大本営第二特務課の日常   作:zero-45
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 前回までのあらすじ

 違う大人のナイスな飲み物、パクチー&レモネード


 それでは何かご意見ご質問があればお気軽にどうぞ。


2018/06/20
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きました鷺ノ宮様、リア10爆発46様、通りすがり様、K2様、有難う御座います、大変助かりました。


整いつつある環境と、新たな艦娘 -序-

 奉行所(執務棟)の執務室ではソファーに腰掛けた髭眼帯が、頭ボーンの状態でコーヒーを啜っていた。

 

 もうそろそろ冬も本格的に来ようかという西蘭島では、針葉樹林が中心の植生という事もあり、木々から葉は散っていない状態であったが、それでも赤が目立つ世界を窓の外に垣間見せている。

 

 

「今回はちっとばかししくじったかのぅ、カッカッカッ」

 

 

 前日に行われた艦娘寮(楓館)落成の宴会が長引き明け方まで色々付き合わされた髭眼帯は、やっと寝入った頃の早朝に叩き起こされ身嗜みを整える事が出来ず、目の前に居る退役軍人会会長染谷文吾(そめや ぶんご)が豪快に笑う様に苦笑で返していた。

 

 

「染谷さん……確か舞鶴の相談役として現地入りしてたんじゃなかったんですか……」

 

「うむ、輪島に請われての、まぁ大坂の唐沢君のような感じで活動する筈じゃった」

 

「……じゃった?」

 

「まぁこれから舞鶴に帰ったらそうするつもりじゃよ、心配せんでもいい」

 

「いや心配なんかはしてないんですが、どうしてその……」

 

あれ(・・)か、まぁ色々事情があると言うか、正直勇み足というヤツじゃ、スマンの」

 

 

 カッカッカッと笑いつつ茶を啜る染谷にジト目を飛ばす髭眼帯と、脇でニコニコする妙高。

 

 元岩川基地司令長官であった老骨は好々爺な柔らかい雰囲気を醸し出してはいるが、現在も軍部の深くと繋がるやり手であるのは間違いない。

 

 元帥大将である坂田一(さかた はじめ)の同期であり戦友、大将であり軍令部総長の大隅巌(おおすみ いわお)の師匠、そして退役する将官や高級官僚へ仕事を斡旋したり互助的パイプとなる退役軍人会の会長。

 

 これだけどっぷり軍部と繋がっていれば、嫌でも影響力が大きくなるのは仕方が無いとも言える。

 

 

「……軍部の方針転換で、これから益々生え抜きの艦娘は中央から前線へ回される事になるというのは、おんしも理解しとるじゃろ?」

 

「諸外国と正式に結んだ、艦娘のレンドリースに絡む事でしょうか」

 

「うむ、艦娘の保有国という数は以前とそう変わらんが、各国が邂逅する艦娘の種別は極僅かながら増加傾向にある、ドイツは元より、イギリス、フランス、イタリア、単独では運用が難しい艦種しか無い状態じゃが、欧州連合としては回せる程の艦娘は揃っとる」

 

「そこに現在アメリカも加わり、それなりには活動が可能な形になっていますね」

 

「そうじゃ、それなりに(・・・・・)、じゃがの」

 

 

 意味深な言葉の切り方をして、染谷は湯飲みをちびちび傾ける。

 

 

 現在艦娘を保有している国は日本を筆頭とし、ドイツ、イギリス、フランス、イタリア、アメリカ、ロシアの七ヶ国。

 

 ここ数年で緩やかに艦種が増えていく形で戦力は整いつつあるが、それでも単一で軍備と呼べる規模の艦娘を保有しているのは日本のみというのは変わらない。

 

 日本以外の国は条約を結び、数と艦種の偏りはレンドリース(武器貸与法)によりバランスを取ろうとしているが、それでもまだ心許ないというのが現状である。

 

 

「艦種の偏りは無くなったとしても、数という面なら未だ日本が圧倒的じゃ、しかしその日本も現在保有しとる艦娘の数が頭打ちになっとるからの、後は質の向上という物を目指すしかない」

 

「対して他国は艦種の偏りを是正して、艦隊運用を円滑に回す必要がある……だからレンドリースという手法を取らざるを得ない」

 

「うむ、日本は余り気味の駆逐艦や軽巡を放出、他国は戦艦や空母がダブっておるからそれを日本と交換して艦隊の編成を整える」

 

「質を求める日本と、どうしても艦種が少ない他国の事情が合致した結果、どちらもwin-winという関係が成り立っている……ですか」

 

「一応理想的な状態と言えなくもないがの、別な処に大きな問題が潜んどる」

 

「自国の艦をレンドリースに出し、他国の艦を引き入れるという事に対する精神的な問題、でしょうか?」

 

「そうじゃの、欧米はまだ艦娘を運用し始めてからそれ程経っとらんからまだ良いが、日本は既に三十年近く艦娘と共に戦ってきとる、自分の艦隊から艦娘を出して他国の艦娘と入れ替えるというのに割り切れん思いが生まれるのは仕方の無い事じゃろうの」

 

「だから大本営自らそういう形を作り、末端の拠点から不満が出ないよう戦力の編成をしてる訳ですか」

 

 

 現在の大本営が抱える艦隊の内、第一、第二艦隊の再編成は完了状態にあり、潜水艦隊は艦娘の数が元々少ない為現状維持という形に収まっていた。

 

 そして吉野が大坂から居を移し、どこからも力が及ばない勢力となった事で情勢が大きく変わった煽りを受け、他国との協調路線を選ぶと共に内地の戦力調整も視野に入れた結果、大本営は第三艦隊もレンドリースした艦を編成する形で再編する事となった。

 

 

「第四艦隊は年単位で前線の艦娘と入れ替えをしとるから今回の再編とは無縁じゃ」

 

「で、残った第三艦隊の再編ですか……元々消費資源の軽い艦ばかりで編成されてましたから、大型艦を入れるとなれば運用がガラリと変わりそうですね」

 

「制海権が広がっとるし、末端の拠点も質が向上しとるという事での、大本営の抱える戦力は打撃力重視を目指すつもりなんじゃろ」

 

「そこで再編成で浮いた艦娘さんを染谷さんが引っ張ってきたと……」

 

「大本営のやり方は間違ってはおらんが、今までの形を全部無くすというのもある意味悪手じゃ、多様性も大事じゃが強固な基盤は残さんとならん」

 

「だからって何で外に飛び出したウチになんですかね、ここは基盤はおろか深海棲艦も取り込んだ番外地なんですが……」

 

「おんしが率いとる拠点は大本営の影響に無いからの、そして舞鶴は旧鷹派の生え抜きがおるし、あの(・・)千歳が筆頭じゃから磐石じゃ、クェゼリンはおんしのとこから近いので問題は無いし、クルイは元々リンガの斉藤の色が濃いから大丈夫じゃろ?」

 

「なら大坂に着任させれば良かったのでは?」

 

「……断りよった」

 

「は?」

 

「内地の基盤を磐石にする為儂も大坂に打診したんじゃが、あんのクズがの……「結構です」とバッサリじゃ」

 

 

 苦々し気に空になった湯飲みを「ん」と妙高に差し出しながら、染谷は苛立たし気に言葉を吐き捨てた。

 

 

「おんしが内地を後にした関係で色々不安定になっとるがの、それが収まれば舞鶴と大坂は微妙な立場に立たされる、ならば今の内に戦力だけでも整えとかんと対処に困るじゃろ、特に総入れ替えになった大坂は早急になんとかせんとならん」

 

「ですよねぇ、自分も段階的に麾下の艦娘さんを異動する事を打診したんですが、九頭さんには断られてしまいまして」

 

「鎮守府丸々一つの戦力が居なくなった穴埋めは早々整う事は無い、じゃからそれを補う為のテコ入れが必要なんじゃ、なのにアイツときたら……」

 

「まぁ九頭さんは独特の艦隊運用をする人ですし……」

 

「独特と言うか性癖がモロに出とるだけじゃろ、どうするつもりじゃあ奴は」

 

「まぁその辺りは強く言えませんし、様子見するしか……」

 

「……まぁ良い、結果的におんしの艦隊はある意味諸外国に影響されんかった日本の形という体を整える事になったからの、折衝面でも、内地の経済界からの見方もかなり良い方向に向うじゃろ」

 

「……て言うかですね、今更なんですがウチに色々集中し過ぎじゃないですかね」

 

「寧ろ二つ名持ちをどこぞの前線へ飛ばす事の方が問題じゃぞ?」

 

「いやいや、呉とかリンガとか、大本営に次ぐ拠点もあるじゃないですか」

 

「無理じゃの、どちらも大隅の息が掛かっとるから受け入れには難色を示すのは間違いないわ、妙高の時のようにの」

 

 

 染谷がボソリと力なく言う言葉に、嘗て第二特務課へ無理矢理という形で着任した過去を持つ妙高は苦笑し、髭眼帯は何とも言えない相を滲ませた。

 

 

「名が大きくなれば存外に難しい面だけが悪目立ちするのは今も昔も変わらん、それに一部の者は二つ名持ちは既に過去の物という事にしたいようでの、世代交代と言うて色々動いとるようじゃ」

 

「戦力的には有用でも、突出し過ぎればバランスが取れませんからねぇ」

 

「そういう意味では突出した者しかおらん西蘭なら大丈夫じゃろ、吹雪から"鉄壁"の名を継いだ大和、叢雲の"人修羅"を継いだ長門、今は戦力外じゃが嘗て電が呼ばれていた"対潜"を背負っておった夕張もおるし、他にもあの"武蔵殺し"までおる、今更"千里眼"が着任したとしても誰も気にせんわ」

 

「"幸運"の五月雨ちゃんは今でも現役ですからね……結局彼女以外の最初の五人が背負ってた二つ名はここに揃ってしまったって事ですか」

 

「"千里眼の漣"から直接教えを受けた訳じゃないから少し毛色が違うがの、アレは長門と同じ"成れの果て"じゃて、よくよく考えれば九頭の処よりおんしの処に捻じ込んだ方が正解じゃったのかも知れんの」

 

「"千里眼の祥鳳"ですか、まぁ一応空母勢に任せる事にはなってますが、どうなる事やら」

 

 

 頭ボーンの状態で深い溜息を吐きつつ見る先では、池にプカーした潜水艦娘達が寛ぐ様が見え、この季節に寒くないのだろうかと髭眼帯は現実逃避を開始するのであった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 (そら)を切る翼端。

 

 青い空を継ぎ接ぎのように見せる細く長い筋は、白い尾を引いて空気を切り裂いていく。

 

 

「チッ……相変わらず嫌らしい位置に切り込んでくるな」

 

「そういう貴女も相変わらず読めない動きをさせてるわね、色々と引き出しの中身が増えたのかしら、中々興味深いわ」

 

 

 大巻物を靡かせて、艦載機を縦横無尽に展開する龍驤は忌々し気に睨みつけ、凡そ二海里先には目を細めて口角を吊り上げた祥鳳が下と上から(・・・・・)空域を俯瞰する。

 

 龍驤は艦攻と艦爆が中心の編成で即攻を狙う形の編成、対して祥鳳は艦戦中心の編成で受ける状態にあった。

 

 無軌道に近い形でそれらが散開し、隙あらば喰らい付くつもりの龍驤であったが、演習開始即後退という動きと共に艦戦をバラ撒く祥鳳を詰め切れず、互いの距離が開いた形で徐々に戦域を広くしていった。

 

 

「……龍驤が攻めきれないのって珍しいって言うか、祥鳳側が随分消極的に見えるんだけど」

 

「五航戦の子なんかと一緒にしないで」

 

「なんで煽ってくるワケ!? 今の会話の流れでそれはおかしいでしょっ!?」

 

「いや瑞鶴の言うとおりちょっと祥鳳……さんの動きは何と言うか……」

 

 

 二人の演習を見る空母勢、一航戦の二人に瑞鶴と瑞鳳の四人の表情は、何とも言えない二人とそうでない二人に別れていた。

 

 瑞鶴と瑞鳳は千日手とも言えそうな状態に釈然としない相を滲ませており、対して加賀は面白そうに、赤城は苦笑交じりで空を見上げる。

 

 

「今回は挨拶代わりの演習ですから、ガツンとやりたい龍驤に対して祥鳳はのらりくらりと攻撃を散らしつつ、更に戦域を広げる形にしていくみたいですね」

 

「ねぇ赤城さん、これって勝負がつかないんじゃ……」

 

「ですね、寧ろ演習の勝敗条件を設定してない時点で結果はお察しでしょうけど」

 

「え~……」

 

 

 戦闘空域が広がり巴戦が散発的な物へと変化する。

 

 本来なら龍驤が最も得意とする形の戦いは、要所で祥鳳が差し向ける艦戦が邪魔となって今一つ踏み込めない状況が続く。

 

 艦載機の使い方は龍驤が上回っても、爆弾や魚雷を腹に抱えた艦攻や艦爆に対し、祥鳳が操る艦戦の機動力がそれらを上回る。

 

 こうして拮抗したままある程度の距離が開き、密集した場が無くなってしまった結果、奇襲という手段が使えなくなってしまった。

 

 攻め手に欠く龍驤に対し、祥鳳の持ち駒も艦戦が中心である為決定打が無く、結局設定していた演習時間が過ぎ、決着付かずという形で演習は終了する事になった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「ほんま嫌らしいやっちゃで、これで一勝一敗四引き分けや」

 

「ふふっ、引き分けのカウントがどこまで延びるか楽しみね」

 

「……そういうとこはぜんっぜん変わってないな、何か気ぃ抜けるわ」

 

 

 午後になり海から上がってきた空母勢は、新しく居を構えた間宮の茶屋スペースで甘味をつついていた。

 

 西蘭に居を移した間宮は他の建物と同じく和風建築の物として作られており、食事処は座敷が中心の母屋を中心に、脇には母屋の半分程の面積を持つ茶屋、更に裏手では通信販売用の菓子を作る工房が併設されていた。

 

 西蘭へ拠点が移動した関係で教導任務が無くなり、浮いた人員と深海勢が哨戒任務に就く関係で間宮にも新たに専任が就く事になり、店舗が大型化しても営業には支障が出ない形になった。

 

 店主は間宮で二番が伊良湖、それに春風と瑞穂という四人が店を回し、昼食、夕食という混み合う時間帯だけ間宮券と引き換えに誰かが手伝いに入り、営業は滞りなく行われている。

 

 

 そして寒い時期は囲炉裏を囲む形で配されたテーブルで甘味を食す。

 

 それがここ最近の空母勢の決まりとなりつつあった。

 

 バケツに入ったプリンに山盛りのクリームとフルーツという、所謂プリンアラモード空母盛りをモリモリと食す一航戦のテーブルの脇には、祥鳳に龍驤が談笑し、それを何とも言えない相で見る瑞鶴と瑞鳳のズイズイコンビの姿。

 

 残りの空母勢は哨戒に出ているか、若しくはサラトガの様に決まった部署へ出ている為この六人が現在雑務に当たっている。

 

 

「ここの者以外に後何人航空母艦は着任しているのかしら」

 

「あー、他には鳳翔が非戦闘員として店をやっとるやろ、その補助に龍鳳やな、他にはサラトガとグラーフ、飛龍に蒼龍、後は今哨戒に出とる飛鷹と隼鷹、ほんで今日は非番の大鳳と葛城、後は水上機母艦の瑞穂とコマンダンテストかな」

 

「鳳翔さんは除くとして、航空母艦としては十四人、最終的にはもう四人増えて十八人になるのね」

 

「ん? もう四人?」

 

「明後日着任する英国艦と伊太艦の正規空母が一人づつ、米国からも二人が着任するそうよ」

 

「は? なんやて、うちそんなん聞いてへんで」

 

「大本営とそっち関係が色々揉めたみたいね、最終的に打診されてた人数より膨れ上がったそうだし、今頃染谷さんから提督に話がいってるんじゃないかしら」

 

「マジかぁ~ まぁ人数増えるんはいいんやけど、政治取り引きで来る艦が増えるんは厄介やなぁ」

 

「まぁウチには赤城さんが居るし、祥鳳さんが着任したなら教導関係は問題ないのではないかしら?」

 

 

 苦い相を滲ませる龍驤のボヤきに、ハムスターの様にプリンで頬を膨らませた加賀がムーチャムーチャと返事を返す。

 

 それを怪訝な表情で見る瑞鶴は「翔鶴姉ぇも着任しないかなぁ」と呟いて溜息を漏らし、瑞鳳は対面に座る祥鳳をちらちらと見るという弛緩した場がそこにはあった。

 

 

「……瑞鳳、何か聞きたい事でもあるの?」

 

「え!? えっとその、何と言うか祥鳳……さんって大本営ではやり手って聞いてたんだけど、さっきの演習って」

 

「そんなに畏まらなくてもいいのよ、実の姉妹って訳じゃないけどまったくの赤の他人みたいな気はしないし、えっと、さっきの演習がどうしたのかしら?」

 

 

 艦娘の間にある姉妹としての認識は、同じ拠点で建造されたかどうかで括られ、他拠点で建造された者同士だった場合良くて従姉妹、大抵は縁遠い親戚という感覚として認識される。

 

 更に祥鳳は長門がまだ大本営に居た頃から現役だった古参であり、第三艦隊の副艦を長く努めた猛者と言う事で、瑞鳳には関係的な距離感が今一つ掴み切れずにいた。

 

 

「えっと、何であんな消極的な立ち回りをしたのかなって……」

 

「そうそう、それよ! 貴女一応大本営艦隊の生え抜きだったんでしょ? なんでガツンとやらなかったのよ」

 

 

 ズイズイコンビの言葉に「そうね」と一言返し、祥鳳は茶で口を湿らせて龍驤の方を見る。

 

 その視線を受けてか、何と言った物かと困った龍驤は考える素振りを見せ、場は一航戦二人がバケツの中身をむしゃぶる音だけが支配する。

 

 

「まぁガチの削り合いやったらうちが勝つ自信はあるけど、勝負ってなったら互角か、ちと分が悪い感じやな」

 

「……ガチと勝負の違いが判らないんだけど」

 

「スタンスの違いやな、うちは船舶護衛専任やったし、コイツは攻略艦隊の後詰やったさかい」

 

「私の役割は海域攻略の最終防衛ラインを維持する役割を担ってたから、勝つというより現状維持と言うか、負けない戦いを主眼に置いた立ち回りという思考が先に来ちゃうのよ」

 

「あー……それでああいう消極的な戦い方してたんだ」

 

「まぁそれもあるけど、多分貴方達と私では航空母艦の運用という面で認識の差があると思うわ」

 

「認識の差? 確かに防衛寄りと攻撃寄りとじゃ色々違うのかも知れないけど」

 

「そういう括りじゃなくて、艦娘としての航空母艦の戦いという面に於いてね」

 

 

 祥鳳の言葉に溜息を吐きつつ「また始まったで」と首を振る龍驤。

 

 そして言葉に首を傾げて言葉の意味を考える二人。

 

 おまけにバケツプリンのお代わりを注文する一航戦。

 

 

 そんな甘味処で講義染みた祥鳳が口にする理論は、殆ど面識が無い筈の漣が背負っていた"千里眼"の二つ名を継ぐ切っ掛けとなった戦い方であった。

 

 

 まだ最初の五人しか居なかった頃、何かしらの得意とする技能で突出した戦果を上げていた他の者に比べ、どちらかと言えば補助的な役割をこなし、攻めというより被害拡大を防ぐ事を漣は旨としていた。

 

 人が好きで、ムードメーカーでもあった彼女はそれなりに戦い、誰かが傷付くのが嫌で、一見ふざけた行動に見えるそれも自分達と共に戦っていた、名も知らぬ戦友(誰か)を守る為の物であった。

 

 

 そんな彼女はある日を境に立ち回りをガラリと変える事になる。

 

 広範囲の気配を探り、静かに待ち受ける敵の位置を漏らさず捉える様に装備も整えた。

 

 攻撃を受ける前に攻撃する、それが最良だと。

 

 自分の知らない処で誰かの命が危険に晒されぬよう。

 

 

 あの日、自分の知らない処で散ってしまった、いつも笑って話していた人達の姿を心に刻み。

 

 

 知らない事があるというのに恐怖した、楽しかった思い出が掌から零れ落ちてしまった為に。

 

 

 故に"知る手段"を突き詰めて、もう戻らない時間を噛み締めて。

 

 

 ただ守るだけでは足りないんだと、悲しみに裂けた心の傷を更にえぐる様に、憎しみという名の想いを深く深く刻み付けた。

 

 

 最初の五人と呼ばれた少女の評価は、敵を沈めた数の多さで語られる事が多い。

 

 だが当時の前線を生き残った数少ない者達に聞けば口を揃えて言うだろう、大阪鎮守府が壊滅して以降、一番冷徹に戦いを繰り広げ、一番敵を沈める"切っ掛けを作った"のは誰なのかを。

 

 大阪鎮守府が焦土と化して以降、瀬戸内海の奪還に続き九州近海へと戦域を広げた時、艦隊のムードメーカーであった漣は、もう、戦場で笑いを見せる事は無かった。

 

 千里眼と呼ばれた少女、彼女は敵を逃す事無く、殲滅する為には戦場を余す処なく見る"目"が必要だと実行に移した。

 

 時には数十を超える敵の位置を正確に捉え、味方にそれを伝達し、全てを尽く沈める為にのみ海を睨んでいた。

 

 

 そんな彼女が戦線から脱落し、新たに生み出された艦娘達。

 

 大本営が横須賀に居を置き、南方へ制海権を伸ばし始めた頃、大本営直下には三つの艦隊が編成された。

 

 一つは攻略の要となる第一艦隊、補助に就く第二艦隊、そして攻略艦隊の最後方に位置し、兵站を防衛しつつも最終防衛ラインを構築する第三艦隊。

 

 長門達が血道を上げ海を切り開いていた頃、祥鳳が居た第三艦隊は後方で別の地獄を見ていた。

 

 橋頭堡を足掛かりに攻める前方は確かに激しい戦いが繰り広げられていたが、後方が安全かと言われればそうではなかった。

 

 物資が十全に回っていなかった当時、強力な艦は前方に回さねばならず、また指揮する母艦もそれより少し離れた位置で陣を張る。

 

 奪取したばかりの海域は不安定で、手負いの深海棲艦も多かったが他方から襲い来る個体もそれなりに居た。

 

 兵站の為に、後ろを取られない様に、しかもそれは軽巡や軽空母という小回りが効くという理由で、実際は消費資源の余裕が無い煽りを受けた編成の艦隊が受け持つ。

 

 既に制海権を獲った艦隊では、最終防衛ラインに勝敗という物はない、守るかどうかだけという認識しかない。

 

 

 前線にありつつも後方という位置で、海域奪取直後という不安定な戦線を維持するには第三艦隊の編成は戦力不足といわざるを得なかった。

 

 だが戦線の瓦解は攻略艦隊の壊滅を意味する。

 

 それを知っていたからこそ祥鳳は敢えて敵に勝つというよりも、現有戦力で防衛ラインを突破されない為の手段を戦いの中で模索していく。

 

 

 後ろを向いている筈なのに前線、しかもバックアップも何もない。

 

 

 だから彼女は航空母艦としての自分の、最良の立ち回りと能力を発揮する為"知ろうとした"。

 

 

 戦場の隅々に居る敵を感知し、敵よりも早く味方に存在を伝え、攻撃を受ける前に攻撃する、それが最良だと。

 

 

 そうした行動は突き詰められ、そして漣とは違った艦種でありながら方向性が同じ考えに至る。

 

 必死に考え必死に戦った結果、彼女は独特の思考を伴う事になり、数々の戦場を経た結果"成れの果て"となった。

 

 

「先ず私達艦娘と前世の艦では、戦い方が違うのは判るでしょ? 人型になって機動力が上がり的が小さくなった、だから航空母艦としてのアドバンテージが殆ど無くなったの、二次大戦末期は航空機の数が戦況を決める切っ掛けになったけど、艦娘と深海棲艦の戦いではそうはならないわ」

 

「え、でも私達は他の艦種達に比べて遠距離から一方的に攻撃できるから有利なんじゃないの?」

 

「狙う相手が嘗ての様に船だった場合はそうね、でも敵も味方も今は人型で、小回りも効けば対象の大きさが段違いに小さくなった、対して攻撃手段はあの当時と同じ機銃に爆弾、そして魚雷、どれもピンポイントで正確な攻撃が必要となる、艦であった頃の命中精度を得られない今に当時を基準にした考えは危険だと思うの」

 

「確かにそうかも知れないけど、それでも前世の優位さが殆ど無いって言い過ぎだと思うんだけどなぁ……」

 

「攻撃の精度を上げてどうにかなるならいいけど、それでどうにかなってる者は極少数の猛者だけよ、確かに努力する事は必要だけど、それ以上に優先する事が私達にはあるわ、特に艦載機の搭載枠が少ない軽空母なら尚更ね」

 

「えっと、なら祥鳳さんはどういう戦い方をすればいいって言うの?」

 

「極論で言えば攻撃は他艦種に任せてもいい、その代わり戦場の状況を掴み艦隊員へ伝え、そして制空権を取って空からの脅威を減らす事を優先するべきね、正規空母ならある程度余裕があるから攻撃へ回す余力があるかも知れないけど、軽空母なら索敵と制空権の奪取で精一杯というのが実情じゃないかしら」

 

 

 祥鳳の言葉に釈然としないまでも、瑞鳳には納得する部分もあった。

 

 だが瑞鶴はなまじ龍驤仕込みの戦い方と理論があった為に、言葉に対して素直に頷けずもやもやした感情が胸を占めていた。

 

 

「せやから言うたやろ、スタンスの違いやて」

 

 

 瑞鶴の表情から考えを読み取ったのだろう、龍驤が苦笑しつつも話に割り込む。

 

 

「うちは護衛対象を抱えて逃げれば勝ち、せやけど祥鳳は戦場を移動する事はできん、前でやっとるドンパチにカタが付かんとどうにもならんのや、いっちゃん後方に()んのに最前線、これが攻略艦隊の実情や、補給も入渠も戦場でできるうちらの艦隊とはちゃうんやで」

 

「ここのやり方は昔から今までを見ても類が無い無茶なやり方だから、ある意味甘えが出ても仕方の無い事だと思うけど……」

 

 

 祥鳳の言葉に今度こそ瑞鶴は不快を示す表情を隠そうともせず、瑞鳳もやや眉根を寄せて姉妹艦の事を見る。

 

 しかしその反応を予想していたのか、一旦羊羹を口にした祥鳳はゆっくりと咀嚼し、茶を含んで澄ました視線を二人に向ける。

 

 

「母艦を中央に据えた貴女達のやり方は確かに継戦力があり、突破力もあるのかも知れないわね、でも」

 

 

 最後に少し睨み、それでも柔らかい言葉で嗜めるように祥鳳は言葉を続ける。

 

 

「貴女達がそうやって万全の体制のまま戦場で戦えるというのは、言い換えれば司令長官の命を危険に晒し続けているからよ、それが悪いとは言わない、でも、自分の提督が死ぬという可能性を常に背負っているという自覚は持っておくべきだと思うの」

 

 

 提督の死という言葉に、二人は頭を何かで殴られたような衝撃を受ける。

 

 実の処二人はまだ吉野の下で攻略艦隊へ編成された事はなく、演習程度しかその布陣で戦った事がない。

 

 故に吉野がやる特殊な戦い方の元で、命のやり取りをするというプレッシャーは経験した事が無かった、だから祥鳳の言葉に返す物が思い浮かばない。

 

 

「そこまで言わんでも一旦出撃()れば嫌でも自覚するわ、変にプレッシャー与えて萎縮させんのはどうかと思うで」

 

「随分過保護になったじゃない、昔はシゴキの鬼だったクセに」

 

「昔とちごうて今は時間が有り余っとるからな、いきなり現場に叩き込んでふるいに掛けるなんて無茶なやり方する時代は終わったんや」

 

 

 他拠点での経験もそれなりにあるズイズイコンビであったが、そこはそれ、祥鳳と龍驤という生え抜きの猛者の前にはまだまだひよっ子でしかなく、更には隣で三杯目のプリンに手を付ける一航戦も、目の前の二人に負けず劣らず猛者という事で、暴論は正論へとすり替わってしまった。

 

 

「そう言えば龍驤」

 

「あん? なんや」

 

「貴女に戦いを仕込んだ鳳翔さんってこの泊地に居るのよね?」

 

「あー、今は一線から引いて小料理屋やっとるけどな」

 

「そう、でも噂の彼女に色々聞けるのは楽しみね」

 

 

 龍驤は思い出した、ある意味自分をライバル視していた祥鳳の中では過度に鳳翔の評価が高い事に。

 

 そしてちょっとウキウキモードに入った祥鳳に、今は異次元居酒屋を経営している、関東炊きをメイン武器とする鳳翔の事をどう説明すればいいだろうかとプルプルした。

 

 

「で、確か漣さんも居るんでしょ?」

 

「あー……今は特務課の内務関係仕切っとるな……」

 

「そう、それは益々楽しみが増えたわね、ふふっ」

 

 

 再び龍驤は思い出した、自身が千里眼と呼ばれるようになってから、祥鳳はある意味漣を崇拝するようになっていた事を。

 

 そしてかなりウキウキモードに入った祥鳳に、今はヒキニート染みた生活をしているイチゴパンツの事をどう説明すればいいだろうかとプルプル度が増した。

 

 そしてどうした物かと前を向くと、色々プレッシャーが掛かったのだろうズイズイコンビもプルプルし、問題解決の突破口という名の生贄には使えない事を確認してしまう。

 

 なればと右を向いたが、そこにはサルミアッキをこっそり食してしまったのだろう、甘味処の主にズルズルとドナドナされていく青いのと、いそいそと前にある食べ掛けのバケツを手元に引き寄せニパーと笑う赤いのを見て、これも駄目だと結論付けた。

 

 こうして本番の着任劇の前に投下された爆弾が西蘭へ着弾もとい二つ名を持つ艦が西蘭へ着任し、戦力の底上げという名の押し付けが完了してしまうのであった。

 

 

 




・誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。
・誤字報告機能を使用して頂ければ本人は凄く喜びます。
・また言い回しや文面は意図している部分がありますので、日本語的におかしい事になっていない限りはそのままでいく形になる事があります、その辺りはご了承下さいませ。

 それではどうか宜しくお願い致します。


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