大本営第二特務課の日常   作:zero-45
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 前回までのあらすじ

 仁義無き代理戦争勃発とペッが齎す地獄が新たに建築された艦娘寮の玄関で繰り広げられる。


 それでは何かご意見ご質問があればお気軽にどうぞ。


 2018/06/04
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きました水上 風月様、K2様、有難う御座います、大変助かりました。


Sim泊地 【⑧】 -艦娘寮完成・弐-

「それで? 傷の具合はどんな感じ?」

 

「傷口は一応塞がってはいるのでありますが、まだ治りきっている状態じゃない感じでありますな」

 

「電ちゃんとかからそれとなく状態は聞いてるけど、暫くは無理せず内勤に回って様子見かねぇ、川内君はあきつ丸君の代わりにメルボルンに飛んで貰う事になるけど」

 

「え~、やっと泊地入りしたのにもう出向? ちょっと休ませてよ~」

 

「吉野商事の事で向こうは今バタバタしてるし、夜逃げした元社長(・・・)の足取りも掴んどいて欲しいんだよ」

 

「会談の終了後即持ち株の売却を行って逃亡ですか、中々見事な引き際でしたね、ただまぁ結果として周りの人を見捨てないと無理な立ち回りでしたし、これで豪洲の地盤は無くなったと見ていいのでしょうか」

 

「大淀君が根回ししてくれた筋が抑えに回ってくれてるから、ヘタな色気を出して後手に回った人達はもう復権の機会も無いだろうね」

 

「私は内地関係で手一杯でしたので豪洲関係は殆ど詰めしか携わってませんね、その辺りは矢矧さんの(つて)のお陰かと」

 

「今回は無理したから露骨に鼻薬(賄賂)をばら撒いてしまったし、そのせいで一部に睨まれてしまってるから暫く大きな動きが出来ないわ」

 

 

 西蘭泊地楓館(艦娘寮)

 

 完成してすぐのそこでは各所に飛んでいた特務課の面々と大淀が集い、事後報告と現況について話し合っていた。

 

 

 テロの始末は陸軍の管轄であるので西蘭は動けず、また火消しの最中である為様子見の状態。

 

 吉野商事の件は事前に全力の根回しと準備はしたものの、吉野が宣言した通り直接介入をしなかった関係で事後処理はこれからという事になっていた。

 

 結論から言えば吉野陽四郎は手持ちの株を二束三文で売り払い、金塊を持てるだけ持って逃亡。

 

 それはM&A(企業買収)の為に募った出資者や他の株主を放置しての事であったので混乱が広がり、事態の収拾の為漣以下特務課の内務担当者が現在処理の真っ最中にあった。

 

 

(つて)も後ろ盾も見捨てて逃亡という事は、業界での信用はガタ落ちになるし、大手マーケットには暫く出てこれなくなるわね」

 

「しかしそうしなければ身の破滅でしたし、保身という事を考えればこの処理がベストなのは確かですね」

 

「何もかも放置した事で、最終的に利権を買い戻すつもりのこっちが動かないといけない形にするでありますか、中々小賢しいやり方をするでありますな」

 

「まぁ薄いとはいえ提督の縁者だから、その辺りの悪巧みはお手の物という感じかしらね」

 

「矢矧君は随分辛辣だねぇ」

 

「それで? 結局ソイツの事は拘束しないで足取りを掴むだけでいいの?」

 

「だねぇ、豪洲からどの方面へ向った程度の事が判ればいいから、今回の件は急がなくても大丈夫だと思うよ」

 

「ん、了解、あーそれと今回はプリンツ連れていこうかと思うんだけどいいかな?」

 

「プリンツ君かぁ、前々から実働班に回りたいって言ってたし、活動するのが暫く豪洲内って事になったから容姿的な物は気にしなくてもいいのか、んなら……まぁ別にいいと思うよ?」

 

「それで、かの者の逃亡先はやはり提督の予想通り欧州方面になるんでしょうか?」

 

「7:3で欧州かスイス、再起を図るなら欧州……それもフランスと睨んでるんだけどね」

 

「ウチと一番関係が薄く、しかも欧州連合の一角、提督殿が追い込まない事であっち方面へ誘導した形になりますし、大陸側の筋は今回の一件で切れたでしょうし、内地には居場所が無いでありますからな、その辺りに落ち着くのが妥当でありますよ」

 

「敵に回るかそれとも力を付けてウチと取り引きする側に回るのか、どちらにしても暫く大きな動きはないんじゃないかな? て言うか君達……」

 

 

 怪訝な表情になる髭眼帯に対して、首を傾げどうしたのかと見る面々。

 

 髭眼帯は今日新たに完成した艦娘寮の確認に来ていた。

 

 しかし途中で米・ソの仁義なき戦いに巻き込まれ、†黒炎を纏いし堕天使†白夜丸のペッを浴びて現在それの処理の為寮の露天風呂に浸かっている処であった。

 

 

 隣にはニパーと笑う榛名が居て、反対には何故か大淀が陣取っている。

 

 少し向こうにはメロン子が何とも言えないと言うか土左衛門よろしくプカァと漂い、更には今回のあれこれに動いた面々が髭眼帯を囲んでいる。

 

 後ろに大きな岩を背負い逃げ場の無い髭眼帯は湯に浸かりつつその光景を眺め、どうしてこうなったのだろうと怪訝な表情を更に深めていく。

 

 混浴の為其々は水着を着用してはいるがそれはそれ、幾ら報告を急ぐからと風呂でこういう場を設けるのはどうかと思ったが、髭眼帯以外は特に気にしていないという絵面(えづら)に髭眼帯は特大の溜息を吐いた。

 

 

「あきつ丸君怪我は……」

 

「ご報告差し上げた通り、ほら、この通り傷は塞がってるであります、なので今は温泉にゆっくり浸かって療養ついでに報告をと思ったのであります」

 

 

 あきつ丸は水着と言うか何というか例の伊号潜が着用する提督指定のアレをムチムチと着込み、うりうりとムチムチとしたチチシリフトモモをムチムチと見せ付けてくる。

 

 

「えっと川内君は……」

 

「え、あきっちゃん達が報告に行くって言ってたから付いてきたのと、ついでに次どうするか聞こうと思って」

 

 

 川内は例の川内型の制服を模したワンピをピッチピチに着込み、ニパーっと笑って髭眼帯の質問に答える。

 

 

「え~っと……矢矧君は……」

 

「私も帰還後の報告を一刻も早くしなければと思ったのだけど?」

 

 

 そういう矢矧の脇には盆に乗った徳利と杯がプカーしており、確実に報告よりもそっちの方のウエイトが重いだろうという程にはまったりとした空気が滲み出ているというカオス。

 

 

「大淀k」

 

「結果を報告するのと、早急に今後の対応を決めないといけないと判断しまして」

 

 

 もうもうと立ち上る湯気の中にあるのにまったく曇らない眼鏡をクイクイとしつつ、ピチッとしたハイレグワンピという攻めの衣装を纏ってoh淀は髭眼帯の左脇を死守していた。

 

 

 話す内容は確かに泊地運営に関する重要な物であったが、それは逃げ場の無い髭眼帯を扇状に展開して囲む提督包囲網に違いなく。

 

 その中心でプルプルする髭眼帯という絵面(えづら)の向こうでは、新たに出来た水場(露天風呂)に移動してきたゆーちゃんがフリルのついたワンピを装備してタパーンと湯船でジャンプするという露天岩風呂がそこにあった。

 

 

「……そう言えばガングート君やアイオワ君達は……」

 

「彼女達ならジェットバスとかサウナに行ってるんじゃないかしら?」

 

「え、ここってそんな物まであるんだぁ」

 

「今のとこ泊地には娯楽が少ないですし、お風呂好きの子も多いですからね」

 

「はい、榛名は大丈夫です」

 

「いや榛名君が提督を抱えて†黒炎を纏いし堕天使†白夜丸に立ち向かって行ったからこうなっちゃってんじゃないの? 一体何がどう大丈夫なのかの詳細説明をして欲しいんだけど」

 

「私の疲れを見抜いたのですね…提督、ありがとうございます。お休みしますね」

 

「いったぁぃ!? 腕ぇッ! 腕組むのはいいんだけど! てか良くないけど力ぁッ! もっと加減してッ! 淀えもんヘルプッ!」

 

 

 こうして†黒炎を纏いし堕天使†白夜丸の飛奥義『飛影水旋殺・極』の匂いを落す為にINした風呂で包囲された髭眼帯は、そのまま報告と段取りという名目で輪形陣の中心に据えられたまま、小一時間程拘束されるのであった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 楓館(艦娘寮)は入り口となる部分が移動用の機器(マイウェーイ)や下駄箱が配置された建屋となっており、その向こうが各課の代表の部屋が入るエリア、続く渡り廊下で共同施設が入る本館へ繋がり、更にそこから五つの建物へ連結する形に建屋が配置されていた。

 

 奉行所(執務棟)と同じく黒い板張りの廊下が続き、脇はガラス張りの窓が配され、廊下からは小さな池や植えられた樹木が見えている。

 

 渡り廊下も壁と窓で囲まれ風雨の心配もなく移動できる形になっており、移動に時間が掛かるという不便さえ考えなければそこが軍事拠点とは思えない程凝った物となっていた。

 

 各員に充てられた部屋もバリエーションに富んだ内装となっており、基本的に大坂鎮守府の寮よりも間取りが広く取られている。

 

 妖精さん技術を投入した上で建造に半月以上掛かったそこは、見ればなる程と納得する規模と作りになっていると言えた。

 

 内部をゆっくりと確認する為敢えてマイウェーイを使用せず徒歩で移動する髭眼帯は、景色を眺めながら本館の更に奥に位置する廊下を進んでいた。

 

 

「建物の周りも完全に日本庭園風に統一したんだね」

 

「外で何かをする為に一部芝の広場がありますが、廊下から見える殆どはそういう形になる配置にしています」

 

「んで自分の部屋は寮の最奥になってるって聞いてるけど、それじゃ緊急事態に対応し難くならない?」

 

「提督の私室は地下道で奉行所(執務棟)の執務室裏へ繋がっていますので、マイウェーイを使えば五分も掛からず行く事が可能ですよ?」

 

「え……直通地下道?」

 

「はい、執務机背後に隠し扉がありますよね? あそこへ直通可能となっています」

 

「……前から聞きたかったんだけど、執務室の奥って海王の間になってたんじゃなかったっけ?」

 

「海王の間と執務室の間に小さなエレベーターがありまして、地下一階にある通路から執務室へ上がれる仕組みになっています」

 

「……たまに誰かがあそこから出てくるのってもしかして……」

 

「他の建物から奉行所(執務棟)へは直通の地下道がありますから、それを利用してるんじゃないでしょうか」

 

 

 夕張がカミングアウトしたとんでもない秘密。

 

 それは泊地に点在する建物から奉行所(執務棟)へ直通する地下道が存在するという仕組み。

 

 確かに奉行所(執務棟)地下には指揮所や避難所、または脱出システムが設置されている為そういう経路があるのは不思議ではない。

 

 だが現状の使用状況を敢えて言うのならば、泊地各所の建物から髭眼帯の背後へ直通するという使い方しかされていないと言えてしまったりしてしまうだろう。

 

 

「……ねぇ夕張君」

 

「さぁ到着しました、ここが提督の私室になります」

 

 

 髭眼帯の問いをぶっちぎった夕張が指すそこは、周りの部屋よりちょっと重厚な木製の引き戸が印象的な突き当たりの部屋。

 

 上には『Suite room-Admiral』という札が掛かっており、それを見た髭眼帯はまたしても嫌な予感メーターがピコンピコンし始める。

 

 

「ス……スイートルーム-アドミラルぅ?」

 

「はい、今回の設計はやはり霰ちゃんが、施工は島風ちゃん担当になってますが、内部には皆さんの希望が色々取り入れらr……」

 

「待ちなさい」

 

 

 髭眼帯はプルプルをピタリと止め、メロン子へものっそ真顔のまま待ったを掛ける。

 

 

「……皆さんの?」

 

「はい、利用者に快適と癒しの空間を提供するのが工廠課の勤めですので、全力で対応させて頂きました、では内部をご案内致します」

 

 

 メロン子は未だ怪訝な表情のままの髭眼帯を置いてきぼりにしてカラカラと扉を開き、中へと入っていく。

 

 そこは大坂の提督私室と同じく小さな玄関的なスペースがあるが、寮は土足厳禁となっているので下駄箱的な物は配置されていない。

 

 玄関から続く内扉が開かれると、内部は二十畳程の空間となっており、大きなソファーセットが中央に、左の壁にはやはりそれなりの大きさがあるキッチンスペースが見える。

 

 だが一部大坂の寮とは違う部分が存在し、それが内部の構造が似ているにも関わらず部屋の見た目を全然違う物に見せていた。

 

 

「大坂鎮守府にあった提督の私室は寮の二階に位置していましたから小窓が幾つかあるだけでした、しかしここは一階かつ土地が広いという事で、部屋の奥は総ガラス戸(超防弾)にし、そこからは小さな庭園が見える形になっております」

 

 

 廊下と同じ材質の板張りに、天井は敢えて太い梁を見せる事で重厚な見た目となっている部屋は、外側に面する部分が総ガラス戸(超防弾)になっている為、外にあるこぢんまりとした趣味の良い庭園が見える形になっていた。

 

 そしてソファーで寛ぎティーを嗜む泊地棲姫と飛行場姫。

 

 何故提督の私室で深海のボス二人がティーしているのかという絵面(えづら)に、どうだと言わんばかりに手を広げたユウバリンコ。

 

 時が止まった空間と、カッポーンという鹿威(ししおど)しの音だけが支配するSuite room-Admiral

 

 

「……」

 

「……」

 

 

 怪訝な表情で固まる髭眼帯を余所に、パタパタと今日の警護係である榛名がキッチンまで移動し、冷蔵庫らしき機器をピポパと操作しつつドクペとひやしあめを取り出すと、ソファーセットまで再びパタパタと移動し、よっこいせと座ってティーの輪に参加する。

 

 

「……なんで海湊(泊地棲姫)えもんが提督のマイルームでティーしちゃってるのかの理由を聞いても?」

 

「ふむ? いや今日は宴会があると聞いてな、それまで時間を潰そうかと思っていたら飛行場姫に誘われたんだが、それがどうした?」

 

「別にわらわの部屋でも良いと思うたのじゃが、夕張から主殿の(ねや)が出来たと聞いての、見学がてら一服しておったのじゃ」

 

「提督、お飲み物をご用意しましたのでこちらにどうぞ」

 

 

 さも当然とばかりにティーする深海のフレンズ二人に、自分の脇をポンポンと叩いて誘う榛名。

 

 

 と、未だにドヤ顔で手を広げ固まっているメロン子。

 

 

 そんなメーな絵面(えづら)に首を傾げながらも、取り敢えず榛名の隣に腰掛けドクペを受け取った髭眼帯は釈然としないまでも一服する事にする。

 

 

「え、ベッドルームは見学しないんですか?」

 

「いやどうせ部屋にはデーンと例の回転ベッドが鎮座してて、脇には畳スペースとかがあったりすんでしょ?」

 

「……えぇ確かにそれはそうですが」

 

「なら確認は取り敢えず一服してからでいいんじゃない? 君も飲み物取ってきて休憩すれば?」

 

 

 度重なる色々の為にある意味慣れてしまった髭眼帯は、既に色々と察しているのか居間から続く扉には余り興味を示さなかった。

 

 その反応に釈然としないメロン子はブツブツと呟きつつも冷蔵庫から飲み物をピポパと取り出すと、ソファーに腰掛け休憩する事にした。

 

 色々突っ込み処が多いが、ここ最近の事を考えれば平和なのかなというまったりとした空気を感じつつ、髭眼帯は巷の消費者から定期券の茶色部分をクンカクンカした味わいと揶揄される飲料を口に含み、ふぅと溜息を吐いて肩の力を抜いた。

 

 

「そういえば提督、ここには食料品用冷蔵庫と飲み物用の冷蔵庫二つが設置されていますけど、飲み物用の冷蔵庫は明石酒保が管理する関係で飲み物が自動的に補充されるので中身が空になる事はないんですが、月末に商品の料金が口座から引き落とされますから飲み過ぎには気を付けて下さいね」

 

「は? なんて?」

 

「ほらここって旅館ナイズされてるからそういうシステムになっててもおかしくないですし、提督の部屋って色んな子が出入りするじゃないですか?」

 

「そこまで旅館ナイズにするのはどうかと言うか、軍事拠点の司令長官私室に不特定多数の人物が出入りするのは提督正直どうかと思うんですが、それで?」

 

「で、皆さんの希望する飲料をそれなりに揃えちゃうと冷蔵庫が大型化しちゃうから、いっそ販売機的な形にして、地下に飲み物を貯蔵して対応しようかって事になったんですよ」

 

「……なんでそれで提督の口座から料金が引かれる訳?」

 

「え、だってここ提督の私室ですし」

 

「そこはカード認証とかして個人のポッケから出る仕組みとかにしようよ! 変なとこに色々力入れてるのにこういうとこだけ何でおざなりにするかな!?」

 

「因みに当たりが出ればランダムでもう一本システムが冷蔵庫に組み込まれています」

 

 

 当たりが出ればもう一本。

 

 それは自動販売機にありがちな機能と言えなくもないが、今メロン子が言ったのは当たりが出れば"ランダムで"もう一本というシステムである。

 

 そしてここは色々と個性的(意訳)な飲料を好む者達が住む魔窟、西蘭泊地である。

 

 つまりランダム的に出る飲料は薬っぽい味がしたり、土や汗のテイストがする物であったり、果てはベニア板の味がしてしまう劇物である可能性があったりするのだ。

 

 そんな狂った機能を内包したブツが、しかも自分のサイフにダメージを与えつつ稼動するのは如何なものかと髭眼帯はメロン子の方を見る。

 

 

「ングング……くぁぁ~ これこれぇ、この後味と香り~」

 

 

 色々と言いたかった髭眼帯であったが、ゴクゴクと夕張が飲むソレを見た瞬間目を見開き、驚愕の相をそこに滲ませる。

 

 夕張の手にあるそれは、明るいグリーンが基調のオサレな梱包をされたペットボトルであった。

 

 イメージ的には紅茶か緑茶然とした意匠、ある意味それは間違いではなかった。

 

 ラベルの中心にはレモンの絵が描かれ、中身はレモンに関わる風味がINされている事を示唆する。

 

 しかしその柑橘類の王様が描かれている隣には別の植物も描かれていた。

 

 

 ぱっと見はちぎったパセリに見えなくもないブツ。

 

 

 だがそれはパセリなどという添え物ではなかった。

 

 ラベルに書かれている商品名、そこにはこうプリントされている。

 

 

『パクチー&レモネード』

 

 

 パクチー

 

 コリアンダー、若しくはシャンツァイとも呼ばれるそれはセリ科の一年草であり、薬味や香辛料として料理に添えられ食される植物である。

 

 有名処ではベトナムに代表されるエスニック料理に欠かせない物とされ、独特の風味は一部の者達を魅了するという。

 

 ただそれは自己主張が強い為に、駄目な者はとことん駄目で、最大の特徴である風味=匂いは混入する量を間違えてしまうと料理をそれ一色に染め上げてしまう。

 

 独特とも言われるそれを判りやすく表現するならカメムシの匂い、漂うそれは比喩ではなく臭く、和名ではこの植物の事を『カメムシソウ』と呼称する程匂い立つ植物でもあった。

 

 

 そんなアレなハッパとレモネードを足してしまった飲料、パクチー&レモネード。

 

 

 世に蔓延るパクチーに狂った一部の人に向けてか、それとも時勢に乗ろうとしたのか、ポッカサッポロフード&ビバレッジが2017年に発売してしまったそれは、『パクチー女子のあなたに!』『I♡パクチー』というオサレ的なキャッチフレーズと共に世に放たれる事になる。

 

 

 元々パクチーと言えば料理にINする事で風味を楽しむブツである、一部の特殊な者達の様にそれをまんまモシャーするというブツではないのである。

 

 更にはパクチーというブツの風味は既存のレモネードでは受け止め切れなかったのであろう、普通はパクチー成分を弱めれば良い筈がパクチーを前面に押し出した商品故にそれも出来ず、結果としてレモネード側を調整するという、"塩味がキツイから砂糖を足して塩辛さを中和しよう"的な狂った理論を展開してこの商品は誕生した。

 

 結論としてはレモンと言うよりビタミンが1000mgみたいな謳い文句のスッパ濃いあの飲料に、カメムシの匂いが同居するという、オサレ素材同士を足してみたら何故か殺人飲料が出来てしまったというのがこのパクチー&レモネードである。

 

 巷の消費者からは『味はスッパイと感じているのに鼻にカメムシが入ってくる』という散々なテイスティングレポートがされ、顔面の上下で感じる物が違うという訳の判らない意見が続出した。

 

 またそれを買ったとある勇者は『レモネードならホットでもテイストするべき』とチャレンジしたそうだが、残念ながらそれはレモネードという皮を被った何かである。

 

 結論としては温められた事でカメムシの匂いが更に際立ってしまい部屋が匂いで汚染され、しかもすっぱさもパワーアップするという化学反応がそこに起こってしまった。

 

 後に勇者から『温めると地獄の扉が開いてしまう』という報告がされて以降、アイスで飲まないと死ぬ的な情報が拡散される事となった。

 

 

 そんな飲料が『パクチー&レモネード』である。

 

 

「夕張くんそれってクサッ!?」

 

「む、どうしたのじゃ主殿ってかなんじゃこの匂いは!?」

 

「え、パクチー&レモネードですけど?」

 

「うむ……結構臭いぞ、寧ろかなり臭い」

 

「は……榛名は大丈夫じゃありません」

 

「て言うかクサッ、何でそんなの飲んでんの!?」

 

「いやほら、見た目私のパーソナルカラーの緑っぽいですし、レモンとパクチーってなんかオシャレっぽいなって飲んだらクセになっちゃって」

 

「クサッ、臭いぞ……わらわにそんな物を近付けるでないわっ!」

 

「提督この手の飲み物大好きですよね、その……間接キッスになっちゃいますが、一口如何です? な~んちゃって」

 

「上目遣いでジリジリとそんなクサイの提督のフェイスにグイグイしてくるのヤメロッ! ってマジクサイからッ!」

 

 

 こうして風呂に浸かってやっと堕天使†白夜丸の飛奥義『飛影水旋殺・極』の呪縛から逃れた筈なのに、また臭い何かに悩まされる髭眼帯は、新たに出来たマイルームでメロン子の生尻ペシペシを敢行するのであった。

 

 

 




・誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。
・誤字報告機能を使用して頂ければ本人は凄く喜びます。
・また言い回しや文面は意図している部分がありますので、日本語的におかしい事になっていない限りはそのままでいく形になる事があります、その辺りはご了承下さいませ。

 それではどうか宜しくお願い致します。



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