中から出てきた離島棲姫の手によって別の物と掛け替えられる。

 

 奉行所の中は暗く静かであったが、そこだけは控えめながらも淡い光に彩られた演出がされ、昼とはまた違った顔を垣間見せる。

 

 鶴と亀という和の趣にある障子扉の上に掛かる、掛け替えられた木の札には、達筆な毛筆でこう記されている。

 

 

『Bar アイアンボトムサウンド』

 

 

 海軍施設にあるには不吉かつあり得ないその名称は、お酒とツマミを楽しむ紳士淑女のお店であった。

 

 

 昼と同じ配置のままのソファーセット。

 

 日の光が照らすそれらは小粋なラウンジ風に見える物であった。

 

 だが日が沈み、照らす光が天井から降り注ぐちょっと抑え気味の物へと変われば、ムーディかつ大人の雰囲気が漂うオサレな姿へと変貌する。

 

 部屋の奥にあった木製の間仕切りはパタパタと畳んだ状態でスライドされ、壁一面に配されたカウンターバーが姿を現す。

 

 その内側には小粋なバーテンダー風の服で身を固めた(空母棲鬼)が収まり、手にした銀色のシェイカーをシャカシャカし、看板(意訳)を掛け替えた離島棲姫がピッチリとした白いシャツの上に黒のカマーベストとタイトスカートを身に纏い、しゃなりしゃなりと客の注文を聞いて回る。

 

 ここは『Bar アイアンボトムサウンド』

 

 深海棲艦上位個体、空母棲鬼がマスターを努める紳士淑女がお酒を楽しむ夜の社交場である。

 

 

「……ねぇ朔夜(防空棲姫)君」

 

「何かしらテイトク」

 

「えっとその……この、何と言うかこれは……」

 

「これ?」

 

「えっと、何で執務棟にあるお仕事をするルームがBarみたいな物に変貌しちゃってるのかの理由を聞いても?」

 

「あぁそれね、ほら、ここって間宮は飲食が中心で、鳳翔の店が小料理屋的な店になっているでしょう?」

 

「え、うんまぁ確かにそう言えたりするかも知れなかったりするかも知れないんだけど……」

 

「でもお酒をメインに楽しむ場って今まで無かったじゃない?」

 

「いやそれって鳳翔君のとこでも事足りてた気がするんじゃないかって提督思うんですが」

 

「甘いわね、鳳翔の処では確かに美味しいお酒と料理が出るけど、逆を言えば料理がメイン、ここはお酒をムードというツマミに楽しむお店だから、よりアダルティな世界を演出しているという事でちゃんと住み分けは出来てるわ」

 

 

 フフンと得意気にロック・グラスに入ったウイスキーを傾ける朔夜(防空棲姫)を見つつ髭眼帯は思った。

 

 確かにお店としては住み分けが出来ているだろうが、店の中の店員全てが姫鬼であったり、執務棟の中で営業しちゃってたり、それ以前に店の名前がアイアンボトムサウンドという時点で色々とマズい空間が出来上がったりはしていないだろうかと。

 

 

 僅かにプルプルを開始したそんな髭眼帯の前に、マスターである(空母棲鬼)がシャーと何かを滑らせてくる。

 

 ピタリと目の前で停止するそれは、小さな籠にINする数個の鬼胡桃(おにぐるみ)

 

 お酒のツマミには確かにナッツ系の物が相性的にも良く、胡桃というブツは小粋なBarではそれなりに供される。

 

 髭眼帯は、目の前にあるそれ(鬼胡桃)から隣に座る朔夜(防空棲姫)へと視線を移す。

 

 そうして見る彼女の前にも同じく籠に入った鬼胡桃(おにぐるみ)がツマミとして用意されていた。

 

 徐にそれを取り出しバキバキと握り潰した後、オサレに中身を摘んで口に運ぶ姿は、確かに大人っぽいムーディな姿に見えなくは無いと言えるかも知れない。

 

 しかし鬼胡桃(おにぐるみ)というブツは普通の胡桃よりも大きく、しかも殻が分厚いという胡桃界のレジェンドであり、内包される種子(仁)を取り出す為には邪魔となる殻を砕く必要があり、またそれには専用の器具が必須となる。

 

 砕いたそれはスタッドレスタイヤに混入される程強固なブツであり、普通の人間が素手で割るのはほぼ不可能と言っても良い。

 

 普通の胡桃でさえ素手で割るのは常人には無理のムリムリであり、某カンフー映画なんかでは胡桃を割るというのは達人になる為の修行メニューになっていた程である。

 

 髭眼帯の前にある籠にINされているのはそれよりも強固で頑丈な上位種、鬼胡桃。

 

 ヒョロ助人類代表と言っても過言では無い髭眼帯には、専用器具が用意されていない時点で何をどうしてもそれの中身を取り出す事は不可能と言えるだろう。

 

 

 だがここは『Barアイアンボトムサウンド』。

 

 客もマスターも人外であり、また艦娘が来たとしても鬼胡桃(おにぐるみ)を割る為に器具は一切必要無いのである。

 

 そんなツマミとしては攻略難易度が高過ぎるブツを目の前にプルプルする髭眼帯の前には、飲み物を準備するマスター(空母棲鬼)の姿があったりした。

 

 

「テイトクはお酒を飲まないって事で、今日は私が特別にノンアルコールのカクテルを作ってあげるわ」

 

「安心して、(空母棲鬼)はホウショウの店で修行して人間用の料理や飲み物を勉強したらしいから、今日はそっちの物で歓待する事になってるわ」

 

「あ……あぁうん……そ、そうなんだぁ、うん……何と言うかそれは楽しみだねぇ……」

 

 

 二人が言う言葉に多少は安堵するものの、何故か不安度メーターにちょこっと反応する物があったりする髭眼帯は、油断無くカウンターの向こうに居る(空母棲鬼)の様子を眺める。

 

 棚から取り出してきた銀色のシェイカーをコトリと置き、メジャーカップで数種類の液体を計りつつタパァし、髭眼帯が愛して止まない例のケミカル炭酸と氷をINして蓋をする。

 

 

 流れる様に無駄の無い動きに関心する髭眼帯の視線に、フフンと得意気な表情の(空母棲鬼)は全てが入ったシェイカーをシャカシャカする為にそれを持ち上げ、スイッとらしく(・・・)構える。

 

 

 カシャカシャとリズミカルかつ軽やかに振る音が聞こえる。

 

 抑えた照明に照らされ、淡く光を返すシェイカーは演出的効果もバツグンで、(空母棲鬼)の姿はある意味美しく見える。

 

 大人の雰囲気を演出する紳士淑女の社交場『Barアイアンボトムサウンド』、アルコールだけでは無く、雰囲気にも酔わせる小憎らしい演出が随所にそれとなく散りばめられている。

 

 ゆったりとした時間、流れるジャズも相まって上質な空気がそこに漂う。

 

 

 そしてブシャーという噴出音。

 

 

 周りの視線はその音の元となっているマスター(空母棲鬼)の手にある、キラリと輝くシェイカーに釘付けとなる。

 

 カウンターの中で時が止まったかの様に動きを停止するマスター()、得意気な表情のまま固まった彼女の手には、今もブシャーし続ける銀色のブツが握られたままであった。

 

 

 時が止まったかの様に怪訝な表情で髭眼帯達が見守る中、淡い光を反射するムーディーなブシャーが暫く続くが、漸くそれが収まるとマスター()は徐にシェイカーをコトリと置き、極自然な足取りでスタスタとバックヤードへ姿を消し、横から離島棲姫がスススとINして泡まみれの後始末を始めるという紳士淑女の社交場である『Barアイアンボトムサウンド』のカウンターがそこにはあった。

 

 

 確かにシェイカーにINした液体は全てノンアルコールであり、髭眼帯の好みを追求した色々をマスター()は混ぜ混ぜししていた。

 

 しかし最後に入れたブツは、巷の消費者からはカセットテープの風味がすると評判の毒炭酸、ドクターペッパ、つまり炭酸飲料であった。

 

 それをINしてシャカシャカするという行為は、物理的な法則と言うか常識に於いて、炭酸が膨張してブシャーしちゃうのは当然と言ば当然の結果と言えよう。

 

 本来ならタンブラーに全てをINしマドラーでグルグルしなければいけない処、(E)(カッコイー)姿を見せたいというアレと、髭眼帯の好物をINするという足し算をマスター()がしてしまった結果、カウンターの内側には泡の地獄を垣間見せるという結果が出来上がってしまった。

 

 

 暫く無言で処理をする離島棲姫と、何とも言えない気まずい空気が蔓延する紳士淑女の社交場である『Barアイアンボトムサウンド』のカウンター。

 

 誰も言葉を発しない大人でムーディなそんな席。

 

 そしてカウンターの処理を追えた離島棲姫はそのまま何事も無かったかのように元のポジに戻り、次いでお着替えを済ませた(空母棲鬼)がバックヤードから何事も無かったかの様にスタスタと姿を現し、徐に冷蔵庫からドクペの缶を取り出してスタイリッシュに髭眼帯へシャーしてきた。

 

 色々な突っ込み処があるにはあったが、何故かツッコミをしてはいけないと言う空気がそこに蔓延し、カウンターは小粋なジャズとムーディーな照明に彩られ、ある意味空気を読む者が飲み物を嗜む大人の(色々察しちゃう)世界がそこには出来上がる。

 

 

 こうして泊地に日々軍務に疲れた者の心を癒す施設が新たに出来上がった事を髭眼帯は静かに祝いつつ、紳士淑女の社交場である『Barアイアンボトムサウンド』の夜は更けていくのであった。

 

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 ただ言い回しや文面は意図している部分がありますので、日本語的におかしい事になっていない限りはそのままでいく形になる事があります、その辺りはご了承下さいませ。

 それではどうか宜しくお願い致します。



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