大本営第二特務課の日常   作:zero-45
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 前回までのあらすじ

 西蘭にまた大量の仲魔(意訳)が増えた、そしてパイパイ要員も揃った。

 多分よしのんの悩みも増える。


 それでは何かご意見ご質問があればお気軽にどうぞ。


2018/07/02
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きましたリア10爆発46様、K2様、坂下郁様、水上 風月様、有難う御座います、大変助かりました。


泊地運営方針と、大本営

「それで? 主殿は今日も時雨の見舞いかえ?」

 

「うむ、その後は工廠の具合を見に行くそうだから、今日は奉行所(執務棟)には戻ってこないそうだ」

 

朔夜(防空棲姫)はタスマン海の南部を見に行くと行ってたが、いつ戻るんだ?」

 

「さてのう、(とも)冬華(レ級)と離島のを連れ出しておるから、もしや西の境界まで見に行くつもりなのかも知れんの」

 

「西の境界って、オーストラリアの西かいな、ヘタに突っついて揉め事にならんとええけどなぁ」

 

「揉め事って……それで済む話なのでしょうか」

 

「その辺りの塩梅は朔夜(防空棲姫)しか判らんしの、帰った時に聞くしかなかろ」

 

 

 西蘭泊地奉行所(執務棟)内。

 

 艦隊本部執務室では長門、龍驤、ウォースパイト、飛行場姫がテーブルに乗った海図を囲んで意見の交換を行っていた。

 

 北方棲姫の庇護にあった者達と大本営から多数の艦娘が西蘭へ着任を果たしてから二週間、現在はそれら新人(・・)の初期教練を行いつつも、絶賛泊地整備の真っ最中にある。

 

 

 旧ニュージーランドである西蘭泊地は南半球に位置し、日本とは季節の移ろいが間逆にあるのと、直近に南極海が位置する為、冬季は対外的な行動が難しい。

 

 状況的にはまだ泊地機能が十全ではない為それらを整備するのに時間を掛け、春の訪れを待って本格的な行動を開始するというのが現在の指針となっている。

 

 

 地理的に言えば南極大陸は海湊(泊地棲姫)のテリトリーの内とあり防衛面での心配は無いが、オーストラリア大陸の西側は別の者が支配する縄張りである為、それに対する備えも必要と思われた。

 

 

 太平洋かそれ以上の深海棲艦が潜むと言われているインド洋。

 

 そこを根城とする"原初の者"は他の海域の長とも繋がりを持たず、更には存在自体が謎とされ海湊(泊地棲姫)ですらその正体は判らないという。

 

 だがインド洋に棲む深海棲艦は他の海域よりも統率がとれ、戦力も厚く、また上位個体の種類も多岐に渡る。

 

 大本営から発表される新種の個体は大抵このインド洋を取り巻く海域に集中し、軍の拠点もその縁を沿う様に配置される現状、恐らくこの海が世界で一番攻略難易度が高い場所なのは間違いない。

 

 

海湊(泊地棲姫)すら知らない者が支配する海域か、確か朔夜(防空棲姫)はその辺りで生まれたんだろう?」

 

「らしいの、しかしその朔夜(防空棲姫)でさえあの辺りの事はよう知らんという話じゃが」

 

「相手がどんなんか知らんのは面倒やなぁ、対策の立てようがないやん」

 

「どちらにせよ冬の間は動きようもないですからね、泊地の基盤はその内に整えておくべきというAdmiralの方針に間違いは無いと思います」

 

「初期教練は香取姉妹と(空母棲鬼)が担当してるんやったっけ?」

 

「うむ、今も絶賛シゴキの真っ最中のようじゃな」

 

「空母施設はまだ稼動には至らんか」

 

「せやなぁ、建屋は大分整ったんやけど、御霊降ろしまではまだ暫く掛かると思うで?」

 

「アークロイヤル達の教練が終われば余力は出るだろうが、船団護衛は暫く水母と水雷戦隊に任せ切りになるな……」

 

「まぁ大坂ん時の経験があるからそう時間は掛からんとは思うけど、取り敢えず七月頭に(やしろ)はどうにかなる、ただまぁ弾薬が作れるかどうかはやってみんと判らんから、生産がムリなん前提で大坂の供給頼りも考えた方がええと思うわ」

 

「それは既に打診してある、来週に大坂からの第一便が到着するから暫くは大丈夫だろう」

 

「物資の枯渇は外様最大の泣き所ですね、弾薬が無ければ何も出来ませんし」

 

 

 ウォースパイトは紅茶を口にしつつも苦い相で長門に答える。

 

 現況西蘭泊地は食料とエネルギー問題は解決しつつあったが、肝心の艦隊運用に必要な燃料と弾薬供給が外部に依存した状態にあった。

 

 

 基本的に艦娘が絡む行動に必要な物資は、開発・改装・修復に使用する鉱物と原油、生態を維持する為の糧食、そして戦闘に必要な弾薬である。

 

 その内弾薬はオカルト的な事象が絡む為、物資があっても生産が出来ないという事情がある。

 

 この部分は取り敢えず大坂に頼る事になってはいたが、同時に西蘭でも生産できないかと龍驤は空母施設群の整備に注力していた。

 

 そして原油だが、当面は豪州とインドネシア方面に依存しつつも、実は西蘭北島沖のタラナキ海盆に海洋油田の設置が検討されており、メタンハイドレート関連の油田開発が落ち着き次第着手する予定であった。

 

 一応試掘では原油の採掘は可能との結果が得られた為、原油関係は取り敢えず自前で賄える算段となるが、それは対外関係に関わる問題なので今暫くは秘匿する方針となっている。

 

 

「鉄もボーキも採掘は可能だが、そちらは南島に集中しているので設備の整備は冬が終わる九月以降になるな」

 

「南島は冬になると極寒……というより氷の世界になるという事ですしね……」

 

「まぁ問題はやっぱり弾薬やね、それが自給可能で漸くウチは自立できると言えるし」

 

「わらわ達は燃料と諸々があれば事足りるからの、でも体内で生成するには時間が掛かるし、それを考えれば弾薬はあった方が無難と言えるかの」

 

 

 無い無い尽くしから始まった泊地運営は、全てを自拠点内で賄うという目標を掲げつつも大体の目処は立った。

 

 しかし肝心の弾薬がどうなるか判らないという不安と、未だ戦力不足に加え、インド洋側に存在する勢力が不明という大きな問題を抱えたまま、冬の間に一つ一つ問題の解決に動く事になっていく。

 

 

 西蘭島を取り巻く問題は季節の移り変わりと同じく、六月から八月の冬季は内需に、九月から十一月の春には関係各所との同調を、夏になる十二月から二月には諸外国と徐々に関わる期間。

 

 吉野が計画した初年度の動きはそういうタイムスケジュールとなり、泊地設置から三年を目処に積極的に動くという指針の元、暫くは活動を続ける予定となっていた。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「で、まだ本調子には程遠い感じなのかな」

 

 

 泊地医局地下二階。

 

 研究施設も兼ねた集中医療施設の一角には、時雨の治療用に充てられた病室があった。

 

 部屋を出なくても良いように各種の機器が設置されたそこは、逆に言うと精神的な癒しが少ない部屋になっており、それを気遣って髭眼帯を始め他の者も時間が許せば面会に訪れていた。

 

 が、現在の治療は白血病治療に於ける造血幹細胞移植と同じプロセスにあり、空間を無菌室と同じ状態で保たなければならない。

 

 故に他者が部屋へ入る必要のある面会は厳しく制限された状態にあった。

 

 

 しかもその治療は週に一度は行われる、言ってしまえば常時血中の細胞を全て殺し、移植される細胞の定着を促すという治療を繰り返し施す為、その間は体の抗体はほぼ無になり、激しい倦怠感と苦痛が伴う事になる。

 

 

『お肉が食べたい、寧ろ自分で狩って捌いて焼いてムシャーしたいかな』

 

 

 そんな隔離された空間に長期間居る事に精神が疲弊しないよう、ハカセと電が打った手は、室内を外部と完全に遮断しつつも人との接触が可能な形にする為、壁面の一部に大きなガラスをはめ込み、外部の者と会話が可能なよう通話機器を設置するという特別な設備を整える事であった。

 

 ビジュアル的には、治療でちょっと疲れた時雨がピンクの病人服を纏い、ガラス窓の向こうにシッダウンし、こちらと会話するという。

 

 要するに刑務所で服役中の囚人が面会に来た者へ、やさぐれつつクダを撒くというアレなビジュアルがそこに展開する的なメーな世界があったりした。

 

 

「いやまぁそれムリと言うか、寧ろ食欲はちゃんとあるの?」

 

『固形物だと吐きそうだから、ゼリーをジュルッと啜る感じ……』

 

「ジュ……ジュルっとかぁ……そっかぁ」

 

『味は電ちゃん監修のフルーツ味がメインなんだ』

 

「あー……まぁ彼女は果物のエキスパートだから、その辺りは色々楽しめそうだよねぇ」

 

 

 ガラスの向こうのやさぐれた時雨は髭眼帯の言葉に深い溜息を吐きつつ、テーブルの上にパタパタと何やら銀色のパックを取り出し、それらをズズイとガラスの前に押し出してくる。

 

 

 こういうゼリー食品にありがちなバナナ味から始まりイチゴ、メロン、オレンジとカラフルかつ味の想像ができそうな写真が張られたブツがそこにズラっと並ぶ。

 

 

「ふむ、定番のフルーツが色々となら……んで……」

 

 

 それらに続き、無機質な銀色のパックに謎のフルーツ(?)の写真がプリントされたブツが次々と追加されていき、次第に髭眼帯の表情は怪訝な物へシフトしていった。

 

 

『これが一昨日渡されたドリアンinゼリー』

 

「え~……ドリアンてぇ……」

 

『こっちが昨日の朝食に出たドコンinゼリー』

 

「ドコンってナニィ? それ果物なのぉ?」

 

『その日の晩にはこのジャボチカバinゼリー』

 

「……ごめん、提督フルーツ系の知識は疎くて味が想像つきません……」

 

『兎に角電ちゃんによれば入院してる間に出るフルーツゼリーって、毎回違う物を出すのが目標みたいなんだよね』

 

「治療よりもそっちに力入れてない!? なにしてんの電ちゃん!?」

 

『マンゴスチンとかグァバとか名前は聞いた事あるんだけど、正直味が想像出来ないから毎回ドキドキするんだよね……』

 

「あーそれは、うん、まぁ……確かにそうかも……」

 

『一番地雷だったのがドリアンよりレモン、物凄くすっぱくてどうしようかと思ったよ……』

 

「え、レモンてそのままの味なんだ……」

 

『いつかそういう需要があるかもって開発したみたいだけど、取り敢えず艦娘って妊娠の心配が無いからいらないと思うんだ』

 

「あー……そっかぁ、うん、そういう方面を考慮してレモン、なる程……うんまぁ、えぇはい……」

 

『ただモーモーを狩ってタンを料理した時、このゼリーはジュレっぽく使えるかなとも思うんだけど、提督どう思う?』

 

「いえ、提督にジビエ的な事を問われてもジャストな答えは出せないと思います」

 

 

 髭眼帯は思った、時雨が今やさぐれているのはもしかして治療疲れではなく、こういう謎フルーツに対する気疲れなのではなかろうかと。

 

 

『まぁでも治療は進んでるって実感はあるからまだ我慢はできるんだけど……』

 

「あ、そうなんだ」

 

『うん、ダルいのはダルいんだけど、最近は体の自由は効くし、血液の入れ替え頻度が伸びたから』

 

「ふむ、ハカセからは後一ヶ月を目処に集中治療を行うって聞いてるけどね」

 

『らしいね、でもそこからもう少し経過観察が必要らしいし、普通にごはん食べれるのはその辺りになるのかな』

 

「かも知れないねぇ、まぁ回復したらお祝いに食事のリクエストを聞こうと思ってたんだけど、何か食べたい物とかない? 例えば餃子とかさ……酢にコショウを入れたタレで食べるのとか」

 

『それってどこの孤独のグ〇メなのかな』

 

「じゃ、パタンとか」

 

『だから何で孤独の〇ルメ? いやそんなの食べたら病室がニンニクの匂いで酷くなっちゃうし』

 

「んじゃ時雨君的には何が食べたいのよ」

 

『食べたいという欲望以前に狩りたいという欲求がセットだからね、まぁ強いて言えばウェンカムイ(人食いヒグマ)をチプタプした鍋か、最初は胃に優しくヘルシーにオソマ(自主規制、この場合味噌)味のキナオハウ(野菜鍋)がいいかな』

 

「そこで提督に対抗してゴー〇デンカムイのネタを投下するのはどうかと思うんだけど」

 

『え、ネタじゃないよ? でも名称は神威さんに教えて貰ったという建前なんだけどね』

 

「建前とか言わない」

 

 

 時雨は髭眼帯とプライベートを過ごす事が長く、一時期ハマっていた孤独のグル〇のネタとか振られるとツッコミが出来る程趣味嗜好が被り気味という困った状態にあったりもしたのであった。

 

 因みに髭眼帯は某孤独〇グルメフリークであり、時雨は狩人的にハマってしまったゴールデン〇ムイ大好き艦娘であった。

 

 

「匂いと言えばこの前†黒炎を纏いし堕天使† 白夜丸にペッってされてえらい目に遭ったよ」

 

『え、†黒炎を纏いし堕天使† 白夜丸ってなに?』

 

「あー、アイオワ君が牧場で飼育してる騎乗用に特別調教したアルパカなんだけど」

 

『あのアルパカ乗れるようになったんだ、凄いね……』

 

「え、時雨君知ってるの?」

 

『うん、夕立に色々聞いてたから、でもペッってされたとか大丈夫だったの? かなりクサいって聞いたけど』

 

「まぁねぇ、そもそも榛名君に引っ張られて巻き添え……え、時雨君どうしたの?」

 

『巻き添え……引っ張られた? ……それで? 提督その後どうしたの?』

 

「ん? あぁまぁ匂い落す為に風呂で一時間近く……」

 

『混浴で?』

 

「う……うん、水着着用で露天風呂……に」

 

『ふーん、そっかぁ、うん、判った、それじゃ色々通達しておかないといけないね』

 

「つ……通達? ナニを?」

 

『公序良俗についての色々諸々かな?』

 

「色々ぉ? ……諸々ぉ? ……」

 

『そ、色々諸々』

 

 

 こうして毎日ではあるがとても短い面会が終了すると同時に色々諸々が処され、泊地の公序良俗が影で保たれているのを髭眼帯は実は知らない。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「それで? 今回大隅君が推し進めようとする案がこれかね?」

 

「ですね、戦力再配置とレンドリースを確実に定着させるには、多少強引であろうと内地のみならず外地の拠点にも協力して貰わなければ難しいですから」

 

 

 大本営執務棟最上階。

 

 元帥大将坂田一(さかた はじめ)の執務室には軍令部総長である大隅巌(おおすみ いわお)が詰め、其々難しい相を滲ませてテーブルの上に広げる書類に視線を落としていた。

 

 それには「戦力異動時の命令条項の変更と追加に於ける草案」というタイトルと、対応する条項が箇条書きされ、その下には説明とおぼしき記述が続いている。

 

 

「現状まだレンドリースに対応する戦力再配置は始まったばかりですが、これから三年程を掛けて軍全体の体制を整えるつもりでいます」

 

「草案の内容が実行されれば内地だけではなく、ある意味制海圏に広がる全ての戦力に大本営が直接介入する事になる、と、こういう事でいいのかね」

 

「そうですね、基本的に大方の形が整うまではこちらの主導で、レンドリース艦が行き渡った時点で各方面軍の差配に委ねるつもりでいます」

 

「……基本的には今までの指示区分に、強制力を持つ最上級命令を一つ追加すると」

 

「今までは拠点の司令長官しか持たなかった艦娘の強制異動権を、大本営も持つ形にするつもりです」

 

 

 現在の軍の指揮系統は、大本営を頂点とし、内地では鎮守府とその管区にある拠点という形で整備されている。

 

 またそれとは別に、インドネシア方面軍、オセアニア方面軍、北部方面軍と大雑把な外地の区分がされている。

 

 

 インドネシア方面軍は一応リンガ泊地司令長官の斉藤信也(さいとう しんや)少将が取り纏めを努めるが、未だ旧鷹派の勢力が幾分か影響を残した状態であり、色々と混沌とした形で支配海域の維持に努めていた。

 

 次に日本から北への狭いエリアを差配する北方方面軍であるが、ここは専守防衛の色が濃く、実質大本営から抽出する戦力と、中小の拠点が常備軍として配置されるが、鷹派の瓦解と共に取り纏める人物が今は無く、現在人員の選定が進んでいる状態にあった。

 

 そしてオセアニア方面軍。

 

 ここは最前線をクェゼリンとした橋頭堡を置き、呉が大まかな差配をしつつも、実質トラックやラバウルという中堅の拠点が防衛網を敷く海となっていた。

 

 しかし吉野が海湊(泊地棲姫)と邂逅し、最前線がオーストラリア南方のタスマン海まで至った結果、支配海域というより海湊(泊地棲姫)のテリトリーを一部間借りするという特殊な形になってしまった。

 

 これに対し軍部は内地を飛び出し西蘭島(ニュージーランド)へ居を移した吉野を海上護衛総司令部司令長官という肩書きを持たせ、海域の代表者とした。

 

 が、実質オセアニア方面軍と言っても、影響範囲は精々西蘭島からソロモン海までの南北へ続く細長い航路だけに留まり、実質的には吉野が海湊(泊地棲姫)と邂逅して得た範囲が担当という形であると言っても良い。

 

 

 日本海軍の戦力分布で言えば、相変わらずインドネシア方面からヨーロッパまでの制海圏維持に殆どつぎ込まれ、内地の防衛は厚くとも数としては南洋が上という話になる。

 

 つまりレンドリースの対象になるべき小型艦の殆どはインドネシア方面軍の協力がなくば苦しいという事情が絡み、今回大隅は戦力差配の要である艦娘の異動権に介入する新たな仕組みを形作ろうとしていた。

 

 

「艦娘への異動は確かに艦政本部から発布される物ですが、基本的に強制力が働くのは大本営から拠出した戦力のみ、現地で建造され運用している艦娘の異動には拠点の司令長官の認可が必要となっています」

 

「うむ、加えて艦娘本人が拒否した場合、大本営からの召還命令は無効になるね、これは現地と内地に於ける軋轢を防ぐ為、君自身が制定した仕組みだったのではなかったのかね?」

 

「ですね、実際それまでの上層部は最前線の事情を無視し、やりたい放題でしたし、現場と軍部との関係は最悪でした」

 

「耳が痛いね、私はあの当時政治士官として押し込められていたし、鷹派の戦力が無くばインドネシアからの資源は日本へ運べなかっただろうから仕方が無いと言えば聞こえがいいが、実質最前線は使い捨て戦力と言われても良い扱いをされていたのは事実だったからね」

 

「無理して戦線を押し上げ、マレーシアとシンガポールを押さえたのも、斉藤へ海域の指揮権限を与えるという餌があったからこそです」

 

「まぁ君が当時の第一艦隊を指揮して海域を平定したのも現地の指揮官から信頼を得る一助となった訳だし、彼が君との関係を重視しているのも判る話なのだが、良いのかね? 今回の件は彼との関係を悪化させる切っ掛けにはならんかね」

 

「その辺りは現在フィリピン辺りを押さえている旧鷹派の人事を少し調整し、ベンガルからアラビア海の航路維持に注力できる環境を整えるという条件で話はつけてあります」

 

「あぁ、それで北方方面は旧鷹派の者達を置く事にしたのか」

 

「大本営からの戦力供給が絶たれた今、彼らの台所事情も逼迫(ひっぱく)しておりますし、閑職と言われようとも内地に絡む海域を丸々任せてもらえるなら、各方面と関係を繋ぎ力を溜める事が可能になるやもという考えに至ったのでしょう」

 

「その辺りも既に君は押さえているんだろう? 中々えげつない差配をするものだ」

 

「ヤツらもそれは承知していますよ、それでも外地に押し込められているよりは内地に根を張って可能性に賭ける道を選んだのでしょう」

 

「で、最大勢力である南洋を抱き混んでこれ(命令権の追加)を進めるのか」

 

「さっきも言いました通り、強権を発動して戦力配置に介入するのはレンドリース艦が行き渡るまでです、以降は今までと同じく現地の運用に任せますよ」

 

 

 数々の段取りの末に大隅が推し進めようとしているのは、外地を含む軍の全拠点に於ける戦力配置の権限、つまり大本営から命令されれば最前線に配置されている艦娘達が異動を拒否しようとも、それを強権で可能にするという命令権の設置であった。

 

 それが成された場合、前線の都合はある意味無視され、防衛も攻略も変更を余儀なくされてしまう可能性も出てくる。

 

 言い換えればそれまでしてきた制海圏の維持にも多大な影響を及ぼす事になる、それも現場に負担を強いる形で。

 

 故に現場からの反抗も予想され、暫く上層部はそれの対応に追われるだろう。

 

 しかしそれでも事が成った場合、結果としては戦力の底上げと運用に余裕が出るという予想が一応あると大隅は喧伝していた。

 

 だがその建前とは別に本音で言えば、漸く繋がりが強固になりつつある他国との関係を重視した政府筋からの強い要望に応えた結果、大隅は大規模な刷新に着手するほかはなく、やや強引ではあったが今回このような手段を執る事になった。

 

 

「しかしこの話を通す為に西蘭の名を利用するかね、吉野少将なら納得はするだろうが、借りを作った場合は後始末が怖くて私にはできんよ」

 

「坂田さんならそうでしょうが、俺にはまだヤツに貸しが幾つかありますからね」

 

「だがダシに使われた樽川(たるかわ)君は、今回一番貧乏くじを引く事になってしまったなぁ」

 

「鷹派が駄目ならとインドネシアの富裕層と繋がって自分の王国を作ろうとした結果ですからね、まぁ自業自得と諦めて貰いましょう」

 

「確かティモール海周辺の防衛を厚くする為に東ティモールに新たな拠点を設置するとかで、彼の進言からパラオの戦力を抽出したんだったか」

 

「艦政本部の認証は受けてますから行動自体は軍部から出た正式の物と言えます、ただティモール海は豪州までの航路の要ですから元々斉藤が押さえてますし、今更ヤツが拠点を置いても周辺国からの支持は得られんでしょうなぁ」

 

「しかも西蘭へ送る為と打電した戦力抽出命令をティモールの拠点配置の為にと断ったというのを利用して、今回軍令部は強権を発動する軍令を作成するとなれば、もう彼は前線の者達からも疎まれる事になってしまうだろう」

 

駆逐艦(神風)一隻と海防艦(占守)一隻、それの異動拒否をした代償が身の破滅、まぁ表向きはこうなりますね」

 

「まぁ西蘭という名が絡めば、今はこんな無体な話も通ってしまうんだろうね」

 

「西蘭は実質軍令の外にありますし、ここまで色々迷惑も掛けられましたから……こういう時には役立って貰わないと、ですよ」

 

 

 かなり悪人顔という表現が出来そうな笑いと共に茶を啜る大隅に、苦笑で応える坂田。

 

 元々西蘭へ事前に伝えてあった艦娘の一部は、大隅が主導する企みに組み込まれ軍部の改革に利用されていた。

 

 その穴埋めとして予定していた以上の戦力を送るという形で海外勢の艦娘を増員したが、実はその差配も元々は欧州連合より打電され続けていた事で、いつか送るつもりの戦力を単に前倒しして送ったという裏事情が絡んでいた。

 

 つまり今回大隅は目障りな勢力を潰しつつも自身の推し進める話に利用し、更には元々そうする予定だった戦力異動も行い西蘭の名前を利用するばかりか、作れる筈もない貸しを作る事にも成功した。

 

 こうして西蘭は力を溜めるために粛々と内需の整備を整えている傍ら、軍では外堀を埋めつつ強固な体制を整えるという形で変化の途上にあった。

 

 

 




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・また言い回しや文面は意図している部分がありますので、日本語的におかしい事になっていない限りはそのままでいく形になる事があります、その辺りはご了承下さいませ。

 それではどうか宜しくお願い致します。



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