年末にクリボッチで足の指の骨折って正月はお年玉排出でボンビーになりインフルでぶっ倒れ夕張改二にヒャッハーしてた慢心提督ことzero-45
白目_(´ཀ`」 ∠)_
それでは何かご意見ご質問があればお気軽にどうぞ。
2020/06/09
誤字脱字修正反映致しました。
ご指摘頂きました坂下郁様、京勇樹様、リア10爆発46様、水上 風月様、柱島低督様、酔誤郎様、有難う御座います、大変助かりました。
「では、
突然の、そして衝撃の邂逅から矢継ぎ早に譲渡手続きまで済ませたビルングは、相変わらず微妙な表情で並んでいる
早霜の件の最中で既に予想していた事であるが、今回の件は個人で差配できる取引の
手続き上は
加えて言うなら、以前から数度に渡りドイツへ侵攻してきた深海棲艦上位個体と関係があるというか、正にそのものである為、事実が知られているならあまり宜しくない国家間の問題として取り扱われる案件でもある。
そんな事案と引き換えに要求される
吉野的にはドイツという国からではなく、欧州連合技術研究所という存在からそれらの取引を持ち掛けられる事自体嫌な未来を予想してしまう状態にあった。
「君達二人はこの深海棲艦との闘争についてどう認識しているかね?」
「……闘争、ですか?」
どんな無茶振りから始まるのであろうと身構えていた処に予想外の、それも抽象的な問い掛けを受け、斎藤は眉根を寄せて、吉野は首を捻りつつビルングが言う言葉の意味を咀嚼する。
深海棲艦との
敢えて戦争と表現しない部分に何か含む物があるのだろう。それは軍人としての答えを出せばいいのか、それとも個人的な見解で良いのか。
「勝つ可能性のない戦いを繰り広げ、足掻いている……状態ですかね?」
「足掻くか、まぁそういう答えになるだろうが、何故斎藤君は人類が深海棲艦に勝てないと判断するのかね?」
「深海棲艦は一応排除が可能ですが、それは一過性の物であり、時間の経過と共に元居た海域に再び出現します。故に人類側は様々なリソースを消耗しつつ戦わなければなりませんが、深海棲艦はその限りではない。つまり人類側のみに消耗戦を強いる形で戦いが続くならば、人類の勝利は絶無でしょう?」
「斎藤さんの言う通り、深海棲艦の復帰サイクルは三から四か月。対して人類は幾ら艦娘を擁していると言っても戦死した人的リソースの回復には数年単位の時間が必要になります。更に戦略物資という視点で言えば人類は陸地から得られる資源しか使えません。対して深海側はこの地球の約七割……海という水の下にある物全てが使える状態にあります。これでは対抗するのも難しい」
「ふむ、理路騒然でありお手本の様な答えを返してきたね」
恐らく返ってくる答えを予想していたのだろう、満足気に頷いてビルングはコーヒーを口に含みつつ更に話を進めていく──────
「それらの状況を前提に私が出す結論は、この闘争の先にある物は『敵対したままの共存』であると思うのだがね?」
──────吉野達の予想も付かない方向で。
「は? 共存、ですか?」
「うむ、まぁ突拍子もない話に聞こえるだろうが、一応の根拠はあるのだよ」
そう言いつつ席を立つと、恐らく執務時に使用しているのだろう机の引き出しから分厚い紙束を取り出したビルングは、今も訝し気に視線を投げる吉野達の前にそれを置いた。
数百枚に及ぶA4用紙を無造作にクリップで留めただけの紙束。
一番上になっているそれにはドイツ語でこう綴られていた。
『人の記憶と魂の定義』と。
斎藤はリンガという拠点の長であり、欧州との海路を取りまとめる関係上、縁深い同盟国であるドイツ言語の読み書きとヒアリングは堪能と言えるレベルにある。
そして吉野にしてみても情報将校という経歴から、同盟国だけに留まらず日本と関係のある国々の言語は日常的に扱っていた為、それに記されている言葉の意味は見ただけで読み取れた。
が、何と書かれているかを認識するのと、それの意味する所を理解するのとはまた別の話である。
「タイトルだけなぞれば胡散臭い事この上ないブツなのだがね、その研究記録は著者が別記してあった備忘録と合わせると現実味を帯びてくる」
答えが返せない吉野と斎藤に、ビルングは研究記録に記された要約を口にしていく。
そこにある研究記録は凡そ五十年前、西暦1970年代に書かれた物の写しであった。
記録としては突拍子もない物だが、備忘録と合わせて読むとそれらは偶発的な出来事を起点に、しかし最終的には学術的に矛盾のない内容になるのだという。
研究内容としては、記憶という脳に存在する物を一種のエネルギーと定義し、更にはそれを特殊な手順で容器に封じ込める。最終的な結論としてそれは『魂を質量を持つ物体として定義する』という内容であった。
「魂を物体として定義する? いやいやいや、それは幾らなんでもオカルトが過ぎやしませんかね?」
恐らく誰もが返しそうな反応を示す斎藤と、しかしその横で眉根を寄せて紙束の内容を読み進める吉野。
ビルングはその対比を楽しむかのように薄い笑いを口元に張り付けたまま、吉野の答えを待っていた。
「ビルング卿、これは……本当に五十年前の記録なんですか?」
「ああ、備忘録に記された調査記録と公的機関に残る記録を照合してみたんだがね、確かにそれを書いた者は調査の為数か国に渡り渡航していたよ。そしてスポンサーになっていた組織や企業にも資金提供をしていた記録が残されていた」
「……これ、そちらの機関以外にも知られてる物なんでしょうか?」
「いい質問だね吉野君。私はね、艦娘を兵器運用を前提として研究する輩とは思想的に相容れないのだよ。いいかね? 艦娘や深海棲艦はどう定義しても生物だ。そこを飛び越して能力のみに注力し、訳の判らないままそういう使い方をする。目的は単純明快な物になるのだろうが、結果は
そういうビルングの言葉を聞く吉野の手元。研究記録と銘打たれたそこにはこう記されている。
水分約96%、硫酸マグネシウム等の微量な金属を含む塩分3.4%の液体を満たした密閉容器へ、記憶と定義したエネルギー体を触媒と共に移し、極限られた電位を与える事でそれを封入する。それが『質量を持つ魂と定義する物体』と。
「もしその記録にある結果を再現できたなら、嘗て
吉野は自分が見ていたページを開いたまま、それを斎藤へ差し出しつつ、頭の中にある
「艦娘の建造が安定化した当時、大本営に技術本部が設置され、そこで初めて行われた実験……斎藤さんはアレの結果は知ってますよね?」
「知ってるも何も、アレがあったからそれまで謎だった艤装の仕組みが解明された……って、おい、
「その研究記録にある
吉野が言う技本が行った実験。
運用自体は安定の方向に向かっていたが、余りにも謎が多い艦娘という存在。
その艦娘が艦娘たる最大の特徴であり核心とも呼べる物。艤装。
技本は建造の失敗により生み出された重巡青葉の艤装を分解し、それの仕組みを解明しようとした。
似たような試みは実は何度かされており、機構としては動力機関や兵装は二次大戦期に就役していた戦闘艦の仕組みを極めて簡素にデフォルメした物であることは判明していた。
しかし、そこに収められていた鉄製の球体はX線や音波による非破壊検査では精査できず、破壊しようにも工作機械や現用兵器を以てしてもどうにもならない程強固な作りをしていたという。
ならそれは艦娘特有のオカルトと称される物を含む特殊な物体なのではと推定し、艦娘の兵器による破壊を試みた。
結果、その試みに立ち会った技師や研究員に加え、攻撃を加えた艦娘が重度の
この実験は多大な犠牲を払ったものの、得られた結果は後の研究を飛躍的に進める事となった。
謎とされていた球体は、物質で言えば鋼を主成分とした合金製であり、封入されていたのは海水と同じ成分の液体であった。
またそれと同時に一欠けらの金属片も封入されていたが、破壊した球体は青葉の艤装から出てきた物という事で、当時石川島播磨重工に保管してあったとされる二次大戦時の青葉の装甲とそれを照合した結果、ほぼ同一の金属組成の物と判明している。
そして被害者とされる者達とはまともに意思疎通はとれないものの、断片的に得られた情報によると、被害者達が口にしていた話には重巡洋艦青葉が辿った記録が散見されたという結果に至る。
これらの情報を元に、技本は艤装に内包される謎の球体は、艦娘の基幹を成す重要部品であり個体を認識する為の部品、『
同時に
ビルングが言う海水と
嘗て破壊され、汚染事故を起こした青葉のコア。
偶然の一致と見なすには過ぎたこれらの物体。しかしビルングが吉野達に見せた研究記録が記された当時、世界には艦娘も深海棲艦も存在しなかった。
「生体に関わる部分と、生物としての根源が解明されればおのずと対処は見えてくる物だよ。まぁそれができればという前提なんだがね。どちらが滅びるなんて極端な結末以外に……例えば、『敵対したままの共存』というふざけた目標も現実味を帯びてくると私は思うのだがね?」
「確かに、この研究結果を再現できたら艦娘関係の研究は飛躍的に進むでしょうね」
「斎藤さん、コアを持つのは艦娘だけじゃありませんよ……」
「あー……そっかぁ、深海棲艦もコアを持ってるんだったかぁ……」
「まぁそういう訳で、現在我々はこれらの記録を再現するには著者が調査した海域で同じ実験をしなければ不可能という結論に至っている」
そう言いつつビルングはテーブルの上に世界地図を広げ、とある部分を指でトントンと叩く。
その叩かれた部分とは──────
「……フィリピン?」
「正確にはその近海。記録には、通常魂は海に溶けており、目に見えない状態で漂っていると記されている。ならば人の魂がより多く沈む海域で調査をするのが効率的なのではと、そういう結論に至ったという事だよ」
「確かに、あの周辺は太平洋戦争時には激戦区でしたから、そういう結論に至っても不思議じゃない……」
「そして今インドシナからフィリピンに掛けての制海権を管理してるのは?」
「成程、僕の縄張りですね」
「そう。なのでウチから調査員を若干名そちらに派遣したいのだけどね、その辺りの協力を斎藤君に要請したいと思うのだよ」
「協力ですか? まぁ……内容によりますけど」
「先ず調査員に対するある程度の行動の自由。この辺りはそちらの軍規に準じるという形にして貰えれば充分だね。後母艦の護衛に付いてはそちらも余裕が無いだろうからこちらで捻出しよう。ただイエメン協定の件で欧州連合所属の艦娘はそちらに派遣する事はできないので、レンドリースという形で艦娘の所属は日本海軍とし、調査が終了した暁にはそのまま艦娘達はそちらに譲渡という形にさせて貰おうと思うのだけどね」
「あー……、この場での即答はできないんですが、
「ふむ、色好い返事を期待しているよ。さてそれじゃ吉野君」
「はい? あ、自分にも何か?」
「君にもちょっと色々なお願いがあるのだがね」
「……先ずはお話をお聞きしてから、という事になりますが」
「だろうね。いやもしこの調査が実現した場合、それに使用する母艦の建造を君の泊地に依頼したいのだよ」
一口に調査用の母艦と言っても、この世界で運用するなら通常艦船では不足する。
例えそこの制海権を握っていたとしても深海棲艦が居ない海など存在しないし、時間が経てば
故に、海で調査を行うなら母艦の護衛に艦娘を充てる必要があり、必然的にそれは艦娘母艦に準じた艦船が必須となる。
加えてこの要請は欧州連合ではなく欧州連合技術研究所からの物となる。つまり軍組織の下部組織という形にある研究所では調査に出せる人員は限られた物となり、艦船の運用には少人数が前提という制約が付き纏う。
「なる程……そういう前提があったから、
「理解が早くて助かるね。ウチとしては調査員以外に出せるスタッフは限られている、母艦一つを運用する人員の捻出なんてとてもとても…… その辺りを調整して
「調査計画の実施が実現したらという前提で、母艦の運用に投入できる人員の数と船の仕様との兼ね合いという事になりますが」
「うむ、なら基本的には了承という事で良いのだね?」
「えぇ、そうなりますね」
「ではこちらとしては、恐らくまた我が国に侵攻してくるであろう
こうして予期せぬ出会いと情報を得た日。
この日を境に世界は大きく変貌し、また深海棲艦と吉野達の関係も大きく変わっていく事になるのをまだ吉野達は知らない。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
まだ日本が日本近海を奪還して間もない頃。軍が次に取り返そうとした海は日本海であった。
資源が枯渇しつつある情勢、深海棲艦が跋扈する海という絶対的な境界によって隔絶された国。
この窮地に対し国が目指したのは日本から一番近い大国、中華人民共和国。
その国に救いの手を求めるには日本海という海を渡らなければ至れず、漸く建造によって数が整いつつあった艦娘を軍は全力で投入する事になる。
それまで日本近海では見る事の無かった戦艦級や正規空母。また潜水艦という艦種も散見される地獄。
少し進めば朧気ながらも見える大陸。しかしその僅かな距離を進むために日本はほぼ壊滅に近い損耗を生じさせつつ、漸くかの国に渡りを付けた。
しかし当時はまだ深海棲艦は絶対的な強者であり、世界では抗う術がないという認識にあった。しかも艦娘という戦力は日本しか保有しておらず、情報網も寸断された状態ではそれらの事実でさえ碌に知られていなかったという事情が悲劇を生んだ。
艦娘という存在は、深海棲艦とは対極にありつつも同等の戦闘力を持ち、また特徴も合致する。幾ら人類側に立つ存在であったとしても、事前の情報無しであれば、深海棲艦と艦娘のどちらも『得体の知れない何か』としか認識されない。
そして深海棲艦によって海が分断される直前での日本と中国の関係は、表面的には
過去、二次大戦期では侵略者となり、結果として連合軍に完膚なきまで叩き潰された。にも関わらず僅か三十年程で先進国まで上り詰めるという行動力。
狭い島国で数百年同族で殺し合い、命令とあれば平気で己の命を差し出すという独特の精神構造を持つ生粋の戦闘民族。嘗て自分達を蹂躙した、大陸思想では理解の及ばない隣国の住民。
深海棲艦という敵を前に、周り全て海に囲まれ滅んだと思っていた国は、ある日艦娘という存在を連れて海を渡ってきた。
日本からしてみれば救いの手を求め、死に体で海を渡っただけであった。
だが隣国は嘗ての出来事を想起し、救いを求める手を恐怖から振り払った。
この時を境に軍内では進むべき道に対し意見が二つに分かれる事になる。
嘗てそうしたように、南洋へ資源と生命線を求める派閥。そして引き続き大陸へ足掛かりを求める派閥。これら混沌とした状態は暫く続き、結局軍が南シナ海の制海権を握るまで方針が統一される事は無かった。
しかし兵站の限界と艦娘という戦力の頭打ちが露呈し、軍の行動限界範囲がインドネシア周辺までとなった時、大陸を目指す者達は交渉を優位に進める為、日本海だけではなくサハリンを足掛かりに、オホーツク海の制海権奪取に戦力を注ぎ始める。
対して資源確保の安定と国内情勢を鑑みた一派はインドネシア近海を絶対防衛線に設定し、同時に大陸とは関わらず現況の制海権維持に努める事を主張する。
こうして北を獲る事に固執する『鷹派』が生まれ、現状維持を謳う『慎重派』の対立が確定した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
未だ物言わず
時勢は攻める事を許さず、南洋は守りに徹するべしという大隅の判断からリンガは橋頭保ではなく、強固な要塞へと生まれ変わる事になっていた。
「そこは僕が行くべきでしょう? 何で桂さんなんですか!?」
「いや、もう決めた事だ。大隅にも打診して許可は貰ってある」
「そうじゃなくて、棟梁が居なくなったらリンガはどうするんですって言ってるんですよ! これからここはバカみたいに湧いてくる深海棲艦相手に守りを固めないといけないんですよ、桂さん抜きじゃ無理だ」
「だからだよ斎藤、俺はずっと欧州を目指して戦ってきた。その為に
「だったら桂さんが
「そうじゃねぇ、そうじゃねぇんだよ…… なぁ斎藤、これから先はイケイケじゃダメなんだよ。俺は
『鷹派と慎重派』が生まれた一方、何が何でもインド洋の打通を目指していた桂正則という男は、皮肉にもある意味最も鷹派と言える存在であった。
生き方を変える事を拒否する姿勢は、己の信念と、そして艦娘達を
前に進めなくなった。夢は
(正直吉野君が早霜を引き取ってくれて助かったよ…… 僕は、
言葉にできない独白を握り潰しつつ、今のリンガ泊地棟梁と呼ばれる男は深いため息を吐くのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「初めまして、私は欧州連合技術研究所霊工学研究室主宰をしています、 ヘルムート・ビルングと言います。どうか宜しくお願いします」
重い話が続く欧州連合技術研究の執務棟にあるビルングの私室では、一旦退室した早霜の代わりに一人の男が部屋の主の隣に腰掛けていた。
その男が名乗った『ビルング』という姓から、いきなり現れたのはこの部屋の主である男の身内であろうと予想された。
「いや丁度息子がラボに戻ってきていたのでね、二人に紹介しておこうと思ったのだよ。彼が
「は……はぁ、そうですか。うんその……成程」
ビルングの息子を見る吉野は何故か曖昧な言葉しか返せず、隣の斎藤は怪訝な表情で吉野と同じくヘルムートという男を見ていた。
歳の頃は二十台後半から三十代前半。恐らく吉野と同じか少し年若いと思われる見た目。
ただ吉野とは違って体は鍛えているのだろう、白衣の下に見える腹筋はやや細身の体躯でありながらもバッキバキに割れていた。世間一般で言う処の細マッチョというヤツである。
見た目は北欧の美男子という偉丈夫であり、ニコリと笑う口元にはキラリと光る白い歯が並び、オデコには歯と同じくキラリと光る水中眼鏡が何故かセットされている。
更に二枚目を引き立てるかの如くスラリと伸びた足にはムダ毛は無く、寧ろ海パンという佇まいは人と会うというシチュには必要不可欠なズボンという存在すらムダと言わんばかりの佇まい見せていた。
「む……息子さんでしたか。成程、えっと、その、何と言うか……」
「あぁ、そう言えば日本ではこういう場では名刺を交換するのが習わしでしたね、えっと確かここに……ああ、ありましたありました」
やや誤解を含んだジャポニズムに倣い、ヘルムートという美男子はゴソゴソと海パンからペロンと名刺を取り出して吉野と斎藤に手渡した。余談ではあるがその名刺はほのかに暖かく、そして何故か毛書体で書かれた「へるむーと」という平仮名表記であるのはこの際どうでもいい話であろう。
「父よりお二人が来るとお聞きしてましたから、急遽それ用に用立てたんですよハッハッハッ」
「あー……すいません気を使って頂いて。て言うか僕達今日名刺持ってきてないんですよね。申し訳ない」
無難な返しをする斎藤の目は何故かハイライトがOFFになっていた。そしてそれを横目で見る髭眼帯はプルプルし始めた。
「あ、そう言えばお二人には例の研究レポートしかお渡してないと聞きましたが、著者の日記と言うか備忘録にも目を通さないと内容の把握は困難ですから、こちらをお渡ししておきますね」
すっくと立ちあがり、腰をクィッと横に捻りつつヘルムートは海パンに手を突っ込んだ後、恐らく千頁はあろうかという紙束をズルリと幾つか取り出してテーブルに積み上げ始めた。
それを見て吉野は思った。何故このヘンタイは艦娘と同じく不思議収納を使いこなしているのだろう。寧ろ何故それらを取り出す時一々腰を捻りつつ臀部をクィッとサイドへスライドさせているのだろうかと。
因みにヘルムートのいで立ちの詳細を述べてしまうと、細マッチョな裸体に白衣を羽織り、デコにはゴツい水中眼鏡。首にはやや明るい朱色のネクタイがセットされ、下半身は小学生男子が水泳の授業で履く系の紺色の海パン。そして足元はオシャレな黒い皮のビジネスシューズが素足に装備されている。
それはまごう事なきヘンタイフォーマルと言っちゃえるいで立ちである。
「備忘録は研究以外の記述が多いので二万頁程ありますけど、研究記録と並べて読むと余計な部分は読まなくても良い状態になってますので」
吉野は再び思った。二万頁の二人分で四万頁を男子用海パンに忍ばせるヘンタイの心遣いに、自分はどう反応したら良いのだろうかと。
「そう言えば息子よ、他に著者の資料があったのではないのかね」
「父さん、あの海図は三メートルもあって携帯には不向きだからとビルギッテが縮小した物を作るって言ってたよ。原図なら今彼女の海パンの中じゃないかな」
「ふむ、そうかね。ならそれらはまた後日という事で手配しておきたまえよ」
「判ったよ父さん」
吉野と斎藤がまだ見ぬヘンタイの存在を認知した瞬間であった。
寧ろ彼女と言いつつ海パンというワードはどうなのか。寧ろ三メートルもの海図を海パンに収納可能という事はドイツでは謎収納を既に実装してるのかと色々混乱したりした。
こうして髭眼帯&リンガの棟梁欧州一日目は重い話を聞かされ、重い資料を持たされ、そしてこれからの付き合いを考えると心がズーンと重くなるという人物紹介を経て終了するのであった。
・誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。
・誤字報告機能を使用して頂ければ本人は凄く喜びます。
・また言い回しや文面は意図している部分がありますので、日本語的におかしい事になっていない限りはそのままでいく形になる事があります、その辺りはご了承下さいませ。
それではどうか宜しくお願い致します。