大本営第二特務課の日常   作:zero-45

295 / 329
 更新頻度が上がるだって? HAHAHAなんだよその笑えないジョークは。

 まだお日様が西から上がるって話の方が信憑性があるってもんダって言うかすんませんしたー!

 色々ありましたが取り敢えずすんませんしたー! (ジャンピング土下寝敢行)


 それでは何かご意見ご質問があればお気軽にどうぞ。


2018/10/30
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きましたリア10爆発46様、水上 風月様、柱島低督様、有難う御座います、大変助かりました。


西蘭艦隊抜錨中

 

「なンかさ、定例の連絡会する度にキッツイ話題が出てくンのはどうしてかねダンナ?」

 

 

 西蘭より出撃しベンガル湾沿いにて幾らか海戦を経た吉野率いる艦隊は、現在リンガ泊地から拠出された物資を補給する為スリランカ南端ウェリガマ湾へ寄港していた。

 

 嘗ては漁業と観光で成り立っていたという土地は、深海棲艦の出現により一時は破棄され無人の廃墟と化していたが、日本が制海圏を紅海まで延ばす際、アラビア海へ至る為の補給基地として同国から周辺一帯を周辺海域の防衛を担うという条件の下借り受け、簡易的な施設を置いた海軍の拠点として運用するというのがこのウェリガマ湾の立ち位置と吉野は聞いていた。

 

 だが実情としては主に補給と小規模な修理施設を取り敢えず置き、リンガとペナンから出向している少数の人員で運用しつつ、日本──欧州間航路に於ける中継基地としてギリギリ運用されつつも、急激な制海圏の延長と予想以上の船舶往来の煽りを受け、船団護衛に戦力を割いた結果未だ拡張工事が進まず本格的運用は未だ成されていないのが実情であった。

 

 

 そんな仮設染みた拠点の沖合いに停泊するのは夕張重工が西蘭泊地にて初めて建造した大型艦娘母艦。

 

 総排水量1,020t、全長340m、最大幅75mという水上艇、名を『和泉(いずみ)

 

 現在の母艦泉和(いずわ)は艦隊単位での活動を主眼に置いた船であったが、和泉(いずみ)は大規模作戦に投入し、前線で長期間"拠点"として使用する事を念頭に設計された船である。

 

 航行速度は泉和(いずわ)には劣るものの、甲板には艦娘射出用の大型カタパルトが四機設置され、更にはヘリの離発着設備も併設される。

 

 最大八艦隊の艦娘を同時運用する事を想定した設備も内包し、搭載する迎撃設備も艦娘の艤装に乗る武装をセットしている為、本来の威力よりやや劣るものの深海棲艦への牽制程度には使える状態になっている。

 

 

 しかしこの船の最大の特徴は、元々運用されていた泉和(いずわ)をそのまま船底へ格納したまま運用されているという点にある。

 

 

 操船の殆どを一元化する為、再生された叢雲の艤装を電算機として利用するシステムは替えが効かない。

 

 その為泉和(いずわ)を接続する事でこの和泉(いずみ)も叢雲一人で操船可能とし、有事の際は泉和(いずわ)をパージ、和泉(いずみ)を通常操船艦状態で補給基地として活用する事もでき、艦隊の継戦期間を更に引き伸ばす事を目的に建造されたのがこの船であった。

 

 

 吉野達は現在予定されていた欧州救援作戦の為出撃中であり、スリランカで補給しつつも、その停泊時間を利用して先日船渠棲姫との間に交わされた密約を派閥に属する司令長官達へ報告している最中であった。

 

 

 これは以前北方棲姫と大坂鎮守府間での通信に利用されていた人工衛星が西蘭へ居を置いた関係で利用価値が無くなってしまい、位置調整し今作戦用に転用した為、そのテストを兼ねて各拠点との通信を行う関係で報告が現地からという事になってしまっていた。

 

 

「一応話は受けた形になってるんだけど、関係的には腹の探り合い以上になってないからどこまで信用できる状態なのか読めないんだよね」

 

「罠……という事はないのですかな?」

 

海湊(泊地棲姫)さんも巻き込んでの密約だから大筋での話は大丈夫だと思います、けど、相手の目的自体不明のまんまなんで、以後どうなるかって処は流動的と言わざるを得ないんですよね」

 

 

 艦長席に座る吉野からは舞鶴司令長官の輪島、大坂鎮守府司令長官の九頭、クルイ基地司令長官の日下部、そしてクェゼリン基地司令長官の飯野という西蘭泊地を中心とした派閥の長達の顔がスクリーンに映し出されている。

 

 其々は難しい顔をしつつ吉野の話に耳を傾けてはいるものの、今回の話で問題として上がっているものは船渠棲姫という未知の存在を相手取っている関係上、吉野からの報告を聞くという事しかできないでいる。

 

 

 また今回の会議はこの密約がある意味メインではないという事情も内包する。

 

 

 それは以前西蘭泊地特務課が拾ってきた"欧州連合筋と軍部が水面下で進めている西蘭への対応"。

 

 西蘭泊地を独立拠点とし、現在の派閥を解体するという企みは関係各所、特に前線に位置するクェゼリンとクルイにとって死活問題とも言えた。

 

 

 この問題に対して吉野自身は答えを出していたが、それに対して各拠点の都合や考えが合致するか否かはまた別問題である、故にその辺りの確認はしておく必要があり、各所には事前に通達はしてあったが今回は全員が揃った上での情報の刷り合わせを行い、調整する為にこの遠距離会議と相成った訳である。

 

 

「では、今回吉野殿が出撃()ている作戦の結果で、欧州や大本営に対する方針が変わるという事で宜しいのですかな」

 

「結果もクソも、吉野のダンナが軍を抜けねぇつってンだからそっちは考えなくてもいいンじゃねぇの?」

 

「いやいや輪島さん、その辺りはもしもの事を幾つか事前に考えておかないとマズいんじゃないんですかね」

 

「俺も日下部君が言ってるように、幾つか逃げ道は用意しておいた方がいいと思うがなぁ」

 

「逃げ道もクソもよ、結局最後はあっちの話を蹴らねーと西蘭は完全な外様になっちまうンだぜ? そうなったら飯野さンとこも日下部ンとこも後ろ盾がなくなっちまうし、ウチとクズんとこの連携も難しくなっちまうから他に選択肢なンかねーだろ?」

 

「輪島さんの言うとおり基本的にウチは軍から抜ける事は無いという方針で動くつもりです、ただその話を突っぱねるタイミングがいつになるのか、本来ならこっちの都合のいいとこで潰しにいこうと思ってたんですが、船渠棲姫との密約というのが軍部筋や欧州側に漏れると結構な地雷となるので、この作戦が終わらないとにっちもさっちも動けないってのが正直な話なんですよ」

 

 

 割と逼迫した状況にはなっているが、吉野的には現状繋がっている派閥が瓦解する確率は低いと見ている。

 

 それというのも現在吉野を中心とした派閥が台頭している関係で、大隅(軍令部総長)は旧鷹派の利権を削ぎつつ軍部内のパワーバランスを図っている最中である。

 

 その状態で西蘭を完全独立させて派閥を解体してしまうと全ての部分でやり直しをしなくてはならず、また吉野という男をどこにも紐付けさせず自由にするのは危険と承知する以上西蘭を大本営から放逐する可能性はかなり低い。

 

 以前から言われている欧州連合と軍が水面下で動いているというのも、厳密的には英国が旧鷹派を支援する形での企みであり、大隅もその事は感知しつつも、レンドリースに絡む話に波及しないような形で慎重に事を進めている。

 

 

 西蘭泊地麾下の深海勢を排せば日本は成り立たず、またその戦力が軍から離れるとなれば敵対という最悪を見越しての備えも必要となる。

 

 諸外国からしてみれば排除すべき邪魔者であっても、対応を間違えた場合一番割りを食うのは日本である。

 

 それも結果は滅びというあってはならない結果へと至ってしまう。

 

 

 またこのような事態が起こらないようメタンハイドレートというエネルギー資源、日本だけに留まらない広範囲に対しての楔を吉野は打ってきたのである。

 

 

 だが、今回船渠棲姫と交わした密約は、厳密に言うとアラビア海沿岸の石油産出国全ての国に対して言い逃れが出来ない背信行為となってしまう恐れがあった。

 

 例え密約内容が表面化しなくても、深海棲艦がそれらの国へ侵入した事が感知されると予想されるタイミングは、密約の内容からすれば作戦を実行した直後となってしまうのは確実で、結果として西蘭が行った作戦は調査も排除も成されていないという事になり、致命的な責任問題へ発展してしまだろう。

 

 

 そうなってしまえば西蘭が持つ現状の優位性も用を成さなくなってしまい、件の企み(西蘭を軍から切り離す)は極僅かながら現実味を帯びてしまう。

 

 故にこの問題に対して今は作戦の成功と情報の漏洩防止に全力を注ぎつつ、その結果次第で方針を決定するしかないと吉野は考えていた。

 

 

「取り敢えず全ては作戦が終わってからの話になるんですが、これが上手く収まれば伏せていた情報を武器に各所を黙らせる作業に取り掛かろうと思ってます」

 

「……つまり、いよいよ西蘭が自拠点で何もかも賄えるという事を大本営に報告するんですね?」

 

「吉野殿、その時は大坂も以前ご相談した話を上層部に通すつもりでおりますので、どうかご協力をお願いいたしますぞ?」

 

「九頭さん、あの話(・・・)は本気だったんですね……」

 

「現状大坂鎮守府は、吉野殿が差配していた頃より減じた定数を艦娘の上限として決められておりますからな、軍部が佐世保の頃と同等の運用を自分にさせて貰えない以上、ウチは特化した拠点運用をするしかないという事ですよ」

 

 

 吉野達が西蘭へ移り、九頭が大坂鎮守府の後任として収まった後。

 

 軍としては大拠点が一つ増えたという名目で艦娘の割り振りを見直す事となった。

 

 

 大きく西へ、日本から欧州へ航路を伸ばし、制海圏維持の為軍は戦力をそちらに割り振らねばならなくなった。

 

 そして日本の近海は吉野麾下の深海勢がテリトリーを押さえている関係上、内地の戦力はそれ程必要とされていないという結論に達し、佐世保と大坂の定数を減らすという苦肉の策が取られる事になった。

 

 

 北方は制海圏が少ない現状以前より戦力を割かれたままの戦力という形に。

 

 大本営、横須賀鎮守府は本拠防衛という事で現状維持に。

 

 日本海方面は舞鶴の戦力を今までの形で充て、その代わりに佐世保は定数を半減とする。

 

 呉は西日本沿岸と緊急支援の中核である為に、積極的にレンドリースを行い大型艦中心の艦隊編成へ以降する。

 

 

 そして残る大坂は、吉野が差配していた頃に舞鶴と陸路を通じての戦力をやり取りをする為の防衛圏を構築していた関係で、大本営の指示により定数は当時よりも少ない百二十という上限を設けられたまま現在に至っている。

 

 

 これに対し、佐世保の頃と同じ戦力を持つ事が出来なくなった九頭は、他拠点と同じく単一での運用という部分を敢えて捨て、大型艦を必要としない水雷戦隊特化の艦隊運用をする事を決意する。

 

 

 大本営としてみれば定数を少なく設定する事で舞鶴、大坂の戦力を削ぎ、また数で減じれば質を求めねばならなくなる関係で大坂もレンドリースに対し積極的に動かざるを得ないだろうという目論みの上での指示であった。

 

 

 が、そこはそれ差配するのが九頭路里である。

 

 自他共に認めるくちくかんLOVEなこの男は、例え質を求めるというのが鎮守府が生き残る唯一の道としても、それがくちくかんを手放す事になるというのならば道理を捻じ曲げ、ゴネにゴネ、大本営のお偉方の前で筋肉をバンプアップさせつつ恫喝する事を厭わないヘンタイなのである。

 

 ある意味鎮守府総くちくかんという状態が彼の理想(パライソ)である為、レンドリースという行為は当然受け入れがたい行為と言えるだろう。

 

 

 故に大本営の意図は見事に蹴り出され、あまつさえ"水雷戦隊特化鎮守府計画"を発動するという蛮行に及び、結果的にはレンドリース推進派はクズロリの性癖によって涙目になってしまうという結末となってしまった。

 

 

「て言うか九頭さん、水雷戦隊特化なら友ヶ島勢の力は大坂にとって必要になるんじゃないです?」

 

「いや、定数が大きく減じられている現状、例えくちくかんと言っても厳選した上で性能面重視で揃えねばならんのですよ、あ、若葉タンと初霜ふもふは別腹ですぞ? それは命に代えても譲れませんぞ! 何せ彼女二人は(それがし)にとっては三度の飯より大事というか寧ろっ! あの……あのマイスイートハート二人を見ているだけでどんぶり飯三杯は軽くオバアッ!?」

 

 

 髭眼帯の見るモニターからは弾丸と化した若葉タンのドロップキックによって筋肉パゲが消失し、他の三つのモニターに映る司令長官達の顔は怪訝な物へとシフトする。

 

 そして暫くの間何故かモニターから少し特徴的な音と言うかぶっちゃけ何かを殴打するカンジの音がスピーカーから鳴り響き、次にクズロリが会議に復帰するまでの数分間はとても気まずい空気がそこに漂うのであった。

 

 

「あー……結局よ、大坂の友ヶ島警備府は解体になって、人員は西蘭へ送られるって事でいいンだよな?」

 

「えぇ……まぁ、はい、そうなりますね……」

 

「ンでリーゼロッテの嬢ちゃんはどうなるンだよ」

 

「西蘭の位置する場所が一応深海棲艦のテリトリー内という事になってますし、対外的に彼女が着任すると色々不味いので大坂の副官という事で配置換えする事になってます」

 

「なる程、つまり彼女には九頭さんが暴走しないよう押さえで残って貰うと?」

 

「……飯野さん、それは判ってても言わないのが人情と言うものでは」

 

「いや日下部君、結局ウチとクルイの物資を準備する拠点は引き続き大坂だ、それを考えるとだな……」

 

「あー……そうですね、それだとリーゼさんは是が非でも大坂に残って貰わないとヤバいですね」

 

 

 九頭路里という男は慎重かつ優秀な将官であったが、判断基準が人からは理解されない独自の部分にあり、また性癖も余人には異端と言うかズバリ小児愛好家と称されるような孤高のクズロリである。

 

 そんな男が欲望の赴くまま全力で戦力を揃えるとなれば、小型のくちくかんがレンドリースの中心となっている現状他拠点からの異動もあてにする事は出来ず、結果として建造という手段を用いるしかないという答えに辿り着く。

 

 つまり、大坂からの物資に依存しているクェゼリンとクルイからしてみれば、諸々の管理と監視に誰かが居ないと安心できないという話になってしまったりするのは当然と言えるだろう。

 

 

「それじゃこの作戦が終了し、西蘭へ帰還できる日時が確定したらそちらに知らせますんで……という事を九頭さんに伝えといてくんない? 初霜君」

 

「あ、はい承りました」

 

 

 こうして大坂鎮守府に吸収されていた友ヶ島警備府の人員の内、睦月型駆逐艦十一人と、天龍型の二人、そして何故か退役軍人会の窓口という体で髭爺(唐沢)が西蘭泊地へ来る事が決定するのであった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「外に向けての諸々は順調に整ってきてるのに、身内からはどんどん外堀を埋められていってる気がする件について」

 

「提督は割とそのへん脇が甘いというか、気心の知れた相手にはとことん甘い気がするね」

 

「随分とお二人は寛いでいらっしゃいますが、今は作戦中と言いますか絶賛戦闘中なのですが、報告がちゃんと耳に入ってないのは不知火の落ち度になるのでしょうか」

 

 

 スリランカから出航した母艦和泉(いずみ)は極ゆっくりと一日半を掛けてインド沿いを北上、マンガロール沖に差し掛かった辺りで航路を西へ進みそのままイエメンのソトコラ島を目指す。

 

 事前に船渠棲姫との裏取引で決めてあった海戦のポイントは北緯12°31'10.6"N 東経63°44'20.5"の位置、そこは目的地のソトコラ島から東へ約六百海里の位置であった。

 

 

 海図が示すそこは、インドのマンガロールからイエメンのソトコラ島を東西に結んだ丁度中間点に位置し、北側にはパキスタンがあるが、陸からは約六百五十海里の距離がある。

 

 つまりアラビア海の丁度ど真ん中かつ陸地から一番遠い位置。

 

 

 今回はそこで八百長染みた海戦を行う手筈となっている。

 

 

 ただそのポイントに至るまでの安全は船渠棲姫側から保障されている訳ではなく、結果として道中は頻繁にではないにしても遭遇戦が普通に発生していた。

 

 

「いやまぁその……確かに戦闘中なのかも知れないけどさ、あの様子(・・・・)を見ちゃったらねぇ」

 

 

 時雨とのおしゃべりに突っ込みが入った髭眼帯は苦笑しつつ、ぬいぬいにそう返しつつモニターに映る光景を指差して答える。

 

 “もう目的地まで提督の出番はないんじゃないかな?”と。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 やや凪いだ海は外洋特有の黒に近い青を広げている。

 

 見渡す限りの水平線は、空色と濃青の境界が果てなく向こうにあり、それらの範囲が母艦和泉(いずみ)から見える全てとも言える。

 

 

 そこから辛うじて見える向こうでは海の青を切り裂く白波の線が刻まれ、ぽつぽつと砲火の赤が瞬いていた。

 

 

 もし海を俯瞰(ふかん)したとすれば、青に点在する白い者達をすぐに見つけられるであろう。

 

 海を支配する異形、タ級(戦艦)ル級(戦艦)を筆頭にネ級(重巡)チ級(雷巡)、そしてナ級(駆逐艦)ハ級(駆逐艦)で編成された水上打撃部隊。

 

 もし人類が対するなら戦艦級の艦娘を多めに編成した艦隊か、いっそ空母機動艦隊にてアウトレンジで戦う必要がある編成である。

 

 

 戦術的な余裕を考慮するなら連合艦隊であたるのが尚良しとされる程の異形達であるが、現在はたった二人の異形、つまり深海棲艦に対して深海棲艦が攻勢を掛けていた。

 

 いや、そもそもその行為を戦いと称して良い物かと思われる程の光景が海に広がっていた。

 

 

 空母棲鬼と離島棲姫呼ばれる個体が空を侵食し、配下の砲台小鬼が周りを固め有象無象の行く手を阻む。

 

 徹頭徹尾アウトレンジ、それも強力な艦載機が縦横無尽に空を埋め尽くし、哀れな獲物達を穿ち、削り、水面(みなも)へと沈めていく。

 

 

 元々空母という艦種は砲撃戦に弱く、艦載機の運用以外は護衛艦に依存する形で戦いに望むものである。

 

 

 だがそこ(・・)に居るのは深海棲艦の上位個体と呼ばれる者達。

 

 

 戦艦級の砲撃を物とはせず、艦載機の搭載数は通常の空母よりも多く、また高性能機で占められる。

 

 鬼と姫。

 

 たった一文字で表される特別は、艦隊一つ分以上の絶望(戦力差)を海へ広げてしまう。

 

 

「端に寄ったタ級はこっちで食ろうても良いのかの?」

 

「そうね、こっちの艦爆はそろそろ補給しないといけないし、いい加減母艦へ帰りたいから残りは任せるわ」

 

「ほんに空は容赦ないの、向こうがこっちを感知する前に全力で爆撃とか、もう少し手心を加えてやっても良いと思うのじゃがの」

 

「ザコは頭悪いからとことん力の差を見せ付けてやらないと退かないし、見逃してやってもまたわらわらと沸いてくるじゃない」

 

「戦艦級を叩けば早々突っ掛かって来る事はないと思うがの」

 

 

 戦端が開いてから僅か三十分程。

 

 空が放った艦載機は全て艦爆という地獄は、一巡目にして敵艦隊に壊滅的なダメージを与える結果となる。

 

 

 それからわざと遅れる形で離島棲姫が放つ艦攻が戦艦と重巡の足を殺し、砲台小鬼の包囲殲滅という容赦の欠片も無い戦いが繰り広げられる。

 

 

 徹頭徹尾攻めの姿勢の(空母棲鬼)に対し、カバーに入る離島棲姫という陣形は討ち漏らしもなく虱潰しという有様。

 

 

 例え姫鬼と言えどどちらも空母系となれば、通常は退き撃ちの形に持ち込み持久戦をするのが妥当である。

 

 そうしないのは単に必要性を感じないから、寧ろ面倒だといわんばかりの傲慢ささえ見せ付けていた。

 

 

「まぁちと前の朔夜(防空棲姫)冬華(レ級)があれだけ鮮やかに決めてしまってはな、(空母棲鬼)としては主殿の覚え良い様を少しでも見せねば立つ瀬がないと言う事かの」

 

「なっ!? ななな何言ってんのよ、別にそんな気持ちで出撃()てきたんじゃないわよ!」

 

「ふむふむ、そこから先は言わずとも良いぞ、そなたの気持ちはわらわだけではなく皆知っておる故な」

 

 

 無慈悲とも言える戦いを繰り広げ、母艦へと帰投する二人が口にするのは命のやりとりを終えた直後としては軽く、そしてやや俗っぽい物だった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「えーそんな訳で、今回作戦の目標とされるポイントまで後十時間、明朝〇五(マルゴ):〇〇(マルマル)辺りに到着予定という事で、現在は三種戦闘態勢になってるけど、〇三(マルサン):〇〇(マルマル)からは二種戦闘態勢に移行するので哨戒の任に就いてる者以外はそれまでに充分休息を採り、本番に備えて欲しい」

 

「一種戦闘態勢じゃないのね、幾ら出来レースって言っても緩くないそれ?」

 

 

 和泉(いずみ)艦内出撃ドックに隣接するブリーフィングルーム。

 

 哨戒と出撃の控えに回っている者達以外の人員が集められたそこでは、ほぼ確定したと判断を下した予定を各員へ通達していた。

 

 

 ホワイトボード代わりの大型モニターには戦闘ポイントまでの予定時刻がデシタル表記され、そこまでの航路を示す海図と交代で哨戒にあたる人員、そして戦闘に出る艦隊編成が表記されていた。

 

 ここまでの遭遇戦は深海勢が受け持つ形で作戦は推移し、また本番である"偽装された海戦"に於いても主力を担うのは深海勢の予定であった。

 

 ただ今回の相手は一応裏で通じているとしても完全に信用できない勢力とあって、吉野は事前にできる範囲で最大の準備を進めてきた。

 

 もしもの話、裏取引が反故になったとしても戦える段取りにはしてきている。

 

 

「今回は目的ポイント直近に差し掛かった時点で……つまり今から索敵の為に不知火君と朝潮君が母艦で、周囲警戒は秋津洲君とグラーフ君の二重の警戒態勢に入っている、ただこれ以上の哨戒は相手方に無用の警戒を与える事になると判断して自粛しているんだよ」

 

「信用するには値しない、でも仮想敵という域は出ない……ほんと面倒な相手ね」

 

 

 海図を睨みつつ愚痴を零す朔夜(防空棲姫)は細めた目のまま視線を髭眼帯に投げる。

 

 そこには何故かちょっと豪華な革張りのチェアーに固定された髭眼帯が超真面目な相でシッダウンしたおり、脇に控えた時雨と(空母棲鬼)から飲み物やら菓子を横からグイグイされていた。

 

 

「それで? 作戦前のブリーフィングだっていうのにテイトクは随分と至れり尽くせりな状態でリラックスしてるみたいだけど?」

 

「手足がガッチリチェアーに固定された状態で色々グイグイされてるのを見て、さも提督が君達にヨキニ計らえ染みた事をしてる風に批評するのは止めて下さい切に」

 

「今回は間宮さんが参加してるから提督の大好物の豆大福が食べれるよ、はいアーン」

 

「勿論マメダイフクにはドクペよね、今回はケース単位で冷やしてるから幾らでも飲めるわよ? フフン準備した私に感謝しなさい」

 

 

 上官の定位置であるモニター前と指示を受ける部下達の間では、モニターに近い位置に居る者ほどジト目で口が△という割合が高いというワールドがそこに出来上がりつつあった。

 

 

 平時であれば長門や龍驤が場を纏める処であったが、今作戦では彼女達は泊地の内務と防衛に就かねばならずお留守番状態であり、纏め役として連れて来た筈の大和と時雨が提督LOVEの為、一応軍務は回っているが部分的には致命的にメーな部分を内包する形になってしまっていた。

 

 

 つまり、髭眼帯は人員の選定時点で失策したのだと出撃した後に気付いてしまったのである。

 

 

 深海勢の総出撃は仕方ないとして、時雨は治療後初の作戦参加とあり、姫鬼相手に「それなり」の戦いしか要しない今作戦への参加は最適な判断と言えた。

 

 また主戦力が深海勢となれば、自然と防衛は艦娘という配置になり投入するのは防御に秀でた者、つまり大和や子犬(時津風)辺りが選ばれるのも間違いないと言えるだろう。

 

 

 総評としては、各人のプライベートというか性質は加味されていないという間違いさえなければ完璧、そういう差配が今回の評価といえちゃったりしないでもない。

 

 

「これからの予定はほぼ決定された物ですし、緊急時の対応も滞りなくできる形にしています、それは朔夜(防空棲姫)さんもご存知でしょう?」

 

「まぁそれは理解してるんだけど……ねぇ大和、貴女最近出番が少ないからって今回ははっちゃけ過ぎじゃない?」

 

 

 凄く真面目な相でグイグイされる髭眼帯の囲みに大和がサラっと参戦を果たす。

 

 

 例のチャイナメイド服(ハート型エプロン装備)を装着して。

 

 

「ねぇ君達、せめてブリーフィングが終わってからグイグイしてくんないかな? 寧ろ豆大福とドクペと秋刀魚を同時に提督の口にINしようとするのは食い合わせ的にというか味覚的にデンジャーだと思うので再考して欲しいのですが」

 

 

 美女達からアーンされるという行為は言葉としては甘美な物として読み取れてしまうだろう。

 

 しかし現実をそのままの表現にしてしまえばどうだろうか。

 

 アーンというカタカナ三文字を口に豆大福とドクペと秋刀魚の塩焼きを強制INされる現状という言葉に置き換えてしまったなら、それは甘美な行為ではなく、正しく致死性のない拷問と表現できたりするのではなかろうか。

 

 

「くっ……Barアイアンボトムサウンド二号店の事で頭が一杯で、衣装はマスターの物しか持ち込んでなかったわ……」

 

(空母棲鬼)君、一応ここって軍事用の移動拠点だからBarとか飲み屋関係の設備を無理矢理営業するのは提督正直言ってどうかなって思うんですが」

 

「ふむ、色々と経験する為に船に居る間は間宮への手伝いを申し出たのじゃが、この布面積がやたら少ない衣装はなんぞ? 主殿の趣味かえ?」

 

 

 時雨のお代わりコールに応じて豆大福をデリバリーしてきた離島棲姫。

 

 彼女は間宮で配布されているという例のオープンバックミニスカ割烹着という戦闘服をピチッと装備していた。

 

 そしてそれを見たブリーフィングに参加している一部の面々は何故かいそいそとルームから退出し、どこぞへと消えていく。

 

 それを見た朔夜(防空棲姫)はこの後の展開を予想して深い溜息を吐き、髭眼帯は超真面目な顔でプルプルを開始する。

 

 

「因みに僕は明石セレクション春の新作を持って来てるんだけど、流石にこれだけ人が多いと装着するのは戸惑ってしまうね」

 

「時雨君、人に見せるのを戸惑ってしまう新作とは一体どこでどう活用するのって提督聞いていい?」

 

「僕に興味があるの? いいよ、なんでも聞いてよ」

 

「ここでその台詞を言っちゃうかぁ、そっかぁ、そういう系のブツなのかぁ」

 

「司令、大和も明石セレクション春の新作を持って来ているのですが、どこで着ればいいのでしょう」

 

「いやそのチャイナ以外に何を持ち込んでいるというの鉄甲乳、寧ろどこで着ればいいのか判断に迷う系のブツの正体が判明してないのに、どこで装着するかの指示を提督に出せというのは理不尽かつ無茶振りも甚だしいと思うんですが」

 

「ああそれはですね、形状としては春の爽やかなイメージとしてこう……おへその辺りがハートの形にシースルーになってて……」

 

「待ちなさい、何で春の爽やかなイメージがそういうハレンチ方面に顕現しているのっつーかそれって着ぐるみ(パジャマ)系じゃなく、やたらと布面積が少ない装備という事でしょうか」

 

「えっと明石さん曰く、当社比1/3とか、強度的な限界に挑戦してみたとか仰ってましたが」

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁかしぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ! 当社比って普段からえげつない程布面積が少ないっていうのにそれを1/3にしちゃったってどういう事だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああかしぃぃぃぃぃ! 強度的な限界ってそれもう着衣の境界線としての限界超えちゃってるんじゃないかあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁかしいいい!」

 

 

 こうして西蘭泊地初になる大規模作戦は髭眼帯が想定した事象以外の危機(・・・・・・・)を伴いつつも、粛々と本番へと突入していくのである。

 

 

 




・誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。
・誤字報告機能を使用して頂ければ本人は凄く喜びます。
・また言い回しや文面は意図している部分がありますので、日本語的におかしい事になっていない限りはそのままでいく形になる事があります、その辺りはご了承下さいませ。

 それではどうか宜しくお願い致します。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。