大本営第二特務課の日常   作:zero-45
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 前回までのあらすじ

 唐突にINする掲示板回、そして気付く、ヨシノンここ三話程未登場。


 それでは何かご意見ご質問があればお気軽にどうぞ。


2018/05/23
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きましたリア10爆発46様、有難う御座います、大変助かりました。



水面下で進む其々の企み

「それで父さん、今日は何の御用でしょう?」

 

『初っ端からそれかいや、何の用か言わんでも用件は判っとるやろ』

 

「珍しくド直球ですね、まぁ言いたい事は判ってますけど、父さんなら傍観すると思ってたんで少々驚いてます」

 

 

 オンフックにした電話から聞こえる硬い声色を耳にしつつ、薄い笑いを顔に貼り付けた男は手にした煙草に火を点け、ゆっくりと肺に煙を満たしていく。

 

 目の前に積み上げてある書類の全ては吉野商事に関する利権を纏めた物であり、同時にそれは現在男が掌握した物の資料全てであった。

 

 

 その者の名は吉野陽四郎(よしの ようしろう)、吉野家の三男であり、現在吉野商事の社長に納まっている西蘭泊地の外貨獲得の中核を担う商社の責任者でもあった。

 

 そして今会話をしているのは現吉野家当主、吉野久光(よしの ひさみつ)

 

 血の繋がりだけで言えば吉野三郎の祖父であり、戸籍上では父となっている男である。

 

 

『商社の件だけ(・・)やったら黙って見とるつもりやったんやけどな、それ以外で目に余る事があったさけの、どういうつもりなんか聞かせて貰おうか思ての』

 

「それ以外? 何の事です?」

 

『先に言うとくけど今回はシャレになっとらん、儂らは商売人やから利益を追求する為には綺麗事なんぞ言わんのが筋やけどな、それでも踏み越えたらいかん一線はあるんや、お前はそこを超えとる』

 

「父さんが言ってる一線がどれの事かは判りませんけど、俺は切れる手札を並べて勝負を仕掛けてるだけなんですけどね」

 

『……分家はそういう手も使えってお前に仕込んだんか?』

 

「さて、俺は生まれてすぐ養子に出されて本家のやり方というのを知りませんから、父さんが何の事を言っているのかとんと理解できませんよ」

 

 

 現在の吉野商事とは幾つかの企業を擁する企業集合体であり、それを統括するのが吉野商事となっている。

 

 それらは巧妙に繋がり各企業に利益を還元しつつ、西蘭泊地が必要とする物を用意する経済的組織として機能していた。

 

 軍事技術を民間へ流す為の窓口、資源を調達する商社、マネーロンダリングを行う金融筋、そして物資を生み出す産業部門。

 

 嘗ての財閥とまではいかないが、西蘭泊地を筆頭に舞鶴、大坂、クェゼリン、クルイという拠点の資金と資源を賄いつつも、軍部と経済界へ対する備えもする吉野にとって、吉野商事とはなくてはならない存在であった。

 

 そこの差配をするには能力が高く、また口が堅い者が担当せねばならず、同時に軍部と係わり合いがない者を置かなければならなかった。

 

 活動が鎮守府一つなら飾りの者を置いて大淀が差配すれば事足りるが、流石に現在の規模では表立ってそれも出来ず。

 

 そういう事情があった関係で吉野は本家筋を頼り、送られて来たのが吉野から見れば叔父にあたる陽四郎であった。

 

 

 と言っても当主の久光からすれば年老いて出来た妾腹(めかけばら)の子であり、表立って認知できなかったという事で分家へ養子として出していた子である。

 

 歳で言えば吉野より二つ下であるが、血縁で言えば吉野が甥、戸籍で言えば従兄弟という複雑な関係にある。

 

 

『お前は商売人で三郎は軍人や、やってる事は似とるけど本質は全然ちゃう、そこを履き違えとったら痛い目では済まんぞ』

 

「ご忠告どうも、しかし父さんの言葉からすれば今俺のしてる事は商売人の領域なんじゃないですか? なら三郎兄さんよりもこっちに分がある筈だと思うんですけどね」

 

『全然判っとらんわ、商売人と軍人の違いっちゅう部分をの、どっちがどうとかやない、お前と三郎には超えられん壁がある……そこを弁えとれと言うとるんや』

 

「しかし実質もうこっちの優位は揺るがないんですけどね? これを引っくり返そうとしたらそれこそ武力で制圧でもしないと無理ですよ」

 

『……武力っちゅう本質を理解せん内は半人前や、このままやとほんまにお前は潰されるぞ』

 

「武力ですか? 充分理解してますよ、だから備えて道筋も付けました、貴方でも用意出来ない備えをね」

 

『そうか……今やったらまだ間に()うたんやけどな、お前にその気が無いんやったらしゃーないの』

 

「世間体や元老院に対する目もありますからね、本家をどうこうするつもりはありませんよ、余計な横槍が入らないなら、ですが」

 

『天狗になった鼻が邪魔して足元が見えとらんようやの、もしその気があるんやったらちゃんと己の置かれた立場を見直してみるとえぇ、その機会があるんやったらの』

 

「ご忠告感謝しますよ父さん、ではまだやる事が残ってますのでこれで」

 

 

 通話を一方的に切った陽四郎は煙草を揉み消しつつ、涼しい顔のまま書類の山から紙を一枚抜き出して、それに視線を落として目を細める。

 

 そこには吉野商事の株式所有者一覧が記されており、殆どの部分に赤い丸が記されていた。

 

 

「株式の2/3はこちらが握る形になりましたし、他の企業へも根回しは完了しております」

 

「あぁ、あちら(西蘭泊地)はテロ関係でこっちへ構っている余裕は無かっただろうしね、その間に足場を固める時間は稼げた訳だ」

 

「渡りを付けた華僑の者に対しては、今後どういう対応をなさいますか」

 

「筋として残しておいてもいいだろう、だが暫く接触は避けないといけないかな、何せこっちが情報をリークしたという物証が出た場合、兄さんからそこを突かれる可能性があるしね」

 

「恐らくその辺りは感づかれていると思いますが」

 

「死人は出てないんだろう? それに手傷を負ったのが艦娘ならほっといても元通りになるし、そんな物の心配は無用だね、さて……」

 

 

 脇に立つ秘書から新たな書類を一枚受け取って、中身を確認すると満足気な表情で陽四郎は頷き、サインと捺印をして処理済の収納棚にそれを放り込んだ。

 

 

「今回の計画に大陸筋が噛んでいて丁度良かった、お陰で内地で活動している組織への渡りもスムーズにいったし、結果としてだが取り引きに対する信用も得られた」

 

「計画としては失敗だったようですが、リークした情報に間違いは無いとあちらも確認したようですし、原油の買取り条件もやや緩くなりました」

 

「その大陸系組織に渡ったのが、襲われた泊地自身が稼いだ資金と内部情報とは皮肉なものだ、それで? 買い付けと輸送の進捗は?」

 

「輸送の方は顧客側のタンカーが直接という手筈に、サウジの方は既に手配済みにあります」

 

「そうか、支払い用のインゴットの準備は?」

 

「第三陣の物までは既に用意を終えています、後は適時取り引き推移を確認しつつ調整すれば宜しいかと」

 

「勝負は三ヶ月、それが過ぎれば本格的に事業転換をしていかないといけないからね、ぼちぼちとブリスベンにある合弁企業体と本格的な連携が必要になってくるな」

 

「あちらも少しづつですが内地から独立する動きが見られますし、包囲網が完成するのは時間の問題かと」

 

「勝ち筋は見えてきた、か、それじゃ直接三郎兄さんと話し合いの場を持つとしようか」

 

「西蘭泊地へは翌朝十時に約束を取り付けてあります」

 

「ふむ、それじゃ必要な資料の確認を済ませてしまおうか」

 

 

 軽く髪を撫で付けた男は特に気負う事もなく、目の前に積み上がった書類の山を手元に寄せ、粛々とそれらの処理に取り掛かるのであった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「なる程、本家の親父殿からの連絡と同時に吉野商事からも面談の連絡があった訳だ」

 

 

 西蘭泊地奉行所(執務棟)執務室では髭眼帯が妙高から報告を受け渋い相を滲ませつつ、深い溜息を吐いていた。

 

 広い板張りの執務室には髭眼帯の脇で報告を行う妙高。

 

 彼女は現在大淀が出向した穴を埋める為に一時的に事務方の仕事を回していた。

 

 そんな執務室の隅にある畳ゾーンでは、休憩に訪れた座敷鈴谷が響の膝枕をモフモフ中で、親潮とぬいぬいが秘書用のデスクで書類の片付けをしながら苦笑を滲ませている。

 

 

 その有様に眉根の皺を深くしつつ外に目を向ければ、お白洲にはバケツを被ったメロン子が正座をしている姿があり、見た目だけで言えば勘違いした虚無僧コスの何かがそこにあるという風情が髭眼帯には見えていた。

 

 

「明日の一〇(ヒトマル):〇〇(マルマル)という事を先方には伝えてありますが、大淀さんの帰還は深夜になるとの事で、話し合いには間に合いません」

 

「資料関係の引継ぎは?」

 

「既に終わらせてありますのでご安心下さい、ご指示にありました件も完了しています」

 

「工廠課の進捗は?」

 

「想定の範囲内です、現在海に設置している施設のテスト稼動も順調で、問題なければ精製プラントの稼動に入ると報告が来ています」

 

「随意契約も締結したし、本格稼動の目処が立ったらオーストラリアと進めている件も同時進行で動かないといけないねぇ」

 

「それに付いてなんですが、今回吉野商事がああいう形で使えなくなりましたし、これを機に管理をある程度泊地内でしてはどうかという話が出ています」

 

「……って事は、事務方の増員も考えないといけないって事かな?」

 

「はい、差し当たっては専任として古鷹さんが、補佐に春雨さんを就けようかという話になっています」

 

「へぇ? 春雨君を?」

 

「はい、元々前線へ出すよりそちらの方が能力を発揮するのではと那智さんからも推挙されてますし、本人もやる気になっているとの事で」

 

「事務方と艦隊本部が納得してるならいいんだけど、それだけじゃ手が足りないんじゃないの?」

 

「はい、ですので事務方内で外事課として古鷹さんと春雨さんを専任に、事務方本来としての仕事は大淀さんを筆頭に衣笠さんと狭霧さんを加えて処理に回るという形にしたいとの事です」

 

「また意外な名前が出てきたけど、それ本人達からの希望な訳?」

 

「いえ、衣笠さんと狭霧さんに付いては大淀さん自ら打診したそうで、両名には既に話を通して了承済みという事らしいです」

 

「大淀君自らヘッドハンティングしたなら間違いは無いか、後は以前からあって無い様な形の秘書課をちゃんと整理しないといけないけど……」

 

 

 髭眼帯の呟きに机で書類整理をしていた二人がピクンと反応し、場にはやや張り詰めた空気が出来上がる。

 

 現在の秘書艦には時雨と響、そして親潮の三人が就いており、其々仕事を分担しつつ活動をしていた。

 

 だが泊地には明確に「秘書課」という物は存在せず、取り敢えずの区分としての名称と活動場所が提督執務室という、ざっくりとした取り決めしか存在していなかった。

 

 

「これまで予算は提督がなさっている執務の雑費という事で賄ってましたが、確かにそろそろちゃんとした形を整える時が来たのかも知れませんね」

 

「役割分担もだね、これだけ泊地の規模が拡大しちゃうと、秘書艦其々に自分の代理としての権限も付与しないと回らないけど……同時に責任も背負わせてしまう事になっちゃうから……」

 

「そういう事なんですけど、お三方はどう思います?」

 

 

 妙高に水を向けられた親潮はスススと執務机の脇にまで移動し、響は抱きついた鈴谷を腰にぶら下げたままそれをズーリズーリと引き摺りつつ近寄ってきた。

 

 だが不知火は現在時雨の穴埋めとして秘書艦の仕事を代理している立場であり、妙高の言う「お三方」という言葉に自分も加わっても良いのかという戸惑いを見せた。

 

 それを見た髭眼帯は苦笑を漏らしつつも手招きし、妙高が示した言葉の意味を口にした。

 

 

「秘書課という物を形にすると言う事は、正式に人員を定め仕事を振り分ける事にもなる、現状を考えると三人では恐らく手が足りないだろうし、時雨君も戦線を離脱している現状じゃギリギリなんじゃないかな」

 

 

 髭眼帯の言葉におずおずと席を立ち、つつつと執務机まで移動すると、期待からだろう不知火の背にはキラキラのエフェクトが発生し始めた。

 

 

「響君は事務関係の取り纏めを、親潮君は今までと同じ様に誰かの執務補助をメインに自分の身の周りにある雑事は任せる、時雨君は警護関係がメインだが、彼女が居ない間は榛名君、神通君、そして夕立君に警護関係は任せる事になるとして、後は……」

 

 

 キラを増しつつコクコクと頷くぬいぬいを見て苦笑しつつも、髭眼帯は四人目となる秘書艦を任命し、前々からタイミングを見計らっていた秘書課の立ち上げをここで決めてしまう事にする。

 

 

「ぬいぬいには事務関係の補助をしつつも、こちらの執務と泊地運用の調整を任せる事になる、具体的には各課からの意見や伝言をこっちに持ち帰ってきたり、こっちの話を各課へ伝達するのがメインになるかな」

 

「なる程、不知火は各所へ司令の言葉を伝達するのが主な仕事になるという事ですか」

 

「それだけじゃなく、ある程度現場で話を取り纏めたり、小さな事案ならその場で決定したりする大事な仕事を任せようかと思ってる」

 

「え、そんな重要な事を不知火が決定する事が許されるんでしょうか……」

 

「いきなり全部とは言わないさ、でも時間を掛けてやっていけば諸々の塩梅は見えてくると思うし、最終的にはそういう形を目指すって事でどうだろうか」

 

 

 泊地という拠点の広さと、仕事の内容両方の規模が広がった現在、今までの様な立ち回りでは即応が難しくなった西蘭泊地。

 

 それに対応して髭眼帯と各課を結び、調整をする為の専任を置くのはある意味自然の流れと言えた。

 

 

 皆に信用され、同時にある程度の強引さも許される。

 

 条件に見合う能力と、古株という実を持つ者で吉野の下で秘書艦としての経験も持つ。

 

 これらの条件をクリアするとなれば、秘書艦として従事してきた三人以外の適任者は妙高と不知火だけだと吉野は思っていた。

 

 

 だが妙高は特務課のある意味事務関係の要であり動かす事は無理な現状、やや折衝という部分の経験は不足していたが、不知火を四人目に指名するという案は、実の処西蘭へ居を移して来た時から考えていた。

 

 

「事務方の中にある外事課の様に、不知火が秘書課でするのはそういう役割になるのでしょうか」

 

「言い得て妙ですね、提督の執務補助というより他所との調整がメインになりますから、そういう認識で間違いないと思いますよ?」

 

「君がいいなら秘書艦の一人として任命し、本日只今を持って秘書課は正式に立ち上げとなるけど」

 

「司令がそれで良いというならこの不知火、粉骨砕身の精神で秘書艦の任を拝命したいと思います」

 

「という訳だから響君、君は事務方と話を詰めて予算編成と課として必要な要件を纏めて欲しい」

 

「判った、じゃぁ大淀がまだ帰還してないし、取り敢えずという物を作っておくから、後でチェックは司令にお願いするね」

 

「うん、親潮君はぬいぬいと書類の続きを、細かい詰めや各課への対応は彼女へ振って確認して貰うという形にしてくれるかな」

 

「はい、以前から度々不知火さんとは仕事をしてきましたし、その辺りの問題は無いと思います」

 

 

 こうして西蘭泊地秘書課は正式な立ち上げとなり、秘書艦が一人増えた形で執務が開始される事となるのであった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「んで問題の始末は大体目処が立ちそうなんだけど、掘削プラントと精製施設は取り敢えず大丈夫なんだろうね?」

 

「はい、元々大坂でテスト運用していた設備の規模を拡張しただけですので、トライアンドエラーの殆どは省略できました」

 

 

 髭眼帯の問いに帰ってくるのは、ややくぐもったメロン子の声。

 

 秘書艦達が課の立ち上げの為に動き出した執務室では、お白洲で正座の刑に処されていた夕張が執務机の前で間違った虚無僧スタイルで正座しており、脇では引き続き妙高が苦笑しつつ控えている。

 

 

「貯蔵と運搬は?」

 

「試験運用分の貯蔵施設は港に設置済みですし、タンカーの改造は期日まで間に合うスケジュールになっています」

 

「プラントの警備は深海艦隊が当たる事になっているけど、確かほっぽちゃんが今度寄越す姫さん達に就いて貰う予定になってるんだっけ?」

 

「はい、彼女達に随伴してくる予定のFlagship級を防衛に当てるのが良いのではと、現在朔夜(防空棲姫)さん達が調整に入っています」

 

「妙高君、日本の方は?」

 

「そちらも飛行場姫さんから向こうへ連絡がいってる様で、纏まり次第提督へご連絡がいくと思います」

 

「ふむ、んじゃ取り敢えずの筋は整った訳だ」

 

「あのぅ……提督?」

 

 

 うんうんと頷く髭眼帯の前で、虚無僧ちっくな見た目のメロン子がおずおずと手を挙げる。

 

 

「ん? ナニ?」

 

「えっとその……いつまで私は正座とバケツを……」

 

「あーあーそれね、いや君には聞きたい事があるんだけどさ」

 

「……聞きたい事?」

 

「そそそ、ほら例の件であきつ丸君達が内地で色々したのは知ってるよね?」

 

「えぇ、まぁ……色々と聞いてましたから」

 

「て言うか現地の装備調達に君が一枚噛んでたのは提督の耳にも入っています」

 

「……えっと、その」

 

「でと、提督のGPZ900Rをショップから徴発したのは誰なのかなぁ?」

 

 

 ニコニコとする髭眼帯の前で、正座の虚無僧的なメロン子はプルプルし始める。

 

 吉野が言うGPZ900R

 

 それは1984年に市販された川崎重工業のオートバイの事を指す。

 

 それまでカワサキがフラッグシップとしていたGPz1100の後継機として開発されたそれは、新設計された水冷機構を搭載した画期的なロードツアラーだった。

 

 750ccが国内では販売規制されていた当時は主に北米向けに輸出され、最高速度250km/hと俊敏さが売りの、現在でも伝説として語り継がれているバイクである。

 

 ペットネームは「Ninja」、独特なカウル形状と性能、そして米国人に対するネームアピールによりこのバイクは注目を集める事に成功し、現在でもNinjaの名はカワサキに於いて特別な物として継承され続けていた。

 

 

「えっと……あの時は緊急と言う事でショップの紹介をしたんですが……」

 

「ふむふむ、まぁその辺りは何となく察しているよ、で? 君は提督の名を使ってショップからバイクを受領したと」

 

「それはそのぉ、あきつ丸さんがそのぉ……」

 

「てかこの受領書ね、何故か提督の署名捺印されてるんだけど、なーんかホラ、おっかしーと思わない?」

 

「偽造書類の作成はあきつ丸さんの十八番と言いますか……、その辺り私は関わってないカンジで……」

 

 

 プルプルし続けるメロン子の前で、髭眼帯は受領書を鉛筆で軽くシャカシャカこすりだす。

 

 プルプルする虚無僧ちっくを中心に、執務室にはシャカシャカする音だけが支配する空間が生まれ、なまじバケツをonしているメロン子にはその音しか聞こえないという恐怖がジワジワと侵食していく。

 

 そうして暫く、シャカシャカを終えた髭眼帯の手には、筆圧で白抜きになった文字が浮んだ書類がペロンと出来上がる。

 

 

「海洋プラント建造に於ける追加資材申請、ふむ、何でこんな文字が受領書に浮んでくるのかねぇ?」

 

「え!? そそそれはあのっ!? あっ! 確か申請書類の下にそういう書類が混じってたのかも知れませんっ!」

 

「ほぉん? でも何で特務課関係の書類が工廠課である君の手元にあったのかね?」

 

「はうっ!? え……えと、何ででしょうかねぇ……」

 

 

 プルプル続行中のメロン子へ、髭眼帯が投げた消しゴムがHITしカーンという音が響く。

 

 

 そして再び場は無言となり、髭眼帯の刺さる様な視線を肌に感じたメロン子は窮地を脱する為にグルグルと思考を加速させた。

 

 

「まぁアレだ、やってしまったのは仕方が無い、壊れたバイクはもう戻ってこないしね」

 

「あっ……はい、そう、ですよね……」

 

「んでもさぁ、ショップのおやっさんに聞いた話じゃ、他にも使えるバイクは幾つかあった筈なんだけど?」

 

「え!? いやそのそれはぁ……」

 

「な・ん・で、よりにもよって提督のバイクを狙い撃ちにしたのかなぁ?」

 

「えと……その、Ninjaって名前が川内さん的にツボだったらしくて、どうしてもと……」

 

「ふぅん? 川内君がぁ? んじゃ君はそういう理由で提督のバイクを贄に差し出したと?」

 

「いやその、悪気は全然これっぽっちも無かったんですよぉ?」

 

 

 再び執務室は無言に包まれ、音の無い時間が数秒流れる。

 

 そして目を細めた髭眼帯は、パンパンと手を打ち鳴らすと背後の壁がクルリと回り、そこから神通がスススと現れた。

 

 

「神通君、君は川内君から何と聞かされているのかな?」

 

「はい、姉さんの話ではある程度壊れた当該車両は、廃車手続きされた後泊地へ持ち込まれ、工廠課に引き渡される事になっていたと言う事です」

 

「ほぉん? 工廠課にぃ? 何故そうなっちゃってるんでしょうねぇ?」

 

「なんでも工廠課がこれまで作成してきた数々の装備結果を鑑み、現在は事務方の大淀さんと車両管理をしている鹿島さんから車両の購入が制限されている事に端を発し、今回はあきつ丸さんと工廠課の都合が合致した結果そういう密約が交わされたと言う事です」

 

「おやっさんが言うには提督の注文したバイク以外のブツを購入するには、別途の書類が必要になるって聞いたからさ、流石に書類の偽装を重ねるのは不味いって思ったんじゃないのぉ?」

 

「はい、それも提督の発注した物が選定された原因の一つだと推測されます」

 

「かと言って新たに徴発申請したら、あの作戦が提督にバレちゃうから無理と判断したと、結果あきつ丸君達とメロン子の間で利害が一致して、提督のバイクが生贄になったと」

 

 

 髭眼帯はふうと溜息を吐きつつ、指をパチンと鳴らす。

 

 すると再び執務机背後の壁がクルンとし、そこからスタスタと香取型二番艦が姿を現した。

 

 

 いつも姉が装備している物と同じ鞭を手にして。

 

 

「海上護衛総隊旗艦鹿島、出撃します。えへへっ、()ってみます!」

 

「え!? ちょまっ!? 待って待って待ってぇぇぇぇ!?」

 

「練習巡洋艦を甘く見ないで! 装備と練度は十分です」

 

「それって何の装備と練度なんですっ!? あっ!? 痛っ! 耳っ! 耳が痛いですっ!」

 

 

 メロン虚無僧の脇まで到達しニコニコと笑う鹿島は、手に持つ鞭をバケツに掠る様にピシーンペシーンし始める。

 

 それをビジュアル的に説明すると、ヘソ出しの兵装実験軽巡が泊地の提督執務室でバケツを被った間違った虚無僧風味な出で立ちで正座をしつつプルプルし、その脇ではムチムチした例の礼装を纏うツインテの練習巡洋艦に鞭でピシーンペシーンされつつ悶絶する行為が妙高型一番艦と川内型二番艦が見守る中行われるという、軍事拠点としてはどうなのかというカオスが展開されていると言えば想像できるだろうか。

 

 

「実はあのNinja、鹿島が提督さんにお勧めして発注したバイクだったんですよぉ?」

 

「痛っ!? えとその悪気があってはうっ!? 待って微妙にこれ苦痛っ!?」

 

「取り敢えずどうしますか提督さん? いつものバケツ正座ではもうペナルティとしては弱いみたいですし」

 

「そう言えば提督、間宮さんのオープンイベントで春のデザート祭りが開催されていますが、未だ誰も注文していないメニューがあるとかで困っているとの報告が」

 

「あー、確か全拠点デザートコンペで特別賞を取った、『天地を喰らうサトゥルヌス』とかいう正体不明のブツがあったねぇ」

 

「提督のとこにもお知らせが回ってきてましたか、どうも毎回その手の物を作る九州の間宮さんが今回も出展した物らしいんですけど、名前からして普通じゃ無いなという雰囲気が皆の間で漂ってまして、注文する者が居ないとか……」

 

「間宮君にしても味の感想が欲しいと言ってたし、ここは提督が自腹を切るからさ、鹿島君は見届け人として同行して貰えるかな?」

 

「えっ!? 何ですそのサトゥルヌスって!? 天地を喰らう前に精神を喰われそうな名前なんですけどっ!?」

 

「まぁそういう事で後は宜しく」

 

「はぁい承りましたぁ!」

 

「ちょまっ!? 鹿島さん待って!? 私これから色々仕事が控えてて痛っ!? バケツカンカン叩かないでっ!?」

 

 

 こうして翌日に大きな山場を控えてるには緩い空気の執務室にはメロン虚無僧の悲鳴が響き渡り、その脇では全てをスルーした者達が秘書課立ち上げの諸々を準備するというアレな絵面(えづら)があるのであった。

 

 

 




・誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。
・誤字報告機能を使用して頂ければ本人は凄く喜びます。
・また言い回しや文面は意図している部分がありますので、日本語的におかしい事になっていない限りはそのままでいく形になる事があります、その辺りはご了承下さいませ。

 それではどうか宜しくお願い致します。



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