大本営第二特務課の日常   作:zero-45
<< 前の話 次の話 >>

287 / 310
 前回までのあらすじ

 泊地の生活基盤を整えちゃうよプロジェクトの概要があきらかに。

 そして大本営の腹黒オヤジ達。


 それでは何かご意見ご質問があればお気軽にどうぞ。


2018/07/11
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きましたK2様、じゃーまん様、有難う御座います、大変助かりました。


広がる世界と収束していく粒子

「海図だと丁度この辺りがテリトリーの境になるわね」

 

「ですわね、確か情報ではウィンディハーバー辺りから向こうは緩衝海域になっているらしいですから、右に大陸が見えてるならまだこちらのエリアから出てないと思いますわ」

 

 

 オーストラリア西南ウィンディハーバー沖15海里。

 

 冬華(レ級)と離島棲姫を僚艦として、朔夜(防空棲姫)海湊(泊地棲姫)が支配する海域の西端付近の偵察に来ていた。

 

 大陸の南側は緩やかに孤を描く形で張り出す形になっており、縄張りとしての線引きがされた部分は実は曖昧な状態になっている。

 

 実質的な西端と言うならオーガスタ辺りがそうなるが、陸の形状から張り出したその部分はやや北方向に食い込み、またその周辺はインド洋と区分されている。

 

 また南側を優先し、そこから最西端を導き出すと西オーストラリア州のウィンディハーバと言えなくもない。

 

 

 この曖昧な線引きは海湊(泊地棲姫)とインド洋を支配する者がある意味互いにぶつからないよう設定し、先にも上がった西オーストラリア州のオーガスタ───ウィンディハーバー間南部の海は、どちらが踏み込んでも問題は無いが、戦闘行為は自粛するという暗黙の了解があり、緩衝海域として存在する。

 

 

「このままギリギリまで進んじゃってもいいけど、噂では潜水タイプの者達が監視の網を張ってるらしいから迂闊な事はできないわね」

 

「でも一方的に見られてるというのは余り良い気がしませんわね、やはり威嚇の意味も込めて軽巡棲鬼も連れてきた方が良かったのではありませんこと?」

 

「って言うかボーちゃん、何でボク連れて来られたの? 今回は戦わないんでしょ? ならこんな面倒な事やりたくないんだけど」

 

「何言ってんのよ、冬華(レ級)は一応『海洋設備警備隊長』って役に就いてるんだから、ここらのややこしいテリトリーの事は覚えとかないといけないじゃない」

 

「え~ ボク泊地でじっとしてるのヤだったから外回りを希望しただけだよ? なのにいつの間にか変な肩書きついちゃってるしさ、面倒だなぁほんと」

 

 

 現在西蘭泊地は旧ニュージーラント北島の北端付近、ファームオブテムズ湾周辺を拠点と定め、整備の真っ最中にあった。

 

 しかし独立した拠点として全ての物資を賄う為、資源採取の施設は北島内に留まらず、主要部分は海洋プラントを設置して対応する計画となっていた。

 

 艦娘達はオーストラリア西側航路の護衛任務に充てられており、また派閥拠点の有事に備えていつでも動ける戦力は常時揃えておかなければならない。

 

 その関係上、万が一の時でも潜水が可能な深海勢が海洋施設の警備に充てられ、比較的古参かつどのような事態にも対応可能な冬華(レ級)がその責任者に任命されていた。

 

 

「最初は縄張りを見回っておかしなヤツが居たら殺っちゃう簡単なお仕事って聞いたからさ、それならいいかって受けたのに」

 

「その認識で間違いないわよ? 現場は冬華(レ級)、実務は静海(重巡棲姫)担当だし、面倒なんか無いじゃない」

 

「そうですわね、ただ冬華(レ級)さんは回遊する縄張りをちゃんと把握してないといけないって事で、今回は呼ばれたんですのよ?」

 

「そう言われちゃうと何も言い返せないんだけどさ」

 

「定期的に榛名や武蔵と模擬戦をさせて貰ってるんでしょ? 鬱憤はその辺りで発散しなさいよ」

 

「大坂の時より遠慮はいらない分だけマシなんだけどさ、こう……模擬弾だと今一つ燃えないって言うか……」

 

「はぁ……本当に生粋のバトルジャンキーなんですのね」

 

 

 右側には微かに見える大陸。

 

 外洋特有の色が濃く高波が常のそこは、晴天で穏やかな空とはやや掛け離れた、荒れた海だった。

 

 西蘭泊地麾下を示す濃紺の外套を靡かせつつ、三人は緩やかに防衛ラインを南下し、陸が見えない辺りで航行速度を落として再び周囲の警戒に入る。

 

 

「……散策はこの辺りまでが限界かしら?」

 

「ですわね、観測機器の準備もしていませんし、陸が視認出来なくなってしまったら現在位置の確認が困難になりますわね」

 

「今度は潜水艦達にも手伝って貰って、海底の地形把握も同時進行でやった方がいいかも知れないわね」

 

 

 安全に確認できる範囲を見終え、朔夜(防空棲姫)と離島棲姫は今後の方針について意見を交換しつつ、帰投の為の準備を始める。

 

 

 相変わらず海と空の剥離が激しい南の海域。

 

 深海棲艦としての位置認識能力を駆使して潮の流れに逆らい、微速で回頭を始めたその時。

 

 

「……ボーちゃん」

 

「なに冬華(レ級)? ……へぇ」

 

 

 まるで何かの匂いに感付いたような仕草で冬華(レ級)が西の海を睨めば、それに続き朔夜(防空棲姫)がニヤリと口角を上げ、離島棲姫が眉を顰める。

 

 

 深く青い波が連なる遙か向こう。

 

 ただ波がだけしかないように見える海原。

 

 

 身体の至る処から針鼠が如く砲を生やし。

 

 白い髪は、左右に纏まって流れる

 

 両手の先には漆黒の鉤爪が、海を蹴る足元は聖獣麒麟の如く揺らめく造形にも見えるそれ(・・)

 

 

「随分と珍しいのが現れたわね、見たところ単騎みたいだけど」

 

「……ヤな感じがするよ、多分潜水級を幾らか従えてるね」

 

冬華(レ級)がそういうなら多分そうなんでしょうね、今のメンツで対潜がまともに機能するの貴女だけなんだけど、今回はそういうのが(・・・・・・・)目的じゃないから」

 

「どうやらあちらさんもそういう感じではなさそうですわね」

 

 

 波の頭を蹴るように移動し、見る間に声が届く処まで来たそれ(・・)

 

 

「変な奴らがきたって聞いたから見に来たら、何? どこのハグレ? まさか姫級が海域のコッパ(・・・)なんてしてないわよね?」

 

「顔見知りでもないのに随分な言い草ね、まぁコッパって部分は当たらずとも遠からずだけど?」

 

「……はっ、防空棲姫をコッパとして使えるヤツが居る? 悪い冗談だわ」

 

「そういう貴女こそ、こんな縄張りの外れにまで様子を見にくるなんて、随分とお仕事熱心なのね、南方棲鬼さん?」

 

 

 彼我の距離は互いの表情が伺える程に近く、友好的ではないにしても、取り敢えずは腹の探り合いと判る言葉が其々に向けての第一声だった。

 

 

「と、言うか貴女が居るそこって、こっちのテリトリーに足を踏み込んでるんじゃないの?」

 

「……こっちの?(・・・・・)、なに? アンタ泊地棲姫の一派なの?」

 

「違うわよ、ただ泊地棲姫のテリトリーに間借りして拠点を置いてるの」

 

「……何だかややこしい事言ってるわね、ああそう私が今立ってる位置、まだギリ緩衝海域の内側だから、邪推される謂われはないわよ」

 

「あらそうなの? 随分とはっきり言い切るのね」

 

「そりゃそうよ、私は南東方面軍が設立されて以来ずっとこのエリアを任されてきたから、海の上も中も下も手に取るように把握してるわ」

 

「……ふーん、なる程、潜水級が常に海底の地形を読んでて、都度位置情報を貴女に伝えてる訳ね」

 

 

 平然と交わされる互いの言葉。

 

 虚勢染みた顔の裏には、『南東方面()』という名称に訝しむ朔夜(防空棲姫)と、正確な位置把握のカラクリを看破された南方棲鬼の驚きが隠されていた。

 

 

「泊地棲姫のテリトリーに間借りして巣を作ってるという事だけど、この辺りに棲むつもりなの?」

 

「違うわ、ここからずっと東、ニュージーランドって言われてた処に拠点を構えてるの」

 

「……拠点? 地上に? これはまた変わった事をするもんね、まぁ泊地棲姫もそういう感じらしいから不思議じゃないのかも知れないけど」

 

「ふーん……軍を組織してる割りには末端まで情報が共有されてないのね、一応こっちも軍って形で居を構えてるから、周辺海域がどうなってるか把握しておく必要があるのよね」

 

「軍? 誰かのテリトリーを間借りして? なにそれ随分珍妙な事になってるじゃない」

 

「まぁウチはテイトク麾下私達姫鬼の軍団と、艦娘で編成された混成軍団だから確かに珍妙と言えば珍妙ね」

 

 

 煽り言葉が多くなりつつある場に投下された言葉。

 

 朔夜(防空棲姫)が口にしたそれは、南方棲鬼が思わず「は?」と言葉を漏らし、唖然とさせる程には衝撃的な内容だったに違いない。

 

 その反応を見て朔夜(防空棲姫)は薄い笑みを見せつつも、頭の中では状況を整理し始める。

 

 

 インド洋を中心とした海域は、他海域に居る同族の間でも深部にいく程謎とされ、また猛者も多いと言われていた。

 

 朔夜(防空棲姫)自身もその辺りを渡った経験があったが、それでも陸側に近い海域を渡るのが精々で実態は殆ど掴んでいなかった。

 

 そんな海域には組織的な戦闘集団、しかも「軍」と称する物があると聞き、少なからず警戒度を高めつつある。

 

 

 内心を言葉にすれば、南方棲鬼の反応を見て安心半分、警戒半分という感想といったところだろうか。

 

 

 深海棲艦を麾下に置く人間、詳細は知らなくてもそんなありえない集団が存在するとすれば、深海棲艦の生態から考えれば普通その辺りは大なり小なり知られているのは普通と言える。

 

 物理的な繋がりがなくとも、下位個体を通じて情報というものは敵味方問わずジワジワと拡散していく、ある意味情報というものは深海棲艦全体で共有していると言っても良いというのが彼女達の常識である。

 

 だが幾らテリトリー外とはいえ海域を接した近くにそんな存在が居る筈なのに知らない、これは「軍」という組織運営上致命的な状態にあるとも言えるだろう。

 

 故に組織力、特に情報伝達と対策面に於いて、少なくとも南方棲鬼の言う「南東方面軍」という組織は欠陥を抱えていると朔夜(防空棲姫)は読む。

 

 

 但し、本来伝達していくのが普通の情報を意図的に遮断する仕組み、若しくは規律がインド洋海域の深海棲艦達には徹底されている。

 

 それは本能と言える部類に関わってくる為、押さえるのは生半可な事では成し得ない。

 

 

 そういう意味では有体がどうであろうと、統率面では相当に強固な統制がされていると考える。

 

 つまりインド洋では集団を「軍」とし、差配するシステムが確かに存在しているのはほぼ確定であるとも言えた。

 

 

 深海棲艦にjobという概念はない。

 

 人間のように戦闘員と非戦闘員という形の存在を分ける生態がそもそも存在しない。

 

 存在するそれら全てが戦闘員であり、戦う為にそこに居る。

 

 つまりインド洋で「軍」という縛りが存在するなら、そこに居る深海棲艦全てが統率された戦闘員と同義である。

 

 攻めるも守るも軍略のみの状態であり、守るべき非戦闘員が存在しないそれらは想像以上に恐ろしい集団であるのは間違いない。

 

 

「……今聞いた事をそのまま受け取れば、アンタは人間の支配下に入り、艦娘と共同戦線を張っているって事になるんだけど?」

 

「それで間違いないわよ? 私を筆頭に全員ちゃんとテイトクの『麾下』に入ってるし、艦娘と我々はその人間の下で戦ってるわ」

 

「ありえない、人間が我々を麾下に……生態上そんな事は不可能よ」

 

「でも実際そうなんだから仕方ないじゃない? ついでにその人間って泊地棲姫の(ともがら)認定されてるから、だからこっちのテリトリーを間借りできてるって訳」

 

 

 眉を顰め、考える素振りを見せる南方棲鬼。

 

 ありえないと言い放ちはするものの、可能性や状況を頭の中で整理しつつ答えを出そうとしているのだろう。

 

 その有様にも朔夜(防空棲姫)は普通の深海棲艦には見られない、ある種の違いを感じた。

 

 

「貴女が「軍」という組織下にあるなら確認してみればどう? 幾ら何でもこんな話がまったくそっちに伝わってないなんて事はないでしょうに」

 

「……確かにそうね、それで? 人間の麾下に居るアンタはこんなとこまで何しにきたの? 幾ら上位個体と言ってもここで戦端を開くには展開してるウチの戦力に対して相性が悪過ぎると思うけど」

 

「別に喧嘩を吹っ掛けようなんてこれっぽっちも思ってないわよ、寧ろウチのテイトクって可能なら深海棲艦とも付き合いを深めたいって変わり者だから、あ、そうだ、貴女からもそっちのお偉いさんに伝えておいてくれないかしら? 隣に引っ越してきた人間の指揮する軍団はそちらと仲良くしたいと思ってるって」

 

 

 サラリと口にしたそれらは、深海棲艦という存在が言うには余りにもありえない内容であった。

 

 だが、今南方棲鬼が対している存在は防空棲姫。

 

 普通に泊地を歩き回り、普段は馬鹿な事をしているというこの存在は、深海棲艦という種の中でいえば間違いなく上位から数えた方が早い存在である。

 

 種別は駆逐艦とされているが、並の戦艦級辺りなら片手間で手玉に取ってしまうとされるバケモノ、そして悪名を轟かせていながらも世界に五人と存在しない処から謎多き個体とされていた。

 

 

 そんな者が口にする話は、妄言と切って捨てるには衝撃的で、本当ならば重要な物だと南方棲鬼は判断した。

 

 

「……そうね、まぁ言うだけ言っておいてあげるわ」

 

「ありがと、それじゃ取り敢えずこっちは引き上げるわ」

 

「こちらもそうさせて貰うわ」

 

 

 こうして冬のオーストラリア沖での邂逅は互いの存在を示す事で新たな局面を迎え、ジワジワとであったが、それまで謎とされてきたインド洋の実態を垣間見せていくのであった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「さぁここが新たに完成した西蘭泊地大工廠、ν(ニュー)夕張重工です」

 

 

 西蘭島、旧称ワイタカルル川とピアコ川に挟まれた松浪港。

 

 暫く仮設状態だった倉庫群は物資を泊地の内側に整備した備蓄倉庫へと移したことで整理され、広大な港湾施設は要塞染みた防衛設備を内包した軍港へと様変わりしていた。

 

 そんな港の中央、低層階建ての建造物でありながら10,000平米の面積を持つそこは、シンプルでありながらも重厚な建物であり、湾を睨むオブジェクトとして存在していた。

 

 

「この工廠は平時に於いては泊地から電力供給を受けていますが、屋上には試験的に太陽光発電施設が設置され、地下にも超巨大蓄電施設が内包されていますので、有事の際でも十全に稼動させ続ける事が可能となっています」

 

 

 夕張の言に、案内されている髭眼帯の表情は怪訝な物になっていた。

 

 目の前に見えるは「夕張重工」と書かれた巨大な鉄の扉。

 

 開口幅200m、高さ30m。

 

 一般的な国際空港に設置される格納庫を基準とし、有事の際は航空機を格納する他、一部には水路が引き込まれ、整備の為に船が入ればその部分の屋根は開放、水路の海水が排水されて乾ドックとして機能する仕組みとなっていた。

 

 

 つまり今髭眼帯の前には、幅200m、高さ30mの巨大な扉にデカデカと書かれた「夕張重工」の文字が見えているという事になる。

 

 

「……なんかこれデカ過ぎない? どう見ても大本営の海軍兵器工廠より大きい気がするんだけど」

 

「そうですねぇ、単純面積だけでも大工廠(海軍兵器工廠)の三倍程はありますけど、附帯設備も纏めてますから、規模という事で言えば同じ位だと思います」

 

「軍の中核を賄う大工廠と同程度って一体ここは何を目指してるのか提督聞いていい?」

 

 

 怪訝な表情のままの髭眼帯の言葉に、夕張はチッチッチツと人差し指を立てつつドヤ顔で工廠の説明を続ける。

 

 

「何言ってるんですか提督、規模は同程度ですけど内包される設備や扱う技術、それに防衛力は大工廠なんかにひけは取りませんよ?」

 

「……防衛力?」

 

 

 工廠という設備に関係がありそうで実は遠い要素に髭眼帯は怪訝な相を更に深め、嫌な予感メーターがピコンピコンと警鐘を鳴らし始めたのを感じる。

 

 

「はい、幸いにして地熱発電所から供給される電力は、泊地が完全に整備されたとしても余剰があると試算されています、ですのでそれらを各所に設置している蓄電設備に回しつつ、有効活用する計画をしていまして、その一つが松浪港の防衛の要となるレールガン! 工廠にも十二門のレールガンが設置されています」

 

「レ……レールガンて」

 

「更に小型陽電子砲も完備! これで細やかなカバーも可能となりましたっ!」

 

 

 夕張の言葉と共に、ゴンゴンゴンと巨大な鉄扉が開いていき、中から数名の者がザッシザッシと歩いてくるのが見える。

 

 ゴツい鉄の箱を背負い、そこには工廠奥に続くケーブルが接続される。

 

 

「ふふっ、まさかこんな超長距離兵装を扱う時が来るとは、胸が熱いな」

 

「提督! 改装航空母艦、伊勢。全通飛行甲板で参ります!」

 

 

 艦隊総旗艦の長門型一番艦のサ〇サリスと、伊勢型一番艦のサイサ〇スである。

 

 

「ガ……ガ〇ダム試作2号機」

 

「お二人が今回装備しているのは、超長距離砲撃ユニットである『サイゼリス』です!」

 

「ナニその南極条約違反っぽい威圧感を内包しつつもお手頃な価格でイタメシを提供しそうなネーミング!」

 

 

 巨大なバズーカっぽい砲を抱えつつも、伊勢型一番艦のサイゼリスは何故かアピールするかの如くポージングを繰り返す。

 

 それを見る髭眼帯は、長らく「航空戦艦(笑)」と言われ続け不遇ポジに居たが、大規模改装で一躍メインにのし上がったのが余程嬉しかったのだろうと生暖かい視線で伊勢型一番艦のサイゼリスを眺めていたりした。

 

 

「この陽電子砲、工廠地下の蓄電施設と直結する事によりエネルギーユニットを簡略化しつつも、大出力を確保する事に成功しまして、通常出力での射程距離は120,000mとなっています」

 

「え、ヒャクニジュッキロメートルて、一体ナニを相手にするつもりなの?」

 

「この湾の内部全長がほぼ40km、湾防衛の要になる小島群の外郭に位置するリトルバリア島までは丁度120km程、つまりこのサイゼリスを使用すれば、わざわざ抜錨しなくとも防衛ラインの構築が可能になる訳です」

 

 

 夕張の言葉に二人のサイゼリスはうんうんと頷き珍妙なポージングを取り、髭眼帯はプルプルを開始する。

 

 

「しかーもこの陽電子砲、地球の自転・磁場・重力の影響を受けて直進しない為、水平線の向こうに隠れてしまっている視認できない敵であっても攻撃が可能なのです」

 

「え、いや水平線の向こう? いやそれはいいんだけど、見えない敵にどうやって狙いをつける訳?」

 

 

 プルプルしつつ疑問を口にする髭眼帯の上空を、プーンと一機の航空機が飛んで行く。

 

 翼が直線的に長く、彗星の流れを汲む独特なシルエット。

 

 二式艦上偵察機と呼ばれるそれが、北へ向って飛翔する。

 

 

「お待たせ」

 

「……祥鳳君、なにしとん?」

 

「はい? いえ長距離観測を頼まれましたので参上致しました」

 

「射程の距離を埋める為の観測には『千里眼』と呼ばれた祥鳳さんが担い! そして更に射撃精度を増す為の補助ユニットもここにご用意していますっ!」

 

「不知火に何か落ち度でも?」

 

 

 夕張が差す方向には、ピコーンピコーンと回転するアンテナが頭頂部でクルクルする銀色のメットを被ったコップなぬいぬいがポージングしており、左右のサイゼリスと相まってそこに異空間を発生させ始める。

 

 

「いやだからメロン子、いつも提督言ってるけどぬいぬいを観測ユニット扱いするのはヤメテ差し上げて?」

 

「夏はこの恰好だと、丁度いいんです、提督、冬は寒くないのかって? そ、そうですね……い、いえ、大丈夫です!」

 

「祥鳳君、今ココめがっさ冬な訳なんだけど、てか提督は何と言うか君の独特な格好について一言も言及した覚えはないと思うんですが……」

 

「……そろそろ粒子加速器の準備が整ったようですね、それでは長門さん、伊勢さん、やっちゃって下さいっ!」

 

「ちょっと唐突に射撃指示とか大丈夫なのそれ……」

 

「再びくちくかんとの理想を掲げるために、触れ合いディスカッション成就のために、西蘭よ、私は帰ってきた!」

 

「いやどさくさに紛れてナニ欲望垂れ流しのセリフほざいてんのビッグセブン!?」

 

 

 ウィンウィンウィンという独特なチャージ音の後、砲身内部で粒子加速による発光が瞬く。

 

 限界に向うそれらは砲身内を縦横無尽に駆け巡り、開放される時を待つ。

 

 冷却用の液体窒素が揮発する煙が辺りに漂い、砲に幾状にも繋がる野太いケーブルが垂れる部分にも徐々に霜が張り付いていく。

 

 

 て言うかそれが原因でケーブルが爆ぜた。

 

 

 中途に加熱された砲は熱均衡が崩れ小規模な爆発が発生、熱とも冷気とも言えないない混ぜとなった奔流が辺りに襲い掛かる。

 

 

 それから暫く、もうもうと立ち込める霧のようなそれが冬の寒風で払われたそこには、艦娘五人と提督一人の計六名総ボンバーヘッド艦隊という異形を爆誕させる事となった。

 

 

「……おい、ユウバリンコ」

 

「ケホッ……夕張です、何でしょうか」

 

「泊地引き回しの上バケツ生尻ケツバットな」

 

 

 こうして寒風吹き荒ぶ西蘭泊地では、今まで類の見なかった複合的かつ苛烈なペナルティが誕生する事になるのであった。

 

 

 




・誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。
・誤字報告機能を使用して頂ければ本人は凄く喜びます。
・また言い回しや文面は意図している部分がありますので、日本語的におかしい事になっていない限りはそのままでいく形になる事があります、その辺りはご了承下さいませ。

 それではどうか宜しくお願い致します。


※この小説はログインせずに感想を書き込むことが可能です。ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に
感想を投稿する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。