風呂でトラウマを背負うレ級と空母棲鬼、更にアハンウフンしていた防空棲姫は元初月でしたという衝撃の事実、続々と投下される後出しの事実に提督は頭を抱えるのであった。
それでは何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。
2016/07/02
誤字脱字修正致しました。
ご指摘頂きましたKK様、有難う御座います、大変助かりました。
シャカシャカと茶を
炉の前で座り、周りの者へ振舞う為に吹雪が、そしてその向こう側では少し小太りのスーツ姿の男、年は六十はいってるだろうか、白髪を七三に分け、人が良さそうな顔でニコニコしている。
その隣には二種軍装に身を包み、これまた白髪をオールバックに纏めた髭面の男、こちらもニコニコとしてはいるが、右頬にある大きな傷跡と、同じく右の耳が半分無いその見た目は少々厳つ目に見えてしまう。
そして正対するのは日本海軍第二特務課々長吉野三郎。
ここは第二特務課秘密基地内部の大茶室、茶室と言えば小さい空間に無限の世界を内包するという思想があり、普通は小ぢんまりした物なのだが、余ったスペースの有効活用と、
茶室なのに柔道の試合が4つ程同時に行える広さがあろうとも、部屋の隅の水場に設置してある
「吉野中佐…… だったか、先ずは作戦の完遂ご苦労様だったね」
髭の傷がそう口にする、好意的な笑顔を向けているがその雰囲気は独特で、殺気の類は感じられないのにも関わらず、吉野の危険度センサーはさっきから針が振り切れている状態である。
「はっ、有難う御座います、元帥殿」
吉野の目の前に居る二人の老人、白い軍装を身に纏った傷の髭は日本海軍元帥大将、
軍のトップと政治のトップ、この二つが目の前に居る…… というより、どちらも実は政治関係の人間である。
この世界の日本海軍は、五人の大将が実務を回し、その上に居る元帥称号を持つ大将が政治面を一手に引き受けている。
そして戦時下という特殊な環境である為、日本の舵取りに軍が大きく関わっているのは確かだが、前大戦で軍部の暴走が日本を壊滅に追い込んだという経験故か、政治・経済・国防等、国に関わる其々の分野から代表を選出、元老院という物が組織され、国を動かしていた。
「そちらのお嬢さん達が今回の?……」
坂田が吉野の両脇に座る二人の異形を見つつ、何とも言えない表情を表に出している。
吉野の右には防空棲姫、左には空母棲鬼が座り、そして少し離れた処ではレ級が茶菓子を貪り食っていた。
その彼女らなのだが、先ず防空棲姫には金刺繍が施され、立派な毛書体で『ボス』と書かれた
空母棲鬼も銀の刺繍が入った物を掛けており、それにはゴシック体で書かれた『専務』という文字が刻まれていた。
更にレ級であるが、彼女は何故かピンクでチューリップの形をした名札が付けられており、そこには何故か丸文字で『
「始めまして、私が防空棲姫の
無駄に胸を張り、口角を上げつつ不適な笑みを浮かべ、防空棲姫改め朔夜は傷の髭に自己紹介をする。
そして吉野を挟んで向こう側では、空母棲鬼は眉を
「これは失礼、私は日本海軍元帥、坂田一といいます、一応軍の取り纏めをやっておりますが、名前だけの頭と思って頂ければ宜しいかと」
「ふーん…… 名前だけねぇ、それにしては物騒な雰囲気醸し出してるじゃない? それに貴方のいう事が言葉通りの物だとしたら、この会談ってそんなに重要な物では無いと思っていいのかしら?」
「ははは、これは手厳しい、いえ今回の朔夜さん…… でしたかな? 貴女達との取り決めは我が国の命運を左右する重要な案件、しかも軍部主導で行った物です、故に名前だけとは言え責任者たる者が何もせず…… という訳にはゆきますまい?」
「じゃ今回の件に関しては、貴方が国の窓口として私達と交渉するって事でいいのかしら?」
「話の窓口としてはそうなるでしょうな、しかし意思決定はまた別の組織が行います故、即答は期待なさらぬ様お願いしますよ」
そうして吹雪から受け取った茶を啜りつつ、傷の髭は一息つくと、菓子を頬一杯に含んだレ級改め冬華を見て、孫を見る
その視線に気付いたのか、リスの様に頬を膨らませた冬華が手元にある饅頭と髭を見比べ、首を傾げながら一つ差し出し、それを髭がにこやかに受け取るという微笑ましい空間が出来上がっている。
「朔夜殿に冬華殿ですか、中々に
小太りのスーツが自己紹介し、髭と同じくにこやかに茶を
「いい名前でしょう? テイトクが『神から授かりましたよどうです褒めて褒めて』って決めてくれたのよ、まぁ横の専務はまだその名前に納得してなてみたいだから? 専務なんだけどね、名前」
吉野が言う神というのは、以前特務課に所属していた先達で、現在大隅大将麾下の特務課再編の為一時的に戻ってきている人物であり、実は現在元帥麾下の諜報課を切り盛りしている大佐であった。
朔夜は実の処、名前をボスである吉野に付けて貰いたかったのだが、クウキだのボーキだのという、便所でボッチ飯の挙句一航戦に狩られそうな名前と、朔夜という名前を比べた結果、一もに二も無く朔夜と名乗る事を決め、レ級も流石に『レレレ』だの、『レっきゅん』だのという珍妙な名前を付けられるよりはと冬華という名前を名乗る事にしたのであった。
「ほう、中佐がですが、成る程、貴女方の事は報告を受けて色々聞き及んでおりますが、元は我が国を守護しておられた方だと伺っております、これも何かの縁というもの、出来る事なら末永いお付き合いとなる様願いたいものです」
小太りの爺はそう笑いつつも、朔夜が口にした『テイトク』の言葉に少し眉を顰めつつ、再び茶を口にする。
そしてその視線を受けている吉野は、レ級が食べ掛けの饅頭を無理やり口に押し込もうとするのをなんとか凌ごうとしているのだが、その結果コントに出てくる口髭泥棒の様な状態になっており、とても軍人とは言えない威厳の無さを露呈してしまっている。
「確か朔夜さんが初月、冬華さんが清霜、そして空母棲鬼…… いえ専務殿が……」
「鳳翔よ、何よ悪い? オカンでも和美人でもなく毒舌白ギャルで申し訳ないわねっ!」
毒舌系白ギャル、その前世は艦娘の中ではある意味とても有名で、全ての艦娘の母、母性の塊といわれたあの鳳翔だった。
「いやいや気分を害したのなら謝ります、ただ…… 私の身の回りの世話を焼いてくれているのは鳳翔でしてな、何と言うのか専務殿を見ていると、ウチのももしかしたら心の奥底で何か思う処があるのではと思いましてな」
何とも言えない髭の元帥、毎日上げ膳下げ膳状態で身の回りを任せ、甲斐甲斐しく尽くしてくれている艦娘が、目の前の専務という
何せ鳳翔とはオカン・オブ・オカンなのである、世の年寄り提督やマザコン提督らの心のオアシスなのである、それが挨拶しないからと言って鬼に食われそうになるツンツン娘みたいな深海棲艦であっては決してならない。
こんな提督の心をポキポキと折りまくりそうな鳳翔が世に拡散されると執務室に引きこもってしまい、ニート化する提督が続出してしまう危険があるかも知れない。
ウチの鳳翔がオカンで良かった…… そう傷の髭は茶を啜りつつ、帰りには間宮に寄って羊羹の一つでも土産に買って帰るか等と安堵の溜息を漏らすのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「それでですな、肝心の不可侵条約の内容なのですが」
鶴田は手元の紙に視線を落としつつ、その内容を吟味するかの様にゆっくりと口にしている。
「先ず、日本近海と呼ばれる海域には、朔夜殿が頭目として座り、他の深海棲艦を統べた上で代表とし、我が国との友好的な関係を築き、ここに不可侵を旨とする条約を締結する」
「そうね、ただ先に言ったとは思うけど、私の影響がこのエリアに行き渡るのはあと暫く掛かるし、そうなったとしても船舶や艦娘にちょっかいを出すはみ出し者は若干残ると思うけど、それは問題無いのかしら?」
鶴田の読み上げた言葉に対し、朔夜がそう答えたが、それに対して坂田が問題ないとの見解を示した。
「船舶の往来や沿岸の警備は軍として基本的な業務ですし、戦時下としては危険性がゼロになる場所なんぞどこにもありますまい、組織的な侵攻やこれまでのリスクに比べたならそんな事は問題になる事は無いと断言できるでしょう」
髭元帥は口元の髭を撫で付けつつ、しかし、と付け加える。
「条約の内容自体は問題無いのですがな、朔夜殿、この 『防空棲姫及び空母棲鬼とレ級は吉野三郎麾下に属し、彼の者と共に行動する』 とありますが、これはどういう事ですかな?」
その言葉に周りの空気はやや張り詰める、今まで勤めてだろう柔らかい雰囲気でいた坂田一という男が、初めて相手に対し己の内を見せたのだ。
それまでわざと空気として座っていた吉野もここからが本番だと餡子まみれの口元を引き締め、双方の様子を伺う。
話の中心になるのは自分であってもそこに吉野の意見を挟む余地は今の処皆無、成り行きによっては立場は最悪になるだろうが、それは朔夜と事前に打ち合わせを行った時から覚悟は決めていた。
後はこの場で出る答えに身を委ねるしかない。
「どういうもこういうも、言葉の通りよ、私達は深海棲艦の道理の元、私達に力を示したこの吉野三郎という男を私達のテイトクとし、共に行動する、そういう事よ」
「ふむ、では吉野中佐は日本という軍に属す兵でありますが、貴女方がその中佐の麾下にあるというなら、軍は貴方達に命令を下す事が出来る上位組織という事になりませんかな? 国と対当に条約を結びながら、しかしその国の一機関である軍の、それも一介の中佐の下に就く、これはとても矛盾していはいますまいか」
「関係性を繋げていけばややこしくなるかもね、でもあえて言わせて貰うわ、貴方達がこっちとの窓口になると言ってるけど、私達的にはこの一介の中佐が日本と私達を繋ぐただ一つの線よ、ぶっちゃけてしまえば不可侵条約も何もかも全て
国として、そして組織として、其々の有体を真っ向から無視した暴論を軽く口にし、朔夜はそれに何か問題があるのかと髭の元帥に不適な笑みで返した。
それはやせ我慢でもポーズでも無く、彼女達は実際国を相手に戦う力を持っている、個の戦力で言えば確かに大本営にある戦力を注げば駆逐は出来るだろう、しかし不完全とはいえ彼女は日本近海に居る深海棲艦を統べるボスである。
その全てを敵に回す事は勿論、日本の立ち位置と状況を考えれば彼女の協力無くして先は無い。
それら全ての事を含め、朔夜という防空棲姫は相手に選べと問答無用で問うているのである。
「国とは突き詰めれば人の集まり、つまり国民が国なのです、幾ら易があるとは言えたった一人の、それもたかが一介の中佐風情が、個人でそれだけの戦力を有するのは国民からの理解を得るのは難しい事だと思います」
苦虫を噛み潰した様に鶴田がわざと『たかが一介の中佐』という言葉を用いて己の立場からの意見を述べる、その言い方はこの男の真意では無いが、国の代表であれば民の心情を明確に伝える義務がある、それ故そういう言い回しを用いている。
それはここに居る者達には判っている事だが、それを判っていても気に入らないのは深海棲艦の彼女達だろう、朔夜は感情の篭らない目を小太りのスーツへ向け、冬華ですら冷めた
「ちょっとそこの首相さん、国とか軍とかどうでもいいのよ」
そんな雰囲気の中、場を一番冷めた目で見ていた人物が口を開いた、言葉の主は提督の精神ポキポキガールである専務もとい空母棲鬼である。
「アンタ達に道理があるように、私達にも譲れない道理があるわ、アンタ達が私達を従わせようとするなら、先ず私達を納得させる事ね」
「……と言いますと?」
小太りの男の前で、空母棲鬼は左目の眼帯をトントン、と指で叩いた。
本来入渠すれば潰れた目は再生しているはずだが、空母棲鬼は
「
不機嫌な相をより一層歪め、殺意すら乗せて鶴田を睨む、そして酷く抑揚の無い声色で更に問い掛ける。
「人間ヨ、コノ男ノヨウニ貴様ハ私ヲ空カラ海へ
チリチリと刺す様な殺気に鶴田は平然を装いつつもその視線をまともに見る事が出来ず、そしてその横の坂田は驚きの目で吉野を見ていた。
確かに事のあらましは報告書で知り、その結果として二人がここで話をしていた。
しかし目の前の吉野という男が現場で指揮していた事は知っていても、深海棲艦相手の戦いに
生身の人間が深海棲艦と戦うのがどんなに困難な物なのか、深海棲艦が出現してからずっとそれを相手にしてきた者なら理解出来ないはずがない。
だからこそ鬼級に目に見える傷を負わせた吉野に対し、坂田という軍人は驚くと共に親近感に近い念を抱かずにはいられなかった。
なにせ最初から深海棲艦と戦い生き抜いて来たという事は、自身も同じく生身で異形と戦っていた時期があるのだから。
「中佐、彼女達はどうやら君を提督と言い、行動を共にすると言っているのだが、その事に対して何か君からの意見はあるかね?」
傷面の元帥から真っ直ぐに見られ、それを受け止めつつ、吉野は餡子まみれの真面目な相で自分の考えを述べた。
「確かに彼女らの言う事は国家元首であらせられる閣下も軍を纏める元帥殿も首を縦に振るのは難しいと思います、しかし、事の発端になっている自分が言うのもおかしな話ですが、取り敢えず今は彼女達の交渉窓口は自分が勤める、程度の認識を落とし処としてみては如何かと」
「えらく軽い話だね、事は国を左右する物なのだが……」
「自分は御二方が仰る通りただの
餡子髭の男と傷の髭が黙って見つめあう、シュール過ぎる光景を周りは黙って見ていたが、その横で座っていた小太りの首相がハァと溜息を吐くと、こめかみを指で押さえ俯いた。
「まいったねぇ、私の任期中にこんな厄介事が舞い込むとは、これを世間に公表する時の事を思うと胃に穴が開きそうだよ」
「しかし閣下、我々に残された選択肢が他に無いのは確かでしょう、毒を食えばなんとやらですよ、ならば我々は
「判っているさ坂田君、この件で元老院を納得させる為に君にも人柱になって貰うと思うが、まさか知らんぷりはせんだろうね?」
「ハッハッハッ、一蓮托生という奴ですかな閣下、不肖この坂田、老骨でどれだけの物が支えられる柱になるか判りませんが、お供致しましょうぞ」
日本の軍では中佐という階級に居る者にだけ言われるブラックジョークが存在する。
古来日本軍では『特進』という制度が存在し、一般には名誉の戦死を遂げると二階級特進……という事が良く言われるがそれは大きな誤解である。
兵は死ぬのを前提としている、そこに名誉があろうとも死ぬのを前提としているのだから没後も階級はそのままである、特進という制度はあるにはあるが適用される事はまず在り得ない物である。
太平洋戦争時末期に特攻という非情な戦略が生まれた時、一時期乱発された経緯があり誤解されているが、本来二階級特進ともなれば国のトップから直接授与され、それこそ歴史の教科書に名を残す程の人物にしか与えられない物である。
そして日本という国では将官は大将・中将・少将しか居ない、元帥というのも大将に与えられる称号であって階級では無い、そして准将という階級は一部の国では存在するが、日本という国では只の一度も存在しなかった階級である。
この二つの物を以って『中佐は死ねば二階級特進し、准将になる』というもじりで"中佐ジョーク"と呼んでいた。
吉野は髭と小太りに与えられた命令、ぶっちゃけて言えば 『んじゃ、これから深海棲艦関係の窓口担当兼責任者お前だから』 な内容を受け、大体の予想はしてたものの盛大に肩を落としてこう呟いたと言う。
「マジでリアル中佐ジョークてちょっとどうなの? ヤバくない?」
これにて一応の取り纏めは終わった訳だが、まだ捷号作戦の全てが終了した訳では無い。
史実と同じく、何段階にも分けられ、広大な海原を舞台に様々な謀略と戦いが繰り広げられる、そんな途方も無い困難が待ち受けている。
そんな世界の中心に、まさか自分が巻き込まれてしまう事など想像すらしなかった吉野三郎中佐(28歳独身餡子髭ブラック)は、更に増す冬華の饅頭攻撃で顔面餡子率を上昇させつつ、乾いた笑いを口から出していた。
誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。
また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。
それではどうか宜しくお願い致します。