大本営第二特務課の日常   作:zero-45
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 連続投稿その②です、先ずその①を読まないと話が繋がりません。

 はい、シリアスはなるべく早くというスタンスでいくと、どうしてもこうなっちゃいました、申し訳ありません。


 それでは何かご意見ご質問があればお気軽にどうぞ。


2018/11/25
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きました水上 風月様、リア10爆発46様、rigu様、有難う御座います、大変助かりました。


常にそこに在り続ける為に

 船渠棲姫は吉野との裏取引を反故にするつもりは基本的に無かった。

 

 現在彼女が最優先とするのはヨーロッパとアジアを隔てる縁海、黒海に至る事である。

 

 

 海を棲家にする彼女達にとって本来そこへは紅海を抜け、地中海経由で移動するのが理想のルートであった。

 

 

 しかし近年欧州連合が制海圏の守りを固め、地中海へ抜ける海路、特にスエズの防衛を強固にした関係でそのルートを使う事ができず、結果として変則的ではあったがアラビア海からオマーン湾、そしてペルシャ湾へと侵入し、そこから陸路経由で黒海を目指すというルートを選択するしかなくなった。

 

 

 移動には隠密を要し、慎重に事を運ばなくてはならない。

 

 またこのルートを利用して黒海へ移動するのは一度だけに留まらないという予想もされ、人類側に察知されると面倒になるのは間違いないという結論に至る。

 

 故にアラビア海周辺で調査、駆逐作戦に就く拠点が泊地棲姫と深く関わりがある西蘭だったのは都合が良かった。

 

 

 元々縄張りを接する泊地棲姫とはいつかは接触しないといけないと思っていたので、この際その用事も消化し、更に黒海へのルートを安全にする為の企みにも、保険として海湊(泊地棲姫)を利用できたのもある意味僥倖であった。

 

 

 元々陸沿いの縄張りが人類側に落ちた後も放置し続けたのは、その縄張りの維持に人類側の戦力を投入させて余力を奪う為と、上陸する候補となる国々の沿岸に向ける監視の目を緩めさせる意味合いが強かった。

 

 

 暫くその状態を維持する為に、船渠棲姫は今回の(はかりごと)で吉野達の艦隊を沈める訳にはいかない。

 

 もし人類側でそれなりの戦力を持つ艦隊が壊滅した場合は、周囲に無用の警戒をさせる事になるだろう。

 

 その結果、北へ抜けるルート(アラビア海周辺)の警戒度を上げるという事になっては元の木阿弥になってしまう。

 

 

 だから吉野達にぶつける艦隊には"程々に痛め付け、充分な余力を持ってペルシャ湾へ向かえ"と指示を出していた。

 

 

 そして会敵した今、レ級の役割は邪魔な艦娘達を沈めない程度に叩き、艦娘母艦へ自力航行が辛うじて可能な程度の状態まで攻撃する事にあった。

 

 

「ちょっと……そんなの反則じゃない?」

 

 

 沈めない程度に叩く筈(・・・・・・・・・・)だった相手、その艦娘達と接敵し、僚艦と共に切り込んだ時、それは起こった。

 

 

 前後に分かれた集団の内、前に立つ三人。

 

 金剛型と呼ばれる戦艦達は正にレ級達を"迎え撃つ"形で立ち塞がっていた。

 

 

 これに対し先ず足が速いナ級(駆逐艦)が左側を迂回する形で切り込み、相手の注意を惹こうとする。

 

 流石に戦艦からの一撃を食らえばひとたまりもないが、それでもflagshipに至るまで生き残った猛者ならば、早々攻撃を受ける事は無いだろう。

 

 現にナ級(駆逐艦)は左側の戦艦に狙いを定め、内側に潜り込む形で接敵を果たした。

 

 遠・中距離に於いて絶大な威力を発揮する大型の艦砲も、砲撃を安定させる巨大な艤装も小回りと接近戦という点では邪魔にしかならず、またその動きを阻害するだけで相手艦隊の戦力を大きく削ぐ事になる。

 

 そう、ナ級(駆逐艦)は相手を無理に沈める必要はない。

 

 そのまま相手の足元を荒らし続ければ、タ級(戦艦)ネ級(重巡)の支援で相手を沈める事ができるからだ。

 

 

 また片翼がそういう状態に陥れば当然隣に居る艦がカバーに入らざるを得ない。

 

 本来は近付いた足の速い艦を散らす為に護衛の駆逐艦を配するべきなのだが、何故かその駆逐艦は後方に控える空母の護衛に回っている。

 

 ある意味それは間違いではないが、艦隊を二分した位置取りにしている関係上、折角の護衛艦が役立たずになっている。

 

 

 だからナ級(駆逐艦)で場を荒し、そこへ僚艦の砲撃を叩き込み、混乱に紛れて自分(レ級)が近接でトドメを刺せばいい。

 

 

 他の艦種でするのなら、どれも無茶で不可能な事だろう、しかしそれらをやるのが一線級(Flagship)達である。

 

 性能が並みの艦の倍と、そこまで至る程に経験を積んだ艦達である。

 

 だから相手は度肝を抜かれ、混乱に陥ったまま瓦解するだろう。

 

 

 自信を持って仕掛けたレ級達の突貫は、しかし。

 

 視界左隅に居た一人の艦娘の行動を発端に崩壊していく事になる。

 

 

 凄まじい勢いで突っ込んで来るナ級(駆逐艦)、それは水面を跳ねるが如きの速度に加え、駆逐艦特有の非人間型。

 

 つまり霧島にとって相手は膝下程の体高しかない体躯であり、もし懐に潜られたならば対抗手段が殆ど無い。

 

 

 筈であった。

 

 

「距離、速度、よし!」

 

 

 金剛型特有のシールドアーム、艤装の下部、喫水線を示す銀と赤との境界が入ったそれを。

 

 霧島は飛び込んで来るナ級(駆逐艦)に合わせ、振り抜いた。

 

 刹那。

 

 

 艤装の下を潜る形で通り抜けたナ級(駆逐艦)は ─────────

 

───────── 体の一部を切り裂かれ霧島の後ろへ跳ね転がり、ピクリとも動かなくなった。

 

 

 霧島が振り抜いた艤装、水面から腿の高さにある筈のソレ(・・)

 

 本来なら艤装先端を覆う形の鉄板は二つに裂け、広がり、まるで()(ばさみ)の如く開いた(あぎと)を見せていた。

 

 霧島の背丈の半分程になった(シールドアーム)ナ級(駆逐艦)の突進力を開いた顎の根元で受け止め、更に振り抜いた勢いで切断するという惨劇を引き起こす。

 

 

 しかし一瞬で成されたそれは、余りにも荒唐無稽で予想外。

 

 故に突貫のままのレ級達はその光景に心を奪われ、悠々と近付く気配に気付けなかった。

 

 

─────────ズガン!

 

 

 重量物によって鉄が潰されるような鈍い音。

 

 それはレ級の横を(はし)タ級(戦艦)の左肩装甲を潰し、胸に近い位置まで何かがめり込んだ音だった。

 

 

「戦闘中に余所見なんて、随分と余裕を見せてるわね」

 

 

 いつもと変わらぬ声色で。

 

 いつもと変わらぬ表情で。

 

 

 金剛型二番艦比叡は艤装を振り下ろしたまま大破した(死に掛けている)タ級(戦艦)を見下ろしていた。

 

 

 彼女が振り下ろしたモノ(・・)は確かに艤装だった、だが普通の艤装は打撃に使用するには位置も形も適さない。

 

 だが比叡のそれは。

 

 霧島の物と同じく喫水線を模した赤いラインの部分で艤装下部が分かれ、斧の如く歪な形になったそれは─────────

 

─────────装甲をアームによって保持した打撃武器と化していた。

 

 

 何だコレは。

 

 想像だにしなかった光景、その結果に混乱しつつも航行速度を上げつつレ級達は金剛へ砲撃を開始する。

 

 彼我の距離は二十メートルもなく、レ級の大口径砲をその距離で放てば自身にも幾らか被害は及ぶだろう。

 

 

 だが重量近接武装(・・・・・・)を振り回す艦娘に挟まれれば動きがとれなくなる。

 

 いや、ナ級(駆逐艦)タ級(戦艦)の最後を考えれば、あの断ち鋏や斧の一撃をまともに食らえばもしかすると自分でも危ういかも知れない。

 

 そう判断し、今も動く気配の無い中央の戦艦を退け中央突破を図る事を選択した。

 

 

「A──han、なる程……なる程、うちのSistersがやらかしたせいで焦っちゃった訳ですネ、フムフム……でも」

 

 

 レ級の視界には、砲弾の射線上で暢気に頷く一人の艦娘の姿があった。

 

 

 猛火瞬く徹甲弾の雨、だがそれらは弾着した気配が無い。

 

 たった十数メートルの距離で、秒速七百メートルを超える砲弾が、分厚い鉄板を粉砕する砲弾が、まるで空砲を撃っているかの如く目の前の戦艦に対して効力を発揮していない。

 

 

 何故と思いつつも何が起こっているか確かめる時間は無い、何故なら既に互いは接触する程に近寄り過ぎている。

 

 

 こうなっては最早砲撃で退ける事は叶わず、レ級は相手を直接的に粉砕するしかないと拳を握り締める。

 

 そして睨む、迫ってくる、未だ緊張感の無い敵の顔を。

 

 

 だが次の瞬間見えた、見えてしまった。

 

 

 左右に居る者達と同じく、艤装の下部に備わる赤いシールドアーム。

 

 それが艤装下部のアームに押し出され、展開し、跳ね上がるのを。

 

 

 それは妹達が使うモノ(・・)とは違い変形せず、ただの鉄板のままだった。

 

 多少曲線を伴う多角形であったが、間違いなくそれは一枚の鉄板だった。

 

 

 但しそれを使うのが金剛だった場合は ─────────

 

───────── ただの鉄板が何者をも通さぬ、絶対的な盾と化す

 

 

 嘗て横須賀鎮守府に居たという、金剛を筆頭とする比叡と霧島の三人。

 

 

 大本営の防衛という意味合いが強く、文字通り最終防衛ラインを担っていたその拠点は、抜かれてしまえば軍の壊滅を意味し、殊更重要視されていた。

 

 その拠点で二十年以上艦隊総旗艦を勤め、また補助をしてきた彼女達は、絶対に退くことができない環境を受け入れ、同時にどんな相手も退けるという任を勤め上げた。

 

 全ての攻撃を防ぎ、また防衛専任という立場にあるため戦艦であっても前に出る事は叶わず。

 

 

 そんな矛盾した戦いを突き詰めた結果、彼女達は()()()()という行為に全てを注ぎ込む。

 

 

 当時大本営大工廠の総括であった明石に頼み、守りつつも殲滅するという無茶な力を求め。

 

 

 霧島は、比叡は盾でありながら矛という矛盾しつつも強大な武器を手に入れる。

 

 そして姉である金剛は、最後まで己は盾であるという道を望んだ。

 

 

 愚直に、只只管(ただひたすら)に。

 

 

 金剛という真っ直ぐな心の艦娘が求め、最後に得たのは、只の無骨な二枚で対になった鉄板。

 

 だがそれは何者をも通さず、強力な砲弾すら退け、盾で在りつつも敵を叩き潰した。

 

 

 膂力も反射神経も榛名には及ばない、だが緻密な弾道計算を瞬時に行う頭脳と、ずば抜けた動体視力は元々金剛型に備わっていた能力の延長線上にあった。

 

 

 レ級の砲塔が見える距離にあるという位置関係は、射線予想が安易で全て避けた(・・・・・)

 

 そして突貫してくるレ級自身には、盾をこするように当て、力の向きを調整しつつ弾く。

 

 避けるでも受けるでもない、攻撃と回避の境界線。

 

 これらは全て彼女が生きてきた、何が何でも真っ直ぐという積み重ねが成せる到達点であった。

 

 

 そんな神業を、事も無げに行い、更にはダメージを蓄積させていく。

 

 

「なん……だ、よ、それ、お前何したんだよ」

 

「hum? 何だとはどういう事デスカ? こっちはただ貴女の攻撃を避けてるだけですヨ? まぁちょっとだけ意地悪はしてるかも知れませんけどネ、HAHAHA」

 

「この……クソがぁッ!」

 

 

 不意打ち気味に突きを放てばスルリと力を流され、更にはその力を利用してダメージを食らう。

 

 

 そしてレ級が金剛に釘付けになっている間にネ級(重巡)は比叡と霧島に無力化され、ツ級(軽巡)ト級(軽巡)も後方支援の赤城によって大破へと追い込まれる。

 

 

『金剛君、出撃前にも言ったけど、くれぐれも……く・れ・ぐ・れ・も、相手を轟沈させないようにね?』

 

「Of course、殺さない程度に相手を転がすのは私の十八番(オハコ)デスからネー、まぁこのまま戦いが終わるまでコロコロさせておこうとオモイマース」

 

『あーうん……ずっとそのままコロコロし続けなくてもいいんじゃないかなぁって提督思うんですが……』

 

 

 結局戦いが終わるまでの数時間、レ級はずっと生かさず殺さずの状態で金剛によってコロコロされる事となり、その様子は一部深海棲艦のトラウマとして心に残るのであった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 欧州水姫は深海棲艦が嫌いだった。

 

 同時に人も、艦娘も大嫌いだった。

 

 

 艦娘が沈み深海棲艦として黄泉還る、それは極稀に発生する現象である。

 

 

 還った者達は基本欧州水姫と同じく、人や深海棲艦に対し分け隔てなく嫌悪する心を持つという。

 

 だがその性質は戦いの中長い時間を掛け、または沈んで還る事を繰り返す事で深く、暗く、魂を水底(みなぞこ)へ沈めていくという。

 

 

 それが普通であり、真理であったが、還った者は前世の記憶を引き継がない。

 

 故に己がどうであったかなど覚えている筈もない。

 

 もしかすると上位個体として海を支配している存在達も、繰り返し還る事で艦娘の前世を薄くした者かも知れない。

 

 

 寧ろ朔夜(防空棲姫)を始め吉野の麾下へ下った者達の方が実は少数派であり、欧州水姫の反応が還った者の心情としては普通かも知れない。

 

 

 艦娘として深海棲艦と戦い、沈み、心残りや恨み辛みに惹かれ、黄泉還る。

 

 だから深海棲艦も、人も、それに与する艦娘も憎い。

 

 艦娘という前世を持つ上位個体は戦いを拒み、逃げ、ひたすら外部との接触を断つ傾向にある、その答えがそういう心情にある事は殆ど知られていない。

 

 

 自分以外は全て敵、そんな思いを胸に抱く欧州水姫は、船渠棲姫から一つの提案を受ける。

 

 

 このまま船渠棲姫の元に居ても辛いだけだろう、だから一時的に人の支配下に就くのはどうか。

 

 そこは西太平洋、つまり今は誰の支配下にもない海に程近く、しかもそこを攻める用意があるようだ。

 

 

 一時的にその拠点へ身を寄せ、いつかは自由な海へと行けばいい。

 

 ただそこへ至るには、力を持っているという事を見せねば太平洋の攻略へ連れて行って貰えないだろう。

 

 

 だから、今回の海戦では力を見せ付けねばならない。

 

 その時多少艦娘を沈めたとしても構わないだろう、人間は艦娘を替えが効く道具としてしか見ておらず、沈んだ者以上の力が手に入るとなれば特に結果は気にしないだろうと。

 

 

 船渠水姫の言葉は覚えていない自身の経験(・・・・・・・・・・・)と合致し違和感を感じなかった。

 

 人とはそういう生き物だ。

 

 欲望に忠実で、同族以外の存在を受け入れない、そんな汚く信用のならない生き物が人間だ。

 

 

 沈ませてしまう艦娘には気の毒だが、人に飼われているなら自身の身に降り掛かる不幸にも諦めはつくだろう、それが艦娘というものだ。

 

 前世でそういう扱いを受けたのだろう、欧州水姫の根底にはそういう歪んだ部分が存在していた。

 

 そして彼女は西蘭へ譲渡すると約束した艦であり、取り扱い上の責任は会敵した時点で吉野達の領分にある。

 

 

 例え引渡しの際不幸な事故が起こったとしてもそれは悲しい事故であり、轟沈という結末があったとしても、それは譲渡に納得している欧州水姫の取り扱いを間違った吉野側の責任でしかない。

 

 

 こうして間違った意識を刷り込まれ、己の力を見せ付けるため殺すつもりで向う欧州水姫と、鹵獲する為に抜錨する西蘭泊地の艦隊は邂逅する事となった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 風を孕んだ髪が揺れ、飛沫交じりの波が立つ。

 

 

 また、ここに来れるとは思わなかった、嘗て妹と一緒に見た水平線。

 

 

 時雨は確かめるように手にした砲を握り直す。

 

 それは艦娘が使う事のできない、5inch連装砲。

 

 嘗てもそうだったように、それは背部艤装に保持され、左右に展開していた。

 

 そして右の腿には高速深海魚雷発射管が固定され、三スロット全てに武装が装備された状態になっていた。

 

 

 少し前なら"銀色"にならなければ使えなかったそれらは、ハカセと電に施された治療の末、通常でも使える物となっていた。

 

 現況で言えば"艦娘の時雨"であった頃のままの性能がデフォルトで、やろうと思えば"銀色"になる事もできたが、その状態を維持できるのは僅か五分程になっていた。

 

 

 両の砲に魚雷管、その他には腰に刺した刀が二本。

 

 

 変わらなければ艦娘ではいられない、その為に得た技術と心(剣術と刀)はもう手放せない彼女の一部となっていた。

 

 

「敵艦見ゆ、これより砲撃に入ります」

 

 

 先頭をいく大和の声がインカムから聞こえ、砲撃による激しい音と爆炎が波を叩く。

 

 それと同時に上空に展開していた加賀の烈風達が展開していく。

 

 

 やや大和が突出した形で砲撃し、榛名が精密射で後方の敵を散らしていく。

 

 

 そして陣の中央に位置していた時雨、陽炎、雪風の三人は何かに弾かれたかの如く飛び出し、敵艦隊へと進んでいく。

 

 

 陽炎は恐ろしい程の速度で戦場を駆け、相手の砲撃を躱しつつ囮として波を蹴り、弾幕を展開していく。

 

 

「雪風、今!」

 

 

 そして陽炎に張り付く様に動いていた雪風が敵艦隊の前面へ雷撃の斉射を撒き、そのまま迂回する様に進んでいく。

 

 

「無理するんじゃないわよ? アンタはスロット全部魚雷で埋め尽くしてるんだから、被弾して誘爆って事になったら目も当てられないんだからね!」

 

 

 陽炎の言葉に頷きながらも主機は限界ギリギリまで回し、普通では成し得ない無茶な軌道で雪風は敵弾を躱していく。

 

 

「目障りな駆逐艦が三人……先ずはここから始めようか」

 

 

 駆逐艦を前に出し、戦艦が中距離で砲撃。

 

 そんなセオリーを外れた戦い方は、砲弾を弾くという離れ技を織り交ぜつつ盾として立ち回る大和と、恐ろしい精度で後方の艦へ砲弾を当ててくる榛名と相まって、深海の艦隊を徐々に混乱させていく。

 

 また機動重視の陽炎型二人の内、一人は信じなれない程アクロバティックな動きを見せ、それに気を取られているといつの間にか放たれた魚雷の餌食となってしまう。

 

 

 ある意味阿鼻叫喚の様相を呈してきた艦隊の中にあって、欧州水姫は前に出ている駆逐艦の一人を取り敢えずの目標に定めた。

 

 

 ゆるゆると、しかしスピードは全速力に近く。

 

 そんな不思議な動きの黒髪お下げに眉を寄せつつも、砲の狙いをつける。

 

 

 深海16inch三連装砲改二が火を噴き、恐ろしい程の破壊力が時雨の後方で巨大な水柱を作り出す。

 

 狙いが甘かったかと次弾を装填している隙に、僅かに顔を顰める程度の弾着を欧州水姫は感じた。

 

 

 位置としては頭部装甲の隅。

 

 艤装程ではないがそこは固い装甲に守られた部位であり、駆逐艦の砲程度なら殆どダメージにはならない部分である。

 

 

 再び斉射、しかしそれも僅かに及ばず、またしても腕部装甲に砲撃を受ける。

 

 

 ゆっくりと、注意深く、しかし足は止めず。

 

 そんな時雨の砲撃は、欧州水姫の装甲に弾かれ、繰り返し、繰り返し、まるで同じ場面をリピート再生していくように、二人の間で続いていく。

 

 

───────── ほら時雨ちゃん、"砲は置くように撃て"って教えたでしょ、んもぉま~た忘れてるぅ

 

 

「うん、そうだったね……ごめん、忘れてたよ」

 

 

───────── 相手に自分の動きを悟られないよ~にするには、膝の動きで波の上下を誤魔化すといいよ?

 

 

「それを全速力でやれて一人前、だったかな?」

 

 

 砲で狙う時、砲撃を察知した時、時雨の耳にはあの時の、単冠湾の海で聞いた、もう聞く事は叶わない声を思い出していく。

 

 あの時届かなかった後悔を、見ているしか出来なかった苦しみを、心の中で反芻しながらも思考の海へ埋没していく。

 

 

 第二特務課に償還された艦の内、榛名は自身の力では届かない彼方へ至る為に、自分を変える事を望んだ。

 

 そして時雨は海へ立つ為に、変えたくない自分を変えるしかなかった。

 

 

 近接戦闘に秀でた異質の駆逐艦、それは元々彼女の能力ではなく、海へ立ち続ける為に必要な、後天的に手に入れた技術だった。

 

 だが、本来の時雨は、吉野の下へ流されてくる前の彼女は先に生まれた妹(村雨)仕込の技術───中距離からの精密射に加え、環境を取り込んだ卓越した技術に裏打ちされた立ち回りを得意とする艦であった。

 

 

「なんだ……何故、当たらない」

 

「うん、それだけ殺気立って砲を向けられちゃうと、嫌でも砲弾が飛んでくる位置が判っちゃうね」

 

 

 狙いが外れたと錯覚させる程に立ち回り、撃てる時に撃つ。

 

 時雨がするのはただそれだけ。

 

 

 それだけの筈なのに欧州水姫の砲撃は当たらない。

 

 

「装備は変になっちゃったけど、漸く……ここ()に戻ってこれたよ、ねぇ村雨」

 

 

───────── なぁに時雨ちゃん

 

 

「僕は……僕はまだ、ここ()に居てもいいのかな?」

 

 

 それなりの犠牲の上にある今を理解しつつ、それでも海に立ち続けるのを望み、出る筈のない答えを求めた言葉には……

 

 

 結局、返事は返ってこなかった。

 

 

「そっか、うん、そこは全部自分で決めないと……ダメなんだね」

 

 

 一言一言、確かめるように呟きつつ、淡々と砲撃と回避を繰り返し。

 

 息が詰まる程の繰り返しを経た、永遠に続くかと思われた隙間にできた ──── ほんの一瞬。

 

 

「榛名さん、後は宜しく」

 

 

 するりと、ごく自然に身を退く時雨。

 

 それを見て眉を顰めた欧州水姫は気付く。

 

 何時の間にそうなってたか判らない、のろのろと動く駆逐艦に対し意地になって砲を向けていた欧州水姫は、いつの間にか僚艦達が大破状態で行動不能になっている事に漸く気付いた。

 

 

 呆気にとられ、"何故"と思った瞬間、たった一瞬とも言える隙間に、それ(・・)は来た。

 

 

「ぁぁぁぁぁああああああ嗚呼!!」

 

 

 時雨という隠れ蓑の影で。

 

 全てを叩き込む為に息を潜め。

 

 敢えて殺気を押し殺し。

 

 

 耳に届く雄叫びが、叩き付けられる殺気が、欧州水姫を振り向かせる……そして彼女が見たモノ(・・)は。

 

 既に手が届く程近くに居る艦娘と、それに続く真っ直ぐで冗談のように吹き上がる大きな白波。

 

 

 目に映る光景に理解が追いつく前に、右下から何かを壊し、潰し、砕く音と共に衝撃が襲ってくる。

 

 次いで弾き飛ばされてしまった体を覆う装甲が、宙に舞うのが見えた。

 

 

「駆逐艦の仕事は……"後に繋げる事"、僕達は誰かを頼り、頼られるからこそ強いんだ」

 

 

 繰り返し撃った5inch連装砲、それは姫級相手には余りに非力で心許ない威力しかない。

 

 しかし繰り返し、同じ場所に、装甲の継ぎ目や固定している箇所に撃ち込めば、砕く事は叶わずとも歪み程度は与えられる。

 

 そうしてダメージを蓄積した鎧は、榛名という暴虐に晒された時砕け散った。

 

 更に食らった一撃は欧州水姫を真上へ、膝上程の宙に浮かせる事となる。

 

 

 体を覆う鎧は無くなり、反撃する為に、攻撃を受ける為に踏ん張る足場をなくし。

 

 

 そうなってしまえば例え頑強な姫級であろうと、どうしようもない。

 

 

 被せるように、そして水面(みなも)へ叩き付けるように放たれた榛名の一撃。

 

 それは嘗てアンダマンの海で山城(戦艦棲姫)の心を折った、背に海水という衝撃の逃げ場の無い壁(・・・・・・・・・・)を背負わせ、拳による全力の振り下ろし。

 

 

 あの時の焼き直しの如く、吹き上がる巨大な水柱と何かが砕ける鈍い音。

 

 

「あれは……砕けちゃったんじゃないの? 榛名さんの拳」

 

「うん、そこ以外は殆どダメージを負ってない筈なんだけど……結局バケツコース確定なんじゃないかなアレって」

 

「……絶対、大丈夫……じゃないと、思います」

 

 

 静かに成り行きを見る時雨の隣に盛大な溜息と共に陽炎が近付き、程なく雪風もそこへ並んで"事後を見守る会"が完成する。

 

 

「完勝とはいかないまでも、完封と言える結果を得たと思うのだけど、ねぇ大和、今回の報奨は鳳翔で食べ放題なんてどうかしら、ほら"ほうしょう"だけに」

 

 

 なんとなくだが判っていた形の結果に目を向けつつ、本日の艦隊旗艦である大和は一航戦の青いヤツが口にする酷いオチに対し、乾いた笑いで応えるしかなかったという。

 

 

 




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